俺達と女の子達が調査報告して国家の英雄になる話(2/3)

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 それから、シンシア達を除く全員が、玉座の間を出ていったが、姫が出ていく時、咳払いで合図したあと、シンシアにアイコンタクトと口を動かしたように見えた。その言葉は多分、『あとで来て』。おそらく、シンシアも気付いたはずだ。  シンシアが姫に呼び出されたのなら、クリスもその時間に出て、シキちゃんの確認ができればベストだ。このあと、イリスちゃんに暗号を聞いておこう。  それにしても、姫はまさに『お姫様』という感じだったな。シンシアと同じ金髪ロングで整った顔立ち。美人でもあり、かわいくもある。身長はユキちゃんと同じぐらいだろうか。スタイルも良く、白いドレスがよく似合っていた。 「ふぅ……。改めて、みんなありがとう。シュウ様も、多大なるお力添え、ありがとうございました」  シンシアが俺達にお礼を言った。 「お疲れ様でした。このままユキさんの作業に入りますか? そこで一段落して、美味しい夕食を迎えるというのが良いでしょうか」  クリスがシンシアに問いかけた。 「そうしよう。ユキ、すまないがもう少し力を貸してくれ。警備隊長と一緒に回りながら、説明をしてもらうことになる」 「分かりました」 「ヨルンは城内で気になったことがあれば聞いてくれ。今後のシステム設計で参考になるかもしれない」 「はい、ありがとうございます!」  一同が玉座の間から出ていこうと歩み始めた時、シンシアが何かを思い出したかのように立ち止まった。 「その前に、陛下がお許しになった親書を拝読してみようか。きっと、今が丁度良いタイミングだろう。この場で処分できる」  シンシアは、二日経っても肌身離さず持っていた二通の親書を、レドリー辺境伯の方から先に開けて読んだ。 『クレブへ そういうことだから、あとはよろしく リディルより』 「え⁉ 何ですかこれは! これが親書ですか⁉」  ヨルンがそれを覗いた瞬間に驚いた。宛名と差出人が手紙の端に書かれ、メッセージがポツンと真ん中にあった。 「全く……。あの人は、やっぱり掴みどころがないな……」  シンシアが感心していたのか呆れていたのかは分からないが、少なくとも怒ってはいなかった。 「あはは! 面白いよ、レドリー辺境伯。良いお父さんを持ったね、二人とも!」 「ユキさん、あなたも将来、あの人がお父様に立候補してくるんですよ? その情熱は、きっと『勇運』を貫通してきます」  ユキちゃんに怖い冗談を言うクリス。流石にユキちゃんが拒否すれば大丈夫だよな?  それにしても、これを見て、王はよく笑わなかったな。 「エトラスフ卿の方はどうだろう……」  シンシアがエトラスフ伯爵の親書を開いた。そこには、辺境伯とは対照的に、びっしりと文字が書かれていた。 『クレブへ もちろん覚えてるよな? あの約束。お前なら、しらばっくれそうだから、念のために書いておくか。俺がお前に手紙を出すのは生涯に一度きり。我が国最大の緊急事態の時だ。  お前は、そもそもそんな事態にはさせないと言った。そして、もしそうなったら、俺か、俺が信頼して手紙を渡した者の言うことを何でも聞くと言ったな。それが、今だ。この手紙はちゃんとシンシアに見せるように。シンシアもこいつがしらばっくれたら追求するように。大丈夫だ。クレブはシンシアの言うことを聞くし、シンシアもクレブに対して、無茶なことは言わないだろう。  ああ、それと、言うことを聞く約束が果たされたら、お前の気が緩むかもしれないから、再度約束を交わそう。次に俺が手紙を出す時は、王を辞めてもらう。言っておくが、これは裏切りではないからな。お前の怠慢による国家破綻を防ぐためだ。ある意味、お前が俺や国民を裏切っているとも言えるだろう。そうなれば、俺も自害する。弟子の責任は師匠の責任だ。二度目はない。それが、生涯に一度きりと言った理由だ。  ということで、久しぶりの愛のムチは効いたかな? 言っておくが、冗談ではなく本気だぞ。それでは、また城で会おう。その際は、この手紙を読んだ時の正直な感想でも教えてもらおうか お前の愛する疾風の英雄より』  すごい文章だ。これを読んで、王はよく震えて泣かなかったな。 「…………。エトラスフ卿の印象とはまるで違う……。また驚かされてしまったな……」 「陛下が弟子で、エトラスフ伯爵が師匠の関係なのも驚きです。レドリーお父様もご存知だったのでしょうか。  今思えば、カレイドの設定でも、性格や教え方は違いますが、師匠が出てきました。私はシュウ様とシンシアさんの関係しか想像していませんでしたが、陛下とエトラスフ伯爵の関係から発想したのでしょうか。  もしかして、『疾風の英雄』にはもう一つの意味がありませんか? ユキさん、分かりますか? 戦場での活躍で名付けられた経緯しか私は知りません」  クリスが興奮気味に、ユキちゃんの『勘』を聞いた。 「うん。二つ名を公の場で命名したのでなければ、多分、その二つ名を考えて広めたのは、現国王だと思う。  その厳しい教えから、強風になぞらえて『疾風』。でも、とても尊敬すべき師匠で、彼にとってはどんな時でも『英雄』だった。強すぎて、眩しすぎて前を向けないっていう意味でも『疾風』を使ったのかも。それと戦場での活躍を重ねて、『疾風の英雄』にした。すごく良い名前だと思う。エトラスフ伯爵は、その締めの書き方から、もちろんそれを知っていて気に入っている。  改めてこの手紙すごいよ。国家への愛、弟子への愛、師匠への愛、もちろんシンシアさんへの愛、そして信頼と責任、その全てが詰まってる。まさに、王の師匠に相応しいと思う」  名付けが得意なユキちゃんらしい考察と感想だ。それはもちろん正しいだろうし、あの王であれば、エトラスフ伯爵との関係や教えもあり、それを読み解くことができるだろう。だからこそ、あの場でその感動を抑え、平然としていたことがすごかった。  そんなことを考えていると、ヨルンが恐る恐る手を挙げた。 「あの、今気付いたんですけど、この親書二通、どちらから先に読んでも成り立ちませんか? レドリー辺境伯のシンプルさに最初は驚きましたが、言うまでもなく、シンシアさんやクリスさん、ブレインのイリスちゃんを信頼していればこそですし、伯爵と王の師弟関係、そして交わされた約束を知っていれば、辺境伯が長々と書く必要はありません。もしかして、これが『粋』ですか?」  これも先入観がないヨルンらしい気付きだ。そして、報告会が始まる前にシンシアから囲碁と一緒に教えてもらった『粋』を早速理解しつつあった。 「なるほど、そうだな。私はてっきり、エトラスフ卿だけがその手の内容をお書きになるかと思っていたが、この二通は、どちらも方向性の異なる『粋』で、さらに二通合わせて『粋』だ。本当に奥が深いな。これが、『レドリー卿』のすごいところだ。  詳しくは言えないが、パーティーのダンスの時と同じだな。早くみんなに見せてあげたいよ」  あの人生観が変わるパーティーに三人が参加したら、どんなふうになるのか気になる。しかも、次はレドリー辺境伯やリーディアちゃんの『粋』が加速しているはずだ。だが、参加者がそれを理解できないと意味がないから難しいところではある。 「何かすごいなぁ、王もレドリー辺境伯もエトラスフ伯爵も。シンシアに全てを任せたのも、無茶な褒美をあっさりと認めたのも、もちろん彼女を信頼して、それが一番だったっていうのもあるけど、『約束』もあったからなんだよね。親書を読む前から分かってたんだ。  伯爵が一線を退いた理由も、弟子を甘えさせないため。そして、師匠のやり方に倣って、信頼できるシンシアやアリサちゃん達が辺境伯邸に向かうように計らった。方法自体は半分運任せだったけどね。  でも、何て言うか、ネタばらしも含めて、全てに清々しさすら感じるよ」  ゆうの言葉もまた、様々な感情が込められているような気がした。 「エトラスフ伯爵のシンシアへの信頼度が妙に高かったな。これを書いたのは、シンシアがカレイドの変装を示唆する前だ。もしかすると、伯爵はそのことに気付いていた可能性がある。  とすれば、俺が書いた遺書のように、シンシアがそのことを自分に少しでも伝えてくれた場合とそうでない場合の二通用意して、レドリー辺境伯から、状況によってそのどちらかを渡してもらうよう頼んでいた可能性もある。  これらの親書は一見、王の威厳や、辺境伯や伯爵の尊厳を損なうものに思えるが、実は全く逆なんだよな。真の理解者は、むしろ彼らを尊敬する他ない。また、彼らの絆の強さも分かる。  王は、シンシア達であれば、それを理解できると思ったから読む許可を与えた。『約束』は果たしているから、記述通りシンシアに見せる必要がないにもかかわらず。  そして、親書であることに加え、それを理解できない者に読まれたり、内容を他者に話されたりしては困るから、同時に信頼できる者に処分させる。  その内容も含めて、この一連の行動を理解できる人は、そういない。ゆうは誇っていいぞ」 「あ、何か偉そう。この親書でお兄ちゃんが尊大になっちゃった」 「親書ぅ必罰ということか。お前の罵倒がないことが俺にとっての罰だからな。奥が深いだろ?」 「…………。はぁ……」  何か言えよ。ため息だけだと、俺が処分されていることになる。まあ、ゆうの感情は、ある程度整理されたようだから、良しとするか。  しばらくして、親書の内容を心に刻み、俺達が話していたような考察で盛り上がっていたシンシア達が落ち着いたようだ。 「では、親書を処分しようか。ユキがやるか?」 「私が魔力境界具現化魔法で親書を包んで浮かせるから、クリスさんが消滅魔法で消してくれる? 詠唱は教えてもらったけど、まだ見たことないから」 「分かりました」  ユキちゃんとクリスが詠唱を始め、ユキちゃんが魔法を発動すると、シンシアが持っていた親書が半透明な立体に包まれて、宙に浮いた。魔力粒子による操作だろうか。  さらに、彼女達の前方三メートル、一メートル半ぐらいの高さに移動させると、クリスが魔法を発動し、瞬時にその立体ごと消滅させた。魔力境界の化学式は不明だが、紙は炭素、水素、酸素を含んでいるから、それを分解すると、炭素が床に落ちるはずだが、落ちていない。一酸化炭素か二酸化炭素になって、全て気体になったか。水も落ちていないし、水蒸気が発生したようにも見えなかったので、水素も酸素も結合せずにそのまま霧散したようだ。ますます『昇華』っぽいな。もちろん、それだけの熱を加えていないので、昇華ではないが。  いずれにしても、対象の周囲は、人間にとって一瞬だけ有害になるということか。空気の流れはそれほどなかった。つまり、消滅時に真空状態になるわけではなさそうだ。一言で言うなら、分子分解と再結合による気体化魔法、が分かりやすいだろう。 『おおー!』  クリスの消滅魔法の一部始終を見て、他の三人は感動していた。 「ありがとう。それでは行こうか」  シンシアに続いて、他の三人も歩みを進めた。そして、玉座の間には天井の俺達以外、誰もいなくなった。  扉を通った時のシンシアの表情は、いつも以上に美しく、穏やかだった。  確認魔法トラップ設置作業を一通り終えた一同は、食堂で夕食を済ませ、シンシア達の部屋に戻ってきていた。  部屋に入る前、丁度パルミス公爵に会い、その場でシンシアの任命式とユキちゃんの叙爵式の日程の調整が行われた。ユキちゃんが、まだセフ村には帰らないので、このまま式を開催してほしいと希望したため、二つの式は最短で一週間後の午前に同時に行われることになった。  城内は交代制なので、日曜日でも関係なく行うらしい。むしろ、日曜日の方が、貴族が集まりやすく、式の終了後は、城内または城下町で情報収集する時間が取れるので、好まれるとのことだ。  なぜ一週間後なのかは、レドリー領を実質的に割譲する話がある以上、レドリー辺境伯または代理人を叙爵式に呼ぶためらしい。爵位名の打診はなく、その場で発表され、変更はしない。ドレスを着たいなら用意するとのことだったが、ユキちゃんは今の姿で参加すると断った。  それまでの予定は次の通りだ。  明日午前は自由、午後に外交から帰ってくる王妃と第二王子との謁見および王族との晩餐。  二日後の午前にスパイの処刑、午後に食堂調理場の毒判別魔法トラップ設置。  三日後は自由。  四日後は臨時の騎士選抜試験。  五日後も自由。  六日後はシンシアが推薦する二人とパルミス公爵の打ち合わせ、二人はそのまま翌日の式を見学、予定が合わなければそれ以降にするということになった。  また、シンシアの後任推薦は、できればその期間で行ってほしいということだった。任命式で同時に発表できるからだ。引き継ぎと教育の期間は含まないので、それほど急ぐ必要はないようだ。  騎士団は現在待機状態で、明日午前九時に騎士団の報告係が騎士団長室に来ることになっているので、団員への指示があればその者に伝えてほしいとのことだった。騎士選抜試験の城内通達はパルミス公爵からしてもらうことになった。  パルミス公爵との話が終わり、一同は部屋に入った。少しの間、応接室側で休憩していると、シンシアがソファーを立った。 「みんなも気付いたかもしれないが、私は姫に呼ばれているので、そろそろ出る。よろしければ、シュウ様もご一緒いただけないでしょうか。また、私が撫でるまで左腕でお待ちください」  俺達は触手を増やし、縮小化してシンシアの左腕に巻き付いた。 「僕も気付きましたが、時間はどうやって決めたんですか? 早すぎても遅すぎてもダメですよね?」  ヨルンがシンシアに質問した。 「いつも会っていた時間帯があるんだ。昔から、私は姫のお側に置いていただけたからな。雑談したり、一緒にベッドで寝たりしていただけだが、嬉しかったし楽しかった。みんなは部屋で楽しんでいてくれ」  昔を懐かしむような表情をしたシンシア。そんな彼女が、スパイ調査名目とは言え、城を出ていくことになった時の心境は、想像に難くない。過去も未来も……。 「そっか……。じゃあ、ヨルンくん、私達もベッドに行こうか! 両性具有をちゃんと確認したいし。昨日のお風呂では、あんまりできなかったからね」  ユキちゃんは、『反攻』に跳ね返されないぐらいに、ヨルンに優しく抱き付きながら、頭を撫でていた。 「ユキさん、僕を研究対象にしないでくださいね!」 「やだ。色んな表情や声を引き出すんだから! あ、それと、私のことはユキお姉ちゃんって呼んでね。もちろん、年の近い姉と話すみたいな口調で」 「えー! 僕達、年齢ほとんど変わらないのに、お姉ちゃんですか……。分かりまし……分かったよ、ユキお姉ちゃん」 「やったー! 私、妹か弟がいたら、絶対溺愛してたと思うんだよね。イリスちゃんもかわいいけど、ヨルンくんもかわいいよ」 「お姉ちゃんが僕を呼ぶ時は、ヨルン『くん』なの? 妹か弟扱いなのに?」 「ふふっ、良いところに気付いたね。そのまま名前を呼ばないのは、年上のお姉さん感を出すのと、姉であると同時に姉の友達、あるいは友達の姉感を共存させるためだよ。  こうすれば、シンシアさんやクリスさんを姉と見立てて、私をその友達と妄想することもできる。ヨルンくんの方が得意でしょ? こういう曖昧な関係を想像するのは」 「な、なるほど。妙な説得力があるね……。何より、僕に合ってるような気がする」  ユキちゃんの話術なのか、『勇運』の影響なのか、ヨルンは彼女にあっさり納得させられていた。 「ユキちゃん、何かお兄ちゃんみたいなこと言い出したね」 「俺は、ゆうみたいなことを言い出したと思ったけどな。俺達に思考が似てきたのかな。これも『勇運』の影響かもしれない」  俺達がそう話していると、シンシアがソワソワしだして、扉の方に足を向けた。 「二人の会話が面白くて、いつまでも聞いていたいが、私はこれで。ヨルンはユキをあまり責めないように。感じやすいから、すぐに終わってしまうぞ」 「わ、分かりました」 「それが邪道なことは、ヨルンくんも分かってるよね? お姉ちゃんに全部任せてね。本当は、私が精通させてあげたかったけど。シュウちゃん相手ならしょうがないね」  おねショタの王道を理解しているユキちゃん。正確にはヨルンは『ショタ』ではなく、雰囲気から形式的にそう呼んでいるが、それはともかく、ユキちゃんはなぜその王道を知っているのか。俺のようにおねショタ触手本を熟読しているわけでもないだろうに。  しかし、残念ながらユキちゃんには欠けているものがある。『お姉ちゃん』には本来、『経験豊富さ』が必要だ。『経験豊富なお姉ちゃんの余裕』と『経験不足なショタの戸惑い』がぶつかり合い、その相乗効果で『おねショタ』というジャンルが形成されているのだ。  ただ、一方では『お姉ちゃん』の『性知識不足』も一属性、一ジャンルとして確立されているから難しいところだ。その場合は、『経験不足なお姉ちゃんの戸惑い』と『経験不足なショタの必死さ』が構成要素になるだろう。『知識不足』と『無知』では違うし、『倫理観欠如』とも違う。  宿屋の時は、シンシアとクリスのヨルンに対する『好奇心』の方が勝っていたから、『おねショタ』とは言い難かった。さて、ユキちゃんの場合はどうなるか。  クリスはこのタイミングで、俺がお願いしていたことを実行してくれるだろう。 「では、私も外に出ます。しばらくしていなかった監視者の確認と、空間魔力感知魔法の練習を兼ねて。私が戻ってくるまで、ヨルンくんは果てずに我慢していてくださいね」  俺の期待通り、クリスがそう言うと、シンシアと一緒に部屋を出た。俺達はクリスにもシンシアにも巻き付いている。  二人で少し歩いてから、クリスがシンシアに話しかけた。 「例の件、今から確認します。自然にメモを書ける場所はありますか?」 「こっちだ。私も確認まで付き添う。実はまだ時間に余裕があるんだ」  シンシアの先導で、三階まで上がると、どうやら開けた場所に出たようだ。 「そこのバルコニーに出れば、わざわざ正面入口から出なくても感知魔法を使えるはずだ。その手前に、外に出なくても窓を覗ける所がある。窓枠の大きさと高さ、奥行きが丁度良いから、そこなら誰にも悟られずに書けると思う。  ちなみに、四階は王族方の部屋で、階段とそれぞれの扉の前に二人ずつ警備兵が配置されている。一定以上の役職でない限り、階段の兵士に止められる。それより下の者が緊急の報告をする必要がある場合でも、その兵士達に代理で伝えてもらわなければならない」  王族の部屋が低階層でないのは、窓からの侵入者対策か。階段の上り下りの負担や、連絡の不便さを代償にした危機管理方法だ。  しかし、バルコニーがあるなら、それが窓への侵入を手助けしていないだろうか。どこかから監視されているのだろうか。 「ああ、それと、今気付いたのだが、バルコニーに出た者は、否が応でも下の警備兵から注目される。おそらく、そこから距離はあるにしても、王族方の窓に侵入したり、攻撃したりしないかを警戒しているのではないだろうか。  怪しい動きをすると、下見していると捉えられて、要注意人物に名を連ねるかもしれない。だとしたら、私もあからさまに姿を現して、城下町の景色を見せているように振る舞った方が良いだろうな」  俺の疑問にシンシアが答えてくれた。成長したシンシアだから気付いたのだろう。 「ありがとうございます。ということは、この階では中でも外でも、できるだけ小声で話した方が良いですかね。まずは、メモですね。よろしくお願いします」  クリスが窓に近づいて、横から誰も見えないようにした上で、俺達に暗号をメモに書くように促した。俺が暗号の伝え方を書き終えると、二人はバルコニーに出て、クリスが空間魔力感知魔法を使用した。その間は、おそらく景色を見ているふうを装っているのだろう。  二十秒ほどして、クリスが反応した。 「いました。かなり離れているので、向こうは動いていないですね。続けます」  イリスちゃんから教えられた暗号の通り、クリスが六十九回、魔力感知魔法をオンオフし、三秒空けたあとに、追加で七回行った。  その後、クリスは感知魔法を当てたまま、向こうから反応があるまで待機した。  実際はオンオフではなく、今のクリスは空間展開を習得しているので、魔力供給量の増減により、感知域の拡大と縮小を繰り返したのだろう。 「オッケーです。中に戻りましょう」  クリスがすぐに城内に戻るよう促した。どうやら成功し、彼女がシキちゃんだと判明したようだ。  どういうことか。イリスちゃんが言うには、『六十九』はアラビア数字で表すと『69』、『リバース』を意味し、追加回数の『七』は五十音で先頭からの数字で『キ』。六十九から七を引いて、『五十』音と分解すると、『十二』で、同様に『シ』、空けた秒数の通り、『三』分割『七』『五十』『十二』になる。『リバース』の通り、『五十』を除いて逆に読むと『シキ』。『六十九』の『6』と『9』は、指のサインも兼ねて、『オーケー』を表し、『シキ』であれば手の上下にかかわらず『オーケー』を合図しろ、という暗号らしい。  『分かるかこんなもん!』と聞いた時は思ったが、イリスちゃんによると、暗号単体ではもちろん分からないが、状況を含めると推察できるとのことだ。  向こうから無害の魔法を使って何かしている、何か聞きたいことがありそうだ、何を聞いているのだろう、それが意味を成すにはどうすればいいのだろう、どう返せばいいのだろうと考えると、辿り着ける。  なるほど、天才の思考を垣間見た気がした。常人では合計七十六回のオンオフを数えることさえ難しい。  しかも、念のため、相手に悟られないように、こちらの目的を達成しても『オーケー』とさえ言えば、成功したことが俺達にも伝わるという親切設計の暗号だ。クリスもよく正確に実現できたな。彼女には、暗号の意図も伝えてある。魔法使いが実は天才ではなく、チートスキルで魔力を通じてこちらの考えを読むパターンも考えられるからだ。  イリスちゃんは、この方法を最初に話題に挙がった時に話しながら思い付いていたが、あまり早く伝えても忘れてしまうから、俺達から連絡があるまで待っていたらしい。やっぱりそうだよな。俺達の理想の天才がここにいるのだ。  この際、イリスちゃんに、なぜ五十音がこの世界で使われているのか聞いてみたところ、起源は分からないとのことだった。  ただ、囲碁のことも考慮すると、両世界が似ていて、特に日本と強い結び付きがあるかもしれないという推察をしていた。さらに、そのことは世界の『タイムリミット』と関係があっても不思議ではないとのことだ。それがどういうことかは、今の俺達には分からず、イリスちゃんも詳しくは語らなかった。  ちなみに、『アラビア語』『アラブ』という単語はこの世界に存在しない。イリスちゃんは単に『ニューメラルズ』『数字』と言っていた。単位の『メートル』と『グラム』は最初からそうだったらしい。地名に由来する『ハンバーグ』やその原型である『タルタルステーキ』が何と呼ばれているか気になるところだ。『ハンバーグ』は比較的新しいから存在しないか。 「少しよろしいですか。人数が四人に増えていました。増えた二人は、同様に冒険者風と魔法使いです。魔法使いの方は、一般的な魔力量で、二人とも特に魔力感知魔法を展開しているわけではありません。  それと、私が魔力粒子を扱えるようになったから分かったことですが、『彼女』も魔力粒子理論で魔力感知魔法を体の周囲に展開しているような気がしました。何と言いますか、私の感知魔法の解像度が普通の平面展開と違うので、相手の解像度も分かったと言いますか。  言い換えれば、魔力粒子を荒く放出して結合しているから、展開を長時間維持できていた、ということが分かりました。しかも、私に返答する時は、ちゃんと指先の魔力粒子の解像度を上げて、分かりやすくしてくれました」  メモを書いた窓まで戻ってくると、クリスがシンシアと俺達に状況を報告してくれた。 「なるほど。増えた二人については、レドリー領の街で会っていたかもしれない協力者が合流した可能性もあるか。いずれにしても、今はお互い何もできないだろう。  一つ聞きたい。仮に、この場からユキが魔力感知魔法を使ったら、監視者に届く距離だったか?」  シンシアの言葉の続きは、『もしそうなら、彼女の存在を連想できてしまう』、だろう。 「いえ、距離は南西の方に五キロほど離れていました。ついでに感知したユキさんの現在の魔力量であれば、魔力粒子を一直線に繋げても、おそらく四キロが限界です」  クリスは、魔力粒子と魔力量の関係まで語った。もうそこまで検証しているのか。それに、自分の魔力量を正確に把握していないと分からないことだ。流石、世界最高峰の魔法研究者だ。  そして、抑えていてなお、クリスの魔力量の膨大さが分かる。以前、その状態で指折りと言っていたが、世界一だろうな。  一方で、一つの少人数グループに複数人の魔法使いがいると、役割が被るのではないかと思うかもしれないが、俺達に限っては、その心配はない。仮に、魔力粒子の扱いと消滅魔法を全員がマスターしたとしても、クリス、ヨルン、ユキちゃん、それぞれ特色があると、改めて認識できる。 「ありがとう。南西五キロなら監視に向かない場所だし、何かできるような場所でもないから、なおさら問題なさそうだな。集まって今後の方針でも決めているのだろう。とは言え、相手に天才がいるから油断はできない。彼女達がどこに向かうのか、また機会があれば確認してみたいな。その時はクリス、頼む」  シンシアの絶妙な返しが素晴らしい。質問と合わせると、対象が今より遠方に離れていた場合には、クリスしか感知できないから、ユキちゃんが感知魔法を使うのは二度手間になると自然に言える。 「分かりました。それでは、私は部屋に戻ります。空間展開できると、やはり便利ですね。部屋が多くても、迷わずにユキさんの所に戻れます。ヨルンくんは思った通り感知できませんが、反射はされませんでした」  魔力感知魔法は無害の魔法ということで、単に無効化されたか。ヨルンの『反攻』については、結界による朱のクリスタルの記憶改竄や催眠魔法の危機意識欠落効果とは異なるから、『謎の空気』も含めて、まだまだ謎が残っている。  いずれにしても、こちらからヨルンを探すことができないから、はぐれた時のために、ヨルンには魔力感知魔法を習得してもらおう。  シンシアはクリスと別れ、姫の部屋に向かった。 「失礼します」  姫から入室を許可されたシンシアは、警備兵を横目に中に入っていった。扉が閉められ、数秒すると、左奥の扉が開けられた音がした。寝室の扉だろうか。姫とシンシアはずっと無言だ。外の警備兵達に会話を聞かれたくないのだろう。二人で会う時は、いつもこうしていたんだろうな。  シンシアと姫が、奥に進むと、さらにその部屋の中に入って、扉を閉めた。その瞬間、姫がシンシアに勢い良く抱き付いてきたようだ。シンシアは、咄嗟に両腕を上げて、外套の上から姫が俺達に触れないようにした。 「やっと、二人きりで話せる……。ごめんなさい、あなたにばかり負担をかけて。でも、すごくかっこよかった。本当に見違えるよう……。流石、私の一番の騎士です。本当に、本当に嬉しい、あなたとまたここで話せて……」  姫は感極まって泣いているようだった。それに応えるように、シンシアは彼女を優しく抱き締めた。 「私も同じ気持ちです。やっと二人きりになれましたね。ここでは……姫の前では正直に話します。  調査を始めて、セフ村に着き、何の情報も得られなかった時、私は陛下も姫も、誰も信じられなくなっていました。なぜ誰もかばってくれなかったのか。陛下に忠誠を誓い、これほど国家に尽くしてきたのに。畏れ多くも、姫とは親友のように仲が良かったのに。怒りさえ湧いていた。しかし、それ以上に絶望感が勝っていました。このまま、誰に知られることもなく死にたいと思いました。  そうです、私は死んでいたかもしれないのです。言い換えれば、私は『お 前 達 に 殺 さ れ か け た』」  シンシアの声色と口調が突然変わった。そして、姫を抱き締めていたシンシアの両腕に、徐々に力が入っていった。 「シ、シンシア……⁉」  姫の戸惑いを無視してシンシアは続ける。 「ようやく『チャンス』が巡ってきた。これで自由に動けるようになったんだ。ジャスティ王も宰相も、我を信頼しきっている。  ああ、脳天気なお姫様は、まだ気付かないか。全部、計算通りだったんだよ。我が世界を征服するために、この愚かな国を利用させてもらった。そもそも、おかしいと思わないか?『普通の人間』が、そんなに短期間で成長するか? 力を隠していたに決まっているだろう」 「なっ……あなたは一体……⁉ シンシアは、シンシアはどうしたのですか!」 「くっくっく。あの女なら殺したよ。我が操る人間とモンスターに陵辱され、精液まみれになってもらった上で、バラバラにして殺してあげた。今でも笑える醜い表情だったなぁ」 「それでは、もしかして聖女の事件もあなたが……。『魔王』が……きゃっ!」  『魔王』は、姫をベッドに突き飛ばした。 「そうだ! 朱のクリスタルある所に我あり。一時は、この剣に封じ込められていたが、あの女が肌身離さず持っていたおかげで、その影に我を移すことができた。力が戻ったところで、我を顕現させ、邪魔な女は消したというわけだ。しかし、力が完全に戻ったわけではなかった。だから、あの女になりすましていたのだ」 「なぜシンシアに酷いことをしたのですか! そんなことをする必要なんてないでしょう!」 「当然、愉悦に浸ることができるからだ。あの醜くなっていく顔を見ただけで、絶頂できるほどだ。まあ、しかし、まだまだ力を取り戻すためという理由もある。なぜ、我がお前に正体を明かしたと思う? なぜ、こんなにもペラペラとお喋りをしていると思う?」 「ま、まさか……」  姫がベッドの上で後ずさりをする音が聞こえた。 「そのまさかだ。ただ、今回は趣向を変えよう。いつも同じだと飽きるからな。そうだな、我の眷属に任せてみるとするか。この者は、我の意のままに操ることもできるし、自分で思考して行動することもできる。楽しみだ、お前が踊る様は……。  では、我が眷属よ! 素早く口を塞ぎ、自由を奪い、思うがままに体液を摂取せよ!」  『魔王』が左腕の俺達を撫でた。次の瞬間、俺達は外套から飛び出した。 「⁉」  姫が驚いたところに、ゆうが口を塞ぎ、俺は身体の自由を奪った。 「お、お兄ちゃん……」 「ああ……。体が勝手に……」  『魔王』の意思と言葉に、俺達は為す術がなかった。触手を増やし、姫の四肢に巻き付き、宙に浮かせる。流れるようにドレスを脱がせ、下着を剥ぎ取り、瞬く間に全裸にした。  俺達は、姫の身体を求め、敏感な場所を探し当てるように、頭を動かした。 「んっ!」  姫の白い肌を這い、俺が秘密の部屋に辿り着くのと、ゆうが山の頂きに辿り着くのがほぼ同時で、その瞬間、姫は漏れ出る声と共に大きく身体を震わせた。 「くそ! どこが……『思うがまま』だ。何も……考えられなく……なっていくじゃないか……!」 「何で……あたし……こんなことを……」  どうやら、俺もゆうも、闇に飲まれかけているようだ。もう『魔王』にも『自分』にも逆らえない。なぜこんなことになってしまったのか。あんなに危険を回避すべく、頭を回転させたのに、この事態を予想できなかった。イリスちゃんなら予想できたのだろうか。いや、予想できていたら、俺に伝えてくれていたはずだ。  もしかして、イリスちゃんも『魔王』の手先なのか。いやいや、考えが負の方向に行ってしまう。これも『魔王』の眷属になった影響だろうか。必死に自我を保とうと色々考えるが、もう限界が近い。だが、ゆうのためにも、まだ終わるわけにはいかない。 「ゆう……まだ耐えられるか? 俺は……もう少し頑張ってみる……お前も頑張れ……」 「でも、お兄ちゃん……。あたし……もう限界だよ……。どうにもできない……」 「今の内に作戦を一気に伝えておく。おそらくだが、『魔王』が満足すれば、俺達も正気を取り戻せるはずだ。  まずは、意識的に俺達の体を動かせる内に、姫を気持ち良くさせると同時に、その表情を『魔王』によく見せる。そのあとに『魔王』を誘い、できるだけ早く終わらせるように仕向ける。つまり、俺達ではなく、『魔王』が直接、姫に対して触れたくなるようにするんだ」 「わ、分かった……」  俺達は、枕側にあった姫の頭を扉側に向けるように、彼女の体を回し、四つん這いから、縛られた両手を真上に挙げた格好にした。姫には悪いが、これで、ベッド手前で腕を組んで立っている『魔王』に彼女の表情を見せつけることができた。 「ほう……。流石、我が眷属。気が利くではないか。憎むべき相手に、自らが快楽に溺れる過程を見られるのは、どんな気分なんだろうなぁ!」  『魔王』が言葉を言い放つと同時に、右手で姫の左胸を鷲掴みにした。 「んっ!」  思いの外、強く掴まれたのか、姫が小さく反応した。ゆうが姫の左胸を空けてくれていたおかげで、少なくとも、姫の身体に興味を持たせることには成功したようだ。  『魔王』が姫の胸を揉みしだいている内に、俺はそれに合わせて、姫の秘部を舌で舐め上げる。 「んっ! んっ……! んっ……!」 「良い声で鳴くじゃないか。誰にも聞かせたことはないんだろ? ああ、その前にこんなに恥ずかしい格好を見られたこともないか。国民全員に見せてやりたいぐらいだなぁ!」  『魔王』が姫の左胸の先端を強く摘んだ。 「んふぅ!」  姫の声は、痛がっているようでも、嫌がっているようでもなかった。それは、悦びの声のように聞こえた。ゆうは、姫の右胸も空けて、『魔王』を誘った。それに乗った『魔王』は、両指で姫のピンク色の両先端を摘んで何度も引っ張った。 「おっ……んぉっ……んぉぅ……」 「おやおや、淫らなお姫様だ。下品な声を出して。実はこんな風にされることを夢見ていたのではないか? その証拠に、口からはだらりと涎を垂らして、股からはぴちゃぴちゃと音を鳴らした上に、その表情も仕草も満更でもないどころか、さらなる刺激を欲しがってさえいる。まるで発情した雌豚ではないか。  いや……発情しているのは我に、この女に対してか。何しろ、お前が憧れる『かっこいい騎士様』だからな。しかも、性別など関係ないと見える。  ふむ……ならば、この体でお前に至高の夢を見せてから、その人生に幕を降ろさせるのも一興か。どんな顔になるのか楽しみだ」  そう言うと、『魔王』は姫の身体から手を離して、鎧と服を脱ぎだした。どうやら誘い出すことに成功したようだ。実際、俺の意識もハッキリしてきたように思える。  俺達は姫を仰向けにし、股を開かせるようにして、ベッドに寝かせた。  『魔王』は姫に正面から覆い被さり、姫の両脇の下で両手をベッドにつけ、お互いの両胸が触れるか触れないかのところで、体を止めた。  ゆうがその後を察して、姫の口を自由にした。 「はぁ……はぁ……シン……シアぁ……」  姫の切ない声は、『魔王』には届かない。しかし、『魔王』は姫をじっと見つめた。 「このまま体を重ねてもいいが、条件を付けよう。我のことを『魔王様』と呼び、我に忠誠を誓え。姫としてだけでなく、人間としてのプライドを全て捨て、雌豚のように、雌犬のように舌を出して、お前の醜く下品な言葉で我を求めよ。そうすれば、今のお前のいやらしい望みを叶えてやろう。  それに、もしかすると、我がお前を気に入って、この場だけでなく、永遠の下僕として側に置く気になるかもしれんぞ。少なくとも今は安心するといい。我が言葉に偽りはない。お前の地に落ちた姿を見て興味をなくすこともない。さあ、どうする?」  国の一姫君にとっては厳しい条件が、『魔王』の甘い言葉により、優しい条件になってしまう。それ以上に、姫自身の期待と欲望が、その条件を『無条件』へと引き下げていた。どうしてそれが分かったか。  なぜなら、姫の表情は、第三者から見て完全に『魔王』に落ちていると確信できるほど、すでに崩れていたからだ。 「はぁ……はぁ……。魔王様ぁ……私めの全てを……魔王様にぃ……捧げましゅぅ……。魔王様のぉ……忠実なるぅ……下僕となりましゅ……。一国のぉ……姫で……あるにもかかわらじゅ……卑しく淫らな私めにぃ……どうか……ご慈悲をお与えくだしゃいぃぃ……!   私めを……魔王様の……お好きなようにいたぶって……性欲処理の道具として……穴として……便器としてお使いくだしゃひぃぃ!」 「くっくっくっく! あっはっはっは! 良い顔だ! よかろう! ただし……」  『魔王』は姫にキスをして、舌を絡めた。姫も積極的に舌を絡めている。 「んっ……はぁ……ん……」  少しして、『魔王』が姫から顔を離した。 「便器はダメだな。我が便器に口づけしていることになるではないか。あとでお仕置きだ」 「大変申し訳ありません! 仰せのままに……」  再度身体を重ね、糸を引く間もなく、激しいキスを続けている二人。そして、『魔王』の唾液も美味しそうに恍惚とした表情で飲む姫。  長い間、待ち焦がれていた、待ちわびていた瞬間に浸っているかのような姫は、実に幸せそうだった。 「ゆう、二人に巻き付くぞ。ここで形勢逆転と行こうじゃないか。口は必要ないから胸を頼む。ただし、ゆっくりな」 「え……⁉ わ、分かった」  俺達は、ゆっくり二人に巻き付いた。『魔王』と姫の熱く激しい感情が湧き上がる空間を盛り上げるための演出だと思わせるためだ。決して邪魔せず、それでいて気持ち良くさせて、二人の体液を摂取していく。 「ん……」 「あ……んはぁ……」  ある程度、時間が経ってくると、『魔王』も姫も、途中でキスを止めるほど、俺達の這いずりや舌が心地良くなっていた。 「魔王様……。私、もう……」 「ダメだ。我が許可するまで果てることは許さん。それに、お前はまだプライドを捨てきれていないようだな。先程の豚の鳴き声はどうした。下品に鳴けば、持ち堪えられるだろう? 我を失望させるな」 「は、はひぃ! 申し訳ありません! おっ……ほぉ……んぉっ! あひぃ……あ……んふぅ……ん……ほぉ!」 「そうだ……。はぁ……はぁ……。良いぞ……それでこそ……我が……下僕だ……」  二人も俺達もペースが上がり、『魔王』が俺達に体を押し付けながら前後に揺らすと、その反対側の姫も俺達と体が擦れ合ったり、肌が直接触れ合ったりして、予測不能な快感が姫を襲う。  一方、俺は二人の秘密の部屋の扉に口を大きく開けて密着し、大胆に舐め回している。  そして、時折ベルを鳴らすと、二人の声が漏れ出す。 「っ……ぁ……」 「おっ! おほぉ……! おっ……! んほぉっ……! んんんん、気持ち良ひぃぃ! 魔王様ぁぁ! しゅきぃぃぃぃ!」  いや、姫の方は半分騒音だ。窓の外や隣の部屋に聞こえていないだろうか。セキュリティのために、わざと空室にしている可能性はあるが。 「ん……ふ……ふふふっ! よし、お前を我の永遠の下僕とする! 共に果てようぞ!」 「あはぁ……! あん……! あ、ありがたき幸せぇぇへぇぇ!」  二人は両手を繋ぎ、最後のキスをした。俺達はそれに合わせ、ラストスパートをかける。  そして最後に、口を張り付けていた全ての場所を、強く吸い上げた。 「んっ……! くっ……! はぁっ……はぁっ……うっっ……あああぁぁぁ!」 「おっ……! おっ……! ぉん……おっ……おっっ……ほおおぉぉぉ!」  二人は大きく体を震わせると、『魔王』が姫を下敷きにしないように、ゴロンとその向かって左側に転がった。姫は気絶し、彼女の静かな寝息と『魔王』の荒い息遣いが、しばらく寝室に響いていた。



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 それから、シンシア達を除く全員が、玉座の間を出ていったが、姫が出ていく時、咳払いで合図したあと、シンシアにアイコンタクトと口を動かしたように見えた。その言葉は多分、『あとで来て』。おそらく、シンシアも気付いたはずだ。  シンシアが姫に呼び出されたのなら、クリスもその時間に出て、シキちゃんの確認ができればベストだ。このあと、イリスちゃんに暗号を聞いておこう。  それにしても、姫はまさに『お姫様』という感じだったな。シンシアと同じ金髪ロングで整った顔立ち。美人でもあり、かわいくもある。身長はユキちゃんと同じぐらいだろうか。スタイルも良く、白いドレスがよく似合っていた。 「ふぅ……。改めて、みんなありがとう。シュウ様も、多大なるお力添え、ありがとうございました」  シンシアが俺達にお礼を言った。 「お疲れ様でした。このままユキさんの作業に入りますか? そこで一段落して、美味しい夕食を迎えるというのが良いでしょうか」  クリスがシンシアに問いかけた。 「そうしよう。ユキ、すまないがもう少し力を貸してくれ。警備隊長と一緒に回りながら、説明をしてもらうことになる」 「分かりました」 「ヨルンは城内で気になったことがあれば聞いてくれ。今後のシステム設計で参考になるかもしれない」 「はい、ありがとうございます!」  一同が玉座の間から出ていこうと歩み始めた時、シンシアが何かを思い出したかのように立ち止まった。 「その前に、陛下がお許しになった親書を拝読してみようか。きっと、今が丁度良いタイミングだろう。この場で処分できる」  シンシアは、二日経っても肌身離さず持っていた二通の親書を、レドリー辺境伯の方から先に開けて読んだ。 『クレブへ そういうことだから、あとはよろしく リディルより』 「え⁉ 何ですかこれは! これが親書ですか⁉」  ヨルンがそれを覗いた瞬間に驚いた。宛名と差出人が手紙の端に書かれ、メッセージがポツンと真ん中にあった。 「全く……。あの人は、やっぱり掴みどころがないな……」  シンシアが感心していたのか呆れていたのかは分からないが、少なくとも怒ってはいなかった。 「あはは! 面白いよ、レドリー辺境伯。良いお父さんを持ったね、二人とも!」 「ユキさん、あなたも将来、あの人がお父様に立候補してくるんですよ? その情熱は、きっと『勇運』を貫通してきます」  ユキちゃんに怖い冗談を言うクリス。流石にユキちゃんが拒否すれば大丈夫だよな?  それにしても、これを見て、王はよく笑わなかったな。 「エトラスフ卿の方はどうだろう……」  シンシアがエトラスフ伯爵の親書を開いた。そこには、辺境伯とは対照的に、びっしりと文字が書かれていた。 『クレブへ もちろん覚えてるよな? あの約束。お前なら、しらばっくれそうだから、念のために書いておくか。俺がお前に手紙を出すのは生涯に一度きり。我が国最大の緊急事態の時だ。  お前は、そもそもそんな事態にはさせないと言った。そして、もしそうなったら、俺か、俺が信頼して手紙を渡した者の言うことを何でも聞くと言ったな。それが、今だ。この手紙はちゃんとシンシアに見せるように。シンシアもこいつがしらばっくれたら追求するように。大丈夫だ。クレブはシンシアの言うことを聞くし、シンシアもクレブに対して、無茶なことは言わないだろう。  ああ、それと、言うことを聞く約束が果たされたら、お前の気が緩むかもしれないから、再度約束を交わそう。次に俺が手紙を出す時は、王を辞めてもらう。言っておくが、これは裏切りではないからな。お前の怠慢による国家破綻を防ぐためだ。ある意味、お前が俺や国民を裏切っているとも言えるだろう。そうなれば、俺も自害する。弟子の責任は師匠の責任だ。二度目はない。それが、生涯に一度きりと言った理由だ。  ということで、久しぶりの愛のムチは効いたかな? 言っておくが、冗談ではなく本気だぞ。それでは、また城で会おう。その際は、この手紙を読んだ時の正直な感想でも教えてもらおうか お前の愛する疾風の英雄より』  すごい文章だ。これを読んで、王はよく震えて泣かなかったな。 「…………。エトラスフ卿の印象とはまるで違う……。また驚かされてしまったな……」 「陛下が弟子で、エトラスフ伯爵が師匠の関係なのも驚きです。レドリーお父様もご存知だったのでしょうか。  今思えば、カレイドの設定でも、性格や教え方は違いますが、師匠が出てきました。私はシュウ様とシンシアさんの関係しか想像していませんでしたが、陛下とエトラスフ伯爵の関係から発想したのでしょうか。  もしかして、『疾風の英雄』にはもう一つの意味がありませんか? ユキさん、分かりますか? 戦場での活躍で名付けられた経緯しか私は知りません」  クリスが興奮気味に、ユキちゃんの『勘』を聞いた。 「うん。二つ名を公の場で命名したのでなければ、多分、その二つ名を考えて広めたのは、現国王だと思う。  その厳しい教えから、強風になぞらえて『疾風』。でも、とても尊敬すべき師匠で、彼にとってはどんな時でも『英雄』だった。強すぎて、眩しすぎて前を向けないっていう意味でも『疾風』を使ったのかも。それと戦場での活躍を重ねて、『疾風の英雄』にした。すごく良い名前だと思う。エトラスフ伯爵は、その締めの書き方から、もちろんそれを知っていて気に入っている。  改めてこの手紙すごいよ。国家への愛、弟子への愛、師匠への愛、もちろんシンシアさんへの愛、そして信頼と責任、その全てが詰まってる。まさに、王の師匠に相応しいと思う」  名付けが得意なユキちゃんらしい考察と感想だ。それはもちろん正しいだろうし、あの王であれば、エトラスフ伯爵との関係や教えもあり、それを読み解くことができるだろう。だからこそ、あの場でその感動を抑え、平然としていたことがすごかった。  そんなことを考えていると、ヨルンが恐る恐る手を挙げた。 「あの、今気付いたんですけど、この親書二通、どちらから先に読んでも成り立ちませんか? レドリー辺境伯のシンプルさに最初は驚きましたが、言うまでもなく、シンシアさんやクリスさん、ブレインのイリスちゃんを信頼していればこそですし、伯爵と王の師弟関係、そして交わされた約束を知っていれば、辺境伯が長々と書く必要はありません。もしかして、これが『粋』ですか?」  これも先入観がないヨルンらしい気付きだ。そして、報告会が始まる前にシンシアから囲碁と一緒に教えてもらった『粋』を早速理解しつつあった。 「なるほど、そうだな。私はてっきり、エトラスフ卿だけがその手の内容をお書きになるかと思っていたが、この二通は、どちらも方向性の異なる『粋』で、さらに二通合わせて『粋』だ。本当に奥が深いな。これが、『レドリー卿』のすごいところだ。  詳しくは言えないが、パーティーのダンスの時と同じだな。早くみんなに見せてあげたいよ」  あの人生観が変わるパーティーに三人が参加したら、どんなふうになるのか気になる。しかも、次はレドリー辺境伯やリーディアちゃんの『粋』が加速しているはずだ。だが、参加者がそれを理解できないと意味がないから難しいところではある。 「何かすごいなぁ、王もレドリー辺境伯もエトラスフ伯爵も。シンシアに全てを任せたのも、無茶な褒美をあっさりと認めたのも、もちろん彼女を信頼して、それが一番だったっていうのもあるけど、『約束』もあったからなんだよね。親書を読む前から分かってたんだ。  伯爵が一線を退いた理由も、弟子を甘えさせないため。そして、師匠のやり方に倣って、信頼できるシンシアやアリサちゃん達が辺境伯邸に向かうように計らった。方法自体は半分運任せだったけどね。  でも、何て言うか、ネタばらしも含めて、全てに清々しさすら感じるよ」  ゆうの言葉もまた、様々な感情が込められているような気がした。 「エトラスフ伯爵のシンシアへの信頼度が妙に高かったな。これを書いたのは、シンシアがカレイドの変装を示唆する前だ。もしかすると、伯爵はそのことに気付いていた可能性がある。  とすれば、俺が書いた遺書のように、シンシアがそのことを自分に少しでも伝えてくれた場合とそうでない場合の二通用意して、レドリー辺境伯から、状況によってそのどちらかを渡してもらうよう頼んでいた可能性もある。  これらの親書は一見、王の威厳や、辺境伯や伯爵の尊厳を損なうものに思えるが、実は全く逆なんだよな。真の理解者は、むしろ彼らを尊敬する他ない。また、彼らの絆の強さも分かる。  王は、シンシア達であれば、それを理解できると思ったから読む許可を与えた。『約束』は果たしているから、記述通りシンシアに見せる必要がないにもかかわらず。  そして、親書であることに加え、それを理解できない者に読まれたり、内容を他者に話されたりしては困るから、同時に信頼できる者に処分させる。  その内容も含めて、この一連の行動を理解できる人は、そういない。ゆうは誇っていいぞ」 「あ、何か偉そう。この親書でお兄ちゃんが尊大になっちゃった」 「親書ぅ必罰ということか。お前の罵倒がないことが俺にとっての罰だからな。奥が深いだろ?」 「…………。はぁ……」  何か言えよ。ため息だけだと、俺が処分されていることになる。まあ、ゆうの感情は、ある程度整理されたようだから、良しとするか。  しばらくして、親書の内容を心に刻み、俺達が話していたような考察で盛り上がっていたシンシア達が落ち着いたようだ。 「では、親書を処分しようか。ユキがやるか?」 「私が魔力境界具現化魔法で親書を包んで浮かせるから、クリスさんが消滅魔法で消してくれる? 詠唱は教えてもらったけど、まだ見たことないから」 「分かりました」  ユキちゃんとクリスが詠唱を始め、ユキちゃんが魔法を発動すると、シンシアが持っていた親書が半透明な立体に包まれて、宙に浮いた。魔力粒子による操作だろうか。  さらに、彼女達の前方三メートル、一メートル半ぐらいの高さに移動させると、クリスが魔法を発動し、瞬時にその立体ごと消滅させた。魔力境界の化学式は不明だが、紙は炭素、水素、酸素を含んでいるから、それを分解すると、炭素が床に落ちるはずだが、落ちていない。一酸化炭素か二酸化炭素になって、全て気体になったか。水も落ちていないし、水蒸気が発生したようにも見えなかったので、水素も酸素も結合せずにそのまま霧散したようだ。ますます『昇華』っぽいな。もちろん、それだけの熱を加えていないので、昇華ではないが。  いずれにしても、対象の周囲は、人間にとって一瞬だけ有害になるということか。空気の流れはそれほどなかった。つまり、消滅時に真空状態になるわけではなさそうだ。一言で言うなら、分子分解と再結合による気体化魔法、が分かりやすいだろう。 『おおー!』  クリスの消滅魔法の一部始終を見て、他の三人は感動していた。 「ありがとう。それでは行こうか」  シンシアに続いて、他の三人も歩みを進めた。そして、玉座の間には天井の俺達以外、誰もいなくなった。  扉を通った時のシンシアの表情は、いつも以上に美しく、穏やかだった。  確認魔法トラップ設置作業を一通り終えた一同は、食堂で夕食を済ませ、シンシア達の部屋に戻ってきていた。  部屋に入る前、丁度パルミス公爵に会い、その場でシンシアの任命式とユキちゃんの叙爵式の日程の調整が行われた。ユキちゃんが、まだセフ村には帰らないので、このまま式を開催してほしいと希望したため、二つの式は最短で一週間後の午前に同時に行われることになった。  城内は交代制なので、日曜日でも関係なく行うらしい。むしろ、日曜日の方が、貴族が集まりやすく、式の終了後は、城内または城下町で情報収集する時間が取れるので、好まれるとのことだ。  なぜ一週間後なのかは、レドリー領を実質的に割譲する話がある以上、レドリー辺境伯または代理人を叙爵式に呼ぶためらしい。爵位名の打診はなく、その場で発表され、変更はしない。ドレスを着たいなら用意するとのことだったが、ユキちゃんは今の姿で参加すると断った。  それまでの予定は次の通りだ。  明日午前は自由、午後に外交から帰ってくる王妃と第二王子との謁見および王族との晩餐。  二日後の午前にスパイの処刑、午後に食堂調理場の毒判別魔法トラップ設置。  三日後は自由。  四日後は臨時の騎士選抜試験。  五日後も自由。  六日後はシンシアが推薦する二人とパルミス公爵の打ち合わせ、二人はそのまま翌日の式を見学、予定が合わなければそれ以降にするということになった。  また、シンシアの後任推薦は、できればその期間で行ってほしいということだった。任命式で同時に発表できるからだ。引き継ぎと教育の期間は含まないので、それほど急ぐ必要はないようだ。  騎士団は現在待機状態で、明日午前九時に騎士団の報告係が騎士団長室に来ることになっているので、団員への指示があればその者に伝えてほしいとのことだった。騎士選抜試験の城内通達はパルミス公爵からしてもらうことになった。  パルミス公爵との話が終わり、一同は部屋に入った。少しの間、応接室側で休憩していると、シンシアがソファーを立った。 「みんなも気付いたかもしれないが、私は姫に呼ばれているので、そろそろ出る。よろしければ、シュウ様もご一緒いただけないでしょうか。また、私が撫でるまで左腕でお待ちください」  俺達は触手を増やし、縮小化してシンシアの左腕に巻き付いた。 「僕も気付きましたが、時間はどうやって決めたんですか? 早すぎても遅すぎてもダメですよね?」  ヨルンがシンシアに質問した。 「いつも会っていた時間帯があるんだ。昔から、私は姫のお側に置いていただけたからな。雑談したり、一緒にベッドで寝たりしていただけだが、嬉しかったし楽しかった。みんなは部屋で楽しんでいてくれ」  昔を懐かしむような表情をしたシンシア。そんな彼女が、スパイ調査名目とは言え、城を出ていくことになった時の心境は、想像に難くない。過去も未来も……。 「そっか……。じゃあ、ヨルンくん、私達もベッドに行こうか! 両性具有をちゃんと確認したいし。昨日のお風呂では、あんまりできなかったからね」  ユキちゃんは、『反攻』に跳ね返されないぐらいに、ヨルンに優しく抱き付きながら、頭を撫でていた。 「ユキさん、僕を研究対象にしないでくださいね!」 「やだ。色んな表情や声を引き出すんだから! あ、それと、私のことはユキお姉ちゃんって呼んでね。もちろん、年の近い姉と話すみたいな口調で」 「えー! 僕達、年齢ほとんど変わらないのに、お姉ちゃんですか……。分かりまし……分かったよ、ユキお姉ちゃん」 「やったー! 私、妹か弟がいたら、絶対溺愛してたと思うんだよね。イリスちゃんもかわいいけど、ヨルンくんもかわいいよ」 「お姉ちゃんが僕を呼ぶ時は、ヨルン『くん』なの? 妹か弟扱いなのに?」 「ふふっ、良いところに気付いたね。そのまま名前を呼ばないのは、年上のお姉さん感を出すのと、姉であると同時に姉の友達、あるいは友達の姉感を共存させるためだよ。  こうすれば、シンシアさんやクリスさんを姉と見立てて、私をその友達と妄想することもできる。ヨルンくんの方が得意でしょ? こういう曖昧な関係を想像するのは」 「な、なるほど。妙な説得力があるね……。何より、僕に合ってるような気がする」  ユキちゃんの話術なのか、『勇運』の影響なのか、ヨルンは彼女にあっさり納得させられていた。 「ユキちゃん、何かお兄ちゃんみたいなこと言い出したね」 「俺は、ゆうみたいなことを言い出したと思ったけどな。俺達に思考が似てきたのかな。これも『勇運』の影響かもしれない」  俺達がそう話していると、シンシアがソワソワしだして、扉の方に足を向けた。 「二人の会話が面白くて、いつまでも聞いていたいが、私はこれで。ヨルンはユキをあまり責めないように。感じやすいから、すぐに終わってしまうぞ」 「わ、分かりました」 「それが邪道なことは、ヨルンくんも分かってるよね? お姉ちゃんに全部任せてね。本当は、私が精通させてあげたかったけど。シュウちゃん相手ならしょうがないね」  おねショタの王道を理解しているユキちゃん。正確にはヨルンは『ショタ』ではなく、雰囲気から形式的にそう呼んでいるが、それはともかく、ユキちゃんはなぜその王道を知っているのか。俺のようにおねショタ触手本を熟読しているわけでもないだろうに。  しかし、残念ながらユキちゃんには欠けているものがある。『お姉ちゃん』には本来、『経験豊富さ』が必要だ。『経験豊富なお姉ちゃんの余裕』と『経験不足なショタの戸惑い』がぶつかり合い、その相乗効果で『おねショタ』というジャンルが形成されているのだ。  ただ、一方では『お姉ちゃん』の『性知識不足』も一属性、一ジャンルとして確立されているから難しいところだ。その場合は、『経験不足なお姉ちゃんの戸惑い』と『経験不足なショタの必死さ』が構成要素になるだろう。『知識不足』と『無知』では違うし、『倫理観欠如』とも違う。  宿屋の時は、シンシアとクリスのヨルンに対する『好奇心』の方が勝っていたから、『おねショタ』とは言い難かった。さて、ユキちゃんの場合はどうなるか。  クリスはこのタイミングで、俺がお願いしていたことを実行してくれるだろう。 「では、私も外に出ます。しばらくしていなかった監視者の確認と、空間魔力感知魔法の練習を兼ねて。私が戻ってくるまで、ヨルンくんは果てずに我慢していてくださいね」  俺の期待通り、クリスがそう言うと、シンシアと一緒に部屋を出た。俺達はクリスにもシンシアにも巻き付いている。  二人で少し歩いてから、クリスがシンシアに話しかけた。 「例の件、今から確認します。自然にメモを書ける場所はありますか?」 「こっちだ。私も確認まで付き添う。実はまだ時間に余裕があるんだ」  シンシアの先導で、三階まで上がると、どうやら開けた場所に出たようだ。 「そこのバルコニーに出れば、わざわざ正面入口から出なくても感知魔法を使えるはずだ。その手前に、外に出なくても窓を覗ける所がある。窓枠の大きさと高さ、奥行きが丁度良いから、そこなら誰にも悟られずに書けると思う。  ちなみに、四階は王族方の部屋で、階段とそれぞれの扉の前に二人ずつ警備兵が配置されている。一定以上の役職でない限り、階段の兵士に止められる。それより下の者が緊急の報告をする必要がある場合でも、その兵士達に代理で伝えてもらわなければならない」  王族の部屋が低階層でないのは、窓からの侵入者対策か。階段の上り下りの負担や、連絡の不便さを代償にした危機管理方法だ。  しかし、バルコニーがあるなら、それが窓への侵入を手助けしていないだろうか。どこかから監視されているのだろうか。 「ああ、それと、今気付いたのだが、バルコニーに出た者は、否が応でも下の警備兵から注目される。おそらく、そこから距離はあるにしても、王族方の窓に侵入したり、攻撃したりしないかを警戒しているのではないだろうか。  怪しい動きをすると、下見していると捉えられて、要注意人物に名を連ねるかもしれない。だとしたら、私もあからさまに姿を現して、城下町の景色を見せているように振る舞った方が良いだろうな」  俺の疑問にシンシアが答えてくれた。成長したシンシアだから気付いたのだろう。 「ありがとうございます。ということは、この階では中でも外でも、できるだけ小声で話した方が良いですかね。まずは、メモですね。よろしくお願いします」  クリスが窓に近づいて、横から誰も見えないようにした上で、俺達に暗号をメモに書くように促した。俺が暗号の伝え方を書き終えると、二人はバルコニーに出て、クリスが空間魔力感知魔法を使用した。その間は、おそらく景色を見ているふうを装っているのだろう。  二十秒ほどして、クリスが反応した。 「いました。かなり離れているので、向こうは動いていないですね。続けます」  イリスちゃんから教えられた暗号の通り、クリスが六十九回、魔力感知魔法をオンオフし、三秒空けたあとに、追加で七回行った。  その後、クリスは感知魔法を当てたまま、向こうから反応があるまで待機した。  実際はオンオフではなく、今のクリスは空間展開を習得しているので、魔力供給量の増減により、感知域の拡大と縮小を繰り返したのだろう。 「オッケーです。中に戻りましょう」  クリスがすぐに城内に戻るよう促した。どうやら成功し、彼女がシキちゃんだと判明したようだ。  どういうことか。イリスちゃんが言うには、『六十九』はアラビア数字で表すと『69』、『リバース』を意味し、追加回数の『七』は五十音で先頭からの数字で『キ』。六十九から七を引いて、『五十』音と分解すると、『十二』で、同様に『シ』、空けた秒数の通り、『三』分割『七』『五十』『十二』になる。『リバース』の通り、『五十』を除いて逆に読むと『シキ』。『六十九』の『6』と『9』は、指のサインも兼ねて、『オーケー』を表し、『シキ』であれば手の上下にかかわらず『オーケー』を合図しろ、という暗号らしい。  『分かるかこんなもん!』と聞いた時は思ったが、イリスちゃんによると、暗号単体ではもちろん分からないが、状況を含めると推察できるとのことだ。  向こうから無害の魔法を使って何かしている、何か聞きたいことがありそうだ、何を聞いているのだろう、それが意味を成すにはどうすればいいのだろう、どう返せばいいのだろうと考えると、辿り着ける。  なるほど、天才の思考を垣間見た気がした。常人では合計七十六回のオンオフを数えることさえ難しい。  しかも、念のため、相手に悟られないように、こちらの目的を達成しても『オーケー』とさえ言えば、成功したことが俺達にも伝わるという親切設計の暗号だ。クリスもよく正確に実現できたな。彼女には、暗号の意図も伝えてある。魔法使いが実は天才ではなく、チートスキルで魔力を通じてこちらの考えを読むパターンも考えられるからだ。  イリスちゃんは、この方法を最初に話題に挙がった時に話しながら思い付いていたが、あまり早く伝えても忘れてしまうから、俺達から連絡があるまで待っていたらしい。やっぱりそうだよな。俺達の理想の天才がここにいるのだ。  この際、イリスちゃんに、なぜ五十音がこの世界で使われているのか聞いてみたところ、起源は分からないとのことだった。  ただ、囲碁のことも考慮すると、両世界が似ていて、特に日本と強い結び付きがあるかもしれないという推察をしていた。さらに、そのことは世界の『タイムリミット』と関係があっても不思議ではないとのことだ。それがどういうことかは、今の俺達には分からず、イリスちゃんも詳しくは語らなかった。  ちなみに、『アラビア語』『アラブ』という単語はこの世界に存在しない。イリスちゃんは単に『ニューメラルズ』『数字』と言っていた。単位の『メートル』と『グラム』は最初からそうだったらしい。地名に由来する『ハンバーグ』やその原型である『タルタルステーキ』が何と呼ばれているか気になるところだ。『ハンバーグ』は比較的新しいから存在しないか。 「少しよろしいですか。人数が四人に増えていました。増えた二人は、同様に冒険者風と魔法使いです。魔法使いの方は、一般的な魔力量で、二人とも特に魔力感知魔法を展開しているわけではありません。  それと、私が魔力粒子を扱えるようになったから分かったことですが、『彼女』も魔力粒子理論で魔力感知魔法を体の周囲に展開しているような気がしました。何と言いますか、私の感知魔法の解像度が普通の平面展開と違うので、相手の解像度も分かったと言いますか。  言い換えれば、魔力粒子を荒く放出して結合しているから、展開を長時間維持できていた、ということが分かりました。しかも、私に返答する時は、ちゃんと指先の魔力粒子の解像度を上げて、分かりやすくしてくれました」  メモを書いた窓まで戻ってくると、クリスがシンシアと俺達に状況を報告してくれた。 「なるほど。増えた二人については、レドリー領の街で会っていたかもしれない協力者が合流した可能性もあるか。いずれにしても、今はお互い何もできないだろう。  一つ聞きたい。仮に、この場からユキが魔力感知魔法を使ったら、監視者に届く距離だったか?」  シンシアの言葉の続きは、『もしそうなら、彼女の存在を連想できてしまう』、だろう。 「いえ、距離は南西の方に五キロほど離れていました。ついでに感知したユキさんの現在の魔力量であれば、魔力粒子を一直線に繋げても、おそらく四キロが限界です」  クリスは、魔力粒子と魔力量の関係まで語った。もうそこまで検証しているのか。それに、自分の魔力量を正確に把握していないと分からないことだ。流石、世界最高峰の魔法研究者だ。  そして、抑えていてなお、クリスの魔力量の膨大さが分かる。以前、その状態で指折りと言っていたが、世界一だろうな。  一方で、一つの少人数グループに複数人の魔法使いがいると、役割が被るのではないかと思うかもしれないが、俺達に限っては、その心配はない。仮に、魔力粒子の扱いと消滅魔法を全員がマスターしたとしても、クリス、ヨルン、ユキちゃん、それぞれ特色があると、改めて認識できる。 「ありがとう。南西五キロなら監視に向かない場所だし、何かできるような場所でもないから、なおさら問題なさそうだな。集まって今後の方針でも決めているのだろう。とは言え、相手に天才がいるから油断はできない。彼女達がどこに向かうのか、また機会があれば確認してみたいな。その時はクリス、頼む」  シンシアの絶妙な返しが素晴らしい。質問と合わせると、対象が今より遠方に離れていた場合には、クリスしか感知できないから、ユキちゃんが感知魔法を使うのは二度手間になると自然に言える。 「分かりました。それでは、私は部屋に戻ります。空間展開できると、やはり便利ですね。部屋が多くても、迷わずにユキさんの所に戻れます。ヨルンくんは思った通り感知できませんが、反射はされませんでした」  魔力感知魔法は無害の魔法ということで、単に無効化されたか。ヨルンの『反攻』については、結界による朱のクリスタルの記憶改竄や催眠魔法の危機意識欠落効果とは異なるから、『謎の空気』も含めて、まだまだ謎が残っている。  いずれにしても、こちらからヨルンを探すことができないから、はぐれた時のために、ヨルンには魔力感知魔法を習得してもらおう。  シンシアはクリスと別れ、姫の部屋に向かった。 「失礼します」  姫から入室を許可されたシンシアは、警備兵を横目に中に入っていった。扉が閉められ、数秒すると、左奥の扉が開けられた音がした。寝室の扉だろうか。姫とシンシアはずっと無言だ。外の警備兵達に会話を聞かれたくないのだろう。二人で会う時は、いつもこうしていたんだろうな。  シンシアと姫が、奥に進むと、さらにその部屋の中に入って、扉を閉めた。その瞬間、姫がシンシアに勢い良く抱き付いてきたようだ。シンシアは、咄嗟に両腕を上げて、外套の上から姫が俺達に触れないようにした。 「やっと、二人きりで話せる……。ごめんなさい、あなたにばかり負担をかけて。でも、すごくかっこよかった。本当に見違えるよう……。流石、私の一番の騎士です。本当に、本当に嬉しい、あなたとまたここで話せて……」  姫は感極まって泣いているようだった。それに応えるように、シンシアは彼女を優しく抱き締めた。 「私も同じ気持ちです。やっと二人きりになれましたね。ここでは……姫の前では正直に話します。  調査を始めて、セフ村に着き、何の情報も得られなかった時、私は陛下も姫も、誰も信じられなくなっていました。なぜ誰もかばってくれなかったのか。陛下に忠誠を誓い、これほど国家に尽くしてきたのに。畏れ多くも、姫とは親友のように仲が良かったのに。怒りさえ湧いていた。しかし、それ以上に絶望感が勝っていました。このまま、誰に知られることもなく死にたいと思いました。  そうです、私は死んでいたかもしれないのです。言い換えれば、私は『お 前 達 に 殺 さ れ か け た』」  シンシアの声色と口調が突然変わった。そして、姫を抱き締めていたシンシアの両腕に、徐々に力が入っていった。 「シ、シンシア……⁉」  姫の戸惑いを無視してシンシアは続ける。 「ようやく『チャンス』が巡ってきた。これで自由に動けるようになったんだ。ジャスティ王も宰相も、我を信頼しきっている。  ああ、脳天気なお姫様は、まだ気付かないか。全部、計算通りだったんだよ。我が世界を征服するために、この愚かな国を利用させてもらった。そもそも、おかしいと思わないか?『普通の人間』が、そんなに短期間で成長するか? 力を隠していたに決まっているだろう」 「なっ……あなたは一体……⁉ シンシアは、シンシアはどうしたのですか!」 「くっくっく。あの女なら殺したよ。我が操る人間とモンスターに陵辱され、精液まみれになってもらった上で、バラバラにして殺してあげた。今でも笑える醜い表情だったなぁ」 「それでは、もしかして聖女の事件もあなたが……。『魔王』が……きゃっ!」  『魔王』は、姫をベッドに突き飛ばした。 「そうだ! 朱のクリスタルある所に我あり。一時は、この剣に封じ込められていたが、あの女が肌身離さず持っていたおかげで、その影に我を移すことができた。力が戻ったところで、我を顕現させ、邪魔な女は消したというわけだ。しかし、力が完全に戻ったわけではなかった。だから、あの女になりすましていたのだ」 「なぜシンシアに酷いことをしたのですか! そんなことをする必要なんてないでしょう!」 「当然、愉悦に浸ることができるからだ。あの醜くなっていく顔を見ただけで、絶頂できるほどだ。まあ、しかし、まだまだ力を取り戻すためという理由もある。なぜ、我がお前に正体を明かしたと思う? なぜ、こんなにもペラペラとお喋りをしていると思う?」 「ま、まさか……」  姫がベッドの上で後ずさりをする音が聞こえた。 「そのまさかだ。ただ、今回は趣向を変えよう。いつも同じだと飽きるからな。そうだな、我の眷属に任せてみるとするか。この者は、我の意のままに操ることもできるし、自分で思考して行動することもできる。楽しみだ、お前が踊る様は……。  では、我が眷属よ! 素早く口を塞ぎ、自由を奪い、思うがままに体液を摂取せよ!」  『魔王』が左腕の俺達を撫でた。次の瞬間、俺達は外套から飛び出した。 「⁉」  姫が驚いたところに、ゆうが口を塞ぎ、俺は身体の自由を奪った。 「お、お兄ちゃん……」 「ああ……。体が勝手に……」  『魔王』の意思と言葉に、俺達は為す術がなかった。触手を増やし、姫の四肢に巻き付き、宙に浮かせる。流れるようにドレスを脱がせ、下着を剥ぎ取り、瞬く間に全裸にした。  俺達は、姫の身体を求め、敏感な場所を探し当てるように、頭を動かした。 「んっ!」  姫の白い肌を這い、俺が秘密の部屋に辿り着くのと、ゆうが山の頂きに辿り着くのがほぼ同時で、その瞬間、姫は漏れ出る声と共に大きく身体を震わせた。 「くそ! どこが……『思うがまま』だ。何も……考えられなく……なっていくじゃないか……!」 「何で……あたし……こんなことを……」  どうやら、俺もゆうも、闇に飲まれかけているようだ。もう『魔王』にも『自分』にも逆らえない。なぜこんなことになってしまったのか。あんなに危険を回避すべく、頭を回転させたのに、この事態を予想できなかった。イリスちゃんなら予想できたのだろうか。いや、予想できていたら、俺に伝えてくれていたはずだ。  もしかして、イリスちゃんも『魔王』の手先なのか。いやいや、考えが負の方向に行ってしまう。これも『魔王』の眷属になった影響だろうか。必死に自我を保とうと色々考えるが、もう限界が近い。だが、ゆうのためにも、まだ終わるわけにはいかない。 「ゆう……まだ耐えられるか? 俺は……もう少し頑張ってみる……お前も頑張れ……」 「でも、お兄ちゃん……。あたし……もう限界だよ……。どうにもできない……」 「今の内に作戦を一気に伝えておく。おそらくだが、『魔王』が満足すれば、俺達も正気を取り戻せるはずだ。  まずは、意識的に俺達の体を動かせる内に、姫を気持ち良くさせると同時に、その表情を『魔王』によく見せる。そのあとに『魔王』を誘い、できるだけ早く終わらせるように仕向ける。つまり、俺達ではなく、『魔王』が直接、姫に対して触れたくなるようにするんだ」 「わ、分かった……」  俺達は、枕側にあった姫の頭を扉側に向けるように、彼女の体を回し、四つん這いから、縛られた両手を真上に挙げた格好にした。姫には悪いが、これで、ベッド手前で腕を組んで立っている『魔王』に彼女の表情を見せつけることができた。 「ほう……。流石、我が眷属。気が利くではないか。憎むべき相手に、自らが快楽に溺れる過程を見られるのは、どんな気分なんだろうなぁ!」  『魔王』が言葉を言い放つと同時に、右手で姫の左胸を鷲掴みにした。 「んっ!」  思いの外、強く掴まれたのか、姫が小さく反応した。ゆうが姫の左胸を空けてくれていたおかげで、少なくとも、姫の身体に興味を持たせることには成功したようだ。  『魔王』が姫の胸を揉みしだいている内に、俺はそれに合わせて、姫の秘部を舌で舐め上げる。 「んっ! んっ……! んっ……!」 「良い声で鳴くじゃないか。誰にも聞かせたことはないんだろ? ああ、その前にこんなに恥ずかしい格好を見られたこともないか。国民全員に見せてやりたいぐらいだなぁ!」  『魔王』が姫の左胸の先端を強く摘んだ。 「んふぅ!」  姫の声は、痛がっているようでも、嫌がっているようでもなかった。それは、悦びの声のように聞こえた。ゆうは、姫の右胸も空けて、『魔王』を誘った。それに乗った『魔王』は、両指で姫のピンク色の両先端を摘んで何度も引っ張った。 「おっ……んぉっ……んぉぅ……」 「おやおや、淫らなお姫様だ。下品な声を出して。実はこんな風にされることを夢見ていたのではないか? その証拠に、口からはだらりと涎を垂らして、股からはぴちゃぴちゃと音を鳴らした上に、その表情も仕草も満更でもないどころか、さらなる刺激を欲しがってさえいる。まるで発情した雌豚ではないか。  いや……発情しているのは我に、この女に対してか。何しろ、お前が憧れる『かっこいい騎士様』だからな。しかも、性別など関係ないと見える。  ふむ……ならば、この体でお前に至高の夢を見せてから、その人生に幕を降ろさせるのも一興か。どんな顔になるのか楽しみだ」  そう言うと、『魔王』は姫の身体から手を離して、鎧と服を脱ぎだした。どうやら誘い出すことに成功したようだ。実際、俺の意識もハッキリしてきたように思える。  俺達は姫を仰向けにし、股を開かせるようにして、ベッドに寝かせた。  『魔王』は姫に正面から覆い被さり、姫の両脇の下で両手をベッドにつけ、お互いの両胸が触れるか触れないかのところで、体を止めた。  ゆうがその後を察して、姫の口を自由にした。 「はぁ……はぁ……シン……シアぁ……」  姫の切ない声は、『魔王』には届かない。しかし、『魔王』は姫をじっと見つめた。 「このまま体を重ねてもいいが、条件を付けよう。我のことを『魔王様』と呼び、我に忠誠を誓え。姫としてだけでなく、人間としてのプライドを全て捨て、雌豚のように、雌犬のように舌を出して、お前の醜く下品な言葉で我を求めよ。そうすれば、今のお前のいやらしい望みを叶えてやろう。  それに、もしかすると、我がお前を気に入って、この場だけでなく、永遠の下僕として側に置く気になるかもしれんぞ。少なくとも今は安心するといい。我が言葉に偽りはない。お前の地に落ちた姿を見て興味をなくすこともない。さあ、どうする?」  国の一姫君にとっては厳しい条件が、『魔王』の甘い言葉により、優しい条件になってしまう。それ以上に、姫自身の期待と欲望が、その条件を『無条件』へと引き下げていた。どうしてそれが分かったか。  なぜなら、姫の表情は、第三者から見て完全に『魔王』に落ちていると確信できるほど、すでに崩れていたからだ。 「はぁ……はぁ……。魔王様ぁ……私めの全てを……魔王様にぃ……捧げましゅぅ……。魔王様のぉ……忠実なるぅ……下僕となりましゅ……。一国のぉ……姫で……あるにもかかわらじゅ……卑しく淫らな私めにぃ……どうか……ご慈悲をお与えくだしゃいぃぃ……!   私めを……魔王様の……お好きなようにいたぶって……性欲処理の道具として……穴として……便器としてお使いくだしゃひぃぃ!」 「くっくっくっく! あっはっはっは! 良い顔だ! よかろう! ただし……」  『魔王』は姫にキスをして、舌を絡めた。姫も積極的に舌を絡めている。 「んっ……はぁ……ん……」  少しして、『魔王』が姫から顔を離した。 「便器はダメだな。我が便器に口づけしていることになるではないか。あとでお仕置きだ」 「大変申し訳ありません! 仰せのままに……」  再度身体を重ね、糸を引く間もなく、激しいキスを続けている二人。そして、『魔王』の唾液も美味しそうに恍惚とした表情で飲む姫。  長い間、待ち焦がれていた、待ちわびていた瞬間に浸っているかのような姫は、実に幸せそうだった。 「ゆう、二人に巻き付くぞ。ここで形勢逆転と行こうじゃないか。口は必要ないから胸を頼む。ただし、ゆっくりな」 「え……⁉ わ、分かった」  俺達は、ゆっくり二人に巻き付いた。『魔王』と姫の熱く激しい感情が湧き上がる空間を盛り上げるための演出だと思わせるためだ。決して邪魔せず、それでいて気持ち良くさせて、二人の体液を摂取していく。 「ん……」 「あ……んはぁ……」  ある程度、時間が経ってくると、『魔王』も姫も、途中でキスを止めるほど、俺達の這いずりや舌が心地良くなっていた。 「魔王様……。私、もう……」 「ダメだ。我が許可するまで果てることは許さん。それに、お前はまだプライドを捨てきれていないようだな。先程の豚の鳴き声はどうした。下品に鳴けば、持ち堪えられるだろう? 我を失望させるな」 「は、はひぃ! 申し訳ありません! おっ……ほぉ……んぉっ! あひぃ……あ……んふぅ……ん……ほぉ!」 「そうだ……。はぁ……はぁ……。良いぞ……それでこそ……我が……下僕だ……」  二人も俺達もペースが上がり、『魔王』が俺達に体を押し付けながら前後に揺らすと、その反対側の姫も俺達と体が擦れ合ったり、肌が直接触れ合ったりして、予測不能な快感が姫を襲う。  一方、俺は二人の秘密の部屋の扉に口を大きく開けて密着し、大胆に舐め回している。  そして、時折ベルを鳴らすと、二人の声が漏れ出す。 「っ……ぁ……」 「おっ! おほぉ……! おっ……! んほぉっ……! んんんん、気持ち良ひぃぃ! 魔王様ぁぁ! しゅきぃぃぃぃ!」  いや、姫の方は半分騒音だ。窓の外や隣の部屋に聞こえていないだろうか。セキュリティのために、わざと空室にしている可能性はあるが。 「ん……ふ……ふふふっ! よし、お前を我の永遠の下僕とする! 共に果てようぞ!」 「あはぁ……! あん……! あ、ありがたき幸せぇぇへぇぇ!」  二人は両手を繋ぎ、最後のキスをした。俺達はそれに合わせ、ラストスパートをかける。  そして最後に、口を張り付けていた全ての場所を、強く吸い上げた。 「んっ……! くっ……! はぁっ……はぁっ……うっっ……あああぁぁぁ!」 「おっ……! おっ……! ぉん……おっ……おっっ……ほおおぉぉぉ!」  二人は大きく体を震わせると、『魔王』が姫を下敷きにしないように、ゴロンとその向かって左側に転がった。姫は気絶し、彼女の静かな寝息と『魔王』の荒い息遣いが、しばらく寝室に響いていた。



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