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猶予3

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 体から力を抜く。  そして大きく上体をそらせて伸びをする。  どのくらいの時間が経過したのだろうかと疑問を抱く。  ふとさんに目をやると、茜色の空が目にうつった。  自分が思っていたよりも長い時間を、あの世界で過ごしていたのだとわかると、無性に疲れた気がする。 「随分と……長い時間を過ごしてしまっていたんだな」  ぼそりと呟いて、俺はゆっくりと立ち上がる。  これで3日の猶予のうちのほぼ一日を費やしてしまったということだ。  果たして自分が行った行為が正しかったのかはわからない。  だけど力の譲渡を経て、あのような空間が用意されていたことなどを考えると、必要なことだったのだろうと思える。  もう行動してしまっているのだから、くよくよと考えても仕方ないことだ。  そう思ってはいるが、先に起きるであろう事態と残された猶予を思うと、気持ちがせいてしまうのも仕方ない。 「俺がこんなザマでどうするよ……」  弱気を起こしかけている自分に、苦笑を漏らしつつしかし覚悟を決めるしかないと思う。  ゆっくりと腰を上げて、みんなのところに戻ろうとしたとき、俺を探していた咲耶とぶつかりそうになり慌てて身を引く。 「うわ……びっくりした。ここに居たんだ智春」  驚いた様子で目を見開いて俺を見ながら咲耶は言う。  しかし驚きで見開かれた目が、更に大きく見開かれ、それと同時に口まで大きく開かれていくので、俺は何があったのかと訝しく思う。 「智春! 智春! それどうしたの一体! なにがあったの」  目を見開いたまま咲耶が、若干取り乱したように矢継ぎ早に問いかけてくる。  彼女が何を言いたいのか、何に驚いているのかが分からず、俺も混乱してしまう。 「落ち着け咲耶、何があった。何に驚いてるんだ」   「だって、だってだってだって……智春、あなたの目が……瞳が……」    混乱から立ち直っていないのか、咲耶の言う言葉がいまいち要領を得ないので、俺は仕方なく少し足早に社務所の隣の待合部屋に向かう。  そしてそこにおいてあった手鏡を覗き込んで絶句する。 「な……な、何が起こってるんだ!」  思わず無意識に叫んでしまう。  その声に何が起きたのかと慌てた美月と陽女もやってくる。  そしてようやく追いついてきた咲耶も到着して、全員が揃ったところで俺は彼女たちに顔を向ける。 「な……智春さま、それは一体」 「な、何が起きたっていうのよ」  美月と陽女も驚いた顔をして、俺を見たまま固まっている。  そんな彼女たちをひとまず放置して、俺はもう一度鏡を覗き込む。  さっき見たことはただの幻か錯覚であって、落ち着いてもう一度見たらいつもの自分の顔が映ると、そう信じて。  しかし無常にもそこに写っていたのは、先程と変わらない姿。  変わり果てた俺の姿だった。  俺の目が――普通に日本人らしい黒い瞳だったはずの俺の目が。  右目は紺色に近い深い青色に、左目はオレンジがかった金色に、変わってしまっていたのだ。  いわゆるオッドアイと呼ばれる状態になってしまっていた。  何が起きたのか分からずに、大きくため息をつく。 「智春さま……一体何をなさったんですか。何をなさってそのように」  おずおずといった様子で、陽女が言葉をかけてくる。  俺を傷つけないよう、労ってくれるような優しい声だった。 「なにかの呪い? どれとも病気? 兎も角なんとかしないと」  少し取り乱して入るものの、それでも俺のことを気にかけてくれている美月の声がそれに続く。   「何かの力を取り込んだんじゃ……私の髪色と同じように、本来のものじゃない何かを取り込んだから変化したんじゃ」  身に覚えがある咲耶がポツリという。  咲耶はその身に同居していた存在――陽奈美の思いの一部を取り込んで一つとなった。  その際に、紺碧だった彼女の髪は黒と赤いインナーカラーへと変化した。  その事を言っているのだろう。  俺は不安げに俺を見つめる3人に、今日一日にあった出来事を語って聞かせた。  瞑想状態から、過去に行われていたであろう黄泉坂の出来事。  燈月媛ひづきひめ日和媛ひわひめの名前が出たとき、陽女と美月の顔が微かに強張った。  そして多少のいざこざがあったあと、3人の体から放たれた球体の何かを受け取ったこと。  そしてそれを受け入れたこと。  そのすべてを語って聞かせた。 「その力が如何なるものなのかは、分かりませんが恐らく、私と美月の根源となる力の一部なのでしょうね」  息を吐くようにかすかな声で陽女。 「深い青は私……つまり月、金色はお姉様でる太陽。その2つの力と後は……」  話の途中で言葉を切り、俺と陽女にちらと視線を流して、少し逡巡してから再び美月白痴を開く。 「高野宮さま……いえ、朋胤さまのお力は恐らく、月と日という反する力をまとめ上げるためのものかとおもう」  朋胤ではなく、現世の俺への気遣いなのか、自分の中に残る朋胤への思慕のためかはわからない。  けれど複雑な表情で美月はそう言って、軽く下唇を噛んでいた。 「その空間というのか、それは予め用意されていたものらしいんだが、ということは何代か前の陽女か美月がなにかあったときのために作り出したものだということじゃないのか? なら何かわかるんじゃ」 「いえ……残念ながら記憶がありません。もしかすると記憶がないだけで私か美月が作ったものかもしれないですし、もしかすると私達ではなくて、主格たる……」 「アマテラスかツクヨミが仕掛けた……と?」 「解らないとしか答えられません。私たちは確かに智春さまと違い、神格の一部を有しているから記憶の持ち越しができています。しかしそれはすべての記憶を有しているわけではないんです。重要事項であったり繰り返されたことは覚えておりますけど」  陽女が悲しそうに目を伏せて、小さく頭を振る。 「重要度が低いこと、忘れたいこと。そして主格が勝手にやったこと。それらは私達の記憶にも残らないの。それに思い出すタイミングも確実じゃない。たとえば陽奈美と月音の時代は幼少には記憶を一切思い出せなくて、だから後手後手になってしまったのだし」    自身が月音であったときのことを思い出したのか、美月の瞳に悲しい色が浮かび、薄っすらと涙が溜まり始めた。 「ねえ……私一つ提案があるんだけど」  それまで蚊帳の外だった咲耶が急に口を開いた。  陽奈美と月音だった時代の話は、咲耶には関連がないため今まで話しに参加できていなかったのだ。  その魂に【陽奈美の思いの一部】を取り込んでいる以上は、全くの無関係というわけではないのだが、それでもその時代の出来事を体験しているわけでも、記憶しているわけでもない咲耶は、ずっと黙ったまま俺たちを眺めていた。  その咲耶が突然何かを言い始めたので、俺たちは黙って咲耶を見つめて、話の続きを促す。 「私達さ、本当に色々あって今こうして共同で動いているけれど、直前まで対立したり諍ったりしていたわけじゃない? いまさら何かを必死に行ったところで付け焼き刃だし、状況が圧倒的に不利なのも事実じゃない?」  そこで言葉を切って咲耶はオレたちの反応を伺う。  俺たちが特に反論を唱えることもないのを確認して話を続ける。 「だからね、私達は親睦を深める必要があると思うの。かつて私はあの男にいいように操られていた。つまりアイツは私達の不和をついて何かを画策する可能性があると思うのよ。だからそれをなくすためにも私達は互いを知って強く結びついたほうが良いと思う。」  そこまでを一息で行った後、咲耶はその視線を陽女と美月に向けた。 「あなた達、私が完全に味方であなた達と対立しないって信じられる? 例えば……アイツが私に、憎い月を倒す手伝いをしたら、智春と私が完全に結ばれるように力を貸すって言ったら、その後でも私を信じて協力しあえる?」  俺は心のなかで信じられると即答したけれど、それは彼女の心の中を知り彼女の生い立ちと思いを知り、そして彼女がもうすでに守藤 緖美しゅどうつぐみではないと、心底わかっているからこそ即答できる。  だけどあの空間を見ず、本当に直前まで対立していて、陽女に至っては女性としての尊厳さえも汚されそうになって居たのだから、実際のところ咲耶をどれだけ信じられるかは俺にもわからない。 「正直に……申し上げます。信じています。信じたいです。けれどそれが100かと聞かれると、否と申し上げるしかありません」  悩ましげに眉根を寄せて、陽女が答えた。  彼女の性格上、ともに行動する仲間を信じられないと宣言しなければならないことは、辛いことなのだろう。  それほどまでに優しくて、気のいい性格なのだから。  信じずに見捨てるくらいなら、信じて騙される方がいい。  本気でそう思っているのではないかと思うほどに、優しい性格なのだから、その言葉を言う事、本心を吐露すること事態がとても苦痛を伴っていることがわかった。 「私も……姉様にあんな事をしたあなたを、心の底から信じて背中を任せられるかって聞かれたら……ごめん、信じられないって答える」  陽女と同じように、美月も苦しそうな表情で答えた。  そんな二人を見つめて、少し寂しそうに眉尻を下げて、それでも無理やし微笑んで咲耶は口を開く。 「仕方ない……。あれは私じゃないって言うのは簡単だけど、それは解ってもらえることじゃないし、あなた達から見たらこの体がやったことなんだもんね。だから仕方ない。だからそうやって自分を責めないでね」  咲耶の眼差しはとても優しいものだった。  自分の罪を受け入れている。  受け入れた上で疑われることを仕方ないと容認している。  そんな咲耶を見て、強いなと俺は思った。  あの壊れそうに歪だった緖美とは違うなと感じた。 「だからね……そんな私達が信じ合えるよう、やっぱり親睦を深めないとだめだと思うの」  そう言って咲耶は軽く笑顔を浮かべた。  そのためにやることがあると……少しいたずらっ子の笑顔で咲耶は言った。  



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 体から力を抜く。  そして大きく上体をそらせて伸びをする。  どのくらいの時間が経過したのだろうかと疑問を抱く。  ふとさんに目をやると、茜色の空が目にうつった。  自分が思っていたよりも長い時間を、あの世界で過ごしていたのだとわかると、無性に疲れた気がする。 「随分と……長い時間を過ごしてしまっていたんだな」  ぼそりと呟いて、俺はゆっくりと立ち上がる。  これで3日の猶予のうちのほぼ一日を費やしてしまったということだ。  果たして自分が行った行為が正しかったのかはわからない。  だけど力の譲渡を経て、あのような空間が用意されていたことなどを考えると、必要なことだったのだろうと思える。  もう行動してしまっているのだから、くよくよと考えても仕方ないことだ。  そう思ってはいるが、先に起きるであろう事態と残された猶予を思うと、気持ちがせいてしまうのも仕方ない。 「俺がこんなザマでどうするよ……」  弱気を起こしかけている自分に、苦笑を漏らしつつしかし覚悟を決めるしかないと思う。  ゆっくりと腰を上げて、みんなのところに戻ろうとしたとき、俺を探していた咲耶とぶつかりそうになり慌てて身を引く。 「うわ……びっくりした。ここに居たんだ智春」  驚いた様子で目を見開いて俺を見ながら咲耶は言う。  しかし驚きで見開かれた目が、更に大きく見開かれ、それと同時に口まで大きく開かれていくので、俺は何があったのかと訝しく思う。 「智春! 智春! それどうしたの一体! なにがあったの」  目を見開いたまま咲耶が、若干取り乱したように矢継ぎ早に問いかけてくる。  彼女が何を言いたいのか、何に驚いているのかが分からず、俺も混乱してしまう。 「落ち着け咲耶、何があった。何に驚いてるんだ」   「だって、だってだってだって……智春、あなたの目が……瞳が……」    混乱から立ち直っていないのか、咲耶の言う言葉がいまいち要領を得ないので、俺は仕方なく少し足早に社務所の隣の待合部屋に向かう。  そしてそこにおいてあった手鏡を覗き込んで絶句する。 「な……な、何が起こってるんだ!」  思わず無意識に叫んでしまう。  その声に何が起きたのかと慌てた美月と陽女もやってくる。  そしてようやく追いついてきた咲耶も到着して、全員が揃ったところで俺は彼女たちに顔を向ける。 「な……智春さま、それは一体」 「な、何が起きたっていうのよ」  美月と陽女も驚いた顔をして、俺を見たまま固まっている。  そんな彼女たちをひとまず放置して、俺はもう一度鏡を覗き込む。  さっき見たことはただの幻か錯覚であって、落ち着いてもう一度見たらいつもの自分の顔が映ると、そう信じて。  しかし無常にもそこに写っていたのは、先程と変わらない姿。  変わり果てた俺の姿だった。  俺の目が――普通に日本人らしい黒い瞳だったはずの俺の目が。  右目は紺色に近い深い青色に、左目はオレンジがかった金色に、変わってしまっていたのだ。  いわゆるオッドアイと呼ばれる状態になってしまっていた。  何が起きたのか分からずに、大きくため息をつく。 「智春さま……一体何をなさったんですか。何をなさってそのように」  おずおずといった様子で、陽女が言葉をかけてくる。  俺を傷つけないよう、労ってくれるような優しい声だった。 「なにかの呪い? どれとも病気? 兎も角なんとかしないと」  少し取り乱して入るものの、それでも俺のことを気にかけてくれている美月の声がそれに続く。   「何かの力を取り込んだんじゃ……私の髪色と同じように、本来のものじゃない何かを取り込んだから変化したんじゃ」  身に覚えがある咲耶がポツリという。  咲耶はその身に同居していた存在――陽奈美の思いの一部を取り込んで一つとなった。  その際に、紺碧だった彼女の髪は黒と赤いインナーカラーへと変化した。  その事を言っているのだろう。  俺は不安げに俺を見つめる3人に、今日一日にあった出来事を語って聞かせた。  瞑想状態から、過去に行われていたであろう黄泉坂の出来事。  燈月媛ひづきひめ日和媛ひわひめの名前が出たとき、陽女と美月の顔が微かに強張った。  そして多少のいざこざがあったあと、3人の体から放たれた球体の何かを受け取ったこと。  そしてそれを受け入れたこと。  そのすべてを語って聞かせた。 「その力が如何なるものなのかは、分かりませんが恐らく、私と美月の根源となる力の一部なのでしょうね」  息を吐くようにかすかな声で陽女。 「深い青は私……つまり月、金色はお姉様でる太陽。その2つの力と後は……」  話の途中で言葉を切り、俺と陽女にちらと視線を流して、少し逡巡してから再び美月白痴を開く。 「高野宮さま……いえ、朋胤さまのお力は恐らく、月と日という反する力をまとめ上げるためのものかとおもう」  朋胤ではなく、現世の俺への気遣いなのか、自分の中に残る朋胤への思慕のためかはわからない。  けれど複雑な表情で美月はそう言って、軽く下唇を噛んでいた。 「その空間というのか、それは予め用意されていたものらしいんだが、ということは何代か前の陽女か美月がなにかあったときのために作り出したものだということじゃないのか? なら何かわかるんじゃ」 「いえ……残念ながら記憶がありません。もしかすると記憶がないだけで私か美月が作ったものかもしれないですし、もしかすると私達ではなくて、主格たる……」 「アマテラスかツクヨミが仕掛けた……と?」 「解らないとしか答えられません。私たちは確かに智春さまと違い、神格の一部を有しているから記憶の持ち越しができています。しかしそれはすべての記憶を有しているわけではないんです。重要事項であったり繰り返されたことは覚えておりますけど」  陽女が悲しそうに目を伏せて、小さく頭を振る。 「重要度が低いこと、忘れたいこと。そして主格が勝手にやったこと。それらは私達の記憶にも残らないの。それに思い出すタイミングも確実じゃない。たとえば陽奈美と月音の時代は幼少には記憶を一切思い出せなくて、だから後手後手になってしまったのだし」    自身が月音であったときのことを思い出したのか、美月の瞳に悲しい色が浮かび、薄っすらと涙が溜まり始めた。 「ねえ……私一つ提案があるんだけど」  それまで蚊帳の外だった咲耶が急に口を開いた。  陽奈美と月音だった時代の話は、咲耶には関連がないため今まで話しに参加できていなかったのだ。  その魂に【陽奈美の思いの一部】を取り込んでいる以上は、全くの無関係というわけではないのだが、それでもその時代の出来事を体験しているわけでも、記憶しているわけでもない咲耶は、ずっと黙ったまま俺たちを眺めていた。  その咲耶が突然何かを言い始めたので、俺たちは黙って咲耶を見つめて、話の続きを促す。 「私達さ、本当に色々あって今こうして共同で動いているけれど、直前まで対立したり諍ったりしていたわけじゃない? いまさら何かを必死に行ったところで付け焼き刃だし、状況が圧倒的に不利なのも事実じゃない?」  そこで言葉を切って咲耶はオレたちの反応を伺う。  俺たちが特に反論を唱えることもないのを確認して話を続ける。 「だからね、私達は親睦を深める必要があると思うの。かつて私はあの男にいいように操られていた。つまりアイツは私達の不和をついて何かを画策する可能性があると思うのよ。だからそれをなくすためにも私達は互いを知って強く結びついたほうが良いと思う。」  そこまでを一息で行った後、咲耶はその視線を陽女と美月に向けた。 「あなた達、私が完全に味方であなた達と対立しないって信じられる? 例えば……アイツが私に、憎い月を倒す手伝いをしたら、智春と私が完全に結ばれるように力を貸すって言ったら、その後でも私を信じて協力しあえる?」  俺は心のなかで信じられると即答したけれど、それは彼女の心の中を知り彼女の生い立ちと思いを知り、そして彼女がもうすでに守藤 緖美しゅどうつぐみではないと、心底わかっているからこそ即答できる。  だけどあの空間を見ず、本当に直前まで対立していて、陽女に至っては女性としての尊厳さえも汚されそうになって居たのだから、実際のところ咲耶をどれだけ信じられるかは俺にもわからない。 「正直に……申し上げます。信じています。信じたいです。けれどそれが100かと聞かれると、否と申し上げるしかありません」  悩ましげに眉根を寄せて、陽女が答えた。  彼女の性格上、ともに行動する仲間を信じられないと宣言しなければならないことは、辛いことなのだろう。  それほどまでに優しくて、気のいい性格なのだから。  信じずに見捨てるくらいなら、信じて騙される方がいい。  本気でそう思っているのではないかと思うほどに、優しい性格なのだから、その言葉を言う事、本心を吐露すること事態がとても苦痛を伴っていることがわかった。 「私も……姉様にあんな事をしたあなたを、心の底から信じて背中を任せられるかって聞かれたら……ごめん、信じられないって答える」  陽女と同じように、美月も苦しそうな表情で答えた。  そんな二人を見つめて、少し寂しそうに眉尻を下げて、それでも無理やし微笑んで咲耶は口を開く。 「仕方ない……。あれは私じゃないって言うのは簡単だけど、それは解ってもらえることじゃないし、あなた達から見たらこの体がやったことなんだもんね。だから仕方ない。だからそうやって自分を責めないでね」  咲耶の眼差しはとても優しいものだった。  自分の罪を受け入れている。  受け入れた上で疑われることを仕方ないと容認している。  そんな咲耶を見て、強いなと俺は思った。  あの壊れそうに歪だった緖美とは違うなと感じた。 「だからね……そんな私達が信じ合えるよう、やっぱり親睦を深めないとだめだと思うの」  そう言って咲耶は軽く笑顔を浮かべた。  そのためにやることがあると……少しいたずらっ子の笑顔で咲耶は言った。  



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