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親睦と苦悩と

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「あー……なんでこうなった?」  我ながら間抜けな質問だなと思いつつ、だけど俺はその疑問を口にせざるを得なかった。  今現在自分が置かれている状況が、全く理解できなかったからだ。  あの後、咲耶の提案が行われて、なぜか俺だけが除者のけものにされ女子三人でああだこうだと論争が行われた。  そして半刻ほどの時間が流れ、3人の中で概ねの合意がなされたようで彼女たちはニコニコとしながら部屋から出てきた。  そして問答無用で、3人がかりで俺の手を取ると、俺が疑問を差し挟む暇も与えずに力づくで引っ張っていき、そしてちょっと前まで俺が瞑想をしていたあの部屋に連れてこられていた。    3人はニコニコとした表情を一切崩すことなく、俺をその場に座らせると予め役割が決まっていたのか、それぞれがテキパキと動きまわり、そして今のこの状況になっている。  あの広い部屋に1つだけ引かれた布団。  そしてしばらく姿を消していた3人が再び俺の目の前に現れた時、俺は絶句するしかなかった。  3人が薄っすらと肌が透けるほどに薄い生地の白い着物を着ていたからだ。  じっと見つめなくとも、その体のラインや部位が透けて見えるほどの。 「ちょ……ちょっとまってくれ、何が起きているのかわからない、説明してくれ」 「だから……親睦を深めるって言ったよね」  俺の必死の訴えを平然と、それが当たり前だと言わんばかりの顔で咲耶が答える。 「いやいやいや……待ってくれ、理解が追いつかない」  なおも俺が言い募ると、咲耶は少し肩をすくめて仕方ないなぁとでも言いたげな顔で答える。 「私達は全員、あんたが好きなの。智春を愛している。比喩じゃなくて狂いそうなほどね。でもそれぞれの立場や状況を考えて我慢していた」  咲耶はそこで言葉を切り、俺の目をまっすぐに覗き込んで言葉を続ける。 「正直ね、綺麗な気持ちだけじゃない。美月も私も、そして陽女も正直言葉にするのもはばかられるくらい、暗くて汚い気持ちも持ってる。だからね考えたの。もしかしたらアイツとの対面では……考えたくもないようなことも起きてしまうかもしれない。全員が揃ってもう一度こうして過ごせるなんて保証はないの……」  まっすぐに俺を見つめていた視線が、下がる。  咲耶はなにかに耐えるようにギュッと下唇を噛んでいた。 「智春さま……身勝手な言い分だと思うかもしれません……だけど智春さまが誰かを明確に選ばれないなら、今すぐに誰かを選ぶことができないと言うなら……、私達全員を均等に愛していただけませんか……」  それまで頬を朱に染めて、視線をそらして黙っていた陽女が俺の手にすがるようにして口を開く。 「智春さまが、いまここで誰か一人を選ぶなら、それに従う。誰も文句は言わない。でももし選べないなら……今だけでいい、今だけで構わないから私達にお情けをかけてくださいませんか……どうなるかわからないのならせめて、今だけ」  開いている法の手をギュッと握りしめて、満面を朱に染めた美月が言った。  みんな明確に言葉にしないだけで不安なのだと分かった。  あれだけ手の込んだ招待をしてきたのだ、ただの顔合わせで済むはずもない。  陽女を手に入れようと画策し、美月を目の敵にし、咲耶をそのための道具と見ている男だ。  あまり考えないようにしていた、最悪のシナリをが現実のものになる可能性が高いだろう。  だから彼女たちは今俺を求めているのだとわかってはいる。  でもこのようなはっきりしない感情のまま、流されて良いのだろうかと叫ぶ自分がいる。  本当にこの人と定めた人とだけ交わすべきなのではないかと。  そんな俺の様子を見て、咲耶は何かを理解したように薄くそしてどこか儚く笑う。 「大丈夫……智春の考えてることはわかってる。だからね条件があるの」 「条件? なんだよそれは」 「絶対に交わらない……それがルール」  先程よりも辛そうに、切なそうに咲耶が微笑む。  見ているだけで胸が痛くなるそんな微笑み。 「私は……智春と交わり、あなたの精と私の破瓜の血がまじることで、ヒナミが目覚めることを、アイツは狙っていた。それは潰えたけれど、でもまだどうなるかわからないから、だから絶対に交わることはだめなの」  目尻から一筋の涙を流して、咲耶はそう言って微笑む。  その姿は俺が知るどんな彼女よりも儚くて、そして美しいと思った。 「私達は……咲夜さんが交われないのに、わたしたちだけが身体を重ねることを良しと思いません。だから私達もまた交わることだけは避けたいと思っています。もしも交わることができるなら、それは智春さまのご意思で選んでいただいた夜にいたしたいと」  先程よりも更に頬を赤く染めた陽女が、俺に背を向けるかと思うほどの勢いで視線をそらして、小さな声でそういう。 「親睦を深めるって意味もあるけれど、でも私達は抜け駆けしたり、誰かを追い落とすとか抜け駆けとか、そういう気持ちがない証明でもある……だから、お願いします」  美月が震える声で懇願する。  ああ……だめだな俺は。  小さくため息を付いて俺は天井を見上げた。  俺一人だけが覚悟が決まっていないのだと思い知る。  彼女たちは俺を信じ、そして自分の思いを信じてまっすぐに行動している。  あれこれと理屈をつけて、自分を向き合っていないのは俺だけだったと理解させられる。  そう……俺はもう本当は、誰を好きなのか解っているというのに、あれこれと理由をつけ、状況に言い訳をして、その事実から目を逸らせて、誰も傷つけないようにと言いながら全員を傷つけているのだと思い知る。 「結局は……優しくしたい、誰も傷つけたくないって言いながら自分を守っていただけだったんだな俺は」  3人を招くように手を広げながら、俺はそう呟く。  誰かを選んで他の人を傷つけるとか、今の安定している関係性を壊すことが良くないとか、色々言い訳をしていたけれど、それは結局は全員の気持ちを知らないふりをして拒絶していることにほかならないのだと、今気がついた。 「ほんとに俺は、だめでそして弱い男なんだなって……気がついたよ」  俺の身体にその身をあずけるようにして寄りかかる3人を柔らかく抱きしてめて俺は言う。 「いいえ……それがあなたの優しさなのだと……私は思っています」 「たとえ自分の心を守っているのだとしても……智春は誰も傷つけたくないって思ったんでしょ。それは優しさじゃないの?」 「そう言いながら、私達を受け入れて受け止めてくださるから……だからあなたに惹かれてしまうのですよ」  俺の情けない独り言に、3人はそれぞれにその思いを込めて優しく否定してくれる。  この優しさと愛情に、俺はずっと甘えていたのだと知り、彼女たちに等しく愛おしいという気持ちを抱く。 「交わることが許されないなら……せめてこれくらいは許してくれ」  俺は自分の情けなさをさらけ出したことで、少しだけ開き直れたのだろう、そう言うと少し強引に3人それぞれの唇を奪った。  彼女たちの唇は、自分のものと違い柔らかで暖かで、そしてどこか甘い味がした。  今の頃夢のような時間が、少しでも長く続いてほしいと、心の何処かでそう思いながら俺は、彼女たちのその柔らかな身体をそっと抱きしめるのだった。    



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「あー……なんでこうなった?」  我ながら間抜けな質問だなと思いつつ、だけど俺はその疑問を口にせざるを得なかった。  今現在自分が置かれている状況が、全く理解できなかったからだ。  あの後、咲耶の提案が行われて、なぜか俺だけが除者のけものにされ女子三人でああだこうだと論争が行われた。  そして半刻ほどの時間が流れ、3人の中で概ねの合意がなされたようで彼女たちはニコニコとしながら部屋から出てきた。  そして問答無用で、3人がかりで俺の手を取ると、俺が疑問を差し挟む暇も与えずに力づくで引っ張っていき、そしてちょっと前まで俺が瞑想をしていたあの部屋に連れてこられていた。    3人はニコニコとした表情を一切崩すことなく、俺をその場に座らせると予め役割が決まっていたのか、それぞれがテキパキと動きまわり、そして今のこの状況になっている。  あの広い部屋に1つだけ引かれた布団。  そしてしばらく姿を消していた3人が再び俺の目の前に現れた時、俺は絶句するしかなかった。  3人が薄っすらと肌が透けるほどに薄い生地の白い着物を着ていたからだ。  じっと見つめなくとも、その体のラインや部位が透けて見えるほどの。 「ちょ……ちょっとまってくれ、何が起きているのかわからない、説明してくれ」 「だから……親睦を深めるって言ったよね」  俺の必死の訴えを平然と、それが当たり前だと言わんばかりの顔で咲耶が答える。 「いやいやいや……待ってくれ、理解が追いつかない」  なおも俺が言い募ると、咲耶は少し肩をすくめて仕方ないなぁとでも言いたげな顔で答える。 「私達は全員、あんたが好きなの。智春を愛している。比喩じゃなくて狂いそうなほどね。でもそれぞれの立場や状況を考えて我慢していた」  咲耶はそこで言葉を切り、俺の目をまっすぐに覗き込んで言葉を続ける。 「正直ね、綺麗な気持ちだけじゃない。美月も私も、そして陽女も正直言葉にするのもはばかられるくらい、暗くて汚い気持ちも持ってる。だからね考えたの。もしかしたらアイツとの対面では……考えたくもないようなことも起きてしまうかもしれない。全員が揃ってもう一度こうして過ごせるなんて保証はないの……」  まっすぐに俺を見つめていた視線が、下がる。  咲耶はなにかに耐えるようにギュッと下唇を噛んでいた。 「智春さま……身勝手な言い分だと思うかもしれません……だけど智春さまが誰かを明確に選ばれないなら、今すぐに誰かを選ぶことができないと言うなら……、私達全員を均等に愛していただけませんか……」  それまで頬を朱に染めて、視線をそらして黙っていた陽女が俺の手にすがるようにして口を開く。 「智春さまが、いまここで誰か一人を選ぶなら、それに従う。誰も文句は言わない。でももし選べないなら……今だけでいい、今だけで構わないから私達にお情けをかけてくださいませんか……どうなるかわからないのならせめて、今だけ」  開いている法の手をギュッと握りしめて、満面を朱に染めた美月が言った。  みんな明確に言葉にしないだけで不安なのだと分かった。  あれだけ手の込んだ招待をしてきたのだ、ただの顔合わせで済むはずもない。  陽女を手に入れようと画策し、美月を目の敵にし、咲耶をそのための道具と見ている男だ。  あまり考えないようにしていた、最悪のシナリをが現実のものになる可能性が高いだろう。  だから彼女たちは今俺を求めているのだとわかってはいる。  でもこのようなはっきりしない感情のまま、流されて良いのだろうかと叫ぶ自分がいる。  本当にこの人と定めた人とだけ交わすべきなのではないかと。  そんな俺の様子を見て、咲耶は何かを理解したように薄くそしてどこか儚く笑う。 「大丈夫……智春の考えてることはわかってる。だからね条件があるの」 「条件? なんだよそれは」 「絶対に交わらない……それがルール」  先程よりも辛そうに、切なそうに咲耶が微笑む。  見ているだけで胸が痛くなるそんな微笑み。 「私は……智春と交わり、あなたの精と私の破瓜の血がまじることで、ヒナミが目覚めることを、アイツは狙っていた。それは潰えたけれど、でもまだどうなるかわからないから、だから絶対に交わることはだめなの」  目尻から一筋の涙を流して、咲耶はそう言って微笑む。  その姿は俺が知るどんな彼女よりも儚くて、そして美しいと思った。 「私達は……咲夜さんが交われないのに、わたしたちだけが身体を重ねることを良しと思いません。だから私達もまた交わることだけは避けたいと思っています。もしも交わることができるなら、それは智春さまのご意思で選んでいただいた夜にいたしたいと」  先程よりも更に頬を赤く染めた陽女が、俺に背を向けるかと思うほどの勢いで視線をそらして、小さな声でそういう。 「親睦を深めるって意味もあるけれど、でも私達は抜け駆けしたり、誰かを追い落とすとか抜け駆けとか、そういう気持ちがない証明でもある……だから、お願いします」  美月が震える声で懇願する。  ああ……だめだな俺は。  小さくため息を付いて俺は天井を見上げた。  俺一人だけが覚悟が決まっていないのだと思い知る。  彼女たちは俺を信じ、そして自分の思いを信じてまっすぐに行動している。  あれこれと理屈をつけて、自分を向き合っていないのは俺だけだったと理解させられる。  そう……俺はもう本当は、誰を好きなのか解っているというのに、あれこれと理由をつけ、状況に言い訳をして、その事実から目を逸らせて、誰も傷つけないようにと言いながら全員を傷つけているのだと思い知る。 「結局は……優しくしたい、誰も傷つけたくないって言いながら自分を守っていただけだったんだな俺は」  3人を招くように手を広げながら、俺はそう呟く。  誰かを選んで他の人を傷つけるとか、今の安定している関係性を壊すことが良くないとか、色々言い訳をしていたけれど、それは結局は全員の気持ちを知らないふりをして拒絶していることにほかならないのだと、今気がついた。 「ほんとに俺は、だめでそして弱い男なんだなって……気がついたよ」  俺の身体にその身をあずけるようにして寄りかかる3人を柔らかく抱きしてめて俺は言う。 「いいえ……それがあなたの優しさなのだと……私は思っています」 「たとえ自分の心を守っているのだとしても……智春は誰も傷つけたくないって思ったんでしょ。それは優しさじゃないの?」 「そう言いながら、私達を受け入れて受け止めてくださるから……だからあなたに惹かれてしまうのですよ」  俺の情けない独り言に、3人はそれぞれにその思いを込めて優しく否定してくれる。  この優しさと愛情に、俺はずっと甘えていたのだと知り、彼女たちに等しく愛おしいという気持ちを抱く。 「交わることが許されないなら……せめてこれくらいは許してくれ」  俺は自分の情けなさをさらけ出したことで、少しだけ開き直れたのだろう、そう言うと少し強引に3人それぞれの唇を奪った。  彼女たちの唇は、自分のものと違い柔らかで暖かで、そしてどこか甘い味がした。  今の頃夢のような時間が、少しでも長く続いてほしいと、心の何処かでそう思いながら俺は、彼女たちのその柔らかな身体をそっと抱きしめるのだった。    



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