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春の風と僕だけの太陽

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 柔らかい風が吹いていた。  僕の頬を優しく撫でて、遠くへと過ぎ去っていく。  そして少し遅れて届く新緑の木々たちが芽吹く香り。  春の訪れを感じて僕は無性に嬉しくなった。  長い冬が終わり、新たな命の芽吹く季節。  さま々な木々や花たちが、その生命力を風に乗せてさま々な香りを届けてくれる。 「朋胤さまぁ」  遠くから少し鼻にかかった、甘えた声が聞こえてくる。  女の子の声だと解る。  少し目をこらすと、緑の絨毯の上を踊るように走る少女の姿が見えた。  僕に向かって、大きく手を振る。 「陽奈美、そんなにはしゃいでいるとまた転んでしまうよ」  僕は少女に向かって大きな声で言う。  そんな僕の声が聞こえたのか、少女はその場で大きく飛び上がってその存在を僕に見せつける。  僕の名前は高野宮 朋胤たかのみやともつぐ。  この比良山村ひらやまむらで代々続く神社の一人息子だ。  そして僕に向かって満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきている少女は、守藤 陽奈美しゅどうひなみという。  この村で昔からずっと続いている名家で、村の大事な祭事を執り行う立場にある守藤家の娘。  その名前の通り、明るい太陽のような笑顔の女の子。  誰に対しても優しく、人見知りをせず、その場の雰囲気をまるごと明るくするようなそんな性格の子。  ぱっと見は黒髪だけれど、日の光が当たると明るい茶色に輝く不思議な髪色をしている。  顔立ちは、大きなくりくりとした目とすっと通った鼻筋、そして柔らかそうなふっくらと下唇が印象的。  大げさではなく、本当に誰からも好かれる、愛される存在。  それが陽奈美だった。 「朋胤さま、どうしたのですか?ずっとこんなところでぼんやりとなさって」  僕の隣まで駆け寄ってきた陽奈美が、可愛らしく小首をかしげて僕を見る。 「春のね、風を感じていたんだ。とても心地よい風を」  僕は陽奈美に優しく微笑むと、目を細めて彼方を、風が吹く方角に目をやる。  陽奈美も僕の隣に立って、同じ方角を見る。  だけどすぐに僕の方を振り返り、満面の笑みを浮かべていう。 「陽奈美も、春は好きです。寒い寒い冬が終わってぽかぽかする季節だから」  そして僕の手を軽くつかんで引っ張る。 「ですけど、朋胤さまは陽奈美とも遊ばなければなりませんよ、でないと陽奈美は寂しくて泣いてしまいますよ」  愛らしいけれど、いたずらっ子のような笑みでにぃっと笑う。 「仕方ないな。じゃあ陽奈美、今日は何をしようか」  陽奈美の笑顔につられて僕も笑う。   「陽奈美はあの丘に行きたいのです。ご一緒してくださいますか?」 「もちろんだ、さぁ行こうか陽奈美」  陽奈美の手をそっと握る。  陽奈美の指さす方向へ足を踏み出す。  いつまでも続く、この平和で温かで、どこか懐かしいそんな時間が。  いつまでも一緒だ。  この愛らしくて穏やかで、優しい陽奈美と……  



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春の風と僕だけの太陽

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 柔らかい風が吹いていた。  僕の頬を優しく撫でて、遠くへと過ぎ去っていく。  そして少し遅れて届く新緑の木々たちが芽吹く香り。  春の訪れを感じて僕は無性に嬉しくなった。  長い冬が終わり、新たな命の芽吹く季節。  さま々な木々や花たちが、その生命力を風に乗せてさま々な香りを届けてくれる。 「朋胤さまぁ」  遠くから少し鼻にかかった、甘えた声が聞こえてくる。  女の子の声だと解る。  少し目をこらすと、緑の絨毯の上を踊るように走る少女の姿が見えた。  僕に向かって、大きく手を振る。 「陽奈美、そんなにはしゃいでいるとまた転んでしまうよ」  僕は少女に向かって大きな声で言う。  そんな僕の声が聞こえたのか、少女はその場で大きく飛び上がってその存在を僕に見せつける。  僕の名前は高野宮 朋胤たかのみやともつぐ。  この比良山村ひらやまむらで代々続く神社の一人息子だ。  そして僕に向かって満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきている少女は、守藤 陽奈美しゅどうひなみという。  この村で昔からずっと続いている名家で、村の大事な祭事を執り行う立場にある守藤家の娘。  その名前の通り、明るい太陽のような笑顔の女の子。  誰に対しても優しく、人見知りをせず、その場の雰囲気をまるごと明るくするようなそんな性格の子。  ぱっと見は黒髪だけれど、日の光が当たると明るい茶色に輝く不思議な髪色をしている。  顔立ちは、大きなくりくりとした目とすっと通った鼻筋、そして柔らかそうなふっくらと下唇が印象的。  大げさではなく、本当に誰からも好かれる、愛される存在。  それが陽奈美だった。 「朋胤さま、どうしたのですか?ずっとこんなところでぼんやりとなさって」  僕の隣まで駆け寄ってきた陽奈美が、可愛らしく小首をかしげて僕を見る。 「春のね、風を感じていたんだ。とても心地よい風を」  僕は陽奈美に優しく微笑むと、目を細めて彼方を、風が吹く方角に目をやる。  陽奈美も僕の隣に立って、同じ方角を見る。  だけどすぐに僕の方を振り返り、満面の笑みを浮かべていう。 「陽奈美も、春は好きです。寒い寒い冬が終わってぽかぽかする季節だから」  そして僕の手を軽くつかんで引っ張る。 「ですけど、朋胤さまは陽奈美とも遊ばなければなりませんよ、でないと陽奈美は寂しくて泣いてしまいますよ」  愛らしいけれど、いたずらっ子のような笑みでにぃっと笑う。 「仕方ないな。じゃあ陽奈美、今日は何をしようか」  陽奈美の笑顔につられて僕も笑う。   「陽奈美はあの丘に行きたいのです。ご一緒してくださいますか?」 「もちろんだ、さぁ行こうか陽奈美」  陽奈美の手をそっと握る。  陽奈美の指さす方向へ足を踏み出す。  いつまでも続く、この平和で温かで、どこか懐かしいそんな時間が。  いつまでも一緒だ。  この愛らしくて穏やかで、優しい陽奈美と……  



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