俺と妹が同時連想して女の子(家族と神含む)を幸せにする話(3/3)

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「シュウ様!」  部屋の隅から動き出してベッドに上がった俺達を見て、シンシアが声を上げた。 「午後七時十五分二十一秒!」  ウキちゃんが現在時刻を教えてくれたあと、猫少女に戻った。こちらでは、約二十秒しか経っていなかったようだ。  俺は早速、チートスキルを使って、みんなに『日本語』で話しかけた。 「みんな、お待たせ。聞こえたら右手を挙げて」  全員が右手を挙げた。どうやら、複数人に対して話しかけても上手く行っているようだ。シンシアはすでに俺の声を聞いていたが、他のみんなは聞いたことがなかったので、驚きと嬉しさの表情をしていた。  このスキルは、言語によらず脳内会話ができる。それは、朱のクリスタルの部屋で最初にシンシアに話しかけた時に分かっていた。言語が翻訳されているのではない。本当に『そのまま』会話できるのだ。  言語のやり取りではなく、『想い』のやり取りとでも言った方が良いだろう。だから、『言っていること』も瞬時に理解できる。その『想い』を文字として具現化したのが、食卓へのメッセージだ。また、その流れで、さわさんにはどのようにそれを行うかも教えてもらった。  『パスを通す』という言葉から、会話したい相手に予めパスを通すことで、自由に話せることが分かった。みんなに話しかける前に、俺達からそれぞれにパスを通したのだ。この場合、彼女達同士での脳内会話ができないことになるので、それをまず検証したい。 「色々と説明する前に、先に検証しておきたいことがある。ちょっと待ってて……」  うーん……。パスを通すのは俺の意識の問題だが、やろうとしてはみたものの、どうも彼女達同士でパスを通すのはできないようだ。何となく、パスを通せた時の実感がなかった。俺達を経由する形にするのはどうだろうか……。  お、これなら行けそうだ……。しかし、全員分を通せないな。正確に言えば、通せるが維持できない。単純に、俺がその全てを意識できないのだ。だとすれば……。 「お兄ちゃん、あたしがやってみようか? ここのみんなで会話できるようにするんでしょ?」  ゆうが俺の考えを読んで立候補してくれた。そう、ゆうならできるはずだ。 「ありがとう。頼む」 「……。おっけー。みんな、こうやって話すのは初めてだね。ゆうだよ。シンシアから左手順にみんなに頭の中で話しかけてみてくれる? シンシアからみんなに、クリスからみんなに、って感じで。お兄ちゃんみたいに何か指示するのが分かりやすいと思う。  一巡したら、シンシアからクリスだけに、シンシアからあたし達とクリスだけにって感じで、左の人と個別に話す練習と一部の複数対象に話す検証と練習。検証が全部終わったあと、個別に話す時は、基本的にあたし達に内容を通さなくていい。全部耳に入れても面倒だからね。  お兄ちゃんが別のことで忙しくて対応できない時は、あたしが対応する。今まで通り、まとめて、シュウちゃん、シュウ様って呼んでくれていいよ」 「ユウ様、お話しできて嬉しいです。承知しました」  シンシアの返事のあとに、みんなで検証を始め、俺達の思い通りにコミュニケーションできることが分かった。やはり、ゆうは紛れもない天才だった。どう頑張っても俺には今のパスを構築することができなかった。 「みんな、ありがとう。次の検証に進む。そのまま聞いていてくれ。ゆう、イリスちゃんに個別のパスを通せるか? 遠隔の検証だ。会話が成功したら、アースリーちゃん、リーディアちゃんに順にパスを通して、その三人と俺達だけで会話できるようにする。つまり、イリスちゃんとシンシアはまだ会話できないことになる」 「おっけー……。通したよ。遠いと通すのにちょっとだけ時間がかかるね。でも一度通せば問題なし。遅延もないんじゃないかな」 「ありがとう。イリスちゃん、聞こえる? 今、検証中」 「シュウちゃん! 遠隔通話が成功したんだね。嬉しいな、シュウイチくんの声が聞けて。ユウちゃんの声も聞かせてほしいな」  イリスちゃんの声が聞こえた。 「イリスちゃーん、あたしも嬉しいよー」 「そう。イリスちゃんの言った通りだったよ」 「すごいね、これ。途中から私が独自に開発した暗号で話してたんだけど、普通に通じた。言語の壁が一切ないんだね」  すごいのはイリスちゃんだよ……と返すのはやめておいた。  その後、アースリーちゃんとリーディアちゃんにそれぞれ繋ぎ、同様の会話をしてから、その三人で会話の練習をしてもらおうとしたが、イリスちゃんとリーディアちゃんのパスが繋がらなかった。  とりあえず、アースリーちゃんとリーディアちゃんを繋げると、二人は久しぶりに会話できて、すごく嬉しそうだった。その間、シンシアとイリスちゃんの会話がまだできないことも確認した。  現状、イリスちゃんと繋げられる人間は、アースリーちゃん、ユキちゃん、シンシアのセフ村初期メンバーだった。つまり、存在をお互いに知っていてもリーディアちゃんやヨルンと繋げられず、直接会っていてもウキちゃんと繋げられなかった。 「ゆう、次に姫とコリンゼに繋いで、それぞれシンシアと繋げてくれ。シンシアはその二人に現状を簡単に説明してほしい。詳細は俺から話す。  次に、ゆうはシキちゃんにパスを通したあと、それを閉じてみてくれ。パスだけでいい。会話はあとでする。  最後に、俺達とレドリー辺境伯を繋げようとしてみてくれ」 「おっけー。…………。シキちゃんのパスは通せたし、閉じることもできた。それと、お兄ちゃんの思ってる通り、辺境伯には繋げないね」 「分かった、ありがとう。俺達と繋がっている全員に聞いてほしい。俺達は、朱のクリスタルの力でみんなと会話できるようになり、みんなもそれぞれと会話できるようになったけど、会話するための条件が存在することが分かった。  それは、俺達と『愛』で結ばれていること、そして、それぞれと会話する場合も、『愛』で結ばれていること。『好き』程度では会話できないと思う。繋がっている状態で、喧嘩したり、『愛』が希薄になった場合、どうなるのかは分からない。試したくもないし、そうならないようにもしたい。自分への『愛』が分かってしまう状況というのは怖いと思う。  でも、みんなで幸せになろうとする気持ちは一緒だ。たとえ、『愛』が一時的に薄れても、また育めばいい。綺麗事だけ言うつもりもない。人数が増えると、相性が悪い人はどうしても出てきてしまう。それが人間だ。  ただ、本音で話してもいないのに、そのような判断をするのは愚の骨頂だろう。幸い、みんなは賢い判断ができる人達だ。今後、さらに人数が増えたとしても、その思いやりと賢明さで、『愛』を少しずつでもいいので育んでもらいたい。俺達は、みんなのことが大好きだから、みんなもみんなを大好きになってくれたら嬉しい。  とりあえず、今日はこんなところにしておこうかな。細かい使い方も伝えておこう。ゆうは、今繋がっているみんなをできるだけ相互に繋げてほしい」 「おっけー。」  それから、俺はこのスキルの補足をして、一息ついた。だが、まだやるべきことはある。 「ユキちゃん、今からシキちゃんにもう一度パスを通して会話する。心の準備はいい?」 「……うん。いつでもいいよ」 「……。おっけー。通したよ」  ユキちゃんは、深呼吸したあと、真剣な表情で答えた。そして、ゆうがシキちゃんにパスを通した。 「シキちゃん、お待たせ。俺達に向けたあのメッセージはこういうことだったんだよね」 「……ありがとう、シュウちゃん……。流石、ユキと私が大好きな存在だね……。ユキ、やっと話せたね……。本当に、やっと……」 「お姉ちゃん!」  シキちゃんが俺達に残したメッセージ『待ってるよ、シュウちゃん』は、直接会うために待ってるというわけではなかった。それなら、俺達に限定することなく、『待ってるよ、ユキ』か、あるいは『待ってるよ、みんな』になっているはずだ。前者は『双子のシーユー』で済ませているようなものだから後者。  しかし、そのメッセージでは、もっと早くコンタクトできる機会があるのに、おかしいことになってしまうとシキちゃんは考え、俺達にヒントを与えたというわけだ。『待ってる』のは、俺達のスキルによる会話だった。口を動かさないので、他の監視者に悟られることもない。  ノーリスクで情報を交換でき、大切な人とゆっくり話せる場。本当に長い間、待っていたことだろう。シキちゃんにとっては、いくつもの未来を見ては捨ててきたのだ。その数と長さだけ、人生を過ごしたようなものだ。  まずは、双子の姉妹の水入らずの時間を過ごしてもらおう。それとも、もう過ごしたことになっているのだろうか。このまま話さなかったらどうなるのかも気になるところだ。 「話し終わったら、俺達に声をかけてくれるかな。遅くなってもいいから」 『ありがとう、シュウちゃん』  シキちゃんとユキちゃんの声が思わず重なって、二人は笑っていた。 「ゆう、シキちゃんからのパスって他に誰に通る? ウキちゃんだけか? イリスちゃんと意見交換できたら最高だが、それは無理でも、アースリーちゃんかコリンゼはもしかしたらと思ったんだが」 「ちょっと待って。…………。あー、ウキちゃんだけだね。やっぱり、『愛』が大事なんだよ。過去の催眠魔法対象者とか、第一印象が良いとか、大切な人の姉とかじゃダメだってことだね。  これさぁ、お兄ちゃんが顕現フェイズでさわさんとの会話を確信してたってことは、二人が愛し合ってることを確信してたってことだよね。どこでそう思ったわけ?」 「俺の同人誌を購入してくれた時点で好意があるのは明白だからな。ふざけて言ってるのではなく、真面目な話な。そのことから、たとえ神であっても、明らかに感情が存在すると分かる。『ウォッチャー』で見ることも可能なのに、わざわざ買いに来るのは、その内容に期待しているか、俺と話したいか、他に誰も買わずに憐れんでいるかのどれかが理由だ。そのいずれも、多少の好意が共通している。  そして、交通事故に遭った時の俺が薄れ行く意識の中で、必死に声をかけてくれたさわさんを思い出して、俺のことを好きでいてくれてるんじゃないかと思った。どちらが先か分からないが、俺達に使命を与えていることから、感情移入もよりしやすくなるしな。  だから、確信したのは、さわさんが触神様と分かった時点、つまり、『聖女コトリスの悲劇』を聞いてゆうがめぐるさんと同じ反応をした時点で、可能性だけなら、触手に転生する瞬間かな。  『さわさんのために触手研究本の新作を作りたい』というおかしな願いを叶えてくれる神様なんて、普通に考えて存在するわけがない。そこでさわさんと結び付いたが、可能性が低いので保留にしていた」 「転生する瞬間って……。そんな前から考えてたんだ……。もう懐かしいなぁ、転生直後のあの頃が。検証の日々って感じだったけどね。まあ、今でも検証してるんだけど」 「ひ弱な触手の俺達がここまでやってこられたのは、その積み重ねと知恵があったからだな。そして、みんなと出会えて、より安心して、より幸せに生きていけるようになった。さらに、シキちゃんと話せるようになって、それがより強固なものとなる。俺達の所持スキルが少なくても問題がないぐらいに」 「シュウちゃん、もういいよ。ユキはアースリーちゃん達と話してもらってる」  俺達が話していると、シキちゃんが声をかけてきた。 「あ、もういいんだ。シキちゃんはユキちゃんの話を『すでに聞いてた』から、シキちゃんからユキちゃんに話しただけということかな?」 「そう。あとで聞けば整合性は取れるからね。シュウちゃんには、今ここで全てを話す。  まず、シュウちゃんのこのスキル、これは『連想』と言う。自らと互いに愛し合う者達で想いを通じ合わせることができる。また、周囲からの愛と感謝を自らの力とすることで、想いを形にして、任意の場所に送ることができる、というもの。シュウちゃんがご両親に送ったメッセージは、後者の力ね。  その名の通り、想いを繋げる力。これは、ユキと私とイリスちゃんが未来で結論付けた。思慮深く、可能性を広く考えるシュウイチくんと、優しくそれを支え、みんなの想いを同時に繋げられるユウちゃん、その二人だから、使えるようになったスキルで、そして実現できたことだよ。  朱のクリスタルには、もう一つ重要な力がある。シュウちゃんもイリスちゃんも気付いている通り、シュウちゃんと互いに愛し合う者を著しく成長させる力。それは、シュウちゃん自身も例外ではない。  なぜなら、『シュウちゃん』は、兄妹で『二人』いるから。また、二人は常に一緒にいて、互いに愛し合っているから、その成長はとてつもないものとなる。ただ、それにはキッカケが必要なこともある。  その内の二つが、今日と明日。今日は言わずもがな、チートスキル『連想』の取得。もう一つは、明日の夜、マリティさんに接触すること。  シュウちゃんなら気付いてると思うけど、『連想』の説明の後者の力、これは具現化能力と言っていい。そして、実は自分だけでなく、他者の想いも、シュウちゃんを経由して具現化できる。  ただし、その想いは時間をかけた強いものでなければいけない。でも、向こうの世界に送るほどの強さは必要ない。小さい頃から思い描いていた理想の町を、諦めずに日々設計に起こしていたマリティさんの想いはどれほどのものだろうね。その効果を最大化するには、やっぱり、マリティさんとイリスちゃんが繋がっていた方が良い。どういうことかと言うと、こういうこと」  シキちゃんのその言葉のあと、俺達の頭の中に、彼女が見た過去のモノクロ映像と説明が次々と流れ込んできた。その映像と説明は一瞬で理解でき、まるで圧縮されたファイルのようだった。俺は、迫りくる情報の波に、頭がパンクするかと思いきや、何とか大丈夫だった。  シキちゃんとユキちゃんの話がすぐ終わったのは、シキちゃんからそれらをユキちゃんに送ったから、という理由もあったようだ。 「『連想』で送ることができる想いは言葉に変換できるものだけじゃない。私が見た景色だからモノクロ映像だけど、みんなはカラーで送れる。  つまり、イリスちゃんの知識やイメージをマリティさんに直接送ることで、マリティさんのイメージが膨らみ、具現化したい想いに直結する。そうすることで、ショクシュウ村の工期を大幅に短縮できる。ただ、当然、工期のペースには気を付けなければいけない。やりすぎると、魔法抑止条約に違反していると思われるから。  今の話はスキル的な成長の話で、シュウちゃんの内面的な成長については、ついさっき私が大量の精密な映像を送って、脳が活性化されたことによって、一部完了した。  今のシュウイチくんは、ユウちゃんレベルとまでは行かないけど、ある程度、並行して物事を考えられるようになったはず。ユウちゃんは記憶力と走査力が増大したはず。  元々、二人には素質があった。シュウイチくんは、交通事故の瞬間、極限の状態の中で、無意識の内に、物事を素早く並行して考えてたんだよね。あと一秒でぶつかる時に、あるいはぶつかってから地面に叩きつけられるまで、常識的に考えて、そこまで思考できないでしょ? ユウちゃんは、ずっと前からシュウイチくんの言葉と行動を全て瞬時に思い出せてたよね? 二人は、これでもまだまだ成長の余地はあるからね。本当は一気に成長させられたら良いんだけど、今の私ができるのはここまで」  確かにシキちゃんの言う通り、いくつかの俺の意識で、同時並行で物事を考えられるようになった。これが天才の脳なのか。俺が感動していると、シキちゃんはさらに話を続けた。 「こうして私がイメージを送らずに言葉にしているのは、向こうの世界で例えるなら、モダン機器とレトロ機器がある時に、昔を懐かしんでレトロ機器を使いたくなる気分に似てるのかもね。デジタルプレイヤーとレコードプレーヤー、機器じゃないけど電子メールと手紙、みたいな、あえて手間をかける方法。今日はユキとシュウちゃんと会話できたから、そういう気分。  それじゃあ、まだ話してない私のチートスキルについて話そうか。『玄のクリスタル』によって所持できるチートスキルは、『先見』。最長一年後の自分の未来を夢の中で体験することができる。現実や夢の中の行動によって、それぞれの未来は変化するが、変化した未来も同様に体験できる。  体験シーンはカットできるから、いくつもの未来を見るために現実と全く同じ時間を消費する必要はないけど、重要な体験では必要になる。その夢を見るために、何度も自分に催眠魔法をかけて、睡眠と覚醒を繰り返したよ。とりあえず、シュウちゃんが気になってることを話しておこうか。  エフリー国での今後の予定は、シュウちゃんが計画してる通りに行けば、問題なくハッピーエンドになると思う。そして、私とセフ村で接触した時点で、『正のクリスタル』は揃うことになるはず。『はず』と言ったのは、世界の終了や『負のクリスタル』側の人達の存在や行動については予知できず、クリスタルが揃った結果、どのようなスキルを得られるのかも分からないから。知ろうとすると、その瞬間に夢から覚める。  また、それらと全く関係ない、日時不明の雑談シーンは見ることができるけど、少しでもルールに反すると、夢から覚める。私の記憶の蓄積やショクシュウ村の発展度からの推測も無理。  それに、その時の未来の私の記憶は、その重要な部分だけ抜け落ちている。だから、『タイムリミット』がいつなのかも分からない。つまり、世界のルールを越えられない。  一年後の未来を見て、上手く行ってるならそれでいいじゃないか、と思うかもしれないけど、催眠魔法をかけられ、死ぬまで幻覚を見せられて、現実では陵辱されていた未来もあったから、全く油断できない。例えるなら、あみだくじの始点と終点以外が分からず、繋がっているかどうかも分からないという状況かな。  ただ、分かったこともある。夢から覚めたり、記憶が抜け落ちたりするのであれば、その逆を繋ぎ合わせれば、ある程度は『タイムリミット』に関係する者達を特定できるんじゃないかと考えた。  全世界の人達を虱潰しに調べていくのは、いくら時間があっても足りないけど、世界の終わりに関係する国までは絞ることができた。それが『リー三国』。その中でも、いつの間にか私が捕まっていた確率が高かったのが、イプスリー国。あの国には、間違いなく私と同等かそれ以上の天才がいる。外の大陸から来た可能性もあるかな。  私はイリスちゃんほどの天才じゃないから、その敵に対しては、勝ったり負けたりしてたんだと思う。天才に違いがあるのかと思うかもしれないけど、イリスちゃんは本当に別格。『先見』があって、初めてイリスちゃんを越えられるレベル。  そんなチートスキルがあって、イリスちゃん以外に負ける状況なんて考えられないと思うでしょ? その場合は、スキルを封じられて、未来の記憶を消されたんだと思う。もちろん、スキルを封じられる未来も見えなかったはず。  そんな特殊能力を持ってる天才が敵に最低一人いる。それを相手にするなら別の敵を相手にした方が良い、一人でも何とかすれば私達の勝ちなんだから、って考えても上手く行かないこともあるんだよね。私が未来で生きている時点から逆算しても、そこに辿り着かないってことは、世界が終わってるか、その間近ってことだから。  でも、『正のクリスタル』が揃えば、先がハッキリと見えるはず。イリスちゃんとも、全ての情報を共有して対策を練りたい。ということで、シュウちゃん、よろしくね。  細かい点や私の今の状況は、イメージで今から共有する。私の辛い未来を見せるわけじゃないから安心して」  シキちゃんはそう言うと、俺達に想いのイメージを送った。本当に便利だ。仕組みとしては、やはり触神スペースを利用しているのだろう。『愛で繋がる』とは、『触神スペースとの接続』を意味しているということだ。  シキちゃんの話の中で、『リー三国』が出てきたが、ここに所持者が分散しているとすると、同一スキル複数人の場合を除いて、最も集まっている状態で『四一一』、集まっていない状態で『二二二』で分かれているということか。 「ありがとう、シキちゃん。イリスちゃんにも、現時点での情報として伝えておくよ。ユキちゃんには少しずつ伝えていく。そういうことでいいよね」 「流石、シュウちゃん。それじゃあ、またね。私はウキちゃんと話してから眠ることにする。今、待ってもらってるから」  そして、シキちゃんとの会話は終了した。  ユキちゃんに少しずつ話していくのは、一つ一つ理解してもらって、何が正しいか、彼女がどのように行動するかを判断してもらうためだ。全部まとめてだと、終わり良ければ全て良しになってしまう恐れがある。  だから、シキちゃんは俺達との会話にユキちゃんを入れなかった。俺が当初思っていた『勇運さえあれば、どうにでもなるだろう』というのは、あまり良くないことだったのだろう。それをシキちゃんに優しく諭してもらった形だ。ありがとう、シキちゃん。  でも、推察のレベルが高すぎるよ。意識の並行化ができていなければ、会話中には分からなかったかもしれない。 「今日は色々あったなぁ。みんな、このままだと興奮して眠れないんじゃない? 馬車でも寝てなかったから、少しは休まないと明日に響いちゃうよ」  ゆうが一息ついて、みんなの心配をした。 「そうだな。今日は流石に、催眠魔法で短時間睡眠をしてもらった方が良いだろう。『連想』で作戦の共有時間も一瞬だし、予定より遅めに宿を出るとするか」  シキちゃんの過去の映像から分かったことがある。『先見』に目覚めたシキちゃんは、何度も予知をするために短時間睡眠をしていたという話だったが、ありとあらゆる場面で、それがたとえ数秒程度であっても睡眠を繰り返していた。少しの待ち時間でさえ利用して、目を瞑るとすぐに眠れるような催眠魔法を予め自分にかけているのだ。  俺には寿命を削るような行為にしか思えなかったが、実はそれが彼女の視力を維持している秘訣でもあった。彼女が小さい頃に『盲目の魔法使い』と呼ばれていた背景には、当然クリスタルの影響があったわけだが、一度に見る予知が長ければ長いほど視力を失い、ついには完全に盲目となることが分かっていたそうだ。  普通の人間ならば、その因果関係に気付かないか、もし気付いても、それを恐れて予知はもう見たくないと思うはずだ。しかし、それが罠で、視力を失うことを恐れれば恐れるほど、強制的に予知を長時間見せられてしまい、一気に視力を失うキッカケとなる。  シキちゃんは早い段階でそれに気付き、様々な検証を行うことで、視力は少し悪くなったものの、色を失った世界に留めることに成功したとのことだ。『盲目の魔法使い』と呼ばれていた時期は、予知した未来を全て記憶し、その通りに行動すれば、目が見えなくても問題ないのではないかという検証期間だったようだ。  もちろん、その時は盲目ではないし、恐怖もなかった。短時間の予知であれば、何回見ても色を失うだけということも分かり、すでにモノクロの世界であれば、問題とはならない。  したがって、催眠魔法を駆使すれば、長時間の予知を回避しつつ、視力を維持しながら、いくらでも予知できるという結論になったそうだ。しかも、その『盲目の魔法使い』はエフリー国向けの偽装工作で、そういうことにしておけば、色々な場面で役に立つことを予知していた。  図書室に行く時は、『本はまともに読めないけど、図書室の匂いが好きだから、そこで落ち着きたい』ということにしていたそうだ。まともに読めないだけで、モノクロでは読めるから嘘は言っていない。ウキちゃんと会うためには、日常的に通っていることにする必要もあるからだ。監視者として外に出る時は、目立たないように目を開けているが、感覚に頼っているということにしているらしい。  自分だけで解決できなかったかについては、エフリー城には、現在のジャスティ城のように、確認魔法トラップが仕掛けられているとのことなので、催眠魔法で誰かを操って、自由の身になることは困難。当然、人質もいて、エフリー国北西の村と城内に一組ずつ、いずれも、疎開時にはぐれた家族達だが、その両方をほぼ同時に救わなければならないので、やはり一人では難しい。王族に近づくこともできないので、任意の命令をさせることもできないとのことだった。しかし、みんながいれば、それもたちまち容易になると確信していた。  そのための作戦は、みんなが仮眠から起きたあとに、俺が伝えることにして、個人フェイズに意識を移すと、いつの間にか全裸の俺をベッドに運び、両腕を枕にして眠っている、同じく全裸のゆうとさわさんがいた。並行化したあとは、ずっとこの景色だったから分からない。一体、俺はナニをされていたんだ……。  現実では一時間以上経っているから、個人フェイズでは、俺は四日以上全裸でいることになる。二人は眠る必要がないから、余韻と雰囲気を味わった狸寝入りということは分かる。また、妙にスッキリした気分になっていたので、きっとどこかのサキュバスの仕業だろうことも分かった。  とりあえず、俺はそれを見なかったことにして、眠るわけでもなく目を瞑った。 「それじゃあ、みんなに作戦を伝えよう」  一同は、午前一時四十五分に宿屋の部屋から出て、郊外の誰もいない原っぱまで、暗闇の中を歩いていた。ウキちゃんの懐中電灯では明るすぎるので、クリスの小さい火炎魔法で夜道を照らしている。ウキちゃんは、町を少し離れてからは、猫少女に変身していた。 「まず、エフリー国北西の村、『ノスト村』に行く。ここには、シキちゃんの人質達がいる。山側に近い村から離れた場所に着陸して、朝まで待ってから村に入る。待っている間は、ユキちゃんを先頭に、エフリー国通貨に換金できるものを探す。  質屋はノスト村にあるから問題ない。なぜなら、ノスト村の近くにある山は鉱山で、稀に原石が見つかることがあり、それを商材とする商人や、そのまま欲しがる貴族の使いが出入りする場合があるから。  手に入れた金は、その村での滞在費に使用する。滞在中に人質達に会い、説得して逃げる準備を整える。説得役はユキちゃん。人質に異変があった場合、監視者が魔法で合図を送ることになっていて、その合図は、町から町へ伝えられ、最終的に城まで伝わる。そこで、城内の同じくシキちゃんの人質が殺されることになっている。だから、逃げる前に、その村の監視者全員に催眠魔法をかけ、合図を送らないようにする。  それらの手筈が整う目処がついたら、ウキちゃんは、ユキちゃんを残して、シンシア達をエフリー城下町付近まで送り、さらに城に侵入する。城内にいる人質の場所を確認して、城に戻っているシキちゃんに伝える。  人質の顔は予め伝えるし、その人は魔力抑制魔法を使っているので、セフ村でそのことが分かったウキちゃんなら大体の場所も特定できる。できれば、他の情報も収集したいが、シキちゃんと相談してからにしよう。  さらに、この一週間は、ビトーもウキちゃんを傷付けた王族である第二王子も城内にいることが分かっているので、この二人を捕らえて殺すために、変装魔法をかけたシンシア達が正面から城に乗り込む。  シンシアとヨルンは、クリスを守りつつ、クリスは城内で空間催眠魔法を使用し、全員の動きを丸一日止めると同時に、その二人を呼び出す。できれば、クリスの村の襲撃を指示した奴を聞き出して、そいつも呼び出したい。  クリスを守る際は、敵を殺さないようにはしたいが、エフリー国の魔法使いは優秀らしいから、てこずる可能性は高い。どうしても厄介な場合は、殺してもかまわない。俺達全員の安全が最優先だ。  シキちゃんは、クリスに動きを止められないように、事前に魔力遮断魔法を使っておく。そして、人質を迎えに行き、動けるように解除魔法をかけた上で、シンシア達と合流する。  ウキちゃんは、シキちゃんと人質が会った時点で、城を出て、シンシア達を降ろした場所に向かう。呼び出した二人または三人については、必要な情報を引き出してから、その場で苦しませた上で殺し、ウキちゃんの所までクリスの魔法で壁を壊しながら、ショートカットする。城壁は、嫌がらせで全て壊す。消滅じゃなく、壊すことでそれを撤去する手間を発生させることができるからだ。  聞き出す情報は、あとで教える。そこで、ウキちゃんに聞いておきたい。『綺麗だなぁ』の反対の『汚いなぁ』『見たくないなぁ』と感じる宝石を第二王子が持っていたかどうか」  人質の詳細については、伝えないことにした。魔法使いの村のことを話さなければいけなくなるからだ。 「うーん、少なくとも視界にはなかったけど、分からないなぁ」  ウキちゃんが答えた。俺は、第二王子は持っていない可能性が高いと考えていた。なぜなら、シキちゃんもこの未来は見ているはずだから、ルール違反で夢から覚めないことからも、負のクリスタルの持ち主ではないことが分かる。  イリスちゃんの推察の一つが外れたことになるが、もしかすると、同スキル所持者が複数人いる場合は、ルール違反が適用されない可能性もある。『タイムリミット』に直接関与しないから、予知できるとか。  シキちゃんが気付かない程度のスキルであれば、脅威とはならないが、それでも、負のクリスタルを揃えるための重要な構成員だ。念のため、その対策として、正が負に置き換えられて、人数が揃わないように、ユキちゃんを村に残したり、ウキちゃんを先に離脱させたりと、作戦には組み込んでみた。 「ありがとう。それも踏まえて、エフリー城に向けて移動する時に、改めて破壊作戦を伝えることにする」  ユキちゃんを残すのは、別の理由もある。今回、最も重要な目的は人質の確保だ。ノスト村に誰も残らなかったり、別の子が残ったりした場合で、かつ追加のエフリー兵が来た場合に、完全には対応できない可能性がある。ユキちゃんがいれば、完全対応が可能だし、エフリー城では、シキちゃんがいるから問題ない。  また、大胆すぎる作戦ではないかと思うかもしれないが、これもシキちゃんとユキちゃんに保証されているので問題ない。決して雑な作戦ではないということだ。  一同は、目的の場所に着くと、クリスの魔法を消し、ウキちゃんから離れて、彼女の変身を見守った。四人はそこで、初めて実物のヘリコプターを見た。 「おお! 動画で見た通りだ!」  シンシアが声を上げ、他のみんなも物珍しそうに見ていた。 「乗っていいよ!」  ウキちゃんが促すと、ユキちゃんとクリスが前の操縦席二席、シンシアとヨルンは後ろに乗った。非常時は、すぐに状況が分かる操縦席の二人が魔法を使えるように、そして、ヨルンがシンシアを抱き、『反攻』で彼女を守ることで、被害を最小限にできるため、その配置にした。  もちろん、ウキちゃんの変身があれば、その必要もないが、念のため二重の策を講じた。実際は、ユキちゃんがヘリコプターを発進させるので、『勇運』により絶対墜落することはなく、三重策にもなっている。 「みんな、準備はいい? ドアロック確認、シートベルト着用オッケー、周囲に人の気配なし。飛行開始!」  ユキちゃんは、操作パネルの『本番飛行』ボタンに触れた。画面が切り替わり、すでに登録済みの目的地候補が表示されると、ユキちゃんは、『エフリー国ノスト村近辺』ボタンに触れた。検証時と同様の手順でローターが回りだし、一同は目的地に飛び立った。  ノスト村までのフライト時間は約二時間。敵国に乗り込む心の準備の時間でもある。 「緊張してきたぁ……」  ゆうが呟いた。個人フェイズのゆうを見ると、とてもそうは思えない。 「どこが緊張してるんだよ。また、さわさんとイチャイチャしてるじゃないか。別人格か? このあと、俺も巻き込むんだろ?」 「そうだよ。それはそれ、これはこれ」 「あまりやると、本当に精神が分裂するぞ。程々にしておけ」 「お兄ちゃんだって、あたしと話す時とみんなと話す時で、態度が違うじゃん。それと同じだよ」 「それを同一人物に対して、同時に行うとはどういうことなんだよ。シュレーディンガーでも批判できないぞ。残念ながら、俺は同時に観測できてるし、ゆうは確率で存在してないから」 「そもそも、九日前に個人フェイズができてから、時間軸の異なる空間に、あたしは同時に存在してるわけ。これがどういうことかと言うと、個人フェイズのあたしは、もう十八歳超えてるの。そして、その九百日もの間、お兄ちゃんには指一本触れられなかった。  でも、プレゼントとして『あたし』も渡せたから、もう半分開き直ってるけど、琴ちゃんが待ってくれたから、あたしも待つようにして、一線は越えてない。お兄ちゃんなら、その事実に気付いてるでしょ? あたしと結婚してくれるんだよね? どこが同時に観測できてるのかな? 目を瞑ってるようにしか見えないんだけど。はい、論破」 「ぐ、ぐぬぬ……。いや、まだだ。現実時間では、まだ俺の戦いは始まったばかりだ!」 「はい、打ち切り」 「いや、まだやること山積みだから! スキルツリー作成、経験値牧場、シキちゃん人質救出作戦、マリティ接触、世界終了の食い止め、両世界の往来確立! それに、気になってることもある。エフリー国が催眠魔法に対するセキュリティ意識をいつ得たのか。これは……」 「あ、話を逸らそうとしてる。今は精神の話をしてるから。  『ゆうが十八歳になるまで、お前がいくら一線を越えたくても、誘いには乗らない』って言ったよね?  それって、肉体的な話じゃなくて、大人の判断ができる年齢になるまでってことだよね?  仮に肉体的な話だとしたら、現実では触手で、個人フェイズでは年を取らないから、一生無理だよね?  それは理不尽だよね?  法律的な話なら、あたし達は常識を捨てたから問題ないよね?  はい、論破」  ゆうの主張に、俺は手も足も出なかったが、俺達のやり取りを聞いていたさわさんは終始笑顔だった。 「ふふふっ、シュークンって妙なところで恥ずかしがるんだよね。いつもは平気で真面目な台詞を言うのに。ゆうちゃんのことを心の底から大好きなのもバレバレなのにね。  シキちゃんが言った通り、『連想』で二人が愛し合ってることは証明されてるけど、もう一つ、特別に教えてあげようか。でも、シュークンはもう気付いてるかな。今回は、私はゆうちゃんの味方ね。もちろん、シュークンが理不尽だから。  さて、二人が触手に転生した直後から会話できたのはなぜでしょう。実は、ちゃんとした理由があるんだよね。それは、『連想』の条件に当てはまってたから。でも、その力は、まだ極端に弱かった。ただの兄妹愛では会話できないほどに……。ここまで言えば、もう誰でも分かるよね」 「ありがとうございます、さわさん。ほら、お兄ちゃん! また『ゆう、愛してるよ』って言いなさい!」 「お前、やっぱり俺の心が読めるんじゃないか! くっそー、こうなったら俺もお前の心を読んでやる! 読めた! 『お兄ちゃんのおちんちん大好き!』だろ⁉」 「死ね!」 「あ、ゆうが『お兄ちゃん、世界で一番愛してるよ』って言った!」 「うざぁぁぁぁ!」  シュークンとゆうちゃんの戦いは、まだ始まったばかりだった。  そして、私は引き続き、この二人の物語を綴っていこう。これを読んで、泣いたり、笑ったり、二人の状況を知って安心したい人のために。  でも、あなたが二人と会えるまでは、もう少し時間がかかりそうだ。  二人が一歩一歩、着実に進んできたように、触手研究家(神称)のシュークンと百合好き(お兄ちゃんも大好き)のゆうちゃんが触手に同時転生して女の子(例外有)を幸せにする物語も、まだ始まったばかりなのだから……。 「ふぅ……今日はここまでにしようかな」  タブレットに接続していたキーボードを外して、彼女はベッドに身を投げ出した。 「はぁ……やっと三割ってところかな……。壮大すぎだよ……」  一人しかいない部屋に、彼女の独り言が反響する。女性の部屋にしては、シンプルな家具と内装が、必要な物さえあればいいという彼女の生活スタイルを物語っていた。  しかし、この部屋に入った者が中を見渡した時に、明らかに場違いな本が置いてある棚が目を引くだろう。彼女が創作活動をする上で、バイブルと称している本だ。 「一応、区切りも良くしてるから、これで終わりにして、新作を書いてもいいけどなぁ……。その場合の登場人物は、やっぱりあの二人かな」  ブルルル。まだ止まらない彼女の独り言を余所に、テーブルの脇においてあった携帯電話が震えた。時間は丁度、二十四時を回ったところだ。 「あ、めぐる? どうかした?」 「さわが書いた小説、読んだから、その感想」 「読んでくれて、ありがとう。どうだった?」 「ちゃんと読むと面白いんだけど、推察部分とモノローグが多いから、展開が遅いなって思った。イマドキの子がそれを我慢して読むかどうか……。彼のことが大好きすぎて、全部書きたいのは分かるけどさ。  それと、前に『愛と感謝』が裏テーマって言ってたけど、最後まで読んだ時にそれが伝わるかは、感謝についての説明がないから微妙かな。ないというより、立場上できないんだろうけど。  あと、エロ描写があるから、ライト層には受けなさそう。  んー、あとは、指摘されてた通り、空行が少なかったから読みづらさはあったかな。操作性とトレードオフなのも分かるけどね。  できるだけ一気に投稿したい、  シュウちゃんの日程に合わせる必要がある、  読者の集中力を保たせたい、  操作性の悪さにも限度を持たせたい、  それらを全て満たす方法がアレってことだろうけど、本当は書籍媒体が一番適してるんだよね。展開の遅さをカバーするなら段組みで一気に読ませる方法かな。触手モノで段組みは前代未聞だね。まあ、そんなの叶うのかは分からないけど。  最後に、あたし達の出番が少ないなって思った。コトの過去から現在だって、ちゃんと書けばシナリオになるんじゃない?  ゆうちゃんとの出会いから別れ、立ち直ってから覚醒までの感動シーンと激熱シーンもこの先あるだろうし」  仲が良いさわが相手だからこそ、素直な感想を述べるめぐる。 「感想ありがとう。本当は、朱のクリスタルの所持資格を言えたら良いんだけど、言えないからね。まあ、エロは仕方ないね。それがなかったら触手がいる意味ないから。  それと、『向こう』にウェブ小説を投稿してみて分かったことがあるかな。全部予想してたことだけど。めぐるが言ったことに加えて、多くの読者が集まるサイトでは、その読者を一つの作品に集める方法が歪んでるってこと。  長いタイトルとあらすじはもちろんのこと、作者同士がSNSで繋がって、宣伝と空評価をし合って、ポイントやランキングを上げてる。意識しているかしてないかによらず、挨拶代わりにね。友達が多ければ挨拶の回数が増えるのは当たり前だよね。常識的には、挨拶されたら挨拶しないといけないから、同じように、評価されたら評価し返す。それで、一瞬でもランキング上位に入れば、あるいは入らなくても、ある程度の読者さえ集まれば、あとはみんなが見てるからという理由だけで、さらに読者が増える。作品を純粋に評価してる人がかなり限られてるんだよね。当然、書籍化が決まったり、これまでの作品で固定読者を持っている作家の新作が断然有利。すでに『何らかの方法』で評価されてるからね。もちろん、自作自演の評価もあり得る。だから、みんなが思っている以上に、純粋な新規作家のハードルはとてつもなく高い。  また、男女の違いもある。男性に比べて、女性はアンケートに気軽に答えて、さらに組織票を入れる傾向にあるから、それと同様に、作品評価でも、同じジャンルで女性読者が多い作品は、内容がどうであれ有利に働く。男性はたとえ面白くても、わざわざ目に見える評価をする人は少ないから、男性読者が多い作品は相対的に不利になる。少年漫画のアンケートでも解決できていない問題だね。  大きく分けて、これらが、たとえ書籍化されて、アニメ化やメディアミックスされた作品が多くあったとしても、ウェブ小説投稿サイトが粗製濫造とバカにされる所以。  別に私の作品が優れてるって言いたいわけじゃない。本当に面白い作品が評価されてほしい、そして、それをユキちゃんじゃなくても探せるようにして、私やこっちの人達に読ませてほしいってだけ。私は、私が面白いと思ったものをそっちにも送るからってね。  でも、それについては、私だけじゃなくて、みんなそう思ってるんじゃないかな。つまらない、心が動かない作品を読みたい人なんていないだろうから。それこそ、リオちゃんのシステムやジャスティ国騎士団の新評価システムみたいに、しっかり作品を評価できるシステムがほしいかな。  ランキング至上主義から脱却したウェブ小説サイトもいくつかあるけど、規模は大きくないし、システムとしては、私から言わせれば、まだ不完全なんだよね。大量に作品がある中で、読者が出版社の編集者のように第一評価者となるのは当然として、面白い作品を見つける目的であれば、その評価項目やジャンルを今以上に細分化するべきだし、評価者に対する評価も客観的、統計的に行う必要がある。それを一から作れる人がいない。いたとしても、広告宣伝費を十分に使える余裕がないと、作家も読者も集まらない。作るだけ無駄になってしまう。  これはウェブ小説投稿サイトに限らず、ウェブ漫画投稿サイトでもそうだし、世の中全ての商品において言えることだね。シュークンとゆうちゃんも似たようなこと言ってたけど、たとえニーズに合った良いものを作ったとしても売れるとは限らない。売れたとしても、良いものとは限らない。その売上は評価ではないから。  特にこの界隈は雑に作られた一過性の流行りが横行してるんだよね。今の言葉を言い換えるなら、面白い作品を公開したとしても評価されるとは限らない。評価されたとしても面白い作品とは限らない。その評価が歪だから。  冷静になってあとで考えてみると、シュークンも言ってた通り、『やっぱりクソ作品だったわ』となることが多い。でも、それを今更言えない。自分を否定することになるから……。  あっと、話しすぎちゃったね。まあ、まだ触れていない問題や、言いたいことはあるけど、次の機会にして……。  あとは、ことちゃんの話だっけ。完全一人称視点で行くって決めたから、ことちゃんの体験は描写できないんだよね。彼女の体験を彼は知らないから。それに、場面が行ったり来たりするの嫌だから、回想もその子の台詞でしかやらないことにしてるし。書くとしたら、同シリーズの番外編かな。でも、めぐるの気持ちは分かるよ。ことちゃん大好きだもんね」 「あ、反撃された。せっかく感想言ってあげたのに」 「ごめんごめん。今度いっぱいご褒美あげるから……」 「まあ、それならいいけど……。焦らすのは無しだよ」 「えーなんで? あの時のめぐる、すっごくかわいかったのに。涙浮かべて、おねだりしてきて、私も我を忘れちゃうほど、興奮したんだけどなー」 「たまにならいいけど、毎回あんなふうにされたら……朝になっても収まらなくなっちゃうから……。次の日、何もできなくなるでしょ?」 「じゃあ、次の日もしようか、一日中。やってみたかったんだよね。今度の連休どう?」 「まあ、いいけど……。はぁ……来月からどうなることやら……」 「『うおち屋』には道具も揃ってるし、ちやも、いつもとのギャップがあるかわいいめぐるが大好きだからね。三人で暮らし始めたら、めぐるの生活は潤い続けて、絶頂の幸せ、もとい、幸せの絶頂を感じちゃうね」 「あの子達に影響されすぎでしょ。特に、修一くんに。じゃあ、私もゆうちゃんの真似しようかな。きも。」 「だって、『私達』の大好きな『子ども達』だし。本当は、特別扱いしたいけど、私達のルール、信念があるからね」 「その範囲内では十分特別扱いしてるけどね。さわの意思と接触できてる時点で。しかも、今度は現代と行き来できるようになるかもしれないし」 「それは、めぐるからのご褒美、と言うか二つの世界を『巡って』救うための使命でしょ?」 「まあね。ちやから連絡受けた時は流石に驚いたね。私達が元々監視していた彼らなら、向こうの世界を救えると思ってたけど、こっちの世界の救世主候補にもなるなんてね。  しかも、触手の姿で。ちやが魔力付与したら、二つの世界、いや三つか、その総人口を救うことになると判明するとか、前代未聞でしょ。クリスでさえ数百万人なのに」 「私も驚いたけど、それと同時に、感動したなぁ。愛と感謝がやっぱり世界を救うんだって。彼らは、文字通り、愛と感謝の化身だからね」 「彼らの場合は、それに加えて、特異な危機意識と知恵があるしね。理想を実現するには、やっぱり手段がないと。声高に叫んでるだけじゃ、永遠に実現できない。  それを伝える目的もあって、その『デバイス』で向こうの世界に『触れて』、小説を投稿してるんでしょ?  それにしても腹が立つのは、他の神達は、別にどっちも滅んでいいじゃんって言ってるらしいけど、私達があの子達のことを好きっていうのは置いておくとして、いや、それ世界の管理者としてどうなのよって話」  めぐるは、声で怒りを露わにし、他の神達を批判した。 「『管理者』じゃなくて、ただの『傍観者』だからね。それって、いてもいなくてもどうでもいい存在ってことだからね。そのくせ、気まぐれで世界を好き放題したり、罰を与えたりするとか、むしろ害悪な存在だよね」 「ほんとそれ。半分傍観者みたいな役割だけど、報告や提案をちゃんとするちやを見習ってほしいわ。そう言えば、世界終了の放置が他の管理者の世界に影響を及ぼすこともあるって聞いたことがあるんだよね。完全にとばっちりじゃん」  二人の愚痴は止まらなかったが、さわが歯止めを掛けた。 「まあ、愚痴はこのくらいにしておいて……、私は信じてるよ。シュークンとゆうちゃんが、『女の子』や『両性具有』、『魔法生物』だけじゃない、『接触していない人達』、『本人達』、『世界そのもの』、そして『私達』までも幸せにしてくれるってね」 「うん、私も楽しみにしてる。それじゃ」  めぐるの言葉で締めて、二人の通話が終わり、さわは再びベッドに横になった。  そして、いつものように、愛する二人の元に向かうのであった。 「まあ、私はもう幸せなんだけどね。転生直後に会話できた、あの二人と同じように……」



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「シュウ様!」  部屋の隅から動き出してベッドに上がった俺達を見て、シンシアが声を上げた。 「午後七時十五分二十一秒!」  ウキちゃんが現在時刻を教えてくれたあと、猫少女に戻った。こちらでは、約二十秒しか経っていなかったようだ。  俺は早速、チートスキルを使って、みんなに『日本語』で話しかけた。 「みんな、お待たせ。聞こえたら右手を挙げて」  全員が右手を挙げた。どうやら、複数人に対して話しかけても上手く行っているようだ。シンシアはすでに俺の声を聞いていたが、他のみんなは聞いたことがなかったので、驚きと嬉しさの表情をしていた。  このスキルは、言語によらず脳内会話ができる。それは、朱のクリスタルの部屋で最初にシンシアに話しかけた時に分かっていた。言語が翻訳されているのではない。本当に『そのまま』会話できるのだ。  言語のやり取りではなく、『想い』のやり取りとでも言った方が良いだろう。だから、『言っていること』も瞬時に理解できる。その『想い』を文字として具現化したのが、食卓へのメッセージだ。また、その流れで、さわさんにはどのようにそれを行うかも教えてもらった。  『パスを通す』という言葉から、会話したい相手に予めパスを通すことで、自由に話せることが分かった。みんなに話しかける前に、俺達からそれぞれにパスを通したのだ。この場合、彼女達同士での脳内会話ができないことになるので、それをまず検証したい。 「色々と説明する前に、先に検証しておきたいことがある。ちょっと待ってて……」  うーん……。パスを通すのは俺の意識の問題だが、やろうとしてはみたものの、どうも彼女達同士でパスを通すのはできないようだ。何となく、パスを通せた時の実感がなかった。俺達を経由する形にするのはどうだろうか……。  お、これなら行けそうだ……。しかし、全員分を通せないな。正確に言えば、通せるが維持できない。単純に、俺がその全てを意識できないのだ。だとすれば……。 「お兄ちゃん、あたしがやってみようか? ここのみんなで会話できるようにするんでしょ?」  ゆうが俺の考えを読んで立候補してくれた。そう、ゆうならできるはずだ。 「ありがとう。頼む」 「……。おっけー。みんな、こうやって話すのは初めてだね。ゆうだよ。シンシアから左手順にみんなに頭の中で話しかけてみてくれる? シンシアからみんなに、クリスからみんなに、って感じで。お兄ちゃんみたいに何か指示するのが分かりやすいと思う。  一巡したら、シンシアからクリスだけに、シンシアからあたし達とクリスだけにって感じで、左の人と個別に話す練習と一部の複数対象に話す検証と練習。検証が全部終わったあと、個別に話す時は、基本的にあたし達に内容を通さなくていい。全部耳に入れても面倒だからね。  お兄ちゃんが別のことで忙しくて対応できない時は、あたしが対応する。今まで通り、まとめて、シュウちゃん、シュウ様って呼んでくれていいよ」 「ユウ様、お話しできて嬉しいです。承知しました」  シンシアの返事のあとに、みんなで検証を始め、俺達の思い通りにコミュニケーションできることが分かった。やはり、ゆうは紛れもない天才だった。どう頑張っても俺には今のパスを構築することができなかった。 「みんな、ありがとう。次の検証に進む。そのまま聞いていてくれ。ゆう、イリスちゃんに個別のパスを通せるか? 遠隔の検証だ。会話が成功したら、アースリーちゃん、リーディアちゃんに順にパスを通して、その三人と俺達だけで会話できるようにする。つまり、イリスちゃんとシンシアはまだ会話できないことになる」 「おっけー……。通したよ。遠いと通すのにちょっとだけ時間がかかるね。でも一度通せば問題なし。遅延もないんじゃないかな」 「ありがとう。イリスちゃん、聞こえる? 今、検証中」 「シュウちゃん! 遠隔通話が成功したんだね。嬉しいな、シュウイチくんの声が聞けて。ユウちゃんの声も聞かせてほしいな」  イリスちゃんの声が聞こえた。 「イリスちゃーん、あたしも嬉しいよー」 「そう。イリスちゃんの言った通りだったよ」 「すごいね、これ。途中から私が独自に開発した暗号で話してたんだけど、普通に通じた。言語の壁が一切ないんだね」  すごいのはイリスちゃんだよ……と返すのはやめておいた。  その後、アースリーちゃんとリーディアちゃんにそれぞれ繋ぎ、同様の会話をしてから、その三人で会話の練習をしてもらおうとしたが、イリスちゃんとリーディアちゃんのパスが繋がらなかった。  とりあえず、アースリーちゃんとリーディアちゃんを繋げると、二人は久しぶりに会話できて、すごく嬉しそうだった。その間、シンシアとイリスちゃんの会話がまだできないことも確認した。  現状、イリスちゃんと繋げられる人間は、アースリーちゃん、ユキちゃん、シンシアのセフ村初期メンバーだった。つまり、存在をお互いに知っていてもリーディアちゃんやヨルンと繋げられず、直接会っていてもウキちゃんと繋げられなかった。 「ゆう、次に姫とコリンゼに繋いで、それぞれシンシアと繋げてくれ。シンシアはその二人に現状を簡単に説明してほしい。詳細は俺から話す。  次に、ゆうはシキちゃんにパスを通したあと、それを閉じてみてくれ。パスだけでいい。会話はあとでする。  最後に、俺達とレドリー辺境伯を繋げようとしてみてくれ」 「おっけー。…………。シキちゃんのパスは通せたし、閉じることもできた。それと、お兄ちゃんの思ってる通り、辺境伯には繋げないね」 「分かった、ありがとう。俺達と繋がっている全員に聞いてほしい。俺達は、朱のクリスタルの力でみんなと会話できるようになり、みんなもそれぞれと会話できるようになったけど、会話するための条件が存在することが分かった。  それは、俺達と『愛』で結ばれていること、そして、それぞれと会話する場合も、『愛』で結ばれていること。『好き』程度では会話できないと思う。繋がっている状態で、喧嘩したり、『愛』が希薄になった場合、どうなるのかは分からない。試したくもないし、そうならないようにもしたい。自分への『愛』が分かってしまう状況というのは怖いと思う。  でも、みんなで幸せになろうとする気持ちは一緒だ。たとえ、『愛』が一時的に薄れても、また育めばいい。綺麗事だけ言うつもりもない。人数が増えると、相性が悪い人はどうしても出てきてしまう。それが人間だ。  ただ、本音で話してもいないのに、そのような判断をするのは愚の骨頂だろう。幸い、みんなは賢い判断ができる人達だ。今後、さらに人数が増えたとしても、その思いやりと賢明さで、『愛』を少しずつでもいいので育んでもらいたい。俺達は、みんなのことが大好きだから、みんなもみんなを大好きになってくれたら嬉しい。  とりあえず、今日はこんなところにしておこうかな。細かい使い方も伝えておこう。ゆうは、今繋がっているみんなをできるだけ相互に繋げてほしい」 「おっけー。」  それから、俺はこのスキルの補足をして、一息ついた。だが、まだやるべきことはある。 「ユキちゃん、今からシキちゃんにもう一度パスを通して会話する。心の準備はいい?」 「……うん。いつでもいいよ」 「……。おっけー。通したよ」  ユキちゃんは、深呼吸したあと、真剣な表情で答えた。そして、ゆうがシキちゃんにパスを通した。 「シキちゃん、お待たせ。俺達に向けたあのメッセージはこういうことだったんだよね」 「……ありがとう、シュウちゃん……。流石、ユキと私が大好きな存在だね……。ユキ、やっと話せたね……。本当に、やっと……」 「お姉ちゃん!」  シキちゃんが俺達に残したメッセージ『待ってるよ、シュウちゃん』は、直接会うために待ってるというわけではなかった。それなら、俺達に限定することなく、『待ってるよ、ユキ』か、あるいは『待ってるよ、みんな』になっているはずだ。前者は『双子のシーユー』で済ませているようなものだから後者。  しかし、そのメッセージでは、もっと早くコンタクトできる機会があるのに、おかしいことになってしまうとシキちゃんは考え、俺達にヒントを与えたというわけだ。『待ってる』のは、俺達のスキルによる会話だった。口を動かさないので、他の監視者に悟られることもない。  ノーリスクで情報を交換でき、大切な人とゆっくり話せる場。本当に長い間、待っていたことだろう。シキちゃんにとっては、いくつもの未来を見ては捨ててきたのだ。その数と長さだけ、人生を過ごしたようなものだ。  まずは、双子の姉妹の水入らずの時間を過ごしてもらおう。それとも、もう過ごしたことになっているのだろうか。このまま話さなかったらどうなるのかも気になるところだ。 「話し終わったら、俺達に声をかけてくれるかな。遅くなってもいいから」 『ありがとう、シュウちゃん』  シキちゃんとユキちゃんの声が思わず重なって、二人は笑っていた。 「ゆう、シキちゃんからのパスって他に誰に通る? ウキちゃんだけか? イリスちゃんと意見交換できたら最高だが、それは無理でも、アースリーちゃんかコリンゼはもしかしたらと思ったんだが」 「ちょっと待って。…………。あー、ウキちゃんだけだね。やっぱり、『愛』が大事なんだよ。過去の催眠魔法対象者とか、第一印象が良いとか、大切な人の姉とかじゃダメだってことだね。  これさぁ、お兄ちゃんが顕現フェイズでさわさんとの会話を確信してたってことは、二人が愛し合ってることを確信してたってことだよね。どこでそう思ったわけ?」 「俺の同人誌を購入してくれた時点で好意があるのは明白だからな。ふざけて言ってるのではなく、真面目な話な。そのことから、たとえ神であっても、明らかに感情が存在すると分かる。『ウォッチャー』で見ることも可能なのに、わざわざ買いに来るのは、その内容に期待しているか、俺と話したいか、他に誰も買わずに憐れんでいるかのどれかが理由だ。そのいずれも、多少の好意が共通している。  そして、交通事故に遭った時の俺が薄れ行く意識の中で、必死に声をかけてくれたさわさんを思い出して、俺のことを好きでいてくれてるんじゃないかと思った。どちらが先か分からないが、俺達に使命を与えていることから、感情移入もよりしやすくなるしな。  だから、確信したのは、さわさんが触神様と分かった時点、つまり、『聖女コトリスの悲劇』を聞いてゆうがめぐるさんと同じ反応をした時点で、可能性だけなら、触手に転生する瞬間かな。  『さわさんのために触手研究本の新作を作りたい』というおかしな願いを叶えてくれる神様なんて、普通に考えて存在するわけがない。そこでさわさんと結び付いたが、可能性が低いので保留にしていた」 「転生する瞬間って……。そんな前から考えてたんだ……。もう懐かしいなぁ、転生直後のあの頃が。検証の日々って感じだったけどね。まあ、今でも検証してるんだけど」 「ひ弱な触手の俺達がここまでやってこられたのは、その積み重ねと知恵があったからだな。そして、みんなと出会えて、より安心して、より幸せに生きていけるようになった。さらに、シキちゃんと話せるようになって、それがより強固なものとなる。俺達の所持スキルが少なくても問題がないぐらいに」 「シュウちゃん、もういいよ。ユキはアースリーちゃん達と話してもらってる」  俺達が話していると、シキちゃんが声をかけてきた。 「あ、もういいんだ。シキちゃんはユキちゃんの話を『すでに聞いてた』から、シキちゃんからユキちゃんに話しただけということかな?」 「そう。あとで聞けば整合性は取れるからね。シュウちゃんには、今ここで全てを話す。  まず、シュウちゃんのこのスキル、これは『連想』と言う。自らと互いに愛し合う者達で想いを通じ合わせることができる。また、周囲からの愛と感謝を自らの力とすることで、想いを形にして、任意の場所に送ることができる、というもの。シュウちゃんがご両親に送ったメッセージは、後者の力ね。  その名の通り、想いを繋げる力。これは、ユキと私とイリスちゃんが未来で結論付けた。思慮深く、可能性を広く考えるシュウイチくんと、優しくそれを支え、みんなの想いを同時に繋げられるユウちゃん、その二人だから、使えるようになったスキルで、そして実現できたことだよ。  朱のクリスタルには、もう一つ重要な力がある。シュウちゃんもイリスちゃんも気付いている通り、シュウちゃんと互いに愛し合う者を著しく成長させる力。それは、シュウちゃん自身も例外ではない。  なぜなら、『シュウちゃん』は、兄妹で『二人』いるから。また、二人は常に一緒にいて、互いに愛し合っているから、その成長はとてつもないものとなる。ただ、それにはキッカケが必要なこともある。  その内の二つが、今日と明日。今日は言わずもがな、チートスキル『連想』の取得。もう一つは、明日の夜、マリティさんに接触すること。  シュウちゃんなら気付いてると思うけど、『連想』の説明の後者の力、これは具現化能力と言っていい。そして、実は自分だけでなく、他者の想いも、シュウちゃんを経由して具現化できる。  ただし、その想いは時間をかけた強いものでなければいけない。でも、向こうの世界に送るほどの強さは必要ない。小さい頃から思い描いていた理想の町を、諦めずに日々設計に起こしていたマリティさんの想いはどれほどのものだろうね。その効果を最大化するには、やっぱり、マリティさんとイリスちゃんが繋がっていた方が良い。どういうことかと言うと、こういうこと」  シキちゃんのその言葉のあと、俺達の頭の中に、彼女が見た過去のモノクロ映像と説明が次々と流れ込んできた。その映像と説明は一瞬で理解でき、まるで圧縮されたファイルのようだった。俺は、迫りくる情報の波に、頭がパンクするかと思いきや、何とか大丈夫だった。  シキちゃんとユキちゃんの話がすぐ終わったのは、シキちゃんからそれらをユキちゃんに送ったから、という理由もあったようだ。 「『連想』で送ることができる想いは言葉に変換できるものだけじゃない。私が見た景色だからモノクロ映像だけど、みんなはカラーで送れる。  つまり、イリスちゃんの知識やイメージをマリティさんに直接送ることで、マリティさんのイメージが膨らみ、具現化したい想いに直結する。そうすることで、ショクシュウ村の工期を大幅に短縮できる。ただ、当然、工期のペースには気を付けなければいけない。やりすぎると、魔法抑止条約に違反していると思われるから。  今の話はスキル的な成長の話で、シュウちゃんの内面的な成長については、ついさっき私が大量の精密な映像を送って、脳が活性化されたことによって、一部完了した。  今のシュウイチくんは、ユウちゃんレベルとまでは行かないけど、ある程度、並行して物事を考えられるようになったはず。ユウちゃんは記憶力と走査力が増大したはず。  元々、二人には素質があった。シュウイチくんは、交通事故の瞬間、極限の状態の中で、無意識の内に、物事を素早く並行して考えてたんだよね。あと一秒でぶつかる時に、あるいはぶつかってから地面に叩きつけられるまで、常識的に考えて、そこまで思考できないでしょ? ユウちゃんは、ずっと前からシュウイチくんの言葉と行動を全て瞬時に思い出せてたよね? 二人は、これでもまだまだ成長の余地はあるからね。本当は一気に成長させられたら良いんだけど、今の私ができるのはここまで」  確かにシキちゃんの言う通り、いくつかの俺の意識で、同時並行で物事を考えられるようになった。これが天才の脳なのか。俺が感動していると、シキちゃんはさらに話を続けた。 「こうして私がイメージを送らずに言葉にしているのは、向こうの世界で例えるなら、モダン機器とレトロ機器がある時に、昔を懐かしんでレトロ機器を使いたくなる気分に似てるのかもね。デジタルプレイヤーとレコードプレーヤー、機器じゃないけど電子メールと手紙、みたいな、あえて手間をかける方法。今日はユキとシュウちゃんと会話できたから、そういう気分。  それじゃあ、まだ話してない私のチートスキルについて話そうか。『玄のクリスタル』によって所持できるチートスキルは、『先見』。最長一年後の自分の未来を夢の中で体験することができる。現実や夢の中の行動によって、それぞれの未来は変化するが、変化した未来も同様に体験できる。  体験シーンはカットできるから、いくつもの未来を見るために現実と全く同じ時間を消費する必要はないけど、重要な体験では必要になる。その夢を見るために、何度も自分に催眠魔法をかけて、睡眠と覚醒を繰り返したよ。とりあえず、シュウちゃんが気になってることを話しておこうか。  エフリー国での今後の予定は、シュウちゃんが計画してる通りに行けば、問題なくハッピーエンドになると思う。そして、私とセフ村で接触した時点で、『正のクリスタル』は揃うことになるはず。『はず』と言ったのは、世界の終了や『負のクリスタル』側の人達の存在や行動については予知できず、クリスタルが揃った結果、どのようなスキルを得られるのかも分からないから。知ろうとすると、その瞬間に夢から覚める。  また、それらと全く関係ない、日時不明の雑談シーンは見ることができるけど、少しでもルールに反すると、夢から覚める。私の記憶の蓄積やショクシュウ村の発展度からの推測も無理。  それに、その時の未来の私の記憶は、その重要な部分だけ抜け落ちている。だから、『タイムリミット』がいつなのかも分からない。つまり、世界のルールを越えられない。  一年後の未来を見て、上手く行ってるならそれでいいじゃないか、と思うかもしれないけど、催眠魔法をかけられ、死ぬまで幻覚を見せられて、現実では陵辱されていた未来もあったから、全く油断できない。例えるなら、あみだくじの始点と終点以外が分からず、繋がっているかどうかも分からないという状況かな。  ただ、分かったこともある。夢から覚めたり、記憶が抜け落ちたりするのであれば、その逆を繋ぎ合わせれば、ある程度は『タイムリミット』に関係する者達を特定できるんじゃないかと考えた。  全世界の人達を虱潰しに調べていくのは、いくら時間があっても足りないけど、世界の終わりに関係する国までは絞ることができた。それが『リー三国』。その中でも、いつの間にか私が捕まっていた確率が高かったのが、イプスリー国。あの国には、間違いなく私と同等かそれ以上の天才がいる。外の大陸から来た可能性もあるかな。  私はイリスちゃんほどの天才じゃないから、その敵に対しては、勝ったり負けたりしてたんだと思う。天才に違いがあるのかと思うかもしれないけど、イリスちゃんは本当に別格。『先見』があって、初めてイリスちゃんを越えられるレベル。  そんなチートスキルがあって、イリスちゃん以外に負ける状況なんて考えられないと思うでしょ? その場合は、スキルを封じられて、未来の記憶を消されたんだと思う。もちろん、スキルを封じられる未来も見えなかったはず。  そんな特殊能力を持ってる天才が敵に最低一人いる。それを相手にするなら別の敵を相手にした方が良い、一人でも何とかすれば私達の勝ちなんだから、って考えても上手く行かないこともあるんだよね。私が未来で生きている時点から逆算しても、そこに辿り着かないってことは、世界が終わってるか、その間近ってことだから。  でも、『正のクリスタル』が揃えば、先がハッキリと見えるはず。イリスちゃんとも、全ての情報を共有して対策を練りたい。ということで、シュウちゃん、よろしくね。  細かい点や私の今の状況は、イメージで今から共有する。私の辛い未来を見せるわけじゃないから安心して」  シキちゃんはそう言うと、俺達に想いのイメージを送った。本当に便利だ。仕組みとしては、やはり触神スペースを利用しているのだろう。『愛で繋がる』とは、『触神スペースとの接続』を意味しているということだ。  シキちゃんの話の中で、『リー三国』が出てきたが、ここに所持者が分散しているとすると、同一スキル複数人の場合を除いて、最も集まっている状態で『四一一』、集まっていない状態で『二二二』で分かれているということか。 「ありがとう、シキちゃん。イリスちゃんにも、現時点での情報として伝えておくよ。ユキちゃんには少しずつ伝えていく。そういうことでいいよね」 「流石、シュウちゃん。それじゃあ、またね。私はウキちゃんと話してから眠ることにする。今、待ってもらってるから」  そして、シキちゃんとの会話は終了した。  ユキちゃんに少しずつ話していくのは、一つ一つ理解してもらって、何が正しいか、彼女がどのように行動するかを判断してもらうためだ。全部まとめてだと、終わり良ければ全て良しになってしまう恐れがある。  だから、シキちゃんは俺達との会話にユキちゃんを入れなかった。俺が当初思っていた『勇運さえあれば、どうにでもなるだろう』というのは、あまり良くないことだったのだろう。それをシキちゃんに優しく諭してもらった形だ。ありがとう、シキちゃん。  でも、推察のレベルが高すぎるよ。意識の並行化ができていなければ、会話中には分からなかったかもしれない。 「今日は色々あったなぁ。みんな、このままだと興奮して眠れないんじゃない? 馬車でも寝てなかったから、少しは休まないと明日に響いちゃうよ」  ゆうが一息ついて、みんなの心配をした。 「そうだな。今日は流石に、催眠魔法で短時間睡眠をしてもらった方が良いだろう。『連想』で作戦の共有時間も一瞬だし、予定より遅めに宿を出るとするか」  シキちゃんの過去の映像から分かったことがある。『先見』に目覚めたシキちゃんは、何度も予知をするために短時間睡眠をしていたという話だったが、ありとあらゆる場面で、それがたとえ数秒程度であっても睡眠を繰り返していた。少しの待ち時間でさえ利用して、目を瞑るとすぐに眠れるような催眠魔法を予め自分にかけているのだ。  俺には寿命を削るような行為にしか思えなかったが、実はそれが彼女の視力を維持している秘訣でもあった。彼女が小さい頃に『盲目の魔法使い』と呼ばれていた背景には、当然クリスタルの影響があったわけだが、一度に見る予知が長ければ長いほど視力を失い、ついには完全に盲目となることが分かっていたそうだ。  普通の人間ならば、その因果関係に気付かないか、もし気付いても、それを恐れて予知はもう見たくないと思うはずだ。しかし、それが罠で、視力を失うことを恐れれば恐れるほど、強制的に予知を長時間見せられてしまい、一気に視力を失うキッカケとなる。  シキちゃんは早い段階でそれに気付き、様々な検証を行うことで、視力は少し悪くなったものの、色を失った世界に留めることに成功したとのことだ。『盲目の魔法使い』と呼ばれていた時期は、予知した未来を全て記憶し、その通りに行動すれば、目が見えなくても問題ないのではないかという検証期間だったようだ。  もちろん、その時は盲目ではないし、恐怖もなかった。短時間の予知であれば、何回見ても色を失うだけということも分かり、すでにモノクロの世界であれば、問題とはならない。  したがって、催眠魔法を駆使すれば、長時間の予知を回避しつつ、視力を維持しながら、いくらでも予知できるという結論になったそうだ。しかも、その『盲目の魔法使い』はエフリー国向けの偽装工作で、そういうことにしておけば、色々な場面で役に立つことを予知していた。  図書室に行く時は、『本はまともに読めないけど、図書室の匂いが好きだから、そこで落ち着きたい』ということにしていたそうだ。まともに読めないだけで、モノクロでは読めるから嘘は言っていない。ウキちゃんと会うためには、日常的に通っていることにする必要もあるからだ。監視者として外に出る時は、目立たないように目を開けているが、感覚に頼っているということにしているらしい。  自分だけで解決できなかったかについては、エフリー城には、現在のジャスティ城のように、確認魔法トラップが仕掛けられているとのことなので、催眠魔法で誰かを操って、自由の身になることは困難。当然、人質もいて、エフリー国北西の村と城内に一組ずつ、いずれも、疎開時にはぐれた家族達だが、その両方をほぼ同時に救わなければならないので、やはり一人では難しい。王族に近づくこともできないので、任意の命令をさせることもできないとのことだった。しかし、みんながいれば、それもたちまち容易になると確信していた。  そのための作戦は、みんなが仮眠から起きたあとに、俺が伝えることにして、個人フェイズに意識を移すと、いつの間にか全裸の俺をベッドに運び、両腕を枕にして眠っている、同じく全裸のゆうとさわさんがいた。並行化したあとは、ずっとこの景色だったから分からない。一体、俺はナニをされていたんだ……。  現実では一時間以上経っているから、個人フェイズでは、俺は四日以上全裸でいることになる。二人は眠る必要がないから、余韻と雰囲気を味わった狸寝入りということは分かる。また、妙にスッキリした気分になっていたので、きっとどこかのサキュバスの仕業だろうことも分かった。  とりあえず、俺はそれを見なかったことにして、眠るわけでもなく目を瞑った。 「それじゃあ、みんなに作戦を伝えよう」  一同は、午前一時四十五分に宿屋の部屋から出て、郊外の誰もいない原っぱまで、暗闇の中を歩いていた。ウキちゃんの懐中電灯では明るすぎるので、クリスの小さい火炎魔法で夜道を照らしている。ウキちゃんは、町を少し離れてからは、猫少女に変身していた。 「まず、エフリー国北西の村、『ノスト村』に行く。ここには、シキちゃんの人質達がいる。山側に近い村から離れた場所に着陸して、朝まで待ってから村に入る。待っている間は、ユキちゃんを先頭に、エフリー国通貨に換金できるものを探す。  質屋はノスト村にあるから問題ない。なぜなら、ノスト村の近くにある山は鉱山で、稀に原石が見つかることがあり、それを商材とする商人や、そのまま欲しがる貴族の使いが出入りする場合があるから。  手に入れた金は、その村での滞在費に使用する。滞在中に人質達に会い、説得して逃げる準備を整える。説得役はユキちゃん。人質に異変があった場合、監視者が魔法で合図を送ることになっていて、その合図は、町から町へ伝えられ、最終的に城まで伝わる。そこで、城内の同じくシキちゃんの人質が殺されることになっている。だから、逃げる前に、その村の監視者全員に催眠魔法をかけ、合図を送らないようにする。  それらの手筈が整う目処がついたら、ウキちゃんは、ユキちゃんを残して、シンシア達をエフリー城下町付近まで送り、さらに城に侵入する。城内にいる人質の場所を確認して、城に戻っているシキちゃんに伝える。  人質の顔は予め伝えるし、その人は魔力抑制魔法を使っているので、セフ村でそのことが分かったウキちゃんなら大体の場所も特定できる。できれば、他の情報も収集したいが、シキちゃんと相談してからにしよう。  さらに、この一週間は、ビトーもウキちゃんを傷付けた王族である第二王子も城内にいることが分かっているので、この二人を捕らえて殺すために、変装魔法をかけたシンシア達が正面から城に乗り込む。  シンシアとヨルンは、クリスを守りつつ、クリスは城内で空間催眠魔法を使用し、全員の動きを丸一日止めると同時に、その二人を呼び出す。できれば、クリスの村の襲撃を指示した奴を聞き出して、そいつも呼び出したい。  クリスを守る際は、敵を殺さないようにはしたいが、エフリー国の魔法使いは優秀らしいから、てこずる可能性は高い。どうしても厄介な場合は、殺してもかまわない。俺達全員の安全が最優先だ。  シキちゃんは、クリスに動きを止められないように、事前に魔力遮断魔法を使っておく。そして、人質を迎えに行き、動けるように解除魔法をかけた上で、シンシア達と合流する。  ウキちゃんは、シキちゃんと人質が会った時点で、城を出て、シンシア達を降ろした場所に向かう。呼び出した二人または三人については、必要な情報を引き出してから、その場で苦しませた上で殺し、ウキちゃんの所までクリスの魔法で壁を壊しながら、ショートカットする。城壁は、嫌がらせで全て壊す。消滅じゃなく、壊すことでそれを撤去する手間を発生させることができるからだ。  聞き出す情報は、あとで教える。そこで、ウキちゃんに聞いておきたい。『綺麗だなぁ』の反対の『汚いなぁ』『見たくないなぁ』と感じる宝石を第二王子が持っていたかどうか」  人質の詳細については、伝えないことにした。魔法使いの村のことを話さなければいけなくなるからだ。 「うーん、少なくとも視界にはなかったけど、分からないなぁ」  ウキちゃんが答えた。俺は、第二王子は持っていない可能性が高いと考えていた。なぜなら、シキちゃんもこの未来は見ているはずだから、ルール違反で夢から覚めないことからも、負のクリスタルの持ち主ではないことが分かる。  イリスちゃんの推察の一つが外れたことになるが、もしかすると、同スキル所持者が複数人いる場合は、ルール違反が適用されない可能性もある。『タイムリミット』に直接関与しないから、予知できるとか。  シキちゃんが気付かない程度のスキルであれば、脅威とはならないが、それでも、負のクリスタルを揃えるための重要な構成員だ。念のため、その対策として、正が負に置き換えられて、人数が揃わないように、ユキちゃんを村に残したり、ウキちゃんを先に離脱させたりと、作戦には組み込んでみた。 「ありがとう。それも踏まえて、エフリー城に向けて移動する時に、改めて破壊作戦を伝えることにする」  ユキちゃんを残すのは、別の理由もある。今回、最も重要な目的は人質の確保だ。ノスト村に誰も残らなかったり、別の子が残ったりした場合で、かつ追加のエフリー兵が来た場合に、完全には対応できない可能性がある。ユキちゃんがいれば、完全対応が可能だし、エフリー城では、シキちゃんがいるから問題ない。  また、大胆すぎる作戦ではないかと思うかもしれないが、これもシキちゃんとユキちゃんに保証されているので問題ない。決して雑な作戦ではないということだ。  一同は、目的の場所に着くと、クリスの魔法を消し、ウキちゃんから離れて、彼女の変身を見守った。四人はそこで、初めて実物のヘリコプターを見た。 「おお! 動画で見た通りだ!」  シンシアが声を上げ、他のみんなも物珍しそうに見ていた。 「乗っていいよ!」  ウキちゃんが促すと、ユキちゃんとクリスが前の操縦席二席、シンシアとヨルンは後ろに乗った。非常時は、すぐに状況が分かる操縦席の二人が魔法を使えるように、そして、ヨルンがシンシアを抱き、『反攻』で彼女を守ることで、被害を最小限にできるため、その配置にした。  もちろん、ウキちゃんの変身があれば、その必要もないが、念のため二重の策を講じた。実際は、ユキちゃんがヘリコプターを発進させるので、『勇運』により絶対墜落することはなく、三重策にもなっている。 「みんな、準備はいい? ドアロック確認、シートベルト着用オッケー、周囲に人の気配なし。飛行開始!」  ユキちゃんは、操作パネルの『本番飛行』ボタンに触れた。画面が切り替わり、すでに登録済みの目的地候補が表示されると、ユキちゃんは、『エフリー国ノスト村近辺』ボタンに触れた。検証時と同様の手順でローターが回りだし、一同は目的地に飛び立った。  ノスト村までのフライト時間は約二時間。敵国に乗り込む心の準備の時間でもある。 「緊張してきたぁ……」  ゆうが呟いた。個人フェイズのゆうを見ると、とてもそうは思えない。 「どこが緊張してるんだよ。また、さわさんとイチャイチャしてるじゃないか。別人格か? このあと、俺も巻き込むんだろ?」 「そうだよ。それはそれ、これはこれ」 「あまりやると、本当に精神が分裂するぞ。程々にしておけ」 「お兄ちゃんだって、あたしと話す時とみんなと話す時で、態度が違うじゃん。それと同じだよ」 「それを同一人物に対して、同時に行うとはどういうことなんだよ。シュレーディンガーでも批判できないぞ。残念ながら、俺は同時に観測できてるし、ゆうは確率で存在してないから」 「そもそも、九日前に個人フェイズができてから、時間軸の異なる空間に、あたしは同時に存在してるわけ。これがどういうことかと言うと、個人フェイズのあたしは、もう十八歳超えてるの。そして、その九百日もの間、お兄ちゃんには指一本触れられなかった。  でも、プレゼントとして『あたし』も渡せたから、もう半分開き直ってるけど、琴ちゃんが待ってくれたから、あたしも待つようにして、一線は越えてない。お兄ちゃんなら、その事実に気付いてるでしょ? あたしと結婚してくれるんだよね? どこが同時に観測できてるのかな? 目を瞑ってるようにしか見えないんだけど。はい、論破」 「ぐ、ぐぬぬ……。いや、まだだ。現実時間では、まだ俺の戦いは始まったばかりだ!」 「はい、打ち切り」 「いや、まだやること山積みだから! スキルツリー作成、経験値牧場、シキちゃん人質救出作戦、マリティ接触、世界終了の食い止め、両世界の往来確立! それに、気になってることもある。エフリー国が催眠魔法に対するセキュリティ意識をいつ得たのか。これは……」 「あ、話を逸らそうとしてる。今は精神の話をしてるから。  『ゆうが十八歳になるまで、お前がいくら一線を越えたくても、誘いには乗らない』って言ったよね?  それって、肉体的な話じゃなくて、大人の判断ができる年齢になるまでってことだよね?  仮に肉体的な話だとしたら、現実では触手で、個人フェイズでは年を取らないから、一生無理だよね?  それは理不尽だよね?  法律的な話なら、あたし達は常識を捨てたから問題ないよね?  はい、論破」  ゆうの主張に、俺は手も足も出なかったが、俺達のやり取りを聞いていたさわさんは終始笑顔だった。 「ふふふっ、シュークンって妙なところで恥ずかしがるんだよね。いつもは平気で真面目な台詞を言うのに。ゆうちゃんのことを心の底から大好きなのもバレバレなのにね。  シキちゃんが言った通り、『連想』で二人が愛し合ってることは証明されてるけど、もう一つ、特別に教えてあげようか。でも、シュークンはもう気付いてるかな。今回は、私はゆうちゃんの味方ね。もちろん、シュークンが理不尽だから。  さて、二人が触手に転生した直後から会話できたのはなぜでしょう。実は、ちゃんとした理由があるんだよね。それは、『連想』の条件に当てはまってたから。でも、その力は、まだ極端に弱かった。ただの兄妹愛では会話できないほどに……。ここまで言えば、もう誰でも分かるよね」 「ありがとうございます、さわさん。ほら、お兄ちゃん! また『ゆう、愛してるよ』って言いなさい!」 「お前、やっぱり俺の心が読めるんじゃないか! くっそー、こうなったら俺もお前の心を読んでやる! 読めた! 『お兄ちゃんのおちんちん大好き!』だろ⁉」 「死ね!」 「あ、ゆうが『お兄ちゃん、世界で一番愛してるよ』って言った!」 「うざぁぁぁぁ!」  シュークンとゆうちゃんの戦いは、まだ始まったばかりだった。  そして、私は引き続き、この二人の物語を綴っていこう。これを読んで、泣いたり、笑ったり、二人の状況を知って安心したい人のために。  でも、あなたが二人と会えるまでは、もう少し時間がかかりそうだ。  二人が一歩一歩、着実に進んできたように、触手研究家(神称)のシュークンと百合好き(お兄ちゃんも大好き)のゆうちゃんが触手に同時転生して女の子(例外有)を幸せにする物語も、まだ始まったばかりなのだから……。 「ふぅ……今日はここまでにしようかな」  タブレットに接続していたキーボードを外して、彼女はベッドに身を投げ出した。 「はぁ……やっと三割ってところかな……。壮大すぎだよ……」  一人しかいない部屋に、彼女の独り言が反響する。女性の部屋にしては、シンプルな家具と内装が、必要な物さえあればいいという彼女の生活スタイルを物語っていた。  しかし、この部屋に入った者が中を見渡した時に、明らかに場違いな本が置いてある棚が目を引くだろう。彼女が創作活動をする上で、バイブルと称している本だ。 「一応、区切りも良くしてるから、これで終わりにして、新作を書いてもいいけどなぁ……。その場合の登場人物は、やっぱりあの二人かな」  ブルルル。まだ止まらない彼女の独り言を余所に、テーブルの脇においてあった携帯電話が震えた。時間は丁度、二十四時を回ったところだ。 「あ、めぐる? どうかした?」 「さわが書いた小説、読んだから、その感想」 「読んでくれて、ありがとう。どうだった?」 「ちゃんと読むと面白いんだけど、推察部分とモノローグが多いから、展開が遅いなって思った。イマドキの子がそれを我慢して読むかどうか……。彼のことが大好きすぎて、全部書きたいのは分かるけどさ。  それと、前に『愛と感謝』が裏テーマって言ってたけど、最後まで読んだ時にそれが伝わるかは、感謝についての説明がないから微妙かな。ないというより、立場上できないんだろうけど。  あと、エロ描写があるから、ライト層には受けなさそう。  んー、あとは、指摘されてた通り、空行が少なかったから読みづらさはあったかな。操作性とトレードオフなのも分かるけどね。  できるだけ一気に投稿したい、  シュウちゃんの日程に合わせる必要がある、  読者の集中力を保たせたい、  操作性の悪さにも限度を持たせたい、  それらを全て満たす方法がアレってことだろうけど、本当は書籍媒体が一番適してるんだよね。展開の遅さをカバーするなら段組みで一気に読ませる方法かな。触手モノで段組みは前代未聞だね。まあ、そんなの叶うのかは分からないけど。  最後に、あたし達の出番が少ないなって思った。コトの過去から現在だって、ちゃんと書けばシナリオになるんじゃない?  ゆうちゃんとの出会いから別れ、立ち直ってから覚醒までの感動シーンと激熱シーンもこの先あるだろうし」  仲が良いさわが相手だからこそ、素直な感想を述べるめぐる。 「感想ありがとう。本当は、朱のクリスタルの所持資格を言えたら良いんだけど、言えないからね。まあ、エロは仕方ないね。それがなかったら触手がいる意味ないから。  それと、『向こう』にウェブ小説を投稿してみて分かったことがあるかな。全部予想してたことだけど。めぐるが言ったことに加えて、多くの読者が集まるサイトでは、その読者を一つの作品に集める方法が歪んでるってこと。  長いタイトルとあらすじはもちろんのこと、作者同士がSNSで繋がって、宣伝と空評価をし合って、ポイントやランキングを上げてる。意識しているかしてないかによらず、挨拶代わりにね。友達が多ければ挨拶の回数が増えるのは当たり前だよね。常識的には、挨拶されたら挨拶しないといけないから、同じように、評価されたら評価し返す。それで、一瞬でもランキング上位に入れば、あるいは入らなくても、ある程度の読者さえ集まれば、あとはみんなが見てるからという理由だけで、さらに読者が増える。作品を純粋に評価してる人がかなり限られてるんだよね。当然、書籍化が決まったり、これまでの作品で固定読者を持っている作家の新作が断然有利。すでに『何らかの方法』で評価されてるからね。もちろん、自作自演の評価もあり得る。だから、みんなが思っている以上に、純粋な新規作家のハードルはとてつもなく高い。  また、男女の違いもある。男性に比べて、女性はアンケートに気軽に答えて、さらに組織票を入れる傾向にあるから、それと同様に、作品評価でも、同じジャンルで女性読者が多い作品は、内容がどうであれ有利に働く。男性はたとえ面白くても、わざわざ目に見える評価をする人は少ないから、男性読者が多い作品は相対的に不利になる。少年漫画のアンケートでも解決できていない問題だね。  大きく分けて、これらが、たとえ書籍化されて、アニメ化やメディアミックスされた作品が多くあったとしても、ウェブ小説投稿サイトが粗製濫造とバカにされる所以。  別に私の作品が優れてるって言いたいわけじゃない。本当に面白い作品が評価されてほしい、そして、それをユキちゃんじゃなくても探せるようにして、私やこっちの人達に読ませてほしいってだけ。私は、私が面白いと思ったものをそっちにも送るからってね。  でも、それについては、私だけじゃなくて、みんなそう思ってるんじゃないかな。つまらない、心が動かない作品を読みたい人なんていないだろうから。それこそ、リオちゃんのシステムやジャスティ国騎士団の新評価システムみたいに、しっかり作品を評価できるシステムがほしいかな。  ランキング至上主義から脱却したウェブ小説サイトもいくつかあるけど、規模は大きくないし、システムとしては、私から言わせれば、まだ不完全なんだよね。大量に作品がある中で、読者が出版社の編集者のように第一評価者となるのは当然として、面白い作品を見つける目的であれば、その評価項目やジャンルを今以上に細分化するべきだし、評価者に対する評価も客観的、統計的に行う必要がある。それを一から作れる人がいない。いたとしても、広告宣伝費を十分に使える余裕がないと、作家も読者も集まらない。作るだけ無駄になってしまう。  これはウェブ小説投稿サイトに限らず、ウェブ漫画投稿サイトでもそうだし、世の中全ての商品において言えることだね。シュークンとゆうちゃんも似たようなこと言ってたけど、たとえニーズに合った良いものを作ったとしても売れるとは限らない。売れたとしても、良いものとは限らない。その売上は評価ではないから。  特にこの界隈は雑に作られた一過性の流行りが横行してるんだよね。今の言葉を言い換えるなら、面白い作品を公開したとしても評価されるとは限らない。評価されたとしても面白い作品とは限らない。その評価が歪だから。  冷静になってあとで考えてみると、シュークンも言ってた通り、『やっぱりクソ作品だったわ』となることが多い。でも、それを今更言えない。自分を否定することになるから……。  あっと、話しすぎちゃったね。まあ、まだ触れていない問題や、言いたいことはあるけど、次の機会にして……。  あとは、ことちゃんの話だっけ。完全一人称視点で行くって決めたから、ことちゃんの体験は描写できないんだよね。彼女の体験を彼は知らないから。それに、場面が行ったり来たりするの嫌だから、回想もその子の台詞でしかやらないことにしてるし。書くとしたら、同シリーズの番外編かな。でも、めぐるの気持ちは分かるよ。ことちゃん大好きだもんね」 「あ、反撃された。せっかく感想言ってあげたのに」 「ごめんごめん。今度いっぱいご褒美あげるから……」 「まあ、それならいいけど……。焦らすのは無しだよ」 「えーなんで? あの時のめぐる、すっごくかわいかったのに。涙浮かべて、おねだりしてきて、私も我を忘れちゃうほど、興奮したんだけどなー」 「たまにならいいけど、毎回あんなふうにされたら……朝になっても収まらなくなっちゃうから……。次の日、何もできなくなるでしょ?」 「じゃあ、次の日もしようか、一日中。やってみたかったんだよね。今度の連休どう?」 「まあ、いいけど……。はぁ……来月からどうなることやら……」 「『うおち屋』には道具も揃ってるし、ちやも、いつもとのギャップがあるかわいいめぐるが大好きだからね。三人で暮らし始めたら、めぐるの生活は潤い続けて、絶頂の幸せ、もとい、幸せの絶頂を感じちゃうね」 「あの子達に影響されすぎでしょ。特に、修一くんに。じゃあ、私もゆうちゃんの真似しようかな。きも。」 「だって、『私達』の大好きな『子ども達』だし。本当は、特別扱いしたいけど、私達のルール、信念があるからね」 「その範囲内では十分特別扱いしてるけどね。さわの意思と接触できてる時点で。しかも、今度は現代と行き来できるようになるかもしれないし」 「それは、めぐるからのご褒美、と言うか二つの世界を『巡って』救うための使命でしょ?」 「まあね。ちやから連絡受けた時は流石に驚いたね。私達が元々監視していた彼らなら、向こうの世界を救えると思ってたけど、こっちの世界の救世主候補にもなるなんてね。  しかも、触手の姿で。ちやが魔力付与したら、二つの世界、いや三つか、その総人口を救うことになると判明するとか、前代未聞でしょ。クリスでさえ数百万人なのに」 「私も驚いたけど、それと同時に、感動したなぁ。愛と感謝がやっぱり世界を救うんだって。彼らは、文字通り、愛と感謝の化身だからね」 「彼らの場合は、それに加えて、特異な危機意識と知恵があるしね。理想を実現するには、やっぱり手段がないと。声高に叫んでるだけじゃ、永遠に実現できない。  それを伝える目的もあって、その『デバイス』で向こうの世界に『触れて』、小説を投稿してるんでしょ?  それにしても腹が立つのは、他の神達は、別にどっちも滅んでいいじゃんって言ってるらしいけど、私達があの子達のことを好きっていうのは置いておくとして、いや、それ世界の管理者としてどうなのよって話」  めぐるは、声で怒りを露わにし、他の神達を批判した。 「『管理者』じゃなくて、ただの『傍観者』だからね。それって、いてもいなくてもどうでもいい存在ってことだからね。そのくせ、気まぐれで世界を好き放題したり、罰を与えたりするとか、むしろ害悪な存在だよね」 「ほんとそれ。半分傍観者みたいな役割だけど、報告や提案をちゃんとするちやを見習ってほしいわ。そう言えば、世界終了の放置が他の管理者の世界に影響を及ぼすこともあるって聞いたことがあるんだよね。完全にとばっちりじゃん」  二人の愚痴は止まらなかったが、さわが歯止めを掛けた。 「まあ、愚痴はこのくらいにしておいて……、私は信じてるよ。シュークンとゆうちゃんが、『女の子』や『両性具有』、『魔法生物』だけじゃない、『接触していない人達』、『本人達』、『世界そのもの』、そして『私達』までも幸せにしてくれるってね」 「うん、私も楽しみにしてる。それじゃ」  めぐるの言葉で締めて、二人の通話が終わり、さわは再びベッドに横になった。  そして、いつものように、愛する二人の元に向かうのであった。 「まあ、私はもう幸せなんだけどね。転生直後に会話できた、あの二人と同じように……」



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