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絡め取られるモノ

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「どう?この出来映え。ちょっとは私のこと見直したんじゃない?」    ダイニングのテーブルの上に並べられた数々の料理。  それらを前にして、緖美は得意げに胸を反らせる。  果たして並べられた料理の数々を見れば、そのような態度も納得するしかない。  高級なレストランでしかお目にかかれないような、名前も知らないような凝った洋食が、これまたレストランのメニューのようにバランスと色合いを兼ね備えた、見事な盛り付けで並べられている。  食べるのが惜しくなるほどの盛り付け具合であった。  緖美相手のことだから、なにかケチの1つ つでも付けてやろうかと思っていた俺は、見事に肩透かしを食らったようなものだ。 「ぐぬ……、悔しいが見た目は完璧だ。問題は味だけどな」  素直に認めるのも悔しいので、わざとそう言い返すものの、漂う匂いだけで味も見た目に負けない仕上がりなのだろうとは容易に想像が出来た。 「そこまで言うなら、食べてみなさいよ。それでも文句が言えるなら聞いてあげるわ」  かなり自信があるのだろう、余裕綽々の顔で俺の発言を受け流す。  取りあえず俺は、目の前で良い匂いをさせている肉料理を頬張ってみる。  美味い……悔しいが美味い。  白い丸皿の上に綺麗にスライスされた肉。  赤いソースが肉と真っ白な皿の上で細い線を描き、それは1つの芸術作品のような盛り付けになっていた。  ソースの材料は解らないけれど、肉に合う濃厚な味付けの中にもほのかな酸味と塩味で食が進む。   「で……どうなのよ、感想を言うのが礼儀だと思うわ」 「く、くやしいけど……美味いよ。下手なレストランで食べるよりよっぽどな」  調子に乗られるのが嫌だったので、本当はあまり言いたくはなかったけど、これだけの料理をたべさせてもらったのだ、素直に評価して感想をいうしかないだろう。  だからそれに対しての、緖美の反応は俺の予想を裏切っていて驚いた。    俺はてっきり、調子に乗って自慢げにいかに凄いかを説明してくると思っていたのだけど、緖美は俺の顔を見つめたまま、酸欠にでもなったのかのように口をパクパクとさせて、心なしか顔も赤くして身を震わせていた。   「どうしたんだ、なんか様子が変だそ」 「あ……え、あの、……少しでも体力つくようにって、気持ちを込めて作ったからさ、なんていうかその……ありがとう」  食事を馳走して貰った俺の方が礼を言われる。  本当にいつもと様子が違いすぎて、俺は妙に尻の据わりが悪いおちつかなさを感じていた。  こいつがこんなしおらしい、素直な反応を返すとか何が起きたんだろうと訝しく想う。 「あの……ね、私さ……男の人に料理作ったの初めてなんだよね。そりゃ家が家だから花嫁修業とか言われて小さい頃から料理は学んでいたけど、でもね男の人にこうやって作ったのは初めてで」  顔を真っ赤にしながら、いつの間にか視線を下ろして、そして最後の方は聞こえないくらいの小さな声になりながら、緖美はそう言った。  この時初めて、普段は苦手意識しかなくて避けたくて仕方が無かった緖美のことを、不覚にも可愛いと思ってしまった。  こいつこんな顔もするんだとか、しおらしい態度とか新鮮だなとか、いろんな思いがぐるぐると頭の中を駆け巡り、なんだか食事の味もはっきりわからなくなってきた。 「まあ、誰にでも取り柄はあるって事だな。正直驚いたし……まぁまた食べたいなとは思う」  緖美の態度に影響されたのだろうか、自分が考えていたよりは幾分素直な感想を口にしてしまう。  そんな俺の言葉に、緖美は更に顔を赤くして、挙動不審ぶりに磨きがかかる。 「えっとさ、それじゃあ、また作りに……こようか?」  視線をやや下にしたまま、エプロンの裾を指で弄りながら、蚊の鳴くような声で緖美が言う。 「あ……あー、うん緖美が暇な時があるんなら、まあ作ってほしいかなとは……想わなくもないけども」  俺の方もなんだかおかしなことを言ってしまう。  緖美が変な態度を取るから調子が狂っているんであって、けして俺がこいつに好意を持っているわけじゃない。  何度も自分に言い聞かせる。  こうして美味しいものを食べたが、疲労はより一層増すというよくわからない晩餐は続き、食事を終えた後は洗い物までしてくれた緖美が、エプロンを外しながら帰り支度を始める頃、俺はようやく落ち着きを取り戻しつつあった。 「じゃあ私そろそろ帰るわね。また作りに来るからあまりジャンクなものを食べたらだめだよ」  外したエプロンを椅子の背もたれに、綺禮に折りたたんで掛けた後、床に置いたままになっていた鞄を手に取り、振り返った姿勢で緖美が言う。   「善処はする……なぁ緖美、一つ聞いて良いか?」 「ん、何かしら。愛の告白……ではないわよね」 「なんでお前は、ここまで俺の世話を焼いてくれるんだ。付き合えっていってくるけど、俺のどこがいいんだ。俺はそんなイケメンでもないし、スポーツも勉強も並だ。付き合いだって長くはないだろ。なのにお前はこんな俺の何処にそれだけ惹かれてるんだよ。」  俺は今までに感じていた疑問の全てをぶつけてみた。  おそらく今日一日の出来事のせいで、俺の中の緖美への印象が大きく変化したからかもしれない。  好きとかではないけども、今までに感じていた苦手意識は薄まったし、好印象も抱いていたからかもしれない、だからこそ確認しておかないといけないと思った。  突然の俺の問いに、緖美は怪訝そうに目を細めて、しばらく思案げに視線を彷徨わせて、しばらくしてから口を開く。 「わかりやすい言葉で言うなら、一目惚れに近いのかもね。もちろんそんな軽い感情ではないけれど、他に適切な言葉が思いつかない。貴方が引かないというなら露骨に言うけれど」  そこで言葉を切り、緖美は俺の目の前に迫ってきた。  キスするかと思うほど近くに顔を寄せて、身体も密着するくらいに近くに。 「私はこの人と結ばれる。そうなる運命。この人の子を産みたい…理屈じゃなく、貴方を初めて見た時に私の頭に浮かんだ言葉よ」  そういった緖美は、それ以上近寄ることも、離れることもせずにじっと目を見つめたまま微動だにしない。  雰囲気?気配?そう言った何かに気圧されたかのように、俺も身動き一つ出来ず、黒いのにどこか深い海のような青さを感じさえる緖美の目を見つめ続けることしか出来なかった。  まるでそのまま引きずり込まれるような緖美の目から、視線を外すことも出来ずに。  ふいに緖美が息を一つ吐く。  その瞬間、俺のからだは呪縛から説かれたかのように、動きを取り戻した。 「伝わったかしら……私の本気。」 「あ……あぁ」  緖美から発せられた問いに、俺は曖昧に応えることしか出来なかった。  頭が痺れたように働かず、からだが頼りなくふわふわ浮いているような妙な感覚にとらわれる。 「それにね……今はもう一つ、貴方を絶対に手に入れなきゃならない理由が増えたしね」  緖美が何か呟いたが、その声は俺には届いていなかった。  俺はその場の状況を理解することで手一杯で、緖美の口元に浮かんだ歪な笑顔に気がつくことが出来ないまま、黙って玄関から出て行く彼女を見送ることしか出来なかった。    



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「どう?この出来映え。ちょっとは私のこと見直したんじゃない?」    ダイニングのテーブルの上に並べられた数々の料理。  それらを前にして、緖美は得意げに胸を反らせる。  果たして並べられた料理の数々を見れば、そのような態度も納得するしかない。  高級なレストランでしかお目にかかれないような、名前も知らないような凝った洋食が、これまたレストランのメニューのようにバランスと色合いを兼ね備えた、見事な盛り付けで並べられている。  食べるのが惜しくなるほどの盛り付け具合であった。  緖美相手のことだから、なにかケチの1つ つでも付けてやろうかと思っていた俺は、見事に肩透かしを食らったようなものだ。 「ぐぬ……、悔しいが見た目は完璧だ。問題は味だけどな」  素直に認めるのも悔しいので、わざとそう言い返すものの、漂う匂いだけで味も見た目に負けない仕上がりなのだろうとは容易に想像が出来た。 「そこまで言うなら、食べてみなさいよ。それでも文句が言えるなら聞いてあげるわ」  かなり自信があるのだろう、余裕綽々の顔で俺の発言を受け流す。  取りあえず俺は、目の前で良い匂いをさせている肉料理を頬張ってみる。  美味い……悔しいが美味い。  白い丸皿の上に綺麗にスライスされた肉。  赤いソースが肉と真っ白な皿の上で細い線を描き、それは1つの芸術作品のような盛り付けになっていた。  ソースの材料は解らないけれど、肉に合う濃厚な味付けの中にもほのかな酸味と塩味で食が進む。   「で……どうなのよ、感想を言うのが礼儀だと思うわ」 「く、くやしいけど……美味いよ。下手なレストランで食べるよりよっぽどな」  調子に乗られるのが嫌だったので、本当はあまり言いたくはなかったけど、これだけの料理をたべさせてもらったのだ、素直に評価して感想をいうしかないだろう。  だからそれに対しての、緖美の反応は俺の予想を裏切っていて驚いた。    俺はてっきり、調子に乗って自慢げにいかに凄いかを説明してくると思っていたのだけど、緖美は俺の顔を見つめたまま、酸欠にでもなったのかのように口をパクパクとさせて、心なしか顔も赤くして身を震わせていた。   「どうしたんだ、なんか様子が変だそ」 「あ……え、あの、……少しでも体力つくようにって、気持ちを込めて作ったからさ、なんていうかその……ありがとう」  食事を馳走して貰った俺の方が礼を言われる。  本当にいつもと様子が違いすぎて、俺は妙に尻の据わりが悪いおちつかなさを感じていた。  こいつがこんなしおらしい、素直な反応を返すとか何が起きたんだろうと訝しく想う。 「あの……ね、私さ……男の人に料理作ったの初めてなんだよね。そりゃ家が家だから花嫁修業とか言われて小さい頃から料理は学んでいたけど、でもね男の人にこうやって作ったのは初めてで」  顔を真っ赤にしながら、いつの間にか視線を下ろして、そして最後の方は聞こえないくらいの小さな声になりながら、緖美はそう言った。  この時初めて、普段は苦手意識しかなくて避けたくて仕方が無かった緖美のことを、不覚にも可愛いと思ってしまった。  こいつこんな顔もするんだとか、しおらしい態度とか新鮮だなとか、いろんな思いがぐるぐると頭の中を駆け巡り、なんだか食事の味もはっきりわからなくなってきた。 「まあ、誰にでも取り柄はあるって事だな。正直驚いたし……まぁまた食べたいなとは思う」  緖美の態度に影響されたのだろうか、自分が考えていたよりは幾分素直な感想を口にしてしまう。  そんな俺の言葉に、緖美は更に顔を赤くして、挙動不審ぶりに磨きがかかる。 「えっとさ、それじゃあ、また作りに……こようか?」  視線をやや下にしたまま、エプロンの裾を指で弄りながら、蚊の鳴くような声で緖美が言う。 「あ……あー、うん緖美が暇な時があるんなら、まあ作ってほしいかなとは……想わなくもないけども」  俺の方もなんだかおかしなことを言ってしまう。  緖美が変な態度を取るから調子が狂っているんであって、けして俺がこいつに好意を持っているわけじゃない。  何度も自分に言い聞かせる。  こうして美味しいものを食べたが、疲労はより一層増すというよくわからない晩餐は続き、食事を終えた後は洗い物までしてくれた緖美が、エプロンを外しながら帰り支度を始める頃、俺はようやく落ち着きを取り戻しつつあった。 「じゃあ私そろそろ帰るわね。また作りに来るからあまりジャンクなものを食べたらだめだよ」  外したエプロンを椅子の背もたれに、綺禮に折りたたんで掛けた後、床に置いたままになっていた鞄を手に取り、振り返った姿勢で緖美が言う。   「善処はする……なぁ緖美、一つ聞いて良いか?」 「ん、何かしら。愛の告白……ではないわよね」 「なんでお前は、ここまで俺の世話を焼いてくれるんだ。付き合えっていってくるけど、俺のどこがいいんだ。俺はそんなイケメンでもないし、スポーツも勉強も並だ。付き合いだって長くはないだろ。なのにお前はこんな俺の何処にそれだけ惹かれてるんだよ。」  俺は今までに感じていた疑問の全てをぶつけてみた。  おそらく今日一日の出来事のせいで、俺の中の緖美への印象が大きく変化したからかもしれない。  好きとかではないけども、今までに感じていた苦手意識は薄まったし、好印象も抱いていたからかもしれない、だからこそ確認しておかないといけないと思った。  突然の俺の問いに、緖美は怪訝そうに目を細めて、しばらく思案げに視線を彷徨わせて、しばらくしてから口を開く。 「わかりやすい言葉で言うなら、一目惚れに近いのかもね。もちろんそんな軽い感情ではないけれど、他に適切な言葉が思いつかない。貴方が引かないというなら露骨に言うけれど」  そこで言葉を切り、緖美は俺の目の前に迫ってきた。  キスするかと思うほど近くに顔を寄せて、身体も密着するくらいに近くに。 「私はこの人と結ばれる。そうなる運命。この人の子を産みたい…理屈じゃなく、貴方を初めて見た時に私の頭に浮かんだ言葉よ」  そういった緖美は、それ以上近寄ることも、離れることもせずにじっと目を見つめたまま微動だにしない。  雰囲気?気配?そう言った何かに気圧されたかのように、俺も身動き一つ出来ず、黒いのにどこか深い海のような青さを感じさえる緖美の目を見つめ続けることしか出来なかった。  まるでそのまま引きずり込まれるような緖美の目から、視線を外すことも出来ずに。  ふいに緖美が息を一つ吐く。  その瞬間、俺のからだは呪縛から説かれたかのように、動きを取り戻した。 「伝わったかしら……私の本気。」 「あ……あぁ」  緖美から発せられた問いに、俺は曖昧に応えることしか出来なかった。  頭が痺れたように働かず、からだが頼りなくふわふわ浮いているような妙な感覚にとらわれる。 「それにね……今はもう一つ、貴方を絶対に手に入れなきゃならない理由が増えたしね」  緖美が何か呟いたが、その声は俺には届いていなかった。  俺はその場の状況を理解することで手一杯で、緖美の口元に浮かんだ歪な笑顔に気がつくことが出来ないまま、黙って玄関から出て行く彼女を見送ることしか出来なかった。    



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