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俺達と女の子達が城に無事到着して作戦の実行と『男の娘ゲーム』をする話(1/4)

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 十九日目に俺達は城下町直前の町に着き、予想通り、監視の目は消えた。そして、二十日目昼頃に城下町に着いた。いよいよだ。  いつも通り、町に入る直前で俺達は縮小化していた。そこは、かなりの賑わいで、辺りから食欲を唆る良い匂いも漂ってくる。シンシアが言っていた通り、料理の種類が多く、食にこだわりのある町と言っていい。  とりあえず、昼食はあとにして、まずは馬で城の門に向かった。 「私だ。陛下や大臣達と、調査報告の場を設けたい。ご都合を伺ってくれ。私は城下町で用事を済ませるため、すまないがここで予定を聞きたい。できれば、午後四時以降開始の希望を伝えてくれると嬉しい」  シンシアが二人の門兵に話しかけた。 「き、騎士団長! お帰りなさいませ! 至急、確認して参ります!」  門番には、シンシアの騎士団長の任が一時的に解かれたことは知らされていないらしい。  続いて、シンシアはもう一人の門兵の方を向いた。 「一つ、聞いていいか? 副長のビトーが、昨日から今日にかけて、ここを通ったか?」 「え、は、はい! 二時間ほど前だったと思います。王の勅命で、お忍びで城下町の調査に行くとおっしゃって、商人姿で……」 「そうか……。ありがとう」  逃げたな。完全にスパイの行動だ。俺達の作戦で、いくつかシンシアに確認してもらうことの一つが、騎士団副長ビトーの行方だった。自信満々に戻ってくるシンシアを確認した監視者からの報告で、逃げる準備をしたのだろう。まあ、予想通りだ。  シンシアと残った門兵が、大事がなかったかなどの雑談をしていると、都合を確認してきた門兵が戻ってきた。 「お待たせしました! 四時間後の午後五時に報告会を設けるとのことでした!」 「ありがとう。では、またあとで来る。守備を頼むぞ」 「はっ! お気を付けて!」  シンシアは、馬を城下町に向けると、城から一番近い貸馬屋に向かった。そこでこれまで借りていた馬を返し、昼食をとることにした。  シンシアがオススメの、早い、安い、美味いの三拍子揃った定食屋だ。混んではいるが、回転率が良く、すぐに座れた。他にもオススメの店はあったのだが、昼を少し過ぎても大体混んでいて、入るまでに時間がかかるそうだ。食べ歩きで済ませてもよかったが、せっかくだからということで、座れる店にした。  周囲の人達は、まさかここに騎士団長がいると思わず、特に騒ぎにはなっていなかった。その美貌だけでも注目の的になりそうだが……。 「ここのオムレツビーフシチュー定食が美味いんだ。卵と牛肉を一緒に食べると絶品だ」  シンシアが味を想像して、堪らないという表情をしていた。店の端で、クリスが壁に向かって座ってくれたので、俺達からもシンシアの様子が見えた。 「あ、ソースに宮中の著作権がありますね。例のご息女が考えたレシピで作られているのでしょうか」 「その通りだ。だが、ここのは卵と牛肉に特定産地が書いてあるだろ? ソースも含めて、この組み合わせがマッチしている。レシピを新しく考えなくても、そういうところで味の差別化を図っているということだ。  なぜ安いかは、もちろん、大量に仕入れているからだな。その分、メニューを絞って、回転率を上げないと、材料が無駄になってしまう。大衆食堂の雰囲気を作って、あまり長居させないようにしているのもそのためだ。酒も一切ない。  それを客の全員が理解しているから、食べ終わったら、さっさと出ていく。ゆっくり味わいたい人には向かないが、腹が減ってすぐにでも食べたい人や、味がすぐに分かる人なら、時間など関係ない。ペロリと食べてしまうさ」  クリスとシンシアが話していると、早くも料理が到着した。 「それでは、いただきます。……………………。えぇ……信じられません……。すごく美味しいです。絶句するほどです。これをあの値段で提供できるのですか……」 「私がこれを最初に頼んだ時は、五分かからずに食べ終わったな。やっぱり、いつ食べても美味いな。本当に安いから、毎日通ってる人もいるらしい」 「私も食べるのは早い方ですが、ここのは本当にすぐ口に吸い込まれていきますね」  二人はその言葉通り、あっという間に食べ終わったようだ。 「教えていただき、ありがとうございました。ユキさんと合流したら、また来たいですね」 「あとで、オススメの店とメニューをまとめて教えよう。それでは、ギルドに行こうか」  それから、依頼達成書を提出するため、二人はギルドに向かった。店からはそれほど遠くない場所にあるようだ。  そのままギルドに近づくと、中が何だか騒がしかった。 「何かあったようだな……子ども……? と、倒れた男がいる。アドもいるな。おい、ア……」 「ぐわっ!」  シンシアがアドを呼ぼうとしたその時、男のやられ声と、何かが床に叩きつけられた音がした。アドの声ではない。その状況を見て、シンシアも驚いていた。 「なっ……! 何をしたんだ? 全く見えなかった……。クリス、見えたか? 魔法か? 私には、あの子どもに向かっていった男が、なぜ吹き飛ばされたのか、分からなかった……」 「いえ、私も全く分かりませんでした……。その場に立っているだけにしか……。これは……」  シンシアの状況説明で、何が起こったのか分かった。俺達から見えない時は、シンシアが状況を説明することになっている。  どうやら、その原因の可能性について、クリスが察したようだ。これは、俺達も外套の中から確認する必要がありそうだ。俺達は、シンシアが言った『子ども』をちらっと確認した。  すると、案の定、チートスキル警告が表示された。 「『チートスキル:反攻』、物理、魔法、疾病、あらゆる害から身を守り、外敵に対しては、反撃または反射する。自らには反撃、反射ともにしない」 「いや、最強すぎない?『勇運』以上でしょ」  ゆうのツッコミの通りだ。確かに、まだ見ぬチートスキルがあるにしても、現時点ですでに最強スキルと言っても過言ではない。  しかもこの子は、おそらく、辺境伯が言っていた例の魔剣士だ。チートスキルによる絶対防御反射と、素早さを駆使した剣撃と魔法があれば、敵なしだろう。その証拠に、防具は全く付けておらず、町の少年が普通に着るような、半袖、短パンのシンプルな服装だ。当然、痩せ型なので十分にスピードを出せる。  シンシアでも勝てる見込みはないだろう。負けもしないだろうが。クリスの消滅魔法も反射されるのだろうか。 「アド! どういうことか説明してくれないか?」  シンシアが、一部始終見ていたであろうアドに、こうなった発端の説明を求めた。俺達はバレないよう、身を隠した。 「あ、あんたか! 戻ってきたのか。って、どうもこうも、このボウズに、『ガキはこんな所に来るもんじゃねぇぜ』って因縁を付けた奴らが吹っ飛ばされた。それだけだ。それだけなんだが……何が起きたかさっぱり分からねぇ。超早業なのか魔法なのか……」  アドがシンシアに近づいてきて、彼女の質問に答えたが、それを見たのか、その少年も近づいてきた。 「あの……もしかして、クリスさんですか?」  少年の発言に、俺達一同は驚いた。クリスも戸惑っていた。 「え? なぜ私の名前を……」 「やっぱり! 良かったー。やっとお会いできました! あなたを探していたんです! 僕は、ヨルン=ピュオルと申します。僕のお願いを聞いてください! 僕を……殺してください!」 『はぁ⁉』  ヨルンの自己紹介から、まくし立てるような突然の依頼に、その場の全員が驚愕した。クリスタル所持者、命を投げ捨てすぎ問題。  シンシアが最初に落ち着きを取り戻し、一歩前へ出た。 「あー、とりあえず、この場を収めた方が良いだろう。この子は私達が引き取ろう。クリスは証明書を提出してきてくれ。外で待つ」 「分かりました」  クリスが途中、振り返りながら奥に進むと、ヨルンがシンシアのことをじっと見ていた。 「あなたは、もしかして……シンシアさんですか?」 「ああ。まずは、外に出よう。どこかで会ったかな?」 「いえ、騎士団の北東部遠征の時に、一方的に見たことがあるだけです。こんな所でお会いできるなんて嬉しいです!」 「あの時か。森にも洞窟にも触手植物がいっぱいいて、少し骨が折れた記憶があるな」 「僕も騎士団に憧れて、あとであそこに行ったことがあって……」  二人は話しながら外に出ていった。北東部で犠牲になった触手達のおかげで、二人のチートスキル警告が表示されたのか。ありがとう、触手達。  ということは、その触手植物は定期的に復活するということだろうか。そうなると、モンスターを倒しても、しばらくすれば復活して、一生滅ぼせないことになる。 「お待たせしました。それでは、ユキさんと合流予定の宿でお話ししましょうか」  思いの外、あっさりと証明書の提出とギルドによる確認作業が終わり、クリスがシンシア達に合流すると、近くの宿に向かった。  当然、どこに宿泊するかは、まだ決まっていないのだが、ユキちゃんと待ち合わせのためには、あとで俺達が彼女に伝えればいい。  宿に着き、受付に進むと、ダブルベッドの部屋は埋まっていたが、ツインベッドの端の部屋が二泊三日で取れた。『大事な話をしたいので、隣の部屋に声が漏れないようにしたい』とシンシアが受付に確認したところ、隣の部屋はまだ埋まっていないとのことだった。  その後、二階に進み、クリスとシンシアは部屋の前で立ち止まった。 「ヨルンくんは、ここで少し待っていてもらえますか? 衣服を直したいので……。少年とは言え、異性の前では恥ずかしいですから」 「分かりました」  クリスに対してヨルンが返事をすると、クリスとシンシアは、一緒に部屋に入った。俺達は縮小化を解き、ドアのすぐ上の天井に張り付いた。また、触手を増やし、黒板を使ってクリス達に作戦を伝えた。 『まずは、ヨルンの死にたい理由を詳しく聞いて、その次にチートスキルがどれほど効果を発揮しているのか、どういう検証をしたのか聞こう』  そして、俺達が窓側のベッド下に潜り込んだことを確認し、クリスがヨルンを部屋に迎い入れた。 「どうぞ、そちらのベッドに腰掛けていただいてかまいません」 「はい、ありがとうございます」  クリスが示した通り、ドア側のベッドに腰掛けたヨルン。姿勢も良く、意外と礼儀正しい。出会った時は、クリスをようやく見つけた喜びのあまり、気持ちが先走ってしまったのだろうか。  クリスとシンシアが窓側のベッドに腰掛け、向かい合う形になった。 「それでは、なぜ殺してほしいと私にお願いしたのか、理由を聞かせてください。よかったら、私に辿り着いた経緯も。納得できない場合は協力しないので、嘘偽りなく、ありのままに話してもらえますか」 「はい……。お二人は僕のこと何歳ぐらいに見えますか? 実は僕、十六歳なんです」  マジか。十歳から十二歳ぐらいに見えていた。横顔と上からしか見ていないが、ヨルンは、銀髪の美しい髪をしていて、顔立ちは中性的よりも女の子寄りなので、女の子と言われても不思議ではない。 「完全に成長が止まっているんです。それと、もう一つ。僕、男でも女でもないんです。両性具有なんです」  いや、マジか。どうりでほとんど中性的に見えるわけだ。しかし、実際に確認してみないことには、何とも言えない。 「にわかには信じ難いですが、それはあとで証明してもらうとして、話を続けてください」  クリスが話の続きを促した。 「はい。僕が生まれた時は男の子でした。ある時、身体に異変が生じて、特に痛みもなく、下半身に女性器が現れました。十歳ぐらいの時から、体型は女の子に近づき、胸も発達してきました。その時に限っては、普通の人より成長が早かったと思います。  自分が両性具有であることは、それまで隠してきたのですが、僕が十二歳だったある日、両親にバレました。それまでの態度から一変、母は気味悪がり、父は僕を性的な目で見るようになりました。  態度だけではありません。実際に、母からは罵声を浴びたり、体罰を受けたり、父からは、軽い性的接触、性暴力未遂が何度もありました。『お前が悪いんだ』と何度言われたか分かりません。  僕が『もうやめて』と訴えてからは、さらにエスカレートし、ついには父親が本気で僕を強姦しようとしてきたんです。床にすごい力で抑えつけられて、衣服を破かれ、僕に身体を重ねようとした瞬間、僕は火炎魔法を使いました。  万が一の時のために、僕が魔法使いであることは誰にも言わずに、こっそり攻撃魔法を練習していたんです。父はその時、まだ上半身に服を着ていて、それが燃え広がりやすい材質だったので、あっという間に丸焦げになりました。  丁度、母が外出から帰ってきて、その様子を見るや否や、すぐに僕がやったんだと考え、台所から包丁を持ち出してきました。その時の母の言葉は今でも覚えています。『この親不孝者! あんたなんか生まれてこなければ良かったのに!』です。月並みでしょ? でも、今でもその通りだと思っています。  当時の僕は、『なんでこんな両親の元に生まれちゃったんだろう』と思っていました。母が包丁を振り上げた時も、『こんなクズに殺されるのか、でも、もうこのまま死んでもいいや』と思い、そのまま抵抗もせず立っていたんです。  そしたら、この能力が発動しました。包丁は僕に跳ね返って、回転しながら宙を舞い、母は壁に吹っ飛ばされ、そのまま包丁が母の開いた口に突き刺さりました。『自業自得だ。ざまあみろ』と、思わず吐き捨ててしまったことも覚えています。  最初は何が起きたか分からなかったんです。だから、このまま家ごと炎で焼かれようと思い、さらに魔法を放ったのですが、家が焼け落ちても僕は完全に無傷でした。熱や煙で死ぬこともなかった。  村の人達は、家が全焼したことを同情して、良くしてくれましたが、母の死体に包丁が刺さったままだったり、僕の裸を見ていたりしたら、彼らも態度を一変させたかもしれないと、恩知らずにも思ってしまいました。  月日が経っても、あの日のことは記憶に刻まれてしまったので、嫌な思い出が残るこの村には、もういたくないと思い、独学で剣や攻撃魔法の修行をして、旅に出ました。  成長が止まっていると気付いたのは、一年前です。性別も成長も、子としても、人としても、何もかも中途半端な自分に嫌気が差し、改めて死を決意しました。  しかし、色々試しても死ねず、魔法研究者なら殺せる方法が分かるかも、実験体にされて廃人になってもいいやと半分自暴自棄に思い、魔法研究の最先端国であるエフリー国に向かおうとした時に、『コレソ』という人物の噂を聞いたんです。その実績から逆算して、相当な魔法知識と魔力量を持っているんじゃないかと踏んで、方向転換しました。『コレソ』の足取りを追うことにしたんです。  外見の特徴で追っていくと、他に『ケルセ』や『サロタ』という特殊な名前を名乗っていることが分かり、本名が『クリス』なのではないかと推察しました。クリスさんを探し、旅を続けている道中、僕が二物を持つ魔剣士だと国にバレてしまうことになり、その数日後、使者が僕の所に来て、国王様が僕に会いたいとおっしゃっていると言われました。  その情報網に僕は驚き、城に行けばクリスさんの情報を追いやすくなるかもしれない、そうでなくても魔導士団の研究を知ることができたり、気の長い話ではありますが、いつかエフリー国との戦争が起こり、そこで死ねるかもしれないと思い、誘いに乗りました。  こう話していると、旅も意志も中途半端に思いますよね、ははは……。  まあ、それはともかく、城に行って、騎士団でも魔導士団でも、どちらでもいいから入れてほしいと頼んだところ、入団テストも兼ねて、特別任務に参加するよう命じられました。  昨日、それを無事に終えて、褒美も出ることを知り、ホッとしていた時に思い付いたのが、クリスさんが各地で仕事をこなしているなら、その内、報酬の受け取りや証明書の提出のため、城下町ギルドに顔を出すかもしれないと思って、立ち寄ってみたところ、一発であなたにお会いできたという、実に幸運な出来事に恵まれて、ハイテンションになってしまったというのが経緯です。  先程は、不躾な挨拶やお願いを突然してしまい、申し訳ありませんでした」  ヨルンも壮絶な過去の持ち主だった。正当防衛で仕方がないとは言え、両親を殺してしまっているとは。しかし、そのことについては、あまり気にしていないようにも思えた。やはり、『中途半端な自分』が一番の原因なのだろう。  この場合の解決方法は二つ。そのままの自分を受け入れるか、どちらかに振り切るか。 「先程のことは、気にしないでください。それより、あなたの能力の性質も含めて、色々試したけど死ねなかったという部分を詳しく聞かせてもらえますか? 私が同じことをしても仕方がないので」  クリスは協力に前向きな姿勢を示しつつ、ヨルンからチートスキル『反攻』の情報を引き出そうとした。 「はい。まず、性質ですが、全ての害から僕を守り、外敵に対しては反撃や反射をします。防御範囲は、僕の肌や眼球だけでなく、体内、髪、衣服も対象となります。武器は対象とならず、防具は対象となります。僕に触れること自体はできます。  例えば、僕と握手はできるのですが、少しでも痛みを感じるほどの力を相手が入れると、相手の手が弾かれます。お互い敵と思っていなくてもそうなります。相手の力は僕に伝わりませんし、反発した力、つまり反作用を僕は受けません。  自分で自分を殴ろうとしても何も起きません。舌を噛もうとしても同じです。相手の力の大きさによって、反撃の力が増し、反作用力を含めて倍増されて返ります。包丁で刺そうとしたら、包丁で刺されるという因果応報なわけではありません。母の時は本当に偶然でした。  能力を得てから試したのは、圧死、縊死、餓死、焼死、窒息死、溺死、転落死、凍死、熱死、服毒死です。  圧死はその重量で物体が反発して砕け散り、  縊死は縄が僕の直前で静止し、僕の体が浮いているだけのシュールな状態になります。  餓死については特殊で、お腹が極端に減ると、僕の体が勝手に動いて、食料を求めます。僕をどんな手段で拘束しても、能力を駆使して必ず拘束を解いてしまいます。  焼死は僕の体に着火することもなく、温度も感じません。  窒息死は口や鼻の両方を塞ぐことがそもそもできず、必ずどちらか反発します。  溺死は謎の空気に包まれて、ずっと呼吸できます。  転落死は地面に衝突する直前に僕の体が宙に浮きます。衝撃を体に受けることもありません。  凍死と熱死も謎の空気に包まれて、通常の気温しか感じません。謎の空気を無視するために、完全に接触していても、必ずその層ができるように反発します。  服毒死は体内で毒素が中和されるようで、いくら致死量を超えても、体に影響はありません。物量で押そうとしても、限界近くになると口腔内で反発します。刃物を飲み込むことも、同様にできません。ちなみに、能力を得てからは、嘔吐したことも下痢したこともありません。  病気になったこともないので、病死については分かりません。寿命があるのかも分かりません。  とりあえず、こんなところでしょうか」  思った以上に試してるな。死への本気度が伝わってくる。  密閉空間での窒息死は試されていないようだが、溺死しないのと同様に、それも謎の空気で無理だろう。宇宙でも生きられそうだ。  一体何なんだ、謎の空気って。これが理不尽で片付けられていないということは、魔法で実現できるということか?  誰が害と認識しているのかも気になる。やはり、『世界』だろうか。世界の謎を解き明かした瞬間、ショック死とかは勘弁してほしい。 「今、聞いた感じだと、餓死と窒息死にヒントがありそうな気はしますが……。もう少し、詳しく聞きます。雨に打たれることはあるのでしょうか。血の雨は?」 「雨には打たれますが、体が冷えることはありません。雪や雹は経験したことがないので分かりません。血しぶきは反射します。他人の血を飲むことはできますが、体に影響はありません」 「反発する瞬間に反対方向に力を加えた場合、どうなるか分かりますか?」 「その瞬間を捉えるのは、かなりシビアですが、成功したことがあります。普通に何も起こりません。さらに反対方向に、というのもやってみましたが。やはり、何も起こりませんでした。首吊りの時と同じ感じですかね」 「首吊りの縄は、なぜ反発して引き千切れないのでしょうか。それに関連して、深海に行っても、その水圧は反発しないということですよね?」 「はい。これは僕の勘ですが、全体の整合性はある程度取れているものの、方法ごとに、反発するのか、謎の空気が発生するのか、中和するのか、何も起こらないのかが決められているような気がします。  その時に発生する熱量や力が、最終的にどこに行くのかは分かりません。限界値があるのかも分かりません。  つまり、どのような物理法則が働いているのか、全く分かりません」  二人の会話を聞いていると、話の内容は物騒ではあるが、何だかちょっとした面白さを感じる。重箱の隅をつつくような、理屈を追い求める研究者のような会話だ。研究者には勘や閃きも大事だしな。このまま行けば、実験欲に駆られたクリスが、本当にヨルンを殺してしまう気さえしてしまう。  いずれにしても、ヨルンや『反攻』のことは大体分かった。あとは、『反攻』のルールが俺達に適用されるかを確認するだけだ。結界の効果や朱のクリスタルの記憶操作が俺達に適用されないことから、それも適用されない可能性はある。そもそも、俺達はヨルンに害になるような行動はしないわけだが。  俺達は天井を這って、ヨルンに近づいた。クリスもシンシアも俺達の動きに気付いているのに、ヨルンにバレないように視線も表情も全く動かさないでいてくれた。  優秀すぎて涙が出る。俺なら堪えられずに笑っちゃうね。  さらに、クリスは質問を続けた。 「驚かせた場合はどうなるのでしょうか。びっくりしすぎると心臓が止まるらしいですが」 「え……? それは考えたことありませんでした……。クリスさん、やっぱりすごいです!」  自分の死の話をしているとは思えないほど、ヨルンの顔は喜びに満ち溢れていた。 「いえ、たった今、思い付いたことです。あまり深くは考えていません」  クリスは研究者としても、やはり一流なのだろう。テーマが決まれば、色々な可能性を思い付くことができる。ひょっとして、俺達の動きのおかげか?  いわゆる、『心臓が止まるほどびっくりする』と、体内のアドレナリンの過剰分泌により、心室細動が起こり、血液循環が阻害され死に至る。アドレナリン自体は、除細動のためだったり、心停止時に血管収縮を促進させ蘇生させるためだったりで、外部から投与されることもあるのだが、量やタイミングを誤ると失敗に終わるらしい。  触手本を書くために、媚薬注射をする捕食系触手の実現可能性と、対象の副作用、生存可能性について調べていた頃の俺の記憶から引っ張り出した知識だ。  クリスはまだ質問を続ける。さっきのタイミングでも良かったが、そろそろ俺達が『動く』頃合いか。 「ギルドでの一部始終を見ていたわけではないので、念のために確認したいのですが、自分が害を認識していない状態でも発動すると考えていいですか? 背後から襲われるとか、突然、雷に打たれるとか」 「はい。僕の認識は関係ありません。目を瞑って、耳を塞いでいても、自動的に反撃、反射します。雷に打たれたことはないので分かりませんが、おそらく何も起こらないと思います」 「自分で作り出したものではない、物体の自由落下についてもそうですね?」 「うーん、そういう状況になったことはないので、詳しくは分からな……あいたっ! ……え⁉」  ヨルンが言い終わる前に、俺は縮小化させた触手を増やし、頭の上に落とした。予想通りだ。俺達に『反攻』は効かない。  ヨルンの頭の上には、跳ね返ってもいいように百グラムぐらいの触手を落とした。普通なら百グラムの物体を落としたら怪我をするが、俺達は柔らかいので、ヨルンの咄嗟の反応に反して、痛みもないはずだ。  例えるなら、単一乾電池一本を落とせば怪我をするが、おにぎり一個なら怪我をしないということだ。その衝撃で舌を噛むとしても、それは『反攻』の性質の通り、何も起こらない。 「いま!」  俺達はすぐに天井の触手をヨルンに伸ばし、いつものようにゆうが口を塞いだ。ベッド下に隠れていた触手も、『影走り』を使って、即座にヨルンの四肢に巻き付かせ、拘束する。  また、下の階に響かないように、いつものようにベッドから体を浮かせた。 「んー! んー!」  ヨルンは助けを求めるように、クリスとシンシアを見たが、彼女達はその場から一切動かず、俺達の動きを感心するように見ているだけだった。二人は観察する悦びをすでに知っているので、一区切りつくまでは、このまま見続けるだろうな。  俺達は、ヨルンの上半身の服を最初に脱がし、その下に巻いていたさらしを剥いだ。鎧を付けていないから楽ちんだ。首には真珠大の白い宝石のネックレスをしている。おそらくこれがクリスタルだろう。ユキちゃんにあとで名称を確認するとして、今は白のクリスタルとでも呼んでおこう。  そして、ヨルンの露わになった美しい胸は、ゆうと俺の目を釘付けにした。 「おお! おっぱいある。しかも、予想以上に大きい。Dカップぐらいあるんじゃない?」 「ヨルンの見た目は十歳から十二歳だが、こんな子が小学校高学年にいたら、男子からも女子からも、完全に注目の的だな。その世代では、間違いなく巨乳と言っていい」  俺達は、ヨルンの胸を凝視しながらも、自身の次の行動に期待せざるを得なかった。  ついに、『アレ』を確かめる時が来たのだ。ヨルンの短パンと下着に『手』をかけて、一気に下ろす。これもやはり、楽ちんちんだった。 「んー!」  口を塞がれたままの叫びも虚しく、俺達はヨルンをM字開脚させ、クリス達にも見えるように全てを白日の下に晒した。 「うわー、ホントに両性具有なんだ」 「まだ、『完全な』両性具有とは断定できないがな」  実際にその身体を目の当たりにして、ゆうも俺も流石に驚いたが、まだ見かけだけという可能性はある。  以前、ふたなり触手本を読むに当たって、調べたことがあるのだが、両性具有とは、男女の機能がどちらも正常に働いている場合に呼ばれるもので、人類には存在しないとされている。  現代では、生まれつき、見かけ上は両性具有だが、性分化疾患と呼ばれる障害を持つ人達がいて、男女の機能のどちらか、あるいはどちらも正常に働かないらしい。  ここは、俺達にとってファンタジーの世界だから、ヨルンが両性具有の可能性は一応ある。 「つるつるのかわいい子どもおちんちんだなぁ……」 「それじゃあ、ゆうが咥えるか?」  俺達は、ヨルンの身体を撫で回しながら、どう幸せにするかを話し合っていた。 「……。いやいや、お兄ちゃんでいいよ! 男同士の方が気持ち良くできるでしょ」 「少し迷ったな? まあ、俺はどっちでもいいけど。常識は捨てたし」 「ホントぉ? 常識捨ててなくても、しゃぶり尽くしたいと思ってたんじゃない? こんなにかわいいんだから」 「まぁ、否定はしないでおくか。男女誰もが思う理想のショタ(?)がここにいるのだから、俺の心の中の乙女が出てきても不思議ではない」 「心の乙女どころか、心の声が出ちゃってるじゃん……。それに、お兄ちゃんともあろうお方が、まさか分かってないなんてことはないよね?  心の乙女なんていらないんだよ。百合に心の紳士がいないように。体も心も『男同士』だから良いんだよ。興奮するんだよ。同人誌になかった? 男同士を無理矢理くっつける触手のシーン」 「あったな……。現代が舞台の『夏休みダブルデート洞窟探検~触手には異性も同性も関係ありません~』だ。洞窟を出る頃には二組の同性カップルが誕生しているオチで、俺も面白かったと思ったが、そういうことだったのか……。  心理描写が少なかったから、正直、カップルの誕生が少し強引だと思ってたが、そう考えると納得が行く。あえて攻めと受けを決めないことが、興奮度をより増し、異性カップルの魅力を完全に超越したのか。触手との絡みとエロしか見てなかったから、そこは理解できていなかった……。狙ってるとしたら名作だ」 「うーん、どうかな。多分狙ってないね。こういうのは心理描写が大事だから。その手の作品の場合は、同性拒否、精神的戸惑い、正直な体の反応による戸惑い、罪悪感、快楽、諦め、開き直り、好意、これらの移り変わりを一つも欠かすことなく、できれば詳細に描いて、最終的にはオチとして、どういう日常を送っているか描写しないと、個人的には名作じゃないと思う。  その十分条件はジャンルや作品によって違うから、あくまで、無理矢理同性をくっつけるっていう作品に限っては、ってことね。『無理矢理』じゃなくて『徐々に』だと全然違うし。読者の想像に任せる作品もあるけど、それじゃあ評価が分かれちゃうからね」 「なるほどなぁ。それにしても、いつの間に、百合研究家を越えて、同性愛研究家に進化していたんだ?」 「いや、そもそも百合研究家じゃないから!」  ふーん。まあ、いいか。  俺達が話している間に、ヨルンの体が俺達の動きに合わせてピクピクと反応するようになっていた。時折漏れる声もどこかしら甘くなっているように思える。  俺は、いよいよヨルンの下半身に照準を合わせ、深く帽子を被り、緊張して硬くなってそこに立っている、かわいい子どもを迎えに行った。  何だろう……。ヨルンからは、オスの匂いともメスの匂いともつかない独特の体臭が仄かに香ってくる。それは、すごく良い香りで、酸っぱいのか甘いのかは複雑すぎてよく分からないが、頭が蕩けてしまいそうになる。  当然、香水をつけているわけではない。本当に微量に漂ってくるので、もっと嗅ぎたくなる欲求が抑えきれず、どうすればいいかを考えてしまう。このことに気付いてしまったら、そのことしか考えられなくなってしまう。このままだとマズイな……。 「ゆう、ヨルンの体臭に気を付けろ。ヨルン特有のフェロモンと言っていい。おそらく、これが両親からの虐待の原因、そして彼らを暴走させた原因だ。性差で影響も異なるはず。  ヨルンの感情によって、この香りの量が増減し、それを増加させる最も簡単な方法が性暴力を含む虐待だった。意識的ではなく、無意識に行われたと思う。本能的に、もっと嗅ぎたくなって、行為がエスカレートしていった。周囲にとっては、麻薬と言ってもいい。クリスタルのデメリットの内の一つだろうな。 『反攻』によって、香りが周囲に漂うことはなくなったが、俺達には効いてしまう。なぜ、チートスキルの『反攻』は俺達に無効なのに、同じチートスキルの『勇運』が俺達にも有効なのか。なぜ、『反攻』が無効なのに、同じクリスタルのデメリットであるフェロモンが俺達に有効なのかは、今は置いておく」 「わ、分かった。でも、気を付けるってどうすればいいの?」 「かなり難しいが、半分だけそのことを意識する。意識しないと、本能的にヨルンを痛めつけてしまう恐れがある。意識しすぎると、そのことしか考えられなくなり、最終的に暴走する。これから、ますます濃くなっていくはずだから、いつも以上にお互い監視し合おう」 「おっけー。」  なぜ、俺がそのことに気付けたのかは分からない。触手の体だから影響が小さく、思考する余裕が生まれたからだろうか。  いずれにしても、ヨルンにはこのことを言う必要はない。結局は証拠がない推察だし、俺の推察は、あくまで大切な人達を守るためのものであって、その人を不安に陥れるものではないからだ。クリスタルに人生を翻弄されたヨルンに対して、俺は何とも言えない気持ちになり、改めてヨルンを幸せにしたいと思った。 「んっ! んっ……! はぁ……はぁ……」  ゆうはすでに上半身を執拗に責めていた。俺も急いで視線を戻し、再度ターゲットに顔を近づけた。舌と口を使って、被っていた帽子を脱がせると、綺麗なピンク色の顔を見ることができた。敏感そうな顔に、舌で触れても痛くはないらしいが、少し舐めると身体がピクッと震える。全体に舌を巻き付けるように舐め回し、焦らしたところで、徐ろに口の中に含み、ゆっくりと上下に扱いた。 「あ……ん……ふぅ……」  ヨルンの声が、これまで出していたものよりもワントーン高くなり、元々、女の子のような声だったのが、完全に女の子になった。それを聞いて嬉しくなった俺は、もう少し速めに扱くようにした。舌の動きも忘れない。たまに吸い込んでみたり、いやらしい音をわざと立ててみたりと、工夫をしながら責める。 「んっ……んっ……んっ……」  段々とヨルンの腰が浮き上がってくるのが分かった。ペースを早くしすぎて、ヨルンが賢者タイムに入っても困るので、そこは慎重になって、別の触手を増やし、プリプリの二つの果実の方に舌を伸ばした。  大人のように皮があまり伸びておらず、ほとんど皺が見られない。このまま舐めているのもいいが、俺はその二つの実を同時にパクっと口に咥えた。口の中で玉を転がすように舌を使い、もう一方の触手と動きを合わせる。ヨルンは腰を少しくねらせながらも、俺のなすがままになっていて、時には、俺に腰を押し付けるような動きもしてきた。そうか、おねだりしてくるのなら仕方ない。  俺はさらにもう一本触手を増やし、二つの果実のさらに下の、ピッタリと閉まっているが、ほんの僅かな隙間から液体が漏れ出している扉に、舌を大きく這わせた。 「んっ!」  ヨルンの大きい震えを皮切りに、俺はその舌を激しく動かした。  すでに、俺の味覚はヨルンの微量な体液に支配されているが、意識をハッキリ持つように、何度も頭の中で自制を促している。それに加えて、濃度が増したヨルンフェロモンもあるのだから、どれだけ正気を保っていられるか見当もつかない。  この際、意識を紛らわすために、両性具有について、現段階でできる確認と考察をしてみるか。ヨルンの高まりと共に、ぷっくりと芽が成長したことにより、閉じていた扉が少し開き、中を覗き見ることができた。  芽についてもそうだが、見た目は、完全に両性具有だ。中で塞がっていないのであれば、膀胱からの尿道が二つあるということになる。排尿先を選べるのか、それとも二つの穴から出るのか。  もう少し調査すべく、俺はゆうに許可を取った上で、鉛筆の細さほどまで縮小化し、扉の奥へ入っていった。 「……っ!」  ヨルンは驚きを見せたものの、抵抗することはなかった。すでに信頼されているのだろうか。  中は暗いが、俺達触手の目には何ら問題はない。正面の膜は綺麗な輪状になっており、その穴は大きくもなく、小さくもなく、丁度良い大きさのように思え、芸術的とも思えた。白のクリスタルの影響によって、後天的に創作されたからだろうか。両性具有だし、もしかしたら穴が塞がっていて機能していないかもしれない、と思ったが、そんなことはなかった。  話を聞く限り、女性部分に関しては、第二次性徴を迎えているようだが、見かけ上は第一次性徴、タナー段階初期のままの部分もある。そういうところも『中途半端』ということなのだろうか。  詳しく聞くまでは、初潮を迎えているかは分からないので、完全な両性具有かはまだ判別できない。成長が止まっているとのことなので、初潮を迎えていても、それ以降の月経はない可能性はあるが、その場合でも両性具有を否定することにならない。新陳代謝自体は行われているはずだから、その辺りは機能しているような気はする。  考えてみれば、ヨルンの体内に入り込む異物は尽く排除されるのだから、その辺の他者とは繁殖行動自体ができないことになる。まさに、この世界で俺達だけが、ヨルンと真の意味で繋がることができるのだ。  ヨルンがそれを望むかどうかは分からない。ただ、望むのだとしたら、全力でヨルンを大切にしたい。俺の侵入に抵抗がないことから、それを期待してしまうが、まずは、ちゃんとヨルンの気持ちを確認してからだ。イエスと言ってくれたその時には、ますます、ヨルンが愛おしくなってしまうだろう。  いかんいかん、高濃度のヨルンフェロモンのせいか、何度も気持ちがはやっては戻りを繰り返してしまうな。中はこのぐらいにしておこう。本当は中からも刺激を与えてあげたいのだが、外が渋滞しているので、そのままでは愛の蜜を摂取できなくなってしまう。  これは、両性具有対応のためのスキル作成とスキルツリー修正案件だな。第三者から見た時に、気持ち悪がられないために、できるだけ触手の本数を少なくするというルールにも反してしまう。  俺がどのようなスキルが触手らしいかを考えていると、ゆうが助けを求めてきた。 「お兄ちゃん、どうしよう……。ヨルンがかわいすぎて、ヨルンの切ない顔が見たくて、いじめたくなっちゃう……」 「それじゃあ、ラストスパートに入るか。ちなみに、どんないじめをしたくなるんだ?」 「超焦らしプレイとか……。ヨルンは、もう積極的にあたしのこと求めてきてるから……」  そう言えば、ヨルンの口はすでに自由になっていて、ヨルンの方から涙目で舌を伸ばし、ゆうの舌に激しく絡めている。焦らす程度ならいじめにはならないと思うが、どんなに大好きでも、フェロモンのせいでどんなに仕方なくやることでも、それは相手次第だから、お互いの合意が必要だ。  でも、俺もある意味、焦らしてるんだよなぁ。ヨルンを賢者にさせないように射精管理してるから。 「あとでヨルンに聞いてみよう。ヨルンのフェロモンについては、本人には伝えない」 「うん、ありがと」 「それじゃあ、始めるぞ」  俺は、ヨルンの下半身にある触手を総動員して、ヨルンの快感を煽った。 「あっ! あっ! あっ! ダメぇ! ダメぇ!」  ヨルンの声が部屋に響き渡る。ゆうはキスをせずに、胸や脇、首筋などを責めているようだ。 「漏れちゃう! おしっこ漏れちゃうぅぅ!」  どちらの尿道から漏れるのか分からないが、この発言から、ヨルンが絶頂を迎えた経験がないことが分かる。よし、お兄さんが初めての経験をさせてあげよう。俺は俄然やる気になり、さらにペースを上げた。  ただし、快感が男女の感覚のどちらにも偏らないように、バランスをとる必要がある。俺達は、ヨルンに『この体で良かった』と思ってもらいたい。今の自分の存在を肯定してほしい。そして、『この世界で生きていてほしい』と伝えたいのだ。  ヨルン、俺達の気持ちを受け取ってくれ!  「あっ! あっ……! ああぁぁぁーーーーーっ!」  ヨルンが絶頂を迎えた叫びと共に、触手二本の口に大量の体液が流れ込んできた。定番の音で表すなら、やはりそれぞれ、ビュルルルル、プシャァァァァだろう。  その瞬間は、もちろん俺の意識も飛んでいるので、当時を振り返ってその味を一生懸命に思い出してみると、前者は濃厚なゼリー、後者はそれにかける爽やかなシロップだった。特に前者は、これまでの女の子達では味わえなかった食感もあり、ゼリーとは言ったものの、プリンのようだったとも言えるし、生クリームが乗せられたかのような甘みもあった。  その成分は、よく知られているタンパク質を始め、いくつもの栄養素が含まれているので、飲み込むと、どこかにある俺の脳がスッキリして、体に染み渡っていくのが分かる。  二本の触手の味覚を合わせると、さらに味の複雑性が増し、まさに完全別腹のスイーツと化す。それを何度でも味わいたくて、ヨルンから何度でも絞り出したい気分になってしまう。二回目、三回目となると、濃度も変わるので、別物として味わえたはずだ。  ゆうが止めてくれなければ、ヨルンから血が出るまで延々と動作する搾精機に俺はなっていただろう。と言っても、ヨルンの場合は、クリスタルの影響で体内が傷付かないように絶倫状態になっているかもしれないが。 「うぅ……」  ヨルンは失禁したと思い込み、顔を赤くして泣いていた。それを見ていたシンシアがベッドから立ち上がり、ヨルンの涙を右手の人差し指で拭った。 「ヨルン、恥ずかしがることはない。気持ち良くなれば、誰だってそうなる。しかし、幸福感も覚えたはずだ。特にこのお方、シュウ様の『手』にかかれば、毎日幸せにしていただける」 「シュウ……様……?」  ヨルンは不思議に思って、シンシアに聞き返すと、代わりに答えるべく、クリスがベッドから立ち上がった。 「はい。触手に人の心が宿っています。素晴らしい人格者であり、聡明であり、私達が尊敬する存在であり、私達の命をお救いになった方です。私も、あなたと同じように毎日死にたいと思っていました。  ですが、シュウ様が私を変えてくださった。ヨルンくん、今のあなたはどのような考えになっているでしょうか。シュウ様は、私の時と同じように、あなたにこの先の未来を示してくださったと思います。そして、あなたもすでに分かった通り、シュウ様はこの世であなたを殺せる唯一の存在でしょう。  改めて聞きます。あなたは今でも死にたいと思っていますか?」  俺がクリスに言ったことを受け継ぎ、今度はクリスがヨルンに言った。 「ぼ、僕が……本当……に……?」  ヨルンが自分の考えを整理できずにいると、シンシアはヨルンの左頬に右手を添えた。続いて、クリスもヨルンの右頬に左手を添えた。俺達はヨルンを見つめていた。 「私達の気持ちを言う必要はないだろう。決めるのはヨルンだ」  クリスとシンシアの言葉を改めて咀嚼したあとに、止まったと思われたヨルンの涙は、再度溢れてきた。 「僕は……幸せになりたいです! 皆さんと……一緒に! 生きたいです!」 「ああ! 幸せになろう!」 「もちろん、シュウ様やシンシアさん、私のこともヨルンくんが幸せにしてくれるんですよね? お互い様というやつです」 「はい! シュウ様もシンシアさんもクリスさんも、必ず幸せにします!」  ヨルンの意志は固まった。その表情は、俺達がまだ見たことのない強い眼差しと、どこかホッとしたような、頬と口元が少し緩んでいる状態だった。そんなヨルンを見て、シンシアもクリスも嬉しそうだった。もちろん、俺達も。 「さて、それでは早速……」  シンシアはそう言うと、鎧と服を脱ぎだした。クリスもそれに続く。 「あ、え……? もしかして……お二人も一緒に……」  戸惑いと期待を見せるヨルンに二人は顔を近づけ、許可を取ることなく、順番にキスをした。 「ん……ふ……ぁ……」  シンシアがヨルンに舌を激しく絡め、反発されない程度に少しだけ強めに吸うと、クリスにバトンタッチし、今度はクリスがヨルンに舌を絡める。 「ヨルン、この……男性の『コレ』……触ってみてもいいか? 座学でしか知らなかったから、実は今日初めて見たんだ」  シンシアがヨルンの『アレ』を指して、少し恥ずかしそうに言った。女騎士属性持ちには、『コレ』や『アレ』ではなく、是非ハッキリと言ってもらいたいから、あとで呼び名を提案しておくか。成人男性に対しては、『汚らわしいモノ』と言い放ってほしいが、ヨルンにはそんなこと言えないし、どう見ても汚らわしくないからな。 「私もいいですか? 私はお父さんのを見たことはありますが、流石に触ったことはなかったので」  シンシアのお願いに続き、クリスもヨルンから口を離してお願いした。 「は、はい……。あの……優しくお願いします……」  俺はヨルンの下半身から離れて、様子を見ることにした。 「分かった。…………おお、こんなに硬くなるのか。触れた感じだと、先の方は柔らかいのかな? ぷにっとしている感じはある。あまり力を加えられないから、ハッキリとは分からないな」 「袋の方も思ったよりスベスベしていますね。ちょっと冷たくて気持ち良いです」  二人の直接のまさぐりと、半分言葉責めのような冷静な分析をヨルンに浴びせることで、すでにシンシアとクリスとのキスで半立ち状態だったモノを、完全に勃起させるに至った。先程、遅い精通を迎えたばかりのヨルンには刺激が強すぎるな。 「そんなにされたら……僕、また気持ち良くなっちゃいます……」 「ヨルン、かわいいよ……。こんなことを言うのは失礼かもしれないが、言わずにはいられないんだ。嫌だったら嫌だと言ってほしい」 「いえ……嬉しいです。僕は基本的に男として生きてきましたが、女の子としての感情もやっぱりあるみたいです。かっこいいと言われても、かわいいと言われても嬉しいと感じる……。  今考えてみると、そんなところもお得ですね。ふふふっ、シュウ様は本当に僕を変えてしまったんだ。今は、そのことがどんなことよりも嬉しいかもしれません。シュウ様、ありがとうございます!」  俺達はヨルンの両頬を舐めて、その感謝の言葉に応えた。  ヨルンはこれまで、その境遇から、自分を曝け出してこなかった。しかし、思いの丈と体の秘密を全て暴露してくれたことで、俺達はその一生懸命さとありのままのヨルンを受け入れることができた。ヨルンは、最初からそのような存在を無意識で求めていたように思える。  だからこそ、簡単に変わることができた。俺達が出会ったのは偶然じゃない。クリスタルの集まる性質のおかげかもしれないが、ヨルンが自ら行動したことによる必然だとも言える。  そして、これまでとは違う表情を俺達に見せてくれている。肉体の成長は止まっていても、ヨルンの精神は成長を続けているのだ。これからも楽しみだな。 「それでは、ヨルンくんにはもっとかわいい姿を見せてもらいましょうか。私の変貌ぶりに驚かないでくださいね。シンシアさん、シュウ様、私はもう我慢できませんので、お先にヨルンくんをかわいがらせてもらいます」 「ふふっ、仕方がないなぁ。私はサポートに徹するか。あの……シュウ様、その間、私のことをかわいがっていただけますか?」 「仕方がないなぁ。ゆう、三人を責めるが、シンシアメインで行こう」 「仕方がないなぁ。じゃあ、お兄ちゃんは『仕方がない役』ね」 「仕方がないなぁ」 「いや、いい加減うざ!」  当然、仕方がないなぁとは微塵も思わずに、三人と俺達は身を絡めあった。何だったんだよ、仕方がないなぁって。仕方がないなぁ。



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前のエピソード 俺達と女の子達が家族と別れて第二の故郷を出発する話

俺達と女の子達が城に無事到着して作戦の実行と『男の娘ゲーム』をする話(1/4)

29/54

 十九日目に俺達は城下町直前の町に着き、予想通り、監視の目は消えた。そして、二十日目昼頃に城下町に着いた。いよいよだ。  いつも通り、町に入る直前で俺達は縮小化していた。そこは、かなりの賑わいで、辺りから食欲を唆る良い匂いも漂ってくる。シンシアが言っていた通り、料理の種類が多く、食にこだわりのある町と言っていい。  とりあえず、昼食はあとにして、まずは馬で城の門に向かった。 「私だ。陛下や大臣達と、調査報告の場を設けたい。ご都合を伺ってくれ。私は城下町で用事を済ませるため、すまないがここで予定を聞きたい。できれば、午後四時以降開始の希望を伝えてくれると嬉しい」  シンシアが二人の門兵に話しかけた。 「き、騎士団長! お帰りなさいませ! 至急、確認して参ります!」  門番には、シンシアの騎士団長の任が一時的に解かれたことは知らされていないらしい。  続いて、シンシアはもう一人の門兵の方を向いた。 「一つ、聞いていいか? 副長のビトーが、昨日から今日にかけて、ここを通ったか?」 「え、は、はい! 二時間ほど前だったと思います。王の勅命で、お忍びで城下町の調査に行くとおっしゃって、商人姿で……」 「そうか……。ありがとう」  逃げたな。完全にスパイの行動だ。俺達の作戦で、いくつかシンシアに確認してもらうことの一つが、騎士団副長ビトーの行方だった。自信満々に戻ってくるシンシアを確認した監視者からの報告で、逃げる準備をしたのだろう。まあ、予想通りだ。  シンシアと残った門兵が、大事がなかったかなどの雑談をしていると、都合を確認してきた門兵が戻ってきた。 「お待たせしました! 四時間後の午後五時に報告会を設けるとのことでした!」 「ありがとう。では、またあとで来る。守備を頼むぞ」 「はっ! お気を付けて!」  シンシアは、馬を城下町に向けると、城から一番近い貸馬屋に向かった。そこでこれまで借りていた馬を返し、昼食をとることにした。  シンシアがオススメの、早い、安い、美味いの三拍子揃った定食屋だ。混んではいるが、回転率が良く、すぐに座れた。他にもオススメの店はあったのだが、昼を少し過ぎても大体混んでいて、入るまでに時間がかかるそうだ。食べ歩きで済ませてもよかったが、せっかくだからということで、座れる店にした。  周囲の人達は、まさかここに騎士団長がいると思わず、特に騒ぎにはなっていなかった。その美貌だけでも注目の的になりそうだが……。 「ここのオムレツビーフシチュー定食が美味いんだ。卵と牛肉を一緒に食べると絶品だ」  シンシアが味を想像して、堪らないという表情をしていた。店の端で、クリスが壁に向かって座ってくれたので、俺達からもシンシアの様子が見えた。 「あ、ソースに宮中の著作権がありますね。例のご息女が考えたレシピで作られているのでしょうか」 「その通りだ。だが、ここのは卵と牛肉に特定産地が書いてあるだろ? ソースも含めて、この組み合わせがマッチしている。レシピを新しく考えなくても、そういうところで味の差別化を図っているということだ。  なぜ安いかは、もちろん、大量に仕入れているからだな。その分、メニューを絞って、回転率を上げないと、材料が無駄になってしまう。大衆食堂の雰囲気を作って、あまり長居させないようにしているのもそのためだ。酒も一切ない。  それを客の全員が理解しているから、食べ終わったら、さっさと出ていく。ゆっくり味わいたい人には向かないが、腹が減ってすぐにでも食べたい人や、味がすぐに分かる人なら、時間など関係ない。ペロリと食べてしまうさ」  クリスとシンシアが話していると、早くも料理が到着した。 「それでは、いただきます。……………………。えぇ……信じられません……。すごく美味しいです。絶句するほどです。これをあの値段で提供できるのですか……」 「私がこれを最初に頼んだ時は、五分かからずに食べ終わったな。やっぱり、いつ食べても美味いな。本当に安いから、毎日通ってる人もいるらしい」 「私も食べるのは早い方ですが、ここのは本当にすぐ口に吸い込まれていきますね」  二人はその言葉通り、あっという間に食べ終わったようだ。 「教えていただき、ありがとうございました。ユキさんと合流したら、また来たいですね」 「あとで、オススメの店とメニューをまとめて教えよう。それでは、ギルドに行こうか」  それから、依頼達成書を提出するため、二人はギルドに向かった。店からはそれほど遠くない場所にあるようだ。  そのままギルドに近づくと、中が何だか騒がしかった。 「何かあったようだな……子ども……? と、倒れた男がいる。アドもいるな。おい、ア……」 「ぐわっ!」  シンシアがアドを呼ぼうとしたその時、男のやられ声と、何かが床に叩きつけられた音がした。アドの声ではない。その状況を見て、シンシアも驚いていた。 「なっ……! 何をしたんだ? 全く見えなかった……。クリス、見えたか? 魔法か? 私には、あの子どもに向かっていった男が、なぜ吹き飛ばされたのか、分からなかった……」 「いえ、私も全く分かりませんでした……。その場に立っているだけにしか……。これは……」  シンシアの状況説明で、何が起こったのか分かった。俺達から見えない時は、シンシアが状況を説明することになっている。  どうやら、その原因の可能性について、クリスが察したようだ。これは、俺達も外套の中から確認する必要がありそうだ。俺達は、シンシアが言った『子ども』をちらっと確認した。  すると、案の定、チートスキル警告が表示された。 「『チートスキル:反攻』、物理、魔法、疾病、あらゆる害から身を守り、外敵に対しては、反撃または反射する。自らには反撃、反射ともにしない」 「いや、最強すぎない?『勇運』以上でしょ」  ゆうのツッコミの通りだ。確かに、まだ見ぬチートスキルがあるにしても、現時点ですでに最強スキルと言っても過言ではない。  しかもこの子は、おそらく、辺境伯が言っていた例の魔剣士だ。チートスキルによる絶対防御反射と、素早さを駆使した剣撃と魔法があれば、敵なしだろう。その証拠に、防具は全く付けておらず、町の少年が普通に着るような、半袖、短パンのシンプルな服装だ。当然、痩せ型なので十分にスピードを出せる。  シンシアでも勝てる見込みはないだろう。負けもしないだろうが。クリスの消滅魔法も反射されるのだろうか。 「アド! どういうことか説明してくれないか?」  シンシアが、一部始終見ていたであろうアドに、こうなった発端の説明を求めた。俺達はバレないよう、身を隠した。 「あ、あんたか! 戻ってきたのか。って、どうもこうも、このボウズに、『ガキはこんな所に来るもんじゃねぇぜ』って因縁を付けた奴らが吹っ飛ばされた。それだけだ。それだけなんだが……何が起きたかさっぱり分からねぇ。超早業なのか魔法なのか……」  アドがシンシアに近づいてきて、彼女の質問に答えたが、それを見たのか、その少年も近づいてきた。 「あの……もしかして、クリスさんですか?」  少年の発言に、俺達一同は驚いた。クリスも戸惑っていた。 「え? なぜ私の名前を……」 「やっぱり! 良かったー。やっとお会いできました! あなたを探していたんです! 僕は、ヨルン=ピュオルと申します。僕のお願いを聞いてください! 僕を……殺してください!」 『はぁ⁉』  ヨルンの自己紹介から、まくし立てるような突然の依頼に、その場の全員が驚愕した。クリスタル所持者、命を投げ捨てすぎ問題。  シンシアが最初に落ち着きを取り戻し、一歩前へ出た。 「あー、とりあえず、この場を収めた方が良いだろう。この子は私達が引き取ろう。クリスは証明書を提出してきてくれ。外で待つ」 「分かりました」  クリスが途中、振り返りながら奥に進むと、ヨルンがシンシアのことをじっと見ていた。 「あなたは、もしかして……シンシアさんですか?」 「ああ。まずは、外に出よう。どこかで会ったかな?」 「いえ、騎士団の北東部遠征の時に、一方的に見たことがあるだけです。こんな所でお会いできるなんて嬉しいです!」 「あの時か。森にも洞窟にも触手植物がいっぱいいて、少し骨が折れた記憶があるな」 「僕も騎士団に憧れて、あとであそこに行ったことがあって……」  二人は話しながら外に出ていった。北東部で犠牲になった触手達のおかげで、二人のチートスキル警告が表示されたのか。ありがとう、触手達。  ということは、その触手植物は定期的に復活するということだろうか。そうなると、モンスターを倒しても、しばらくすれば復活して、一生滅ぼせないことになる。 「お待たせしました。それでは、ユキさんと合流予定の宿でお話ししましょうか」  思いの外、あっさりと証明書の提出とギルドによる確認作業が終わり、クリスがシンシア達に合流すると、近くの宿に向かった。  当然、どこに宿泊するかは、まだ決まっていないのだが、ユキちゃんと待ち合わせのためには、あとで俺達が彼女に伝えればいい。  宿に着き、受付に進むと、ダブルベッドの部屋は埋まっていたが、ツインベッドの端の部屋が二泊三日で取れた。『大事な話をしたいので、隣の部屋に声が漏れないようにしたい』とシンシアが受付に確認したところ、隣の部屋はまだ埋まっていないとのことだった。  その後、二階に進み、クリスとシンシアは部屋の前で立ち止まった。 「ヨルンくんは、ここで少し待っていてもらえますか? 衣服を直したいので……。少年とは言え、異性の前では恥ずかしいですから」 「分かりました」  クリスに対してヨルンが返事をすると、クリスとシンシアは、一緒に部屋に入った。俺達は縮小化を解き、ドアのすぐ上の天井に張り付いた。また、触手を増やし、黒板を使ってクリス達に作戦を伝えた。 『まずは、ヨルンの死にたい理由を詳しく聞いて、その次にチートスキルがどれほど効果を発揮しているのか、どういう検証をしたのか聞こう』  そして、俺達が窓側のベッド下に潜り込んだことを確認し、クリスがヨルンを部屋に迎い入れた。 「どうぞ、そちらのベッドに腰掛けていただいてかまいません」 「はい、ありがとうございます」  クリスが示した通り、ドア側のベッドに腰掛けたヨルン。姿勢も良く、意外と礼儀正しい。出会った時は、クリスをようやく見つけた喜びのあまり、気持ちが先走ってしまったのだろうか。  クリスとシンシアが窓側のベッドに腰掛け、向かい合う形になった。 「それでは、なぜ殺してほしいと私にお願いしたのか、理由を聞かせてください。よかったら、私に辿り着いた経緯も。納得できない場合は協力しないので、嘘偽りなく、ありのままに話してもらえますか」 「はい……。お二人は僕のこと何歳ぐらいに見えますか? 実は僕、十六歳なんです」  マジか。十歳から十二歳ぐらいに見えていた。横顔と上からしか見ていないが、ヨルンは、銀髪の美しい髪をしていて、顔立ちは中性的よりも女の子寄りなので、女の子と言われても不思議ではない。 「完全に成長が止まっているんです。それと、もう一つ。僕、男でも女でもないんです。両性具有なんです」  いや、マジか。どうりでほとんど中性的に見えるわけだ。しかし、実際に確認してみないことには、何とも言えない。 「にわかには信じ難いですが、それはあとで証明してもらうとして、話を続けてください」  クリスが話の続きを促した。 「はい。僕が生まれた時は男の子でした。ある時、身体に異変が生じて、特に痛みもなく、下半身に女性器が現れました。十歳ぐらいの時から、体型は女の子に近づき、胸も発達してきました。その時に限っては、普通の人より成長が早かったと思います。  自分が両性具有であることは、それまで隠してきたのですが、僕が十二歳だったある日、両親にバレました。それまでの態度から一変、母は気味悪がり、父は僕を性的な目で見るようになりました。  態度だけではありません。実際に、母からは罵声を浴びたり、体罰を受けたり、父からは、軽い性的接触、性暴力未遂が何度もありました。『お前が悪いんだ』と何度言われたか分かりません。  僕が『もうやめて』と訴えてからは、さらにエスカレートし、ついには父親が本気で僕を強姦しようとしてきたんです。床にすごい力で抑えつけられて、衣服を破かれ、僕に身体を重ねようとした瞬間、僕は火炎魔法を使いました。  万が一の時のために、僕が魔法使いであることは誰にも言わずに、こっそり攻撃魔法を練習していたんです。父はその時、まだ上半身に服を着ていて、それが燃え広がりやすい材質だったので、あっという間に丸焦げになりました。  丁度、母が外出から帰ってきて、その様子を見るや否や、すぐに僕がやったんだと考え、台所から包丁を持ち出してきました。その時の母の言葉は今でも覚えています。『この親不孝者! あんたなんか生まれてこなければ良かったのに!』です。月並みでしょ? でも、今でもその通りだと思っています。  当時の僕は、『なんでこんな両親の元に生まれちゃったんだろう』と思っていました。母が包丁を振り上げた時も、『こんなクズに殺されるのか、でも、もうこのまま死んでもいいや』と思い、そのまま抵抗もせず立っていたんです。  そしたら、この能力が発動しました。包丁は僕に跳ね返って、回転しながら宙を舞い、母は壁に吹っ飛ばされ、そのまま包丁が母の開いた口に突き刺さりました。『自業自得だ。ざまあみろ』と、思わず吐き捨ててしまったことも覚えています。  最初は何が起きたか分からなかったんです。だから、このまま家ごと炎で焼かれようと思い、さらに魔法を放ったのですが、家が焼け落ちても僕は完全に無傷でした。熱や煙で死ぬこともなかった。  村の人達は、家が全焼したことを同情して、良くしてくれましたが、母の死体に包丁が刺さったままだったり、僕の裸を見ていたりしたら、彼らも態度を一変させたかもしれないと、恩知らずにも思ってしまいました。  月日が経っても、あの日のことは記憶に刻まれてしまったので、嫌な思い出が残るこの村には、もういたくないと思い、独学で剣や攻撃魔法の修行をして、旅に出ました。  成長が止まっていると気付いたのは、一年前です。性別も成長も、子としても、人としても、何もかも中途半端な自分に嫌気が差し、改めて死を決意しました。  しかし、色々試しても死ねず、魔法研究者なら殺せる方法が分かるかも、実験体にされて廃人になってもいいやと半分自暴自棄に思い、魔法研究の最先端国であるエフリー国に向かおうとした時に、『コレソ』という人物の噂を聞いたんです。その実績から逆算して、相当な魔法知識と魔力量を持っているんじゃないかと踏んで、方向転換しました。『コレソ』の足取りを追うことにしたんです。  外見の特徴で追っていくと、他に『ケルセ』や『サロタ』という特殊な名前を名乗っていることが分かり、本名が『クリス』なのではないかと推察しました。クリスさんを探し、旅を続けている道中、僕が二物を持つ魔剣士だと国にバレてしまうことになり、その数日後、使者が僕の所に来て、国王様が僕に会いたいとおっしゃっていると言われました。  その情報網に僕は驚き、城に行けばクリスさんの情報を追いやすくなるかもしれない、そうでなくても魔導士団の研究を知ることができたり、気の長い話ではありますが、いつかエフリー国との戦争が起こり、そこで死ねるかもしれないと思い、誘いに乗りました。  こう話していると、旅も意志も中途半端に思いますよね、ははは……。  まあ、それはともかく、城に行って、騎士団でも魔導士団でも、どちらでもいいから入れてほしいと頼んだところ、入団テストも兼ねて、特別任務に参加するよう命じられました。  昨日、それを無事に終えて、褒美も出ることを知り、ホッとしていた時に思い付いたのが、クリスさんが各地で仕事をこなしているなら、その内、報酬の受け取りや証明書の提出のため、城下町ギルドに顔を出すかもしれないと思って、立ち寄ってみたところ、一発であなたにお会いできたという、実に幸運な出来事に恵まれて、ハイテンションになってしまったというのが経緯です。  先程は、不躾な挨拶やお願いを突然してしまい、申し訳ありませんでした」  ヨルンも壮絶な過去の持ち主だった。正当防衛で仕方がないとは言え、両親を殺してしまっているとは。しかし、そのことについては、あまり気にしていないようにも思えた。やはり、『中途半端な自分』が一番の原因なのだろう。  この場合の解決方法は二つ。そのままの自分を受け入れるか、どちらかに振り切るか。 「先程のことは、気にしないでください。それより、あなたの能力の性質も含めて、色々試したけど死ねなかったという部分を詳しく聞かせてもらえますか? 私が同じことをしても仕方がないので」  クリスは協力に前向きな姿勢を示しつつ、ヨルンからチートスキル『反攻』の情報を引き出そうとした。 「はい。まず、性質ですが、全ての害から僕を守り、外敵に対しては反撃や反射をします。防御範囲は、僕の肌や眼球だけでなく、体内、髪、衣服も対象となります。武器は対象とならず、防具は対象となります。僕に触れること自体はできます。  例えば、僕と握手はできるのですが、少しでも痛みを感じるほどの力を相手が入れると、相手の手が弾かれます。お互い敵と思っていなくてもそうなります。相手の力は僕に伝わりませんし、反発した力、つまり反作用を僕は受けません。  自分で自分を殴ろうとしても何も起きません。舌を噛もうとしても同じです。相手の力の大きさによって、反撃の力が増し、反作用力を含めて倍増されて返ります。包丁で刺そうとしたら、包丁で刺されるという因果応報なわけではありません。母の時は本当に偶然でした。  能力を得てから試したのは、圧死、縊死、餓死、焼死、窒息死、溺死、転落死、凍死、熱死、服毒死です。  圧死はその重量で物体が反発して砕け散り、  縊死は縄が僕の直前で静止し、僕の体が浮いているだけのシュールな状態になります。  餓死については特殊で、お腹が極端に減ると、僕の体が勝手に動いて、食料を求めます。僕をどんな手段で拘束しても、能力を駆使して必ず拘束を解いてしまいます。  焼死は僕の体に着火することもなく、温度も感じません。  窒息死は口や鼻の両方を塞ぐことがそもそもできず、必ずどちらか反発します。  溺死は謎の空気に包まれて、ずっと呼吸できます。  転落死は地面に衝突する直前に僕の体が宙に浮きます。衝撃を体に受けることもありません。  凍死と熱死も謎の空気に包まれて、通常の気温しか感じません。謎の空気を無視するために、完全に接触していても、必ずその層ができるように反発します。  服毒死は体内で毒素が中和されるようで、いくら致死量を超えても、体に影響はありません。物量で押そうとしても、限界近くになると口腔内で反発します。刃物を飲み込むことも、同様にできません。ちなみに、能力を得てからは、嘔吐したことも下痢したこともありません。  病気になったこともないので、病死については分かりません。寿命があるのかも分かりません。  とりあえず、こんなところでしょうか」  思った以上に試してるな。死への本気度が伝わってくる。  密閉空間での窒息死は試されていないようだが、溺死しないのと同様に、それも謎の空気で無理だろう。宇宙でも生きられそうだ。  一体何なんだ、謎の空気って。これが理不尽で片付けられていないということは、魔法で実現できるということか?  誰が害と認識しているのかも気になる。やはり、『世界』だろうか。世界の謎を解き明かした瞬間、ショック死とかは勘弁してほしい。 「今、聞いた感じだと、餓死と窒息死にヒントがありそうな気はしますが……。もう少し、詳しく聞きます。雨に打たれることはあるのでしょうか。血の雨は?」 「雨には打たれますが、体が冷えることはありません。雪や雹は経験したことがないので分かりません。血しぶきは反射します。他人の血を飲むことはできますが、体に影響はありません」 「反発する瞬間に反対方向に力を加えた場合、どうなるか分かりますか?」 「その瞬間を捉えるのは、かなりシビアですが、成功したことがあります。普通に何も起こりません。さらに反対方向に、というのもやってみましたが。やはり、何も起こりませんでした。首吊りの時と同じ感じですかね」 「首吊りの縄は、なぜ反発して引き千切れないのでしょうか。それに関連して、深海に行っても、その水圧は反発しないということですよね?」 「はい。これは僕の勘ですが、全体の整合性はある程度取れているものの、方法ごとに、反発するのか、謎の空気が発生するのか、中和するのか、何も起こらないのかが決められているような気がします。  その時に発生する熱量や力が、最終的にどこに行くのかは分かりません。限界値があるのかも分かりません。  つまり、どのような物理法則が働いているのか、全く分かりません」  二人の会話を聞いていると、話の内容は物騒ではあるが、何だかちょっとした面白さを感じる。重箱の隅をつつくような、理屈を追い求める研究者のような会話だ。研究者には勘や閃きも大事だしな。このまま行けば、実験欲に駆られたクリスが、本当にヨルンを殺してしまう気さえしてしまう。  いずれにしても、ヨルンや『反攻』のことは大体分かった。あとは、『反攻』のルールが俺達に適用されるかを確認するだけだ。結界の効果や朱のクリスタルの記憶操作が俺達に適用されないことから、それも適用されない可能性はある。そもそも、俺達はヨルンに害になるような行動はしないわけだが。  俺達は天井を這って、ヨルンに近づいた。クリスもシンシアも俺達の動きに気付いているのに、ヨルンにバレないように視線も表情も全く動かさないでいてくれた。  優秀すぎて涙が出る。俺なら堪えられずに笑っちゃうね。  さらに、クリスは質問を続けた。 「驚かせた場合はどうなるのでしょうか。びっくりしすぎると心臓が止まるらしいですが」 「え……? それは考えたことありませんでした……。クリスさん、やっぱりすごいです!」  自分の死の話をしているとは思えないほど、ヨルンの顔は喜びに満ち溢れていた。 「いえ、たった今、思い付いたことです。あまり深くは考えていません」  クリスは研究者としても、やはり一流なのだろう。テーマが決まれば、色々な可能性を思い付くことができる。ひょっとして、俺達の動きのおかげか?  いわゆる、『心臓が止まるほどびっくりする』と、体内のアドレナリンの過剰分泌により、心室細動が起こり、血液循環が阻害され死に至る。アドレナリン自体は、除細動のためだったり、心停止時に血管収縮を促進させ蘇生させるためだったりで、外部から投与されることもあるのだが、量やタイミングを誤ると失敗に終わるらしい。  触手本を書くために、媚薬注射をする捕食系触手の実現可能性と、対象の副作用、生存可能性について調べていた頃の俺の記憶から引っ張り出した知識だ。  クリスはまだ質問を続ける。さっきのタイミングでも良かったが、そろそろ俺達が『動く』頃合いか。 「ギルドでの一部始終を見ていたわけではないので、念のために確認したいのですが、自分が害を認識していない状態でも発動すると考えていいですか? 背後から襲われるとか、突然、雷に打たれるとか」 「はい。僕の認識は関係ありません。目を瞑って、耳を塞いでいても、自動的に反撃、反射します。雷に打たれたことはないので分かりませんが、おそらく何も起こらないと思います」 「自分で作り出したものではない、物体の自由落下についてもそうですね?」 「うーん、そういう状況になったことはないので、詳しくは分からな……あいたっ! ……え⁉」  ヨルンが言い終わる前に、俺は縮小化させた触手を増やし、頭の上に落とした。予想通りだ。俺達に『反攻』は効かない。  ヨルンの頭の上には、跳ね返ってもいいように百グラムぐらいの触手を落とした。普通なら百グラムの物体を落としたら怪我をするが、俺達は柔らかいので、ヨルンの咄嗟の反応に反して、痛みもないはずだ。  例えるなら、単一乾電池一本を落とせば怪我をするが、おにぎり一個なら怪我をしないということだ。その衝撃で舌を噛むとしても、それは『反攻』の性質の通り、何も起こらない。 「いま!」  俺達はすぐに天井の触手をヨルンに伸ばし、いつものようにゆうが口を塞いだ。ベッド下に隠れていた触手も、『影走り』を使って、即座にヨルンの四肢に巻き付かせ、拘束する。  また、下の階に響かないように、いつものようにベッドから体を浮かせた。 「んー! んー!」  ヨルンは助けを求めるように、クリスとシンシアを見たが、彼女達はその場から一切動かず、俺達の動きを感心するように見ているだけだった。二人は観察する悦びをすでに知っているので、一区切りつくまでは、このまま見続けるだろうな。  俺達は、ヨルンの上半身の服を最初に脱がし、その下に巻いていたさらしを剥いだ。鎧を付けていないから楽ちんだ。首には真珠大の白い宝石のネックレスをしている。おそらくこれがクリスタルだろう。ユキちゃんにあとで名称を確認するとして、今は白のクリスタルとでも呼んでおこう。  そして、ヨルンの露わになった美しい胸は、ゆうと俺の目を釘付けにした。 「おお! おっぱいある。しかも、予想以上に大きい。Dカップぐらいあるんじゃない?」 「ヨルンの見た目は十歳から十二歳だが、こんな子が小学校高学年にいたら、男子からも女子からも、完全に注目の的だな。その世代では、間違いなく巨乳と言っていい」  俺達は、ヨルンの胸を凝視しながらも、自身の次の行動に期待せざるを得なかった。  ついに、『アレ』を確かめる時が来たのだ。ヨルンの短パンと下着に『手』をかけて、一気に下ろす。これもやはり、楽ちんちんだった。 「んー!」  口を塞がれたままの叫びも虚しく、俺達はヨルンをM字開脚させ、クリス達にも見えるように全てを白日の下に晒した。 「うわー、ホントに両性具有なんだ」 「まだ、『完全な』両性具有とは断定できないがな」  実際にその身体を目の当たりにして、ゆうも俺も流石に驚いたが、まだ見かけだけという可能性はある。  以前、ふたなり触手本を読むに当たって、調べたことがあるのだが、両性具有とは、男女の機能がどちらも正常に働いている場合に呼ばれるもので、人類には存在しないとされている。  現代では、生まれつき、見かけ上は両性具有だが、性分化疾患と呼ばれる障害を持つ人達がいて、男女の機能のどちらか、あるいはどちらも正常に働かないらしい。  ここは、俺達にとってファンタジーの世界だから、ヨルンが両性具有の可能性は一応ある。 「つるつるのかわいい子どもおちんちんだなぁ……」 「それじゃあ、ゆうが咥えるか?」  俺達は、ヨルンの身体を撫で回しながら、どう幸せにするかを話し合っていた。 「……。いやいや、お兄ちゃんでいいよ! 男同士の方が気持ち良くできるでしょ」 「少し迷ったな? まあ、俺はどっちでもいいけど。常識は捨てたし」 「ホントぉ? 常識捨ててなくても、しゃぶり尽くしたいと思ってたんじゃない? こんなにかわいいんだから」 「まぁ、否定はしないでおくか。男女誰もが思う理想のショタ(?)がここにいるのだから、俺の心の中の乙女が出てきても不思議ではない」 「心の乙女どころか、心の声が出ちゃってるじゃん……。それに、お兄ちゃんともあろうお方が、まさか分かってないなんてことはないよね?  心の乙女なんていらないんだよ。百合に心の紳士がいないように。体も心も『男同士』だから良いんだよ。興奮するんだよ。同人誌になかった? 男同士を無理矢理くっつける触手のシーン」 「あったな……。現代が舞台の『夏休みダブルデート洞窟探検~触手には異性も同性も関係ありません~』だ。洞窟を出る頃には二組の同性カップルが誕生しているオチで、俺も面白かったと思ったが、そういうことだったのか……。  心理描写が少なかったから、正直、カップルの誕生が少し強引だと思ってたが、そう考えると納得が行く。あえて攻めと受けを決めないことが、興奮度をより増し、異性カップルの魅力を完全に超越したのか。触手との絡みとエロしか見てなかったから、そこは理解できていなかった……。狙ってるとしたら名作だ」 「うーん、どうかな。多分狙ってないね。こういうのは心理描写が大事だから。その手の作品の場合は、同性拒否、精神的戸惑い、正直な体の反応による戸惑い、罪悪感、快楽、諦め、開き直り、好意、これらの移り変わりを一つも欠かすことなく、できれば詳細に描いて、最終的にはオチとして、どういう日常を送っているか描写しないと、個人的には名作じゃないと思う。  その十分条件はジャンルや作品によって違うから、あくまで、無理矢理同性をくっつけるっていう作品に限っては、ってことね。『無理矢理』じゃなくて『徐々に』だと全然違うし。読者の想像に任せる作品もあるけど、それじゃあ評価が分かれちゃうからね」 「なるほどなぁ。それにしても、いつの間に、百合研究家を越えて、同性愛研究家に進化していたんだ?」 「いや、そもそも百合研究家じゃないから!」  ふーん。まあ、いいか。  俺達が話している間に、ヨルンの体が俺達の動きに合わせてピクピクと反応するようになっていた。時折漏れる声もどこかしら甘くなっているように思える。  俺は、いよいよヨルンの下半身に照準を合わせ、深く帽子を被り、緊張して硬くなってそこに立っている、かわいい子どもを迎えに行った。  何だろう……。ヨルンからは、オスの匂いともメスの匂いともつかない独特の体臭が仄かに香ってくる。それは、すごく良い香りで、酸っぱいのか甘いのかは複雑すぎてよく分からないが、頭が蕩けてしまいそうになる。  当然、香水をつけているわけではない。本当に微量に漂ってくるので、もっと嗅ぎたくなる欲求が抑えきれず、どうすればいいかを考えてしまう。このことに気付いてしまったら、そのことしか考えられなくなってしまう。このままだとマズイな……。 「ゆう、ヨルンの体臭に気を付けろ。ヨルン特有のフェロモンと言っていい。おそらく、これが両親からの虐待の原因、そして彼らを暴走させた原因だ。性差で影響も異なるはず。  ヨルンの感情によって、この香りの量が増減し、それを増加させる最も簡単な方法が性暴力を含む虐待だった。意識的ではなく、無意識に行われたと思う。本能的に、もっと嗅ぎたくなって、行為がエスカレートしていった。周囲にとっては、麻薬と言ってもいい。クリスタルのデメリットの内の一つだろうな。 『反攻』によって、香りが周囲に漂うことはなくなったが、俺達には効いてしまう。なぜ、チートスキルの『反攻』は俺達に無効なのに、同じチートスキルの『勇運』が俺達にも有効なのか。なぜ、『反攻』が無効なのに、同じクリスタルのデメリットであるフェロモンが俺達に有効なのかは、今は置いておく」 「わ、分かった。でも、気を付けるってどうすればいいの?」 「かなり難しいが、半分だけそのことを意識する。意識しないと、本能的にヨルンを痛めつけてしまう恐れがある。意識しすぎると、そのことしか考えられなくなり、最終的に暴走する。これから、ますます濃くなっていくはずだから、いつも以上にお互い監視し合おう」 「おっけー。」  なぜ、俺がそのことに気付けたのかは分からない。触手の体だから影響が小さく、思考する余裕が生まれたからだろうか。  いずれにしても、ヨルンにはこのことを言う必要はない。結局は証拠がない推察だし、俺の推察は、あくまで大切な人達を守るためのものであって、その人を不安に陥れるものではないからだ。クリスタルに人生を翻弄されたヨルンに対して、俺は何とも言えない気持ちになり、改めてヨルンを幸せにしたいと思った。 「んっ! んっ……! はぁ……はぁ……」  ゆうはすでに上半身を執拗に責めていた。俺も急いで視線を戻し、再度ターゲットに顔を近づけた。舌と口を使って、被っていた帽子を脱がせると、綺麗なピンク色の顔を見ることができた。敏感そうな顔に、舌で触れても痛くはないらしいが、少し舐めると身体がピクッと震える。全体に舌を巻き付けるように舐め回し、焦らしたところで、徐ろに口の中に含み、ゆっくりと上下に扱いた。 「あ……ん……ふぅ……」  ヨルンの声が、これまで出していたものよりもワントーン高くなり、元々、女の子のような声だったのが、完全に女の子になった。それを聞いて嬉しくなった俺は、もう少し速めに扱くようにした。舌の動きも忘れない。たまに吸い込んでみたり、いやらしい音をわざと立ててみたりと、工夫をしながら責める。 「んっ……んっ……んっ……」  段々とヨルンの腰が浮き上がってくるのが分かった。ペースを早くしすぎて、ヨルンが賢者タイムに入っても困るので、そこは慎重になって、別の触手を増やし、プリプリの二つの果実の方に舌を伸ばした。  大人のように皮があまり伸びておらず、ほとんど皺が見られない。このまま舐めているのもいいが、俺はその二つの実を同時にパクっと口に咥えた。口の中で玉を転がすように舌を使い、もう一方の触手と動きを合わせる。ヨルンは腰を少しくねらせながらも、俺のなすがままになっていて、時には、俺に腰を押し付けるような動きもしてきた。そうか、おねだりしてくるのなら仕方ない。  俺はさらにもう一本触手を増やし、二つの果実のさらに下の、ピッタリと閉まっているが、ほんの僅かな隙間から液体が漏れ出している扉に、舌を大きく這わせた。 「んっ!」  ヨルンの大きい震えを皮切りに、俺はその舌を激しく動かした。  すでに、俺の味覚はヨルンの微量な体液に支配されているが、意識をハッキリ持つように、何度も頭の中で自制を促している。それに加えて、濃度が増したヨルンフェロモンもあるのだから、どれだけ正気を保っていられるか見当もつかない。  この際、意識を紛らわすために、両性具有について、現段階でできる確認と考察をしてみるか。ヨルンの高まりと共に、ぷっくりと芽が成長したことにより、閉じていた扉が少し開き、中を覗き見ることができた。  芽についてもそうだが、見た目は、完全に両性具有だ。中で塞がっていないのであれば、膀胱からの尿道が二つあるということになる。排尿先を選べるのか、それとも二つの穴から出るのか。  もう少し調査すべく、俺はゆうに許可を取った上で、鉛筆の細さほどまで縮小化し、扉の奥へ入っていった。 「……っ!」  ヨルンは驚きを見せたものの、抵抗することはなかった。すでに信頼されているのだろうか。  中は暗いが、俺達触手の目には何ら問題はない。正面の膜は綺麗な輪状になっており、その穴は大きくもなく、小さくもなく、丁度良い大きさのように思え、芸術的とも思えた。白のクリスタルの影響によって、後天的に創作されたからだろうか。両性具有だし、もしかしたら穴が塞がっていて機能していないかもしれない、と思ったが、そんなことはなかった。  話を聞く限り、女性部分に関しては、第二次性徴を迎えているようだが、見かけ上は第一次性徴、タナー段階初期のままの部分もある。そういうところも『中途半端』ということなのだろうか。  詳しく聞くまでは、初潮を迎えているかは分からないので、完全な両性具有かはまだ判別できない。成長が止まっているとのことなので、初潮を迎えていても、それ以降の月経はない可能性はあるが、その場合でも両性具有を否定することにならない。新陳代謝自体は行われているはずだから、その辺りは機能しているような気はする。  考えてみれば、ヨルンの体内に入り込む異物は尽く排除されるのだから、その辺の他者とは繁殖行動自体ができないことになる。まさに、この世界で俺達だけが、ヨルンと真の意味で繋がることができるのだ。  ヨルンがそれを望むかどうかは分からない。ただ、望むのだとしたら、全力でヨルンを大切にしたい。俺の侵入に抵抗がないことから、それを期待してしまうが、まずは、ちゃんとヨルンの気持ちを確認してからだ。イエスと言ってくれたその時には、ますます、ヨルンが愛おしくなってしまうだろう。  いかんいかん、高濃度のヨルンフェロモンのせいか、何度も気持ちがはやっては戻りを繰り返してしまうな。中はこのぐらいにしておこう。本当は中からも刺激を与えてあげたいのだが、外が渋滞しているので、そのままでは愛の蜜を摂取できなくなってしまう。  これは、両性具有対応のためのスキル作成とスキルツリー修正案件だな。第三者から見た時に、気持ち悪がられないために、できるだけ触手の本数を少なくするというルールにも反してしまう。  俺がどのようなスキルが触手らしいかを考えていると、ゆうが助けを求めてきた。 「お兄ちゃん、どうしよう……。ヨルンがかわいすぎて、ヨルンの切ない顔が見たくて、いじめたくなっちゃう……」 「それじゃあ、ラストスパートに入るか。ちなみに、どんないじめをしたくなるんだ?」 「超焦らしプレイとか……。ヨルンは、もう積極的にあたしのこと求めてきてるから……」  そう言えば、ヨルンの口はすでに自由になっていて、ヨルンの方から涙目で舌を伸ばし、ゆうの舌に激しく絡めている。焦らす程度ならいじめにはならないと思うが、どんなに大好きでも、フェロモンのせいでどんなに仕方なくやることでも、それは相手次第だから、お互いの合意が必要だ。  でも、俺もある意味、焦らしてるんだよなぁ。ヨルンを賢者にさせないように射精管理してるから。 「あとでヨルンに聞いてみよう。ヨルンのフェロモンについては、本人には伝えない」 「うん、ありがと」 「それじゃあ、始めるぞ」  俺は、ヨルンの下半身にある触手を総動員して、ヨルンの快感を煽った。 「あっ! あっ! あっ! ダメぇ! ダメぇ!」  ヨルンの声が部屋に響き渡る。ゆうはキスをせずに、胸や脇、首筋などを責めているようだ。 「漏れちゃう! おしっこ漏れちゃうぅぅ!」  どちらの尿道から漏れるのか分からないが、この発言から、ヨルンが絶頂を迎えた経験がないことが分かる。よし、お兄さんが初めての経験をさせてあげよう。俺は俄然やる気になり、さらにペースを上げた。  ただし、快感が男女の感覚のどちらにも偏らないように、バランスをとる必要がある。俺達は、ヨルンに『この体で良かった』と思ってもらいたい。今の自分の存在を肯定してほしい。そして、『この世界で生きていてほしい』と伝えたいのだ。  ヨルン、俺達の気持ちを受け取ってくれ!  「あっ! あっ……! ああぁぁぁーーーーーっ!」  ヨルンが絶頂を迎えた叫びと共に、触手二本の口に大量の体液が流れ込んできた。定番の音で表すなら、やはりそれぞれ、ビュルルルル、プシャァァァァだろう。  その瞬間は、もちろん俺の意識も飛んでいるので、当時を振り返ってその味を一生懸命に思い出してみると、前者は濃厚なゼリー、後者はそれにかける爽やかなシロップだった。特に前者は、これまでの女の子達では味わえなかった食感もあり、ゼリーとは言ったものの、プリンのようだったとも言えるし、生クリームが乗せられたかのような甘みもあった。  その成分は、よく知られているタンパク質を始め、いくつもの栄養素が含まれているので、飲み込むと、どこかにある俺の脳がスッキリして、体に染み渡っていくのが分かる。  二本の触手の味覚を合わせると、さらに味の複雑性が増し、まさに完全別腹のスイーツと化す。それを何度でも味わいたくて、ヨルンから何度でも絞り出したい気分になってしまう。二回目、三回目となると、濃度も変わるので、別物として味わえたはずだ。  ゆうが止めてくれなければ、ヨルンから血が出るまで延々と動作する搾精機に俺はなっていただろう。と言っても、ヨルンの場合は、クリスタルの影響で体内が傷付かないように絶倫状態になっているかもしれないが。 「うぅ……」  ヨルンは失禁したと思い込み、顔を赤くして泣いていた。それを見ていたシンシアがベッドから立ち上がり、ヨルンの涙を右手の人差し指で拭った。 「ヨルン、恥ずかしがることはない。気持ち良くなれば、誰だってそうなる。しかし、幸福感も覚えたはずだ。特にこのお方、シュウ様の『手』にかかれば、毎日幸せにしていただける」 「シュウ……様……?」  ヨルンは不思議に思って、シンシアに聞き返すと、代わりに答えるべく、クリスがベッドから立ち上がった。 「はい。触手に人の心が宿っています。素晴らしい人格者であり、聡明であり、私達が尊敬する存在であり、私達の命をお救いになった方です。私も、あなたと同じように毎日死にたいと思っていました。  ですが、シュウ様が私を変えてくださった。ヨルンくん、今のあなたはどのような考えになっているでしょうか。シュウ様は、私の時と同じように、あなたにこの先の未来を示してくださったと思います。そして、あなたもすでに分かった通り、シュウ様はこの世であなたを殺せる唯一の存在でしょう。  改めて聞きます。あなたは今でも死にたいと思っていますか?」  俺がクリスに言ったことを受け継ぎ、今度はクリスがヨルンに言った。 「ぼ、僕が……本当……に……?」  ヨルンが自分の考えを整理できずにいると、シンシアはヨルンの左頬に右手を添えた。続いて、クリスもヨルンの右頬に左手を添えた。俺達はヨルンを見つめていた。 「私達の気持ちを言う必要はないだろう。決めるのはヨルンだ」  クリスとシンシアの言葉を改めて咀嚼したあとに、止まったと思われたヨルンの涙は、再度溢れてきた。 「僕は……幸せになりたいです! 皆さんと……一緒に! 生きたいです!」 「ああ! 幸せになろう!」 「もちろん、シュウ様やシンシアさん、私のこともヨルンくんが幸せにしてくれるんですよね? お互い様というやつです」 「はい! シュウ様もシンシアさんもクリスさんも、必ず幸せにします!」  ヨルンの意志は固まった。その表情は、俺達がまだ見たことのない強い眼差しと、どこかホッとしたような、頬と口元が少し緩んでいる状態だった。そんなヨルンを見て、シンシアもクリスも嬉しそうだった。もちろん、俺達も。 「さて、それでは早速……」  シンシアはそう言うと、鎧と服を脱ぎだした。クリスもそれに続く。 「あ、え……? もしかして……お二人も一緒に……」  戸惑いと期待を見せるヨルンに二人は顔を近づけ、許可を取ることなく、順番にキスをした。 「ん……ふ……ぁ……」  シンシアがヨルンに舌を激しく絡め、反発されない程度に少しだけ強めに吸うと、クリスにバトンタッチし、今度はクリスがヨルンに舌を絡める。 「ヨルン、この……男性の『コレ』……触ってみてもいいか? 座学でしか知らなかったから、実は今日初めて見たんだ」  シンシアがヨルンの『アレ』を指して、少し恥ずかしそうに言った。女騎士属性持ちには、『コレ』や『アレ』ではなく、是非ハッキリと言ってもらいたいから、あとで呼び名を提案しておくか。成人男性に対しては、『汚らわしいモノ』と言い放ってほしいが、ヨルンにはそんなこと言えないし、どう見ても汚らわしくないからな。 「私もいいですか? 私はお父さんのを見たことはありますが、流石に触ったことはなかったので」  シンシアのお願いに続き、クリスもヨルンから口を離してお願いした。 「は、はい……。あの……優しくお願いします……」  俺はヨルンの下半身から離れて、様子を見ることにした。 「分かった。…………おお、こんなに硬くなるのか。触れた感じだと、先の方は柔らかいのかな? ぷにっとしている感じはある。あまり力を加えられないから、ハッキリとは分からないな」 「袋の方も思ったよりスベスベしていますね。ちょっと冷たくて気持ち良いです」  二人の直接のまさぐりと、半分言葉責めのような冷静な分析をヨルンに浴びせることで、すでにシンシアとクリスとのキスで半立ち状態だったモノを、完全に勃起させるに至った。先程、遅い精通を迎えたばかりのヨルンには刺激が強すぎるな。 「そんなにされたら……僕、また気持ち良くなっちゃいます……」 「ヨルン、かわいいよ……。こんなことを言うのは失礼かもしれないが、言わずにはいられないんだ。嫌だったら嫌だと言ってほしい」 「いえ……嬉しいです。僕は基本的に男として生きてきましたが、女の子としての感情もやっぱりあるみたいです。かっこいいと言われても、かわいいと言われても嬉しいと感じる……。  今考えてみると、そんなところもお得ですね。ふふふっ、シュウ様は本当に僕を変えてしまったんだ。今は、そのことがどんなことよりも嬉しいかもしれません。シュウ様、ありがとうございます!」  俺達はヨルンの両頬を舐めて、その感謝の言葉に応えた。  ヨルンはこれまで、その境遇から、自分を曝け出してこなかった。しかし、思いの丈と体の秘密を全て暴露してくれたことで、俺達はその一生懸命さとありのままのヨルンを受け入れることができた。ヨルンは、最初からそのような存在を無意識で求めていたように思える。  だからこそ、簡単に変わることができた。俺達が出会ったのは偶然じゃない。クリスタルの集まる性質のおかげかもしれないが、ヨルンが自ら行動したことによる必然だとも言える。  そして、これまでとは違う表情を俺達に見せてくれている。肉体の成長は止まっていても、ヨルンの精神は成長を続けているのだ。これからも楽しみだな。 「それでは、ヨルンくんにはもっとかわいい姿を見せてもらいましょうか。私の変貌ぶりに驚かないでくださいね。シンシアさん、シュウ様、私はもう我慢できませんので、お先にヨルンくんをかわいがらせてもらいます」 「ふふっ、仕方がないなぁ。私はサポートに徹するか。あの……シュウ様、その間、私のことをかわいがっていただけますか?」 「仕方がないなぁ。ゆう、三人を責めるが、シンシアメインで行こう」 「仕方がないなぁ。じゃあ、お兄ちゃんは『仕方がない役』ね」 「仕方がないなぁ」 「いや、いい加減うざ!」  当然、仕方がないなぁとは微塵も思わずに、三人と俺達は身を絡めあった。何だったんだよ、仕方がないなぁって。仕方がないなぁ。



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