俺達と女の子達がロケハンして茶番の準備をする話

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 二十七日目。  朝九時にコリンゼが選抜試験の報告書をシンシアに提出しに来た。見事なまでの迅速な仕事だ。試験前にほとんど書いておいて、あとは穴埋めをするだけにしたのだろう。 「確認する。その場で待て。…………。よし、ご苦労だった。報告係兼臨時騎士選抜試験総責任者の仕事はこれにて終了だ。  コリンゼ、今回の君の活躍は、団員達にも十分広まっただろう。何より、君の現在の実力を確認できたことが大きい。事前に団員達には伝えていただろうが、それでも、実技試験の場では皆、息を呑んでいた。  君には黙っていたが、明後日、私は騎士団長を辞め、新役職『最高戦略騎士』に任命される。よって、ここで告げる。  私の後任はコリンゼ、君だ。副長と報告係を指名した上で、同日の騎士団長任命式に出席せよ!」 「っ……! は……はっ!」  コリンゼは突然の指名に戸惑いながらも何とか返事をした。以前、総責任者に任命された時とは反応が異なる。その時のままなら、『なぜ自分が?』と質問をしていただろう。 「引き継ぎ内容はこれにまとめた。読んでおけ。この部屋は、悪いが任命式の日まで使わせてもらう。一人の時間が必要であれば、副長室を使うといい」  シンシアは、机の引き出しから副長室の鍵を取り出し、コリンゼに渡した。  さらに、シンシアは続ける。 「それと、今夜から姫のお部屋に一緒に伺う。午後八時に、ここに来い。その前に、約束通り、シュウ様について話そう」  シンシアは、コリンゼが選抜試験を成功させ、騎士団長の後任を引き受けるのを待ってから、俺達のことや、今後のコリンゼとの関係をどうしていくかを話すつもりだったわけだ。  早速、シンシアはコリンゼにそれらを伝えた。 「そのような構想があったとは……。しかし、シュウ様の一部が城に残るかもしれないとは言え、団長とは離れ離れになってしまいますね……」 「ユキの村が我が国にとって重要な存在となれば、騎士団長のコリンゼと私が交流することも多々あるだろう。だが、それはまだ先のことだ。  まずは、シキを探し、それから城に戻り、必要な情報を整理してから、姫やリオと出発することになるだろう。私達の愛を確かめ合う時間はまだまだあるさ」 「はい!」  コリンゼは、嬉しそうな顔のまま退室していった。  しばらくして、イリスちゃんがアースリーちゃんの部屋に来たので、ユキちゃんの研究の方向性が正しいかを確認するべく、イリスちゃんがどう考えたのかを質問した。  すると、イリスちゃんは、ユキちゃんと同じ考えで、魔法粒子への複数命令の創造に時間がかかるなら、三人で行えばいいという回答までしてくれた。これは、ユキちゃんも自信になるだろう。  俺はユキちゃんも同じ考えだとイリスちゃんに伝えた。 「そっかー。何て言うか、チーム一丸で一つのことに取り組んでるみたいで面白いね。経験値牧場の方は、まだ少しずつって感じだけど」 「あ、そのことなんだけど、昨日、イリスちゃんが帰ったあとに、ユキちゃんのお父さんがウチに来て、例の同僚の人がセフ村に来る日が決まったって伝えてくれたよ。三日後の午前には着くって」  アースリーちゃんがイリスちゃんに昨夕のことを報告した。もちろん、俺達も知っている。三日後は、茶番の日で午前は空いているので、あとはイリスちゃんの都合を確認するだけだ。 「じゃあ、その時は、ユキお姉ちゃんの家で話そうか。全員揃ってた方が良いだろうし」 「分かった。そう伝えておくね。でも、結局、何の仕事で来るのかは分からなかったなぁ。新しく建てるとか立て直すとか、そういう家もないし」 「私達みたいに、当分先の打ち合わせだけかもしれないからね。そういう意味では、来た当日すぐに会えるのはラッキーだよ。順番が先になるから。これも『勇運』のおかげかもね」  それから昼まで、イリスちゃんには経験値牧場を運用していくに当たって、必要な現代知識を教えた。まあ、これまでも教えていたのだが、城の方が忙しかったこともあり、中々集中できなかったのだ。  とりあえず、完全に現代とまでは行かなくとも、水道設備は整えたいし、屋敷は耐震構造にしたい。村全体で防災にも力を入れたい。大切な人達に不便な思いをさせたくないし、病気で苦しんだり、傷付いたりしてほしくないからだ。そして、どこかと争いになった時のために、軍事防衛も考える。  いっそのこと、『万象事典』をイリスちゃんに渡せたらなぁ。読み聞かせだけでも、時間が短縮できるのだが。そう言えば、『単純命令』で自動書記ができないだろうか。『弱魔法反射』の次に取得してみるか。それとも……。  色々考えていると昼食の時間になり、シンシア達四人は、リオちゃんに予約してもらっていた店『ラ・ブフロ』に向かった。  フランス語で牛肉が『ブフ』、チーズは『フロマージュ』なので、それを合体させた店名だろう。どちらも男性名詞なのに『ラ』が付くのは、英語の『ラブ』とかけたかったからだ。そのままだと『ラブ風呂』になるので、店長は風呂好きなのかもしれない。いや、日本語を知らないからそれはないか。  店に着くと、店長が出迎えてくれて、名前を言わずとも、シンシア達がリオちゃんの紹介の人達だと察していた。店内は落ち着いた雰囲気で、数名の客しかいないようだ。昼時でこれなら、確かにいつでも入れそうだ。  店の奥に通され、席に座ると、早速『隠しコース』が順に出てきた。コース名は特にないらしい。ただ、流れは『エビ亭』に似ていた。  牛ひき肉とチーズは重めの料理なので、合間にサラダやあっさりスープ、口直しの一口デザートを挟んだコースだった。チーズは特に飽きやすいので、そういった気遣いが重要だ。と思ったが、チーズはそれぞれ味が異なっており、牛肉だけでなく、色々な肉と合わせて出てきて、たとえ口直しがなくても全く飽きない料理に仕上がっていたそうだ。  料理は、いずれも大胆にして上品な味で、カロリーを気にせずどんどん食べてしまうとのことだった。もちろん、全員満足して完食した。  素晴らしい料理の余韻に浸り終わったあと、シンシアが店長を呼んだ。 「店長、最高に美味しい料理だった。ありがとう。ちょっといいだろうか。三日後月曜日の午後七時に七名で予約したいのだが、もし空いてたら、その人数で楽しめる料理を出してほしい」 「三日後ですと、一般席は空いておりませんが、現在お座りいただいている特別席が空いております。料理と合わせると、お値段が高くなってしまいますが、よろしいでしょうか。もちろん、本日は一般席扱いのお値段据え置きでございます」 「金に糸目はつけない。全て任せよう。国賓レベルの人物が来ると思って作ってほしいが、普段の味も楽しみたいので、種類を多めに出してほしいかな。ただし、その時の服装にはツッコまないでくれ。  来店時間は少し前後するかもしれないから、私達が到着してから前菜の仕上げをしてかまわない。注文が多くてすまない。不快であれば、今の言葉は取り下げよう」 「いえ、お客様のご注文を聞くことが私共の務めですから。ただ今のお話、全く問題ございません。三日後の六月十七日月曜日、十九時、シンシア様七名、特別席で国賓スペシャルコースをご用意いたします。それでは、当日のご来店をお待ちしております」  シンシア達は改めて料理の礼を言ったあと、会計を済ませて店を出た。  そして、茶番のため、ギルドまでのルートを下見しつつ、どこでアド達の前に現れるかを相談しながら、彼女達はメインストリートに出て、ついでに衣服を物色していた。丁度良さそうな品を見つけたので、その場で購入し、あとで取りに来るということにした。  すると、待ち合わせの時間が近づいてきたので、ギルドに向かい、受付まで進んだ。 「アドとの打ち合わせで来たのだが、会議室が予約されているはずだ」 「はい。奥の三番の会議室へお進みください」  三番、さんばん、さばん、茶ばん、茶番。まさかね。シンシア達が茶番の会議室に入ると、アドがすでに席に着いていた。早速、アドと当日の流れを確認し、姫が書いた台本もチェックした。  ちなみに、例の彼女の名前は『アンリ』と言うらしい。先程の受付の人ではなく、別の仕事をしていたそうだ。クリスは当然それを知っていた。何となくだが、『アンリ』と、アドがコリンゼを呼ぶ時の『コリン』の字面が似ている気がする。それで、親近感が湧いたのだろうか。 「これ書いたヤツ、面白いな。まさにタイトル通り。こんな茶番中の茶番は見たことねぇ。だが、茶番なのに面白い。変な笑いが出ちまう。店を予約した人数の七名ってのは、こいつも入ってんだろ? となると、コリンは留守番か。可哀想に」 「コリンゼは、気軽に城を離れられないんだ。その理由はすぐに分かる。  さて、当日の注意事項を念のために言っておく。私達五人は常に集団で動く。もし、アド達の前に私達以外の誰かが現れ、因縁を付けてきたら、それはイレギュラーな存在だ。容赦なく排除してかまわない。  『ラ・ブフロ』へのルートが変わってしまった場合や不測の事態が起きた時は、段取りを気にせず向かってくれ。もちろん、私達はそれを察知し、先回りするつもりだ。  だから、わざわざ私達が潜んでいる場所に戻るのは無しにしよう。彼女の不信感に繋がり、そのまま帰ってしまう恐れがある。  あとは……そうだな。彼女の苦手な食べ物を知っていたら教えてくれ。私から店長に伝えて、料理から外してもらう」 「苦手な食べ物はないって言ってたな。と言っても、ちゃんと味の違いが分かるヤツだぜ。あんたらがオススメの店なら満足するはずだ」 「それは良かった。それじゃあ、あっという間だったが、打ち合わせは終わりということで、帰るとしよう」  シンシア達が立ち上がると、アドも立ち上がり、ドアに向かった。そこで、何かを思い出したかのように、アドが止まった。 「そういや、『あの猫』を何とかする方法は思い付いたのか?」 「あ、はい。その思い付いた方法を無事に完了できるように実験と練習をしています」  アドの質問に、ユキちゃんが答えた。 「そうか。もし助けたら、俺の所に見せに来いよ。そのまま旅立つのは無しだぜ」 「はい! 必ず助けて、見せに行きます!」  アドの言葉にユキちゃんが返事をした。彼の何気ない言葉が応援のようで、みんなが元気付けられた気がした。  そして、アドがドアを開けて部屋を出ようとしたその時、またもアドが立ち止まった。 「あら、アド。もう打ち合わせ終わったの?」  開いたドアの先から女の声が聞こえた。この声は、クリスが証明書を届けた時の受付の人と同じだ。つまり、アンリさんだ。 「アンリ! 突然びっくりするじゃねぇか!」 「へー、珍しい。あなたがそんなに驚くなんて。よっぽど重要な内容を話してたんだ。あ、大丈夫。もちろん、何も聞こえてないから。たまたま通りかかっただけだから。ホントホント」  ホントに本当か?  「誰にも話せねぇ超極秘任務だから、もし聞いてたらヤバかったぜ。正直、俺も達成できるか分からねぇ仕事だ。少しでも隙を見せたら組織に消されちまう」 「そんな……ダメよ! そんな危険なこと! アドが死んじゃう! アドのお腹が破裂しちゃう!」 「ああ、大食い大会のエントリーが消されちまう……って、違うわ!」 「じゃあ、早食い?」 「いや、変わらねぇだろ! ……まあ、とにかく聞いてないならいい。これはマジだから」  アドとアンリさんの漫才が終わるのを見届けてから、シンシア達もドアから出ようとしたが、アドにはまだ手で止められている。 「ごめんなさい。調子に乗っちゃった。仕事に戻るね」 「謝る必要はねぇよ。むしろ、謝るのは俺の方だ。実は、大食い大会にエントリーしてる」 「いや、そこ⁉ もう怒った! アドが自分の鼻の穴に指を突っ込んで、舌を上唇に付けて、『すぃーましぇーん』って言うまで仕事に戻らないから!」 「いや、仕事しろよ」  微妙に続いていた二人の漫才だったが、ユキちゃんがドアからアンリさんを覗ける位置にいたので、俺達は透明化して彼女を見ることにした。 「うわ、めっちゃ美人。しかも、スタイル抜群。まさに、金髪セクシー美女って感じ。これで彼氏いないのおかしいでしょ。人懐っこそうだし。昔、遊びまくって、今は猫を被ってるって言われても全然不思議じゃない」  ゆうが直球の感想を述べた。 「こういう場合、性格や素行に難があるのがほとんどだと思うが、とてもそうは見えないな。想像してたよりも明るいし。面白い男がいないって言ってたから、例えば、その辺の男がバカに見えてたとかじゃないか?」 「それなら、茶番をやったらバカに見られるかもしれないってことじゃない?」 「いや、それなら、彼女の方から漫才を仕掛けたりしない。おそらく、これが彼女の『コミュニケーション』で、彼女にとってまさに『会話』なんだ。  例えば、ボケに対しての『ツッコミ』。彼女の言うことに対して、『面白い反応』ができなければ、『会話』ができない男という烙印を押される。しかし、それをアドに『お前がつまらないから』と言われた。  だったら、逆に相手から何かを言われたら、彼女もできるだけ『面白い反応』をしなければ、『会話』にならない。しかも、アドは普通に何か言ってくるのではなく、誕生日には茶番を仕掛ける。ある意味、そこはバカでもいいんだ。  この場合、試されるのはアンリさんの方だ。つまり、アドは彼女からすでに『面白い男』認定されていて、彼女はアドから『面白い女』と言われることを待っている。勝ち確だ」 「めんどくさ! でも、お兄ちゃんのそれ、フラグにしないでよ?」 「めんどくさって言うけど、俺は彼女に共感できるね。唯一、心配だったのは、彼女が自信をなくしてアドから身を退くことだが、それは姫の台本で阻止されている。先にアドがアンリさんを『面白い女』と言うからだ。まあ、お似合いのカップルだよ」  この二人を見ていると、アリサちゃんとサリサちゃんの時とは別の意味で、俺達に似ていると思った。二人の会話の最後を罵倒で締めくくれば、まるで俺とゆうの会話のようだからだ。だから、見ていて心地が良い。二人もきっとそう思っているはずだ。ますます二人の幸せを見届けたいと思った。  それから、アドとはギルドで別れ、シンシア達は衣服を購入した店に品物を取りに行き、城に戻った。  その夜、彼女達が姫と一緒に衣装合わせをして、変装魔法をかけた上で、茶番の練習を見ていたら、意外と様になっていたので感心した。今日からは、コリンゼも姫の部屋に来ていたが、自分も茶番に参加したかったと羨ましそうにしていた。  なので、当日参加できないコリンゼには、今の内にそれを堪能してもらおうと、『本日の主役』として、満足の行くまで慰めることになった。その名も『路地裏快楽堕ちごっこ』。  コリンゼが大好きな人と一緒に夜道を歩いていると、チンピラが進路を遮ってきて、騒げば命はないと言われ、両者は泣く泣く路地裏に引きずり込まれる。大好きな人の目の前で、コリンゼだけが集団で陵辱される。最初は嫌がっていたものの、徐々に快楽に堕ちていく。  何度かの絶頂後、解放されるものの、後日、快楽を求めて夜道を彷徨い、路地裏にも通うようになった女がそこにいた、というシナリオだ。  コリンゼはあまりの気持ち良さに、路地裏にいるとは思えないほどの大きな嬌声を上げていた。もちろん、防音魔法を使える魔法使いがいる設定なので問題はなかったが、アドはアンリさんがそうならないように気を付けないといけないぞ。  コリンゼをこんなふうにした俺達が言える立場ではないか……。



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前のエピソード 俺達と女の子達が改善支援して騎士選抜試験を見学する話(2/2)

俺達と女の子達がロケハンして茶番の準備をする話

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 二十七日目。  朝九時にコリンゼが選抜試験の報告書をシンシアに提出しに来た。見事なまでの迅速な仕事だ。試験前にほとんど書いておいて、あとは穴埋めをするだけにしたのだろう。 「確認する。その場で待て。…………。よし、ご苦労だった。報告係兼臨時騎士選抜試験総責任者の仕事はこれにて終了だ。  コリンゼ、今回の君の活躍は、団員達にも十分広まっただろう。何より、君の現在の実力を確認できたことが大きい。事前に団員達には伝えていただろうが、それでも、実技試験の場では皆、息を呑んでいた。  君には黙っていたが、明後日、私は騎士団長を辞め、新役職『最高戦略騎士』に任命される。よって、ここで告げる。  私の後任はコリンゼ、君だ。副長と報告係を指名した上で、同日の騎士団長任命式に出席せよ!」 「っ……! は……はっ!」  コリンゼは突然の指名に戸惑いながらも何とか返事をした。以前、総責任者に任命された時とは反応が異なる。その時のままなら、『なぜ自分が?』と質問をしていただろう。 「引き継ぎ内容はこれにまとめた。読んでおけ。この部屋は、悪いが任命式の日まで使わせてもらう。一人の時間が必要であれば、副長室を使うといい」  シンシアは、机の引き出しから副長室の鍵を取り出し、コリンゼに渡した。  さらに、シンシアは続ける。 「それと、今夜から姫のお部屋に一緒に伺う。午後八時に、ここに来い。その前に、約束通り、シュウ様について話そう」  シンシアは、コリンゼが選抜試験を成功させ、騎士団長の後任を引き受けるのを待ってから、俺達のことや、今後のコリンゼとの関係をどうしていくかを話すつもりだったわけだ。  早速、シンシアはコリンゼにそれらを伝えた。 「そのような構想があったとは……。しかし、シュウ様の一部が城に残るかもしれないとは言え、団長とは離れ離れになってしまいますね……」 「ユキの村が我が国にとって重要な存在となれば、騎士団長のコリンゼと私が交流することも多々あるだろう。だが、それはまだ先のことだ。  まずは、シキを探し、それから城に戻り、必要な情報を整理してから、姫やリオと出発することになるだろう。私達の愛を確かめ合う時間はまだまだあるさ」 「はい!」  コリンゼは、嬉しそうな顔のまま退室していった。  しばらくして、イリスちゃんがアースリーちゃんの部屋に来たので、ユキちゃんの研究の方向性が正しいかを確認するべく、イリスちゃんがどう考えたのかを質問した。  すると、イリスちゃんは、ユキちゃんと同じ考えで、魔法粒子への複数命令の創造に時間がかかるなら、三人で行えばいいという回答までしてくれた。これは、ユキちゃんも自信になるだろう。  俺はユキちゃんも同じ考えだとイリスちゃんに伝えた。 「そっかー。何て言うか、チーム一丸で一つのことに取り組んでるみたいで面白いね。経験値牧場の方は、まだ少しずつって感じだけど」 「あ、そのことなんだけど、昨日、イリスちゃんが帰ったあとに、ユキちゃんのお父さんがウチに来て、例の同僚の人がセフ村に来る日が決まったって伝えてくれたよ。三日後の午前には着くって」  アースリーちゃんがイリスちゃんに昨夕のことを報告した。もちろん、俺達も知っている。三日後は、茶番の日で午前は空いているので、あとはイリスちゃんの都合を確認するだけだ。 「じゃあ、その時は、ユキお姉ちゃんの家で話そうか。全員揃ってた方が良いだろうし」 「分かった。そう伝えておくね。でも、結局、何の仕事で来るのかは分からなかったなぁ。新しく建てるとか立て直すとか、そういう家もないし」 「私達みたいに、当分先の打ち合わせだけかもしれないからね。そういう意味では、来た当日すぐに会えるのはラッキーだよ。順番が先になるから。これも『勇運』のおかげかもね」  それから昼まで、イリスちゃんには経験値牧場を運用していくに当たって、必要な現代知識を教えた。まあ、これまでも教えていたのだが、城の方が忙しかったこともあり、中々集中できなかったのだ。  とりあえず、完全に現代とまでは行かなくとも、水道設備は整えたいし、屋敷は耐震構造にしたい。村全体で防災にも力を入れたい。大切な人達に不便な思いをさせたくないし、病気で苦しんだり、傷付いたりしてほしくないからだ。そして、どこかと争いになった時のために、軍事防衛も考える。  いっそのこと、『万象事典』をイリスちゃんに渡せたらなぁ。読み聞かせだけでも、時間が短縮できるのだが。そう言えば、『単純命令』で自動書記ができないだろうか。『弱魔法反射』の次に取得してみるか。それとも……。  色々考えていると昼食の時間になり、シンシア達四人は、リオちゃんに予約してもらっていた店『ラ・ブフロ』に向かった。  フランス語で牛肉が『ブフ』、チーズは『フロマージュ』なので、それを合体させた店名だろう。どちらも男性名詞なのに『ラ』が付くのは、英語の『ラブ』とかけたかったからだ。そのままだと『ラブ風呂』になるので、店長は風呂好きなのかもしれない。いや、日本語を知らないからそれはないか。  店に着くと、店長が出迎えてくれて、名前を言わずとも、シンシア達がリオちゃんの紹介の人達だと察していた。店内は落ち着いた雰囲気で、数名の客しかいないようだ。昼時でこれなら、確かにいつでも入れそうだ。  店の奥に通され、席に座ると、早速『隠しコース』が順に出てきた。コース名は特にないらしい。ただ、流れは『エビ亭』に似ていた。  牛ひき肉とチーズは重めの料理なので、合間にサラダやあっさりスープ、口直しの一口デザートを挟んだコースだった。チーズは特に飽きやすいので、そういった気遣いが重要だ。と思ったが、チーズはそれぞれ味が異なっており、牛肉だけでなく、色々な肉と合わせて出てきて、たとえ口直しがなくても全く飽きない料理に仕上がっていたそうだ。  料理は、いずれも大胆にして上品な味で、カロリーを気にせずどんどん食べてしまうとのことだった。もちろん、全員満足して完食した。  素晴らしい料理の余韻に浸り終わったあと、シンシアが店長を呼んだ。 「店長、最高に美味しい料理だった。ありがとう。ちょっといいだろうか。三日後月曜日の午後七時に七名で予約したいのだが、もし空いてたら、その人数で楽しめる料理を出してほしい」 「三日後ですと、一般席は空いておりませんが、現在お座りいただいている特別席が空いております。料理と合わせると、お値段が高くなってしまいますが、よろしいでしょうか。もちろん、本日は一般席扱いのお値段据え置きでございます」 「金に糸目はつけない。全て任せよう。国賓レベルの人物が来ると思って作ってほしいが、普段の味も楽しみたいので、種類を多めに出してほしいかな。ただし、その時の服装にはツッコまないでくれ。  来店時間は少し前後するかもしれないから、私達が到着してから前菜の仕上げをしてかまわない。注文が多くてすまない。不快であれば、今の言葉は取り下げよう」 「いえ、お客様のご注文を聞くことが私共の務めですから。ただ今のお話、全く問題ございません。三日後の六月十七日月曜日、十九時、シンシア様七名、特別席で国賓スペシャルコースをご用意いたします。それでは、当日のご来店をお待ちしております」  シンシア達は改めて料理の礼を言ったあと、会計を済ませて店を出た。  そして、茶番のため、ギルドまでのルートを下見しつつ、どこでアド達の前に現れるかを相談しながら、彼女達はメインストリートに出て、ついでに衣服を物色していた。丁度良さそうな品を見つけたので、その場で購入し、あとで取りに来るということにした。  すると、待ち合わせの時間が近づいてきたので、ギルドに向かい、受付まで進んだ。 「アドとの打ち合わせで来たのだが、会議室が予約されているはずだ」 「はい。奥の三番の会議室へお進みください」  三番、さんばん、さばん、茶ばん、茶番。まさかね。シンシア達が茶番の会議室に入ると、アドがすでに席に着いていた。早速、アドと当日の流れを確認し、姫が書いた台本もチェックした。  ちなみに、例の彼女の名前は『アンリ』と言うらしい。先程の受付の人ではなく、別の仕事をしていたそうだ。クリスは当然それを知っていた。何となくだが、『アンリ』と、アドがコリンゼを呼ぶ時の『コリン』の字面が似ている気がする。それで、親近感が湧いたのだろうか。 「これ書いたヤツ、面白いな。まさにタイトル通り。こんな茶番中の茶番は見たことねぇ。だが、茶番なのに面白い。変な笑いが出ちまう。店を予約した人数の七名ってのは、こいつも入ってんだろ? となると、コリンは留守番か。可哀想に」 「コリンゼは、気軽に城を離れられないんだ。その理由はすぐに分かる。  さて、当日の注意事項を念のために言っておく。私達五人は常に集団で動く。もし、アド達の前に私達以外の誰かが現れ、因縁を付けてきたら、それはイレギュラーな存在だ。容赦なく排除してかまわない。  『ラ・ブフロ』へのルートが変わってしまった場合や不測の事態が起きた時は、段取りを気にせず向かってくれ。もちろん、私達はそれを察知し、先回りするつもりだ。  だから、わざわざ私達が潜んでいる場所に戻るのは無しにしよう。彼女の不信感に繋がり、そのまま帰ってしまう恐れがある。  あとは……そうだな。彼女の苦手な食べ物を知っていたら教えてくれ。私から店長に伝えて、料理から外してもらう」 「苦手な食べ物はないって言ってたな。と言っても、ちゃんと味の違いが分かるヤツだぜ。あんたらがオススメの店なら満足するはずだ」 「それは良かった。それじゃあ、あっという間だったが、打ち合わせは終わりということで、帰るとしよう」  シンシア達が立ち上がると、アドも立ち上がり、ドアに向かった。そこで、何かを思い出したかのように、アドが止まった。 「そういや、『あの猫』を何とかする方法は思い付いたのか?」 「あ、はい。その思い付いた方法を無事に完了できるように実験と練習をしています」  アドの質問に、ユキちゃんが答えた。 「そうか。もし助けたら、俺の所に見せに来いよ。そのまま旅立つのは無しだぜ」 「はい! 必ず助けて、見せに行きます!」  アドの言葉にユキちゃんが返事をした。彼の何気ない言葉が応援のようで、みんなが元気付けられた気がした。  そして、アドがドアを開けて部屋を出ようとしたその時、またもアドが立ち止まった。 「あら、アド。もう打ち合わせ終わったの?」  開いたドアの先から女の声が聞こえた。この声は、クリスが証明書を届けた時の受付の人と同じだ。つまり、アンリさんだ。 「アンリ! 突然びっくりするじゃねぇか!」 「へー、珍しい。あなたがそんなに驚くなんて。よっぽど重要な内容を話してたんだ。あ、大丈夫。もちろん、何も聞こえてないから。たまたま通りかかっただけだから。ホントホント」  ホントに本当か?  「誰にも話せねぇ超極秘任務だから、もし聞いてたらヤバかったぜ。正直、俺も達成できるか分からねぇ仕事だ。少しでも隙を見せたら組織に消されちまう」 「そんな……ダメよ! そんな危険なこと! アドが死んじゃう! アドのお腹が破裂しちゃう!」 「ああ、大食い大会のエントリーが消されちまう……って、違うわ!」 「じゃあ、早食い?」 「いや、変わらねぇだろ! ……まあ、とにかく聞いてないならいい。これはマジだから」  アドとアンリさんの漫才が終わるのを見届けてから、シンシア達もドアから出ようとしたが、アドにはまだ手で止められている。 「ごめんなさい。調子に乗っちゃった。仕事に戻るね」 「謝る必要はねぇよ。むしろ、謝るのは俺の方だ。実は、大食い大会にエントリーしてる」 「いや、そこ⁉ もう怒った! アドが自分の鼻の穴に指を突っ込んで、舌を上唇に付けて、『すぃーましぇーん』って言うまで仕事に戻らないから!」 「いや、仕事しろよ」  微妙に続いていた二人の漫才だったが、ユキちゃんがドアからアンリさんを覗ける位置にいたので、俺達は透明化して彼女を見ることにした。 「うわ、めっちゃ美人。しかも、スタイル抜群。まさに、金髪セクシー美女って感じ。これで彼氏いないのおかしいでしょ。人懐っこそうだし。昔、遊びまくって、今は猫を被ってるって言われても全然不思議じゃない」  ゆうが直球の感想を述べた。 「こういう場合、性格や素行に難があるのがほとんどだと思うが、とてもそうは見えないな。想像してたよりも明るいし。面白い男がいないって言ってたから、例えば、その辺の男がバカに見えてたとかじゃないか?」 「それなら、茶番をやったらバカに見られるかもしれないってことじゃない?」 「いや、それなら、彼女の方から漫才を仕掛けたりしない。おそらく、これが彼女の『コミュニケーション』で、彼女にとってまさに『会話』なんだ。  例えば、ボケに対しての『ツッコミ』。彼女の言うことに対して、『面白い反応』ができなければ、『会話』ができない男という烙印を押される。しかし、それをアドに『お前がつまらないから』と言われた。  だったら、逆に相手から何かを言われたら、彼女もできるだけ『面白い反応』をしなければ、『会話』にならない。しかも、アドは普通に何か言ってくるのではなく、誕生日には茶番を仕掛ける。ある意味、そこはバカでもいいんだ。  この場合、試されるのはアンリさんの方だ。つまり、アドは彼女からすでに『面白い男』認定されていて、彼女はアドから『面白い女』と言われることを待っている。勝ち確だ」 「めんどくさ! でも、お兄ちゃんのそれ、フラグにしないでよ?」 「めんどくさって言うけど、俺は彼女に共感できるね。唯一、心配だったのは、彼女が自信をなくしてアドから身を退くことだが、それは姫の台本で阻止されている。先にアドがアンリさんを『面白い女』と言うからだ。まあ、お似合いのカップルだよ」  この二人を見ていると、アリサちゃんとサリサちゃんの時とは別の意味で、俺達に似ていると思った。二人の会話の最後を罵倒で締めくくれば、まるで俺とゆうの会話のようだからだ。だから、見ていて心地が良い。二人もきっとそう思っているはずだ。ますます二人の幸せを見届けたいと思った。  それから、アドとはギルドで別れ、シンシア達は衣服を購入した店に品物を取りに行き、城に戻った。  その夜、彼女達が姫と一緒に衣装合わせをして、変装魔法をかけた上で、茶番の練習を見ていたら、意外と様になっていたので感心した。今日からは、コリンゼも姫の部屋に来ていたが、自分も茶番に参加したかったと羨ましそうにしていた。  なので、当日参加できないコリンゼには、今の内にそれを堪能してもらおうと、『本日の主役』として、満足の行くまで慰めることになった。その名も『路地裏快楽堕ちごっこ』。  コリンゼが大好きな人と一緒に夜道を歩いていると、チンピラが進路を遮ってきて、騒げば命はないと言われ、両者は泣く泣く路地裏に引きずり込まれる。大好きな人の目の前で、コリンゼだけが集団で陵辱される。最初は嫌がっていたものの、徐々に快楽に堕ちていく。  何度かの絶頂後、解放されるものの、後日、快楽を求めて夜道を彷徨い、路地裏にも通うようになった女がそこにいた、というシナリオだ。  コリンゼはあまりの気持ち良さに、路地裏にいるとは思えないほどの大きな嬌声を上げていた。もちろん、防音魔法を使える魔法使いがいる設定なので問題はなかったが、アドはアンリさんがそうならないように気を付けないといけないぞ。  コリンゼをこんなふうにした俺達が言える立場ではないか……。



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