俺達と女の子が王族と一心同体となって死刑を執行する話(2/2)

40/54





 それから、シンシアが一通り、ユキちゃんに報告書の書き方を教え終わると、クリスが近づいてきた。 「シンシアさん、またバルコニーまで付き合ってもらえますか? 今日も確認しておきたいと思いまして」 「分かった。ヨルン、その間に誰か来たら、外で待たせておいてくれ」  ヨルンの返事のあと、シンシアとクリスは監視者の位置を確認するために、三階のバルコニーに向かった。  そこで、魔法を使ったあと、屋内の窓まで戻り、クリスの報告を聞いた。 「監視者ですが、もう私が捕捉できない距離まで遠ざかりましたね。その他に、一つ気になることが……。  魔力粒子版の透過空間認識魔法を練習で使ってみたのですが、城下町で大聖堂の地下以外に一箇所だけ、魔力遮断魔法がかけられた建物がありました。シンシアさん、心当たりはありますか?」 「いや、ないな。もう一度、バルコニーに出て、そこを指してもらえるか?」  二人がバルコニーに出ると、クリスが遠くを指したようだ。 「あそこです。あの屋根が白くて広い敷地の……、庭というより、ちょっとした広場のような」 「あれは……例の孤児院だな。孤児院に魔力遮断魔法がかけられているなんて、院長からも聞いたことがない……。中で話そう」  シンシアがそう言うと、二人はまた窓に戻った。 「シュウ様、私の推察が間違っていたり、補足があったりした場合は、お願いします。  魔力遮断魔法をかけたのは、おそらくシキ。コリンゼの話から、彼女が孤児院で経理をしていたことは明白だ。  そこでは、監視者やスパイとしてはペアで動けないので、自分一人になれる。その時に、孤児院に魔力遮断魔法をかけ、その後も定期的に魔力の供給もしていた。  では、何のためにそんなことをしたかだが、可能性は三つ。  一つ目は、純粋に孤児院の子どもを魔法から守るため。  二つ目は、魔法の走査で明らかになってしまう何かを隠すため。  最後は、魔力遮断魔法がかけられていることを、それが分かる誰か、まあ間違いなくユキだろうが、その者に知らせるため。その場合は、他にもヒントが示唆されているはずだ。  つまり、孤児院に重要な『何か』があることを示している。私は孤児院と交流があったが、もちろん『それ』に気付いたことはない。今ならもしかすると分かるかもしれないが。  いずれにしても、丁度良い機会だ。明日、孤児院をそれとなく調べてみよう。その一連の出来事で、ユキがシキの存在に気付いてしまうかもしれない。シュウ様、ご意見をお願いします」 『その場合は仕方がない。ユキちゃんに全部話そう。シキちゃんと対峙した時のことを心配して隠していたけど、これまでの成長した彼女を見て問題ないと判断した。まあ、今のところは隠せるだけ隠してみよう。それはそれで、お互い良い経験になる。  それともう一つ。シキちゃんがいくら天才でも、そんなに前から、ユキちゃんが城下町に来て、俺達が魔力遮断魔法がかけられた孤児院に気付くことまで計算するなんて不可能だ。イリスちゃんにも確認するけど、彼女も言っていた通り、予知のチートスキルの可能性が高い。  これは、いずれ俺達とシキちゃんが出会い、これらのことをシキちゃんに全て説明する場面が必ず来ることを意味している。未来が変わることがあるのかは分からない。ただ、相当先の未来を予知できることから、世界のタイムリミットまで知っている可能性がある。  本当は一刻も早く彼女と話したいが、俺達がどれだけ急いでも、彼女と会う日時はもう決まっている。この場合、早く会いたいからと言って、無理やり未来を変えるような行動をしても碌なことがないだろう。シキちゃんを信じて、焦らず行くしかない。  特に今の話で、彼女のことをより信じられるようになった。彼女が意味のない行動をしないということが分かったから。シンシアが挙げた理由三つ、おそらく全てが正しいはずだ。そうでなければ、こんなに回りくどいことはしない。  そうなると、孤児院に金を流したのも、シンシアを陥れるだけが目的ではなかったことが分かる。ビトーのことは恨んでも、どうか彼女を恨まないであげてほしい。  最後に、いつか王に確認しなければならないことがある。レドリー辺境伯にクリスの出自を打診した時のように、ジャスティ国のためにジャスティ国にスパイ行為を働いた場合、罪とするのか。今のところ、これをユキちゃんのいない時に確認したい』  予知のチートスキルについては、そのメリットの割にはデメリットでそれほど不自由していないことから、シキちゃんが上手く回避したのか、軽減したのか、回復したのか、あるいは、予知が不完全であるかのいずれかだ。  不完全の場合は、シキちゃんに全て頼りきるのはリスクがあるため、結局は俺達が最善と思うように進むしかない。 「流石です、シュウ様。素晴らしいご推察でした。大丈夫です。シキはユキの大切な姉。必ず私にとっても大切な存在になると確信しています。陛下にも機を見て伺います。ビトーは許しません」  シンシアのビトーへの憎しみは相当のようだ。 「ユキさんに隠すことが、お互いの経験になるというのは、シュウ様らしいお言葉でした。私の心に刻んでおきます。それでは、戻りましょうか」  クリス達は部屋に戻った。 「ねぇ、お兄ちゃん。シキちゃんが予知できるからと言って、天才じゃないってわけじゃないんだよね? 何か天才に共通する特徴があるような気がするんだよね」  ゆうが良い質問をしてきた。 「ああ。シキちゃんは天才だろう。イリスちゃんもそうだが、レドリー辺境伯が驚いていたように、基本的に『一石二鳥以上』になるように思考して、行動していると感じたな。  それに、予知に従っているだけでなく、ポイントを最適化しているようにも思えた。これは、凡人にはない発想だ。  そのことからも分かるが、少なくともシキちゃんは、ルールに従いさえすれば、未来を変えられるはずだ。そのルールが何なのかは、妄想にしかならないから、ここで考えるのはやめておこう。と言うか、実は俺に聞かなくても分かってるんじゃないのか? お前も天才の内の一人だろ」 「えー、そんなことないよ。それを言うならお兄ちゃんも天才でしょ?」 「どうしたんだよ急に。俺を褒めても何も出ないぞ。いや、あったわ。お前の大好きな俺の『一棒二玉』が」 「触手にはないだろ! 死ね!」  興味深いツッコミだ。流石、人気小説家。短い文から色々な想像を掻き立てられるが、『この時の妹の気持ちを述べよ』という問題があれば、その全てを記述できる回答者は多くなさそうだ。  少なくとも、『妹は兄に死んでほしいと思っている』は誤りだ。国家医師試験なら『禁忌肢』に相当するから気を付けるように。 「ん? コリンゼが部屋の前にいるな」  騎士団長室近くまで戻ってきたシンシアが、ヨルンに言われて部屋の前で待っていたコリンゼに気付いた。 「あ、団長! ご相談したいことがありまして……」 「ここで話せる内容か? それとも中で話すか?」 「ありがとうございます! こちらで結構です! それでは、お話しします。選抜試験の準備を進めている中で、団員が今回の試験の方針と内容に自信を持ってきたようで、少なくとも実技試験については、採用予定がある他組織のトップにも見学してもらったらどうかという提案が挙がりました。  ご承認いただけるのであれば、事前の通達と当日の説明を含めたご案内を団長にお願いできないかと……。いかがでしょうか」 「良い案だ。分かった。私からパルミス公爵に半強制の通達を出していただくよう伝えておく。案内の流れや、これだけは説明してほしいということがあれば、まとめておいてくれ」 「はっ! ありがとうございます! 宰相への説明案と通達案はこちらにまとめましたので、どうぞご参考になさってください。見学者の集合場所と時間も書いてあります」  コリンゼはそう言うと、シンシアに紙を渡して騎士団長室から離れていった。  通達してほしいことを予め用意しているとは、実に有能だ。本当に安心して試験を見ることができそうだ。 「私はこのままパルミス公爵のお部屋に伺い、これをお渡しする。クリスは中に入っていてくれ。すぐに戻ってくる」  シンシアはそう言って、パルミス公爵の部屋に向かった。  その五分後、彼女が戻ってきて、明日午前中に無事通達するようになったとのことだった。  それからイリスちゃんに予知スキルのことを報告して、またしばらくして、ユキちゃんが報告書を書き終わった頃に、丁度良く夕食の時間となり、一同は食堂に向かった。  食堂では、リオちゃんから出された料理に、一同が舌鼓を打った。通常のメインメニューは『ポークステーキ』だったようだが、『チキンとポークとビーフの三種ステーキ~異次元ハーモニーの味わい~』にグレードアップされていた。  その料理名から分かる通り、それぞれの肉の味が一切邪魔をせず、絶妙なソースで調和が取れており、それでいて最高の味を引き出しているらしい。ガロニでさえもそのソースに合わせて食べると、延々と食べていられる美味しさだが、順番に食べることを推奨されているので、逆にもったいない。スープはオニオンスープだが、決して一息つくためのものではなく、玉ねぎの甘さとブイヨンが良く効いていて、やはりそれだけでも深く味わえるとのことだ。  肉を半分ぐらい食べたところで、リオちゃんが黒胡椒を少しずつ振ってくれて、さらに最高の香りと味を堪能でき、一同の涙は留まる所を知らなかった。デザートには少量のパンケーキが出され、ふんわり柔らかく、丁度良い量のバターとはちみつで味の濃淡を楽しめる。  最後にもう一度スープが出されたが、それは冷まされた野菜スープで、あっさりと締めることができて、全体を通し、これ以上ない満足感を得られたらしい。食いてぇ~。  実は、リオちゃんには質問したいことがあるのだが、シンシア達にも話していないし、食堂でも話せない、と言うよりユキちゃんの前で話せない。  その質問とは、『占いしてもらったことある?』だ。俺は、リオちゃんのあの言葉が気になっていた。『これから長い付き合いになりそう』。なぜそんなことが分かるのか。考えられるとすれば一つ。シキちゃんがリオちゃんの未来を予知した。  つまり、二人はどこかで会ったことがあるのではないか。会うとしたら、シキちゃんが一人になる城内か孤児院、あるいは昼休憩の時に、リオちゃんが料理研究で立ち寄った食事処で『偶然』席が隣り合ったパターンだ。  その時、リオちゃんの素性を言い当てた上で、『城外から来た人達で、これからあなたを強く必要とする人達、そしてこれまで思いがけなかった方法であなたを助けてくれた人とは長い付き合いになるから、大切にすること』とでも言えば、確実にシキちゃんのことを信じ、実際にそれに当てはまるユキちゃん達が来たのだから、そういう言葉も出るだろう。  まあ、シキちゃんの予知スキルの可能性が高くなった今、知ってどうなるということでもないので、優先度は低い。  食堂から戻った一同は、部屋に戻って時間を潰してから、いつもの時間に姫の部屋に行き、俺達の『フルコース』により、再度満足感が得られる一夜を過ごした。



write-comment-iconコメントを書く
write-comment-iconレビューを書く



comment-icon新着コメント



コメントはありません。投稿してみようっ!


前のエピソード 俺達と女の子が王族と一心同体となって死刑を執行する話(1/2)

俺達と女の子が王族と一心同体となって死刑を執行する話(2/2)

40/54

 それから、シンシアが一通り、ユキちゃんに報告書の書き方を教え終わると、クリスが近づいてきた。 「シンシアさん、またバルコニーまで付き合ってもらえますか? 今日も確認しておきたいと思いまして」 「分かった。ヨルン、その間に誰か来たら、外で待たせておいてくれ」  ヨルンの返事のあと、シンシアとクリスは監視者の位置を確認するために、三階のバルコニーに向かった。  そこで、魔法を使ったあと、屋内の窓まで戻り、クリスの報告を聞いた。 「監視者ですが、もう私が捕捉できない距離まで遠ざかりましたね。その他に、一つ気になることが……。  魔力粒子版の透過空間認識魔法を練習で使ってみたのですが、城下町で大聖堂の地下以外に一箇所だけ、魔力遮断魔法がかけられた建物がありました。シンシアさん、心当たりはありますか?」 「いや、ないな。もう一度、バルコニーに出て、そこを指してもらえるか?」  二人がバルコニーに出ると、クリスが遠くを指したようだ。 「あそこです。あの屋根が白くて広い敷地の……、庭というより、ちょっとした広場のような」 「あれは……例の孤児院だな。孤児院に魔力遮断魔法がかけられているなんて、院長からも聞いたことがない……。中で話そう」  シンシアがそう言うと、二人はまた窓に戻った。 「シュウ様、私の推察が間違っていたり、補足があったりした場合は、お願いします。  魔力遮断魔法をかけたのは、おそらくシキ。コリンゼの話から、彼女が孤児院で経理をしていたことは明白だ。  そこでは、監視者やスパイとしてはペアで動けないので、自分一人になれる。その時に、孤児院に魔力遮断魔法をかけ、その後も定期的に魔力の供給もしていた。  では、何のためにそんなことをしたかだが、可能性は三つ。  一つ目は、純粋に孤児院の子どもを魔法から守るため。  二つ目は、魔法の走査で明らかになってしまう何かを隠すため。  最後は、魔力遮断魔法がかけられていることを、それが分かる誰か、まあ間違いなくユキだろうが、その者に知らせるため。その場合は、他にもヒントが示唆されているはずだ。  つまり、孤児院に重要な『何か』があることを示している。私は孤児院と交流があったが、もちろん『それ』に気付いたことはない。今ならもしかすると分かるかもしれないが。  いずれにしても、丁度良い機会だ。明日、孤児院をそれとなく調べてみよう。その一連の出来事で、ユキがシキの存在に気付いてしまうかもしれない。シュウ様、ご意見をお願いします」 『その場合は仕方がない。ユキちゃんに全部話そう。シキちゃんと対峙した時のことを心配して隠していたけど、これまでの成長した彼女を見て問題ないと判断した。まあ、今のところは隠せるだけ隠してみよう。それはそれで、お互い良い経験になる。  それともう一つ。シキちゃんがいくら天才でも、そんなに前から、ユキちゃんが城下町に来て、俺達が魔力遮断魔法がかけられた孤児院に気付くことまで計算するなんて不可能だ。イリスちゃんにも確認するけど、彼女も言っていた通り、予知のチートスキルの可能性が高い。  これは、いずれ俺達とシキちゃんが出会い、これらのことをシキちゃんに全て説明する場面が必ず来ることを意味している。未来が変わることがあるのかは分からない。ただ、相当先の未来を予知できることから、世界のタイムリミットまで知っている可能性がある。  本当は一刻も早く彼女と話したいが、俺達がどれだけ急いでも、彼女と会う日時はもう決まっている。この場合、早く会いたいからと言って、無理やり未来を変えるような行動をしても碌なことがないだろう。シキちゃんを信じて、焦らず行くしかない。  特に今の話で、彼女のことをより信じられるようになった。彼女が意味のない行動をしないということが分かったから。シンシアが挙げた理由三つ、おそらく全てが正しいはずだ。そうでなければ、こんなに回りくどいことはしない。  そうなると、孤児院に金を流したのも、シンシアを陥れるだけが目的ではなかったことが分かる。ビトーのことは恨んでも、どうか彼女を恨まないであげてほしい。  最後に、いつか王に確認しなければならないことがある。レドリー辺境伯にクリスの出自を打診した時のように、ジャスティ国のためにジャスティ国にスパイ行為を働いた場合、罪とするのか。今のところ、これをユキちゃんのいない時に確認したい』  予知のチートスキルについては、そのメリットの割にはデメリットでそれほど不自由していないことから、シキちゃんが上手く回避したのか、軽減したのか、回復したのか、あるいは、予知が不完全であるかのいずれかだ。  不完全の場合は、シキちゃんに全て頼りきるのはリスクがあるため、結局は俺達が最善と思うように進むしかない。 「流石です、シュウ様。素晴らしいご推察でした。大丈夫です。シキはユキの大切な姉。必ず私にとっても大切な存在になると確信しています。陛下にも機を見て伺います。ビトーは許しません」  シンシアのビトーへの憎しみは相当のようだ。 「ユキさんに隠すことが、お互いの経験になるというのは、シュウ様らしいお言葉でした。私の心に刻んでおきます。それでは、戻りましょうか」  クリス達は部屋に戻った。 「ねぇ、お兄ちゃん。シキちゃんが予知できるからと言って、天才じゃないってわけじゃないんだよね? 何か天才に共通する特徴があるような気がするんだよね」  ゆうが良い質問をしてきた。 「ああ。シキちゃんは天才だろう。イリスちゃんもそうだが、レドリー辺境伯が驚いていたように、基本的に『一石二鳥以上』になるように思考して、行動していると感じたな。  それに、予知に従っているだけでなく、ポイントを最適化しているようにも思えた。これは、凡人にはない発想だ。  そのことからも分かるが、少なくともシキちゃんは、ルールに従いさえすれば、未来を変えられるはずだ。そのルールが何なのかは、妄想にしかならないから、ここで考えるのはやめておこう。と言うか、実は俺に聞かなくても分かってるんじゃないのか? お前も天才の内の一人だろ」 「えー、そんなことないよ。それを言うならお兄ちゃんも天才でしょ?」 「どうしたんだよ急に。俺を褒めても何も出ないぞ。いや、あったわ。お前の大好きな俺の『一棒二玉』が」 「触手にはないだろ! 死ね!」  興味深いツッコミだ。流石、人気小説家。短い文から色々な想像を掻き立てられるが、『この時の妹の気持ちを述べよ』という問題があれば、その全てを記述できる回答者は多くなさそうだ。  少なくとも、『妹は兄に死んでほしいと思っている』は誤りだ。国家医師試験なら『禁忌肢』に相当するから気を付けるように。 「ん? コリンゼが部屋の前にいるな」  騎士団長室近くまで戻ってきたシンシアが、ヨルンに言われて部屋の前で待っていたコリンゼに気付いた。 「あ、団長! ご相談したいことがありまして……」 「ここで話せる内容か? それとも中で話すか?」 「ありがとうございます! こちらで結構です! それでは、お話しします。選抜試験の準備を進めている中で、団員が今回の試験の方針と内容に自信を持ってきたようで、少なくとも実技試験については、採用予定がある他組織のトップにも見学してもらったらどうかという提案が挙がりました。  ご承認いただけるのであれば、事前の通達と当日の説明を含めたご案内を団長にお願いできないかと……。いかがでしょうか」 「良い案だ。分かった。私からパルミス公爵に半強制の通達を出していただくよう伝えておく。案内の流れや、これだけは説明してほしいということがあれば、まとめておいてくれ」 「はっ! ありがとうございます! 宰相への説明案と通達案はこちらにまとめましたので、どうぞご参考になさってください。見学者の集合場所と時間も書いてあります」  コリンゼはそう言うと、シンシアに紙を渡して騎士団長室から離れていった。  通達してほしいことを予め用意しているとは、実に有能だ。本当に安心して試験を見ることができそうだ。 「私はこのままパルミス公爵のお部屋に伺い、これをお渡しする。クリスは中に入っていてくれ。すぐに戻ってくる」  シンシアはそう言って、パルミス公爵の部屋に向かった。  その五分後、彼女が戻ってきて、明日午前中に無事通達するようになったとのことだった。  それからイリスちゃんに予知スキルのことを報告して、またしばらくして、ユキちゃんが報告書を書き終わった頃に、丁度良く夕食の時間となり、一同は食堂に向かった。  食堂では、リオちゃんから出された料理に、一同が舌鼓を打った。通常のメインメニューは『ポークステーキ』だったようだが、『チキンとポークとビーフの三種ステーキ~異次元ハーモニーの味わい~』にグレードアップされていた。  その料理名から分かる通り、それぞれの肉の味が一切邪魔をせず、絶妙なソースで調和が取れており、それでいて最高の味を引き出しているらしい。ガロニでさえもそのソースに合わせて食べると、延々と食べていられる美味しさだが、順番に食べることを推奨されているので、逆にもったいない。スープはオニオンスープだが、決して一息つくためのものではなく、玉ねぎの甘さとブイヨンが良く効いていて、やはりそれだけでも深く味わえるとのことだ。  肉を半分ぐらい食べたところで、リオちゃんが黒胡椒を少しずつ振ってくれて、さらに最高の香りと味を堪能でき、一同の涙は留まる所を知らなかった。デザートには少量のパンケーキが出され、ふんわり柔らかく、丁度良い量のバターとはちみつで味の濃淡を楽しめる。  最後にもう一度スープが出されたが、それは冷まされた野菜スープで、あっさりと締めることができて、全体を通し、これ以上ない満足感を得られたらしい。食いてぇ~。  実は、リオちゃんには質問したいことがあるのだが、シンシア達にも話していないし、食堂でも話せない、と言うよりユキちゃんの前で話せない。  その質問とは、『占いしてもらったことある?』だ。俺は、リオちゃんのあの言葉が気になっていた。『これから長い付き合いになりそう』。なぜそんなことが分かるのか。考えられるとすれば一つ。シキちゃんがリオちゃんの未来を予知した。  つまり、二人はどこかで会ったことがあるのではないか。会うとしたら、シキちゃんが一人になる城内か孤児院、あるいは昼休憩の時に、リオちゃんが料理研究で立ち寄った食事処で『偶然』席が隣り合ったパターンだ。  その時、リオちゃんの素性を言い当てた上で、『城外から来た人達で、これからあなたを強く必要とする人達、そしてこれまで思いがけなかった方法であなたを助けてくれた人とは長い付き合いになるから、大切にすること』とでも言えば、確実にシキちゃんのことを信じ、実際にそれに当てはまるユキちゃん達が来たのだから、そういう言葉も出るだろう。  まあ、シキちゃんの予知スキルの可能性が高くなった今、知ってどうなるということでもないので、優先度は低い。  食堂から戻った一同は、部屋に戻って時間を潰してから、いつもの時間に姫の部屋に行き、俺達の『フルコース』により、再度満足感が得られる一夜を過ごした。



write-comment-iconコメントを書く
write-comment-iconレビューを書く



comment-icon新着コメント



コメントはありません。投稿してみようっ!