俺達と女の子達が情報共有して下半身不随の女の子を救済する話(1/2)

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 七日目の早朝、俺達は村長宅のアースリーちゃんの部屋にいた。 「……ん……ぅん……」  彼女が寝返りを打つと、窓から差し込んだ日差しが彼女の目を覚まさせた。  俺達が『U』字型に背を伸ばして、彼女の横顔を見ていると、彼女は毛布の口を両手で持ち上げ、自分が全裸であることに戸惑いを見せた。  それからすぐに、彼女は俺達の方を向いて、少しだけ驚いた。 「あっ……! やっぱり、夢じゃなかったんだ……」  彼女は呟くように言った。俺達が彼女の顔に近づき、顔色を伺うと、彼女は両手でそれぞれ俺達の頭を撫でた。 「ありがとう……触手さん。私を止めてくれて…………。それに……元気付けてくれた……んだよね?」  その質問に答えるように、ゆうは彼女にキスをして、右頬に頬ずりをした。 「私……本当にどうかしてた……。今思えば、バカなことだって分かるのに……昨日の私、ううん、昨日までの私は、どんどん悪い方に考えちゃって……自分で自分を追い詰めてた。あなたがいなかったら……私……っ……」  アースリーちゃんは、言葉に詰まりながら涙を浮かべ、俺達に抱き付いた。その勢いで、俺達の体に彼女の涙が零れ落ち、堰を切ったように、彼女の目から涙が溢れてくる。  俺達は、それぞれ両頬の涙を舐め取っては頬ずりし、彼女を慰めた。 「ありがとう……ホントに……ありがとう……! とってもとっても優しい王子様……!」  彼女の両腕に力が入り、俺とゆうのそれぞれの体は、くっつきそうになる。  彼女の涙はしばらく止まらなかったが、その眩しく輝く笑顔を、俺達はずっと見ることができた。本当に良かった……。  結局は彼女の気持ち次第なのだ。俺達は、それを別の方向から、少しだけ手助けしたにすぎない。そういう意味では、俺達にとっては賭けだった。まあ、ダメならずっとここにいただろうな。彼女のあんな姿はもう絶対に見たくないから、ずっと慰めていたはずだ。  現実逃避? 問題の先送り? 俺達がそれを見たくない、以上。自己満足で大いに結構。  しかし、結果的には彼女を元気付けられたし、何とかなりそうだ。俺は、机の書き置きを、そろそろ泣き止みそうなアースリーちゃんの目の前に持っていった。 「これ……あなたが書いたの? すごい……。イリスちゃん……そうだったんだ……。うん、分かった。彼女にすぐにでも会いに行く」  アースリーちゃんは、何の疑いもなく俺達の言葉を信じ、前向きに行動する決意をした。  しかし、その決意に水を差すようで悪いが、俺は床に用を足し、その砂で追加のメッセージを体に貼り付けた。 『午後までにイリスちゃんが迎えに来る。家で待っていた方が良い』 「ええ⁉ そんなこともできるの? そっか。入れ違いにならないように、私が待ってればいいんだ。ふふっ、気持ちが先走っちゃったね。すごく不思議。自分から動きたくて、うずうずしてる。触手さんのおかげ。触手さん、大好き」  俺は、吸着した砂を床に落とし、再度メッセージを体に貼り付けた。 『ありがとう。みんなが君を大切に想っている。もちろん俺も』 「うん。ありがとう……。私、今すごく幸せを感じてる。あなたがいるから……。ずっとここにいてほしい。私が両親を説得するから」  アースリーちゃんは、俺達に告白のような台詞を言った。彼女を幸せにできたのなら、それに越したことはないが、ずっとここにいるとなると、触手としてのリスクは避けられない。 『それについては、少し待ってほしい。策を講じる必要がある。俺は一旦、森に戻る。何はともあれ、イリスちゃんと会ってから。また午後に会おう』 「う、うん……。分かった。あなたの言う通りにする」  アースリーちゃんは少し残念そうにしていたが、素直に言う事を聞いてくれた。 「アースリーちゃんって、愛が重いタイプなのかな? 見た目はそうでもないのに。あまり依存させないように立ち回らないと、メンヘラになっていつか刺されるかもよ。ミスター触手さん……って、あたしも完全に当事者だから他人事じゃないけどね」  ゆうは、冗談めいた口調で言った。 「あそこまでの精神疾患から復帰した反動と影響で、躁鬱に変化した可能性はある。いずれにしても、まだケアが必要だな。しかも、かなり上手くやらないと、台無しになりかねない。イリスちゃん、何とかしてくれー!」  イリスちゃんは天才も天才、真の天才だ。記憶力が良いだけ、計算が速いだけ、問題を解くだけの、他者の感情の機微を察せないような、ギャップ萌えのためだけに作られたツッコミどころのある架空の天才とはわけが違う。彼女なら、単に解決策を提示するのではなく、相手の気持ちに寄り添って、一緒に問題解決に導いてくれるだろう。  ただ、その真の天才にさえどうにもできなかった存在が、あとに控えている。ユキちゃんだ。今でも二人は会っているのに状況が改善しないのだ。天才なのを隠していることもあって、無闇に手を出せないと言った方が正しいのかもしれない。出したらその瞬間に壊れてしまうような危うい状況とか。  その場合、俺達がイリスちゃんにとっての『デウス・エクス・マキナ』だ。複雑な状況を神の力、天の力で解決する。逆に俺達が彼女のことをそう思っていたのに……。それはそれで良いコンビか。もちろん、これは演劇ではないので、つまらないからという理由で、『機械仕掛けの神』を呼ばない選択肢などイリスちゃんにはないし、むしろ積極的に俺達から出ていきたい。 「それじゃあ、森の中で、後回しにしていたスキルを取得しよう」  アースリーちゃんには、俺達の事は両親に話さずに、『十分睡眠を取ったらスッキリした』と説明するよう伝え、俺達は彼女に別れを表して、その場から触手を消した。あらかじめ、触手を一本だけイリスちゃんの家の屋根に配置してあったのだ。  実は、アースリーちゃんが気絶する三十分ぐらい前に、イリスちゃんがトイレに出てきたのだが、触手が一本しかなく、アースリーちゃんに神経を注いでいたので、聖水を飲むだけに留めた。とは言え、イリスちゃんからのクローズド・クエスチョンで、状況の詳細は把握してもらった。  その頃には、元気付ける目処が立っていたので、『ありがとう、触手さん。明日午後、アースリーお姉ちゃんと二人で会いに行くね』と彼女からお礼の言葉を受け取り、会う約束をした。村長が言っていた冒険者に狩りを頼んだという話を考えると、午前は俺達の時間が取れないはずだ。 「取得するのは『少再生』の次の『触手の尻尾切り』だ」  二回レベルアップしたので、レベルは五。先に『少再生』を取得して、今に至る。 「『触手の尻尾切り』、スキルによって増やした触手を選んで、ノーダメージで切り捨てる。切り捨てた触手はその場に残り、動かせなくなる。また、切り捨てた本数だけ、五分間、増やせなくなる」  これがあれば、かなりリスクを減らせる。戦闘でのリスクもそうだが、裏のメリットとして、死んだフリができるので、戦闘相手だけでなく、それを討伐の証拠として持ち帰った先さえも騙せるのが大きい。低レベルで最も欲しかったスキルだ。 「『少再生』はダメージがあるから試せないけど、これは試せる。説明もほとんど被ってるから、『少再生』の検証にもなるはずだ」 「えーと、この次のスキル候補は……隠密系だから『影走り』『短超感覚』……って、もうここからは『忍者』サブタイプになるの?  ……で、その次に共通スキルの『中透明化』『中縮小化』かー。『中透明化』は『短透明化』の派生だから、実質『中縮小化』のみ。流石に五メートルは長いから、早く何とかしたいんだけど。『中』は効果が一時間で、『長』は六時間。ずっと短いままでいたーい!」 「それは俺も思ってるが、『短』『中』『長』の間隔が短いのはスキルツリーの設計として、おかしいし、『長』のあとが完全習得として、クールタイムなしの時間無制限だが……まあ、『中』でも十分役に立つさ。むしろ、俺からすればそれ以上いらないね。事前によく作戦を練れば、という前提で」 「なんか、先が見えてるからやきもきするというか、いっそ見えない方がある意味で気が楽というか、でもそれはそれで不安だし……」 「これはゲームの話だが、スキルツリーを嫌がるプレイヤーは少なからずいる。  ゆうが言った理由に加えて、無駄で面白くないスキルが存在するという意味で、理由は次の通りだ。  設計が甘い、  自由度が少ない、  終わりが見えてつまらない、  スキルポイントの割り振りが面倒、  全て取得できる場合はキャラの個性がなくなる、  逆に全て取得できないと嫌、  単に見づらい、  単に操作が面倒、  没入感を阻害される、とかだな。  これらの中でも、俺達のスキルツリーや顕現フェイズに当てはまるものがあるな。  俺達の場合は、ゲームではなく、生物としてこの世界でどう生きるかであって、タイプやサブタイプで分けていることからも、スキルツリーというより、進化ツリーに近い。  だから、スキルを全て取得できないし、順番が決まっている箇所もあるし、何よりその進化が自然でなければならない。突然変異は淘汰されるし、そうでなければチートだからだ。何が言いたいかというと、『仕方がない』ということだな」 「後半の話は、低レベルチートスキルの説明でもう分かってるけど、結局、好みや感情の問題ってことね」 「もちろん良い面もある。あのスキルを早く手に入れたいから、あと少し頑張ろう、みたいな動機に繋がる。『触手の尻尾切り』は、まさにそれだ。俺達はこれを早く手に入れる必要があった。急いで試そう」 「おっけー。」  俺達は早速スキルの検証に入った。  村では、朝食の時間から二時間ほど過ぎて、大人達が仕事で外に出たり、世間話をしているようだ。  その頃、検証を大分前に終えた俺達は、村監視用を除く全ての触手を、森の限られたエリアに分散させて待機していた。村長が話していた女冒険者が宿屋から出て、森に向かってきたからだ。俺達の目撃情報は夜のはずだが、明るい内にケリを付けられるならそれで良しということだろう。 「チートスキルは持っていないようだから、作戦通りに行こう。ふむ……金髪ロングが眩しいが、表情は曇ってるな。元気がないみたいだ。蛇が怖いというわけでもないよな……。せっかくだから、しっかり元気にしてあげよう」 「『触手の嘆き』って自動で警告してくれるのかな? それとも意識しないとダメ?」  ゆうは、チートスキル警告について、大事な危機意識を持っているようだ。 「分からないな。自動じゃなかったら困るから、これまでも今も意識はしていた。チートスキルを持っていない場合は、対象の頭上に『不明』って表示されるから、自動でそうなってくれたら嬉しいんだが……。  例えば、最初に会った時にチートスキルを持っていなくて、二度目に会った時にチートスキルを取得していた場合を考えると、毎回確認しなければいけないのかと思うし、『不明』っていうのも、ちゃんとスキルの説明を理解していれば問題ないが、チートスキルの内容が『不明』なのか、チートスキルを持っているかどうかが『不明』なのかが、一目で分かりにくい。  実際は後者で、これは他の触手が邂逅していないために、チートスキルを持っていないとは断定できないから、そういう表現になっているが、それを理解できるかが問題だ。チートスキル持ちと早くから邂逅していれば、その違いもすぐに分かるが、この世界でレアな存在であることから、そういう気付きは得られない。  説明では、内容が『不明』の場合はチートスキル警告のみが表示されると書いてあるから、区別されるはずだが不安は残る。今度、触神様に提案してみるか」  俺達がそう話していると、女冒険者はいよいよ森の中に入ってきた。武器を持った相手と初めて対峙することになるので、『触手の尻尾切り』が欲しかったのだ。  俺達は、今まで傷を負ったことがない。もちろん、体が切断された場合にどうなるのかなど分からない。触神様も、人間については『一メートルは一命取る』とまでで、詳細は教えてくれなかったが、ヒットポイント制じゃないことから、触手が切断されたら多分死ぬ。たとえそれが増やした触手だとしても。  しかし、イリスちゃん以外の女の子に接触しようと決めた時には、すでに狩りに来られる覚悟はできていた。だからこそ、スキル取得を急いだ。かと言って、真っ向勝負をする気はない。スキル面でも戦闘経験面でも絶対に勝てないからだ。 「俺が合図したら、正面に出てくれ」  俺はタイミングを見計らった。女冒険者は、剣を抜いたまま森を進んでくるが、俺達の有利な場所で作戦を実行したい。そのために、人が通りやすいように、草を身体である程度踏み慣らしておいた。  土が見えている所は、足跡のように俺達の痕跡を残した。離れた場所で草むらを掻き分ける音も鳴らした。勘の良い冒険者なら、誘っていることに気付くかもしれない。  ただし、それは相手が人間の場合だ。さらに頭が回る者であれば、人間が大蛇またはそれに似たものを操り、誘っている可能性も考えるかもしれない。それでも俺達は、ある場所に誘う。  触手が人間を襲う時に有利な場所?  違う。あえて不利な場所に誘っているのだ。触手は隠れられる場所が多いほど、死角から攻めることができるので有利だ。普通の触手なら本体が一つの所にあって、そこから動かずに触手をあっちこっちに伸ばす。したがって、触手を止めるには、伸びてくる先に注意を払い、そこを目指して本体を叩くのが、対触手生物戦のセオリーだ。  しかし、それが少し開けた場所で、その先から触手が伸びていたらどうだろう。横の死角から攻められるような木々もなく、あっても遠くて、明らかにそこに触手は伸びていない。  すると、戦場となるのはそれ以上先で、そこに誘っているまたは本体があるのだと錯覚する。  それには、俺達が大蛇だと思われていない方が良いので、早めに顔を出す。 「いま!」  女冒険者が、開けた場所で中央の手前、三割ほど差し掛かった瞬間、ゆうは正面からゆっくりと顔を出した。その触手は三本。木の枝の隙間や草むらから、妖しい動きをする。涎も出しているようだ。 「⁉ …………触手⁉」  女冒険者は驚きと共に、戸惑いの声を上げた。『それじゃあ、大蛇は一体……』と思ったかもしれない。しかし、もう遅い。  俺は、あらかじめ彼女の後方に配置しておいた触手の縮小化を解き、体を伸ばして剣の柄の先を思い切り突いた。 「なっ……!」  すると、彼女の右手から剣がするりと抜け、地面に落ちた。  ゆうが突然顔を出していたら、警戒して両手で持っていたかもしれないが、ゆっくりと触手が見え、しかも距離があったため、油断したのだろう。  今回は決意と行動の間を短くしたのではなく、決意する直前から瞬間を狙った。歴戦の猛者なら、戦闘時の思考速度や反射速度が速いはずだから、思考停止時間が稼げず、隙にならない恐れがあるためだ。思考や身体の動きの切り替え直前となり、単に反応が少し遅れる程度だが、それで十分だった。  これまでは、音を出させないよう、周囲に気付かれないようにしなければならなかったが、今は多少騒がれても暴れられても困らない。森には他に誰も入っていないからだ。 「くっ……!」  女冒険者が剣を拾おうとする間もなく、俺は両手を拘束し、持ち上げた。同時に、彼女の両足もゆうが拘束する。そして、正面の触手を回収し、すぐさま追加で両手両足をぐるぐる巻きにした。  今回は、いつもと役割を交代し、俺が口を塞いだ。前回のアースリーちゃんでゆうが味をしめた……のではなく、今回は抵抗が激しいかもしれないので、早めに大人しくさせるために同性のゆうが責め立てた方が良いだろう、という話を前もってしていた。 「よし。始めよう」  そして、女冒険者の嬌声が森の中の俺達だけに響いた。 「う……ん…………⁉」  女が目を覚ました。剥がされた服はいつの間にか身に付けていて、その腕の中には、切断された俺達の死体があった。 「な、なんで…………」  女は上半身を起こし、俯きながら『俺達だったもの』を抱き締めた。彼女の両肩は震えているようだった。  しばらく経って、彼女は両腕をそのままに立ち上がると、辺りの様子を注意深く見て回り始めた。何かを探しているようだったが、それもしばらくすると、諦めて防具を装備し直し、触手の亡骸を持って、とぼとぼと帰っていった。 「上手く行ったの?」  ゆうが半信半疑で俺に聞いてきた。 「アレを持ち帰ってくれたってことだけでも成功だ」 『触手の尻尾切り』は、触手の任意の場所を文字通り『切り捨て』られる。『切り捨て』なくても、丸々亡骸にできるのも便利だ。  俺達は、俺の頭の方から順番にいくつか切り捨てていき、女の身体に置いて、最終的にはゆうが『少再生』で完全に俺達の体を元に戻し、女にはその場を去ってもらった。したがって、亡骸には片方の頭がない。 「『少再生』、スキルによって増やした触手を選んで、切断面から再生できる。切断された先の触手はその場に残り、動かせなくなる。また、再生した本数だけ、五分間、再生できなくなる」 「『触手の尻尾切り』で切り捨てた後に、『意識的に』切り捨てられた方の意識をなくして、『少再生』で『意識的に』切り捨てた方の意識を戻すのは、コネクタの再接続って感じでちょっと面白いけど、咄嗟にやるのは慣れが必要だよね」  ゆうが表現した再接続は、言い得て妙だ。  意識を切り替える際は、脳内のチャンネルも同様に切り替わる。切り捨てられた方は、スキルが使用できず、動かせなくなるだけで意識があり続け、視界や聴覚は生きている。もちろん、頭が残っている部分に限るが、それを活かす場面もあるかもしれない。  ただ、逆にリスクもある。その状態で、もう一度切断されたらどうなるかが分からない。だから、怖くて意識を長時間そのままにしておけない。つまり、肉体的にも精神的にも切り捨て指示のタイミングを誤ると、死ぬ可能性がある。  本当は、持ち帰られた先で色々な情報を聞きたかったが、仕方がない。意識まで切り捨てると、二度とそこに意識を戻せないので、その状態だと何をされても問題ないことは検証済みだ。  全ての切り捨てが自動で行われるのであれば楽なのだが、その保証はないので現時点では試せない。念のため、全ての触手を『触手の尻尾切り』の対象にして、切り捨てを保留にしてみてはいる。  一方で、再生した方に意識を戻す前に、そこがもう一度傷付けられた場合は検証できていない。ただし、後者は『触手の尻尾切り』が機能するので、切られていない側が対応すれば、未検証のリスクは抑えられる。今後しばらく戦闘がないようなら、十分時間をとって検証する予定だ。 「とりあえず、体制を村監視状態に戻して、イリスちゃんとアースリーちゃんを待つか」 「おっけー。」  女は、村長宅に大蛇退治の報告に行ったようだ。どのような内容で報告したかは、アースリーちゃんに聞いてみれば分かるだろうか。  その後、女は宿屋に戻って、そこから出てくる気配はなかった。この村にはまだ滞在するみたいだ。  それから、村長が村の中心部に出てきて、色々な人に声をかけていた。大蛇が退治されたことを広めているのだろう。  昼過ぎ、イリスちゃんが村長宅を訪れているところが見えた。アースリーちゃんが家のドアから出てくると、イリスちゃんが先に泣きながら抱き付いて、それを見たアースリーちゃんが一緒に泣いて、抱き締め返していた。俺達が見たかった光景だ。  そして、二人がイリスちゃんの家に一度立ち寄ってから、森の方へ手を繋ぎながら向かってくるのが見えた。黒板とチョークを取りに行ったらしい。  アースリーちゃんからは、俺達が砂で会話できることをイリスちゃんに伝えているはずなので、そのことから、この森では俺達を交えて快適に会話できる場所がないということが分かった。  二人と無事に合流して、イリスちゃんの天才ぶりをアースリーちゃんに直に感じてもらうためにも、まずは答え合わせとして、俺達がなぜ昨日の夜に複数の女の子達と接触できたのか、イリスちゃんがそれについて何か知っているかを聞いてみた。 「うん。女の子達に『その大蛇は、良い大蛇さんだよ。女の子が夜に見たら幸せになれるらしいから、怖がらないでトイレに行ってもいいと思うよ。実際、そう言ってる子がいたし。でも大人には内緒にしないと、大蛇さんがいなくなっちゃうよ』って触れ回ったんだー。  それで好奇心から夜に外に出る子が増えたのかも。女の子って噂好きだし。でも、今日の午前中は、子どもは外に出ないようにって言われてて、アースリーお姉ちゃんに会うのが遅れちゃった。  大蛇が退治されたって話をお昼にお父さんから聞いた時は、触手さんがそんなミスするはずないって思ってたから、全然平気だったよ。一応、まだ森に残ってるかもしれないっていうことで、引き続き注意するように各家庭に伝わってるみたい。冒険者さんも村に残るって。  アースリーお姉ちゃんは、冒険者さんの報告の場に居合わせて、触手さんが切られた状態の姿を見た時、一瞬ビックリしたみたいだけど、すぐに長さが足りない、長さと本数が合わないって考えて、触手さんはまだ無事だと思ったって。  村長さんは、『これが噂の大蛇か? 変異体じゃないか? だとしたらまだ生きている可能性も?』って疑ってたらしいけど、子どもに見せたらこれだって言われて、退治の知らせを広めたみたい。モンスターだとは疑ってないはず。実際、モンスターじゃないけどね。  村長さんからの疑いは完全には晴れてないし、冒険者さんも『まだ調査したい、追加の調査は無報酬でいい』っていうことで、村には一時の平穏が戻って、村長公認で調査は続行になったっていう経緯かな。  アースリーお姉ちゃんによると、冒険者さんは、午後は森に来ないって。『今は警戒されているだろうから、また明日の午前にする』って言ってたみたい。  多分、触手さんは冒険者さんのためを想って、ダミーの死体を残したんだよね。冒険者さんが何の成果もなしに手ぶらで帰るわけにはいかないからって。それが、退治報告で村に伝われば自分達のリスクも減らせるし。  すごいよ、触手さん。冒険者さんも触手さんのこと大好きになってると思うよ。そうじゃないと、報酬をもらって、すぐにこの村から別の場所に行ってると思う。もちろん、単に誠実な人っていうこともあると思うけど」  相変わらず、一を聞いたら十を返し、加えて俺達の意図まで読み取るイリスちゃんに、俺達とアースリーちゃんは、感心を超えて呆然としていた。それに、天才に褒められると、誇らしくて有頂天になってしまう。 「イリスちゃん……本当にすごいんだね。歩きながら話してる時も思ってたけど……。イリスちゃんにあれからもっと早く会えていれば、あんなことにはならなかったのかな。でも、それだとイリスちゃんが私のことを触手さんに相談しなかったかもしれないし。今は良かったって思える。二人とも、改めて本当にありがとう」  アースリーちゃんは、イリスちゃんと俺達の頭を撫でながら、涙ぐんで感謝の言葉を述べた。 「ううん、いいんだよ。私も嬉しいから。でもね、アースリーお姉ちゃん。一応言っておくと、触手さんは『二人』なんだよ」 「え?」  イリスちゃんは、俺達のことやこれまでの事を、最新情報を俺達と交換しながら詳細に話した。もちろん、俺達がいずれこの村を出ていくことも。 「……私、触手さんと離れたくない……。イリスちゃん、触手さん、何とかならないの?」  アースリーちゃんが悲しい顔をして相談をしてきた。 「触手さんもすでに考えてると思うけど、レベルと『触手の尻尾切り』次第かな。メインの冒険に使える本数を確保できなければ、情報収集の効率が悪くなる上に自由度が減るし、仮にそこで全滅した場合、この村に戻ってくることになるけど、それだと移動時間が無駄になるから、できれば保険で最低一本は戻ってもいい場所に配置したい。  特に、魔法使いと対峙したら、魔法の連発に耐えられない恐れがあるから、全滅の可能性が高いと思う。『弱魔法反射』は、敵と会わないこと前提の隠密系だともう少し先だし。それらが自動切り捨てできればいいけど、それが検証できないとなるとかなり危険だから……。  とりあえず、私達で触手さんのレベルアップを手伝うことはできると思う。色々な状況を試してもらえばいいし、ユキお姉ちゃんを元気にして、もう一レベル上がればレベル六で、七本使えるようになる。そうなれば、冒険に四本、保険に一本、アースリーお姉ちゃんと私の所に一本ずつ配置できる。  自動切り捨ての検証は、対象を指定したあとに、自分で自分を噛んでみてダメージがあるかないかを確認する。全ての触手に影響があったり、治らなかった場合に困るから、時間に余裕のある時に」  イリスちゃんの調子が上がってきて、最後は完全に理系研究者レベルの提案と口調になった。俺の考えをまだ話してもいないのに、その内容を後押ししてくれるようで自信になる。  ちゃっかりと自分の所への配置も提案している辺り、彼女も俺達とできるなら少しも離れたくないと思ってくれてるのかな。 『イリスちゃんの所に配置しなければ、レベルアップしなくてもいいのでは?』というツッコミを、隙を見せた彼女にできるのは、今回が最初で最後かもしれないが、しないでおいた。ツッコミしたらしたで、『私といつでも連絡とれたらリスクを抑えられる』と反論されるか。  彼女はさらに話を続けた。 「でも、実はもう少し良い方法があるんだよね。信頼できる強い人を護衛に付ける。理由は、冒険の意識のリソースを他の触手に分散できて、戦闘リスクと不意打ちリスクの両方を少しだけ減らせるから。減衰経験値もその都度に得られる。  あの冒険者さんがすごく強くて良い人なら、仲間にした方が良いと思う。ギャンブルになるから、積極的にオススメはしないけど。触手さんのことを話さない前提で、良い人かどうかの確認なら、私達でできると思うけど、どうする?」  なるほど、その発想はなかった。いや、流石だ。ちゃんと物事をフラットに見ている。人間と触手が一緒に旅をするなんてできるわけがないという常識に、少なくとも俺は囚われてしまっていた。  しかも、その時の体長は六メートルになっている予定だ。縮小化するにしても、『短』なら五分だけだし、『中』なら一時間毎に休憩しながら行けるが、まだ取得できていない。  しかし、たとえ『短』でも方法がないわけではない。その内の一つをイリスちゃんが示したわけだ。  俺は『Y』と黒板に書いた。 「うん、分かった。アースリーお姉ちゃん、良かったね。でも、あんまり触手さんに依存しちゃダメだよ。仮に別れることになった時、多分お姉ちゃんショックで死んじゃうよ」  イリスちゃんは、本当にありえそうなことを、あえて冗談っぽく口にした。 「あはは……。このまま行くと、そうなっちゃうかも……」  アースリーちゃんは、右指で頬をポリポリ掻きながら言った。彼女も冗談っぽく言っているが、かなりありえそうだ。  すると、イリスちゃんは気になっていたことを切り出すかのように、アースリーちゃんに質問した。 「アースリーお姉ちゃん、一つ聞いてもいい? 辺境伯に誘われてから、両親以外の誰かに変なこと言われたりした?」  それは、思ってもみないことだった。しかし、言われてみればその可能性も十分にある。第三者によって不安に陥れられた可能性が。 「え? うーん……、言われたかもしれないけど……どうだったかな……?」  もちろん、精神的に不安定であろうとなかろうと、過去の些細な出来事など思い出せないこともあるだろう。ただ、この世界では別の可能性が大いにある。 「ユキお姉ちゃんにはそれから会ってないよね?」 「うん、会ってない。それは確実。もしかして……『誰か』に魔法をかけられたってこと?」  アースリーちゃんは、その口ぶりから、ユキちゃんが魔法を使えることを知っている一部の村人に含まれているようだ。 「断言はできない。私がユキお姉ちゃんに見せてもらった本には載ってなかったし。でもそれは、回復魔法と召喚魔法だけだから、その本に載ってなかっただけで、他の魔法にはそういう効力のものがあるのかも。  でも、仮にそうだとしても、アースリーお姉ちゃんにそんな魔法をかけて何の得があるのかが分からない。辺境伯の顔に泥を塗れたとしても、たかが知れてるから。  個人的な恨みだとしても、この村にユキお姉ちゃん以外に魔法を使える人はいないし、派遣魔法使いもまだ来てない。残るは、旅の魔法使いだけど、結局動機が分からない」  手段としては、呪いの藁人形みたいに髪一本あれば、遠隔で災いを起こすような魔法や呪術なら、直接会っていなくとも可能だろうが、イリスちゃんが言うように、この仮説の一番の問題は動機だ。  俺は、ふと思ったことを黒板に書いてみた。ただ、気になったもう一つの可能性は書かなかった。限りなく低い可能性だし、ある意味では、皮肉で不幸なことだからだ。  でも、イリスちゃんならすでに思い付いてるんだろうなぁ。 『アースリーちゃんが、ユキちゃんのついでだった可能性は? あるいは、イリスちゃん狙いとか』 「うん、どっちもあると思う。でも、同時期に二人が不安定になることが単なる偶然なのかって思ってた。二人の共通点は、村で一、二を争うほどかわいいこと、それと私と関わりが深いこと。前者は、女の嫉妬や男の振られた私怨、後者は同年代の女の子の嫉妬や私の家族への私怨だけど、どれも妄想の域を出ない」  イリスちゃんの語彙がもう大人のそれになってきた。ユキちゃんの家で魔法書だけでなく、小説も読んでいそうだ。 「それと、もう一つ。動機が分からないんじゃなくて、動機が全くない場合もあり得る。無意識でこの状況に陥れられた、あるいは陥った可能性。あるとしたら、後者。もう魔法じゃなくて呪いだね……『私の』」 「え⁉ イリスちゃんの?」  アースリーちゃんが驚いて聞き返した。俺が書かなかったもう一つの可能性をやはり挙げてきた。 「触手さん、ありがとう。私を気遣って、わざと書かなかったんだよね? そう、もちろん私は呪いをかけてるつもりはないけど」  イリスちゃんは、俺の平然とした反応から気持ちまで汲み取り、アースリーちゃんの問いに対して肯定した。  イリスちゃんの良いところは、天才なのに、確実な、あるいは可能性の高い結論だけを言うのではなく、様々な選択肢も挙げた上で、俺達に話してくれることだ。俺もどちらかと言うとそういう語り口だが、そもそも思考回路の出来が違う。  今回はそれが裏目に出ていて、イリスちゃんは暗い顔をしているが、すぐに俺は可能性を全て列挙した。 『イリスちゃんとは限らない。全員で呪いをかけ合ってる可能性もある。イリスちゃんにあまり影響しないだけで』 「ありがとう。そうだね……。触手さんに一応説明しておくと、私達の世界では『呪い』という言葉はあっても、魔法と違って実際に認識されてないから、完全に未知の現象。  いずれにしても、証拠がない以上、これまで挙げたのは全部『可能性』という名の妄想だから、今は私達にできることをした方が良いと思う。触手さんがユキお姉ちゃんに接触することが一つの糸口になるはず。  触手さん、お夕飯前に私がユキお姉ちゃんの家に行って、様子を見てくるから、行けそうなら今夜、できるだけ早い時間に接触してほしい。  これは私の全然確かじゃない勘だけど、ユキお姉ちゃんの限界は今日か明日に超えるような気がする。念のため、注意事項は伝えておく。大蛇退治の話で、家族も油断してると思う。今日がベストタイミングだよ」  話から推察するに、イリスちゃんは、大蛇退治の報告の日と彼女がその話題を持ってユキちゃんの家に気兼ねなく行ける日、俺が彼女に接触できる日の全てが重なる時を待っていたんだな。そして、その時が早く訪れることも分かっていた。  俺は『Y』と書いた。 「わ、私も行く! ユキちゃんのこと、心配だから!」 「ううん、私一人の方が良いと思う。ごめんね。今、元気なアースリーお姉ちゃんに会ったら、多分立ち直れない。触手さんでも元気にするのは難しいと思う。別にお姉ちゃんのせいじゃないよ。周りの良いことばかり聞いていると、絶望に近づくっていう話。そもそも、私が行くだけでもギリギリだと思う。これ以上、何度も行けないからこその今日だよ」  イリスちゃんが家に行ったり、周りの良いこと、つまり大蛇退治で不安が増すのであれば、アースリーちゃんが辺境伯にパーティーに誘われた時も不安が増したのだろうか。そのことを、イリスちゃんは決して口にしなかった。アースリーちゃんにさらに気負わせることになるからだ。  では、アースリーちゃんの方は限界を超えた状態でも元気にできて、ユキちゃんの方は元気にできない理由とは何か。  おそらく、悩みの質だろう。アースリーちゃんは本気で逃げようと思えば逃げられる悩みだったのに対し、ユキちゃんは自力ではどうにもできない、逃げられない悩みなのだ。逃げる手段がどうであれ、希望の光がどれだけ見えるかとも言える。 「……分かった。イリスちゃんと触手さんに任せる!」  アースリーちゃんも頭が回る方だ。理解と納得が早くて助かるが、だからこそ、もどかしい気持ちにはなるだろうな。  ゆうがアースリーちゃんを元気付けるように頬ずりした。 「ふふっ、ありがとう触手さん。大丈夫だよ。私、信じて待ってるから」 「ありがとう、アースリーお姉ちゃん。それじゃあ、お姉ちゃんの今後と、村の外のことについても話そうか」 「朱のクリスタルは、ジャスティ城に保管されてるって聞いたことがある」  この国、ジャスティ国のジャスティ城か。ジャスティスみたいな名前だ。朱のクリスタルについての情報をアースリーちゃんに聞き、俺達は早くも有力な情報を得ていた。  クリスタルがこんなに早く見つかっていいのか?  しかし、流石に厳重に警備されているか……。やっぱり、もう少しレベルアップしておいた方が良いか?  色々なことを思い浮かべてしまうが、もっと情報を集めてからだな。  アースリーちゃんの今後については、とりあえず俺達が彼女と一緒に辺境伯の屋敷まで同行することになり、割とあっさり話がついた。イリスちゃんが言うには、現時点で最も簡単にアースリーちゃんの不安を解消できる方法とのことだ。どのように同行するかはあとで決める。 「城への道は、ユキお姉ちゃんの部屋に貼ってある地図を見れば分かりやすいよ。ちょっと、かすれてる部分もあるけど。隣の『ダリ村』から、辺境伯の街を経由して、城下町に行ける。アースリーちゃんお姉ちゃんに同行して、そのあとにそのまま城下町まで行けば一石二鳥だね」  イリスちゃんが、城までの経路と向かうタイミングを示してくれた。地図はその辺の家庭には常備していないようだ。  それにしても、ユキちゃんの家には何でもあるのか? お金持ちなのだろうか。宝石も持っているという話だった。貴重と思われる魔法書も複数冊持っている。 「この際だから、私も村の外のこと知りたいな。アースリーお姉ちゃん、他にも色々教えてくれる?」  アースリーちゃんは、知っている限りの情報をイリスちゃんと俺達に教えてくれた。  例えば、辺境伯の街にはギルドが存在しないので、大蛇討伐を依頼したのは城下町のギルドらしい。ただ、ギルドへの依頼は、その経由地の冒険者にも伝えられるので、依頼達成までにそれほど時間がかからないこともある。  ギルドの役割としては、仕事の積極的な斡旋というよりは、単に組合であり、相場が崩れないように調整したり、冒険者に対しては信賞必罰の精神で、その内容を各地に通達する機能を有しているとのことだ。  各地から依頼が届くこともあるが、決して多くはない。そもそも、冒険者の主な仕事は用心棒で、俺達に馴染み深いモンスター討伐の仕事は、どちらかと言うとレアな仕事らしい。結界があるから、わざわざ危険を犯しに行く必要がないということだろう。  もちろん、モンスターを駆逐しようとする冒険者や、各地に眠っているかもしれない財宝を探す冒険者がいないわけではない。そういう人は、ギルドの役割とは無関係というだけだ。  他には、この村の文化レベルが他の村や町に後れを取っているという話や、村長が参加した子爵のパーティーの話をしてくれた。  さらに、辺境伯のパーティーに誘われた経緯についても、躊躇なく話してくれた。  実は、これらの話は繋がっていて、子爵のパーティーで、村長が他の貴族に村の文化レベルについて嫌味を言われたそうで、それに対して村長は、『自給自足で昔ながらの自然の良さ、村人が全員優しく、犯罪も一切ない。子どもにも素晴らしい教育がされているからこそ成り立っている社会であると誇りを持っている。後れを取っているのではなく、あえてそうしているのだ』と反論したから、その嫌がらせで辺境伯にあの田舎村をどうにかした方が良いと告げ口され、視察に来たのではないか、と言っていたらしい。  その際、出迎えたアースリーちゃんの魅力が、辺境伯がこれまで見てきた娘と一線を画していたから、彼は目的も忘れ、思わずパーティーに誘ったのだ、と村長はあとで自慢していたそうだ。なるほど、俺もアースリーちゃんが娘だったら絶対に自慢していただろう。  それに、村長はそれが良いか悪いかは別にして、ちゃんとした信念を持っているようだ。そして、その村を、アースリーちゃん含め、みんな愛している。素晴らしいことだ。  それにしても、アースリーちゃんがパーティー関連の話を普通にできるのであれば、彼女の精神状態については、しばらく心配なさそうだ。 「ありがとう、アースリーお姉ちゃん。じゃあ、私はユキお姉ちゃんの家に行くね。触手さんは、私と一緒にお姉ちゃんの部屋に入る? その場合は、家の近くで縮小化して、私の太腿に巻き付いて。隠れられる場所なら部屋にあるから」  俺は『Y』と書き、先に行ってイリスちゃんとあとで落ち合うことにした。



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前のエピソード 俺達と天才が情報共有して村の女の子を救済する話

俺達と女の子達が情報共有して下半身不随の女の子を救済する話(1/2)

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 七日目の早朝、俺達は村長宅のアースリーちゃんの部屋にいた。 「……ん……ぅん……」  彼女が寝返りを打つと、窓から差し込んだ日差しが彼女の目を覚まさせた。  俺達が『U』字型に背を伸ばして、彼女の横顔を見ていると、彼女は毛布の口を両手で持ち上げ、自分が全裸であることに戸惑いを見せた。  それからすぐに、彼女は俺達の方を向いて、少しだけ驚いた。 「あっ……! やっぱり、夢じゃなかったんだ……」  彼女は呟くように言った。俺達が彼女の顔に近づき、顔色を伺うと、彼女は両手でそれぞれ俺達の頭を撫でた。 「ありがとう……触手さん。私を止めてくれて…………。それに……元気付けてくれた……んだよね?」  その質問に答えるように、ゆうは彼女にキスをして、右頬に頬ずりをした。 「私……本当にどうかしてた……。今思えば、バカなことだって分かるのに……昨日の私、ううん、昨日までの私は、どんどん悪い方に考えちゃって……自分で自分を追い詰めてた。あなたがいなかったら……私……っ……」  アースリーちゃんは、言葉に詰まりながら涙を浮かべ、俺達に抱き付いた。その勢いで、俺達の体に彼女の涙が零れ落ち、堰を切ったように、彼女の目から涙が溢れてくる。  俺達は、それぞれ両頬の涙を舐め取っては頬ずりし、彼女を慰めた。 「ありがとう……ホントに……ありがとう……! とってもとっても優しい王子様……!」  彼女の両腕に力が入り、俺とゆうのそれぞれの体は、くっつきそうになる。  彼女の涙はしばらく止まらなかったが、その眩しく輝く笑顔を、俺達はずっと見ることができた。本当に良かった……。  結局は彼女の気持ち次第なのだ。俺達は、それを別の方向から、少しだけ手助けしたにすぎない。そういう意味では、俺達にとっては賭けだった。まあ、ダメならずっとここにいただろうな。彼女のあんな姿はもう絶対に見たくないから、ずっと慰めていたはずだ。  現実逃避? 問題の先送り? 俺達がそれを見たくない、以上。自己満足で大いに結構。  しかし、結果的には彼女を元気付けられたし、何とかなりそうだ。俺は、机の書き置きを、そろそろ泣き止みそうなアースリーちゃんの目の前に持っていった。 「これ……あなたが書いたの? すごい……。イリスちゃん……そうだったんだ……。うん、分かった。彼女にすぐにでも会いに行く」  アースリーちゃんは、何の疑いもなく俺達の言葉を信じ、前向きに行動する決意をした。  しかし、その決意に水を差すようで悪いが、俺は床に用を足し、その砂で追加のメッセージを体に貼り付けた。 『午後までにイリスちゃんが迎えに来る。家で待っていた方が良い』 「ええ⁉ そんなこともできるの? そっか。入れ違いにならないように、私が待ってればいいんだ。ふふっ、気持ちが先走っちゃったね。すごく不思議。自分から動きたくて、うずうずしてる。触手さんのおかげ。触手さん、大好き」  俺は、吸着した砂を床に落とし、再度メッセージを体に貼り付けた。 『ありがとう。みんなが君を大切に想っている。もちろん俺も』 「うん。ありがとう……。私、今すごく幸せを感じてる。あなたがいるから……。ずっとここにいてほしい。私が両親を説得するから」  アースリーちゃんは、俺達に告白のような台詞を言った。彼女を幸せにできたのなら、それに越したことはないが、ずっとここにいるとなると、触手としてのリスクは避けられない。 『それについては、少し待ってほしい。策を講じる必要がある。俺は一旦、森に戻る。何はともあれ、イリスちゃんと会ってから。また午後に会おう』 「う、うん……。分かった。あなたの言う通りにする」  アースリーちゃんは少し残念そうにしていたが、素直に言う事を聞いてくれた。 「アースリーちゃんって、愛が重いタイプなのかな? 見た目はそうでもないのに。あまり依存させないように立ち回らないと、メンヘラになっていつか刺されるかもよ。ミスター触手さん……って、あたしも完全に当事者だから他人事じゃないけどね」  ゆうは、冗談めいた口調で言った。 「あそこまでの精神疾患から復帰した反動と影響で、躁鬱に変化した可能性はある。いずれにしても、まだケアが必要だな。しかも、かなり上手くやらないと、台無しになりかねない。イリスちゃん、何とかしてくれー!」  イリスちゃんは天才も天才、真の天才だ。記憶力が良いだけ、計算が速いだけ、問題を解くだけの、他者の感情の機微を察せないような、ギャップ萌えのためだけに作られたツッコミどころのある架空の天才とはわけが違う。彼女なら、単に解決策を提示するのではなく、相手の気持ちに寄り添って、一緒に問題解決に導いてくれるだろう。  ただ、その真の天才にさえどうにもできなかった存在が、あとに控えている。ユキちゃんだ。今でも二人は会っているのに状況が改善しないのだ。天才なのを隠していることもあって、無闇に手を出せないと言った方が正しいのかもしれない。出したらその瞬間に壊れてしまうような危うい状況とか。  その場合、俺達がイリスちゃんにとっての『デウス・エクス・マキナ』だ。複雑な状況を神の力、天の力で解決する。逆に俺達が彼女のことをそう思っていたのに……。それはそれで良いコンビか。もちろん、これは演劇ではないので、つまらないからという理由で、『機械仕掛けの神』を呼ばない選択肢などイリスちゃんにはないし、むしろ積極的に俺達から出ていきたい。 「それじゃあ、森の中で、後回しにしていたスキルを取得しよう」  アースリーちゃんには、俺達の事は両親に話さずに、『十分睡眠を取ったらスッキリした』と説明するよう伝え、俺達は彼女に別れを表して、その場から触手を消した。あらかじめ、触手を一本だけイリスちゃんの家の屋根に配置してあったのだ。  実は、アースリーちゃんが気絶する三十分ぐらい前に、イリスちゃんがトイレに出てきたのだが、触手が一本しかなく、アースリーちゃんに神経を注いでいたので、聖水を飲むだけに留めた。とは言え、イリスちゃんからのクローズド・クエスチョンで、状況の詳細は把握してもらった。  その頃には、元気付ける目処が立っていたので、『ありがとう、触手さん。明日午後、アースリーお姉ちゃんと二人で会いに行くね』と彼女からお礼の言葉を受け取り、会う約束をした。村長が言っていた冒険者に狩りを頼んだという話を考えると、午前は俺達の時間が取れないはずだ。 「取得するのは『少再生』の次の『触手の尻尾切り』だ」  二回レベルアップしたので、レベルは五。先に『少再生』を取得して、今に至る。 「『触手の尻尾切り』、スキルによって増やした触手を選んで、ノーダメージで切り捨てる。切り捨てた触手はその場に残り、動かせなくなる。また、切り捨てた本数だけ、五分間、増やせなくなる」  これがあれば、かなりリスクを減らせる。戦闘でのリスクもそうだが、裏のメリットとして、死んだフリができるので、戦闘相手だけでなく、それを討伐の証拠として持ち帰った先さえも騙せるのが大きい。低レベルで最も欲しかったスキルだ。 「『少再生』はダメージがあるから試せないけど、これは試せる。説明もほとんど被ってるから、『少再生』の検証にもなるはずだ」 「えーと、この次のスキル候補は……隠密系だから『影走り』『短超感覚』……って、もうここからは『忍者』サブタイプになるの?  ……で、その次に共通スキルの『中透明化』『中縮小化』かー。『中透明化』は『短透明化』の派生だから、実質『中縮小化』のみ。流石に五メートルは長いから、早く何とかしたいんだけど。『中』は効果が一時間で、『長』は六時間。ずっと短いままでいたーい!」 「それは俺も思ってるが、『短』『中』『長』の間隔が短いのはスキルツリーの設計として、おかしいし、『長』のあとが完全習得として、クールタイムなしの時間無制限だが……まあ、『中』でも十分役に立つさ。むしろ、俺からすればそれ以上いらないね。事前によく作戦を練れば、という前提で」 「なんか、先が見えてるからやきもきするというか、いっそ見えない方がある意味で気が楽というか、でもそれはそれで不安だし……」 「これはゲームの話だが、スキルツリーを嫌がるプレイヤーは少なからずいる。  ゆうが言った理由に加えて、無駄で面白くないスキルが存在するという意味で、理由は次の通りだ。  設計が甘い、  自由度が少ない、  終わりが見えてつまらない、  スキルポイントの割り振りが面倒、  全て取得できる場合はキャラの個性がなくなる、  逆に全て取得できないと嫌、  単に見づらい、  単に操作が面倒、  没入感を阻害される、とかだな。  これらの中でも、俺達のスキルツリーや顕現フェイズに当てはまるものがあるな。  俺達の場合は、ゲームではなく、生物としてこの世界でどう生きるかであって、タイプやサブタイプで分けていることからも、スキルツリーというより、進化ツリーに近い。  だから、スキルを全て取得できないし、順番が決まっている箇所もあるし、何よりその進化が自然でなければならない。突然変異は淘汰されるし、そうでなければチートだからだ。何が言いたいかというと、『仕方がない』ということだな」 「後半の話は、低レベルチートスキルの説明でもう分かってるけど、結局、好みや感情の問題ってことね」 「もちろん良い面もある。あのスキルを早く手に入れたいから、あと少し頑張ろう、みたいな動機に繋がる。『触手の尻尾切り』は、まさにそれだ。俺達はこれを早く手に入れる必要があった。急いで試そう」 「おっけー。」  俺達は早速スキルの検証に入った。  村では、朝食の時間から二時間ほど過ぎて、大人達が仕事で外に出たり、世間話をしているようだ。  その頃、検証を大分前に終えた俺達は、村監視用を除く全ての触手を、森の限られたエリアに分散させて待機していた。村長が話していた女冒険者が宿屋から出て、森に向かってきたからだ。俺達の目撃情報は夜のはずだが、明るい内にケリを付けられるならそれで良しということだろう。 「チートスキルは持っていないようだから、作戦通りに行こう。ふむ……金髪ロングが眩しいが、表情は曇ってるな。元気がないみたいだ。蛇が怖いというわけでもないよな……。せっかくだから、しっかり元気にしてあげよう」 「『触手の嘆き』って自動で警告してくれるのかな? それとも意識しないとダメ?」  ゆうは、チートスキル警告について、大事な危機意識を持っているようだ。 「分からないな。自動じゃなかったら困るから、これまでも今も意識はしていた。チートスキルを持っていない場合は、対象の頭上に『不明』って表示されるから、自動でそうなってくれたら嬉しいんだが……。  例えば、最初に会った時にチートスキルを持っていなくて、二度目に会った時にチートスキルを取得していた場合を考えると、毎回確認しなければいけないのかと思うし、『不明』っていうのも、ちゃんとスキルの説明を理解していれば問題ないが、チートスキルの内容が『不明』なのか、チートスキルを持っているかどうかが『不明』なのかが、一目で分かりにくい。  実際は後者で、これは他の触手が邂逅していないために、チートスキルを持っていないとは断定できないから、そういう表現になっているが、それを理解できるかが問題だ。チートスキル持ちと早くから邂逅していれば、その違いもすぐに分かるが、この世界でレアな存在であることから、そういう気付きは得られない。  説明では、内容が『不明』の場合はチートスキル警告のみが表示されると書いてあるから、区別されるはずだが不安は残る。今度、触神様に提案してみるか」  俺達がそう話していると、女冒険者はいよいよ森の中に入ってきた。武器を持った相手と初めて対峙することになるので、『触手の尻尾切り』が欲しかったのだ。  俺達は、今まで傷を負ったことがない。もちろん、体が切断された場合にどうなるのかなど分からない。触神様も、人間については『一メートルは一命取る』とまでで、詳細は教えてくれなかったが、ヒットポイント制じゃないことから、触手が切断されたら多分死ぬ。たとえそれが増やした触手だとしても。  しかし、イリスちゃん以外の女の子に接触しようと決めた時には、すでに狩りに来られる覚悟はできていた。だからこそ、スキル取得を急いだ。かと言って、真っ向勝負をする気はない。スキル面でも戦闘経験面でも絶対に勝てないからだ。 「俺が合図したら、正面に出てくれ」  俺はタイミングを見計らった。女冒険者は、剣を抜いたまま森を進んでくるが、俺達の有利な場所で作戦を実行したい。そのために、人が通りやすいように、草を身体である程度踏み慣らしておいた。  土が見えている所は、足跡のように俺達の痕跡を残した。離れた場所で草むらを掻き分ける音も鳴らした。勘の良い冒険者なら、誘っていることに気付くかもしれない。  ただし、それは相手が人間の場合だ。さらに頭が回る者であれば、人間が大蛇またはそれに似たものを操り、誘っている可能性も考えるかもしれない。それでも俺達は、ある場所に誘う。  触手が人間を襲う時に有利な場所?  違う。あえて不利な場所に誘っているのだ。触手は隠れられる場所が多いほど、死角から攻めることができるので有利だ。普通の触手なら本体が一つの所にあって、そこから動かずに触手をあっちこっちに伸ばす。したがって、触手を止めるには、伸びてくる先に注意を払い、そこを目指して本体を叩くのが、対触手生物戦のセオリーだ。  しかし、それが少し開けた場所で、その先から触手が伸びていたらどうだろう。横の死角から攻められるような木々もなく、あっても遠くて、明らかにそこに触手は伸びていない。  すると、戦場となるのはそれ以上先で、そこに誘っているまたは本体があるのだと錯覚する。  それには、俺達が大蛇だと思われていない方が良いので、早めに顔を出す。 「いま!」  女冒険者が、開けた場所で中央の手前、三割ほど差し掛かった瞬間、ゆうは正面からゆっくりと顔を出した。その触手は三本。木の枝の隙間や草むらから、妖しい動きをする。涎も出しているようだ。 「⁉ …………触手⁉」  女冒険者は驚きと共に、戸惑いの声を上げた。『それじゃあ、大蛇は一体……』と思ったかもしれない。しかし、もう遅い。  俺は、あらかじめ彼女の後方に配置しておいた触手の縮小化を解き、体を伸ばして剣の柄の先を思い切り突いた。 「なっ……!」  すると、彼女の右手から剣がするりと抜け、地面に落ちた。  ゆうが突然顔を出していたら、警戒して両手で持っていたかもしれないが、ゆっくりと触手が見え、しかも距離があったため、油断したのだろう。  今回は決意と行動の間を短くしたのではなく、決意する直前から瞬間を狙った。歴戦の猛者なら、戦闘時の思考速度や反射速度が速いはずだから、思考停止時間が稼げず、隙にならない恐れがあるためだ。思考や身体の動きの切り替え直前となり、単に反応が少し遅れる程度だが、それで十分だった。  これまでは、音を出させないよう、周囲に気付かれないようにしなければならなかったが、今は多少騒がれても暴れられても困らない。森には他に誰も入っていないからだ。 「くっ……!」  女冒険者が剣を拾おうとする間もなく、俺は両手を拘束し、持ち上げた。同時に、彼女の両足もゆうが拘束する。そして、正面の触手を回収し、すぐさま追加で両手両足をぐるぐる巻きにした。  今回は、いつもと役割を交代し、俺が口を塞いだ。前回のアースリーちゃんでゆうが味をしめた……のではなく、今回は抵抗が激しいかもしれないので、早めに大人しくさせるために同性のゆうが責め立てた方が良いだろう、という話を前もってしていた。 「よし。始めよう」  そして、女冒険者の嬌声が森の中の俺達だけに響いた。 「う……ん…………⁉」  女が目を覚ました。剥がされた服はいつの間にか身に付けていて、その腕の中には、切断された俺達の死体があった。 「な、なんで…………」  女は上半身を起こし、俯きながら『俺達だったもの』を抱き締めた。彼女の両肩は震えているようだった。  しばらく経って、彼女は両腕をそのままに立ち上がると、辺りの様子を注意深く見て回り始めた。何かを探しているようだったが、それもしばらくすると、諦めて防具を装備し直し、触手の亡骸を持って、とぼとぼと帰っていった。 「上手く行ったの?」  ゆうが半信半疑で俺に聞いてきた。 「アレを持ち帰ってくれたってことだけでも成功だ」 『触手の尻尾切り』は、触手の任意の場所を文字通り『切り捨て』られる。『切り捨て』なくても、丸々亡骸にできるのも便利だ。  俺達は、俺の頭の方から順番にいくつか切り捨てていき、女の身体に置いて、最終的にはゆうが『少再生』で完全に俺達の体を元に戻し、女にはその場を去ってもらった。したがって、亡骸には片方の頭がない。 「『少再生』、スキルによって増やした触手を選んで、切断面から再生できる。切断された先の触手はその場に残り、動かせなくなる。また、再生した本数だけ、五分間、再生できなくなる」 「『触手の尻尾切り』で切り捨てた後に、『意識的に』切り捨てられた方の意識をなくして、『少再生』で『意識的に』切り捨てた方の意識を戻すのは、コネクタの再接続って感じでちょっと面白いけど、咄嗟にやるのは慣れが必要だよね」  ゆうが表現した再接続は、言い得て妙だ。  意識を切り替える際は、脳内のチャンネルも同様に切り替わる。切り捨てられた方は、スキルが使用できず、動かせなくなるだけで意識があり続け、視界や聴覚は生きている。もちろん、頭が残っている部分に限るが、それを活かす場面もあるかもしれない。  ただ、逆にリスクもある。その状態で、もう一度切断されたらどうなるかが分からない。だから、怖くて意識を長時間そのままにしておけない。つまり、肉体的にも精神的にも切り捨て指示のタイミングを誤ると、死ぬ可能性がある。  本当は、持ち帰られた先で色々な情報を聞きたかったが、仕方がない。意識まで切り捨てると、二度とそこに意識を戻せないので、その状態だと何をされても問題ないことは検証済みだ。  全ての切り捨てが自動で行われるのであれば楽なのだが、その保証はないので現時点では試せない。念のため、全ての触手を『触手の尻尾切り』の対象にして、切り捨てを保留にしてみてはいる。  一方で、再生した方に意識を戻す前に、そこがもう一度傷付けられた場合は検証できていない。ただし、後者は『触手の尻尾切り』が機能するので、切られていない側が対応すれば、未検証のリスクは抑えられる。今後しばらく戦闘がないようなら、十分時間をとって検証する予定だ。 「とりあえず、体制を村監視状態に戻して、イリスちゃんとアースリーちゃんを待つか」 「おっけー。」  女は、村長宅に大蛇退治の報告に行ったようだ。どのような内容で報告したかは、アースリーちゃんに聞いてみれば分かるだろうか。  その後、女は宿屋に戻って、そこから出てくる気配はなかった。この村にはまだ滞在するみたいだ。  それから、村長が村の中心部に出てきて、色々な人に声をかけていた。大蛇が退治されたことを広めているのだろう。  昼過ぎ、イリスちゃんが村長宅を訪れているところが見えた。アースリーちゃんが家のドアから出てくると、イリスちゃんが先に泣きながら抱き付いて、それを見たアースリーちゃんが一緒に泣いて、抱き締め返していた。俺達が見たかった光景だ。  そして、二人がイリスちゃんの家に一度立ち寄ってから、森の方へ手を繋ぎながら向かってくるのが見えた。黒板とチョークを取りに行ったらしい。  アースリーちゃんからは、俺達が砂で会話できることをイリスちゃんに伝えているはずなので、そのことから、この森では俺達を交えて快適に会話できる場所がないということが分かった。  二人と無事に合流して、イリスちゃんの天才ぶりをアースリーちゃんに直に感じてもらうためにも、まずは答え合わせとして、俺達がなぜ昨日の夜に複数の女の子達と接触できたのか、イリスちゃんがそれについて何か知っているかを聞いてみた。 「うん。女の子達に『その大蛇は、良い大蛇さんだよ。女の子が夜に見たら幸せになれるらしいから、怖がらないでトイレに行ってもいいと思うよ。実際、そう言ってる子がいたし。でも大人には内緒にしないと、大蛇さんがいなくなっちゃうよ』って触れ回ったんだー。  それで好奇心から夜に外に出る子が増えたのかも。女の子って噂好きだし。でも、今日の午前中は、子どもは外に出ないようにって言われてて、アースリーお姉ちゃんに会うのが遅れちゃった。  大蛇が退治されたって話をお昼にお父さんから聞いた時は、触手さんがそんなミスするはずないって思ってたから、全然平気だったよ。一応、まだ森に残ってるかもしれないっていうことで、引き続き注意するように各家庭に伝わってるみたい。冒険者さんも村に残るって。  アースリーお姉ちゃんは、冒険者さんの報告の場に居合わせて、触手さんが切られた状態の姿を見た時、一瞬ビックリしたみたいだけど、すぐに長さが足りない、長さと本数が合わないって考えて、触手さんはまだ無事だと思ったって。  村長さんは、『これが噂の大蛇か? 変異体じゃないか? だとしたらまだ生きている可能性も?』って疑ってたらしいけど、子どもに見せたらこれだって言われて、退治の知らせを広めたみたい。モンスターだとは疑ってないはず。実際、モンスターじゃないけどね。  村長さんからの疑いは完全には晴れてないし、冒険者さんも『まだ調査したい、追加の調査は無報酬でいい』っていうことで、村には一時の平穏が戻って、村長公認で調査は続行になったっていう経緯かな。  アースリーお姉ちゃんによると、冒険者さんは、午後は森に来ないって。『今は警戒されているだろうから、また明日の午前にする』って言ってたみたい。  多分、触手さんは冒険者さんのためを想って、ダミーの死体を残したんだよね。冒険者さんが何の成果もなしに手ぶらで帰るわけにはいかないからって。それが、退治報告で村に伝われば自分達のリスクも減らせるし。  すごいよ、触手さん。冒険者さんも触手さんのこと大好きになってると思うよ。そうじゃないと、報酬をもらって、すぐにこの村から別の場所に行ってると思う。もちろん、単に誠実な人っていうこともあると思うけど」  相変わらず、一を聞いたら十を返し、加えて俺達の意図まで読み取るイリスちゃんに、俺達とアースリーちゃんは、感心を超えて呆然としていた。それに、天才に褒められると、誇らしくて有頂天になってしまう。 「イリスちゃん……本当にすごいんだね。歩きながら話してる時も思ってたけど……。イリスちゃんにあれからもっと早く会えていれば、あんなことにはならなかったのかな。でも、それだとイリスちゃんが私のことを触手さんに相談しなかったかもしれないし。今は良かったって思える。二人とも、改めて本当にありがとう」  アースリーちゃんは、イリスちゃんと俺達の頭を撫でながら、涙ぐんで感謝の言葉を述べた。 「ううん、いいんだよ。私も嬉しいから。でもね、アースリーお姉ちゃん。一応言っておくと、触手さんは『二人』なんだよ」 「え?」  イリスちゃんは、俺達のことやこれまでの事を、最新情報を俺達と交換しながら詳細に話した。もちろん、俺達がいずれこの村を出ていくことも。 「……私、触手さんと離れたくない……。イリスちゃん、触手さん、何とかならないの?」  アースリーちゃんが悲しい顔をして相談をしてきた。 「触手さんもすでに考えてると思うけど、レベルと『触手の尻尾切り』次第かな。メインの冒険に使える本数を確保できなければ、情報収集の効率が悪くなる上に自由度が減るし、仮にそこで全滅した場合、この村に戻ってくることになるけど、それだと移動時間が無駄になるから、できれば保険で最低一本は戻ってもいい場所に配置したい。  特に、魔法使いと対峙したら、魔法の連発に耐えられない恐れがあるから、全滅の可能性が高いと思う。『弱魔法反射』は、敵と会わないこと前提の隠密系だともう少し先だし。それらが自動切り捨てできればいいけど、それが検証できないとなるとかなり危険だから……。  とりあえず、私達で触手さんのレベルアップを手伝うことはできると思う。色々な状況を試してもらえばいいし、ユキお姉ちゃんを元気にして、もう一レベル上がればレベル六で、七本使えるようになる。そうなれば、冒険に四本、保険に一本、アースリーお姉ちゃんと私の所に一本ずつ配置できる。  自動切り捨ての検証は、対象を指定したあとに、自分で自分を噛んでみてダメージがあるかないかを確認する。全ての触手に影響があったり、治らなかった場合に困るから、時間に余裕のある時に」  イリスちゃんの調子が上がってきて、最後は完全に理系研究者レベルの提案と口調になった。俺の考えをまだ話してもいないのに、その内容を後押ししてくれるようで自信になる。  ちゃっかりと自分の所への配置も提案している辺り、彼女も俺達とできるなら少しも離れたくないと思ってくれてるのかな。 『イリスちゃんの所に配置しなければ、レベルアップしなくてもいいのでは?』というツッコミを、隙を見せた彼女にできるのは、今回が最初で最後かもしれないが、しないでおいた。ツッコミしたらしたで、『私といつでも連絡とれたらリスクを抑えられる』と反論されるか。  彼女はさらに話を続けた。 「でも、実はもう少し良い方法があるんだよね。信頼できる強い人を護衛に付ける。理由は、冒険の意識のリソースを他の触手に分散できて、戦闘リスクと不意打ちリスクの両方を少しだけ減らせるから。減衰経験値もその都度に得られる。  あの冒険者さんがすごく強くて良い人なら、仲間にした方が良いと思う。ギャンブルになるから、積極的にオススメはしないけど。触手さんのことを話さない前提で、良い人かどうかの確認なら、私達でできると思うけど、どうする?」  なるほど、その発想はなかった。いや、流石だ。ちゃんと物事をフラットに見ている。人間と触手が一緒に旅をするなんてできるわけがないという常識に、少なくとも俺は囚われてしまっていた。  しかも、その時の体長は六メートルになっている予定だ。縮小化するにしても、『短』なら五分だけだし、『中』なら一時間毎に休憩しながら行けるが、まだ取得できていない。  しかし、たとえ『短』でも方法がないわけではない。その内の一つをイリスちゃんが示したわけだ。  俺は『Y』と黒板に書いた。 「うん、分かった。アースリーお姉ちゃん、良かったね。でも、あんまり触手さんに依存しちゃダメだよ。仮に別れることになった時、多分お姉ちゃんショックで死んじゃうよ」  イリスちゃんは、本当にありえそうなことを、あえて冗談っぽく口にした。 「あはは……。このまま行くと、そうなっちゃうかも……」  アースリーちゃんは、右指で頬をポリポリ掻きながら言った。彼女も冗談っぽく言っているが、かなりありえそうだ。  すると、イリスちゃんは気になっていたことを切り出すかのように、アースリーちゃんに質問した。 「アースリーお姉ちゃん、一つ聞いてもいい? 辺境伯に誘われてから、両親以外の誰かに変なこと言われたりした?」  それは、思ってもみないことだった。しかし、言われてみればその可能性も十分にある。第三者によって不安に陥れられた可能性が。 「え? うーん……、言われたかもしれないけど……どうだったかな……?」  もちろん、精神的に不安定であろうとなかろうと、過去の些細な出来事など思い出せないこともあるだろう。ただ、この世界では別の可能性が大いにある。 「ユキお姉ちゃんにはそれから会ってないよね?」 「うん、会ってない。それは確実。もしかして……『誰か』に魔法をかけられたってこと?」  アースリーちゃんは、その口ぶりから、ユキちゃんが魔法を使えることを知っている一部の村人に含まれているようだ。 「断言はできない。私がユキお姉ちゃんに見せてもらった本には載ってなかったし。でもそれは、回復魔法と召喚魔法だけだから、その本に載ってなかっただけで、他の魔法にはそういう効力のものがあるのかも。  でも、仮にそうだとしても、アースリーお姉ちゃんにそんな魔法をかけて何の得があるのかが分からない。辺境伯の顔に泥を塗れたとしても、たかが知れてるから。  個人的な恨みだとしても、この村にユキお姉ちゃん以外に魔法を使える人はいないし、派遣魔法使いもまだ来てない。残るは、旅の魔法使いだけど、結局動機が分からない」  手段としては、呪いの藁人形みたいに髪一本あれば、遠隔で災いを起こすような魔法や呪術なら、直接会っていなくとも可能だろうが、イリスちゃんが言うように、この仮説の一番の問題は動機だ。  俺は、ふと思ったことを黒板に書いてみた。ただ、気になったもう一つの可能性は書かなかった。限りなく低い可能性だし、ある意味では、皮肉で不幸なことだからだ。  でも、イリスちゃんならすでに思い付いてるんだろうなぁ。 『アースリーちゃんが、ユキちゃんのついでだった可能性は? あるいは、イリスちゃん狙いとか』 「うん、どっちもあると思う。でも、同時期に二人が不安定になることが単なる偶然なのかって思ってた。二人の共通点は、村で一、二を争うほどかわいいこと、それと私と関わりが深いこと。前者は、女の嫉妬や男の振られた私怨、後者は同年代の女の子の嫉妬や私の家族への私怨だけど、どれも妄想の域を出ない」  イリスちゃんの語彙がもう大人のそれになってきた。ユキちゃんの家で魔法書だけでなく、小説も読んでいそうだ。 「それと、もう一つ。動機が分からないんじゃなくて、動機が全くない場合もあり得る。無意識でこの状況に陥れられた、あるいは陥った可能性。あるとしたら、後者。もう魔法じゃなくて呪いだね……『私の』」 「え⁉ イリスちゃんの?」  アースリーちゃんが驚いて聞き返した。俺が書かなかったもう一つの可能性をやはり挙げてきた。 「触手さん、ありがとう。私を気遣って、わざと書かなかったんだよね? そう、もちろん私は呪いをかけてるつもりはないけど」  イリスちゃんは、俺の平然とした反応から気持ちまで汲み取り、アースリーちゃんの問いに対して肯定した。  イリスちゃんの良いところは、天才なのに、確実な、あるいは可能性の高い結論だけを言うのではなく、様々な選択肢も挙げた上で、俺達に話してくれることだ。俺もどちらかと言うとそういう語り口だが、そもそも思考回路の出来が違う。  今回はそれが裏目に出ていて、イリスちゃんは暗い顔をしているが、すぐに俺は可能性を全て列挙した。 『イリスちゃんとは限らない。全員で呪いをかけ合ってる可能性もある。イリスちゃんにあまり影響しないだけで』 「ありがとう。そうだね……。触手さんに一応説明しておくと、私達の世界では『呪い』という言葉はあっても、魔法と違って実際に認識されてないから、完全に未知の現象。  いずれにしても、証拠がない以上、これまで挙げたのは全部『可能性』という名の妄想だから、今は私達にできることをした方が良いと思う。触手さんがユキお姉ちゃんに接触することが一つの糸口になるはず。  触手さん、お夕飯前に私がユキお姉ちゃんの家に行って、様子を見てくるから、行けそうなら今夜、できるだけ早い時間に接触してほしい。  これは私の全然確かじゃない勘だけど、ユキお姉ちゃんの限界は今日か明日に超えるような気がする。念のため、注意事項は伝えておく。大蛇退治の話で、家族も油断してると思う。今日がベストタイミングだよ」  話から推察するに、イリスちゃんは、大蛇退治の報告の日と彼女がその話題を持ってユキちゃんの家に気兼ねなく行ける日、俺が彼女に接触できる日の全てが重なる時を待っていたんだな。そして、その時が早く訪れることも分かっていた。  俺は『Y』と書いた。 「わ、私も行く! ユキちゃんのこと、心配だから!」 「ううん、私一人の方が良いと思う。ごめんね。今、元気なアースリーお姉ちゃんに会ったら、多分立ち直れない。触手さんでも元気にするのは難しいと思う。別にお姉ちゃんのせいじゃないよ。周りの良いことばかり聞いていると、絶望に近づくっていう話。そもそも、私が行くだけでもギリギリだと思う。これ以上、何度も行けないからこその今日だよ」  イリスちゃんが家に行ったり、周りの良いこと、つまり大蛇退治で不安が増すのであれば、アースリーちゃんが辺境伯にパーティーに誘われた時も不安が増したのだろうか。そのことを、イリスちゃんは決して口にしなかった。アースリーちゃんにさらに気負わせることになるからだ。  では、アースリーちゃんの方は限界を超えた状態でも元気にできて、ユキちゃんの方は元気にできない理由とは何か。  おそらく、悩みの質だろう。アースリーちゃんは本気で逃げようと思えば逃げられる悩みだったのに対し、ユキちゃんは自力ではどうにもできない、逃げられない悩みなのだ。逃げる手段がどうであれ、希望の光がどれだけ見えるかとも言える。 「……分かった。イリスちゃんと触手さんに任せる!」  アースリーちゃんも頭が回る方だ。理解と納得が早くて助かるが、だからこそ、もどかしい気持ちにはなるだろうな。  ゆうがアースリーちゃんを元気付けるように頬ずりした。 「ふふっ、ありがとう触手さん。大丈夫だよ。私、信じて待ってるから」 「ありがとう、アースリーお姉ちゃん。それじゃあ、お姉ちゃんの今後と、村の外のことについても話そうか」 「朱のクリスタルは、ジャスティ城に保管されてるって聞いたことがある」  この国、ジャスティ国のジャスティ城か。ジャスティスみたいな名前だ。朱のクリスタルについての情報をアースリーちゃんに聞き、俺達は早くも有力な情報を得ていた。  クリスタルがこんなに早く見つかっていいのか?  しかし、流石に厳重に警備されているか……。やっぱり、もう少しレベルアップしておいた方が良いか?  色々なことを思い浮かべてしまうが、もっと情報を集めてからだな。  アースリーちゃんの今後については、とりあえず俺達が彼女と一緒に辺境伯の屋敷まで同行することになり、割とあっさり話がついた。イリスちゃんが言うには、現時点で最も簡単にアースリーちゃんの不安を解消できる方法とのことだ。どのように同行するかはあとで決める。 「城への道は、ユキお姉ちゃんの部屋に貼ってある地図を見れば分かりやすいよ。ちょっと、かすれてる部分もあるけど。隣の『ダリ村』から、辺境伯の街を経由して、城下町に行ける。アースリーちゃんお姉ちゃんに同行して、そのあとにそのまま城下町まで行けば一石二鳥だね」  イリスちゃんが、城までの経路と向かうタイミングを示してくれた。地図はその辺の家庭には常備していないようだ。  それにしても、ユキちゃんの家には何でもあるのか? お金持ちなのだろうか。宝石も持っているという話だった。貴重と思われる魔法書も複数冊持っている。 「この際だから、私も村の外のこと知りたいな。アースリーお姉ちゃん、他にも色々教えてくれる?」  アースリーちゃんは、知っている限りの情報をイリスちゃんと俺達に教えてくれた。  例えば、辺境伯の街にはギルドが存在しないので、大蛇討伐を依頼したのは城下町のギルドらしい。ただ、ギルドへの依頼は、その経由地の冒険者にも伝えられるので、依頼達成までにそれほど時間がかからないこともある。  ギルドの役割としては、仕事の積極的な斡旋というよりは、単に組合であり、相場が崩れないように調整したり、冒険者に対しては信賞必罰の精神で、その内容を各地に通達する機能を有しているとのことだ。  各地から依頼が届くこともあるが、決して多くはない。そもそも、冒険者の主な仕事は用心棒で、俺達に馴染み深いモンスター討伐の仕事は、どちらかと言うとレアな仕事らしい。結界があるから、わざわざ危険を犯しに行く必要がないということだろう。  もちろん、モンスターを駆逐しようとする冒険者や、各地に眠っているかもしれない財宝を探す冒険者がいないわけではない。そういう人は、ギルドの役割とは無関係というだけだ。  他には、この村の文化レベルが他の村や町に後れを取っているという話や、村長が参加した子爵のパーティーの話をしてくれた。  さらに、辺境伯のパーティーに誘われた経緯についても、躊躇なく話してくれた。  実は、これらの話は繋がっていて、子爵のパーティーで、村長が他の貴族に村の文化レベルについて嫌味を言われたそうで、それに対して村長は、『自給自足で昔ながらの自然の良さ、村人が全員優しく、犯罪も一切ない。子どもにも素晴らしい教育がされているからこそ成り立っている社会であると誇りを持っている。後れを取っているのではなく、あえてそうしているのだ』と反論したから、その嫌がらせで辺境伯にあの田舎村をどうにかした方が良いと告げ口され、視察に来たのではないか、と言っていたらしい。  その際、出迎えたアースリーちゃんの魅力が、辺境伯がこれまで見てきた娘と一線を画していたから、彼は目的も忘れ、思わずパーティーに誘ったのだ、と村長はあとで自慢していたそうだ。なるほど、俺もアースリーちゃんが娘だったら絶対に自慢していただろう。  それに、村長はそれが良いか悪いかは別にして、ちゃんとした信念を持っているようだ。そして、その村を、アースリーちゃん含め、みんな愛している。素晴らしいことだ。  それにしても、アースリーちゃんがパーティー関連の話を普通にできるのであれば、彼女の精神状態については、しばらく心配なさそうだ。 「ありがとう、アースリーお姉ちゃん。じゃあ、私はユキお姉ちゃんの家に行くね。触手さんは、私と一緒にお姉ちゃんの部屋に入る? その場合は、家の近くで縮小化して、私の太腿に巻き付いて。隠れられる場所なら部屋にあるから」  俺は『Y』と書き、先に行ってイリスちゃんとあとで落ち合うことにした。



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