俺達と女の子が試行尋問して女の子を救済する話(1/2)

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 二十三日目、午前九時。  騎士団長室の扉がノックされた時、シンシアは扉正面の部屋奥にある机の椅子に腰掛けていた。ウィルズとエトラスフ伯爵の息子に、パルミス公爵への面会依頼の手紙を出し終えて戻ってきたところだ。  俺達は縮小化して彼女の膝の上にいる。いつもなら天井にいるところだが、今回は気付かれる可能性があるとシンシアから言われたので、大人しく彼女に従った。他のみんなは、寝室でシンシアの仕事を邪魔しないようにしている。 「失礼します。騎士団員報告係のコリンゼ=オルフニットです。団員へのご指示を仰ぎに参りました」  これまで聞いてきた兵士の声量には全く及ばないほど小さな声が、扉の向こうから聞こえた。注意深く聞かなければ、普通の人間には全て聞き取れないほどだろう。報告係ということは『彼女』だ。 「入れ!」  シンシアの声で、部屋に入ってくるコリンゼ。キビキビとした動きというよりは、落ち着いて歩みを進めたような印象だ。 「久しぶりだな、コリンゼ。元気にしていたか?」 「はい。ご指示をお願いします」  シンシアの言葉に、素っ気なく返すコリンゼ。騎士団員とは思えないほど暗い。とは言え、あくまで俺の印象と周りとの比較だ。性格的な明るさで言えば、普通より少しだけ暗い、ぐらいだろう。 「騎士団員は、この一週間を自主訓練期間とする。ただし、三日後に臨時の騎士選抜試験を行う。本日昼までにパルミス公爵から城内通達がされることになっているから、団員は前回と同様に、試験開催の準備をするように。特に改善点がなければ、手続きや試験内容、評価、合否連絡を全く同じように行うこと。  コリンゼ、もし改善案があるなら、今ここで聞こう。なければ他の団員に聞く」 「お待ちください。それは、私が改善点を聞いて回るのではなく、団長が直接お聞きになるために城内を回るということですか?」 「そうだ。理由を含めて一つ一つ聞くと長くなり、君がまとめるのも大変だし、誤解が生じるかもしれないからな。君の仕事を信じていないわけではない。単に、私が直接聞いた方が早いということだ」  なるほど。これはコリンゼへの煽りだ。彼女であれば、前回までに、すでに改善案を思い付いているはずだ。しかし、『報告係』の彼女であれば、それを隠して、他の団員が挙げたことにもできる。それを未然に防いだ形だ。  考えてみると、『報告係』に志願しただけでも、コリンゼの意図が見え隠れする。単なるメッセンジャーではない。彼女にとって、現状では『それ』がメリットなのだ。  そうなると、話は変わってくる。彼女は誰よりも早く、ビトーのスパイ行為を怪しんでいた可能性が高い。シンシアが騎士団長になる前からだ。最初は意見が通らなくて不満だったのかもしれない。  しかし、なぜ通らないかを考えていく内に、スパイの妨害工作の可能性に気付いた。優秀な者や目立った者がスパイのターゲットになる恐れも考慮し、自分の身の安全を確保しつつ、スパイの室内や動向を探るための報告係に徹しているということだろう。  また、どういう意見が団員から挙がって、どういう意見が通らなかったかも分かる。それを分析すれば、スパイの今後の計画も見えてくるかもしれないと考えたのだろう。クリスの空間催眠魔法で引っ掛からなかったのは、あの条件がネガティブな理由で告白できなかった者を炙り出すものに対して、コリンゼは自身の正義に基づいて、気付いた時点で調査し、まだ公にする時ではないと機を伺っていたからだ。状況だけなら魔導士団長と同じだが、精神的な面で異なるというわけだ。  ちなみに、なぜコリンゼのような者を当てはめる条件にしなかったかは、あの場で呼んでも仕方がなかったからだ。証拠は後の調査で分かることだし、そこで見つけられなかった証拠も集めたいのであれば、あとで城内に通達すればいい。  ただ、催眠魔法が城内全員にかけられたことについては、一部の者しか知らないので、不信感を与えないためにも、慎重に話を進めていく必要がある。 「…………それではよろしいでしょうか。これまで、総務省に受験手続きおよび試験官の一部を委託していましたが、これを解除し、国家特殊情報戦略隊に委託すべきと考えます。受験者の出自をすぐに確認することができ、それを確認する隊員側にも怪しい出自の者は存在しないからです。ただし、受験者が怪しくてもすぐに拒否や不合格にせず、しっかり捕らえた上で自白させるべきです。  筆記試験は常識問題、道徳問題、騎士への想いの論文のみにし、教養を求められる問題は削除するべきです。平民はその時点で不利となり、剣技が優秀な人材を逃すことになります。必要であれば、入団後に学ばせればいいだけです。  実技試験は、受験者同士をそれぞれ戦わせるのではなく、騎士団側で受験者の実力を十分に引き出せる者を用意し、一人一人丁寧に、時間をかけてでも評価していくべきです。戦いの相性もありますし、緊張やその時の体調、調子で力の振れ幅が大きい場合もあります。  しかし、それらを限りなく抑えるための知識やスキルは、あとでいくらでも身につけられるものです。一発勝負で評価するのは、それこそ全員の時間の無駄です。その受験者が冷やかしかどうかは、すぐに分かるはずです。  受験後、冷やかし以外の不合格者には、どのような要因で不合格になったか、改善点をアドバイスするべきです。本当に惜しかった者には、再試験を予定し、それまでに改善点を克服できたかどうかを見ます。その場合、基準を設けるのは難しいですが、短期間、例えば一、二週間で改善できる場合に限る方が良いでしょう。  なぜこのような方針を取るかですが、『騎士選抜試験』とは何かを考えればすぐに分かります。将来の国家、国益、王家を守るために、優秀な人材を誇り高い騎士として登用することが目的のはずです。  最初から優秀な者は、当然すぐに見つかります。しかし、将来優秀になる者は中々見つけることはできません。ましてや、誰からも指導、教育されていない者が成長するのは時間がかかります。その過程で騎士を諦める者や、別の機会に恵まれて、そちらを選択する者もいるでしょう。  そんなことでは、ちゃんと指導、教育されていれば実力が伸びた者を、みすみす逃すことになります。次の選抜試験まで待つことさえ、時間がもったいないのです。それは仕方ないと割り切るのは簡単なことです。  ですが、それが騎士でしょうか。やればできることをやらずに、考えればやれることを考えずに、誇り高いと言えるのでしょうか。我々騎士は誠実であるべきです。国家や王家にはもちろんのこと、自分にも他者にも、当然、騎士を目指す受験者にも!  ……失礼しました。つい、熱が入ってしまいました」  コリンゼの提案は、試験全体とその一つ一つの試験までも網羅し、素晴らしいと言わざるを得なかった。また、騎士選抜試験の本来の目的に立ち返るだけでなく、騎士のあり方までも、自らの抑えきれない熱い気持ちで語っていた。これこそが本来の彼女なのだ。  久しぶりだったんだろうな。自分の愚痴ではない、国のためのハッキリとした考えを誰かにぶつけるのが。 「ありがとう。実に素晴らしい考えだ。早速、採用しよう。『特情戦』には、陛下からしかご命令できないから、私から陛下にお伝えしておく。  そして、現時点でコリンゼ=オルフニットを『報告係兼臨時騎士選抜試験総責任者』に任命する。責任者として団員に指示し、騎士選抜試験を自身の提案通り成功させよ! 実技試験の試験官も君だ。私は見ているだけにしよう」 「なっ……! お待ちください! 報告係の私がいきなりそんなことを任されても、誰も付いてきません。それに、私は明後日午前に用事があって、城外に出る予定があります。急遽決まった試験なのに、さらに前日に責任者が現場にいないなんてありえないでしょう」  コリンゼは、慌てて理由を言い繕った。当然、穴だらけだ。 「『やればできることをやらずに、考えればやれることを考えずに』か。良い言葉だな。当然、君はその言葉に従っているのだろうな?  そうでないなら、私はこの言葉を送ろう。『決め付ける前に聞け』だ。誰が付いて行かないと言った? 誰がありえないと決めた? 自分自身だろう。私はそれで無駄な後悔をした。結果的には幸運に転んだが、それは偶然だ。我が騎士団を舐めてもらっては困る。  コリンゼ、もちろん君も『そこ』に入っているだろう?  やるべきことと分かっているのに指示を無視した者がいたか?  休めと命令したのに休まなかった者がいたか?  休暇中の一時的な引き継ぎを断った者がいたか?  そして君は、報告係が責任者ではないと思っていたのか?  むしろ最重要任務の一つで一人一人が責任者じゃないか。だからと言って、一人いなくなったら機能しなくなるのは健全な組織ではない。それが責任者であっても、たとえ私であってもな。  もし、明後日午前に責任者がいなくなって、大変なことになるなら、なってしまった方が良い。それは教訓だ。今後、改善されるだろうし、されなければ組織として終わりだ」 「じ、実技試験はどうなるのです! 私と新人の立ち会いを見たことがあるでしょう? 新人にあれだけ苦しい戦いをしていて、なぜ私にできると思うのですか!」 「『騎士は誠実であるべき』と言った君が、まだ誤魔化すのか? しかも、これも君が先程言っていたことだ。実力を引き出すために一人一人に時間をかけている、そうだろう?  短時間では剣技は身に付かない。色々なパターンを見せて、新人側のパターンや対応力を育てている。実戦は一瞬で勝負がついてしまうが、まずは新人には基礎を教える。中堅以上には、その一瞬の駆け引きを暗に教え、負けている。  弱気な剣筋も、駆け引きを深くするための布石だ。対戦前に、独り言を言ったり、相手に話しかけたりしているのもそのためだ。君のおかげで、我が騎士団の平均レベルは随分と上がったはずだ。私がそのことに気付いていないと思っていたのなら、私のことも舐めているな。だとしたら、君の課題は、自分より強い者の実力を測れないことだな。  今、君の右手はピクピク動いていて、次の瞬間には、剣の柄に手が伸びそうになっている。先程送った言葉を覚えているか? あれには例外がある。自分に対して、明らかに危害を加えそうな場合は聞かなくてもいい。  もし、ここで剣を抜けば、私は君を問答無用で殺す。敵味方の区別もつかずに暴走する救いようのない愚か者、または精神異常者だからだ。このことから、やはり君の根本的な課題は、自分が正しいと思ったらそのまま突き進んでしまうことだな。長所でもあるが短所でもある。  今回はそれが功を奏して、君はビトーに殺されず生きているが、次の瞬間には、私に殺されているかもしれない。ただし、その短所は直せる。結局、『決め付ける前に聞け』だ」 「ぜ、全部分かって……。そ、それでは、やはり副長はプレッシャーに耐え切れなくなって失踪したのではなく……」 「詳細は明日の昼以降に発表されるだろう。今はこれ以上言えない。この際だ。聞いておきたいことがある。  仮に、ビトーがまだいたとしたら、君の私への疑いはどうすれば晴れていたんだ? たとえビトーを処分しても、仲間割れのように思われたり、国益に沿った提案をしても、周囲を信用させるための方便のように思われたりするのではないか?  私が戻ってきて、普通に城内を歩いているということは、陛下から信頼されている証でもあるのに、まだ疑われている。つまり、私が王族を騙している、洗脳しているとでも思っているということだ。それでは、一生私は疑われ続けることになる。  君の疑惑は、私には出口のない戦略のようにしか思えない。君は確かに思考能力に長けている。だが、まだまだ足りない。あらゆる状況を想定していない。優秀な戦略家から見れば、一本釣りでしかないんだ。  しかし、コリンゼ。君ならその優秀な戦略家になれる。実力もあるんだ。私がなぜここまで君に時間をかけて説明しているか、今の君なら全てを言わなくても分かるはずだ。私の質問への回答と合わせて、反論があれば聞こう」  シンシアは、コリンゼの言葉を引用しながら、次々と彼女に厳しい言葉をぶつけていった。  怒っているのでも、嫌っているのでもない。彼女と正面から向き合うことで、彼女の思考一つ一つを理解し、そして、彼女自身にも改めてそれを理解させたのだ。  彼女の思考は、整理されているようで整理されていなかった。目的が決まれば、そこへ至る道を何本か引くことができる。では、『その目的が変わったら?』『目的が複数あったら?』『目的の先の目的は?』と問われれば、対応できない。行き先がなくなったり、めちゃくちゃになったりするのだ。  だからこそ、この期に及んでシンシアの前で、やれることをできないと言ったり、隠しきれないことを隠そうとしたり、自分の言葉と矛盾するような反論をしてしまった。  それは、警備の最適化の話からも分かる。内容がどうということではない。その話の『先』がなかったからだ。王家を守って逃したあとにどうするかが、王家に説明されていなかった。彼女にしてみれば、そこで目的が達成されるからだ。  また、戻ってきたシンシアに対して、城の警備兵や警備隊長から目立ったアプローチがなかったことからも、それが伺える。事務的なやり取りに留まり、『信用できない騎士団上層部』への対応とは、とても思えなかった。これは、警備隊長にメモの真意が伝わっていないか、グルの可能性があるということだが、そこへの対応は特に何もされなかったということだ。  端的に言えば、一度提案したあとのフォローがない。途中で提案の修正はされない。目的達成後のフォローもない。途中で新たな目的が提案され、同時並行になることもない。  それらの課題は、コンセプトとビジョンを明確にできれば、おそらく解決するだろう。自分のやることが目的に沿っているか、その先どのようにしていくのか、変わっていくのか、そこでやることが目的に沿っているかを常に確認しながら進んで行く。目的がブレないようにし、新たな目的を考える必要があれば、既存の目的と反していないか、その上の大目的を忘れていないかも確認する。これは、俺達がこの世界に来てからの軌跡を辿ってもらえると分かりやすいだろう。  いずれにしても、いくらでも解決できる問題だし、誰でも習得できるスキルだ。 「あ……う……だ、団……長……。本当に……本当に信じていいんですね! 本当に……! お、おっしゃる通りです! 感服いたしました。返す言葉もございません!」  コリンゼは跪いて、涙声でシンシアに返事をした。それは、自らを苛ませる疑念から、ようやく解放された歓喜の声のように聞こえた。 「よく今まで耐えたな。私もすまなかった。過去の私こそ、団員一人一人と真剣に向き合えていなかった。そのつもりはなかったが、結局上辺だけだったのだ。しかし、その失敗を糧に、より高みを目指そうと、尊敬する方々の背中を見て、さらに学ぶ覚悟をした。  そして、今の私がある。学び、成長しようと思えば、いつでも誰でもできるのだ。私は、素晴らしい君からも学びたい。なぜ上層部が怪しいと思ったのか、参考までに、いつ頃から、どのようにして、何に気付いたのか、それに対して自分が取っていた対策の理由を教えてもらえるか?」 「は、はい! それでは、僭越ながらお答えいたします。入団して一ヶ月、騎士団の様々な課題が見えてきた頃、それぞれの課題を解決するための提案書を意気揚々と書き、副長に提出しました。しっかり自分で現場を見て、調べて、分析して、良い案も思い付いて、自信作でした。  しかし、その全てが却下されました。理由を聞くと、一ヶ月の新人がそのような提案をしてはいけない、などと訳の分からない理由で突っぱねられました。では、いつから提案できるのですかと聞くと、自分で考えろとのことでした。  それならと、先輩と話し合って、再度提案書を作り直して、先輩にも書いてもらって、先輩から提出してもらいましたが、やはり却下されました。他の先輩でもダメだったんです。  その理由は、先代団長も副長も課題と認識していないから、だそうです。客観的な課題を見せても、主観で拒否するという愚行極まりない上層部に、私の不満は溜まっていきました。  ある時、古くからの親しい者に愚痴をこぼしたんです。もちろん、詳細は話していません。どんな方法で提案しても聞く耳を持たない上司はどうすればいいのかな、という程度です。  すると、『国家権力に胡座をかいているヤツの考えることは分からねぇな。ノーリスクなのにリターンを得ようとしないなんて普通あり得ねぇぜ。だったら、どこかにリターンがあるんだろうな。俺は城内組織とか知らねぇけどよ』という荒い言葉遣いだけど優しい、そして核心を付いているような無責任なような、そんな言葉が返ってきたんです。聞いてくれるだけで良かったのに、その人の言うことはいつも正しくて……。  あ、でも私の考えていたことでもあるんです。だから、共通するその線で調べました。騎士団が『成果を上げないこと』が利益になる組織はどこか。上層部はどの組織と繋がっているのか。しかし、どれだけ調べても、何も分かりませんでした。  と言うよりは、安全な調査を徹底していたので、危険を顧みなければ、もっと調べられたのかもしれません。その頃からはもう、目立たないように行動するようになっていました。もちろん、目立つと調査しづらくなるからです。  そして、手詰まりになった頃、また先程の親しい人と話していた時に、あ、今度は何も言っていません。普通に雑談していた時です。その時、『俺はほとんど依頼主と話したりしねぇけどよ。そいつがどんなヤツか分かる時があるんだ。仕事の報告で部屋に入った時だ。例えば、貴族なら大抵チェスを置いてるが、たとえ掃除済みでも、埃が少しでも被っている所があれば、見栄でやってるだけだし、そうでなければ頭のキレに自信があるヤツ、とかな。もちろん、当たってるかなんて分かんねぇけど、たまに客と居合わせたりすると、関係性とかも見えてくる。大事そうな書類が散らばってたりもするぜ。バカなのか忙しいのか分かんねぇけど、無用心だよな。まあ、お前にそんなプロファイリングを自慢しても意味ねぇか。お前ならそんなことぐらいすぐに分かるからな』という話をしてくれたので、それをヒントに、私も騎士団で報告係をすれば、時間はかかるけど、少しでも安全に情報を集められるかもしれないと思ったんです。その予想は当たりました。  そもそも、ある時期から報告先が団長ではなく、副長に全て変わっていたんです。もちろん、その時期とは、ビトーが副長に任命された時です。この場合、副長から団長へのラインで情報が歪められている可能性がありますが、グルの可能性も捨てきれず、どちらかは断定できませんでした。  今思えば、先代団長は無実だったように思います。何と言いますか、それほど頭を使う人ではなかったので、利用されていただけかもしれません。  それから、あなたが最年少で騎士団長に就任しましたが、ビトーの希望もあって、彼が副長のままで、体制も報告システムも変わることはありませんでした。同世代どころか、稀代でも優秀で聡明な団長が、この問題に気付かないはずがないと思い、この二人が繋がっていると思ったんです。  一方で、私が実家の孤児院に帰った時、『コレソ=カセーサ』という女が、経理の職に就いていました。第一印象は、綺麗な人、頭が良さそうな人、何でも見透かしそうな人、心地良い香りもするという感じで、実際、その能力を活かして、運営資金の調達まで行っていたと聞きました。  それからしばらく経ったある時、副長室に報告に行った際、その女と同じ香りが部屋の中でしたんです。あれから帰省していなかったのに、自分でもその香りをよく覚えていたなと感心しました。その時、彼女が部屋に隠れていたのか、残り香だったのかは分かりませんが、騎士団副長がわざわざ部屋に呼ぶ女とは何者なのかと考えました。  プライベートで身内や友人を呼ぶのは、上司の許可が必要ですから、団長とグルの場合は容易です。それを確認するのは危険なので、まずはその香りが本当に彼女のものだったのかを確認しようと、来訪応対者記録用紙を警備隊から見せてもらいました。  すると、ビトーがその日に誰かと会ったという形跡さえ残されていませんでした。この場合、警備隊もグルか、それ以外の何らかの方法で、彼女が城内に侵入したということになります。ただ、幸いだったのは、その日の正面城扉警備兵が、私がよく知る優秀な兵士二人だったので、後者であると分かりました。もし、別の兵士だったら、警備隊全員を疑っていたところです。  結局、侵入方法は特定できませんでしたが、記録に残さないのは怪しすぎると思い、彼女を調査するために、一日だけ休暇を取って帰省してみたら、すでに経理を辞めて行方不明になっていました。セフ村出身というのは聞いていたので、セフ村の場所を調べたら、数日程度の休暇を取って行けるような場所ではなかったので、そこで調査を断念しました。その直後です。団長が一ヶ月の長期出張に行くので、ビトーが団長代理になると聞いたのは……。  団長が一人で長期出張に行くことなど、それまでありませんでした。あまりにもできすぎたタイミングだったので、ビトーが何かを仕掛けたのだと思いました。ここで、あの言葉を思い出したんです。『おれは城内組織のこととか知らねぇけどよ』。この一連の妨害工作で、リターンを得る者は城内にいない。城内で一番得をするビトーでさえ、団長の役職を固辞したのだから。  つまり、城の外、あるいは国の外で計画されたものなのではないかと思いました。前者であれば、国家特殊情報戦略隊が察知している可能性が高いので後者。そして、この事件は、国外スパイによる破壊工作だったのだと結論付けました。団長と副長がグルの場合は、計画が次の段階に進んだ、もしくは仲間割れ、そうでない場合は団長を陥れたことになります。  いずれにしても、世界最高戦力と言われた団長が、陛下でさえ制御不能になってしまうと、国家の緊急事態と言わざるを得ません。そして、そのまま団長が戻ってこない可能性の方が高かったので、少なくとも城内にいる警備隊と騎士団で王家のご安全を確保するしかないと思い、素性を隠して、警備の最適化を警備隊長経由で進言していただきました。  そんな時、団長が戻ってきたという噂が城内で広まっていました。騎士団員に団長の帰還が一切知らされないのはおかしいと考え、その辺の警備兵に聞いても何も知らないと言われたので、様子を見ていたところ、宰相が訓練場にいらっしゃり、『報告係を騎士団長室に行かせ、団長の指示を仰ぐように』と命令を受け、警戒してこちらに参りました。大変長くなってしまい申し訳ありませんが、以上です」  要点どころか、全部話したな。まだコリンゼという人物を知ったばかりだが、何となく彼女らしさを感じる。  こう聞くと、彼女の論理には一部飛躍はあるものの、そう考えても不思議ではない状況だったと納得もできる。同じ状況であれば、俺も似たように考えたかもしれない。  コリンゼのシンシアへの評価は高かったことも伺える。それが逆にスパイ仲間と考えられて、信用を失わせてしまったか。  一方、アドのことは完全に信頼しているようだ。彼の何気ない一言が、彼女の行動に全て結び付いている。しかも、口調まで一言一句覚えているのは、中々できることではない。 「詳しく話してくれてありがとう。私の至らなさが君を誤解させたようだ。改めて申し訳ない。帰還報告をしなかったのは理由があるのだが、今は話せない。念のために言っておくが、怪しむ必要はない。その内、分かるはずだ。  あと、追加で一つ、聞いておきたいことがある。話に出た『親しい人』に、君は絶対の信頼を置いているようだ。その者の話をしていた時は、表情も声も、まるで憧れの人を想うようだったが、アドのことが好きなのか?」  シンシアがいきなりぶっ込んできた。現代では、セクハラで訴えられる質問だ。シンシアも普段ならしないことだろうが、彼女なりの考えがあるのだろう。  考えられるとすれば、アドがスパイである場合だ。聞きようによっては、彼の言葉は、コリンゼを誘導しているとも捉えられかねない。普段のアドを知ることができれば、彼と対峙した時の対策が立てられる。  と言っても、その対策は二つ。催眠魔法を解除するか殺すかだ。 「団長⁉ なぜ、『お兄ちゃん』のことを……⁉ もしかして、恋人……とか……? でも……」 「いや、それは断じてない。私が城を出てから、護衛の仕事を請け負う時に知り合った。国内の問題について、一切反論できない正論をぶつけられたよ。  何となく君のことを連想できる内容だったから、もしやと思っていたら、話に出てきた口調や単語まで同じだったから、間違いないと思った。三日前にも城下町ギルドで偶然会った。その時は、忙しかったのであまり話さなかったな」 「そ、そうですか……。アド……お兄ちゃんは、血が繋がっているわけではなく、孤児院でずっと兄のように接してくれていたので、そう呼んでいます。  お兄ちゃんは前に、『女は基本的に話がつまらねぇ。ただ、女にしては珍しく、中々面白いヤツを見つけた』と言っていました。だから、団長のことかと一瞬思ったんですが、よく考えたら、それを聞いたのは団長が有名になるより前、私と雑談していた時だったのでありえなかったですね。  お兄ちゃんは、私にとっては、もちろんかっこよくて優しい人ですが、男性に対する好きという感情ではなく、おっしゃる通り、憧れだと思います。年齢も離れていますし、お兄ちゃんも私のことを妹と思っています。  最初は、『俺はお前のお兄ちゃんじゃねぇ!』って言われていたんですが、私がずっとお兄ちゃんって呼んでいたら、ある時、『泣くんじゃねぇ! お前は俺の妹なんだろ? だったら、俺を困らせるんじゃねぇ!』って、怒られたのか慰められたのか、よく分からないような台詞を聞いて、それでもやっと兄妹になれたんだと嬉しかった記憶が鮮明に残っています。  そういうところもあって、お兄ちゃんはみんなから慕われているんですよ。お話に出した優秀な警備兵二人も孤児院出身で、『アド兄』って呼んでいます」  みんな、『家族』になりたかったんだろうな。アドは照れ隠しで拒否していたのだろう。  それにしても、孤児院出身者は優秀な人が多いのだろうか。優秀な警備兵二人と言えば、あの二人を思い出すが、別なら計六人、同じでも四人で、いずれにしても、偶然とは言い難い。  特別な教育でもされているのだろうか。シンシアと交流があるというのも関係しそうだ。フォワードソン家の教育プログラムを孤児院に適用している可能性が高い。  実は明後日午前、みんなでその孤児院に行くことになっている。シンシアから俺達に提案があり、院長への調査報告と今後の対策について話すためということだった。  孤児院出身のコリンゼも明後日午前に休暇を取っている。もしかすると、一緒に行くか、そこで会うことになるかもしれない。 「アドのことを話す時の君は、これまでの君とのギャップを感じられて面白いな。だが、さらに聞かねばならないことがある。アドがスパイ行為に手を染めている可能性を、自身の感情を抜きにして語ってくれ。場合によっては、彼を殺さなければいけないかもしれない」 「なっ……! そんな……こと…………っ!」  シンシアの想定外の言葉に、コリンゼは言葉が出ない様子だった。自分の愛する人や家族が疑いをかけられれば、誰しも驚きと戸惑いと怒りが湧いてくるだろう。しかし、コリンゼの反応から察するに、彼女は驚きと戸惑いの方が遥かに大きく、怒りが入り込む余地はなかったようだ。  しばらくして、コリンゼが口を開いた。 「なるほど、そういうことなんですね……。団長のお考えがよく分かりました……。すごいです! そのような発想は全くありませんでした! 本当に全身が震えました。この感動を抑えられません! はぁ……はぁ……」  大切な『家族』が疑われているにもかかわらず、コリンゼは歓喜に震えているようだ。ぶっ飛んでるなぁ。 「コリンゼのこの様子だと、『お兄ちゃん』よりもシンシアのことを盲信しそう」  ゆうが『いくつかの意味』に捉えられるようなことを言った。 「感動というより、快感と絶頂で脳と身体が震えたんだろうな。この短時間で、シンシアの信用が地底から山頂まで一気に駆け上り、その勢いのまま天まで昇った感じだろう。  今なら、シンシアの言うことを何でも聞きそうだ。アドも俺達もそのレベルに到達するのは難しいな」  俺は、ゆうのコメントの意味に全て答える形で、自身の考えを披露した。それに対して、ゆうは煮えきらないような反応をした。 「うーん……。姫の時もそうだったけど、あたし達が直接幸せにできないと、それはそれで不完全燃焼と言うか……。かと言って、でしゃばりたくないし……。何か良い作戦ないの?『女子幸福研究家シュークン』さん。別に今じゃなくてもいいけどさ」 「そうだなぁ……。『ごっこ遊び』に慣れたシンシアに賭けてみるか。コリンゼに対しては逆に『今』しかない。  一度机に上がって、触手を増やし、俺がシンシアに砂でメッセージを見せる。もう一本は、大きさを徐々に戻しながら、ゆうがゆっくりとコリンゼに向かわせてくれ。あとは、シンシアの台詞に合わせる」 「おっけー。」  急な作戦だが、考えていなかったことではないし、上手く行く自信はある。  俺達が動いて机に上がると、コリンゼが俺達に気付いた。シンシアは少しだけビクッとしたが、平静を装っている。 「団長、あ……あの、机の上で何か動いてませんか?」 「ああ、これか? これはな……」  シンシアが間を溜めている内に、俺は砂のメッセージを体に貼り付けた。 『新種の召喚尋問モンスターによる上司部下両思い尋問試行ごっこ』  シンシアがメッセージを確認後、席を立ち、俺達と一緒にコリンゼに向かっていった。 「私が城を出ていた時に知り合った魔法使いに、ここで呼び出してもらった触手だ。尋問で絶大な効果を発揮する。丁度良い機会だから、試してみたいのだが、いいか? 安全は保証されているし、苦痛もない。  君を疑うわけではないが、私の今の質問にすぐに答えず、話を逸らしたようにも感じたから、念のためということもある。そういう意味では、今からはすぐに答えようとしなくていい。  ただし、今の内に話す内容を組み立てておいてくれ。大丈夫だ、関係ないことは聞かない。私を信じてほしい。私もコリンゼを信じている」  良い台詞だ。シンシアからコリンゼに俺が言ってほしかった内容が全て盛り込まれている。 「団長がそのように私におっしゃるなら……私やります!」 「ありがとう。流石、私が最も信頼する部下だ」 「ああ……団長……。私もです。あなたは、私が最も尊敬するお方です! 何なりとおっしゃってください!」  コリンゼは恍惚の表情をして、シンシアに忠誠を誓った。 「では、立ち上がってそのままでいてくれ。鎧や服は触手が全部脱がしてくれる」  俺達は、シンシアの台詞通り、コリンゼの鎧や服を脱がし始めた。 「ぜ、全部ですか……?」 「コリンゼ、決めつける前に聞けとは言ったが早すぎないか? いや、良いことではあるのだが、決めたことを口にして、その舌の根も乾かぬ内に、というのはどうかな。そんなに私に裸を見られるのが嫌だったか?」 「いえ、そのようなことは決してございません! 私の貧相な身体をお見せするのが……、団長の目に毒なのではないかと思いまして……」 「それこそ、そんなことはない。貧相どころか、むしろ良い方だし、バランスも取れている。君の身体を着替えの時に少し見たことはあるが、美しかった。正直に言うと、もっとじっくり見てみたいと思ったほどだ。おっと、これ以上褒めてしまうと、『尋問』に支障が出るか」  俺達は、二人が話している最中もコリンゼの服を脱がして、下着姿にまでしていたが、この時点でも確かに美しい。  コリンゼの容姿は、一言で言うと理知的なキリッとした委員長タイプ。身長はユキちゃんより少し高い。髪型は左右に少し広がったボブヘアー、若干つり目がち、顎のラインはシュッとしていて、眼鏡が似合いそうだ。この見た目で、アドの話をしている時やシンシアを崇める時のような表情をするから、かなりのギャップがあるのだろう。  俺達は、コリンゼの最後の下着も脱がし終えた。それはすでに湿っていて、やはりシンシアの質問で快感を得ていたことが分かった。 「あっ……、団長……光栄です。私の全てをご覧ください……」 「綺麗だよ、コリンゼ……。よかったら、触手に巻き付かれている今の感想や、これから感じたことも言葉で表してくれないか?」 「はい……。触手が私の身体を這っているだけで、気持ち良いです……。締め付けも心地良く、支えがしっかりしているので、体重を預けられそうな安心感があります……。そして……あっ……あんっ! はぁ……はぁ……じ、焦らされたあとに……いきなり……乳首と……せ、性器に……吸い付かれて……、舌で……あっ……ねっとりと舐め回されて……んっ……何も考えられなくなります……」  一つ一つを声に出して説明してくれるコリンゼ。まさに実況プレイだ。 「体を浮かせてくれるから、力を全部抜いても大丈夫だ。魔法使いや大声を出しそうな相手の場合は、即座に口を塞ぐが、そうでない場合は塞がない。口を開けて舌を出すと、キスしてくれる」 「はぁ……はぁ……承知しました。あの、団長……一つだけよろしいでしょうか。私、男性経験がないので……その……このまま貫かれるのでしょうか……」 「いや、未経験の場合は、平常時と興奮時、両方の承諾がなければ挿入されない。キスは平気か?」 「お兄ちゃんのほっぺにキスするぐらいですね……。舌を絡めるキスはありません。もしよろしければ……だ、団長と先にキスしてみたいです……」 「実は、オススメは触手と先にキスすることなんだ。まずは、肉体的な快楽のみを得て、次に私と精神的な快楽を得て、もう一度触手に戻る際は、人間と同じく愛情を注ぐことで、その両方の最大快楽を得る、という流れだ。  逆の場合、どちらか一方に愛情が偏る可能性がある。コリンゼには是非、最高の幸せを感じてもらいつつ、『私達』のことを愛してほしい」 「そういう考えもあるんですね……。本当に私の想像を遥かに越えていく……。承知しました。団長のおっしゃる通りにいたします」  俺達は二人の会話中に緩めていた手を再度動かし、彼女を宙に浮かせると、ゆうはコリンゼに舌を絡ませに行った。 「ん……はぁ……んっ……ん……あっ……」  ゆうとのキスで、気持ち良くなっていたコリンゼだったが、ゆうはいつもより早くキスを切り上げ、シンシアの方を向いた。一方、コリンゼは名残惜しそうな表情をしていた。 「それでは、コリンゼ。今の君の表情も素敵だが、私を誘惑するような表情をリクエストしようかな。私に向けられた愛情に、私が愛情で答え、二人の気持ちを一つにするんだ」  コリンゼに一つ一つ丁寧に自身の考えを教えるシンシア。これも『指導』の一環なのだろう。  俺達は、コリンゼをシンシアの頭の位置まで下ろした。 「団長……一生お慕い申し上げます……。んっ……んっ……はぁ……」  永遠の愛の誓いのあと、シンシアの全てを受け入れるように、コリンゼは口を大きく開け、舌を突き出し、とろんとした表情でシンシアのキスを誘った。そして、すぐにそれに応え、心を通わせるシンシア。  二人のキスがしばらく続くと、シンシアの方から口を離した。一方、コリンゼは、やはり名残惜しそうな表情をしていた。 「さて、コリンゼ。この触手のことを、これからは『シュウ様』と呼ぶこと。世界で私と同じぐらい、いや、私以上に君を幸せにできる存在と認識するんだ。君はもうそれを実感しつつあるだろう。ただ、身を委ねていればいい。  もちろん、自分から動いてもいいが、これが尋問ということを忘れないでほしい。動けば動くほど、焦らされ、相手にされなくなる。感想も言わなくていい。それが自然と要望になってしまうし、意味がないからだ。少しでも辛くなったら、私に助けを求めてかまわない。  それではシュウ様、よろしくお願いします」  シンシアから自由にしていいとの許可を得たので、俺達はまず、コリンゼの足をM字開脚させ、彼女の全ての穴をシンシアに見せつけた。 「あ……ああ……団長に……全部見られてる……」  その後、ゆうがコリンゼにキスしたのを合図に、俺達の尋問が本格的に始まった。しかし、実は最初とやることは変わらない。ただ、俺達は決して急がない。  すると、コリンゼが急いで快感を求めようと、自分の身体を押し付けたり、揺らしてくるので、そこに力が働かないように俺達は身を引く。その度に、彼女は泣きそうな声で哀願する。 「シュウ様ぁ……! お、お願いです……。もっと……もっと気持ち良くしてくださいぃ! このまま……では……私……おかしくなるぅぅ……! はぁ……はぁ……うぅ……」  コリンゼは、涎さえ抑えきれなくなり、口からダラダラと流している。もちろん、それも貴重な体液なので、床に落ちて無駄にならないように、俺達はありがたくいただく。  少し喋らせてから、ゆうが再度コリンゼの口を塞ぐと、それだけで意識が飛んでいるかと思うほどの白目を向いていた。 「お……お……おっほ……」  嗚咽のような声が彼女の口から漏れる。その様子から、彼女の脳は、もう快感に完全支配されているようだ。  この状態で、ゆうが彼女からどんな言葉が出るのか確かめようと、また口を自由にした。 「もう……らめぇぇへぇ…………なっちゃった……私……おかしくなっちゃったよぉぉぉ……うぅ……気持ち良くなることしか……考えられないぃぃぃ!」  コリンゼの顔からは、涙と鼻水と唾液が全て流れ出していた。まるで精神が崩壊したかのような彼女の表情と言葉に、流石の俺も少し焦った。 「お兄ちゃん、これ、やりすぎたわけじゃないよね? そこまでではなかったと思うんだけど」 「多分大丈夫だとは思うが……。コリンゼの『感情が突き抜ける性質』が出たのかもしれない。シンシアに対しての信頼と同様だ。これまで感じたことのないレベルの快感を覚えたことで、『俺達に対する感情』を通り越して、『快感に対する感情』が最高潮に達した。  途中でシンシアに助けを求めなかったのも、シンシアのことが頭に浮かばなかったからだろう。目の前にいるにもかかわらず……。こうなったら、逆に俺達がシンシアに助けを求めるか」  俺は机に配置したままだった触手と砂を再利用して、メッセージを体に貼り付け、シンシアにそれを見るように合図した。 『質問を始めてほしい。目的までには数段階必要かも』  簡潔なメッセージだったので、意図が伝わったか不安だったが、シンシアが頷いたので、きっと大丈夫だろう。 「それでは、コリンゼ。今からする私の質問に答えてもらおうか。答えなければ、当然これ以上気持ち良くなれない。  最初の質問、アドのことを考えて自慰をしたことはあるか? その最高頻度を一週間単位で答えろ」 「は、はひぃぃ! 毎日……毎日していましたぁぁ!」 「アドと肉体関係になりたかったということだな?」 「は……はい……!」 「アドとは兄妹の感情で、男性への感情ではない、憧れだと言ったのは嘘か?」 「そ、それは嘘ではありません! 本当です! お兄ちゃんへの自分の気持ちが分からなかっただけです! 全部混ざっていたんだと思います!」 「それなら、客観的にアドを分析することもできるか?」 「は、はい!」  シンシアのおかげで、コリンゼの感情の軌道修正が上手く行ったようだ。あのままだったら、少しでも難しい質問には、まともに答えられなかっただろう。性の質問から徐々に慣らしていったのは、尋問の効果を確認することに加え、コリンゼの精神を落ち着かせるためでもある。 「では、再度質問しよう。アドがスパイ行為に手を染めている可能性を、理由と共に答えろ」 「は、はい。洗脳されていない限り、可能性は皆無です。ただし、確証はありません。あくまで、彼の信念から導き出したものです。彼の口癖は、『強国が外圧で変わることはねぇ。中から変えていくしかねぇんだ』でした。  それだけ聞くと国内のスパイに加担しそうですが、『正当な論理とやる気さえありゃ、どうにでもなる。一般国民なら、城内の優秀なヤツらに怒りを見せてそれを言えばいい』とも言っていました。彼からすれば、『理』の味方であり、手段も『理』。つまり、妨害工作、破壊工作を行う必要がないのです。  では、城内の者を脅迫、または誘導しているのかと疑問を抱くかもしれませんが、ある時、『それなら、お兄ちゃんは騎士とか省内幹部になるんでしょ?』と彼に聞いたことがありました。すると、『ならねぇよ、ガラじゃねぇし。お前達がなれよ。城外からしか見えねぇこともある。それをお前達に伝えればいいだけだろ』と返ってきました。信頼できる私達を通してのみ進言するということであり、判断は私達に委ねられています。これも同様に、スパイ行為でないことを物語っています。  だとすれば考えられるのは、変わらない国の現状を憂慮し、前言を全て撤回した可能性です。しかし、これも口癖で『嫌な世の中だぜ』と言いつつも、自分が何とかしてやろうという感じは全くありませんでしたが、その言葉のあとは、大体状況が良くなっているんです。  例えば、一時期、ギルドが仕事を求める人達の吹き溜まりのような雰囲気になっていたのを嘆いていましたが、結構前にそれが解消されたようですし、食事の美味い店が評価されずに客足が少ないことを嘆いていましたが、今では著作権システムのおかげで、評価されていない店はありません。他にもありますが、同様に改善されています。  つまり、『変わらない国』ではないので、前言を撤回した可能性もありません。これほどまでに『変わる国』であるのは、おそらく、偶然ではないと思います。彼自身は直接の『行動』はしませんが、キーパーソンへの彼の『言葉』がキッカケで改善されている可能性が高いです。  それは次に会う機会に是非聞いてみたいとは思いますが、もしそうであれば、まさに『弁士』であり、『国士』という他なく、国外のスパイでも決してありません。  以上のことから、彼が内部、または外部のスパイ行為をしているとは考えられません」  この状況でのコリンゼの理路整然とした話にも驚いたが、アドの優秀さがこれほどとは思わなかった。話を聞く限り、リオちゃんとも会っている可能性がある。彼女は、アドが言う『面白い女』候補の一人になっているのだろうか。 「ありがとう。素晴らしい答えだった。そうか……アドには頭が上がらないな。自由人のような見た目なのに、中身は真の愛国者か。改めて、人の真意を測る難しさを感じるよ。  ただ……コリンゼがアドを好きだった気持ちも分からなくはないが、私は嫉妬深いんだ。君は私を一生慕うと言ってくれたが、仮に君が男に恋心を抱いたり、抱かれたり、快楽のためだけに体を重ねるのも耐えられない。独占欲とも違う気がする。  相手がシュウ様と私、あるいは私が信頼している人達であればかまわないのだが、それ以外の者へのそのような行動は避けてほしいと思ってしまうんだ。君はどう思うだろうか。もちろん、君の自由だが、私とは違う考えを持っているのであれば、これ以上、私達の関係を続けるべきではないと思う」 「私のシュウ様と団長を想う気持ちは本物です! お二方に全てを捧げる所存! 団長がお認めの方以外とは、心も体も一切交わらないことを誓います!」 「ありがとう、コリンゼ。すごく嬉しいよ。最高の回答へのご褒美だ。シュウ様、彼女に最高の幸せをお与えください」  シンシアの言葉通り、俺達は再度手を動かしながら、俺はゆうにこれからの流れを伝えた。 「シンシアがコリンゼを元の状態に戻せることが分かったから、さっきみたいに限界まで焦らしてみるか。言動がおかしくなり始めたらフィニッシュと行こう」 「おっけー。」  俺達は、これまでと同様の『責め』をコリンゼに行った。興奮状態がまだ微妙に続いていたのだろう。間もなく、彼女は体を動かし始め、俺達を求めるようになった。 「シュウ様ぁ……。ご褒美……ご褒美ですよね……? シュウ様ぁ、もっと……もっとくださいぃ!」  コリンゼの必死の要求も虚しく、俺達はそれ以上踏み込まなかった。 「ああ……ああぁぁ……ああああああ!」  我慢できずに言葉にならない声を上げるコリンゼだが、まだ限界ではない。俺達のポリシーから、決して苦しませてはいけないので、その加減が難しい。急な刺激を与えてはいけないし、この状態で快感を与えるのを止めたり、それを感じないようになったりしてしまうと、拷問に等しくなるので、極めて緩やかに上昇していくように調整する。 「気持ち良いぃぃ……気持ち良いよぉぉぉ……! もう無理ぃぃぃ……!」  まだ大丈夫そうだ。  俺は下半身の触手の舌を使い、コリンゼから溢れ出る液体でピチャピチャと音を立てることにより、少しだけ彼女の興奮を演出してみた。 「うぅ……だめぇ……」  どうやら聞こえているようだ。ということは、まだまだ行けるな。  ゆうもそれを察し、コリンゼに舌を絡めに行った。これも、少しだけ酸素不足にすることにより、快感と興奮を高める手法だ。身体に巻き付いている触手は、いつもなら締め上げるのだが、今回は最低限、体を支える程度にして、肌を這うことにしている。  全身から脳に快感が絶えず集まり、絶頂に限りなく近づいているものの、自身では決して辿り着くことはない。そこに達するのは、俺達に全て委ねられている。  そうこうしていると、コリンゼの顔が、色々な汁で再度ぐちゃぐちゃに乱れていた。そろそろか。  ゆうは、コリンゼから限界の言葉を引き出そうと、口を離した。 「うぅ……もうらめぇぇ……無理ぃぃ……頭おかしくなりすぎて死んじゃうぅぅぅ! 気持ち良すぎて死んじゃうぅぅぅぅ!」  コリンゼの言葉を聞いて、俺達はラストスパートに入った。しかし、この様子なら五秒と保たなそうだ。 「あっ! ああっ! ああああっ! きちゃうううぅぅぅぅぅっっっ‼」  コリンゼは絶叫と共に、俺の口に盛大な潮を吹いて気絶し、もちろん俺も気絶した。コリンゼよりも早く気絶から目覚めた俺は、机の砂で謝罪のメッセージをシンシアに書いた。  ぐちゃぐちゃだったコリンゼの顔は、ゆうがいつの間にか綺麗にしてあげていた。



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俺達と女の子が試行尋問して女の子を救済する話(1/2)

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 二十三日目、午前九時。  騎士団長室の扉がノックされた時、シンシアは扉正面の部屋奥にある机の椅子に腰掛けていた。ウィルズとエトラスフ伯爵の息子に、パルミス公爵への面会依頼の手紙を出し終えて戻ってきたところだ。  俺達は縮小化して彼女の膝の上にいる。いつもなら天井にいるところだが、今回は気付かれる可能性があるとシンシアから言われたので、大人しく彼女に従った。他のみんなは、寝室でシンシアの仕事を邪魔しないようにしている。 「失礼します。騎士団員報告係のコリンゼ=オルフニットです。団員へのご指示を仰ぎに参りました」  これまで聞いてきた兵士の声量には全く及ばないほど小さな声が、扉の向こうから聞こえた。注意深く聞かなければ、普通の人間には全て聞き取れないほどだろう。報告係ということは『彼女』だ。 「入れ!」  シンシアの声で、部屋に入ってくるコリンゼ。キビキビとした動きというよりは、落ち着いて歩みを進めたような印象だ。 「久しぶりだな、コリンゼ。元気にしていたか?」 「はい。ご指示をお願いします」  シンシアの言葉に、素っ気なく返すコリンゼ。騎士団員とは思えないほど暗い。とは言え、あくまで俺の印象と周りとの比較だ。性格的な明るさで言えば、普通より少しだけ暗い、ぐらいだろう。 「騎士団員は、この一週間を自主訓練期間とする。ただし、三日後に臨時の騎士選抜試験を行う。本日昼までにパルミス公爵から城内通達がされることになっているから、団員は前回と同様に、試験開催の準備をするように。特に改善点がなければ、手続きや試験内容、評価、合否連絡を全く同じように行うこと。  コリンゼ、もし改善案があるなら、今ここで聞こう。なければ他の団員に聞く」 「お待ちください。それは、私が改善点を聞いて回るのではなく、団長が直接お聞きになるために城内を回るということですか?」 「そうだ。理由を含めて一つ一つ聞くと長くなり、君がまとめるのも大変だし、誤解が生じるかもしれないからな。君の仕事を信じていないわけではない。単に、私が直接聞いた方が早いということだ」  なるほど。これはコリンゼへの煽りだ。彼女であれば、前回までに、すでに改善案を思い付いているはずだ。しかし、『報告係』の彼女であれば、それを隠して、他の団員が挙げたことにもできる。それを未然に防いだ形だ。  考えてみると、『報告係』に志願しただけでも、コリンゼの意図が見え隠れする。単なるメッセンジャーではない。彼女にとって、現状では『それ』がメリットなのだ。  そうなると、話は変わってくる。彼女は誰よりも早く、ビトーのスパイ行為を怪しんでいた可能性が高い。シンシアが騎士団長になる前からだ。最初は意見が通らなくて不満だったのかもしれない。  しかし、なぜ通らないかを考えていく内に、スパイの妨害工作の可能性に気付いた。優秀な者や目立った者がスパイのターゲットになる恐れも考慮し、自分の身の安全を確保しつつ、スパイの室内や動向を探るための報告係に徹しているということだろう。  また、どういう意見が団員から挙がって、どういう意見が通らなかったかも分かる。それを分析すれば、スパイの今後の計画も見えてくるかもしれないと考えたのだろう。クリスの空間催眠魔法で引っ掛からなかったのは、あの条件がネガティブな理由で告白できなかった者を炙り出すものに対して、コリンゼは自身の正義に基づいて、気付いた時点で調査し、まだ公にする時ではないと機を伺っていたからだ。状況だけなら魔導士団長と同じだが、精神的な面で異なるというわけだ。  ちなみに、なぜコリンゼのような者を当てはめる条件にしなかったかは、あの場で呼んでも仕方がなかったからだ。証拠は後の調査で分かることだし、そこで見つけられなかった証拠も集めたいのであれば、あとで城内に通達すればいい。  ただ、催眠魔法が城内全員にかけられたことについては、一部の者しか知らないので、不信感を与えないためにも、慎重に話を進めていく必要がある。 「…………それではよろしいでしょうか。これまで、総務省に受験手続きおよび試験官の一部を委託していましたが、これを解除し、国家特殊情報戦略隊に委託すべきと考えます。受験者の出自をすぐに確認することができ、それを確認する隊員側にも怪しい出自の者は存在しないからです。ただし、受験者が怪しくてもすぐに拒否や不合格にせず、しっかり捕らえた上で自白させるべきです。  筆記試験は常識問題、道徳問題、騎士への想いの論文のみにし、教養を求められる問題は削除するべきです。平民はその時点で不利となり、剣技が優秀な人材を逃すことになります。必要であれば、入団後に学ばせればいいだけです。  実技試験は、受験者同士をそれぞれ戦わせるのではなく、騎士団側で受験者の実力を十分に引き出せる者を用意し、一人一人丁寧に、時間をかけてでも評価していくべきです。戦いの相性もありますし、緊張やその時の体調、調子で力の振れ幅が大きい場合もあります。  しかし、それらを限りなく抑えるための知識やスキルは、あとでいくらでも身につけられるものです。一発勝負で評価するのは、それこそ全員の時間の無駄です。その受験者が冷やかしかどうかは、すぐに分かるはずです。  受験後、冷やかし以外の不合格者には、どのような要因で不合格になったか、改善点をアドバイスするべきです。本当に惜しかった者には、再試験を予定し、それまでに改善点を克服できたかどうかを見ます。その場合、基準を設けるのは難しいですが、短期間、例えば一、二週間で改善できる場合に限る方が良いでしょう。  なぜこのような方針を取るかですが、『騎士選抜試験』とは何かを考えればすぐに分かります。将来の国家、国益、王家を守るために、優秀な人材を誇り高い騎士として登用することが目的のはずです。  最初から優秀な者は、当然すぐに見つかります。しかし、将来優秀になる者は中々見つけることはできません。ましてや、誰からも指導、教育されていない者が成長するのは時間がかかります。その過程で騎士を諦める者や、別の機会に恵まれて、そちらを選択する者もいるでしょう。  そんなことでは、ちゃんと指導、教育されていれば実力が伸びた者を、みすみす逃すことになります。次の選抜試験まで待つことさえ、時間がもったいないのです。それは仕方ないと割り切るのは簡単なことです。  ですが、それが騎士でしょうか。やればできることをやらずに、考えればやれることを考えずに、誇り高いと言えるのでしょうか。我々騎士は誠実であるべきです。国家や王家にはもちろんのこと、自分にも他者にも、当然、騎士を目指す受験者にも!  ……失礼しました。つい、熱が入ってしまいました」  コリンゼの提案は、試験全体とその一つ一つの試験までも網羅し、素晴らしいと言わざるを得なかった。また、騎士選抜試験の本来の目的に立ち返るだけでなく、騎士のあり方までも、自らの抑えきれない熱い気持ちで語っていた。これこそが本来の彼女なのだ。  久しぶりだったんだろうな。自分の愚痴ではない、国のためのハッキリとした考えを誰かにぶつけるのが。 「ありがとう。実に素晴らしい考えだ。早速、採用しよう。『特情戦』には、陛下からしかご命令できないから、私から陛下にお伝えしておく。  そして、現時点でコリンゼ=オルフニットを『報告係兼臨時騎士選抜試験総責任者』に任命する。責任者として団員に指示し、騎士選抜試験を自身の提案通り成功させよ! 実技試験の試験官も君だ。私は見ているだけにしよう」 「なっ……! お待ちください! 報告係の私がいきなりそんなことを任されても、誰も付いてきません。それに、私は明後日午前に用事があって、城外に出る予定があります。急遽決まった試験なのに、さらに前日に責任者が現場にいないなんてありえないでしょう」  コリンゼは、慌てて理由を言い繕った。当然、穴だらけだ。 「『やればできることをやらずに、考えればやれることを考えずに』か。良い言葉だな。当然、君はその言葉に従っているのだろうな?  そうでないなら、私はこの言葉を送ろう。『決め付ける前に聞け』だ。誰が付いて行かないと言った? 誰がありえないと決めた? 自分自身だろう。私はそれで無駄な後悔をした。結果的には幸運に転んだが、それは偶然だ。我が騎士団を舐めてもらっては困る。  コリンゼ、もちろん君も『そこ』に入っているだろう?  やるべきことと分かっているのに指示を無視した者がいたか?  休めと命令したのに休まなかった者がいたか?  休暇中の一時的な引き継ぎを断った者がいたか?  そして君は、報告係が責任者ではないと思っていたのか?  むしろ最重要任務の一つで一人一人が責任者じゃないか。だからと言って、一人いなくなったら機能しなくなるのは健全な組織ではない。それが責任者であっても、たとえ私であってもな。  もし、明後日午前に責任者がいなくなって、大変なことになるなら、なってしまった方が良い。それは教訓だ。今後、改善されるだろうし、されなければ組織として終わりだ」 「じ、実技試験はどうなるのです! 私と新人の立ち会いを見たことがあるでしょう? 新人にあれだけ苦しい戦いをしていて、なぜ私にできると思うのですか!」 「『騎士は誠実であるべき』と言った君が、まだ誤魔化すのか? しかも、これも君が先程言っていたことだ。実力を引き出すために一人一人に時間をかけている、そうだろう?  短時間では剣技は身に付かない。色々なパターンを見せて、新人側のパターンや対応力を育てている。実戦は一瞬で勝負がついてしまうが、まずは新人には基礎を教える。中堅以上には、その一瞬の駆け引きを暗に教え、負けている。  弱気な剣筋も、駆け引きを深くするための布石だ。対戦前に、独り言を言ったり、相手に話しかけたりしているのもそのためだ。君のおかげで、我が騎士団の平均レベルは随分と上がったはずだ。私がそのことに気付いていないと思っていたのなら、私のことも舐めているな。だとしたら、君の課題は、自分より強い者の実力を測れないことだな。  今、君の右手はピクピク動いていて、次の瞬間には、剣の柄に手が伸びそうになっている。先程送った言葉を覚えているか? あれには例外がある。自分に対して、明らかに危害を加えそうな場合は聞かなくてもいい。  もし、ここで剣を抜けば、私は君を問答無用で殺す。敵味方の区別もつかずに暴走する救いようのない愚か者、または精神異常者だからだ。このことから、やはり君の根本的な課題は、自分が正しいと思ったらそのまま突き進んでしまうことだな。長所でもあるが短所でもある。  今回はそれが功を奏して、君はビトーに殺されず生きているが、次の瞬間には、私に殺されているかもしれない。ただし、その短所は直せる。結局、『決め付ける前に聞け』だ」 「ぜ、全部分かって……。そ、それでは、やはり副長はプレッシャーに耐え切れなくなって失踪したのではなく……」 「詳細は明日の昼以降に発表されるだろう。今はこれ以上言えない。この際だ。聞いておきたいことがある。  仮に、ビトーがまだいたとしたら、君の私への疑いはどうすれば晴れていたんだ? たとえビトーを処分しても、仲間割れのように思われたり、国益に沿った提案をしても、周囲を信用させるための方便のように思われたりするのではないか?  私が戻ってきて、普通に城内を歩いているということは、陛下から信頼されている証でもあるのに、まだ疑われている。つまり、私が王族を騙している、洗脳しているとでも思っているということだ。それでは、一生私は疑われ続けることになる。  君の疑惑は、私には出口のない戦略のようにしか思えない。君は確かに思考能力に長けている。だが、まだまだ足りない。あらゆる状況を想定していない。優秀な戦略家から見れば、一本釣りでしかないんだ。  しかし、コリンゼ。君ならその優秀な戦略家になれる。実力もあるんだ。私がなぜここまで君に時間をかけて説明しているか、今の君なら全てを言わなくても分かるはずだ。私の質問への回答と合わせて、反論があれば聞こう」  シンシアは、コリンゼの言葉を引用しながら、次々と彼女に厳しい言葉をぶつけていった。  怒っているのでも、嫌っているのでもない。彼女と正面から向き合うことで、彼女の思考一つ一つを理解し、そして、彼女自身にも改めてそれを理解させたのだ。  彼女の思考は、整理されているようで整理されていなかった。目的が決まれば、そこへ至る道を何本か引くことができる。では、『その目的が変わったら?』『目的が複数あったら?』『目的の先の目的は?』と問われれば、対応できない。行き先がなくなったり、めちゃくちゃになったりするのだ。  だからこそ、この期に及んでシンシアの前で、やれることをできないと言ったり、隠しきれないことを隠そうとしたり、自分の言葉と矛盾するような反論をしてしまった。  それは、警備の最適化の話からも分かる。内容がどうということではない。その話の『先』がなかったからだ。王家を守って逃したあとにどうするかが、王家に説明されていなかった。彼女にしてみれば、そこで目的が達成されるからだ。  また、戻ってきたシンシアに対して、城の警備兵や警備隊長から目立ったアプローチがなかったことからも、それが伺える。事務的なやり取りに留まり、『信用できない騎士団上層部』への対応とは、とても思えなかった。これは、警備隊長にメモの真意が伝わっていないか、グルの可能性があるということだが、そこへの対応は特に何もされなかったということだ。  端的に言えば、一度提案したあとのフォローがない。途中で提案の修正はされない。目的達成後のフォローもない。途中で新たな目的が提案され、同時並行になることもない。  それらの課題は、コンセプトとビジョンを明確にできれば、おそらく解決するだろう。自分のやることが目的に沿っているか、その先どのようにしていくのか、変わっていくのか、そこでやることが目的に沿っているかを常に確認しながら進んで行く。目的がブレないようにし、新たな目的を考える必要があれば、既存の目的と反していないか、その上の大目的を忘れていないかも確認する。これは、俺達がこの世界に来てからの軌跡を辿ってもらえると分かりやすいだろう。  いずれにしても、いくらでも解決できる問題だし、誰でも習得できるスキルだ。 「あ……う……だ、団……長……。本当に……本当に信じていいんですね! 本当に……! お、おっしゃる通りです! 感服いたしました。返す言葉もございません!」  コリンゼは跪いて、涙声でシンシアに返事をした。それは、自らを苛ませる疑念から、ようやく解放された歓喜の声のように聞こえた。 「よく今まで耐えたな。私もすまなかった。過去の私こそ、団員一人一人と真剣に向き合えていなかった。そのつもりはなかったが、結局上辺だけだったのだ。しかし、その失敗を糧に、より高みを目指そうと、尊敬する方々の背中を見て、さらに学ぶ覚悟をした。  そして、今の私がある。学び、成長しようと思えば、いつでも誰でもできるのだ。私は、素晴らしい君からも学びたい。なぜ上層部が怪しいと思ったのか、参考までに、いつ頃から、どのようにして、何に気付いたのか、それに対して自分が取っていた対策の理由を教えてもらえるか?」 「は、はい! それでは、僭越ながらお答えいたします。入団して一ヶ月、騎士団の様々な課題が見えてきた頃、それぞれの課題を解決するための提案書を意気揚々と書き、副長に提出しました。しっかり自分で現場を見て、調べて、分析して、良い案も思い付いて、自信作でした。  しかし、その全てが却下されました。理由を聞くと、一ヶ月の新人がそのような提案をしてはいけない、などと訳の分からない理由で突っぱねられました。では、いつから提案できるのですかと聞くと、自分で考えろとのことでした。  それならと、先輩と話し合って、再度提案書を作り直して、先輩にも書いてもらって、先輩から提出してもらいましたが、やはり却下されました。他の先輩でもダメだったんです。  その理由は、先代団長も副長も課題と認識していないから、だそうです。客観的な課題を見せても、主観で拒否するという愚行極まりない上層部に、私の不満は溜まっていきました。  ある時、古くからの親しい者に愚痴をこぼしたんです。もちろん、詳細は話していません。どんな方法で提案しても聞く耳を持たない上司はどうすればいいのかな、という程度です。  すると、『国家権力に胡座をかいているヤツの考えることは分からねぇな。ノーリスクなのにリターンを得ようとしないなんて普通あり得ねぇぜ。だったら、どこかにリターンがあるんだろうな。俺は城内組織とか知らねぇけどよ』という荒い言葉遣いだけど優しい、そして核心を付いているような無責任なような、そんな言葉が返ってきたんです。聞いてくれるだけで良かったのに、その人の言うことはいつも正しくて……。  あ、でも私の考えていたことでもあるんです。だから、共通するその線で調べました。騎士団が『成果を上げないこと』が利益になる組織はどこか。上層部はどの組織と繋がっているのか。しかし、どれだけ調べても、何も分かりませんでした。  と言うよりは、安全な調査を徹底していたので、危険を顧みなければ、もっと調べられたのかもしれません。その頃からはもう、目立たないように行動するようになっていました。もちろん、目立つと調査しづらくなるからです。  そして、手詰まりになった頃、また先程の親しい人と話していた時に、あ、今度は何も言っていません。普通に雑談していた時です。その時、『俺はほとんど依頼主と話したりしねぇけどよ。そいつがどんなヤツか分かる時があるんだ。仕事の報告で部屋に入った時だ。例えば、貴族なら大抵チェスを置いてるが、たとえ掃除済みでも、埃が少しでも被っている所があれば、見栄でやってるだけだし、そうでなければ頭のキレに自信があるヤツ、とかな。もちろん、当たってるかなんて分かんねぇけど、たまに客と居合わせたりすると、関係性とかも見えてくる。大事そうな書類が散らばってたりもするぜ。バカなのか忙しいのか分かんねぇけど、無用心だよな。まあ、お前にそんなプロファイリングを自慢しても意味ねぇか。お前ならそんなことぐらいすぐに分かるからな』という話をしてくれたので、それをヒントに、私も騎士団で報告係をすれば、時間はかかるけど、少しでも安全に情報を集められるかもしれないと思ったんです。その予想は当たりました。  そもそも、ある時期から報告先が団長ではなく、副長に全て変わっていたんです。もちろん、その時期とは、ビトーが副長に任命された時です。この場合、副長から団長へのラインで情報が歪められている可能性がありますが、グルの可能性も捨てきれず、どちらかは断定できませんでした。  今思えば、先代団長は無実だったように思います。何と言いますか、それほど頭を使う人ではなかったので、利用されていただけかもしれません。  それから、あなたが最年少で騎士団長に就任しましたが、ビトーの希望もあって、彼が副長のままで、体制も報告システムも変わることはありませんでした。同世代どころか、稀代でも優秀で聡明な団長が、この問題に気付かないはずがないと思い、この二人が繋がっていると思ったんです。  一方で、私が実家の孤児院に帰った時、『コレソ=カセーサ』という女が、経理の職に就いていました。第一印象は、綺麗な人、頭が良さそうな人、何でも見透かしそうな人、心地良い香りもするという感じで、実際、その能力を活かして、運営資金の調達まで行っていたと聞きました。  それからしばらく経ったある時、副長室に報告に行った際、その女と同じ香りが部屋の中でしたんです。あれから帰省していなかったのに、自分でもその香りをよく覚えていたなと感心しました。その時、彼女が部屋に隠れていたのか、残り香だったのかは分かりませんが、騎士団副長がわざわざ部屋に呼ぶ女とは何者なのかと考えました。  プライベートで身内や友人を呼ぶのは、上司の許可が必要ですから、団長とグルの場合は容易です。それを確認するのは危険なので、まずはその香りが本当に彼女のものだったのかを確認しようと、来訪応対者記録用紙を警備隊から見せてもらいました。  すると、ビトーがその日に誰かと会ったという形跡さえ残されていませんでした。この場合、警備隊もグルか、それ以外の何らかの方法で、彼女が城内に侵入したということになります。ただ、幸いだったのは、その日の正面城扉警備兵が、私がよく知る優秀な兵士二人だったので、後者であると分かりました。もし、別の兵士だったら、警備隊全員を疑っていたところです。  結局、侵入方法は特定できませんでしたが、記録に残さないのは怪しすぎると思い、彼女を調査するために、一日だけ休暇を取って帰省してみたら、すでに経理を辞めて行方不明になっていました。セフ村出身というのは聞いていたので、セフ村の場所を調べたら、数日程度の休暇を取って行けるような場所ではなかったので、そこで調査を断念しました。その直後です。団長が一ヶ月の長期出張に行くので、ビトーが団長代理になると聞いたのは……。  団長が一人で長期出張に行くことなど、それまでありませんでした。あまりにもできすぎたタイミングだったので、ビトーが何かを仕掛けたのだと思いました。ここで、あの言葉を思い出したんです。『おれは城内組織のこととか知らねぇけどよ』。この一連の妨害工作で、リターンを得る者は城内にいない。城内で一番得をするビトーでさえ、団長の役職を固辞したのだから。  つまり、城の外、あるいは国の外で計画されたものなのではないかと思いました。前者であれば、国家特殊情報戦略隊が察知している可能性が高いので後者。そして、この事件は、国外スパイによる破壊工作だったのだと結論付けました。団長と副長がグルの場合は、計画が次の段階に進んだ、もしくは仲間割れ、そうでない場合は団長を陥れたことになります。  いずれにしても、世界最高戦力と言われた団長が、陛下でさえ制御不能になってしまうと、国家の緊急事態と言わざるを得ません。そして、そのまま団長が戻ってこない可能性の方が高かったので、少なくとも城内にいる警備隊と騎士団で王家のご安全を確保するしかないと思い、素性を隠して、警備の最適化を警備隊長経由で進言していただきました。  そんな時、団長が戻ってきたという噂が城内で広まっていました。騎士団員に団長の帰還が一切知らされないのはおかしいと考え、その辺の警備兵に聞いても何も知らないと言われたので、様子を見ていたところ、宰相が訓練場にいらっしゃり、『報告係を騎士団長室に行かせ、団長の指示を仰ぐように』と命令を受け、警戒してこちらに参りました。大変長くなってしまい申し訳ありませんが、以上です」  要点どころか、全部話したな。まだコリンゼという人物を知ったばかりだが、何となく彼女らしさを感じる。  こう聞くと、彼女の論理には一部飛躍はあるものの、そう考えても不思議ではない状況だったと納得もできる。同じ状況であれば、俺も似たように考えたかもしれない。  コリンゼのシンシアへの評価は高かったことも伺える。それが逆にスパイ仲間と考えられて、信用を失わせてしまったか。  一方、アドのことは完全に信頼しているようだ。彼の何気ない一言が、彼女の行動に全て結び付いている。しかも、口調まで一言一句覚えているのは、中々できることではない。 「詳しく話してくれてありがとう。私の至らなさが君を誤解させたようだ。改めて申し訳ない。帰還報告をしなかったのは理由があるのだが、今は話せない。念のために言っておくが、怪しむ必要はない。その内、分かるはずだ。  あと、追加で一つ、聞いておきたいことがある。話に出た『親しい人』に、君は絶対の信頼を置いているようだ。その者の話をしていた時は、表情も声も、まるで憧れの人を想うようだったが、アドのことが好きなのか?」  シンシアがいきなりぶっ込んできた。現代では、セクハラで訴えられる質問だ。シンシアも普段ならしないことだろうが、彼女なりの考えがあるのだろう。  考えられるとすれば、アドがスパイである場合だ。聞きようによっては、彼の言葉は、コリンゼを誘導しているとも捉えられかねない。普段のアドを知ることができれば、彼と対峙した時の対策が立てられる。  と言っても、その対策は二つ。催眠魔法を解除するか殺すかだ。 「団長⁉ なぜ、『お兄ちゃん』のことを……⁉ もしかして、恋人……とか……? でも……」 「いや、それは断じてない。私が城を出てから、護衛の仕事を請け負う時に知り合った。国内の問題について、一切反論できない正論をぶつけられたよ。  何となく君のことを連想できる内容だったから、もしやと思っていたら、話に出てきた口調や単語まで同じだったから、間違いないと思った。三日前にも城下町ギルドで偶然会った。その時は、忙しかったのであまり話さなかったな」 「そ、そうですか……。アド……お兄ちゃんは、血が繋がっているわけではなく、孤児院でずっと兄のように接してくれていたので、そう呼んでいます。  お兄ちゃんは前に、『女は基本的に話がつまらねぇ。ただ、女にしては珍しく、中々面白いヤツを見つけた』と言っていました。だから、団長のことかと一瞬思ったんですが、よく考えたら、それを聞いたのは団長が有名になるより前、私と雑談していた時だったのでありえなかったですね。  お兄ちゃんは、私にとっては、もちろんかっこよくて優しい人ですが、男性に対する好きという感情ではなく、おっしゃる通り、憧れだと思います。年齢も離れていますし、お兄ちゃんも私のことを妹と思っています。  最初は、『俺はお前のお兄ちゃんじゃねぇ!』って言われていたんですが、私がずっとお兄ちゃんって呼んでいたら、ある時、『泣くんじゃねぇ! お前は俺の妹なんだろ? だったら、俺を困らせるんじゃねぇ!』って、怒られたのか慰められたのか、よく分からないような台詞を聞いて、それでもやっと兄妹になれたんだと嬉しかった記憶が鮮明に残っています。  そういうところもあって、お兄ちゃんはみんなから慕われているんですよ。お話に出した優秀な警備兵二人も孤児院出身で、『アド兄』って呼んでいます」  みんな、『家族』になりたかったんだろうな。アドは照れ隠しで拒否していたのだろう。  それにしても、孤児院出身者は優秀な人が多いのだろうか。優秀な警備兵二人と言えば、あの二人を思い出すが、別なら計六人、同じでも四人で、いずれにしても、偶然とは言い難い。  特別な教育でもされているのだろうか。シンシアと交流があるというのも関係しそうだ。フォワードソン家の教育プログラムを孤児院に適用している可能性が高い。  実は明後日午前、みんなでその孤児院に行くことになっている。シンシアから俺達に提案があり、院長への調査報告と今後の対策について話すためということだった。  孤児院出身のコリンゼも明後日午前に休暇を取っている。もしかすると、一緒に行くか、そこで会うことになるかもしれない。 「アドのことを話す時の君は、これまでの君とのギャップを感じられて面白いな。だが、さらに聞かねばならないことがある。アドがスパイ行為に手を染めている可能性を、自身の感情を抜きにして語ってくれ。場合によっては、彼を殺さなければいけないかもしれない」 「なっ……! そんな……こと…………っ!」  シンシアの想定外の言葉に、コリンゼは言葉が出ない様子だった。自分の愛する人や家族が疑いをかけられれば、誰しも驚きと戸惑いと怒りが湧いてくるだろう。しかし、コリンゼの反応から察するに、彼女は驚きと戸惑いの方が遥かに大きく、怒りが入り込む余地はなかったようだ。  しばらくして、コリンゼが口を開いた。 「なるほど、そういうことなんですね……。団長のお考えがよく分かりました……。すごいです! そのような発想は全くありませんでした! 本当に全身が震えました。この感動を抑えられません! はぁ……はぁ……」  大切な『家族』が疑われているにもかかわらず、コリンゼは歓喜に震えているようだ。ぶっ飛んでるなぁ。 「コリンゼのこの様子だと、『お兄ちゃん』よりもシンシアのことを盲信しそう」  ゆうが『いくつかの意味』に捉えられるようなことを言った。 「感動というより、快感と絶頂で脳と身体が震えたんだろうな。この短時間で、シンシアの信用が地底から山頂まで一気に駆け上り、その勢いのまま天まで昇った感じだろう。  今なら、シンシアの言うことを何でも聞きそうだ。アドも俺達もそのレベルに到達するのは難しいな」  俺は、ゆうのコメントの意味に全て答える形で、自身の考えを披露した。それに対して、ゆうは煮えきらないような反応をした。 「うーん……。姫の時もそうだったけど、あたし達が直接幸せにできないと、それはそれで不完全燃焼と言うか……。かと言って、でしゃばりたくないし……。何か良い作戦ないの?『女子幸福研究家シュークン』さん。別に今じゃなくてもいいけどさ」 「そうだなぁ……。『ごっこ遊び』に慣れたシンシアに賭けてみるか。コリンゼに対しては逆に『今』しかない。  一度机に上がって、触手を増やし、俺がシンシアに砂でメッセージを見せる。もう一本は、大きさを徐々に戻しながら、ゆうがゆっくりとコリンゼに向かわせてくれ。あとは、シンシアの台詞に合わせる」 「おっけー。」  急な作戦だが、考えていなかったことではないし、上手く行く自信はある。  俺達が動いて机に上がると、コリンゼが俺達に気付いた。シンシアは少しだけビクッとしたが、平静を装っている。 「団長、あ……あの、机の上で何か動いてませんか?」 「ああ、これか? これはな……」  シンシアが間を溜めている内に、俺は砂のメッセージを体に貼り付けた。 『新種の召喚尋問モンスターによる上司部下両思い尋問試行ごっこ』  シンシアがメッセージを確認後、席を立ち、俺達と一緒にコリンゼに向かっていった。 「私が城を出ていた時に知り合った魔法使いに、ここで呼び出してもらった触手だ。尋問で絶大な効果を発揮する。丁度良い機会だから、試してみたいのだが、いいか? 安全は保証されているし、苦痛もない。  君を疑うわけではないが、私の今の質問にすぐに答えず、話を逸らしたようにも感じたから、念のためということもある。そういう意味では、今からはすぐに答えようとしなくていい。  ただし、今の内に話す内容を組み立てておいてくれ。大丈夫だ、関係ないことは聞かない。私を信じてほしい。私もコリンゼを信じている」  良い台詞だ。シンシアからコリンゼに俺が言ってほしかった内容が全て盛り込まれている。 「団長がそのように私におっしゃるなら……私やります!」 「ありがとう。流石、私が最も信頼する部下だ」 「ああ……団長……。私もです。あなたは、私が最も尊敬するお方です! 何なりとおっしゃってください!」  コリンゼは恍惚の表情をして、シンシアに忠誠を誓った。 「では、立ち上がってそのままでいてくれ。鎧や服は触手が全部脱がしてくれる」  俺達は、シンシアの台詞通り、コリンゼの鎧や服を脱がし始めた。 「ぜ、全部ですか……?」 「コリンゼ、決めつける前に聞けとは言ったが早すぎないか? いや、良いことではあるのだが、決めたことを口にして、その舌の根も乾かぬ内に、というのはどうかな。そんなに私に裸を見られるのが嫌だったか?」 「いえ、そのようなことは決してございません! 私の貧相な身体をお見せするのが……、団長の目に毒なのではないかと思いまして……」 「それこそ、そんなことはない。貧相どころか、むしろ良い方だし、バランスも取れている。君の身体を着替えの時に少し見たことはあるが、美しかった。正直に言うと、もっとじっくり見てみたいと思ったほどだ。おっと、これ以上褒めてしまうと、『尋問』に支障が出るか」  俺達は、二人が話している最中もコリンゼの服を脱がして、下着姿にまでしていたが、この時点でも確かに美しい。  コリンゼの容姿は、一言で言うと理知的なキリッとした委員長タイプ。身長はユキちゃんより少し高い。髪型は左右に少し広がったボブヘアー、若干つり目がち、顎のラインはシュッとしていて、眼鏡が似合いそうだ。この見た目で、アドの話をしている時やシンシアを崇める時のような表情をするから、かなりのギャップがあるのだろう。  俺達は、コリンゼの最後の下着も脱がし終えた。それはすでに湿っていて、やはりシンシアの質問で快感を得ていたことが分かった。 「あっ……、団長……光栄です。私の全てをご覧ください……」 「綺麗だよ、コリンゼ……。よかったら、触手に巻き付かれている今の感想や、これから感じたことも言葉で表してくれないか?」 「はい……。触手が私の身体を這っているだけで、気持ち良いです……。締め付けも心地良く、支えがしっかりしているので、体重を預けられそうな安心感があります……。そして……あっ……あんっ! はぁ……はぁ……じ、焦らされたあとに……いきなり……乳首と……せ、性器に……吸い付かれて……、舌で……あっ……ねっとりと舐め回されて……んっ……何も考えられなくなります……」  一つ一つを声に出して説明してくれるコリンゼ。まさに実況プレイだ。 「体を浮かせてくれるから、力を全部抜いても大丈夫だ。魔法使いや大声を出しそうな相手の場合は、即座に口を塞ぐが、そうでない場合は塞がない。口を開けて舌を出すと、キスしてくれる」 「はぁ……はぁ……承知しました。あの、団長……一つだけよろしいでしょうか。私、男性経験がないので……その……このまま貫かれるのでしょうか……」 「いや、未経験の場合は、平常時と興奮時、両方の承諾がなければ挿入されない。キスは平気か?」 「お兄ちゃんのほっぺにキスするぐらいですね……。舌を絡めるキスはありません。もしよろしければ……だ、団長と先にキスしてみたいです……」 「実は、オススメは触手と先にキスすることなんだ。まずは、肉体的な快楽のみを得て、次に私と精神的な快楽を得て、もう一度触手に戻る際は、人間と同じく愛情を注ぐことで、その両方の最大快楽を得る、という流れだ。  逆の場合、どちらか一方に愛情が偏る可能性がある。コリンゼには是非、最高の幸せを感じてもらいつつ、『私達』のことを愛してほしい」 「そういう考えもあるんですね……。本当に私の想像を遥かに越えていく……。承知しました。団長のおっしゃる通りにいたします」  俺達は二人の会話中に緩めていた手を再度動かし、彼女を宙に浮かせると、ゆうはコリンゼに舌を絡ませに行った。 「ん……はぁ……んっ……ん……あっ……」  ゆうとのキスで、気持ち良くなっていたコリンゼだったが、ゆうはいつもより早くキスを切り上げ、シンシアの方を向いた。一方、コリンゼは名残惜しそうな表情をしていた。 「それでは、コリンゼ。今の君の表情も素敵だが、私を誘惑するような表情をリクエストしようかな。私に向けられた愛情に、私が愛情で答え、二人の気持ちを一つにするんだ」  コリンゼに一つ一つ丁寧に自身の考えを教えるシンシア。これも『指導』の一環なのだろう。  俺達は、コリンゼをシンシアの頭の位置まで下ろした。 「団長……一生お慕い申し上げます……。んっ……んっ……はぁ……」  永遠の愛の誓いのあと、シンシアの全てを受け入れるように、コリンゼは口を大きく開け、舌を突き出し、とろんとした表情でシンシアのキスを誘った。そして、すぐにそれに応え、心を通わせるシンシア。  二人のキスがしばらく続くと、シンシアの方から口を離した。一方、コリンゼは、やはり名残惜しそうな表情をしていた。 「さて、コリンゼ。この触手のことを、これからは『シュウ様』と呼ぶこと。世界で私と同じぐらい、いや、私以上に君を幸せにできる存在と認識するんだ。君はもうそれを実感しつつあるだろう。ただ、身を委ねていればいい。  もちろん、自分から動いてもいいが、これが尋問ということを忘れないでほしい。動けば動くほど、焦らされ、相手にされなくなる。感想も言わなくていい。それが自然と要望になってしまうし、意味がないからだ。少しでも辛くなったら、私に助けを求めてかまわない。  それではシュウ様、よろしくお願いします」  シンシアから自由にしていいとの許可を得たので、俺達はまず、コリンゼの足をM字開脚させ、彼女の全ての穴をシンシアに見せつけた。 「あ……ああ……団長に……全部見られてる……」  その後、ゆうがコリンゼにキスしたのを合図に、俺達の尋問が本格的に始まった。しかし、実は最初とやることは変わらない。ただ、俺達は決して急がない。  すると、コリンゼが急いで快感を求めようと、自分の身体を押し付けたり、揺らしてくるので、そこに力が働かないように俺達は身を引く。その度に、彼女は泣きそうな声で哀願する。 「シュウ様ぁ……! お、お願いです……。もっと……もっと気持ち良くしてくださいぃ! このまま……では……私……おかしくなるぅぅ……! はぁ……はぁ……うぅ……」  コリンゼは、涎さえ抑えきれなくなり、口からダラダラと流している。もちろん、それも貴重な体液なので、床に落ちて無駄にならないように、俺達はありがたくいただく。  少し喋らせてから、ゆうが再度コリンゼの口を塞ぐと、それだけで意識が飛んでいるかと思うほどの白目を向いていた。 「お……お……おっほ……」  嗚咽のような声が彼女の口から漏れる。その様子から、彼女の脳は、もう快感に完全支配されているようだ。  この状態で、ゆうが彼女からどんな言葉が出るのか確かめようと、また口を自由にした。 「もう……らめぇぇへぇ…………なっちゃった……私……おかしくなっちゃったよぉぉぉ……うぅ……気持ち良くなることしか……考えられないぃぃぃ!」  コリンゼの顔からは、涙と鼻水と唾液が全て流れ出していた。まるで精神が崩壊したかのような彼女の表情と言葉に、流石の俺も少し焦った。 「お兄ちゃん、これ、やりすぎたわけじゃないよね? そこまでではなかったと思うんだけど」 「多分大丈夫だとは思うが……。コリンゼの『感情が突き抜ける性質』が出たのかもしれない。シンシアに対しての信頼と同様だ。これまで感じたことのないレベルの快感を覚えたことで、『俺達に対する感情』を通り越して、『快感に対する感情』が最高潮に達した。  途中でシンシアに助けを求めなかったのも、シンシアのことが頭に浮かばなかったからだろう。目の前にいるにもかかわらず……。こうなったら、逆に俺達がシンシアに助けを求めるか」  俺は机に配置したままだった触手と砂を再利用して、メッセージを体に貼り付け、シンシアにそれを見るように合図した。 『質問を始めてほしい。目的までには数段階必要かも』  簡潔なメッセージだったので、意図が伝わったか不安だったが、シンシアが頷いたので、きっと大丈夫だろう。 「それでは、コリンゼ。今からする私の質問に答えてもらおうか。答えなければ、当然これ以上気持ち良くなれない。  最初の質問、アドのことを考えて自慰をしたことはあるか? その最高頻度を一週間単位で答えろ」 「は、はひぃぃ! 毎日……毎日していましたぁぁ!」 「アドと肉体関係になりたかったということだな?」 「は……はい……!」 「アドとは兄妹の感情で、男性への感情ではない、憧れだと言ったのは嘘か?」 「そ、それは嘘ではありません! 本当です! お兄ちゃんへの自分の気持ちが分からなかっただけです! 全部混ざっていたんだと思います!」 「それなら、客観的にアドを分析することもできるか?」 「は、はい!」  シンシアのおかげで、コリンゼの感情の軌道修正が上手く行ったようだ。あのままだったら、少しでも難しい質問には、まともに答えられなかっただろう。性の質問から徐々に慣らしていったのは、尋問の効果を確認することに加え、コリンゼの精神を落ち着かせるためでもある。 「では、再度質問しよう。アドがスパイ行為に手を染めている可能性を、理由と共に答えろ」 「は、はい。洗脳されていない限り、可能性は皆無です。ただし、確証はありません。あくまで、彼の信念から導き出したものです。彼の口癖は、『強国が外圧で変わることはねぇ。中から変えていくしかねぇんだ』でした。  それだけ聞くと国内のスパイに加担しそうですが、『正当な論理とやる気さえありゃ、どうにでもなる。一般国民なら、城内の優秀なヤツらに怒りを見せてそれを言えばいい』とも言っていました。彼からすれば、『理』の味方であり、手段も『理』。つまり、妨害工作、破壊工作を行う必要がないのです。  では、城内の者を脅迫、または誘導しているのかと疑問を抱くかもしれませんが、ある時、『それなら、お兄ちゃんは騎士とか省内幹部になるんでしょ?』と彼に聞いたことがありました。すると、『ならねぇよ、ガラじゃねぇし。お前達がなれよ。城外からしか見えねぇこともある。それをお前達に伝えればいいだけだろ』と返ってきました。信頼できる私達を通してのみ進言するということであり、判断は私達に委ねられています。これも同様に、スパイ行為でないことを物語っています。  だとすれば考えられるのは、変わらない国の現状を憂慮し、前言を全て撤回した可能性です。しかし、これも口癖で『嫌な世の中だぜ』と言いつつも、自分が何とかしてやろうという感じは全くありませんでしたが、その言葉のあとは、大体状況が良くなっているんです。  例えば、一時期、ギルドが仕事を求める人達の吹き溜まりのような雰囲気になっていたのを嘆いていましたが、結構前にそれが解消されたようですし、食事の美味い店が評価されずに客足が少ないことを嘆いていましたが、今では著作権システムのおかげで、評価されていない店はありません。他にもありますが、同様に改善されています。  つまり、『変わらない国』ではないので、前言を撤回した可能性もありません。これほどまでに『変わる国』であるのは、おそらく、偶然ではないと思います。彼自身は直接の『行動』はしませんが、キーパーソンへの彼の『言葉』がキッカケで改善されている可能性が高いです。  それは次に会う機会に是非聞いてみたいとは思いますが、もしそうであれば、まさに『弁士』であり、『国士』という他なく、国外のスパイでも決してありません。  以上のことから、彼が内部、または外部のスパイ行為をしているとは考えられません」  この状況でのコリンゼの理路整然とした話にも驚いたが、アドの優秀さがこれほどとは思わなかった。話を聞く限り、リオちゃんとも会っている可能性がある。彼女は、アドが言う『面白い女』候補の一人になっているのだろうか。 「ありがとう。素晴らしい答えだった。そうか……アドには頭が上がらないな。自由人のような見た目なのに、中身は真の愛国者か。改めて、人の真意を測る難しさを感じるよ。  ただ……コリンゼがアドを好きだった気持ちも分からなくはないが、私は嫉妬深いんだ。君は私を一生慕うと言ってくれたが、仮に君が男に恋心を抱いたり、抱かれたり、快楽のためだけに体を重ねるのも耐えられない。独占欲とも違う気がする。  相手がシュウ様と私、あるいは私が信頼している人達であればかまわないのだが、それ以外の者へのそのような行動は避けてほしいと思ってしまうんだ。君はどう思うだろうか。もちろん、君の自由だが、私とは違う考えを持っているのであれば、これ以上、私達の関係を続けるべきではないと思う」 「私のシュウ様と団長を想う気持ちは本物です! お二方に全てを捧げる所存! 団長がお認めの方以外とは、心も体も一切交わらないことを誓います!」 「ありがとう、コリンゼ。すごく嬉しいよ。最高の回答へのご褒美だ。シュウ様、彼女に最高の幸せをお与えください」  シンシアの言葉通り、俺達は再度手を動かしながら、俺はゆうにこれからの流れを伝えた。 「シンシアがコリンゼを元の状態に戻せることが分かったから、さっきみたいに限界まで焦らしてみるか。言動がおかしくなり始めたらフィニッシュと行こう」 「おっけー。」  俺達は、これまでと同様の『責め』をコリンゼに行った。興奮状態がまだ微妙に続いていたのだろう。間もなく、彼女は体を動かし始め、俺達を求めるようになった。 「シュウ様ぁ……。ご褒美……ご褒美ですよね……? シュウ様ぁ、もっと……もっとくださいぃ!」  コリンゼの必死の要求も虚しく、俺達はそれ以上踏み込まなかった。 「ああ……ああぁぁ……ああああああ!」  我慢できずに言葉にならない声を上げるコリンゼだが、まだ限界ではない。俺達のポリシーから、決して苦しませてはいけないので、その加減が難しい。急な刺激を与えてはいけないし、この状態で快感を与えるのを止めたり、それを感じないようになったりしてしまうと、拷問に等しくなるので、極めて緩やかに上昇していくように調整する。 「気持ち良いぃぃ……気持ち良いよぉぉぉ……! もう無理ぃぃぃ……!」  まだ大丈夫そうだ。  俺は下半身の触手の舌を使い、コリンゼから溢れ出る液体でピチャピチャと音を立てることにより、少しだけ彼女の興奮を演出してみた。 「うぅ……だめぇ……」  どうやら聞こえているようだ。ということは、まだまだ行けるな。  ゆうもそれを察し、コリンゼに舌を絡めに行った。これも、少しだけ酸素不足にすることにより、快感と興奮を高める手法だ。身体に巻き付いている触手は、いつもなら締め上げるのだが、今回は最低限、体を支える程度にして、肌を這うことにしている。  全身から脳に快感が絶えず集まり、絶頂に限りなく近づいているものの、自身では決して辿り着くことはない。そこに達するのは、俺達に全て委ねられている。  そうこうしていると、コリンゼの顔が、色々な汁で再度ぐちゃぐちゃに乱れていた。そろそろか。  ゆうは、コリンゼから限界の言葉を引き出そうと、口を離した。 「うぅ……もうらめぇぇ……無理ぃぃ……頭おかしくなりすぎて死んじゃうぅぅぅ! 気持ち良すぎて死んじゃうぅぅぅぅ!」  コリンゼの言葉を聞いて、俺達はラストスパートに入った。しかし、この様子なら五秒と保たなそうだ。 「あっ! ああっ! ああああっ! きちゃうううぅぅぅぅぅっっっ‼」  コリンゼは絶叫と共に、俺の口に盛大な潮を吹いて気絶し、もちろん俺も気絶した。コリンゼよりも早く気絶から目覚めた俺は、机の砂で謝罪のメッセージをシンシアに書いた。  ぐちゃぐちゃだったコリンゼの顔は、ゆうがいつの間にか綺麗にしてあげていた。



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