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今という時の輝きを

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「で……どうしてこうなるんだ」  俺は片腕をガッチリと陽女に掴まれたまま、困惑した表情を浮かべて問いかける。 「美月の提案です……お聞きになっておられませんでしたか?」  上機嫌な顔で俺を覗き込みながら、ふわりと笑った陽女が言う。    事の始まりは今朝早くだった。  いつの間にか眠りに落ちていた俺は、自分の体に手足を巻きるけるようにして眠る咲耶の重みで目覚めた。  重い、鬱陶しいなどと不謹慎なことを考えながら、違和感の存在に目を向けて、その浴衣の合わせから覗く白い肌と女性らしい膨らみの端が目に入り、慌てて目をそらせる。  朝早くからそんなものを見てしまい、元々生理現象で元気になっていた俺自身が、その存在感をさらに主張してくるようで、俺は居心地の悪さを感じてしまい、立ち上がろうとする。  だけど青少年特有の誘惑と言うか煩悩と言うか……。  平たく言えば美しい女性の、艶めかしい肌を見たいという欲望が心のなかに湧き上がってきてしまい、しばらくの葛藤の末ゆっくりと視線を咲耶の方に向けようとした。 「智春さま……お目覚めですか」  不意に部屋の外から声をかけられて、慌てて咲耶の方に向きかけていた視線を逸らせる。  こんなところを見つかってしまっては、何を言われるかわからないと焦ってしまい、返事を返す声が裏返る。 「あの……入っても?」  少し怪訝そうに、伺うような声音でそういうのは美月だった。  陽女の少し甘い声と違い、鈴を転がすような凛とした声音が耳に心地よい。 「あ……あぁえっと」  寝乱れている咲耶をちらりと見て、どうしたら良いか思案してしまう俺の動揺を感じ取ったのだろうか、ちいさくクスリと笑う声がしてふすまがそっと開かれる。 「昨夜にあのような取り決めをいたしましたのに……何をそれほどに取り乱しておられるのです? 智春さまったら……」  だらしなく寝こけている咲耶と、それを見てあたふたとしている俺を見て美月が優しく微笑む。  いつもの美月の微笑み。  だけどそこにかすかな違和感を感じてしまった俺は、じっと彼女の顔を見つめる。 「美月……どうしたの? いつもと様子が違うみたいだけど。なんていうか……寂しそうに見える」  何気ない俺の一言だったが、美月は肩を小さくビクッと震わせて、小さく息を呑んだ。  だが次の瞬間には、冷静ないつもの表情を顔に貼り付けて俺の方を見つめてくる。 「いえ……昨夜のことが、あまりにも突飛なこと過ぎて……ちょっと戸惑っているところがあったり……」  そういいながら今度は苦笑のような笑みを浮かべる。  何かを誤魔化しているような、そんな気もしたのだけど、それ以上追求しても恐らく彼女は何も言わないだろうと感じた俺は、その回答を素直に受け入れてゆっくりと布団から立ち上がった。 「咲耶さまも……、もう狸寝入りは無駄でございますよ。さぁ起きてくださいまし」 「ちぇ……私の寝顔を見て、智春が思わずおはようのキスをしてくれるのを期待してたのになぁ」  美月に言わられて計画が破綻したことを理解したのだろう、ぶつぶつといいながら咲耶はゆっくりと体を起こし、俺の方をいたずらっぽい笑みを浮かべて見ながら口を開く。 「見たでしょ……智春って意外とスケベだよね」  そう言ってニヤニヤと笑う。 「ば……ちげーよ、見てねぇよ。だらしない寝方してんなって思っただけだよ!」  必死にいい返しては見るものの、おそらく咲耶にはバレバレなのだと気がついた俺は、あまり弁解するとかえって立場が危うくなると思い口を閉じる。 「んで……今日は何をするんだ?なにか作戦でも考えたりするのか」  状況を立て直すため、ちょっと真面目なことを言ってみたりする。  実際のところ指定された日時は明日に迫っており、相手の出方がわからない以上はなんの対策も立てられてはいない。  言ってしまえば出たとこ勝負、行き当たりばったりという状況。  一応なにか起きたとき、少しでも対応できるようにと、各々が基礎的な力の底上げは行ったものの、そもそもの猶予がなさすぎることと、相手の目的や状況がわからない以上は、それ以上に対策を練ることなどできない手詰まり状態でもある。  だからこそ、昨夜のような『親睦を深める』という名目の訳の分からない状況に至ってしまったとも言えるのだけど。 「何度も申し上げているように、相手の戦力も目的も、何一つ解っていない状況ですから、対策も作戦も立てることなどできません。ですので昨日の話をよりブラッシュアップしようかと思って」  すこし頬を朱に染めて、俺から視線をそらしたまま美月が言う。 「ブラッシュアップ?」  俺は他人から見たら、さぞ間抜けな表情をしていたのだろう。  交わることは禁止という条件下で許される、大抵のことは昨日してしまったように思う。  3人とかなり大人なキスも交わしたし、求めるまま求められるままその体の熱も柔らかさも全て俺の手で堪能した。  まぁ……大前提として交わることは禁止事項だったので、上半身だけではあったけれども……。  うん……正直に言うと健全な青少年には生殺しと言うかつらい状況ではあったけれども。  それ以上のこととは一体何なのだろうか、興味半分と畏れ半分といった心境のまま聞いてみる。 「あ……あの、その……で……デートをして……みたいのです」  顔を朱ではなく真っ赤にしながら美月が声を振り絞って言う。 「はい……デートで……すか?」  あまりにも予想外の回答で俺もまた面食らって、妙な返しをしてしまう。 「昨夜……智春さまに触れて触れられて、満たされた部分はありましたけど……でも、その3人がかりでしたし、二人きりの時間を持っていないなって思って……」  消え入りそうな声で言う美月。 「あぁ……それはいいかもしれない。明日なんでしょ……アイツと合うの。なら思い残すことがないようにそれぞれが智春とだけの時間を持つことっていいと思うな」  布団から跳ね起きて咲耶が言う。 「ルールは昨日と同じね。何があっても交わっちゃいけない。それと自分の時間をしっかり守ること。今が8時だから……一人4時間の持ち時間で夜の20時までっていうのはどうだろう」  美月の進言に同意した咲耶が持ち前の企画力で、どんどんと話を勧めていく。 「順番はどうする?」  咲耶の何気ない一言が、ありえないほどの緊張感を読んだようで、部屋に肌で感じるほどの緊張感が走った。  俺は気がついていなかったのだけど美月の後ろ、俺からはちょうど死角になったところに陽女も控えていたようで、張り詰めた空気の大半は彼女が発している気のようだった。 「一番最初も捨てがたいけど……夜の時間を独り占めというのも魅力的だよね……、ね……どうやって決める?どの時間がいい?」  状況を理解しているのかいないのか、ワクワクした表情で咲耶が嬉しそうにそういう。 「私は智春と一緒にいられるならどの時間帯でもいいんだけどね」 「こういうものは公平に決めたほうが、後々に禍根を残さないかと思うのですけど」  咲耶の軽口に陽女が真面目に返す。  じゃんけんで勝ったものから好きな時間帯を選ぶ……ということで決着したようで、それからは俺を蚊帳の外にした女子3人による結構本気のじゃんけん大会が始まった。  結果………。  8-12時が陽女。  12-16時が美月。  16-20時が咲耶。  という並びに決まったようだった。  そうして俺は、左腕を陽女にガッチリとホールドされた状態で神社をあとにしたのだった。  交代時の入りかえをスムーズにするという名目で、他の二人も目立たない程度に離れたところでついてきているらしい。  確かに毎回神社に戻って交代していたら、時間のロスが激しいからなと納得したものの、後ろからついてきているのが解っている状況では集中できない部分もあって落ち着かない。  だが陽女はそんなことを一切気にしていないかのように、普段は絶対に見せないような子供のような無防備な笑顔を浮かべて、俺の名を連呼しながら腕をしっかりと抱きしめていた。 「夢のよう……です。どれほど望んでも一度も叶わなかった……夢が今叶いました」  ふわりと花が咲くような笑みを浮かべて、陽女は俺に向かっていう。  本当に心の底から嬉しそうに笑いながら、だけどその裏に言葉に出来ないほどの悲しみが見えて、俺は何も答えることができなかった。  ただ彼女の髪を優しく撫でて精一杯笑いかけながら素直な言葉を口にする。 「望んだ形じゃなくて、望んだ状況じゃなかったとしても、今俺達が共に過ごしていることは本当だから……精一杯楽しもう」  俺の言葉に陽女はやはり、悲しみを覆い隠して柔らかく微笑むのだった。  



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今という時の輝きを

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「で……どうしてこうなるんだ」  俺は片腕をガッチリと陽女に掴まれたまま、困惑した表情を浮かべて問いかける。 「美月の提案です……お聞きになっておられませんでしたか?」  上機嫌な顔で俺を覗き込みながら、ふわりと笑った陽女が言う。    事の始まりは今朝早くだった。  いつの間にか眠りに落ちていた俺は、自分の体に手足を巻きるけるようにして眠る咲耶の重みで目覚めた。  重い、鬱陶しいなどと不謹慎なことを考えながら、違和感の存在に目を向けて、その浴衣の合わせから覗く白い肌と女性らしい膨らみの端が目に入り、慌てて目をそらせる。  朝早くからそんなものを見てしまい、元々生理現象で元気になっていた俺自身が、その存在感をさらに主張してくるようで、俺は居心地の悪さを感じてしまい、立ち上がろうとする。  だけど青少年特有の誘惑と言うか煩悩と言うか……。  平たく言えば美しい女性の、艶めかしい肌を見たいという欲望が心のなかに湧き上がってきてしまい、しばらくの葛藤の末ゆっくりと視線を咲耶の方に向けようとした。 「智春さま……お目覚めですか」  不意に部屋の外から声をかけられて、慌てて咲耶の方に向きかけていた視線を逸らせる。  こんなところを見つかってしまっては、何を言われるかわからないと焦ってしまい、返事を返す声が裏返る。 「あの……入っても?」  少し怪訝そうに、伺うような声音でそういうのは美月だった。  陽女の少し甘い声と違い、鈴を転がすような凛とした声音が耳に心地よい。 「あ……あぁえっと」  寝乱れている咲耶をちらりと見て、どうしたら良いか思案してしまう俺の動揺を感じ取ったのだろうか、ちいさくクスリと笑う声がしてふすまがそっと開かれる。 「昨夜にあのような取り決めをいたしましたのに……何をそれほどに取り乱しておられるのです? 智春さまったら……」  だらしなく寝こけている咲耶と、それを見てあたふたとしている俺を見て美月が優しく微笑む。  いつもの美月の微笑み。  だけどそこにかすかな違和感を感じてしまった俺は、じっと彼女の顔を見つめる。 「美月……どうしたの? いつもと様子が違うみたいだけど。なんていうか……寂しそうに見える」  何気ない俺の一言だったが、美月は肩を小さくビクッと震わせて、小さく息を呑んだ。  だが次の瞬間には、冷静ないつもの表情を顔に貼り付けて俺の方を見つめてくる。 「いえ……昨夜のことが、あまりにも突飛なこと過ぎて……ちょっと戸惑っているところがあったり……」  そういいながら今度は苦笑のような笑みを浮かべる。  何かを誤魔化しているような、そんな気もしたのだけど、それ以上追求しても恐らく彼女は何も言わないだろうと感じた俺は、その回答を素直に受け入れてゆっくりと布団から立ち上がった。 「咲耶さまも……、もう狸寝入りは無駄でございますよ。さぁ起きてくださいまし」 「ちぇ……私の寝顔を見て、智春が思わずおはようのキスをしてくれるのを期待してたのになぁ」  美月に言わられて計画が破綻したことを理解したのだろう、ぶつぶつといいながら咲耶はゆっくりと体を起こし、俺の方をいたずらっぽい笑みを浮かべて見ながら口を開く。 「見たでしょ……智春って意外とスケベだよね」  そう言ってニヤニヤと笑う。 「ば……ちげーよ、見てねぇよ。だらしない寝方してんなって思っただけだよ!」  必死にいい返しては見るものの、おそらく咲耶にはバレバレなのだと気がついた俺は、あまり弁解するとかえって立場が危うくなると思い口を閉じる。 「んで……今日は何をするんだ?なにか作戦でも考えたりするのか」  状況を立て直すため、ちょっと真面目なことを言ってみたりする。  実際のところ指定された日時は明日に迫っており、相手の出方がわからない以上はなんの対策も立てられてはいない。  言ってしまえば出たとこ勝負、行き当たりばったりという状況。  一応なにか起きたとき、少しでも対応できるようにと、各々が基礎的な力の底上げは行ったものの、そもそもの猶予がなさすぎることと、相手の目的や状況がわからない以上は、それ以上に対策を練ることなどできない手詰まり状態でもある。  だからこそ、昨夜のような『親睦を深める』という名目の訳の分からない状況に至ってしまったとも言えるのだけど。 「何度も申し上げているように、相手の戦力も目的も、何一つ解っていない状況ですから、対策も作戦も立てることなどできません。ですので昨日の話をよりブラッシュアップしようかと思って」  すこし頬を朱に染めて、俺から視線をそらしたまま美月が言う。 「ブラッシュアップ?」  俺は他人から見たら、さぞ間抜けな表情をしていたのだろう。  交わることは禁止という条件下で許される、大抵のことは昨日してしまったように思う。  3人とかなり大人なキスも交わしたし、求めるまま求められるままその体の熱も柔らかさも全て俺の手で堪能した。  まぁ……大前提として交わることは禁止事項だったので、上半身だけではあったけれども……。  うん……正直に言うと健全な青少年には生殺しと言うかつらい状況ではあったけれども。  それ以上のこととは一体何なのだろうか、興味半分と畏れ半分といった心境のまま聞いてみる。 「あ……あの、その……で……デートをして……みたいのです」  顔を朱ではなく真っ赤にしながら美月が声を振り絞って言う。 「はい……デートで……すか?」  あまりにも予想外の回答で俺もまた面食らって、妙な返しをしてしまう。 「昨夜……智春さまに触れて触れられて、満たされた部分はありましたけど……でも、その3人がかりでしたし、二人きりの時間を持っていないなって思って……」  消え入りそうな声で言う美月。 「あぁ……それはいいかもしれない。明日なんでしょ……アイツと合うの。なら思い残すことがないようにそれぞれが智春とだけの時間を持つことっていいと思うな」  布団から跳ね起きて咲耶が言う。 「ルールは昨日と同じね。何があっても交わっちゃいけない。それと自分の時間をしっかり守ること。今が8時だから……一人4時間の持ち時間で夜の20時までっていうのはどうだろう」  美月の進言に同意した咲耶が持ち前の企画力で、どんどんと話を勧めていく。 「順番はどうする?」  咲耶の何気ない一言が、ありえないほどの緊張感を読んだようで、部屋に肌で感じるほどの緊張感が走った。  俺は気がついていなかったのだけど美月の後ろ、俺からはちょうど死角になったところに陽女も控えていたようで、張り詰めた空気の大半は彼女が発している気のようだった。 「一番最初も捨てがたいけど……夜の時間を独り占めというのも魅力的だよね……、ね……どうやって決める?どの時間がいい?」  状況を理解しているのかいないのか、ワクワクした表情で咲耶が嬉しそうにそういう。 「私は智春と一緒にいられるならどの時間帯でもいいんだけどね」 「こういうものは公平に決めたほうが、後々に禍根を残さないかと思うのですけど」  咲耶の軽口に陽女が真面目に返す。  じゃんけんで勝ったものから好きな時間帯を選ぶ……ということで決着したようで、それからは俺を蚊帳の外にした女子3人による結構本気のじゃんけん大会が始まった。  結果………。  8-12時が陽女。  12-16時が美月。  16-20時が咲耶。  という並びに決まったようだった。  そうして俺は、左腕を陽女にガッチリとホールドされた状態で神社をあとにしたのだった。  交代時の入りかえをスムーズにするという名目で、他の二人も目立たない程度に離れたところでついてきているらしい。  確かに毎回神社に戻って交代していたら、時間のロスが激しいからなと納得したものの、後ろからついてきているのが解っている状況では集中できない部分もあって落ち着かない。  だが陽女はそんなことを一切気にしていないかのように、普段は絶対に見せないような子供のような無防備な笑顔を浮かべて、俺の名を連呼しながら腕をしっかりと抱きしめていた。 「夢のよう……です。どれほど望んでも一度も叶わなかった……夢が今叶いました」  ふわりと花が咲くような笑みを浮かべて、陽女は俺に向かっていう。  本当に心の底から嬉しそうに笑いながら、だけどその裏に言葉に出来ないほどの悲しみが見えて、俺は何も答えることができなかった。  ただ彼女の髪を優しく撫でて精一杯笑いかけながら素直な言葉を口にする。 「望んだ形じゃなくて、望んだ状況じゃなかったとしても、今俺達が共に過ごしていることは本当だから……精一杯楽しもう」  俺の言葉に陽女はやはり、悲しみを覆い隠して柔らかく微笑むのだった。  



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