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絶望の宴が始まる

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 目の前の光景が、なぜか現実感を伴っていない。  例えるなら映画を見ているような、そんな感覚を抱く。  俺の目の前で見覚えのある茶髪の女性と、青みがかった黒髪の少女が向き合って何かを言い合っている。  先ほどまで感じていた熱量が、徐々に薄れていきそれと同時に、モヤのかかっていた思考が少しづつクリアになる。 (俺は何をしていたんだろう、何が起こっているんだろう)  まだもやのはれきらない頭で考えてみる。  そうだ、俺は大好きな緖美と家で楽しく過ごしていて……。  そこでふと思う。 (大好きな……緖美?)  かすかな違和感を感じる。  俺は緖美のことが好きだったのか、でもそんな記憶はないと混乱してしまう。  緖美のことは嫌いではない。  それは間違いのない事実だった。  退院してからもずっと世話を焼いてくれて、予想外に料理の腕もあり、何より俺のことを大切にしようとしてくれているのが伝わってきて、俺が思っているよりは良い奴なのかもしれないとは感じていた。  だけどそれだけのはず。  それ以上の感情は、まだ彼女に抱いていないはずなのに、何故俺は緖美のことを大好きな彼女と思ってしまったのか。  より深く考えようとした瞬間、耐えがたい激痛が俺を襲う。  頭が割れそうな程の痛みを発して、俺は思わずその場に倒れ込んでしまう。 「智春さま!」  誰かが叫んだ。 「不完全に解呪したことが、裏目に出たようね……」  嘲笑混じりの言葉が発せられるのが聞こえる。  立て続けに、ドン、ドンと何かが床に倒れるような音が起こり、倒れていた床に伝わる振動で、それが間違いないことを感じるが、痛みは激しさを増してきて俺は意識を失いかけてしまう。 「残念ね……ここは私のテリトリーになりつつあるのに、何の準備もなく飛び込んでくるなんて。本当に愚か……」  その言葉を聞きながら、俺の意識は深い闇へと墜ちていった。  次に目が覚めたのは、2階にある俺の寝室だった。  俺はベッドの上に寝かされており、何故かは分からないが上半身は裸だった。  パンツなどは履いたままだったので、上半身だけが裸になっていたようだ。  何故このような状況になっているのか不思議に感じ、俺はゆっくりと上半身を起こし、辺りを見回してみる。 「あら……もう目が覚めた?」  優しい声が聞こえ、俺は声のした方を見てみる。  そこには微笑みを浮かべた緖美が立っていた。  壁にもたれた姿勢で腕組みをして、俺を優しく見つめている。 「何があったんだ」 「私とあなたの楽しいひとときを邪魔する、無粋な女がいたからね、ちょっと懲らしめてあげたんだけど智春ったら途中で気を失うものだから、心配したのよ」  話の内容の割にさらっとした言い方で緖美。 「邪魔する……女?」  状況がよく分からないためオウム返しで聞いてしまう。  そんな俺に微笑んだまま、腕組みをといた緖美が床を指さす。  そこには下着姿の茶色い髪をした女が手足を縛られた状態で転がっていた。  どこかで見覚えがあるような気がしたが、この女が誰なのかは思い出せなくて、俺は視線を緖美に向けた。 「ほんとうにね、腹立たしいのだけれど……この女は智春のことを執拗に愛しているのよ。あなたの寵愛を得るまでは地の果てまで追いかけてくるほどにね。そしてその愛の強さ故に私とあなたの仲を引き裂こうとさえしてきた」  緖美は汚いものを見るかのような、冷たいそして侮蔑の色を込めた目で床の女をにらみつける。 「私は智春を愛している。だからこの女にあなたを譲る気は無い。だけど執拗に邪魔され続けることも正直、面倒なのよ。だからどうしたら良いかずっと考えてた」  そう言葉を紡ぐ緖美の顔は、しかし徐々に嗜虐的な色を見せ始める。  残忍というか、この状況を楽しんでいるというか、目の前の女を苦しめようとしているような、そんな表情。 「私は智春を愛しているし、他の女を抱くことは許せない。だけどこの女の執拗な愛情も知っている。だからね、良いことを考えたのよ」  緖美の表情に浮かぶ残忍な色がどんどんとその濃さを増していくのを見て、俺は生唾を飲み込んだ。  ゴクリと言う音が、やけに大きく響いたような気がする。 「だからね……、私があなたに抱かれるための準備に、この女を使ってあげたらどうかと思うのよ。あなたに口づけすることさえ許されなかったこの女が、その唇であなたの男を愛して、そして準備が整ったあなたの男を私が受け入れる……それが私の出来る最大限の譲歩、そしてその女に与える唯一にして最高の情けなさけ」  残虐の色を濃くしたままで緖美はゆっくりとした足取りで、床に転がっている女に近づいていく。  そしてその隣にしゃがみ込むと、女の髪を手でつかみ強引に引き上げる。  痛さからか、姿勢のつらさからか、女が短くうめき声を上げるも、緖美はそれを一切気にせずに口を開いた。 「さぁ、キスすら許されなかったあなたの口で、智春のアレを愛してあげなさい。そして私の中に入れるように準備してあげるの。あなたが彼を愛する行為が、そのまま私と彼が結ばれる行為に繋がる。最高でしょう?」  何がおかしいのかは分からないが、緖美はとても楽しそうにケラケラと笑いながら女に向かってそう言いきった。 「そ、そんな不浄なこと、私には出来ません!」  女は無理な姿勢のつらさからか、顔を顰めたままではあったがしかし強い口調ではっきりとそう言った。  羞恥からなのか、苦痛からなのかは分からないが満面に朱が刺しているのが見えた。  緖美は大して興味もなさそうな顔をして、女の髪を雑に離すと再び床に倒れた女には目もくれず、今度は俺の目をじいっと見つめてきた。  そしてゆっくりと俺のそばに歩いてくる。  俺の前まで来た緖美は、俺の耳に口を寄せて甘くささやくような声で言う。 「さぁ、あの女の口を好きなように使ってあなたのを奮い立たせて。そして……それで私を貫いて。ずっとずっと、そうなることを夢見ていたわ。智春……あなたに貫かれて女になれる日をね。だからその女の口を好きなように使って、はやく奮い立たせてちょうだい。」  緖美の言葉の一つ一つが、脳に刻まれていくような感覚がした。 (あの女の……口を使う……俺が緖美を抱く……緖美を女にする……)  それ以外の思考の一切が消えていくような感覚。  緖美の言葉が全てであり、そうなることが当然であり、目の前の女は俺が緖美と結ばれるために、俺のものを奮い立たせるための道具のように見えてきた。  俺はゆっくりとベッドから立ち上がり、女の方へと歩く。  ベルトを外しながらゆっくりと。  緖美はいつの間にか女のそばに戻っており、強引に女を床に座らせると俺のいる方に顔を向けさせる。  俺は女の前に立つと、ジッパーを下ろした。  重力に引かれてズボンが足首までおちていく。  俺はゆっくりとトランクスに手をかける。  下着を下ろして、俺自身をこの女の口に突っ込めば良いとそれだけを考えてしまう。 「智春さま!飲まれてはいけません!正気をとりもど……」  女はそう叫んだが、最後まで言い切ることは出来なかった。  緖美が女の顎関節に指を当てて力を込め始めたからだ。  身体の構造上、顎関節に力を込められると本人の意思にかかわらず口は開いてしまう。  女の開いた唇から、なまめかしい舌の動きが見える。  それはただ荒い息を吐いただけなのかもしれないが、俺の目には男を誘うようにしたがチロチロと揺れているようにしか見えなかった。  俺はゆっくりと下着を下ろして自らのモノに手を添えて、女の口元に狙いを定めた。  んー!という意味不明の声を上げて、恐怖と絶望に涙を流しながら目を見開く女と視線があった気がした。  女は拒絶の意を示すように顔を左右に振ろうとするがそれも緖美に抑え込まれていてたいした動きになっていない。 「喜びなさい、あなたが望んでも得られなかった『彼』の男を愛することが出来るのよ。私に感謝しなさいな。あなたの妹、月音が愛しその身を貫かれた『彼』の男にあなたも貫かれるのよ、残念ながらあなたの女の部分ではないけれどね」  緖美が女の耳元でささやく。  女の顔が諦めと絶望の色に染まったような気がした。  そしてそれは、不自然なほど俺の中で燃え上がっていた欲望の黒い炎を更に燃えたぎらせることになってしまっていた。      



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絶望の宴が始まる

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 目の前の光景が、なぜか現実感を伴っていない。  例えるなら映画を見ているような、そんな感覚を抱く。  俺の目の前で見覚えのある茶髪の女性と、青みがかった黒髪の少女が向き合って何かを言い合っている。  先ほどまで感じていた熱量が、徐々に薄れていきそれと同時に、モヤのかかっていた思考が少しづつクリアになる。 (俺は何をしていたんだろう、何が起こっているんだろう)  まだもやのはれきらない頭で考えてみる。  そうだ、俺は大好きな緖美と家で楽しく過ごしていて……。  そこでふと思う。 (大好きな……緖美?)  かすかな違和感を感じる。  俺は緖美のことが好きだったのか、でもそんな記憶はないと混乱してしまう。  緖美のことは嫌いではない。  それは間違いのない事実だった。  退院してからもずっと世話を焼いてくれて、予想外に料理の腕もあり、何より俺のことを大切にしようとしてくれているのが伝わってきて、俺が思っているよりは良い奴なのかもしれないとは感じていた。  だけどそれだけのはず。  それ以上の感情は、まだ彼女に抱いていないはずなのに、何故俺は緖美のことを大好きな彼女と思ってしまったのか。  より深く考えようとした瞬間、耐えがたい激痛が俺を襲う。  頭が割れそうな程の痛みを発して、俺は思わずその場に倒れ込んでしまう。 「智春さま!」  誰かが叫んだ。 「不完全に解呪したことが、裏目に出たようね……」  嘲笑混じりの言葉が発せられるのが聞こえる。  立て続けに、ドン、ドンと何かが床に倒れるような音が起こり、倒れていた床に伝わる振動で、それが間違いないことを感じるが、痛みは激しさを増してきて俺は意識を失いかけてしまう。 「残念ね……ここは私のテリトリーになりつつあるのに、何の準備もなく飛び込んでくるなんて。本当に愚か……」  その言葉を聞きながら、俺の意識は深い闇へと墜ちていった。  次に目が覚めたのは、2階にある俺の寝室だった。  俺はベッドの上に寝かされており、何故かは分からないが上半身は裸だった。  パンツなどは履いたままだったので、上半身だけが裸になっていたようだ。  何故このような状況になっているのか不思議に感じ、俺はゆっくりと上半身を起こし、辺りを見回してみる。 「あら……もう目が覚めた?」  優しい声が聞こえ、俺は声のした方を見てみる。  そこには微笑みを浮かべた緖美が立っていた。  壁にもたれた姿勢で腕組みをして、俺を優しく見つめている。 「何があったんだ」 「私とあなたの楽しいひとときを邪魔する、無粋な女がいたからね、ちょっと懲らしめてあげたんだけど智春ったら途中で気を失うものだから、心配したのよ」  話の内容の割にさらっとした言い方で緖美。 「邪魔する……女?」  状況がよく分からないためオウム返しで聞いてしまう。  そんな俺に微笑んだまま、腕組みをといた緖美が床を指さす。  そこには下着姿の茶色い髪をした女が手足を縛られた状態で転がっていた。  どこかで見覚えがあるような気がしたが、この女が誰なのかは思い出せなくて、俺は視線を緖美に向けた。 「ほんとうにね、腹立たしいのだけれど……この女は智春のことを執拗に愛しているのよ。あなたの寵愛を得るまでは地の果てまで追いかけてくるほどにね。そしてその愛の強さ故に私とあなたの仲を引き裂こうとさえしてきた」  緖美は汚いものを見るかのような、冷たいそして侮蔑の色を込めた目で床の女をにらみつける。 「私は智春を愛している。だからこの女にあなたを譲る気は無い。だけど執拗に邪魔され続けることも正直、面倒なのよ。だからどうしたら良いかずっと考えてた」  そう言葉を紡ぐ緖美の顔は、しかし徐々に嗜虐的な色を見せ始める。  残忍というか、この状況を楽しんでいるというか、目の前の女を苦しめようとしているような、そんな表情。 「私は智春を愛しているし、他の女を抱くことは許せない。だけどこの女の執拗な愛情も知っている。だからね、良いことを考えたのよ」  緖美の表情に浮かぶ残忍な色がどんどんとその濃さを増していくのを見て、俺は生唾を飲み込んだ。  ゴクリと言う音が、やけに大きく響いたような気がする。 「だからね……、私があなたに抱かれるための準備に、この女を使ってあげたらどうかと思うのよ。あなたに口づけすることさえ許されなかったこの女が、その唇であなたの男を愛して、そして準備が整ったあなたの男を私が受け入れる……それが私の出来る最大限の譲歩、そしてその女に与える唯一にして最高の情けなさけ」  残虐の色を濃くしたままで緖美はゆっくりとした足取りで、床に転がっている女に近づいていく。  そしてその隣にしゃがみ込むと、女の髪を手でつかみ強引に引き上げる。  痛さからか、姿勢のつらさからか、女が短くうめき声を上げるも、緖美はそれを一切気にせずに口を開いた。 「さぁ、キスすら許されなかったあなたの口で、智春のアレを愛してあげなさい。そして私の中に入れるように準備してあげるの。あなたが彼を愛する行為が、そのまま私と彼が結ばれる行為に繋がる。最高でしょう?」  何がおかしいのかは分からないが、緖美はとても楽しそうにケラケラと笑いながら女に向かってそう言いきった。 「そ、そんな不浄なこと、私には出来ません!」  女は無理な姿勢のつらさからか、顔を顰めたままではあったがしかし強い口調ではっきりとそう言った。  羞恥からなのか、苦痛からなのかは分からないが満面に朱が刺しているのが見えた。  緖美は大して興味もなさそうな顔をして、女の髪を雑に離すと再び床に倒れた女には目もくれず、今度は俺の目をじいっと見つめてきた。  そしてゆっくりと俺のそばに歩いてくる。  俺の前まで来た緖美は、俺の耳に口を寄せて甘くささやくような声で言う。 「さぁ、あの女の口を好きなように使ってあなたのを奮い立たせて。そして……それで私を貫いて。ずっとずっと、そうなることを夢見ていたわ。智春……あなたに貫かれて女になれる日をね。だからその女の口を好きなように使って、はやく奮い立たせてちょうだい。」  緖美の言葉の一つ一つが、脳に刻まれていくような感覚がした。 (あの女の……口を使う……俺が緖美を抱く……緖美を女にする……)  それ以外の思考の一切が消えていくような感覚。  緖美の言葉が全てであり、そうなることが当然であり、目の前の女は俺が緖美と結ばれるために、俺のものを奮い立たせるための道具のように見えてきた。  俺はゆっくりとベッドから立ち上がり、女の方へと歩く。  ベルトを外しながらゆっくりと。  緖美はいつの間にか女のそばに戻っており、強引に女を床に座らせると俺のいる方に顔を向けさせる。  俺は女の前に立つと、ジッパーを下ろした。  重力に引かれてズボンが足首までおちていく。  俺はゆっくりとトランクスに手をかける。  下着を下ろして、俺自身をこの女の口に突っ込めば良いとそれだけを考えてしまう。 「智春さま!飲まれてはいけません!正気をとりもど……」  女はそう叫んだが、最後まで言い切ることは出来なかった。  緖美が女の顎関節に指を当てて力を込め始めたからだ。  身体の構造上、顎関節に力を込められると本人の意思にかかわらず口は開いてしまう。  女の開いた唇から、なまめかしい舌の動きが見える。  それはただ荒い息を吐いただけなのかもしれないが、俺の目には男を誘うようにしたがチロチロと揺れているようにしか見えなかった。  俺はゆっくりと下着を下ろして自らのモノに手を添えて、女の口元に狙いを定めた。  んー!という意味不明の声を上げて、恐怖と絶望に涙を流しながら目を見開く女と視線があった気がした。  女は拒絶の意を示すように顔を左右に振ろうとするがそれも緖美に抑え込まれていてたいした動きになっていない。 「喜びなさい、あなたが望んでも得られなかった『彼』の男を愛することが出来るのよ。私に感謝しなさいな。あなたの妹、月音が愛しその身を貫かれた『彼』の男にあなたも貫かれるのよ、残念ながらあなたの女の部分ではないけれどね」  緖美が女の耳元でささやく。  女の顔が諦めと絶望の色に染まったような気がした。  そしてそれは、不自然なほど俺の中で燃え上がっていた欲望の黒い炎を更に燃えたぎらせることになってしまっていた。      



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