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選んだ道

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 緖美は俺の身体にしがみ付いたまま、静かに涙を流していた。  そんな緖美の様子は、今までとは少し違うように俺には感じられた。  前のような纏わり付くような感覚が消えていたし、必死に俺を奪い取ろうとする雰囲気がないように感じた。  それ以上に俺のことを好きだという気持ちが、俺の腕をしっかりと握っている彼女の手から伝わってきている。  変な例えなのかもしれないが、俺の心ではなく体を手に入れたいと振る舞っていたのが、今までの緖美で、俺の心を手に入れたいとか俺に愛されたいと願っているのが今の緖美。  そういう風に感じてしまうくらい、纏っている気配が変わっていた。  在り来たりな言い方をするのなら、憑き物が落ちた感じがする。  そんな緖美は、好ましいと思った。  今まで彼女から発せられていた、纏わり付くような重いような感覚が苦手だったのだけれど、それが亡くなった今の緖美は俺が嫌悪する必要なんてないのだと感じる。  俺の腕を必死につかんで、俺の胸に額を当て、声も出さずに静かに涙を流している緖美は、誤解を恐れずに言うならとても好ましいと感じた。 「なぁ緖美。お前の気持ちはわかるが、彼女たちに酷いことをしてしまったことはわかるよな」 「うん……ホントに酷いことをしてしまったって思う」  緖美の柔らかくてしなやかな髪をそっと撫でながら俺が問いかけると、緖美は素直にそう答えた。 「謝りに……いくぞ」 「だけど……会ってくれるかな」 「俺がついていくから、だから大丈夫だ」  俺は緖美の頭を優しく撫でながら、小さい子に言い聞かせるようにそう言った。  緖美は俺の言葉をきいて、少し悩んだ様子だったが、やがて小さな声でうんと答えた。  だから俺は早速、緖美を連れて神社に向かおうと校門を出たが、そこで思わぬ邪魔に遭遇した。 「お嬢様……困りますな。ご当主から勝手な行動は慎むよう言われておられるはずですが」  守藤家のSPなのだろうか、俺と緖美の前に二人組の黒いスーツの男が立ちはだかる。 「任務のための独断は、お爺さまからお許しが出ているはずですが?」  緖美は一切の動揺を見せずに、家令に命令を下すかのようにそう答えるが、男達はいささかもひるんだ様子は見せなかった。 「残念ながら、お嬢様のあまりにも目に余る行動が目立つため、特権は剥奪されております。あなたが我々の主の娘であり、ある程度の指揮命令権をお持ちな事は変わりませんが、我々にとっては主の命令が最優先されます。ですので素直にお戻りを」    怯むどころか俺たちを追い詰めるかのように、男達はゆっくりとこっちに歩を詰めてくる。  予想外の反撃に、緖美もどうしていいのかわからない様子で、少し青ざめた顔をして男達と俺を交互に見つめてくる。 「そうか、なら俺が緖美に協力するという話は、御破算と言うことで良いんだな?緖美が必死に俺に頼み込んでくるから、俺も少しばかり譲歩を示して緖美とこれから結ばれようかと思ったんだが……まぁ仕方ない。お前達が邪魔をするのならそう言う事なんだろうよ。せっかく緖美が頑張って盛り上げてくれた気持ちも萎えてきたよ。」    俺の言葉に一瞬、緖美は顔を真っ赤にして俺を見てきたが、俺が目配せをするとある程度察してくれたのか、話を合わせてくる。 「例の計画……ようやく智春の協力が得られるというのに、あなた方が邪魔をするのですね。良いでしょう今回の失態は私のせいではない。貴方たちに邪魔をされたせいで千載一遇の機会を喪失したと、そう報告するわ。ごめんね智春、やっとその気になってくれたのに」  俺の言葉に追撃するように言葉を重ねる緖美。  俺たちを追い詰めたかのように振る舞っていた男達が、逆に追い詰められたような形に変わる。 「い、いや……本当に計画が」 「私と智春が、一緒にこうして出てきているのが明らかな証拠でしょう。ようやく目覚めている状態でも私と契ってくれると言ってくれたのに……残念だけど、これも守藤家の命令というのなら従いますわ。貴方たちの独断ではなく、お爺さまの命令なのであれば……だけれど」  緖美の眼力におされ、男達は一歩二歩と後ずさりする。 「もう一度聞くわ、貴方たちの独断ではなくてお爺さまの命令なのね?ならば大人しく引き返すけど、はっきりしてちょうだい」  気迫のこもった緖美のこの言葉が、ダメ押しとなったのだろうか、男達は苦し紛れに「本当に計画のためですね」と念押しし、緖美がそれに頷いたため、渋々を道を空けてくれた。 「この程度時間稼ぎにしかならない。すぐにお爺さまのところに連絡が回るから。だから急ぎましょう」  すっと身体を寄せてきた緖美は、男達にバレない程度の小声で俺にそう告げる。  おれはわざとにやけ顔で緖美を見てそして真顔になって男達をにらむ。  緖美にささやかれた甘い言葉で、これから先のことを妄想している馬鹿な男……そう見えるように振る舞う。  案の定、男達は俺に向かって軽い侮蔑の表情を送り小さく舌打ちしてその場から立ち去った。  俺は緖美の手を引いてさっさとその場を立ち去るべき歩き始める。  神社の場所ははっきりとは覚えていなかった。  神社からようやくたどり着いた商店街の一角は覚えているから、先ずはそこへ向かう。  その先の道順はうろ覚えだけど、おれは陽女の言葉を思い出していた。 『私たちは縁が繋がりました』『だからこの神社に招かれたのです』  俺は強く念じ、そして願った。  縁が繋がったのなら、もう一度あの神社に繋がってくれと。  今一度、あの姉妹に、美月と陽女に会いたい、会わせてほしいと。  それは不思議な光景だった。  商店街の隅の方、人1人通れるかどうかと言う細い路地。  その周囲の風景が歪んだように見えた。  そして瞬きをする間に、いつの間にかその風景は、あの日神社からこの商店街に戻るために歩いたあの道に変わっていたのだ。 「偽装……いえ、守護の方陣。なるほど……こういうのは”月”の得意技だものね」    一瞬呆気にとられたように、路地だったものを見ていた緖美は、小さく苦笑を浮かべてそう呟いた。 「お前を信じていないわけじゃない、だが最後に確認する。あの2人に危害は……」 「ええ……もう何もしない。私の名にかけて誓う。……あなたにこれ以上、汚い私を見せたくないしね」  今日何度目なんだろうと思うほど、弱々しく悲しい微笑みを浮かべて俺を見つめる緖美。 「あれから考えた。陽奈美の想いなのか私の想いなのか。でも……わからない。もう陽奈美も私も一つになってしまっているから。だから素直になる……私はあなたが好き。いいえ……愛している。だけど……だからこそ、彼女たちとも正々堂々と関わって、そしてあなたに選ばれたいと思う。この言葉では信じられない?」    泣きそうなほどに揺れる瞳で、俺を見上げる緖美。  俺は緖美を軽く抱きしめて、その耳元に唇を寄せて言う。 「守藤緖美の言うことなら……信じるよ」  



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 緖美は俺の身体にしがみ付いたまま、静かに涙を流していた。  そんな緖美の様子は、今までとは少し違うように俺には感じられた。  前のような纏わり付くような感覚が消えていたし、必死に俺を奪い取ろうとする雰囲気がないように感じた。  それ以上に俺のことを好きだという気持ちが、俺の腕をしっかりと握っている彼女の手から伝わってきている。  変な例えなのかもしれないが、俺の心ではなく体を手に入れたいと振る舞っていたのが、今までの緖美で、俺の心を手に入れたいとか俺に愛されたいと願っているのが今の緖美。  そういう風に感じてしまうくらい、纏っている気配が変わっていた。  在り来たりな言い方をするのなら、憑き物が落ちた感じがする。  そんな緖美は、好ましいと思った。  今まで彼女から発せられていた、纏わり付くような重いような感覚が苦手だったのだけれど、それが亡くなった今の緖美は俺が嫌悪する必要なんてないのだと感じる。  俺の腕を必死につかんで、俺の胸に額を当て、声も出さずに静かに涙を流している緖美は、誤解を恐れずに言うならとても好ましいと感じた。 「なぁ緖美。お前の気持ちはわかるが、彼女たちに酷いことをしてしまったことはわかるよな」 「うん……ホントに酷いことをしてしまったって思う」  緖美の柔らかくてしなやかな髪をそっと撫でながら俺が問いかけると、緖美は素直にそう答えた。 「謝りに……いくぞ」 「だけど……会ってくれるかな」 「俺がついていくから、だから大丈夫だ」  俺は緖美の頭を優しく撫でながら、小さい子に言い聞かせるようにそう言った。  緖美は俺の言葉をきいて、少し悩んだ様子だったが、やがて小さな声でうんと答えた。  だから俺は早速、緖美を連れて神社に向かおうと校門を出たが、そこで思わぬ邪魔に遭遇した。 「お嬢様……困りますな。ご当主から勝手な行動は慎むよう言われておられるはずですが」  守藤家のSPなのだろうか、俺と緖美の前に二人組の黒いスーツの男が立ちはだかる。 「任務のための独断は、お爺さまからお許しが出ているはずですが?」  緖美は一切の動揺を見せずに、家令に命令を下すかのようにそう答えるが、男達はいささかもひるんだ様子は見せなかった。 「残念ながら、お嬢様のあまりにも目に余る行動が目立つため、特権は剥奪されております。あなたが我々の主の娘であり、ある程度の指揮命令権をお持ちな事は変わりませんが、我々にとっては主の命令が最優先されます。ですので素直にお戻りを」    怯むどころか俺たちを追い詰めるかのように、男達はゆっくりとこっちに歩を詰めてくる。  予想外の反撃に、緖美もどうしていいのかわからない様子で、少し青ざめた顔をして男達と俺を交互に見つめてくる。 「そうか、なら俺が緖美に協力するという話は、御破算と言うことで良いんだな?緖美が必死に俺に頼み込んでくるから、俺も少しばかり譲歩を示して緖美とこれから結ばれようかと思ったんだが……まぁ仕方ない。お前達が邪魔をするのならそう言う事なんだろうよ。せっかく緖美が頑張って盛り上げてくれた気持ちも萎えてきたよ。」    俺の言葉に一瞬、緖美は顔を真っ赤にして俺を見てきたが、俺が目配せをするとある程度察してくれたのか、話を合わせてくる。 「例の計画……ようやく智春の協力が得られるというのに、あなた方が邪魔をするのですね。良いでしょう今回の失態は私のせいではない。貴方たちに邪魔をされたせいで千載一遇の機会を喪失したと、そう報告するわ。ごめんね智春、やっとその気になってくれたのに」  俺の言葉に追撃するように言葉を重ねる緖美。  俺たちを追い詰めたかのように振る舞っていた男達が、逆に追い詰められたような形に変わる。 「い、いや……本当に計画が」 「私と智春が、一緒にこうして出てきているのが明らかな証拠でしょう。ようやく目覚めている状態でも私と契ってくれると言ってくれたのに……残念だけど、これも守藤家の命令というのなら従いますわ。貴方たちの独断ではなく、お爺さまの命令なのであれば……だけれど」  緖美の眼力におされ、男達は一歩二歩と後ずさりする。 「もう一度聞くわ、貴方たちの独断ではなくてお爺さまの命令なのね?ならば大人しく引き返すけど、はっきりしてちょうだい」  気迫のこもった緖美のこの言葉が、ダメ押しとなったのだろうか、男達は苦し紛れに「本当に計画のためですね」と念押しし、緖美がそれに頷いたため、渋々を道を空けてくれた。 「この程度時間稼ぎにしかならない。すぐにお爺さまのところに連絡が回るから。だから急ぎましょう」  すっと身体を寄せてきた緖美は、男達にバレない程度の小声で俺にそう告げる。  おれはわざとにやけ顔で緖美を見てそして真顔になって男達をにらむ。  緖美にささやかれた甘い言葉で、これから先のことを妄想している馬鹿な男……そう見えるように振る舞う。  案の定、男達は俺に向かって軽い侮蔑の表情を送り小さく舌打ちしてその場から立ち去った。  俺は緖美の手を引いてさっさとその場を立ち去るべき歩き始める。  神社の場所ははっきりとは覚えていなかった。  神社からようやくたどり着いた商店街の一角は覚えているから、先ずはそこへ向かう。  その先の道順はうろ覚えだけど、おれは陽女の言葉を思い出していた。 『私たちは縁が繋がりました』『だからこの神社に招かれたのです』  俺は強く念じ、そして願った。  縁が繋がったのなら、もう一度あの神社に繋がってくれと。  今一度、あの姉妹に、美月と陽女に会いたい、会わせてほしいと。  それは不思議な光景だった。  商店街の隅の方、人1人通れるかどうかと言う細い路地。  その周囲の風景が歪んだように見えた。  そして瞬きをする間に、いつの間にかその風景は、あの日神社からこの商店街に戻るために歩いたあの道に変わっていたのだ。 「偽装……いえ、守護の方陣。なるほど……こういうのは”月”の得意技だものね」    一瞬呆気にとられたように、路地だったものを見ていた緖美は、小さく苦笑を浮かべてそう呟いた。 「お前を信じていないわけじゃない、だが最後に確認する。あの2人に危害は……」 「ええ……もう何もしない。私の名にかけて誓う。……あなたにこれ以上、汚い私を見せたくないしね」  今日何度目なんだろうと思うほど、弱々しく悲しい微笑みを浮かべて俺を見つめる緖美。 「あれから考えた。陽奈美の想いなのか私の想いなのか。でも……わからない。もう陽奈美も私も一つになってしまっているから。だから素直になる……私はあなたが好き。いいえ……愛している。だけど……だからこそ、彼女たちとも正々堂々と関わって、そしてあなたに選ばれたいと思う。この言葉では信じられない?」    泣きそうなほどに揺れる瞳で、俺を見上げる緖美。  俺は緖美を軽く抱きしめて、その耳元に唇を寄せて言う。 「守藤緖美の言うことなら……信じるよ」  



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