俺達と天才が情報共有して村の女の子を救済する話

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 六日目の昼過ぎ、俺達はイリスちゃんとの約束の通り、森で待機していた。  増やした触手は、これまで通り村を監視している。冒険者や行商人が村を訪れたりもしているようだ。その内の冒険者は、珍しく女冒険者だったので目を引いた。美しい金髪が靡いていて、もっと近くで見てみたいとさえ思えた。 「蛇さーん、いるー?」  小声で俺達を呼ぶイリスちゃんが森に入ってくると、俺達は顔を覗かせ、彼女に近づいた。 「もっと奥の方に行こうか」  そう言って、彼女は歩ける場所を探しながら、時に草むらを分け入って、森の中央付近まで俺達を先導した。  そこは、奇しくも俺達がお世話になった一番高い木の下だった。 「ここでいっか。ホントは、村の子どもは森に入っちゃいけないって言われてるんだけど、それは単に迷うからで、私は迷わないから秘密で何度か入ってたんだー。そんなことより、蛇さん、村で話題になってたよ。もしかしたら、村の大人達が狩りに来るかも。大丈夫?」  おそらく、昨夜の別の女の子から俺達の事が漏れて、あっという間に村に広がったのだろう。しかし、想定済みだ。  俺達は『短縮小化』をイリスちゃんの前で使ってみせた。目的の大きさになるまで、それがどんな大きさでも五秒かかる。また、一度使って、すぐに元の大きさに戻したとしても、クールタイムが発生する。  狩りに来た村人をやり過ごすには、木の上まで登るか、小さくなって村人が通り過ぎるのを待つか、いくつか方法があるので問題ない。イリスちゃんにはすぐに安心してもらえるよう、『短縮小化』を見せたに過ぎない。 「わ、すごい! これなら隠れやすいね! 木に登ってもいいし、擬態できるならそれもいいし、あえて分裂した一本を村で見つけてもらう方法もあるかな?」  イリスちゃんは俺達に選択肢を提示するように、俺が事前に考えていた作戦をいくつか挙げた。頭が良いだけでなく、気の利く子だが、それゆえに少し恐ろしさもある。親御さんももちろんのこと、俺達も彼女をしっかりと育てないといけないだろう。 「私、蛇さんとお話できるの、すごく楽しみにしてたんだ。これでお話ししよ!」  彼女は手に持っていた黒板とチョークを俺達に見せた。チョークは俺達が見慣れたものよりもかなり歪だったが、普通に書けそうだ。また、フェイスタオルぐらいの大きさの布も持ってきていた。おそらく黒板消し代わりに使うのだろう。 「これを口に咥えると体に良くないみたいだから、私がアルファベットを全部書いて、それを蛇さんが順番に指していくっていうのはどう?」  イリスちゃんは右手にチョークを持ちながら、俺達に提案した。 「俺がチョークを咥えて文字を書く。ゆうは周りを警戒してくれ」 「おっけー。」  俺は、イリスちゃんの提案を断り、彼女が手に持っていたチョークを口に咥えた。  この体の丈夫さは、イリスちゃん自身が証明している。人間なら死んでいるものを口に入れても、俺達に悪影響がなかったからだ。ましてや、食べるでもなく、ただ咥えるだけなら全く問題にならないだろう。  彼女がそれに気付かないわけはないので、摂取する成分が普段と異なった場合の影響を気遣ってのことだ。 「うん、分かった。それでお話ししよ! じゃあね、最初に聞いておきたいことがあるんだけど……蛇さんはこの村にずっといる? それとも出ていっちゃう? もしそうなら、どんな理由?」  イリスちゃんは俺達も一番気にしている事をいきなり聞いてきた。流石だ。  女の子を幸せにするのはいいのだが、別れをどうするか俺達は悩んでいた。仲良くなって別れたら、当然悲しむだろうし、それは幸せにしたと言えるのか、どうにかできないかを常に考えていた。  だから、経験値減衰を抜きにしても、一期一会が最も良いのだが、イリスちゃんに限っては、俺達が彼女を気に入ったこともあって、そうはならなかった。彼女から切り出したのは、辛い別れにしたくないから、俺達に依存しないようにする意志の現れだろう。  俺達は理由まで正直に書いた。彼女に隠し事は通用しないし、意味がないことだ。もちろん、それらのことは全て俺達だけの秘密だ。 「そっか……。朱のクリスタルを探してるんだ。どこにあるかは分からないなぁ。朱じゃなくて紫の綺麗な宝石なら持ってる人を知ってるけど……。この村って、他の村と行き来してる人がいるのに、あんまり外の情報が入ってこないんだよね、入ってきても浸透しないというか。この村だけで完結してるから、外のことに興味ないんだと思う。でも……あの二人なら……」  イリスちゃんは、何か心当たりがあるかのように考え込んだ。 「蛇さんにお願いがあって……。ある二人を元気づけてくれないかな?  一人は元々紹介したかった人で、『ユキお姉ちゃん』。  もう一人は村長の娘さんの『アースリーお姉ちゃん』。  実は、私も蛇さんに元気をもらった一人なの。私、他の子達と普通に喋るとあんまり話が合わなくて、でもそれじゃいけないって思って、無理矢理にでも話を合わせてたけど、最近その機会が増えて……。それが辛くて。  でも、蛇さんと会える楽しみが増えたから良かった。それまでは、ユキお姉ちゃんと話すのがすごく楽しかったから、よく遊びに行ってたんだけど、最近はお姉ちゃんの元気がなくて、窓も締め切って、塞ぎ込んでる感じになっちゃった。  それでも、私とは偶になら会ってくれる。さっき話した紫色の宝石を持ってるのは、そのユキお姉ちゃん。  アースリーお姉ちゃんともよく遊んでもらってたけど、この前、村に来た辺境伯からパーティーに誘われたらしくて、なぜかそれからあまり遊べなくなっちゃった。そのパーティーは再来週。村長が止めてるのか、お姉ちゃんが自分から外に出なくなったのかは分からない。  なんでこんな話をしたかって言うと、その二人は他の人達に比べて外の事を知っていて、知る機会があるから。ユキお姉ちゃんは勉強家で、国内や周辺国、魔法についても詳しいし、アースリーお姉ちゃんは、村長の付き添いで他の村との交流の機会があって、もしかしたら、二人とも朱のクリスタルの場所ついて知ってるかもしれない。  元々、二人は仲が良くて、そこで情報交換してたみたいだから、直接は知らなくても、どこかに綺麗な宝石があるのを耳にしたってこともあるかも。元気になったら、私とも普通に遊んでくれるようになるから、その時に私から聞けると思う」  とても子どもとは思えないほど、難しい言葉を知っている上に、交渉まで混じえて理路整然と語るイリスちゃんに俺達は感心していた。まあ、天才がその辺の子どもと話が合うわけはない。  それにしても、本当に一から十を話してくれたな。しかも、俺達の次の行動まで限定して示した。その名の通り、マジで女神か?  しかし、ある意味では、生贄を捧げたとも友達を売ったとも解釈できなくはない。そうだとしても、イリスちゃんにメリットがないし、彼女達を憎んでいるとも思えないし、本心で救いたいと思っているのだろう。そもそも、俺達は害を与える存在ではないと自負している。子どもだけでなく大人に接触できる体長にもなった。  俺は『Y』と書いて、彼女の願いを承諾した。 「嬉しい……蛇さん、ありがとう!」  それから、俺達はユキちゃんとアースリーちゃんの家の情報や、文化レベル、モンスターや結界について詳しく聞いた。  俺達からは、別の世界から転生してきたこと、日本や地球のこと、科学を含めた文化レベルについても話した。  この世界では、火薬は存在するが、銃は存在しないらしい。と言うか、イリスちゃんは銃を知らなかった。銃のような武器は作れるんじゃないかと考えたことはあるらしいが、火薬を用いた直接武器の製造は世界条約で禁止されているとのことだ。それを少しでも破ると、世界各国がその国を崩壊させる。対人用はもちろん、対モンスター用の武器製造も禁止だ。火薬で岩を爆破して崖の上から落としたりするのはアリだが、それなら魔法使いがやった方が早いらしい。  また、魔法を使って直接技術を進歩させてはならないという取り決めもある。個人の生活を少し楽にする程度なら問題ないとのことだ。  例えば、魔法を使って風呂釜を製造したり、シャワーが機能する家庭の風呂場や大衆浴場を作ってはいけないが、一人だけに魔法で生成したお湯でシャワーを浴びさせるのは許される。それもあって、各家庭は未だに布で体を拭いたり、行水したり、髪を洗うのは三日に一回程度らしい。  なぜそのような決め事になっているかは分からない。魔法使いの地位を保つためだろうか。イリスちゃんは、そこまで突っ込んでお姉ちゃん達には聞かないらしい。あくまでちょっと賢い女の子を演じているとのことだ。それぐらいなら辛くないらしい。ゆうもそうだが、女の子は演じるのが好きなのか?   結界については、通常は村に常駐する魔法使いによって維持されていて、その魔法使いがどこかに行ってしまったとしても、結界は一ヶ月ぐらい消えないらしい。維持すると言っても、ただそれぞれの結界範囲内に五分間いるだけで期間が更新される。  セフ村は大きな二つの結界で全てを囲っているので、村の真ん中に立てば同時に更新できて、楽な方らしい。結界を張った魔法使いと常駐魔法使いは同一人物である必要はない。  ただ、セフ村には常駐魔法使いはおらず、半月に一回、隣村から派遣されてくるらしい。なぜそうなのかは分からず、村の成り立ちや役割からそうなっているのかもしれないとのことだった。ちなみに、その成り立ちや役割は誰からも教えられていない。  結界が張られているかどうかは魔法使いにしか分からない。実は、ユキちゃんが魔法を使えるが、そのことは村でも一部の人しか知らないとのことだ。  結界内にいた人間が外に出ても、結界の効果でモンスターに三日間襲われることはない。全てのモンスターは結界内にどのような手段を用いても入ることはできず、攻撃も通らない。穴を掘ってもそれは変わらない。  ただし、結界内にモンスターを召喚した例があり、その時は、弱いモンスターは召喚できず、一定レベル以上のモンスターは召喚できて、その強いモンスターを結界外に召喚しても結界内には入ってこなかったという検証が行われたらしい。  そのことを知っていたので、初回のイリスちゃんは結界内の強いモンスターに抵抗しても無駄、どころか家や村が滅茶苦茶になると思って、動けなかったとのことだ。  森も結界に含まれているらしく、転生後の俺達はレベル一で明らかに弱かったはずだから、そのことから考えても、この世界が俺達をモンスターと認識していないことが分かった。  もしかすると、召喚と転生あるいは生命体創造の違いはあるかもしれないが、いずれにしても、それは一本の触手を使えば、あとで実際に確かめられる。  ああ、それと大事なことを話した。俺達は蛇ではなく触手だということを分かってもらった。 「触手さん、あの……おしっこしたくなってきちゃった……いい?」  大分時間が経ったこともあり、イリスちゃんがモジモジとし始めた。俺達はイリスちゃんの体に巻き付き、例のごとく聖水を飲み干した。  もらえる経験値が減ると味が落ちるのかと思っていたら、そうではなかった。相変わらず脳を駆け巡る爽快感と満足感。これまでと味が異なっているのに、何度味わっても美味い。  俺達はイリスちゃんに感謝の言葉を書いた。 「ありがとうって……何だか恥ずかしいなぁ。私の方こそ、ありがとう。触手さん、大好きだよ」  彼女は、恥ずかしがるもかわいらしい笑顔で答えた。 「あっ……あっ……あたしも……しゅきぃぃぃ!」  ゆうは、イリスちゃんのかわいさに頭がおかしくなっているようだった。 「ちゃんと周りを警戒してくれよ……。ミス・イリコン、略してミスコンさん」 「うざ! 死ね!」  結局、村人が俺達を狩りに来る様子はなかった。  イリスちゃんとは夕方早くに別れて、俺達はアースリーちゃんの様子を伺うべく、村長宅近くにいた。  ユキちゃんの方は、イリスちゃんがタイミングを計りたいとのことで、まだ待機だ。アースリーちゃんには、できれば今夜、接触したい。あまり時間を置くと、村長宅のセキュリティがさらに強化される恐れがある。護衛なんか付いた日には、監視する時間だけ過ぎていくのが目に見えているからだ。  ところで、『イリス』と『アースリー』ってなんか発音が似てるよね、と別れる前にイリスちゃんに聞いたら、字も意味も由来も実の親も名付け親も全く関係ないらしい。そもそも両者ともに実の親が名付け親だ。  こういうのはアナグラムで何かありそうだと思っても、天才の本人に冷静に完全否定されたら、流石に自信を失う。俺もまだまだだな。 「お兄ちゃん、あそこ! 村長じゃない?」  イリスちゃんに聞いた通りの風貌の村長を見かけた。  彼は家からおよそ百メートルの地点にいた。小太りで頭は禿げ上がっていて、口髭がある。見た目は典型的なおっさんスタイルだ。  今日は会合があって、家の外に出てるから、夕飯前に必ず戻ってくるだろうというイリスちゃんの読み通りだった。俺達二人とキャラが被ってもいいから、参謀役として彼女を連れ回したいところだ。 「よし。急いで裏手から屋根に登ろう」  俺達は、村長宅の屋根で最小まで縮小化して、タイミングを見計らった。 「ただいまー」  村長がドアを開けた瞬間、そのドアの内側に飛び移り、すぐに地面に向かって急いで駆け下りた。村長からは、俺達は死角に入っていて見えないはずだ。  家の中からも、誰もドア方向を見ていなかった。彼がドアを閉めると、俺達は床の隅に沿って、見つからないようにすぐ近くにあった壺の裏に素早く身を隠し、そこから顔を出して、辺りを見回した。  村長宅は、少なくとも男爵位であるにもかかわらず、屋敷ほどの大きさではなかった。ただ、それでも他の家よりはかなり広く、リビングを含めて六部屋あり、その内の一つがアースリーちゃんの個室だ。場所はイリスちゃんに教えてもらっているので、そこを目指す。  できるだけ身を隠しながら、目的の部屋に近づいた。トイレで待つのは確実でないし、広い村長宅で外から状況を把握するのは困難と考えた故の作戦だ。 「おかえりなさい」  村長の妻が遅れて出迎えた。年齢は三十代後半だろうが、スタイルが良く、ずっと若く見える。大人しめの美人といった感じだ。 「アースリーは部屋か?」 「ええ、今日はずっと」 「そうか、逆に都合が良い。噂の大蛇に襲われでもしたら大変だ。辺境伯の折角の居住可能域拡大パーティーに水を指すことにもなりかねん。  念のため、冒険者ギルドに大蛇退治を依頼したところだが、もしかしたら、さっき会った女冒険者が何とかしてくれるかもしれん。人探しに来たと言っていたが、森の大蛇を退治してくれたら教えると返した。何しろギルドに頼むと、連絡して来てもらうだけでも時間がかかるからな。こういう時は、田舎村の悲しいところだ。  発明アイデアの応募の時なんて酷かった。返信猶予が一日しかなかったからな。あんなの誰も出せなかっただろう。ともかく、彼女が退治してくれたら、それに越したことはない」 「あら、珍しい。行商人の護衛でもないのに、この村に冒険者が来るなんて。誰を探してるの?」 「それはまだ聞いてない。聞いてしまったら交渉にならんからな。退治後も、確認のために何日か滞在してもらった方が良いから、私が村の人達にも聞いてみると言って引き止めるつもりだ」  この村長は中々やり手らしい。やっぱり早めに来て正解だったな。冒険者ギルドは、別の町にあるのか。多分、各村にはないんだろうな。 「アースリー、ご飯よ! 村であった危ない話もあるから、出てきなさーい!」  村長の妻がアースリーちゃんを呼んだ。危ない話というのは俺達のことだろう。アースリーちゃんは閉じ籠もっていたせいか、まだ知らなかったようだ。 「はい……」  キィと部屋のドアが開き、暗い顔のアースリーちゃんが出てきた。  彼女の髪は、イリスちゃんと同じく赤みがかっていて、三つ編みで胸ぐらいまでの二つお下げにしていた。その胸はというと、イリスちゃんに聞いた通り、とんでもなく巨乳だ。トップ差は、巨体の奥様方を含めても、村で一二を争うらしい。真下からだと顔も全く見えないだろう。  しかし、腰は細く、尻も安産型で、決して太ってはいない。脚は膝下まであるスカートで見えないが、どの部位もムチムチしてそうだ。まさに、豊満と呼ぶに相応しい。  顔はとてもかわいく、純朴さがあり、優しそう。北欧の伝統的な民族衣装らしい服装も含めて、田舎の山に住んでいそうな子だ。辺境伯が思わず誘いたくなる気持ちも分かる。料理も上手で、自分用のナイフや包丁を持っているらしい。とても魅力的な子だ。  それにしても、ずっと部屋にいたのに、わざわざ外用の服を着ているのか。どういうことだ?  念のため、チートスキルの確認もしたが何もなし。  とりあえず、アースリーちゃんに見惚れるのはそれぐらいにして、俺達はドアが閉まる前に部屋の中に入り込んだ。電気は当然なく、足元がそれほど明るくないので、隅を通っていれば簡単には見つからない。俺達の体は後一分ぐらいで元の大きさに戻っていただろうが、その時のために、リビングで隠れられそうな所の目星はつけておいた。幸い、一発で部屋に入れて良かった。  俺達は部屋の壁を蔦って、ドアのすぐ上の天井に吸着した。また、村を監視していた一本の触手を回収し、再度増やして、ベッドの下に配置した。  これで、村長達の会話をできるだけ近くで聞きながら、アースリーちゃんが入ってきたら、それを回収して、ベッド下で接触のタイミングを計ればいい。 「アースリー、まだ不安なのか?」 「だって……田舎娘の私が一人でパーティーに参加するなんて……どうしたらいいか全く分からないのに……お父さんだって、伯爵のパーティーに参加したことなんてないでしょ?」 「子爵のパーティーも伯爵のパーティーも変わらんさ。それに、屋敷までは俺が一緒だと言っているだろう。ドレスだって、辺境伯ならきっと良い物を用意してくれる。そうでないと、直接誘った手前、沽券に関わるからだ。  だからこそ、昨日届いた正式な招待状に、パーティー三日前に到着するように書いてあったんだ。ドレスの調整、おめかしの検討、もしかしたら、マナー講習やダンスの合わせ方の練習もするかもしれない。全部、昨日話した通りだ。少しは落ち着きなさい」 「辺境伯の目的だって……」 「本人とその家族とお近づきになれるんだから、良いことじゃないか。ご子息は優秀らしいし、結婚までこぎつけられれば万々歳だ。むしろ、辺境伯がそれを望んでいるかもしれないんだぞ」 「そんなこと、私は望んでない! 私はずっとこの村にいたいのに……」 「いや、そうは言っても、かっこいい王子様に憧れる年でもあるまいし、別に好きな男がいるわけでもないだろ? それに、この村に良い男がいるかと言うと……少なくとも辺境伯のご子息には敵わんだろ?」 「そんなの……分からない」 「分からないなら、直接行って確かめてみるしかないな」 「…………でも……」  アースリーちゃんは、村長に論破されていた。事情は大体分かった。 「はぁ……あたしなら、論破し返すのに。こんな穴だらけの論理」  ゆうは、アースリーちゃん側に付いて、ツッコミどころのある村長の語りに文句を言った。 「いいか、ゆう。これが女の子の『かわいげ』ってやつだ。男はこういう女の子を無条件で守ってあげたくなるものだ」 「いや、お兄ちゃんが味方するのは、かわいくて巨乳だからでしょ」  まあ、否定はしない。アースリーちゃんには是非幸せになってもらいたいものだ。 「さて、アースリーちゃんの悩みと状況を整理してみるか。辺境伯に誘われた時点で、すでに不安だったことから、パーティーでどうしたらいいか分からないこと、あるいはその時に結婚まで想像して、大好きな村から出ていく可能性が出てきたこと、が大きな悩みかな。  次いで、田舎娘だと周りにバカにされそう、そもそもバカにするために呼ばれた可能性もあって、その場合は、ドレス等が貧相になること。  両親がいくら言っても聞き耳持たずで、村人と会うと、自身の被害妄想からその全ての悩みが増幅してしまうので、引きこもりがちに。  そして、招待状ではなぜか一人で参加することになっていて、辺境伯への不信感は増大し、大きな悩みがさらに増幅、その他の悩みも、より信憑性を増した。ついには、生きるための最低限の行動以外、部屋から出なくなった、といったところか」  どれもそうと決まっているわけではないのに、かなり悲観的だ。  イリスちゃんに聞いた話では、それまでのアースリーちゃんは明るく朗らか、周りを包み込むような優しさと包容力が溢れていたらしいので、まるで正反対だ。  パーティー参加のプレッシャーがそこまで人を変えるのだろうか。それとも、家ではこういうキャラなのか。だとしたら、外に出なくなる理由にはならないから、キャラの可能性は低いか。  俺達は、パーティーに参加したこともないし、貴族社会でもなかったから、そこには計り知れない感情が生まれるのだろう。辺境伯の目的がハッキリすれば全て解決する道はあるが、今は知る術がない。 「うーん。結局、あたし達がやることは変わらないか。とりあえず、イリスちゃんに事情を伝えて会わせれば、何とかしてくれそう」  ゆうが言った通り、イリスちゃんを万能な神のように扱って丸投げしたくはないんだが、ここはタッグを組んだということにしておこう。  そもそも、万能なら俺達が動く必要はなかったんだから、その神も許してくれるはずだ。 「それにしても、両親はこの状況をあまり深刻だと思っていない様子だな。年頃の女の子は精神的に不安定なことが多いのに、この悩みの進行度も考えると、追い詰められて自傷行為に走ってもおかしくないんじゃないか? しかも、それがたとえ軽傷でもパーティー不参加の理由になる」 「うん。父親に論破されて、母親もかばってくれない。もう周りに味方がいないって思い込んじゃうかも。本当は両親からも村人からも大切にされてるのに……。相談相手が他にいれば良かったけど、アースリーちゃんはイリスちゃんのことをただの子どもだと思ってるから、選択肢にも挙がらないのは、ある意味で不幸だね……」  精神的に一度でも塞ぎ込んでしまうと、自力で抜け出すのは難しい。元の世界では、娯楽や趣味で気を紛らわせたり、カウンセラーがいたり、抗うつ剤があるので比較的マシではあるものの、それでも救えない人の方が多かった。ましてや、この世界はその選択肢がない、概念さえ存在しない可能性が高い。 「よし。部屋では彼女が寝るまで注意深く観察しよう。ドア天井の触手は消すつもりだったが、上から状況を把握する必要がある。暗がりに紛れて、見つからないように祈るしかないな。リビングでも何かあればすぐに突入する。念には念をだ。  今、作戦を伝えておく。恐れた事態になった場合、彼女は刃物を持っているだろうから、まず俺が刃物を落としてその手に巻き付く。ゆうは首を軽く絞めつつ、口を塞いでくれ。俺が他の触手を使って、両手両足を拘束する。  部屋の場合はそのまま摂取を続けよう。リビングの場合は、その後、全員に『俺は味方だ』とメッセージを伝える。素早くコミュニケーションできる良い方法を思い付いたんだ。俺達から排出される砂に対して、伝えたい言葉通りに身体の吸着率を変えて、俺達に貼り付ければって。  イリスちゃんは、俺達が吸着率を意図的に細かく操作できることを知らなかったから、思い付きようがなかったし、森では吸着できる砂や土、それらを落とせる平らな地面が周りに少なかったからどうしようもなかったけど、ここなら床が使える。暗くて身体に張り付いた砂が見えないと困るから、状況によっては明るい場所へ引っ張る。全ての触手を回収すれば、これらを素早く行えるはずだ」 「砂か……なるほどね。作戦も分かった」  ゆうは静かに同意した。そうなる可能性が高いと見たのだろうか。  リビングでは俺達の話題になり、アースリーちゃんが外に出る際は気をつけるように、あるいは、しばらく外に出なくてもいいと言われていた。 「アースリー、出発までの時間はまだあるから、ゆっくり落ち着いて、心の準備をしておくといいわ」  村長の妻が優しい声でアースリーちゃんに声をかけたが、おそらく逆効果だろう。一人の時間が増えればどんどん深みにハマっていくパターンだ。 「はい……」  アースリーちゃんが下を向いたまま、部屋のドアを開けて入ってきた。とりあえず、リビングへの突入はなくなった。  彼女はドアに鍵をかけ、入って左端にある机の椅子に座った。リビングに来る時は鍵を開けていた様子がなかったな。一人になって落ち着きたいから鍵をかけたか。  天井の俺達は、彼女の左横顔が見えているが、すぐに飛びつけるように、音を立てずにもう少しだけ近寄った。  アースリーちゃんは、机をじっと見ながら震えていた。時折、鼻をすするような音も聞こえてきた。両手で顔を覆ったり、机に置いた手を強く握りしめたり、自分の両肩を抱きしめたり、スカートを掴んだり、首を何度も横に振ったり、頭を抱えて机に突っ伏したり……。その全てを何度も繰り返して……見ていてとても痛々しい。この姿を両親に見せたら、どんな反応をするんだろうな。他人の俺でも胸が張り裂けそうなのに。 「お兄ちゃん……」 「ああ、絶対助けるぞ」  二時間弱、経っただろうか。この時間は、彼女にとって永遠に苦しみが続く地獄だったに違いない。これが、今日の朝起きて、昼間もずっとこの状況だったならと考えるとゾッとする。そうではなかったと思いたい。  しかし、いずれにしても、完全に要治療の精神疾患だ。破壊衝動に駆られなかったのは、彼女の優しさ故だろうか。  本当なら、俺達だって早く彼女を何とかしてあげたかったのだが、できれば遅い時間、両親が寝静まってからにしたかった。失敗したら元も子もないからだ。だから、俺達も歯痒い思いで、見守るしかなかった。ごめん、アースリーちゃん……。  俺がそんなことを考えていると、頭を抱えて、しばらく机に突っ伏して震えていたアースリーちゃんがピタッと動きを止めた。彼女は椅子から徐ろに立ち上がると、窓の方へ歩き出した。その足取りはフラフラだ。  彼女は窓に手をかけ、少しだけ開けた。両開きの窓の隙間から涼しい風が入ってきて、部屋に溜まったわだかまりを消してくれるようだ。  彼女は机に戻り、また椅子に座った。少し見上げれば、ほとんど正面に見えるはずの俺達だが、暗闇に紛れて天井の隅にいた上に、顔を一切上げないアースリーちゃんには気付かれていないようだ。  震えが止まっていた彼女は、次に机の引き出しに手をかけ、ある物を手にして、机の上に置いた。それは、刃渡り十五センチほどの料理用ナイフだった。再度、彼女は震えだし、両手は膝を掴んでいた。 「ゆう、俺が合図したら飛びつくぞ。タイミングはナイフを手に取る直前。触手を一本さらに回収して、二本で彼女の体を支えつつ、机に脚をぶつけないように巻き付いて、椅子は倒さないように引く。できれば体を浮かせて地団駄を踏ませないようにしたい。後は作戦通りだ」 「分かった」  三分後、再度震えが止まったアースリーちゃんが右手をナイフに伸ばした。 「いま!」  俺は自身の合図と共に、彼女の右手に体を伸ばした。ゆうもすぐに首に巻き付き、彼女の口を塞いだ。 「……⁉」  アースリーちゃんが外用の服を着ていたのは、やっぱりこのためだったか。  自分の体のどこに刺そうとしたかは分からないが、仮に命を失わなかったとしても、体裁を悪くしないための村長の言い訳として、外で怪我したことにできて、村人に見せられる証拠も残る。  血痕が床に残った場合は、部屋に誰も入れなければいいだけだし、急な鼻血を理由にしてもいい。  それに、窓から入ってきた噂の大蛇に襲われてナイフで応戦したことにすれば、自分には何の落ち度もなくなる。俺達の話を聞いたことで当初の作戦を変更して、実行に移すのが早くなったか。ドアを施錠したのも、偽装工作前に部屋に入られては困るため。  俺達が思っていた以上に、アースリーちゃんは強かだった。 「…………」  アースリーちゃんは驚きのあまり、声を出せずにいた。俺達が彼女に完全に飛びつくと、その勢いで彼女は椅子ごと倒れてしまうので、身体の一部は天井に貼り付けたままだ。  俺はすぐに、ベッド近くにいた二本の触手を作戦通り同時に動かした。途中まで一緒の動作なので混乱することはなく、スムーズに彼女の体を机から引き剥がし、部屋の中央に持ってくることができた。  彼女の反応を見るに、大蛇のせいにしようとしていたのに、その大蛇がそんなタイミングで来るなんて夢にも思っていなかっただろう。  なぜ、ナイフを見た瞬間に飛びつかなかったか、それは彼女の思考停止時間をできるだけ伸ばすためだ。  人は時に思い掛けないことが起こると、思考停止に陥るが、その時間が最も長くなるのが、何かを決意してそれを行動に移す瞬間、というのが俺の持論だ。  行動するための決意には、ある事が起きた時はこうしようという事前の想定が必ず伴い、時間が経てば経つほど、それも増えていき、想定外のことが少なくなっていく。  想定外のことが起きる時の流れは、想定が『状況の想定』と『対処法の想定』に分離できて、それらがセットである前提で、まず脳内の状況の検索から始まり、それに当てはまらなかったら、想定外となって、その状況の対処法だけの検索に移り、それでもどうにもなかったら、思考停止となる。  つまり、想定外とは、『状況の想定外』だけを意味し、一方で『対処法の想定外』は思考停止を意味する。  俺達が引き出しのナイフを見た時、彼女の最初の決意は、窓を開けてナイフを出そうと椅子から立ち上がる前だった。それでは行動してからの時間が経ちすぎていて、何らかの邪魔が入ったと分かったら、その瞬間、俺達を認識する前に騒がれていたかもしれないし、暴れられていたかもしれない。それが『状況の想定外』の場合の対処法だからだ。  だから、次の決意まで待った。それが、再度右手をナイフに伸ばす時だった。そうなると、不思議なことに『騒ぐ』『暴れる』の対処法は実行されない。決意と行動の間にほとんど時間がなく、そんな瞬間に邪魔されるとも思っていないからだ。すなわち、対処法はあくまで状況とセットで、この場合は『状況の想定外』すら存在しない。  つまり、『対処法の想定外』と同義となり、思考停止に陥るということだ。状況や対処法を検索しても全て『対処法の想定外』なので、思考停止時間も長くなる。  最初にナイフを持った時に自傷行為に走っていたら、と思うかもしれないが、彼女の性格や精神状態から、その可能性は低かった。それに、二度目にナイフを手にしても、また震えて迷っていたはずだ。  この間、約三秒。何が起こったか理解し始めたアースリーちゃんは、手足を動かそうとしたが、すでに宙で拘束されているので、衣擦れの音しかしない。また、無意識に声が出そうになっても、ゆうが事前に察して、その度に首を絞める。 「…………」  状況を完全に理解したアースリーちゃんは大人しくなった。当然だ。お望みの『大蛇』が向こうからやってきたのだから。  しかし、彼女はもう俺達のことを大蛇ではなく、触手だと認識しているはずだ。これからどのような目に遭うかは想像できているのだろうか。 「まず服を全部脱がして、脱がした服は全部ベッドの上に置く。もう少し窓側に寄ろう。ベッドに近くなるし、声が届かないようにドアまでの距離を長くしたいし、風邪を引かないように窓も閉めたい。それからは、アースリーちゃんが元気になるまで続ける。たとえ夜が明けることになってもな」 「おっけー。」  リビングにはまだ両親がいる。この様子だと、彼らが寝る前にアースリーちゃんに声をかけることもないだろうと踏んでいる。  心配だったのは、今の俺達の力で彼女を宙に持ち上げられるかだったが、むしろ余力がかなりある。当然、イリスちゃんでも試させてもらったが、体重差は二倍以上ありそうだ。  俺達は窓を閉め、アースリーちゃんの服を脱がし始めた。ゆうは変わらず口を塞いでいるが、首はもう絞めていない。  二本の触手で、ゆうが率先して脱がす。ボタンも器用に外している。まずは、スカートを脱がし、下着を露わにした。上半身のシャツも脱がすが、首を通っているので、服を脱がす触手を一本、服の下から通し、口を塞いでいる触手とスイッチする。俺が両手を挙げさせたあと、二本の触手でゆうと協力して、胸、首、両手に引っかからないように服を脱がせた。  下に身に着けていたコルセットも外すと、最大級の半球が大きく揺れた。実際に目の前にすると圧倒され、こちらの体が固まってしまうほどだ。こうして見ると、やっぱり彼女はムチムチ体形で、そこに立っているだけでも男の劣情を煽りそうだ。下腹部や尻、太腿の肉付きは、各部位でさえ、抱き付いたら気持ち良さそうと思えるほどの魅力を放っていた。  靴と靴下も脱がし、最後に下着を脱がそうとすると、これまで全く抵抗しなかった彼女が、流石に恥ずかしいのか、最後の砦を守るべく、股を閉じて抵抗してきた。 「ぅ……」  彼女の微かな声が聞こえたが、ゆうは二本の触手で勢い良く下着を下ろし、それをベッドに放り投げた。  両手の触手は、彼女の力が抜けた時に両肩が外れないよう、腋と肩部分でも巻き直す。  足首に巻き付けていた触手は、再度別々に膝上に巻き付け、最終的に両手は万歳、脚は『M』字になるように、宙で仰向け状態になるように持ち上げた。 「……‼」  アースリーちゃんの顔がみるみる内に赤くなっていくのが分かった。  俺達のそれぞれの身体の中央付近で巻き付き、全体を『U』字にして、中央の丸い部分を床に付けて持ち上げているので、俺達の頭を動かす余裕は十分ある。両手に一本、両足に一本、口と下腹部で一本。もう一本あれば自由度が増すが、残りの一本はイリスちゃんの家の屋根に配置してある。  なぜ、アースリーちゃんをベッドに寝かせないか。ギシギシとベッドが軋む音がするかもしれないし、身体の汗も摂取したいからだ。ベッドに寝かせるとシーツに吸収されてしまう。 「ゆう、口はそのままにしておいてくれ」  俺はそう言うと、アースリーちゃんの両胸に『S』字型に二回巻き付き、軽く締め付けた。 「……ぅ……」  彼女の両胸がツンと上を向き、まるでこれから搾乳されるように細長く変形した。  俺はそのまま下半身へ向かい、彼女の股を通って一度背中側に出て、そして、右脇腹から正面に顔を出した。この移動で、俺は彼女の胸を締め付ける主導権をゆうに預けた。これで準備完了だ。 「んっ…………」  アースリーちゃんの股間に密着させた俺の身体をゆっくり前後に動かすと、彼女はピクッと反応した。吸着率を不規則に小さく変えることで、予想できない感覚が彼女を襲う。  それと同時に、俺とゆうが締め付けられた両胸にむしゃぶりつき、さらに、腋を俺達の体で責め立てる。首筋や耳もペロペロと舐めたり、吸い付いたりを繰り返す。  口は先程からゆうが舌を絡めて唾液を貪っている。両脚の触手は、内股や両脇腹、下腹部をバラバラに舐め上げている。  アースリーちゃんは、その全身の感覚に身悶えして、体を大きく揺らしていた。 「は……ぁ……ぁ……んっ……ん……ぅ……」  声も抑えられないようだが、この声量ならドアに届くまでにかき消される。  彼女の揺れる体に合わせて、例のごとく股の触手を逆に動かすと、その反応でまた大きく体が揺れ、そのまた逆に触手を動かすというのを繰り返すと、魚のごとくピチピチと跳ねるようにどんどん体が大きく揺れていく。  目の焦点が合わなくなりそうなタイミングを見計らって、俺達は少し強めに彼女の身体を締め付けて、猛スパートをかけた。 「んっ……ん……んっ……ん……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ」  リズミカルに、そして小刻みに動く彼女の体と、それに合わせた吐息が塞がれた口から漏れる。  俺達の体は、すでに彼女の汗を含めた体液でテカテカと輝いていた。俺は彼女の嬌声をよく聞き、ここぞというところで、吸着率を大きく変えた。 「んっ……んっ……んっ……んっ……んんっ‼️ …………は……あぁ……」  彼女の体は大きく海老反りになり、ビクビクと震えていた。  ゆうは彼女の口を解放し、涎や顔周りの汗を舐め取っていた。俺も自身の体に付いた体液を全て舐め取り、アースリーちゃんの様子を伺った。 「はぁ……はぁ……」  彼女は大きく息をし、頬を赤く染めながら、虚空を見つめていた。 「続けるか。ゆう、この状態から右回転で四つん這いにできるか? どうせなら体位を色々変えてやってみよう」 「おっけー。」  アースリーちゃんの右手側を軸として、左側の俺達が体を持ち上げるように右手側の奥に移動した。 「あ……」  彼女は少し驚いたような表情をしていた。まさか、触手が体位を変えるとは思ってもいなかっただろう。  四つん這いではあるが、頭を少し低めに、尻をその分だけ高く突き上げる格好にさせた。両腕については、曲げさせた肘と肩にそれぞれ巻き付いて固定。緩められた両胸は重力に引かれて、大きく垂れ下がり、完全に搾乳体制となった。  この状態の尻から股を覗き込む眺めが、薄い茂みの間から雄大な景色をみているようで、実に素晴らしい。恥ずかしい部分が全て露わになり、アースリーちゃんは耳まで赤くなっていた。  俺達に意思があることは気付いているはずなので、他人に全てを見せているような気持ちになったのだろう。 「床に零さないように気を付けよう」  ゆうにそう言って、俺はアースリーちゃんの局部に吸い付いた。 「んっ……!」  アースリーちゃんの体がビクッと震えた。体勢的にこちらの動きを把握できないので、不意の俺の行動に驚いたということもあるだろう。  俺が溢れる蜜を舐めるように舌をゆっくり這わせると、彼女の尻が少し上がり、また元の位置に戻る。大きく円を描くように舌を動かすと、それに合わせて尻も動く。舌には力を入れていないのに、まるで彼女を思い通りに操っているみたいだ。舐める場所によって、彼女の声の強弱も変わる。  ここなら……、 「ぁ…………」  ここなら……、 「あっ…………」  そして、ここは……、 「あんっ‼」  調子に乗って、思った以上に大きい声を出させてしまった。リビングに聞こえてはいけないので、自重しよう。  ゆうは、舌を絡めない軽いキス重視で、どちらかと言うと胸にターゲットを合わせているようだ。 「反則的なおっぱいしちゃって……このー!」  両胸に巻き付けている触手を、搾乳しているかのように、器用にも上から下に順に締め上げて、先端に吸い付いている口に、何かを流し込む動作を繰り返していた。もちろん、母乳は出ない。  肉体改造系サブタイプのスキル『強制搾乳』があれば可能だが、フリだけで辱め……もとい、気分を高揚させようとしているのだろう。しかし、二本の触手で搾乳動作をやるならまだしも、両胸に巻き付いているのは一本なので、相当難しい体捌きを求められるはずだ。すでにゆうの体術は極まっていると言っても過言ではないだろう。  アースリーちゃんの口から時折垂れる唾液も、ゆうは見逃さずに受け止めている。恐れ入るよ。 「は……あぁ……」  アースリーちゃんの吐息が漏れる。俺は、ゆっくり舐めて、止めたり、またゆっくり舐めたりを繰り返す。  そして、しばらく焦らしていると、アースリーちゃんから、おねだりするように尻を動かしてきた。よしよし、元気になってきたな。  俺は、その要求に答えるように、それまでよりも強めに、素早く舐めることにした。 「あっ……あっ……あっ……あっ……!」  彼女の声がテンポ良く、俺に聞こえてくる。このままだとリビングにバレるかもしれない。 「ゆう、口を塞いでくれるか? その状態でラストスパートをかける」 「おっけー。……はーい。良い子にしててねー」  ゆうは彼女にキスをしてから、ゆっくりと口に潜り込んだ。俺は徐々に舌のスピードを上げていった。  それだけでなく、最初にやったように全ての触手を使って、アースリーちゃんの全身に体と舌を這わせ、時に規則的に、時に不規則に、そしてラストに向かって、彼女の全身の感覚が脳を駆け巡り、抜けていくように、不規則から規則への変化を演出した。 「んっ! んっ……! んっ……! んっ……!」  それに合わせて、声が大きく上擦り、体を激しく動かすアースリーちゃん。特に、腰と尻は俺に押し付けるかのように上下前後に勢い良く動かしていた。  今の彼女に、羞恥心は微塵も残っていなかった。本能のままに腰を動かし、牛のような巨乳を大きく揺らし、ほとんど抑える気のない嬌声を上げる。  さっきまで、地獄に落とされたかのような顔で、自分を傷付けようとしていたとは到底思えないほど、彼女の顔も身体も、悦びを目一杯に表現していた。  そのことに俺も嬉しくなり、お祝いの気持ちも込めて、ギアを最高速まで上げた。  そして、巻き付いていた触手で彼女の首以外の部位を一斉にギュッと締め上げ、各所の吸い付きを最大に強めた。 「んっ! んっ……! んっ……! んっ……! ……んーーー‼」  アースリーちゃんの全身が、ビクッ、ビクッ、ビクッと三回ほど大きく震えた後、全ての力が抜け、その体重が俺達にのしかかってきた。それでも彼女は、まだピクピクと震えていた。  俺は口から溢れないように全ての体液を飲み干した。今更だが、とんでもなく美味い。ペロペロと舐める時の味と、そのまま飲む時の味、口に溜めてから飲む時の味が、全て違って全て美味い。空気に触れた時間によっても味が異なるのだ。延々と、いや、文字通り永遠に楽しめるんじゃないかと思う味の変化だ。  これだけで非常に興味深い研究のテーマとなり、論文を書き上げたい気持ちにさせられる。しかし、その論文は誰にも査読できず、却下される。俺達にしか味わえないのだから……。 「アースリーちゃん、めっちゃ涎垂らしてたよ。最高に美味しかったー」 「ゆうもこの際、下半身を味わってみたらどうだ? ダメ押しでもう一、二回は続けたいし」 「そうだね。実は興味あったんだー。お兄ちゃんがいつも放心状態になるから、どんだけーって」 「まあ、俺は状況も込みで味わってるから、より美味さを感じられるっていうのはあるかもしれない。いずれにしても、美味いことに変わりはないさ。それじゃあ次は……」  俺達は、体位を変え、ゆうと役割を交代して、アースリーちゃんを悦ばせ続けた。  ゆうの『おっほー!』というマヌケな声から、これまでにない味を楽しんでいるようで何よりだ。  アースリーちゃんは、それから再度体位を変えて、クライマックスまで行ったところで、失禁して気絶した。精神的疲労と睡眠不足もあったのだろう。ベッドに放ってあった服をどかせて、横に寝かせると、安心したようなかわいい寝顔で、スヤスヤとそのまま眠りについていた。きっと、朝まで眠れるだろう。  アースリーちゃんの不安の種は全く消えていないのだが、まずは前向きになることが重要だ。俺達にまた会いたいという、ちょっとした希望を思ってくれれば、なお良い。肉体的な疲労は精神も疲労させるから、精神的にスッキリした上で、休息をとるのが一番だ。  いつの間にか、リビングの明かりは消えていて、両親も寝床に就いていたようだった。  俺達は、アースリーちゃんに毛布をかけて、机の上のナイフを引き出しにしまい、同じく机の上にあった黒板にチョークで書き置きを残した。と言っても、万が一のために、またここに戻ってくる予定だが。 『イリスちゃんに全てを話してみて。彼女は天才だから』  その後、俺達は両開きの窓から外に出て、吸着を利用して窓を外からゆっくり閉め直した上で、村長宅を後にし、レベルアップのために、他の女の子と接触を図った。  いつもより時間が遅く、大蛇出現で警戒されているはずだったが、運良く別の家々の女の子達と複数回接触でき、二回レベルアップできた。彼女達の様子から、本当に運が良かったのかはイリスちゃんに聞いてみれば分かりそうだ。



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前のエピソード 俺達と女の子が初回接触してスキルを取得する話(3/3)

俺達と天才が情報共有して村の女の子を救済する話

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 六日目の昼過ぎ、俺達はイリスちゃんとの約束の通り、森で待機していた。  増やした触手は、これまで通り村を監視している。冒険者や行商人が村を訪れたりもしているようだ。その内の冒険者は、珍しく女冒険者だったので目を引いた。美しい金髪が靡いていて、もっと近くで見てみたいとさえ思えた。 「蛇さーん、いるー?」  小声で俺達を呼ぶイリスちゃんが森に入ってくると、俺達は顔を覗かせ、彼女に近づいた。 「もっと奥の方に行こうか」  そう言って、彼女は歩ける場所を探しながら、時に草むらを分け入って、森の中央付近まで俺達を先導した。  そこは、奇しくも俺達がお世話になった一番高い木の下だった。 「ここでいっか。ホントは、村の子どもは森に入っちゃいけないって言われてるんだけど、それは単に迷うからで、私は迷わないから秘密で何度か入ってたんだー。そんなことより、蛇さん、村で話題になってたよ。もしかしたら、村の大人達が狩りに来るかも。大丈夫?」  おそらく、昨夜の別の女の子から俺達の事が漏れて、あっという間に村に広がったのだろう。しかし、想定済みだ。  俺達は『短縮小化』をイリスちゃんの前で使ってみせた。目的の大きさになるまで、それがどんな大きさでも五秒かかる。また、一度使って、すぐに元の大きさに戻したとしても、クールタイムが発生する。  狩りに来た村人をやり過ごすには、木の上まで登るか、小さくなって村人が通り過ぎるのを待つか、いくつか方法があるので問題ない。イリスちゃんにはすぐに安心してもらえるよう、『短縮小化』を見せたに過ぎない。 「わ、すごい! これなら隠れやすいね! 木に登ってもいいし、擬態できるならそれもいいし、あえて分裂した一本を村で見つけてもらう方法もあるかな?」  イリスちゃんは俺達に選択肢を提示するように、俺が事前に考えていた作戦をいくつか挙げた。頭が良いだけでなく、気の利く子だが、それゆえに少し恐ろしさもある。親御さんももちろんのこと、俺達も彼女をしっかりと育てないといけないだろう。 「私、蛇さんとお話できるの、すごく楽しみにしてたんだ。これでお話ししよ!」  彼女は手に持っていた黒板とチョークを俺達に見せた。チョークは俺達が見慣れたものよりもかなり歪だったが、普通に書けそうだ。また、フェイスタオルぐらいの大きさの布も持ってきていた。おそらく黒板消し代わりに使うのだろう。 「これを口に咥えると体に良くないみたいだから、私がアルファベットを全部書いて、それを蛇さんが順番に指していくっていうのはどう?」  イリスちゃんは右手にチョークを持ちながら、俺達に提案した。 「俺がチョークを咥えて文字を書く。ゆうは周りを警戒してくれ」 「おっけー。」  俺は、イリスちゃんの提案を断り、彼女が手に持っていたチョークを口に咥えた。  この体の丈夫さは、イリスちゃん自身が証明している。人間なら死んでいるものを口に入れても、俺達に悪影響がなかったからだ。ましてや、食べるでもなく、ただ咥えるだけなら全く問題にならないだろう。  彼女がそれに気付かないわけはないので、摂取する成分が普段と異なった場合の影響を気遣ってのことだ。 「うん、分かった。それでお話ししよ! じゃあね、最初に聞いておきたいことがあるんだけど……蛇さんはこの村にずっといる? それとも出ていっちゃう? もしそうなら、どんな理由?」  イリスちゃんは俺達も一番気にしている事をいきなり聞いてきた。流石だ。  女の子を幸せにするのはいいのだが、別れをどうするか俺達は悩んでいた。仲良くなって別れたら、当然悲しむだろうし、それは幸せにしたと言えるのか、どうにかできないかを常に考えていた。  だから、経験値減衰を抜きにしても、一期一会が最も良いのだが、イリスちゃんに限っては、俺達が彼女を気に入ったこともあって、そうはならなかった。彼女から切り出したのは、辛い別れにしたくないから、俺達に依存しないようにする意志の現れだろう。  俺達は理由まで正直に書いた。彼女に隠し事は通用しないし、意味がないことだ。もちろん、それらのことは全て俺達だけの秘密だ。 「そっか……。朱のクリスタルを探してるんだ。どこにあるかは分からないなぁ。朱じゃなくて紫の綺麗な宝石なら持ってる人を知ってるけど……。この村って、他の村と行き来してる人がいるのに、あんまり外の情報が入ってこないんだよね、入ってきても浸透しないというか。この村だけで完結してるから、外のことに興味ないんだと思う。でも……あの二人なら……」  イリスちゃんは、何か心当たりがあるかのように考え込んだ。 「蛇さんにお願いがあって……。ある二人を元気づけてくれないかな?  一人は元々紹介したかった人で、『ユキお姉ちゃん』。  もう一人は村長の娘さんの『アースリーお姉ちゃん』。  実は、私も蛇さんに元気をもらった一人なの。私、他の子達と普通に喋るとあんまり話が合わなくて、でもそれじゃいけないって思って、無理矢理にでも話を合わせてたけど、最近その機会が増えて……。それが辛くて。  でも、蛇さんと会える楽しみが増えたから良かった。それまでは、ユキお姉ちゃんと話すのがすごく楽しかったから、よく遊びに行ってたんだけど、最近はお姉ちゃんの元気がなくて、窓も締め切って、塞ぎ込んでる感じになっちゃった。  それでも、私とは偶になら会ってくれる。さっき話した紫色の宝石を持ってるのは、そのユキお姉ちゃん。  アースリーお姉ちゃんともよく遊んでもらってたけど、この前、村に来た辺境伯からパーティーに誘われたらしくて、なぜかそれからあまり遊べなくなっちゃった。そのパーティーは再来週。村長が止めてるのか、お姉ちゃんが自分から外に出なくなったのかは分からない。  なんでこんな話をしたかって言うと、その二人は他の人達に比べて外の事を知っていて、知る機会があるから。ユキお姉ちゃんは勉強家で、国内や周辺国、魔法についても詳しいし、アースリーお姉ちゃんは、村長の付き添いで他の村との交流の機会があって、もしかしたら、二人とも朱のクリスタルの場所ついて知ってるかもしれない。  元々、二人は仲が良くて、そこで情報交換してたみたいだから、直接は知らなくても、どこかに綺麗な宝石があるのを耳にしたってこともあるかも。元気になったら、私とも普通に遊んでくれるようになるから、その時に私から聞けると思う」  とても子どもとは思えないほど、難しい言葉を知っている上に、交渉まで混じえて理路整然と語るイリスちゃんに俺達は感心していた。まあ、天才がその辺の子どもと話が合うわけはない。  それにしても、本当に一から十を話してくれたな。しかも、俺達の次の行動まで限定して示した。その名の通り、マジで女神か?  しかし、ある意味では、生贄を捧げたとも友達を売ったとも解釈できなくはない。そうだとしても、イリスちゃんにメリットがないし、彼女達を憎んでいるとも思えないし、本心で救いたいと思っているのだろう。そもそも、俺達は害を与える存在ではないと自負している。子どもだけでなく大人に接触できる体長にもなった。  俺は『Y』と書いて、彼女の願いを承諾した。 「嬉しい……蛇さん、ありがとう!」  それから、俺達はユキちゃんとアースリーちゃんの家の情報や、文化レベル、モンスターや結界について詳しく聞いた。  俺達からは、別の世界から転生してきたこと、日本や地球のこと、科学を含めた文化レベルについても話した。  この世界では、火薬は存在するが、銃は存在しないらしい。と言うか、イリスちゃんは銃を知らなかった。銃のような武器は作れるんじゃないかと考えたことはあるらしいが、火薬を用いた直接武器の製造は世界条約で禁止されているとのことだ。それを少しでも破ると、世界各国がその国を崩壊させる。対人用はもちろん、対モンスター用の武器製造も禁止だ。火薬で岩を爆破して崖の上から落としたりするのはアリだが、それなら魔法使いがやった方が早いらしい。  また、魔法を使って直接技術を進歩させてはならないという取り決めもある。個人の生活を少し楽にする程度なら問題ないとのことだ。  例えば、魔法を使って風呂釜を製造したり、シャワーが機能する家庭の風呂場や大衆浴場を作ってはいけないが、一人だけに魔法で生成したお湯でシャワーを浴びさせるのは許される。それもあって、各家庭は未だに布で体を拭いたり、行水したり、髪を洗うのは三日に一回程度らしい。  なぜそのような決め事になっているかは分からない。魔法使いの地位を保つためだろうか。イリスちゃんは、そこまで突っ込んでお姉ちゃん達には聞かないらしい。あくまでちょっと賢い女の子を演じているとのことだ。それぐらいなら辛くないらしい。ゆうもそうだが、女の子は演じるのが好きなのか?   結界については、通常は村に常駐する魔法使いによって維持されていて、その魔法使いがどこかに行ってしまったとしても、結界は一ヶ月ぐらい消えないらしい。維持すると言っても、ただそれぞれの結界範囲内に五分間いるだけで期間が更新される。  セフ村は大きな二つの結界で全てを囲っているので、村の真ん中に立てば同時に更新できて、楽な方らしい。結界を張った魔法使いと常駐魔法使いは同一人物である必要はない。  ただ、セフ村には常駐魔法使いはおらず、半月に一回、隣村から派遣されてくるらしい。なぜそうなのかは分からず、村の成り立ちや役割からそうなっているのかもしれないとのことだった。ちなみに、その成り立ちや役割は誰からも教えられていない。  結界が張られているかどうかは魔法使いにしか分からない。実は、ユキちゃんが魔法を使えるが、そのことは村でも一部の人しか知らないとのことだ。  結界内にいた人間が外に出ても、結界の効果でモンスターに三日間襲われることはない。全てのモンスターは結界内にどのような手段を用いても入ることはできず、攻撃も通らない。穴を掘ってもそれは変わらない。  ただし、結界内にモンスターを召喚した例があり、その時は、弱いモンスターは召喚できず、一定レベル以上のモンスターは召喚できて、その強いモンスターを結界外に召喚しても結界内には入ってこなかったという検証が行われたらしい。  そのことを知っていたので、初回のイリスちゃんは結界内の強いモンスターに抵抗しても無駄、どころか家や村が滅茶苦茶になると思って、動けなかったとのことだ。  森も結界に含まれているらしく、転生後の俺達はレベル一で明らかに弱かったはずだから、そのことから考えても、この世界が俺達をモンスターと認識していないことが分かった。  もしかすると、召喚と転生あるいは生命体創造の違いはあるかもしれないが、いずれにしても、それは一本の触手を使えば、あとで実際に確かめられる。  ああ、それと大事なことを話した。俺達は蛇ではなく触手だということを分かってもらった。 「触手さん、あの……おしっこしたくなってきちゃった……いい?」  大分時間が経ったこともあり、イリスちゃんがモジモジとし始めた。俺達はイリスちゃんの体に巻き付き、例のごとく聖水を飲み干した。  もらえる経験値が減ると味が落ちるのかと思っていたら、そうではなかった。相変わらず脳を駆け巡る爽快感と満足感。これまでと味が異なっているのに、何度味わっても美味い。  俺達はイリスちゃんに感謝の言葉を書いた。 「ありがとうって……何だか恥ずかしいなぁ。私の方こそ、ありがとう。触手さん、大好きだよ」  彼女は、恥ずかしがるもかわいらしい笑顔で答えた。 「あっ……あっ……あたしも……しゅきぃぃぃ!」  ゆうは、イリスちゃんのかわいさに頭がおかしくなっているようだった。 「ちゃんと周りを警戒してくれよ……。ミス・イリコン、略してミスコンさん」 「うざ! 死ね!」  結局、村人が俺達を狩りに来る様子はなかった。  イリスちゃんとは夕方早くに別れて、俺達はアースリーちゃんの様子を伺うべく、村長宅近くにいた。  ユキちゃんの方は、イリスちゃんがタイミングを計りたいとのことで、まだ待機だ。アースリーちゃんには、できれば今夜、接触したい。あまり時間を置くと、村長宅のセキュリティがさらに強化される恐れがある。護衛なんか付いた日には、監視する時間だけ過ぎていくのが目に見えているからだ。  ところで、『イリス』と『アースリー』ってなんか発音が似てるよね、と別れる前にイリスちゃんに聞いたら、字も意味も由来も実の親も名付け親も全く関係ないらしい。そもそも両者ともに実の親が名付け親だ。  こういうのはアナグラムで何かありそうだと思っても、天才の本人に冷静に完全否定されたら、流石に自信を失う。俺もまだまだだな。 「お兄ちゃん、あそこ! 村長じゃない?」  イリスちゃんに聞いた通りの風貌の村長を見かけた。  彼は家からおよそ百メートルの地点にいた。小太りで頭は禿げ上がっていて、口髭がある。見た目は典型的なおっさんスタイルだ。  今日は会合があって、家の外に出てるから、夕飯前に必ず戻ってくるだろうというイリスちゃんの読み通りだった。俺達二人とキャラが被ってもいいから、参謀役として彼女を連れ回したいところだ。 「よし。急いで裏手から屋根に登ろう」  俺達は、村長宅の屋根で最小まで縮小化して、タイミングを見計らった。 「ただいまー」  村長がドアを開けた瞬間、そのドアの内側に飛び移り、すぐに地面に向かって急いで駆け下りた。村長からは、俺達は死角に入っていて見えないはずだ。  家の中からも、誰もドア方向を見ていなかった。彼がドアを閉めると、俺達は床の隅に沿って、見つからないようにすぐ近くにあった壺の裏に素早く身を隠し、そこから顔を出して、辺りを見回した。  村長宅は、少なくとも男爵位であるにもかかわらず、屋敷ほどの大きさではなかった。ただ、それでも他の家よりはかなり広く、リビングを含めて六部屋あり、その内の一つがアースリーちゃんの個室だ。場所はイリスちゃんに教えてもらっているので、そこを目指す。  できるだけ身を隠しながら、目的の部屋に近づいた。トイレで待つのは確実でないし、広い村長宅で外から状況を把握するのは困難と考えた故の作戦だ。 「おかえりなさい」  村長の妻が遅れて出迎えた。年齢は三十代後半だろうが、スタイルが良く、ずっと若く見える。大人しめの美人といった感じだ。 「アースリーは部屋か?」 「ええ、今日はずっと」 「そうか、逆に都合が良い。噂の大蛇に襲われでもしたら大変だ。辺境伯の折角の居住可能域拡大パーティーに水を指すことにもなりかねん。  念のため、冒険者ギルドに大蛇退治を依頼したところだが、もしかしたら、さっき会った女冒険者が何とかしてくれるかもしれん。人探しに来たと言っていたが、森の大蛇を退治してくれたら教えると返した。何しろギルドに頼むと、連絡して来てもらうだけでも時間がかかるからな。こういう時は、田舎村の悲しいところだ。  発明アイデアの応募の時なんて酷かった。返信猶予が一日しかなかったからな。あんなの誰も出せなかっただろう。ともかく、彼女が退治してくれたら、それに越したことはない」 「あら、珍しい。行商人の護衛でもないのに、この村に冒険者が来るなんて。誰を探してるの?」 「それはまだ聞いてない。聞いてしまったら交渉にならんからな。退治後も、確認のために何日か滞在してもらった方が良いから、私が村の人達にも聞いてみると言って引き止めるつもりだ」  この村長は中々やり手らしい。やっぱり早めに来て正解だったな。冒険者ギルドは、別の町にあるのか。多分、各村にはないんだろうな。 「アースリー、ご飯よ! 村であった危ない話もあるから、出てきなさーい!」  村長の妻がアースリーちゃんを呼んだ。危ない話というのは俺達のことだろう。アースリーちゃんは閉じ籠もっていたせいか、まだ知らなかったようだ。 「はい……」  キィと部屋のドアが開き、暗い顔のアースリーちゃんが出てきた。  彼女の髪は、イリスちゃんと同じく赤みがかっていて、三つ編みで胸ぐらいまでの二つお下げにしていた。その胸はというと、イリスちゃんに聞いた通り、とんでもなく巨乳だ。トップ差は、巨体の奥様方を含めても、村で一二を争うらしい。真下からだと顔も全く見えないだろう。  しかし、腰は細く、尻も安産型で、決して太ってはいない。脚は膝下まであるスカートで見えないが、どの部位もムチムチしてそうだ。まさに、豊満と呼ぶに相応しい。  顔はとてもかわいく、純朴さがあり、優しそう。北欧の伝統的な民族衣装らしい服装も含めて、田舎の山に住んでいそうな子だ。辺境伯が思わず誘いたくなる気持ちも分かる。料理も上手で、自分用のナイフや包丁を持っているらしい。とても魅力的な子だ。  それにしても、ずっと部屋にいたのに、わざわざ外用の服を着ているのか。どういうことだ?  念のため、チートスキルの確認もしたが何もなし。  とりあえず、アースリーちゃんに見惚れるのはそれぐらいにして、俺達はドアが閉まる前に部屋の中に入り込んだ。電気は当然なく、足元がそれほど明るくないので、隅を通っていれば簡単には見つからない。俺達の体は後一分ぐらいで元の大きさに戻っていただろうが、その時のために、リビングで隠れられそうな所の目星はつけておいた。幸い、一発で部屋に入れて良かった。  俺達は部屋の壁を蔦って、ドアのすぐ上の天井に吸着した。また、村を監視していた一本の触手を回収し、再度増やして、ベッドの下に配置した。  これで、村長達の会話をできるだけ近くで聞きながら、アースリーちゃんが入ってきたら、それを回収して、ベッド下で接触のタイミングを計ればいい。 「アースリー、まだ不安なのか?」 「だって……田舎娘の私が一人でパーティーに参加するなんて……どうしたらいいか全く分からないのに……お父さんだって、伯爵のパーティーに参加したことなんてないでしょ?」 「子爵のパーティーも伯爵のパーティーも変わらんさ。それに、屋敷までは俺が一緒だと言っているだろう。ドレスだって、辺境伯ならきっと良い物を用意してくれる。そうでないと、直接誘った手前、沽券に関わるからだ。  だからこそ、昨日届いた正式な招待状に、パーティー三日前に到着するように書いてあったんだ。ドレスの調整、おめかしの検討、もしかしたら、マナー講習やダンスの合わせ方の練習もするかもしれない。全部、昨日話した通りだ。少しは落ち着きなさい」 「辺境伯の目的だって……」 「本人とその家族とお近づきになれるんだから、良いことじゃないか。ご子息は優秀らしいし、結婚までこぎつけられれば万々歳だ。むしろ、辺境伯がそれを望んでいるかもしれないんだぞ」 「そんなこと、私は望んでない! 私はずっとこの村にいたいのに……」 「いや、そうは言っても、かっこいい王子様に憧れる年でもあるまいし、別に好きな男がいるわけでもないだろ? それに、この村に良い男がいるかと言うと……少なくとも辺境伯のご子息には敵わんだろ?」 「そんなの……分からない」 「分からないなら、直接行って確かめてみるしかないな」 「…………でも……」  アースリーちゃんは、村長に論破されていた。事情は大体分かった。 「はぁ……あたしなら、論破し返すのに。こんな穴だらけの論理」  ゆうは、アースリーちゃん側に付いて、ツッコミどころのある村長の語りに文句を言った。 「いいか、ゆう。これが女の子の『かわいげ』ってやつだ。男はこういう女の子を無条件で守ってあげたくなるものだ」 「いや、お兄ちゃんが味方するのは、かわいくて巨乳だからでしょ」  まあ、否定はしない。アースリーちゃんには是非幸せになってもらいたいものだ。 「さて、アースリーちゃんの悩みと状況を整理してみるか。辺境伯に誘われた時点で、すでに不安だったことから、パーティーでどうしたらいいか分からないこと、あるいはその時に結婚まで想像して、大好きな村から出ていく可能性が出てきたこと、が大きな悩みかな。  次いで、田舎娘だと周りにバカにされそう、そもそもバカにするために呼ばれた可能性もあって、その場合は、ドレス等が貧相になること。  両親がいくら言っても聞き耳持たずで、村人と会うと、自身の被害妄想からその全ての悩みが増幅してしまうので、引きこもりがちに。  そして、招待状ではなぜか一人で参加することになっていて、辺境伯への不信感は増大し、大きな悩みがさらに増幅、その他の悩みも、より信憑性を増した。ついには、生きるための最低限の行動以外、部屋から出なくなった、といったところか」  どれもそうと決まっているわけではないのに、かなり悲観的だ。  イリスちゃんに聞いた話では、それまでのアースリーちゃんは明るく朗らか、周りを包み込むような優しさと包容力が溢れていたらしいので、まるで正反対だ。  パーティー参加のプレッシャーがそこまで人を変えるのだろうか。それとも、家ではこういうキャラなのか。だとしたら、外に出なくなる理由にはならないから、キャラの可能性は低いか。  俺達は、パーティーに参加したこともないし、貴族社会でもなかったから、そこには計り知れない感情が生まれるのだろう。辺境伯の目的がハッキリすれば全て解決する道はあるが、今は知る術がない。 「うーん。結局、あたし達がやることは変わらないか。とりあえず、イリスちゃんに事情を伝えて会わせれば、何とかしてくれそう」  ゆうが言った通り、イリスちゃんを万能な神のように扱って丸投げしたくはないんだが、ここはタッグを組んだということにしておこう。  そもそも、万能なら俺達が動く必要はなかったんだから、その神も許してくれるはずだ。 「それにしても、両親はこの状況をあまり深刻だと思っていない様子だな。年頃の女の子は精神的に不安定なことが多いのに、この悩みの進行度も考えると、追い詰められて自傷行為に走ってもおかしくないんじゃないか? しかも、それがたとえ軽傷でもパーティー不参加の理由になる」 「うん。父親に論破されて、母親もかばってくれない。もう周りに味方がいないって思い込んじゃうかも。本当は両親からも村人からも大切にされてるのに……。相談相手が他にいれば良かったけど、アースリーちゃんはイリスちゃんのことをただの子どもだと思ってるから、選択肢にも挙がらないのは、ある意味で不幸だね……」  精神的に一度でも塞ぎ込んでしまうと、自力で抜け出すのは難しい。元の世界では、娯楽や趣味で気を紛らわせたり、カウンセラーがいたり、抗うつ剤があるので比較的マシではあるものの、それでも救えない人の方が多かった。ましてや、この世界はその選択肢がない、概念さえ存在しない可能性が高い。 「よし。部屋では彼女が寝るまで注意深く観察しよう。ドア天井の触手は消すつもりだったが、上から状況を把握する必要がある。暗がりに紛れて、見つからないように祈るしかないな。リビングでも何かあればすぐに突入する。念には念をだ。  今、作戦を伝えておく。恐れた事態になった場合、彼女は刃物を持っているだろうから、まず俺が刃物を落としてその手に巻き付く。ゆうは首を軽く絞めつつ、口を塞いでくれ。俺が他の触手を使って、両手両足を拘束する。  部屋の場合はそのまま摂取を続けよう。リビングの場合は、その後、全員に『俺は味方だ』とメッセージを伝える。素早くコミュニケーションできる良い方法を思い付いたんだ。俺達から排出される砂に対して、伝えたい言葉通りに身体の吸着率を変えて、俺達に貼り付ければって。  イリスちゃんは、俺達が吸着率を意図的に細かく操作できることを知らなかったから、思い付きようがなかったし、森では吸着できる砂や土、それらを落とせる平らな地面が周りに少なかったからどうしようもなかったけど、ここなら床が使える。暗くて身体に張り付いた砂が見えないと困るから、状況によっては明るい場所へ引っ張る。全ての触手を回収すれば、これらを素早く行えるはずだ」 「砂か……なるほどね。作戦も分かった」  ゆうは静かに同意した。そうなる可能性が高いと見たのだろうか。  リビングでは俺達の話題になり、アースリーちゃんが外に出る際は気をつけるように、あるいは、しばらく外に出なくてもいいと言われていた。 「アースリー、出発までの時間はまだあるから、ゆっくり落ち着いて、心の準備をしておくといいわ」  村長の妻が優しい声でアースリーちゃんに声をかけたが、おそらく逆効果だろう。一人の時間が増えればどんどん深みにハマっていくパターンだ。 「はい……」  アースリーちゃんが下を向いたまま、部屋のドアを開けて入ってきた。とりあえず、リビングへの突入はなくなった。  彼女はドアに鍵をかけ、入って左端にある机の椅子に座った。リビングに来る時は鍵を開けていた様子がなかったな。一人になって落ち着きたいから鍵をかけたか。  天井の俺達は、彼女の左横顔が見えているが、すぐに飛びつけるように、音を立てずにもう少しだけ近寄った。  アースリーちゃんは、机をじっと見ながら震えていた。時折、鼻をすするような音も聞こえてきた。両手で顔を覆ったり、机に置いた手を強く握りしめたり、自分の両肩を抱きしめたり、スカートを掴んだり、首を何度も横に振ったり、頭を抱えて机に突っ伏したり……。その全てを何度も繰り返して……見ていてとても痛々しい。この姿を両親に見せたら、どんな反応をするんだろうな。他人の俺でも胸が張り裂けそうなのに。 「お兄ちゃん……」 「ああ、絶対助けるぞ」  二時間弱、経っただろうか。この時間は、彼女にとって永遠に苦しみが続く地獄だったに違いない。これが、今日の朝起きて、昼間もずっとこの状況だったならと考えるとゾッとする。そうではなかったと思いたい。  しかし、いずれにしても、完全に要治療の精神疾患だ。破壊衝動に駆られなかったのは、彼女の優しさ故だろうか。  本当なら、俺達だって早く彼女を何とかしてあげたかったのだが、できれば遅い時間、両親が寝静まってからにしたかった。失敗したら元も子もないからだ。だから、俺達も歯痒い思いで、見守るしかなかった。ごめん、アースリーちゃん……。  俺がそんなことを考えていると、頭を抱えて、しばらく机に突っ伏して震えていたアースリーちゃんがピタッと動きを止めた。彼女は椅子から徐ろに立ち上がると、窓の方へ歩き出した。その足取りはフラフラだ。  彼女は窓に手をかけ、少しだけ開けた。両開きの窓の隙間から涼しい風が入ってきて、部屋に溜まったわだかまりを消してくれるようだ。  彼女は机に戻り、また椅子に座った。少し見上げれば、ほとんど正面に見えるはずの俺達だが、暗闇に紛れて天井の隅にいた上に、顔を一切上げないアースリーちゃんには気付かれていないようだ。  震えが止まっていた彼女は、次に机の引き出しに手をかけ、ある物を手にして、机の上に置いた。それは、刃渡り十五センチほどの料理用ナイフだった。再度、彼女は震えだし、両手は膝を掴んでいた。 「ゆう、俺が合図したら飛びつくぞ。タイミングはナイフを手に取る直前。触手を一本さらに回収して、二本で彼女の体を支えつつ、机に脚をぶつけないように巻き付いて、椅子は倒さないように引く。できれば体を浮かせて地団駄を踏ませないようにしたい。後は作戦通りだ」 「分かった」  三分後、再度震えが止まったアースリーちゃんが右手をナイフに伸ばした。 「いま!」  俺は自身の合図と共に、彼女の右手に体を伸ばした。ゆうもすぐに首に巻き付き、彼女の口を塞いだ。 「……⁉」  アースリーちゃんが外用の服を着ていたのは、やっぱりこのためだったか。  自分の体のどこに刺そうとしたかは分からないが、仮に命を失わなかったとしても、体裁を悪くしないための村長の言い訳として、外で怪我したことにできて、村人に見せられる証拠も残る。  血痕が床に残った場合は、部屋に誰も入れなければいいだけだし、急な鼻血を理由にしてもいい。  それに、窓から入ってきた噂の大蛇に襲われてナイフで応戦したことにすれば、自分には何の落ち度もなくなる。俺達の話を聞いたことで当初の作戦を変更して、実行に移すのが早くなったか。ドアを施錠したのも、偽装工作前に部屋に入られては困るため。  俺達が思っていた以上に、アースリーちゃんは強かだった。 「…………」  アースリーちゃんは驚きのあまり、声を出せずにいた。俺達が彼女に完全に飛びつくと、その勢いで彼女は椅子ごと倒れてしまうので、身体の一部は天井に貼り付けたままだ。  俺はすぐに、ベッド近くにいた二本の触手を作戦通り同時に動かした。途中まで一緒の動作なので混乱することはなく、スムーズに彼女の体を机から引き剥がし、部屋の中央に持ってくることができた。  彼女の反応を見るに、大蛇のせいにしようとしていたのに、その大蛇がそんなタイミングで来るなんて夢にも思っていなかっただろう。  なぜ、ナイフを見た瞬間に飛びつかなかったか、それは彼女の思考停止時間をできるだけ伸ばすためだ。  人は時に思い掛けないことが起こると、思考停止に陥るが、その時間が最も長くなるのが、何かを決意してそれを行動に移す瞬間、というのが俺の持論だ。  行動するための決意には、ある事が起きた時はこうしようという事前の想定が必ず伴い、時間が経てば経つほど、それも増えていき、想定外のことが少なくなっていく。  想定外のことが起きる時の流れは、想定が『状況の想定』と『対処法の想定』に分離できて、それらがセットである前提で、まず脳内の状況の検索から始まり、それに当てはまらなかったら、想定外となって、その状況の対処法だけの検索に移り、それでもどうにもなかったら、思考停止となる。  つまり、想定外とは、『状況の想定外』だけを意味し、一方で『対処法の想定外』は思考停止を意味する。  俺達が引き出しのナイフを見た時、彼女の最初の決意は、窓を開けてナイフを出そうと椅子から立ち上がる前だった。それでは行動してからの時間が経ちすぎていて、何らかの邪魔が入ったと分かったら、その瞬間、俺達を認識する前に騒がれていたかもしれないし、暴れられていたかもしれない。それが『状況の想定外』の場合の対処法だからだ。  だから、次の決意まで待った。それが、再度右手をナイフに伸ばす時だった。そうなると、不思議なことに『騒ぐ』『暴れる』の対処法は実行されない。決意と行動の間にほとんど時間がなく、そんな瞬間に邪魔されるとも思っていないからだ。すなわち、対処法はあくまで状況とセットで、この場合は『状況の想定外』すら存在しない。  つまり、『対処法の想定外』と同義となり、思考停止に陥るということだ。状況や対処法を検索しても全て『対処法の想定外』なので、思考停止時間も長くなる。  最初にナイフを持った時に自傷行為に走っていたら、と思うかもしれないが、彼女の性格や精神状態から、その可能性は低かった。それに、二度目にナイフを手にしても、また震えて迷っていたはずだ。  この間、約三秒。何が起こったか理解し始めたアースリーちゃんは、手足を動かそうとしたが、すでに宙で拘束されているので、衣擦れの音しかしない。また、無意識に声が出そうになっても、ゆうが事前に察して、その度に首を絞める。 「…………」  状況を完全に理解したアースリーちゃんは大人しくなった。当然だ。お望みの『大蛇』が向こうからやってきたのだから。  しかし、彼女はもう俺達のことを大蛇ではなく、触手だと認識しているはずだ。これからどのような目に遭うかは想像できているのだろうか。 「まず服を全部脱がして、脱がした服は全部ベッドの上に置く。もう少し窓側に寄ろう。ベッドに近くなるし、声が届かないようにドアまでの距離を長くしたいし、風邪を引かないように窓も閉めたい。それからは、アースリーちゃんが元気になるまで続ける。たとえ夜が明けることになってもな」 「おっけー。」  リビングにはまだ両親がいる。この様子だと、彼らが寝る前にアースリーちゃんに声をかけることもないだろうと踏んでいる。  心配だったのは、今の俺達の力で彼女を宙に持ち上げられるかだったが、むしろ余力がかなりある。当然、イリスちゃんでも試させてもらったが、体重差は二倍以上ありそうだ。  俺達は窓を閉め、アースリーちゃんの服を脱がし始めた。ゆうは変わらず口を塞いでいるが、首はもう絞めていない。  二本の触手で、ゆうが率先して脱がす。ボタンも器用に外している。まずは、スカートを脱がし、下着を露わにした。上半身のシャツも脱がすが、首を通っているので、服を脱がす触手を一本、服の下から通し、口を塞いでいる触手とスイッチする。俺が両手を挙げさせたあと、二本の触手でゆうと協力して、胸、首、両手に引っかからないように服を脱がせた。  下に身に着けていたコルセットも外すと、最大級の半球が大きく揺れた。実際に目の前にすると圧倒され、こちらの体が固まってしまうほどだ。こうして見ると、やっぱり彼女はムチムチ体形で、そこに立っているだけでも男の劣情を煽りそうだ。下腹部や尻、太腿の肉付きは、各部位でさえ、抱き付いたら気持ち良さそうと思えるほどの魅力を放っていた。  靴と靴下も脱がし、最後に下着を脱がそうとすると、これまで全く抵抗しなかった彼女が、流石に恥ずかしいのか、最後の砦を守るべく、股を閉じて抵抗してきた。 「ぅ……」  彼女の微かな声が聞こえたが、ゆうは二本の触手で勢い良く下着を下ろし、それをベッドに放り投げた。  両手の触手は、彼女の力が抜けた時に両肩が外れないよう、腋と肩部分でも巻き直す。  足首に巻き付けていた触手は、再度別々に膝上に巻き付け、最終的に両手は万歳、脚は『M』字になるように、宙で仰向け状態になるように持ち上げた。 「……‼」  アースリーちゃんの顔がみるみる内に赤くなっていくのが分かった。  俺達のそれぞれの身体の中央付近で巻き付き、全体を『U』字にして、中央の丸い部分を床に付けて持ち上げているので、俺達の頭を動かす余裕は十分ある。両手に一本、両足に一本、口と下腹部で一本。もう一本あれば自由度が増すが、残りの一本はイリスちゃんの家の屋根に配置してある。  なぜ、アースリーちゃんをベッドに寝かせないか。ギシギシとベッドが軋む音がするかもしれないし、身体の汗も摂取したいからだ。ベッドに寝かせるとシーツに吸収されてしまう。 「ゆう、口はそのままにしておいてくれ」  俺はそう言うと、アースリーちゃんの両胸に『S』字型に二回巻き付き、軽く締め付けた。 「……ぅ……」  彼女の両胸がツンと上を向き、まるでこれから搾乳されるように細長く変形した。  俺はそのまま下半身へ向かい、彼女の股を通って一度背中側に出て、そして、右脇腹から正面に顔を出した。この移動で、俺は彼女の胸を締め付ける主導権をゆうに預けた。これで準備完了だ。 「んっ…………」  アースリーちゃんの股間に密着させた俺の身体をゆっくり前後に動かすと、彼女はピクッと反応した。吸着率を不規則に小さく変えることで、予想できない感覚が彼女を襲う。  それと同時に、俺とゆうが締め付けられた両胸にむしゃぶりつき、さらに、腋を俺達の体で責め立てる。首筋や耳もペロペロと舐めたり、吸い付いたりを繰り返す。  口は先程からゆうが舌を絡めて唾液を貪っている。両脚の触手は、内股や両脇腹、下腹部をバラバラに舐め上げている。  アースリーちゃんは、その全身の感覚に身悶えして、体を大きく揺らしていた。 「は……ぁ……ぁ……んっ……ん……ぅ……」  声も抑えられないようだが、この声量ならドアに届くまでにかき消される。  彼女の揺れる体に合わせて、例のごとく股の触手を逆に動かすと、その反応でまた大きく体が揺れ、そのまた逆に触手を動かすというのを繰り返すと、魚のごとくピチピチと跳ねるようにどんどん体が大きく揺れていく。  目の焦点が合わなくなりそうなタイミングを見計らって、俺達は少し強めに彼女の身体を締め付けて、猛スパートをかけた。 「んっ……ん……んっ……ん……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ」  リズミカルに、そして小刻みに動く彼女の体と、それに合わせた吐息が塞がれた口から漏れる。  俺達の体は、すでに彼女の汗を含めた体液でテカテカと輝いていた。俺は彼女の嬌声をよく聞き、ここぞというところで、吸着率を大きく変えた。 「んっ……んっ……んっ……んっ……んんっ‼️ …………は……あぁ……」  彼女の体は大きく海老反りになり、ビクビクと震えていた。  ゆうは彼女の口を解放し、涎や顔周りの汗を舐め取っていた。俺も自身の体に付いた体液を全て舐め取り、アースリーちゃんの様子を伺った。 「はぁ……はぁ……」  彼女は大きく息をし、頬を赤く染めながら、虚空を見つめていた。 「続けるか。ゆう、この状態から右回転で四つん這いにできるか? どうせなら体位を色々変えてやってみよう」 「おっけー。」  アースリーちゃんの右手側を軸として、左側の俺達が体を持ち上げるように右手側の奥に移動した。 「あ……」  彼女は少し驚いたような表情をしていた。まさか、触手が体位を変えるとは思ってもいなかっただろう。  四つん這いではあるが、頭を少し低めに、尻をその分だけ高く突き上げる格好にさせた。両腕については、曲げさせた肘と肩にそれぞれ巻き付いて固定。緩められた両胸は重力に引かれて、大きく垂れ下がり、完全に搾乳体制となった。  この状態の尻から股を覗き込む眺めが、薄い茂みの間から雄大な景色をみているようで、実に素晴らしい。恥ずかしい部分が全て露わになり、アースリーちゃんは耳まで赤くなっていた。  俺達に意思があることは気付いているはずなので、他人に全てを見せているような気持ちになったのだろう。 「床に零さないように気を付けよう」  ゆうにそう言って、俺はアースリーちゃんの局部に吸い付いた。 「んっ……!」  アースリーちゃんの体がビクッと震えた。体勢的にこちらの動きを把握できないので、不意の俺の行動に驚いたということもあるだろう。  俺が溢れる蜜を舐めるように舌をゆっくり這わせると、彼女の尻が少し上がり、また元の位置に戻る。大きく円を描くように舌を動かすと、それに合わせて尻も動く。舌には力を入れていないのに、まるで彼女を思い通りに操っているみたいだ。舐める場所によって、彼女の声の強弱も変わる。  ここなら……、 「ぁ…………」  ここなら……、 「あっ…………」  そして、ここは……、 「あんっ‼」  調子に乗って、思った以上に大きい声を出させてしまった。リビングに聞こえてはいけないので、自重しよう。  ゆうは、舌を絡めない軽いキス重視で、どちらかと言うと胸にターゲットを合わせているようだ。 「反則的なおっぱいしちゃって……このー!」  両胸に巻き付けている触手を、搾乳しているかのように、器用にも上から下に順に締め上げて、先端に吸い付いている口に、何かを流し込む動作を繰り返していた。もちろん、母乳は出ない。  肉体改造系サブタイプのスキル『強制搾乳』があれば可能だが、フリだけで辱め……もとい、気分を高揚させようとしているのだろう。しかし、二本の触手で搾乳動作をやるならまだしも、両胸に巻き付いているのは一本なので、相当難しい体捌きを求められるはずだ。すでにゆうの体術は極まっていると言っても過言ではないだろう。  アースリーちゃんの口から時折垂れる唾液も、ゆうは見逃さずに受け止めている。恐れ入るよ。 「は……あぁ……」  アースリーちゃんの吐息が漏れる。俺は、ゆっくり舐めて、止めたり、またゆっくり舐めたりを繰り返す。  そして、しばらく焦らしていると、アースリーちゃんから、おねだりするように尻を動かしてきた。よしよし、元気になってきたな。  俺は、その要求に答えるように、それまでよりも強めに、素早く舐めることにした。 「あっ……あっ……あっ……あっ……!」  彼女の声がテンポ良く、俺に聞こえてくる。このままだとリビングにバレるかもしれない。 「ゆう、口を塞いでくれるか? その状態でラストスパートをかける」 「おっけー。……はーい。良い子にしててねー」  ゆうは彼女にキスをしてから、ゆっくりと口に潜り込んだ。俺は徐々に舌のスピードを上げていった。  それだけでなく、最初にやったように全ての触手を使って、アースリーちゃんの全身に体と舌を這わせ、時に規則的に、時に不規則に、そしてラストに向かって、彼女の全身の感覚が脳を駆け巡り、抜けていくように、不規則から規則への変化を演出した。 「んっ! んっ……! んっ……! んっ……!」  それに合わせて、声が大きく上擦り、体を激しく動かすアースリーちゃん。特に、腰と尻は俺に押し付けるかのように上下前後に勢い良く動かしていた。  今の彼女に、羞恥心は微塵も残っていなかった。本能のままに腰を動かし、牛のような巨乳を大きく揺らし、ほとんど抑える気のない嬌声を上げる。  さっきまで、地獄に落とされたかのような顔で、自分を傷付けようとしていたとは到底思えないほど、彼女の顔も身体も、悦びを目一杯に表現していた。  そのことに俺も嬉しくなり、お祝いの気持ちも込めて、ギアを最高速まで上げた。  そして、巻き付いていた触手で彼女の首以外の部位を一斉にギュッと締め上げ、各所の吸い付きを最大に強めた。 「んっ! んっ……! んっ……! んっ……! ……んーーー‼」  アースリーちゃんの全身が、ビクッ、ビクッ、ビクッと三回ほど大きく震えた後、全ての力が抜け、その体重が俺達にのしかかってきた。それでも彼女は、まだピクピクと震えていた。  俺は口から溢れないように全ての体液を飲み干した。今更だが、とんでもなく美味い。ペロペロと舐める時の味と、そのまま飲む時の味、口に溜めてから飲む時の味が、全て違って全て美味い。空気に触れた時間によっても味が異なるのだ。延々と、いや、文字通り永遠に楽しめるんじゃないかと思う味の変化だ。  これだけで非常に興味深い研究のテーマとなり、論文を書き上げたい気持ちにさせられる。しかし、その論文は誰にも査読できず、却下される。俺達にしか味わえないのだから……。 「アースリーちゃん、めっちゃ涎垂らしてたよ。最高に美味しかったー」 「ゆうもこの際、下半身を味わってみたらどうだ? ダメ押しでもう一、二回は続けたいし」 「そうだね。実は興味あったんだー。お兄ちゃんがいつも放心状態になるから、どんだけーって」 「まあ、俺は状況も込みで味わってるから、より美味さを感じられるっていうのはあるかもしれない。いずれにしても、美味いことに変わりはないさ。それじゃあ次は……」  俺達は、体位を変え、ゆうと役割を交代して、アースリーちゃんを悦ばせ続けた。  ゆうの『おっほー!』というマヌケな声から、これまでにない味を楽しんでいるようで何よりだ。  アースリーちゃんは、それから再度体位を変えて、クライマックスまで行ったところで、失禁して気絶した。精神的疲労と睡眠不足もあったのだろう。ベッドに放ってあった服をどかせて、横に寝かせると、安心したようなかわいい寝顔で、スヤスヤとそのまま眠りについていた。きっと、朝まで眠れるだろう。  アースリーちゃんの不安の種は全く消えていないのだが、まずは前向きになることが重要だ。俺達にまた会いたいという、ちょっとした希望を思ってくれれば、なお良い。肉体的な疲労は精神も疲労させるから、精神的にスッキリした上で、休息をとるのが一番だ。  いつの間にか、リビングの明かりは消えていて、両親も寝床に就いていたようだった。  俺達は、アースリーちゃんに毛布をかけて、机の上のナイフを引き出しにしまい、同じく机の上にあった黒板にチョークで書き置きを残した。と言っても、万が一のために、またここに戻ってくる予定だが。 『イリスちゃんに全てを話してみて。彼女は天才だから』  その後、俺達は両開きの窓から外に出て、吸着を利用して窓を外からゆっくり閉め直した上で、村長宅を後にし、レベルアップのために、他の女の子と接触を図った。  いつもより時間が遅く、大蛇出現で警戒されているはずだったが、運良く別の家々の女の子達と複数回接触でき、二回レベルアップできた。彼女達の様子から、本当に運が良かったのかはイリスちゃんに聞いてみれば分かりそうだ。



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