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猶予2

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「なるほど……面白い話しだが、しかしにわかには信じられんな」  兼朋はあごの下に手をやりながらぼそりと呟く。 「それが真実であると、どう証明する? 仮に真実として、我に何をしろという。儀式を邪魔してまで何を求める」  鋭い目つきで俺を睨んで、兼朋は言葉をつづけた。  確かにそう問われると、俺も困ってしまう。  何かの目的があってこの状況を招いたわけではないからだ。  重要な場面で、俺を導くように聞こえたあの声をたどれば、何かつかめるのではないかという確証のない、漠然とした思いだけで行動してしまったのだから。 「まず誤算があったのは事実。俺はあなたに会うために瞑想を行ったわけじゃない事。俺はあなたの後の代に現れるであろう高野宮 朋胤に会いたいと思っていたから。それに俺が言ったことの証明……ですか。それは後ろにいる二人に聞くしかないでしょうね」  俺は肩をすくめてやれやれと言いたげな表情を浮かべて、兼朋に答える。  俺の言葉の意味を計りかねたのか、兼朋は片目だけ細めて俺を見て、そのあと背後に控える二人を見る。 「俺の話した内容に、恐らくは兼朋殿も知らない、神格をもって人をなす話や黄泉坂祭の本当の目的や意味を俺は語りました。それが真実かどうかは、お二人なら分かるはず」  俺は視線に力を込めて、兼朋の後ろに控える二人の巫女を睨む。   「……御身おんみがどのような手法をもって、そのことを見聞したのかは判りかねます。しかし兼朋さまをたぶらかそうとするその言動は看過できませぬ。残念な仕儀なれどお覚悟」  狐面を着けている巫女姿の女性が、懐より鉄線を引き抜くと、一瞬のためらいもなく間合いを詰めて一直線に俺の脳天をたたき割ろうかという一撃を放ってくる。  無意識に体が動き、半身程後ろに体を引いたおかげでかろうじてその一撃を受けずに済んだが、彼女もその一撃だけで済ませるつもりはなかったのだろう、さらに大きく一歩踏み込んで、今度は素早く閉じた鉄線の先で俺の喉を突いてくる。  これはまずい……と瞬時に理解する。人体の中心線は回避しづらい部位だ。  中心に位置するからこそ、避けるためには大きく動かさなければならない。  その部分を攻撃するのに、突きという方法は最適だろう。  素早い上に、ピンポイントで急所を狙える攻撃方法だから。  心の中で南無三と唱えつつ、俺は下から上へと腕を振り上げて、その攻撃を逸らせる。  意図せず俺の腕は、狐面の巫女の鉄線を持つ細い手首を綺麗に上に跳ね上げることができて、かろうじてその攻撃を凌ぐことができた。    だが格闘技や武術を修練したわけでもない俺が、これ以上の攻撃をしのげるとも思えず、この先をどうすればいいかと思案する。 「引け……燈月ひづき」  俺と狐面の巫女の戦いを見ていた兼朋が、厳かにそういった。  その言葉には強い力が込められており、その言葉の意図と意味を理解したのだろうか燈月と呼ばれた狐面の巫女は、大きく一度俺の前からうしろへ飛び退すさり、そして恭しくその場に片膝をついて首を垂れる。  その様はまるで、主人に命じられたしもべの行動のようにも見えた。 「兼朋さま……なれど、この男はあまりにも知り過ぎております……危険でございます」    兼続の後ろに控えていた巫女が、異論を唱える。  彼女たちにとって、兼朋の命こそが重要であり、意味不明な会話など埒外の事であるようだ。 (それに……まずいことまで俺が知っていることを危険視している……か)  二人の巫女をみて感じたことを反芻してみる。  兼朋の身の安全が重要、それは間違いがないが突然襲い掛かってきた様子などを見ると、恐らくは本来は知るべきではないことまで俺が兼朋に話したことにより、口を封じにかかった意図もあるように見える。 「日和媛といったか、そっちの巫女。神格をもって人と成す話や、黄泉坂祭の真の意味を俺が兼朋殿に話したことで、俺を排除しようとしているのが本意だろ? だがもう話してしまった後だ。今更俺を消してどうするつもりだ」  俺は鋭いまなざしを巫女に向けたまま話す。 「下郎!姉様に向かってなんという口の利き方を」 「控えろと言っている!」  再び俺に敵意をむき出しにした狐面の巫女が、動こうとした瞬間、先ほどにもまして力のこもった鋭い声で兼朋が命じた。  その言葉に、立ち上がりかけていた狐面の巫女は、弾かれた様に一度だけ身を震わせ、素早く片膝をつく姿勢に戻る。   「良いのではないか……、赤心を示すではないが、この男はすべて真実を話した。己の保身のために不要なことを隠すなどという小細工を弄することなくな。私はこれで満足したが、日和……燈月……どうだ」  張り詰めた空気の中、突然に兼朋は相好を崩して先ほどとは打って変わった優しい声でそういう。  すると日和媛と呼ばれた巫女が、ゆっくりを顔を上げて、陽奈美に……そして陽女ににた優しい笑顔で俺を見つめた。  言葉はないが、その顔が兼朋の言葉に同意しているのが伝わるような笑顔だった。  俺がそんな日和媛を見つめて温かい気持ちになっていると、カランという乾いた音と、しゃくりあげるような声が聞こえた。 「……ひっく……うう……、つ……辛かったです……お姉さま。役割とは言えこの方に……手を出すことはつらかったです……うう」  音の下方を見ると、地面に狐の面を落としたまま、月音……いや美月に似た顔の女がぼろぼろと涙を流して、嗚咽を漏らしていた。 「すまんな……燈月、つらい役目をさせてしまった」  優しい声でそう言いながら、兼朋は左手の袖を振るい、そっと燈月をその腕の中に抱き寄せていた。  視界の隅で一瞬だけ複雑な表情を浮かべた日和が見えたが、俺はあえてそれを見なかったことにした。  何度も繰り返した歴史と事実の中で、俺はおそらく兼朋以上に日和の気持ちがわかったから。  だから軽薄に何かを言うことも出来ず、それに気が付いたと悟られることで、彼女の心に負担をかけることも望ましいとは思えず、だから敢えて見なかったことにした。   「明神……智春……といったか。わが末に連なるもの」  不意の呼びかけられて、俺は兼朋を見て頷く。 「予想通り……というべきか、我々はあの時代を生きていた我々そのものではない。この場はあくまでもあの時の再現でしかない。もちろん我々も生きてはいない。ここは言うなれば書庫のようなもの。我々が何度も繰り返してきた事実を連綿と刻みつけられた場所であり、それ以上のものにはなりえない」 優しいまなざしで俺を見たまま、ゆったりと兼朋が話を続けていく。 「ここに恐らくは、我かあるいは陽と月に連なるもの以外がおとなうことはないだろう。だが……大事なことゆえに秘密を保持するための仕掛けが必要でもあった。それは訪ったものが、我らに連なるものでありそして誠意を持つものであること。それを見定めねばならなかったのだ。赦せ……」   「それは……仕方のないことだと思う。が……正直な話、生きた心地はしなかった」 「はは……日和も燈月も、私を守るということと、儀式を遂行するという二つに関しては、いささかの譲歩もせぬ者だからな」  ちらりと見た燈月媛は、兼朋に気づかれないように小さく、しかしはっきりと不満そうな顔をしていた。  熱が入り過ぎている、あるいはやり過ぎていると言われたと受け止めてしまい、それに不満があるようだ。  おそらく彼女たちにとって、兼朋を守ることに関してはやり過ぎというものはないのだろうなと思うと、少し笑いがこみあげてきて、だけどふと自分と美月、陽女の関係を思い出してしまい、もの寂しい気持ちにもなってしまった。 「話が長くなってしまったな。年を取るとどうしてもな……、すまぬことだ」  少し苦笑を浮かべた兼朋が言った。  そして俺に向かって手のひらを向ける。  そんな兼朋の様子を見て、日和媛と燈月媛も同じように俺に向かって開いた手のひらを伸ばす。 「受け取れ。そして為すべきを為せ。この場はそのために用意された場所。我々はそのために用意された駒。すべては最悪の出来事が起こったとき、それを最悪のままにしないための布石。これが何を為すものなのか何の力なのかさえ私は知らない。しかしこの日この時のために、用意されていたものだ。智春……お前が心から必要と信じ、力を求めたときこれは答えてくれるだろう」  兼朋の、日和媛の、燈月媛の……それぞれの手のひらから淡く青色に光る球体のようなものが現れ、そしてその3つはゆっくりと集まって一つの球体になり、俺の方へ向かってくる。  俺は何となくそうしなければならない気がして、その球体に手を伸ばす。  青色の球体を体から放出した三人の姿が少しづつ、薄くなっていくのが見えた。  俺が何か言おうと口を開くのと、球体が俺の手のひらに触れるのが同時だった。  球体が折れに触れた瞬間、まるで氷に触れたような冷たさと、ピリッとした小さな痛み、そしてその直後に俺の体の中に人割と広がっていく温かい熱を感じる。  そうしている間にも、3人の姿はどんどんと薄くなり、そして見えなくなってしまった。 「為すべきを為せ、そしてこの悲しみを振り払ってくれ……それが我らの望み、そのために我等はなんども繰り返してきたのだ……月と日の名を持ちし者、我らが末……頼む……」  兼朋の声が、彼らの姿の消えた場所からかすかに耳に届いた。 (勿論だ。もう美月も陽女も……咲耶も、誰もこれ以上苦しめたくはない……)  俺は光の球体を受けとめた手のひらを強く握りしめそう強く思った。  そのために俺は、ここに来たのだからと。  



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「なるほど……面白い話しだが、しかしにわかには信じられんな」  兼朋はあごの下に手をやりながらぼそりと呟く。 「それが真実であると、どう証明する? 仮に真実として、我に何をしろという。儀式を邪魔してまで何を求める」  鋭い目つきで俺を睨んで、兼朋は言葉をつづけた。  確かにそう問われると、俺も困ってしまう。  何かの目的があってこの状況を招いたわけではないからだ。  重要な場面で、俺を導くように聞こえたあの声をたどれば、何かつかめるのではないかという確証のない、漠然とした思いだけで行動してしまったのだから。 「まず誤算があったのは事実。俺はあなたに会うために瞑想を行ったわけじゃない事。俺はあなたの後の代に現れるであろう高野宮 朋胤に会いたいと思っていたから。それに俺が言ったことの証明……ですか。それは後ろにいる二人に聞くしかないでしょうね」  俺は肩をすくめてやれやれと言いたげな表情を浮かべて、兼朋に答える。  俺の言葉の意味を計りかねたのか、兼朋は片目だけ細めて俺を見て、そのあと背後に控える二人を見る。 「俺の話した内容に、恐らくは兼朋殿も知らない、神格をもって人をなす話や黄泉坂祭の本当の目的や意味を俺は語りました。それが真実かどうかは、お二人なら分かるはず」  俺は視線に力を込めて、兼朋の後ろに控える二人の巫女を睨む。   「……御身おんみがどのような手法をもって、そのことを見聞したのかは判りかねます。しかし兼朋さまをたぶらかそうとするその言動は看過できませぬ。残念な仕儀なれどお覚悟」  狐面を着けている巫女姿の女性が、懐より鉄線を引き抜くと、一瞬のためらいもなく間合いを詰めて一直線に俺の脳天をたたき割ろうかという一撃を放ってくる。  無意識に体が動き、半身程後ろに体を引いたおかげでかろうじてその一撃を受けずに済んだが、彼女もその一撃だけで済ませるつもりはなかったのだろう、さらに大きく一歩踏み込んで、今度は素早く閉じた鉄線の先で俺の喉を突いてくる。  これはまずい……と瞬時に理解する。人体の中心線は回避しづらい部位だ。  中心に位置するからこそ、避けるためには大きく動かさなければならない。  その部分を攻撃するのに、突きという方法は最適だろう。  素早い上に、ピンポイントで急所を狙える攻撃方法だから。  心の中で南無三と唱えつつ、俺は下から上へと腕を振り上げて、その攻撃を逸らせる。  意図せず俺の腕は、狐面の巫女の鉄線を持つ細い手首を綺麗に上に跳ね上げることができて、かろうじてその攻撃を凌ぐことができた。    だが格闘技や武術を修練したわけでもない俺が、これ以上の攻撃をしのげるとも思えず、この先をどうすればいいかと思案する。 「引け……燈月ひづき」  俺と狐面の巫女の戦いを見ていた兼朋が、厳かにそういった。  その言葉には強い力が込められており、その言葉の意図と意味を理解したのだろうか燈月と呼ばれた狐面の巫女は、大きく一度俺の前からうしろへ飛び退すさり、そして恭しくその場に片膝をついて首を垂れる。  その様はまるで、主人に命じられたしもべの行動のようにも見えた。 「兼朋さま……なれど、この男はあまりにも知り過ぎております……危険でございます」    兼続の後ろに控えていた巫女が、異論を唱える。  彼女たちにとって、兼朋の命こそが重要であり、意味不明な会話など埒外の事であるようだ。 (それに……まずいことまで俺が知っていることを危険視している……か)  二人の巫女をみて感じたことを反芻してみる。  兼朋の身の安全が重要、それは間違いがないが突然襲い掛かってきた様子などを見ると、恐らくは本来は知るべきではないことまで俺が兼朋に話したことにより、口を封じにかかった意図もあるように見える。 「日和媛といったか、そっちの巫女。神格をもって人と成す話や、黄泉坂祭の真の意味を俺が兼朋殿に話したことで、俺を排除しようとしているのが本意だろ? だがもう話してしまった後だ。今更俺を消してどうするつもりだ」  俺は鋭いまなざしを巫女に向けたまま話す。 「下郎!姉様に向かってなんという口の利き方を」 「控えろと言っている!」  再び俺に敵意をむき出しにした狐面の巫女が、動こうとした瞬間、先ほどにもまして力のこもった鋭い声で兼朋が命じた。  その言葉に、立ち上がりかけていた狐面の巫女は、弾かれた様に一度だけ身を震わせ、素早く片膝をつく姿勢に戻る。   「良いのではないか……、赤心を示すではないが、この男はすべて真実を話した。己の保身のために不要なことを隠すなどという小細工を弄することなくな。私はこれで満足したが、日和……燈月……どうだ」  張り詰めた空気の中、突然に兼朋は相好を崩して先ほどとは打って変わった優しい声でそういう。  すると日和媛と呼ばれた巫女が、ゆっくりを顔を上げて、陽奈美に……そして陽女ににた優しい笑顔で俺を見つめた。  言葉はないが、その顔が兼朋の言葉に同意しているのが伝わるような笑顔だった。  俺がそんな日和媛を見つめて温かい気持ちになっていると、カランという乾いた音と、しゃくりあげるような声が聞こえた。 「……ひっく……うう……、つ……辛かったです……お姉さま。役割とは言えこの方に……手を出すことはつらかったです……うう」  音の下方を見ると、地面に狐の面を落としたまま、月音……いや美月に似た顔の女がぼろぼろと涙を流して、嗚咽を漏らしていた。 「すまんな……燈月、つらい役目をさせてしまった」  優しい声でそう言いながら、兼朋は左手の袖を振るい、そっと燈月をその腕の中に抱き寄せていた。  視界の隅で一瞬だけ複雑な表情を浮かべた日和が見えたが、俺はあえてそれを見なかったことにした。  何度も繰り返した歴史と事実の中で、俺はおそらく兼朋以上に日和の気持ちがわかったから。  だから軽薄に何かを言うことも出来ず、それに気が付いたと悟られることで、彼女の心に負担をかけることも望ましいとは思えず、だから敢えて見なかったことにした。   「明神……智春……といったか。わが末に連なるもの」  不意の呼びかけられて、俺は兼朋を見て頷く。 「予想通り……というべきか、我々はあの時代を生きていた我々そのものではない。この場はあくまでもあの時の再現でしかない。もちろん我々も生きてはいない。ここは言うなれば書庫のようなもの。我々が何度も繰り返してきた事実を連綿と刻みつけられた場所であり、それ以上のものにはなりえない」 優しいまなざしで俺を見たまま、ゆったりと兼朋が話を続けていく。 「ここに恐らくは、我かあるいは陽と月に連なるもの以外がおとなうことはないだろう。だが……大事なことゆえに秘密を保持するための仕掛けが必要でもあった。それは訪ったものが、我らに連なるものでありそして誠意を持つものであること。それを見定めねばならなかったのだ。赦せ……」   「それは……仕方のないことだと思う。が……正直な話、生きた心地はしなかった」 「はは……日和も燈月も、私を守るということと、儀式を遂行するという二つに関しては、いささかの譲歩もせぬ者だからな」  ちらりと見た燈月媛は、兼朋に気づかれないように小さく、しかしはっきりと不満そうな顔をしていた。  熱が入り過ぎている、あるいはやり過ぎていると言われたと受け止めてしまい、それに不満があるようだ。  おそらく彼女たちにとって、兼朋を守ることに関してはやり過ぎというものはないのだろうなと思うと、少し笑いがこみあげてきて、だけどふと自分と美月、陽女の関係を思い出してしまい、もの寂しい気持ちにもなってしまった。 「話が長くなってしまったな。年を取るとどうしてもな……、すまぬことだ」  少し苦笑を浮かべた兼朋が言った。  そして俺に向かって手のひらを向ける。  そんな兼朋の様子を見て、日和媛と燈月媛も同じように俺に向かって開いた手のひらを伸ばす。 「受け取れ。そして為すべきを為せ。この場はそのために用意された場所。我々はそのために用意された駒。すべては最悪の出来事が起こったとき、それを最悪のままにしないための布石。これが何を為すものなのか何の力なのかさえ私は知らない。しかしこの日この時のために、用意されていたものだ。智春……お前が心から必要と信じ、力を求めたときこれは答えてくれるだろう」  兼朋の、日和媛の、燈月媛の……それぞれの手のひらから淡く青色に光る球体のようなものが現れ、そしてその3つはゆっくりと集まって一つの球体になり、俺の方へ向かってくる。  俺は何となくそうしなければならない気がして、その球体に手を伸ばす。  青色の球体を体から放出した三人の姿が少しづつ、薄くなっていくのが見えた。  俺が何か言おうと口を開くのと、球体が俺の手のひらに触れるのが同時だった。  球体が折れに触れた瞬間、まるで氷に触れたような冷たさと、ピリッとした小さな痛み、そしてその直後に俺の体の中に人割と広がっていく温かい熱を感じる。  そうしている間にも、3人の姿はどんどんと薄くなり、そして見えなくなってしまった。 「為すべきを為せ、そしてこの悲しみを振り払ってくれ……それが我らの望み、そのために我等はなんども繰り返してきたのだ……月と日の名を持ちし者、我らが末……頼む……」  兼朋の声が、彼らの姿の消えた場所からかすかに耳に届いた。 (勿論だ。もう美月も陽女も……咲耶も、誰もこれ以上苦しめたくはない……)  俺は光の球体を受けとめた手のひらを強く握りしめそう強く思った。  そのために俺は、ここに来たのだからと。  



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