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 結果的に言うと、あれから2日に1回は緖美は俺の家を訪問し、料理を振る舞ってくれた。  残りの日も俺がジャンクフードに手を出さないようにと、作り置きを残してくれているため、俺の食生活に関してはかなり良い状態を維持している。  そういう状態が続けば、結果的に怪我の治りも早くなるわけで、俺はようやく片方だけ松葉杖を使えば良いくらいには回復していた。  片手だけでも自由になるとは、凄いことだ。  世界が広がる、大げさではなくて本当に。  ものを受け取るにしても、何かを買いに出かけるにしても、いちいち片方の松葉杖をどこかに立てかけてから、そういう手間が省けることが大きい。  まだ完治したわけではないけれど、俺は久々の開放感に酔いしれていた。  そんな浮き足立っている俺を、冷たい目で見ている女がいる。  そう、守藤緖美だ。    俺が学校に復帰してからは、守藤家御用達のリムジンで送り迎えをしてくれるようになり、学校でもつきっきりで世話を焼いてくれるため、俺と緖美は公認カップルとして認知されてしまっている。  いくら俺が否定しても、みなは照れ隠しとしてしか取ってくれず、当の緖美は満更でもない笑みで曖昧に微笑むものだから、この誤解を解くことは出来ていない。  送り迎えを緖美がしてくれていると言うことは、必然的に俺の家に毎日来ることになり、せっかく来たんだからと掃除やら料理やら洗濯やらを、本当にお嬢様育ちなのかと疑いたくなるくらい、甲斐甲斐しくしてくれる。  なのでこうして共に過ごす時間も増えているわけで、そんな緖美の居る空間でおれが調子に乗って、動けるアピールをすると、前述の通り、冷ややかな目で見られてしまうのだ。   「あのねぇ……貴方はまだ完治したわけではないのよ。なのにそんなに調子に乗って動き回って、挙げ句の果てに開放感?慢心していてまた怪我でもしたら困るから、本当に大人しくしていてほしいものだわ」    心底呆れたという表情と、聞こえよがしのため息、そして愚か者を見るような視線。  こいつは本当に俺のことが好きなのだろうかと、疑問に感じてしまうくらいの冷遇を受けて、俺は自分の家なのにアウェー感をかんじてしまい、少し落ち込みそうになっていた。 「あのね……そこで意気消沈しないでよ。心配だから言ってるの。また怪我でもされたらって思っちゃうでしょ」  冷たい視線が和らぐ。  少し頬を染めてそういう緖美は、悔しいけれど可愛かった。 「なぁ、お前ってさ……ツンデレなのか?」  思ったことを素直に言葉にして聞いてみる。  とたんに緖美の眉尻がつり上がった。 「は?何をわけのわからないことを言っているのかしら。私ずっと貴方に愛を伝えてるわよね、デレ続けているわよね。何処にツンノ要素があるのよ」  いやはや、俗事に詳しいお嬢様である。  本当に名家のお嬢様なのだろうかと疑いたくもなる知識だ。 「……あ、貴方が好きそうだから、話を合わせるためにラノベ……読んでるのよ」  疑問が顔に浮かんでいたのだろうか、緖美は恥ずかしそうに頬を染めて、俺から視線を外して小さな声でそう言う。  素直にしていたら、こいつ可愛いんだよなと思いそうになり、慌てて頭を振る。 「ラノベと言っても、いろんな種類があるんだぞ。俺はそもそもラブコメはあまり見ないしな。」 「へぇ……そんなに細分化されているのね。じゃあ貴方はどんなのを読むのよ。」 「そうだな、熱いダークファンタジーの【ヴァンズブラッド】は外せないだろ、あとは設定がこっていてキャラが面白い【天使みたいな美少女は本当に天使でした~冤罪で地獄行きになるそうですが、魔王を復活させてなかったことにしてもらいます~】も最近はまっているな。他には往年の名作RPGをモチーフにした【迷宮保険】も最高に面白いな、お前はどんなのを読んでるんだ」  自分のおすすめ作品を一息にまくし立てると、逆に疑問を感じた俺が質問してみる。  俺の質問に対して緖美は何とも歯切れが悪そうにもごもご言っていたが、笑わない?と聞いてきたので、俺は頷いた。 「見出しに惹かれてね……なんだか面白そうな見出しだったら読み始めたら、なんだかちょっと面白いなって思って……」 「だからなんて作品だよ。絶対に笑わないから言ってみろよ」 「えっとね……その……【紺野さんとあきちゃん】」  こいつ……俺と話を合わせるために読み始めたと言っていたくせに、なんて名作をチョイスしてるんだ…と俺は戦慄を覚えた。  先ほどラブコメには興味が無いと言ってしまった手前、口が裂けても言えないが、実は俺も【紺あき】は大好きなのだ。  こいつ出来るな、頭が良い奴は本質を見抜く力に長けているのかと、恐怖すら覚えた。 「あれ……でもあの作品って確か、結構な百……」 「言わないで!そこが目的じゃないから!違うから!!」  俺が言いかけた言葉を必死で遮る緖美。  百合に興味があると思われるのだけは避けたいと言うことなのだろう。  だが学業優秀で品行方正、学校の男子の憧れの的の緖美が、よりにもよって【紺あき】を愛読しているとは……。  俺はその組み合わせの意外さに、笑いをこらえるのに必死だった。  笑わないと約束していたのもあるけれど、目の前で半分涙目になってぷるぷる震えている緖美が、なんだか年齢より幼く見えて、不覚にもその様子がとても可愛くて、これ以上言ったら泣きそうな気がして、あえて何も言わずにそっと緖美を見ていた。       



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 結果的に言うと、あれから2日に1回は緖美は俺の家を訪問し、料理を振る舞ってくれた。  残りの日も俺がジャンクフードに手を出さないようにと、作り置きを残してくれているため、俺の食生活に関してはかなり良い状態を維持している。  そういう状態が続けば、結果的に怪我の治りも早くなるわけで、俺はようやく片方だけ松葉杖を使えば良いくらいには回復していた。  片手だけでも自由になるとは、凄いことだ。  世界が広がる、大げさではなくて本当に。  ものを受け取るにしても、何かを買いに出かけるにしても、いちいち片方の松葉杖をどこかに立てかけてから、そういう手間が省けることが大きい。  まだ完治したわけではないけれど、俺は久々の開放感に酔いしれていた。  そんな浮き足立っている俺を、冷たい目で見ている女がいる。  そう、守藤緖美だ。    俺が学校に復帰してからは、守藤家御用達のリムジンで送り迎えをしてくれるようになり、学校でもつきっきりで世話を焼いてくれるため、俺と緖美は公認カップルとして認知されてしまっている。  いくら俺が否定しても、みなは照れ隠しとしてしか取ってくれず、当の緖美は満更でもない笑みで曖昧に微笑むものだから、この誤解を解くことは出来ていない。  送り迎えを緖美がしてくれていると言うことは、必然的に俺の家に毎日来ることになり、せっかく来たんだからと掃除やら料理やら洗濯やらを、本当にお嬢様育ちなのかと疑いたくなるくらい、甲斐甲斐しくしてくれる。  なのでこうして共に過ごす時間も増えているわけで、そんな緖美の居る空間でおれが調子に乗って、動けるアピールをすると、前述の通り、冷ややかな目で見られてしまうのだ。   「あのねぇ……貴方はまだ完治したわけではないのよ。なのにそんなに調子に乗って動き回って、挙げ句の果てに開放感?慢心していてまた怪我でもしたら困るから、本当に大人しくしていてほしいものだわ」    心底呆れたという表情と、聞こえよがしのため息、そして愚か者を見るような視線。  こいつは本当に俺のことが好きなのだろうかと、疑問に感じてしまうくらいの冷遇を受けて、俺は自分の家なのにアウェー感をかんじてしまい、少し落ち込みそうになっていた。 「あのね……そこで意気消沈しないでよ。心配だから言ってるの。また怪我でもされたらって思っちゃうでしょ」  冷たい視線が和らぐ。  少し頬を染めてそういう緖美は、悔しいけれど可愛かった。 「なぁ、お前ってさ……ツンデレなのか?」  思ったことを素直に言葉にして聞いてみる。  とたんに緖美の眉尻がつり上がった。 「は?何をわけのわからないことを言っているのかしら。私ずっと貴方に愛を伝えてるわよね、デレ続けているわよね。何処にツンノ要素があるのよ」  いやはや、俗事に詳しいお嬢様である。  本当に名家のお嬢様なのだろうかと疑いたくもなる知識だ。 「……あ、貴方が好きそうだから、話を合わせるためにラノベ……読んでるのよ」  疑問が顔に浮かんでいたのだろうか、緖美は恥ずかしそうに頬を染めて、俺から視線を外して小さな声でそう言う。  素直にしていたら、こいつ可愛いんだよなと思いそうになり、慌てて頭を振る。 「ラノベと言っても、いろんな種類があるんだぞ。俺はそもそもラブコメはあまり見ないしな。」 「へぇ……そんなに細分化されているのね。じゃあ貴方はどんなのを読むのよ。」 「そうだな、熱いダークファンタジーの【ヴァンズブラッド】は外せないだろ、あとは設定がこっていてキャラが面白い【天使みたいな美少女は本当に天使でした~冤罪で地獄行きになるそうですが、魔王を復活させてなかったことにしてもらいます~】も最近はまっているな。他には往年の名作RPGをモチーフにした【迷宮保険】も最高に面白いな、お前はどんなのを読んでるんだ」  自分のおすすめ作品を一息にまくし立てると、逆に疑問を感じた俺が質問してみる。  俺の質問に対して緖美は何とも歯切れが悪そうにもごもご言っていたが、笑わない?と聞いてきたので、俺は頷いた。 「見出しに惹かれてね……なんだか面白そうな見出しだったら読み始めたら、なんだかちょっと面白いなって思って……」 「だからなんて作品だよ。絶対に笑わないから言ってみろよ」 「えっとね……その……【紺野さんとあきちゃん】」  こいつ……俺と話を合わせるために読み始めたと言っていたくせに、なんて名作をチョイスしてるんだ…と俺は戦慄を覚えた。  先ほどラブコメには興味が無いと言ってしまった手前、口が裂けても言えないが、実は俺も【紺あき】は大好きなのだ。  こいつ出来るな、頭が良い奴は本質を見抜く力に長けているのかと、恐怖すら覚えた。 「あれ……でもあの作品って確か、結構な百……」 「言わないで!そこが目的じゃないから!違うから!!」  俺が言いかけた言葉を必死で遮る緖美。  百合に興味があると思われるのだけは避けたいと言うことなのだろう。  だが学業優秀で品行方正、学校の男子の憧れの的の緖美が、よりにもよって【紺あき】を愛読しているとは……。  俺はその組み合わせの意外さに、笑いをこらえるのに必死だった。  笑わないと約束していたのもあるけれど、目の前で半分涙目になってぷるぷる震えている緖美が、なんだか年齢より幼く見えて、不覚にもその様子がとても可愛くて、これ以上言ったら泣きそうな気がして、あえて何も言わずにそっと緖美を見ていた。       



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