俺達と女の子達が勲章受章して魔法生物を救済する話(2/3)

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「それじゃあ、始めようか」  午後二時。ユキちゃん達は孤児院の旧開かずの間である倉庫にいた。院長には危険だからと言って鍵だけ預かり、院長室で待ってもらっている。  魔法生物『ウキ』がいる魔法陣に向かって中心にヨルン、その両脇左にユキちゃん、右にクリス、ヨルンの右斜め後ろにシンシアが位置取り、何かあった場合はヨルンの後ろに隠れ、『反攻』で守ってもらうことにした。  俺達は適度に縮小化した上で、シンシアの首にタオルをかけるかのようにぶら下がっている。また、いつでも俺から指示ができるように、壁際には鉛筆と紙を置いてもらった。  ユキちゃんの始まりの声のあと、三人が両膝をついて同時に詠唱を始めた。まずは、クリスがシキちゃんの魔力停止魔法を全て解除し、その直後、ヨルンが再び空間魔力停止魔法を発動した。そして、ユキちゃんがヨルンの魔力停止魔法が正常に動作しているかを確認した。 「おっけー。次、行こう」  ユキちゃんとクリスが同時に詠唱し、クリスがウキの左足のみ魔力停止魔法を部分解除したあとに、ユキちゃんが名付けた『他対象魔力結合魔法』を発動した。  すると、ウキの左足と胴体の間に数えきれないほどの線が現れ、両者を結んだ。そして、胴体側は魔力が停止しているので、左足だけが胴体に徐々に近づいていった。その間も、ユキちゃんは魔力を供給し続けている。したがって、大量に魔力を消費するが、この精密作業を行えるのは、今のところユキちゃんしかいない。  もし、魔力が足りなくなったら、クリスから貰えばいい。そのための魔法も『他対象魔力結合魔法』を応用して創造したのは流石だ。 「ふぅ……」  魔法発動から五分後、ウキの左足が結合されたことを確認すると、ユキちゃんが一息ついた。 「どうですか? 消費魔力量は」 「うん、大丈夫だと思う。想定よりも消費してない。その半分にちょっと満たないぐらいかな。どちらかと言うと精神力が必要な作業かもね」  クリスの質問にユキちゃんが答えた。ということは、辛いことを乗り越えてきたクリスもヨルンも、これからできるようになるということだ。  対象が魔法生物の場合は、かなりの魔力を消費するのではないかとユキちゃんとクリスは予想していたのだが、それが五割と言うと、それほどでもないのかと思うかもしれない。しかし、左足を結合するだけで、ユキちゃんの全魔力量の一割五分を消費したと言い換えると、相当な量と思える。  これは、セフ村の結界を瞬時に張り直せる消費量であり、城全体への空間催眠魔法を五回使用できる消費量でもあり、平均的な魔法使いの全魔力量以上に相当する。 「じゃあ、ヨルンくん、お願い」  三人がまた同時に詠唱を始めた。そして、ヨルンは左足を再び魔力停止させ、クリスとユキちゃんは右足の結合に入った。なぜ一度解いた左足をまた停止させるのかは、完治した際にウキが容易に暴れないようにするためだ。この手順を四肢全てに対して行う。四肢が終われば胴体だ。  表面上の傷は見当たらなかったが、内部が破壊されている恐れがあるので、念のため、下腹部から順に確認していった。ユキちゃんの魔法は結合させるだけでなく、魔法生物の体内に浸潤して、破壊組織を再構成することも可能だ。改めて、すごい応用力だ。 「うん、体内は傷付いてないかな。でも、驚いたのは、ちゃんと生物の内臓を持ってた。魔法生物って一体何だろうね」  確かに。内臓も魔力で作り出す必要があるのだろうか。そもそも、『万象事典』には魔法生物はそのようなことができるとは書いていなかった。だとしたら、世界のルールから逸脱している存在の可能性もあるか。  当然、チートスキルのことが俺の頭をよぎった。瀕死になった理由も関係しているかもしれない。 「それじゃあ、最後行くよ」  いよいよ頭部だ。胴体は魔力を停止させていない。これまで、みんな冷静に作業をこなせているから治療も順調だ。  ウキの内臓が無事で、目と口から血を流しているとなると、間違いなく頭部が傷付いている。脳も再現されているとなると、時間との勝負になるだろう。ユキちゃんには、脊椎動物の脳の構造と各部位の機能を予め教えている。猫と人間とで脳の形が異なるので、そのどちらも教え、治療する際の優先順位も決めた。  大脳は主に記憶や思考を司り、小脳は知覚と運動の統合、脳幹は感覚神経路や運動神経路の中枢であることから、大脳、小脳、脳幹、髄膜、頭蓋骨の順に治療し、クモ膜下出血をしているようなら、その血を体内に徐々に吸収させる。人間ではそう簡単に行かない治療だが、魔法生物であれば脳出血の体内吸収も可能だと見ている。  俺はユキちゃんの様子を伺うと、彼女が四肢や胴体の時よりも真剣な表情をして魔力を供給していることが分かった。多く供給すれば早く治療できるというわけでもないが、魔力粒子の運動や魔導効率の安定性は増すらしい。  ユキちゃんは、これで魔力を全て消費してもいいという気持ちで向かい合っていることだろう。俺達は心のなかで応援することしかできないのが歯痒い。頑張れ、ユキちゃん。 「頭部に入ってから十分ぐらい経ったね。順調だよね、きっと」  これまで黙って見ていたゆうが、沈黙を破って声を発した。 「ああ、きっとそうだ。ユキちゃんの表情を見ていれば分かる。上手く行ってなかったら、彼女は悲しい顔をしているだろうからな。そのままウキを見ていれば、目と口の血も消えていくだろう。それに、魔力が結合できていること自体が……っ⁉」  俺がまだゆうに説明している途中で、突然チートスキルの警告表示がウキの頭上に現れた。 「え、ここで⁉ ってことは治ったってことだよね⁉」  ゆうは、その内容よりもウキが一命を取り留めたことに嬉しさを隠しきれずにいた。俺もそうだ。とりあえずは良かった。 「『チートスキル:変化』か。『へんげ』と読むのか『へんか』と読むのかは分からないが、全魔力量の範囲内で、あらゆる存在に変身することができる、か。すると、元の姿から猫に変身して、瀕死の状態になったか、あるいは瀕死の状態から猫に変身したか。この二つの違いは、それを知ることで、チートスキルをどの時点で使えるようになったかが分かり、それが分かると、その条件も推察できるようになる。まあ、それは直接聞くことにするか。人間に変身してもらえば、会話できるし」 「ねぇ、クリスタルは? 持ってるようには見えないけど。首輪も付いてないし」 「おそらく俺達と同じだろう。存在自体がクリスタルの力を持っている。ただし、転生者でないことは触神様が証明してくれている。  そして、このことから驚くべきことも推察できる。俺達は例外として、クリスタルが魔法生物である、または、魔法生物であった可能性だ。それについてもウキから聞けるかもしれないな。シキちゃんがウキの存在を通じて伝えたかったことの一つは、間違いなくこれだ。とりあえず、チートスキルのことは、ユキちゃん達にも伝えておこう」  俺は触手を増やし、壁際の鉛筆と紙を使ってそのことを書いて、シンシアに渡した。シンシアが読み終わると、クリス、ヨルンの順に回してもらって、ヨルンからはユキちゃんの邪魔にならないように、彼女の床についた右膝近くに紙を置いてもらった。 『ウキは一命を取り留めた。その証拠に、全魔力量の範囲内で、あらゆる存在に変身できるというチートスキルを持っていることが、その瞬間に分かった。人間に変身してもらえば確実に会話できるはずだから、それを踏まえて進めてほしい』  ユキちゃんはそれを横目で見て頷いた。それは、少しホッとした表情のようにも見えた。  そこから三分後。ユキちゃんが魔力の供給を止めた直後に、ウキがピクリと動き、目を覚ました。それとほぼ同時に、ヨルンが空間魔力停止魔法の詠唱を始めた。 「私はあなたの敵じゃない。私の言ってること分かる? もし分かって、あなたにも敵意がないなら、瞬きを三回して。口は動かさないで。動かしたらあなたの時間をもう一度止める」  触神様に初期の頃に確認した通り、この世界には無詠唱魔法を使える存在がいる。それが魔法生物だ。口を動かさないように言っても、無詠唱魔法の発動は止められないが、形だけでも交渉するようにしなければ、安全に話を進められない。  そして、ウキは瞬きを三回した。  実は、ユキちゃんには頭部を治療する際、確認してもらったことがある。それは、脳の発達度だ。猫の脳は人間の脳に比べて容積が小さい。したがって、そのままでは会話が成り立つか不安だったのだが、魔法を使えるということはそれを記憶していなければならないし、本能だけで使えるとも思えない。  それなら、容積が小さくても脳細胞数がそれを補っているのではないかと考えた。もしそうでなかったら、会話はすぐに諦めてもらうようにユキちゃんには伝えていたが、どうやら大丈夫そうだ。 「私達があなたを治療したんだよ。あなたには死んでほしくなかったから。あの状態になった経緯とあなたのことを聞かせて。そのまま会話できないようなら、人間に変身して話してほしい。できるよね? 今、手足を動かせるようにするから」  クリスが手足の魔力停止魔法を解除すると、ウキはその両手足を少し動かして、ユキちゃんの方に横向きになった。次の瞬間、その存在が霧散するように消え、三秒ほど経ってから目の前に突然少女が現れた。  魔力粒子になると存在が見えなくなるから、一瞬で消えて、一瞬で現れたように見えるのか。見た目だけなら、十二、三歳ぐらいの年齢だろうか。ユキちゃんに似ているような気がするが、おそらくシキちゃんに似せたのだろう。猫の姿の時と同様に、黒髪の少女は裸で横向きになっていて、体を起こす気配はなかった。 「殺して……」  その少女は小さく呟いた。やはり死を願うのか。 「その言葉が出てくるってことは、あなたは今、世の中と自分に絶望している。良いこと教えてあげよっか。  この場にいる人、過去にみんなそう思ってたんだよ。死にたいって。でも、何とかなった。何とかしてくれた存在がいた。ほら、あれ見て、あの触手。シュウちゃんって言うんだけど、シュウちゃんがみんなを救ってくれたんだよ。もちろん、あなたを救うために知恵を出してくれた。  同じ所にいるシンシアさんは、あなたに巡り合わせてくれた。クリスさんとヨルンくんと私であなたを治療した。これがきっかけ。あなたを『本当に救う』ためのきっかけだよ。まさか、絶望したいなんて思ってるわけないよね? だったら生まれた瞬間に自殺してるよね。その力を持った存在なんだから。それに、私達との交渉にも応じなかったよね」  ユキちゃんは、いつもより早い口調でウキを説得した。 「…………。クリス……ヨルン……まさか……。ううん、私を助けて何の得があるの? あなた達なら、魔法生物の力なんて必要ないでしょ……」 「笑い合える、抱きしめ合える、家族になれる、そして、一緒に幸せになりたいから。あなたを助けたら、こんなに得があるんだよ! あなたはどうなの⁉ ウキちゃん‼」  ユキちゃんは両手を広げて、ウキの考えを問い質した。 「ウキ……ちゃん……。嘘……本当に……現れるなんて……」  ウキは上半身をついに起こして、ユキちゃんを見つめた。  シキちゃんが予言を伝えていたか。『ウキちゃん』と呼ぶ人が目の前に現れると伝えるだけでは、シキちゃんがその人と事前に会っていれば予言として成り立たないから、『あなたが望む名前を呼ぶ人が目の前に現れる』と伝えたのだろう。 『勇運』の効果は置いておくとして、『ウキ』を望んだのは、一瞬でも助けてくれたシキちゃんの名前から連想したか。  いや、待てよ。『運』の『ウ』から取って合わせた可能性もあるか。シキちゃんが『ラック』の意味でそういう異国語があると教えていれば、発想もできる。 「もしかして、お姉ちゃんから何か言われてた? 私はユキ。シキお姉ちゃんとは双子だよ」 「ユキ……ちゃん……。ユキちゃん……。ユキちゃん!」  ウキはユキちゃんに勢い良く抱き付いた。 「ユキちゃん、好き! 大好き! クリスさんもヨルンくんも大好き! ありがとう! シュウちゃんとシンシアさんもありがとう!」  ウキは泣きながら笑い、ユキちゃんと抱き締め合っていた。猫っぽい動きで頬擦りもしている。早速、両者に『得』があったようだ。  魔力停止魔法の発動を準備していたヨルンは、その様子を見て構えていた両手を下ろした。  ウキのそれぞれに対する名前の呼び方は、ユキちゃん準拠のようだ。それなら俺も『ウキちゃん』と呼ぶか。  それにしても、随分あっさりとみんなを好きになったな。ユキちゃんが動くと、こんなに早く解決するのか。正確には、俺達とシンシアに対しては好きとは言っていないが……。『まさか』と言っていたことから、これにも何か理由があるのか。シキちゃんから名前を聞いていただけではなさそうだ。  俺がそんなことを考えていると、シンシアが倉庫の出口に歩みを進め、四人に声をかけた。 「一先ず安心ということで、ここは座れる所もないし、特別教室の方でウキの話を聞こうか。ウキは衣服を含めて変身できるか?」 「うん、できるよ! …………。はい、できた!」  ウキちゃんは再度霧散し、再度現れた。ユキちゃんと同じ白い外套を羽織った格好にしたようだ。ウキちゃんの長い黒髪とのコントラストが、ユキちゃんの印象とは異なり、新鮮に感じる。  一同は特別教室に移動し、教室内の一番後ろの席にユキちゃん、その膝の上にウキちゃんを座らせ、残りはそこを囲むように席に座った。俺達はシンシアの首から下りて、机に鉛筆と紙を置いてもらった上で縮小化を解いた。 「うわ、シュウちゃんってそんなに長かったんだ。伸び縮みできるの? すごーい!」 「いや、正確には縮むことだけだ。他にも色々なことが可能だが、シュウ様のすごさはそれに留まらない。いずれ分かるだろう。  まずは、ウキの話を聞こうか。できれば、どのようにして生まれたのかから聞きたい。そのあとにシュウ様や私達のことも話す」  ウキちゃんに対して補足するシンシア。進行をしてくれるようだ。 「シンシアさんはシュウ様って呼んでるんだ。人間がモンスターを尊敬してるってことだけですごいよ。あ、モンスターでもないのかな。魔法生物でもないみたいだし……。  まあ、それは置いておくとして、じゃあ、私のこと話すね。  私は空で生まれた。その時は何の形もとってなかったと思う。あとで知ったことだけど、魔法生物は使用後の魔法の残滓が自然に集まって稀に生まれるらしくて、私はその瞬間に大量の残滓が集まって生まれたんだって分かった。  私が生まれた時の記憶、それは地上を見下ろした時に、周囲に何もない、ポツンと一人だけその中心にいた少女の記憶。私が生まれてからも周囲に残滓が漂っていたから、きっとその子が魔法を使ったんだと思って、私は陰ながら付いて行った。  魔法生物は魔法の残滓や魔力を食べて生きる。その子が魔法を使ったのなら、次に使った時に、それを食べさせてくれるかもしれないって。  でも、それからは全然魔法を使ってくれなくて、覇気がない、悲しい顔もしていたから、見ていられなくなって、その子から離れることにした。丁度その時、彼女が宿に泊まろうとしていた時に、彼女の名前が聞こえた。その子の名前は『クリス』だった。  私が生まれた国は魔法大国で、残滓を食べるだけなら全く困らないけど、その国に住む人達の表情はあまり好きじゃなかったから、別の国に行こうと思った。  ふわふわ空を漂っていた時、良質な結界が、ある村に張られていたから、その村の近くにしばらくいてみようと思った。魔法を全く使わない村人だったけど、結界の魔力を食べることもできたし、村人にもなぜか魔法がかかっていたから、それを少しずつ食べてた。村人も笑顔が絶えなくて、すごく居心地が良かった。  でも、数年経ったある日、村のとある女の子に異変が起こった。突然足が動かなくなって、周囲の人達が心配するようになった。私も何かできないかって考えたけど、何もできなかった。自分の無力さと、村人やその子の悲しい顔を見ることから逃げたくなって、その村を離れた。その女の子の名前は『ユキ』だった。  それから一年ぐらい、色々な所を漂っては離れてを繰り返してると、ある時、攻撃魔法を練習してる子を見つけた。魔力を通して見ると、すごく不思議な体をしてる子だった。  それはともかく、攻撃魔法は残滓を生み出す効率が良いから、その子の側にいてみようかな、何かあればまた離れようと思ったけど、すぐにその時は訪れた。両親の襲撃を返り討ちにした結果、家が焼け落ちたのを目の当たりにしてしまった。やっぱり悲しい顔は見たくなかったから、その村も離れた。その子の名前は『ヨルン』だった。  これなら、どこにいても同じなんじゃないかって思って、この際、感情を殺して、効率良く残滓を集められる魔導士団がある城に行った。確かに効率良く集められたけど、それなら最初にいた魔法大国の城に行った方が良いと思ってそこも離れて、結局、元の国に戻ってきた。  漂っているからより良い場所を求めようとするんじゃないかと思って、もう漂うのは、やめにした。その時、城内でかわいがられていた猫がちょっと羨ましかったから、猫になりたいなと思ってたら、いつの間にか猫になってた。それが初めて変身した瞬間。せっかくだから、最初に見たクリスの黒髪に倣って、黒猫にした。  そのあとも色々試して、どんなものにでもなれることが分かった。いつからそれができるようになっていたのかは分からなかった。だから、人間に変身してその城の図書室で調べられないかなと思って、実際にそこにある本は大体読んだけど、そのことについては分からなかった。  でも、自分が何者かはそこで分かった。魔法生物について書かれた本が一冊だけあったから。その本を読み進めていく中で、一つだけ分からないことがあった。正確には、その補足として挟まっていたメモに書いてあったこと。  『今まで魔法生物を召喚した記録はない』についての補足として、『条件さえ揃えば魔法生物を召喚できる』という内容のメモだった。なぜそんなことが分かるのか、図書室によく出入りしていた魔導士団員に聞いてみた。  その団員は、すごく綺麗なのにずっと覇気がない目をしてた。でも、ある日を境に、希望に満ちた目をするようになった女の人。その人が言った言葉は強烈に印象に残った。『それを書いた人は、未来が見えているんじゃない? もし、あなたが魔法生物だったら、その条件を揃えてまで召喚した人の願いを、聞くだけ聞いてみたくはない? それともう一つ。その条件を揃えた召喚者が、魔法生物やその他の原状に復帰できずに、その時に願いを言えない場合もある。私が召喚者なら、その原状復帰を達成した人に願いを託したいと思う』って。  答えになってない答えだったけど、面白かったから話を続けた。私が『その願いを託された人の願いが、全く違うことだったら嫌じゃない?』って聞いたら、『ううん、絶対同じになる。信じられないのなら、自分を信じること。自分がその名前を呼ばれたら信じられると信じること。そうだ、良いこと教えてあげる。ラックやデスティニーをウンやウンメイと発音する国がある。そこに共通して使われている文字はキャリーと同じ意味でもある。私は現代の召喚を三つの段階があると認識している。対象の名前を呼び、体を構築し、最後に従える、あるいは交渉する。ただ、魔法生物には種族名も個体名もない。そして、実在する魔法生物は構築ではなく、転送、つまり召喚者の元に運ばれる。条件に合致した名もなき魔法生物の場合、その段階の順序が逆になる。キャリーがきっかけで全てが始まるということ。そこで希望の名前を呼ばれたら、グッドラックだと思わない? さらに、相手の願いが自分の願いでもあって、元の召喚者にも適用できる願いだとしたら、デスティニーでしょ?』って言われた。その言葉に私が、『その願いがお互いをキャリーすることだったら、ハッピーかもね』って返したら、『それはファニーだね』ってさらに上手い返しをされたのを覚えてる。  正直言って、私の質問に対する回答は難解だったけど、明らかにその補足メモを書いた人で、私が魔法生物だと認識していた人の回答だった。その人の名前は『シキ』。私が尊敬する人間だよ。  ユキちゃんが私の望む名前を呼んでくれて、自分の名前を教えてくれた時、全部繋がった。ありがとう、『私』を呼んでくれて」  驚いたな。ユキちゃん、クリス、ヨルンについて、シキちゃんから言われたわけではなく、それよりもずっと前に認識していたとは。だから、すぐに『好き』と言えたのか。  クリスに至っては、ウキちゃんの生みの親と言っても過言ではない。大規模な消滅魔法は、魔法生物の創生魔法でもあったということだ。さらに、魔法を使えないシンシアに対して関心はなかったものの、ジャスティ城まで接近し、一方で、エフリー城にいたシキちゃんにも会っている。  これは、クリスタルが互いに引かれ合う性質によるものだろう。宙を漂っていたからこそ、時間をかけても全員に接近できたのだ。他者の不幸を見ていられないことから、その純粋さゆえとも言える。 「私達の方こそ、ありがとう。出会ってくれて」  ユキちゃんがウキちゃんをギュッと抱き締めながらお礼を言った。 「うん、すごく嬉しいよ! それじゃあ、続きを話すね。  それから、シキちゃんは城外にいることの方が多くなったらしくて、全く会えなくなった。その寂しさから、城内の色々な人達と話してみたけど、彼女ほど興味を持てる人はいなかった。  結局、また猫に戻って城の屋根でしばらく寝てたら、王族の一人が私を見つけて、こっちに来いと言ってくれた。自分の飼い猫を大事にしてた人だから、私のことも大事にしてくれるかもっていう期待でその人に近づいた。でも、それが間違いだった。  彼は完全に狂っていた。体を洗うという名目で、私は小さな部屋に連れて行かれて、手足を固定された。『黒猫は醜い』とか、『他の猫は滅んでしまえばいい』とか言いながら、頭をハンマーで殴られたり、手足を切断されたりして……。その時はまだお腹を割かれてなかったのが不幸中の幸いだったかな。そこに意識を移したから。  でも、その意識も薄くなっていった。魔法生物はこんなにあっさり死ぬんだって思った。掴みどころがないから無敵なんじゃないかって思ってたけど、そうじゃなかった。変身すれば抜け出せるかもしれないけど、そのまま霧散して体を構築できなくて死んじゃいそうな気もした。  もういいや、生きててもつまらないし、悲しい顔も見なくて済む、私が見てきた地上の人達はみんなこんな思いだったのかな、それなら地上で生きた猫として最期を迎えたら、その思いも理解できるかなって思って、頭に意識を戻すと、もう目も開けられなくなって、何も感じなくなってた。  すぐに死ねると思った瞬間、一瞬だけ意識が途切れて、また戻って、何だろうと思った直後に、シキちゃんの『ごめんね』っていう声が聞こえた気がした。そこからは全く意識がなくて、気付いたら身体に力が戻ってて、温かい感じがして、目を開けたらみんながいた」  ウキちゃんを抱き締めていたユキちゃんの腕に、さらに力が入ったような気がした。 「もう大丈夫だからね、ウキちゃん」 「うん、本当にありがとう。ユキちゃん、みんな……」  ユキちゃんの目には涙が浮かんでいた。ウキちゃんの目には浮かんでいない。その感情はこれから育っていくのかもしれない。 「ありがとう、ウキ。意識が途切れた瞬間がシキによる召喚で、彼女には未来が見えていたから、ウキが瀕死になることを知りつつも放置していたことに対する謝罪の言葉を残したということか。  いくつか質問していいだろうか。申し訳ないが、また辛いことを思い出させてしまうかもしれない。  エフリー国の図書室の蔵書数がどれほどかは知らないが、ウキの読書スピードが異常に速いと思った。識字能力をどのように得たのか、どのように読んだのかを教えてほしい。図書室で会ったシキに監視が付いていなかったかどうかも。  また、エフリー国が魔法生物について知っていたとすると、過去に見つけたことがあり、さらに探そうとしていても不思議ではない。内部事情を知っていたら教えてほしい。  魔法生物については、シュウ様からある程度ご教示いただいたが、分からないこともある。人間は宙を漂う魔法生物を認識できず、魔法使いでも感知できない。魔法生物が魔法生物を認識することは可能か? もしかすると、今も私達の周りに漂っているのではないかと思ったからだ。  そして、重要なこと。ウキにはクリスタル所持者特有のチートスキルが備わっている。変身できるのもそのスキルのおかげで、ウキ自身がクリスタルであると言える。私達も別個のチートスキルを持っている。このクリスタルは魔法生物なのか?  もしかすると、ジャスティ城で朱のクリスタルを見たことがあるかもしれないし、私達のクリスタルも前に見たことがあるかもしれない。輝きを失い、石のようになることもある」  シンシアがウキに怒涛の質問をした。自分の剣を見せて、それが魔法生物かどうかも聞いていた。それは、全て俺から聞きたいことでもあった。 「えっと、まず読書の方法だけど、読みたい本に変身したらその内容が全部理解できた。  読む速さは、分速百ページぐらいかな。  エフリー国は過去に魔法生物を実験体にしてたことがあるみたい。  魔法生物を探す目的も兼ねて、領地を拡大しようとしたこともあるってシキちゃんが言ってた。各国を調査してるのも、その一環みたいだよ。  城内のシキちゃんは普通に一人だったかな。  私が他の魔法生物を認識できるかどうかだけど、多分できると思う。残滓の集まりが見えるし、みんなの魔力も見える。でも、他の魔法生物は今まで見たことない。もちろん、みんなの周りにもいない。  みんなのクリスタルは前に見たことあるよ。でも、綺麗な宝石だなぁって思うぐらいだったかな。少なくとも今は魔法生物じゃない。残滓や魔力が見えないから。  私が死んだらクリスタルの状態になるのかも分からない。一番不思議なのは、やっぱりシュウちゃんかな。今まで見たことない存在だよ。生物なのかも分からないなんて」  エフリー国の領地拡大の話は、魔法使い村のことだろうか。優秀な魔法使いが集まれば、それだけ魔法残滓が多くなり、魔法生物がそれを求めて集まってきたり、そこで生まれたりする可能性もある。 「ありがとう。質問したいことは増えたが、まずはシュウ様と私達について話そう。いや、もしかすると、私達に変身すれば理解できるのか? しかし……すまない。普通に話しをさせてくれ」 「うん、いいよ。私も無闇に実在の人間に変身しないようにしてるから。この姿は誰でもない存在だし」  ウキちゃんが実在の人物に変身しないのは、他人の負の面を見たくないからだろう。シンシアもそれを見せたくなかったのだ。  二十分経って、シンシアはみんなの説明をようやく終えた。人数が増えると、説明時間が長くなるのは仕方がない。それを飛ばして情報共有を疎かにすると、あとで思い掛けないことが起こってしまう。 「そんなことがあったんだ……。みんなすごいよ。私も力になりたい! 経験値牧場と魔力牧場を作りたい!」  いつの間にか魔力牧場まで追加されているが、まあいいだろう。ショクシュウ村が発展して魔法が使われなくなると、魔法生物の食事の効率が悪くなってしまう。現状では、クリス一人さえいれば賄える量だが、他の魔法生物が多く集まってきた時のために考えておいた方が良い。 「追加の質問だが、ウキは見たことがないものにも変身できるのだろうか。検証したことを教えてほしい。また、シュウ様がどのように見えているか、それだけでなく、それぞれの対象の見え方に違いがあれば教えてほしい」 「変身は完全に消失するもの以外は試したかな。例えば、炎とか自然現象は試してない。巨大な物、例えば城には変身できなかった。でも、一軒家ぐらいの大きさなら変身できた。シンシアさんが説明してくれた通り、魔力量が多ければ、城にもなれたってことだよね。  あとは、その辺の人の会話で全く知らない単語が出てきた時に、それに変身できるか試してみたことがあるけど、それはできなかった。でも、ある程度説明されれば見たことがなくても変身できた。それが本当に正しいかどうかは分からないけどね。とりあえず、何に変身しても周囲全部見えるよ。  細かいところで言えば、分離した物、例えばイヤリングのペアには変身できなくて、片方だけなら変身できた。  生物に変身した時は、感覚をオンオフできる。変身できない時は何も起こらない。変身を途中で止めることもできる。  最後に、今思えば、生物に変身した場合は、その生命が尽きた時に私も死ぬ。  物に変身した場合は、それが粉々に砕かれた時に死ぬんじゃないかな。機能を失った時ではないような気がするけど、それは分からない。  例えば、蝋燭に変身したとして、灯りが燃え尽きても蝋は残るよね。ぐちゃぐちゃにはなるけど一体化してるから私は死なない、みたいな。  なんでそう思ったかって言うと、歯車に変身して、回らなくなったり、外れたりしたら死ぬっていうのは流石に理不尽じゃないかなって。そういう意味では、変身しないで元の状態のままだったら死ぬことはないのかも。リスクがあるチートスキルだよね」  チートスキル『変化』とウキちゃんが陥った状況、タイミングから考えると、デメリットは『不変』『停滞』辺りだろうか。エフリー国に出戻る時や、『変化』の検証を終えてからは、ある所に留まったり、状況をそのまま受け入れたりしてしまう傾向があった。  だとすると、『変化』にリスクがあるのは、他のクリスタルのデメリットに比べて、影響が小さいからだろう。しかし、チートスキルであることに変わりはない。その能力を応用すれば、とんでもないことも可能だ。  俺が説明すれば、現代の物にも変身できるのではないだろうか。それこそ、『万象事典』に変身できれば、とも考えてしまう。流石にチートすぎるか。いや、逆に変身できなければ、スキル説明文に『偽りあり』となってしまうから、十分に期待できる。  全く知らないものに変身できないのは、単語を聞いただけでは、その存在を確認も想像もできないから。『そういうのがあるんだ』と思いさえすればいい。信じてさえいれば、幽霊にも変身できて、魔力量の問題で、たとえ信じていても、神にはなれない、とか。 「シュウちゃんは不思議なんだよね。触手なのに綺麗だなぁって思う。これって、クリスタルを見た時と同じ感想だよね。でも、シュウちゃんは輝いてるわけじゃない。上手く表せないけど、綺麗なのに、あやふやな感じにも見える。  そう言えば、ただの宝石を見ても綺麗って思ったことなかった。シンシアさんの知りたいことって、『そこ』だよね。クリスタルを見分けられるかどうか。だとしたら、見分けられると思う。輝きを失った場合は、見てみないと分からないかな。  明後日と言わず、私がちょっと行って朱のクリスタルを見てみようか? 元の状態に戻れば、壁もすり抜けられるし」 「ありがとう、よく分かった。そうだな、城に戻ってから夕食後に見てもらおうか。本物であることを今の内に確認したい。シュウ様からは他に何かありますか?」  やはり、みんなからは挙がることがなかった質問を俺は紙に書いて、シンシアからウキちゃんに見せてもらった。  あの時、記憶に刻んだユキちゃんは、俺の質問を待っていたのかもしれない。 『朱のクリスタルが千年前から存在していることを知っているか教えてほしい』  結界内にいる期間が、人間に比べて極端に短かったウキちゃんなら、記憶が操作されていない可能性が高い。 「え? ううん、知らない。そうなんだ」  思った通り、ウキちゃんは知らなかった。まあ、それが分かったところで、特に何もないのだが、推察を確度の高いものにしていくことは重要だ。  しかし、もしウキちゃんが俺達と結界内で長く過ごして、『知ってる。誰に聞いたかは分からない』に答えが変わったら、それが間違いないものになる。 『なぜそれを聞いたかは、イリスちゃんと会った時に説明してもらおう。それと、ウキちゃんに試してほしい変身がある。懐中電灯の英語説明書だ。今から少しずつ話していく』 「『説明書』⁉ また、お兄ちゃんがズルしようとしてる……」  ゆうがすぐに俺のやろうとしていることを察し、驚きと呆れの両方を示したが、俺は意に介さなかった。  この世界の魔法には、光魔法が存在しない。炎なしで光のみを発生させる仕組みについて、誰も分からないからだ。もちろん、銅線を熱すれば、ある程度の光を放つことは知っていて、熱魔法も存在するが、非効率なものとされている。  だから、お手軽に光を放つ懐中電灯への変身をウキちゃんに頼もうとした……というわけではない。あくまで説明書だ。俺が目指すのは、先程言った通り、その先にある。 『懐中電灯や英語が何かは知らなくていい。俺達がいた世界に確実に存在した懐中電灯の英語説明書に変身してほしい。できれば、基本から最新の懐中電灯の仕組みまで書かれたものがいい。ユキちゃんの手に収まるぐらいの大きさでかまわない。繰り返しになるが、懐中電灯や説明書の存在は疑わなくていい。絶対にあるから』 「え……う、うん。じゃあ、やってみるね」  ウキちゃんがそう言うと、すぐにその体が霧散した。この時点で成功だ。三秒後、懐中電灯の英語説明書に変身したウキちゃんが、ユキちゃんの手に収められた。  それは、十センチ四方ほど、二十ページほどの説明書で、単純な操作の懐中電灯にもかかわらず、取り扱い注意事項や仕組みが全て書かれているからこそのボリュームだった。 「わ……よ、読んでみていい? 仕組みだけ」  ユキちゃんが説明書を開くと、俺達や他の三人もそれを読むために、席を立ってユキちゃんの背後に回った。  それから数分。みんな読み終えたようだ。 「流石に書いてあることが難しいですね。私達にとっては、前提知識が多いです。『乾電池』はシュウ様とシンシアさんに『蓄電池』として教えてもらったものと同じだと思いますが、『電気回路』『豆電球』『発光ダイオード』は分かりません。しかし、私達にそれを読ませることが目的ではないことは分かりました」 「僕はシュウ様を、より一層尊敬しました。すごいことを考えるお方です」  クリスとヨルンも俺の作戦を理解したようだ。 『それじゃあ、ウキちゃん。今の状態から直接、懐中電灯に変身してみて』  説明書からどのように見えているか分からないが、シンシアから俺のメッセージをウキちゃんに見せてもらった。すると、ユキちゃんの手の上で、説明書が懐中電灯に変わった。 「ユキ、スイッチを押してみてくれ」  みんなはすでに仕組みを知っているので、スイッチを押せば懐中電灯が光ることを知っている。  シンシアの言葉のあと、ユキちゃんはスイッチを押した。 『おおー!』  遠くの壁まで伸びた光を見て、一同は声を上げて感動していた。たとえ、特別教室に蝋燭が灯っているとしても、薄暗いことには変わりない。  そこに、懐中電灯とは言え、眩しいほどの光が灯されれば、感動するのも無理はない。俺もここまで上手く行くとは思わなかった。やはり、存在すると分かりさえすれば、余計な説明はいらないのだ。  それは、人間に変身できたことからも分かった。人間の臓器がどのような働きをして、どのように動いているかを詳しく知っている者などいない。にもかかわらず、ウキちゃんは人間に変身でき、その臓器は正常に機能していた。ということは、その情報はどこかで補完されて具現化されているに違いないと俺は考えた。  また、大きい物から小さい物に変身する時、複雑度や密度がそれほど変わらないのであれば、その体積の差の分はどこに行くのかという疑問も生じる。もちろん、その『どこか』とは触神スペースであり、最新技術の情報をこちらに持ってこられるとすれば、俺達がいた世界とも繋がっているということだ。それは、個人フェイズで『万象事典』を具現化できたことからも分かる。このことだけでもすごい情報だ。  さらに、この手順は、ウキちゃんの読書能力も最大限に発揮できる。説明書になってしまえば、それがどういう物か、俺達から説明する必要がない。何しろ、機械の説明書程度であれば、一分以内に全てを理解できるのだ。ただ、このままではウキちゃんとのコミュニケーションが不便だ。もう少しだけ検証しよう。 『次は、音声スピーカーの説明書も同様にお願い。理解し終えたら、懐中電灯と小型の音声スピーカーを合体させて、何か喋って俺達に指示してみてほしい。  俺達が何も反応しないなら、ウキちゃんの声が音になっていない。その場合は、すぐに人間に戻っていいよ。魔力から音声信号を作り出す魔法か機械が別途必要だと思う』  俺のメッセージをウキちゃんが読んだあと、スピーカーの説明書に変身し、すぐにスピーカー付き懐中電灯に変身した。しかし、音声は聞こえてこなかった。まあ、そうなるか。  この感じだと、文字を表示させる画面を合体させても同様だろう。技術的に理屈が通っていないと、思い通りの機能にはならないということだ。普通の人が保有していても万能なスキルではないから、触神様に容認されていると考えていいだろう。そう、『普通の人』であれば……。  俺達やユキちゃん達が味方についているウキちゃんであれば、何の問題にもならない。 『ありがとう。とても参考になったよ』  俺は人間に戻ったウキちゃんにお礼のメッセージを書いた。 「なんか面白いね! シュウちゃんがいた世界にある他の物にも変身してみたくなったよ!」 「シュウちゃん、音声信号についての仕組みが分かれば、魔法を作れると思う。城に戻ったら、最適な説明書をウキちゃんに教えてあげてね」  ユキちゃんがそう言うなら絶対に作れるだろう。最終手段としては、服と同じ原理で、例えば懐中電灯を手にくっつけた人間に変身してもらえば、少なくともコミュニケーションは可能になる。 『二人ともありがとう。念のためにみんなに言っておくと、俺達はウキちゃんを便利道具として利用するつもりはない。ただ、ウキちゃんには、二つだけ協力してほしいことがある。  一つは、今の説明書のように、俺が指定する事典に変身して、イリスちゃんに知識を伝えてほしい。彼女が実物を見る必要があるなら、それにも変身して。  もう一つは、劇的に移動時間を短縮できる手段が欲しい。そうすれば、イリスちゃんにある程度の知識をすぐに伝えて戻ってこられるし、エフリー国にも国境の関所を経由せずに、すぐに密入国できる。  実は、具体的な目的地はもう決まっている。ウキちゃんがいなければ、そこで目的を達成するまでに最低一ヶ月はかかりそうなところを、早ければ三日で終わらせることができるようになる。  それに、道具とは関係なく、ウキちゃんの変身スキルや元の姿は他国での潜伏調査で大いに役立つ。例えば、装備ごと架空の兵になりすませば、機密情報を簡単に得ることができるし、足も付かない。元の姿であれば、城内の特定の人物も探しやすい。  エフリー城での情報収集と損害を与えることまで考慮しても、全てを一週間で終わらせることができる』 「うん、いいよ! 私、みんなの役に立ちたい!」 『ありがとう、嬉しいよ。少しでも嫌だと思ったり、改善した方が良いことがあったりすれば、遠慮なく言ってほしい。俺達の言うことを素直に聞く必要はない。人の意見を聞くことも大事だけど、自分で考えることも大事だからね。俺達が間違うこともあるかもしれないから。  それと、最後にもう一つ。シキちゃんが書いた魔法陣には他にもメッセージが隠されていた。二段階の暗号だったんだ。そもそも、図書室での話から、ウキちゃんの希望の名前と願いが召喚者のシキちゃんと代理のユキちゃんとで一致することを、シキちゃんが証明しなければならず、その手段は魔法陣に込めるしかない。  しかし、代理のユキちゃんがそれを読んで、すぐに分かってしまっては証明にならないから、一段階目の暗号を解いたあとでも、さらに暗号を入れ込んだ。と言っても、双子のシーユーを使った暗号より簡単だ。  今日午前、王が名付けた男爵位名の由来がヒントだった。この場合は単純で、書かれた魔法陣の文章の文節から最初の文字を拾っていけば、そのまま答えになる。文章は割愛するが、その答えは、ウキちゃんへのメッセージだった』  俺はそのメッセージを改めて別の紙に書いた。 『グッドラック アンド ビー ハッピー ディア ウキ』  日本語では、『あなたに幸運を そして 幸せにね 大好きなウキへ』。  話に出た言葉を使いながらも、メッセージ内の『幸運』はユキちゃん達の到来と治療、そして『勇運』をかけているようだ。  俺はみんなへの説明を続けた。 『ただ、そのメッセージだけを見ると、シキちゃんは幸せにならないのかと思ってしまうが、別のメッセージもあった。それは、俺達宛のシンプルな内容だった』  俺はそのメッセージも別の紙に書いた。 『ウェイティング フォー シュウチャン』  日本語では、『待ってるよ シュウちゃん』。  最後に俺からみんなへメッセージを書いた。 『みんなで会いに行こう!』  ウキちゃんを見ると、シキちゃんからの彼女宛のメッセージを見せてから目に溜まっていた涙が溢れ、頬を伝っていた。後ろのユキちゃんも涙ぐんでいるようだ。 「…………。これが涙なの……? こんな感情、初めてだよ……。シキちゃん……。シキちゃん! 絶対、会いに行くから!」  そんなに待たせる気はないよ、シキちゃん。まだ会ってもいないのに、君のことをみんな好きになってるから。そして、君にみんな会いたがってるから。  俺達がウキちゃんやユキちゃんの涙を舐め取って、落ち着いた頃、予め書いていたメッセージをみんなに見せた。だが、少し考えることが多くてまとめきれてはいなかった。 『それじゃあ、戻ろうか。ウキちゃんはヨルンに長時間触れられる? それなら、腕輪に変身しておけば、怪しまれず、安全に城に入れると思うけど、理論上は触れられないような気がする。  と言うか、やめた方がいいか。一度触ったら魔力停止で離せずに、魔力を削られ続けるような気がする。別の人に……いや待てよ、魔力停止ができていた時点でウキちゃんにヨルンの魔力粒子が触れていた。自分から出した魔力粒子は相手に触れることができるのであれば、ウキちゃんをヨルンの魔力粒子で覆えば何とかなるのかな。『反攻』の条件も絡んできそう。ユキちゃんとクリスはどう思う?』  クリスは頷いて、ユキちゃんに返答を任せた。 「うん、可能だと思う。正確には、少しだけ浮いた格好にはなるけどね。腕輪なら単純な形だし、動くわけでもないから、魔力粒子で覆うのは簡単。  でも、その前に、魔法生物に対する『反攻』の条件が別途設定されてるかもしれないから、検証してもいいんじゃないかな」 『ありがとう。じゃあ、こうしよう。ウキちゃんの唾液をヨルンの手の甲に垂らす。手を九十度回転させてそれを地面に垂らす。手の甲の唾液が消えずに少しでも残るようなら、次に人差し指で触れてみる。この手順で検証しよう。それだけでは経験値にならないけど、ウキちゃんの残った唾液は俺達が摂取する』 「分かりました。ウキちゃん、いいよ」 「うん。…………」  ヨルンが左手をウキちゃんの前に差し出すと、ウキちゃんは口の中で唾液を溜めてから、舌を伝って唾液を垂らした。ゆうがその唾液を摂取するために、ヨルンの左手の下方にスタンバった。 「ちょっとドキドキしますね」  ヨルンの気持ちは分かる。こんな状況はそうないからな。え、それは違う意味のドキドキだろって?  「あ、触れた感じがしました。手を傾けますね」  ヨルンは、肌に触れた唾液を垂らすために左手を傾けた。垂れた唾液をゆうが口を開けて飲み込んだ。 「え、おいしい……。魔法生物の体液でも経験値になるのかも」  ついでに検証したかったこともできて良かった。体液が単なる魔力ではないのか、俺達がそのように処理しているのかは分からないが、どうせなら経験値になってほしいからな。  ヨルンの左手はどうなってるかな。 「魔力粒子として消える気配はないですね。放っておけば、普通に蒸発する感じがします」  ゆうが次の検証のために、ヨルンの左手の甲の唾液を舐め取った。そして、ウキちゃんが人差し指でヨルンの左手を触った。彼女は、それで大丈夫と見て、手のひら全体でヨルンの左手を触った。 「触れる! 魔力も減らない!」  ウキちゃんが喜んでいた。良かった。これで夜の触れ合いも安心だ。 「それにしても、『反攻』は奥が深いですね。ヨルンくんとの基本的なコミュニケーションは否定していないということでしょうか。あくまで身を守るための『反攻』だと」 「うん、面白いよね。クリスタルは魔法生物じゃないってことだけど、性格を考えてみたらもっと面白そう。『反攻』の『白のクリスタル』は、すごく優しいけど怒ったら怖い、『勇運』の『紫のクリスタル』は、踏み出したら楽観的、それまでは悲観的、とか」  クリスの意見に、ユキちゃんが別視点で乗ってきた。 「ふふふっ、それは所持者本人の性格では? だからこそ、所持者というべきか。結局、私達が持つことも運命だったのかもしれないな。何より、それを今まで大事に持っていたことが運命か……。  おっと、そろそろ戻ろうか。夕食で行列に並ぶことになってしまう」 「はーい! ヨルンくん、左腕そのままにしておいて」  シンシアに対して、ウキちゃんが返事をして、ヨルンの左手首を軽く掴むと、シンプルな銀色、いや、灰色の腕輪に変身した。灰色だが輝きがあるように見える。  そう言えば、ウキちゃんのクリスタルは何色なんだろう。黒猫だったから『黒』だと思っていたのだが。 「ユキ、ウキのクリスタルは何色なんだ?『黒』か?」  お、シンシアが聞いてくれた。流石だ。 「うーん……。今の腕輪の色の……灰色じゃないかな。『灰のクリスタル』。何も意識しなければ、その色の物になると思う。  『黒』は……と言うか、違う色だけど、お姉ちゃんの腕輪は『玄のクリスタル』かな」 「そう言えば、ユキお姉ちゃんも腕輪だよね。しかも、クリスタルが外から見えない形状。やっぱり腕輪の方が良いのかな。僕自身は平気でも、ネックレスの耐久度が自然に下がって、落としそうで怖いんだよね」 「じゃあ、私が作ってあげようか? もし、白のクリスタルが不老不死になれるものなら、絶対に落とさないようにしないといけないし。これもイリスちゃんにその方が良いって言われて、自分で作ったものだよ」 「そうだよね。お願いしようかな」  そんな雑談をしながら、ユキちゃん達は倉庫の魔法陣を消し、特別教室の後片付けをして、預かった鍵を院長に返してから、城への帰路についた。  院長には、猫の魔法生物を無事助けることができて、お礼を示したあと、どこかに行ったとシンシアから話してもらった。ウキちゃんのことを詳しく話すと、チートスキルのことまで話さなければいけなくなるので、ある程度は隠しておくしかない。彼女に腕輪に変身してもらって、門兵や城内をやり過ごすのもそのためだ。  アドには、猫の姿を見せると約束しているので、存在をあとで確認してもらうことにしよう。夜を共にする姫やコリンゼには、やむを得ないので、変身できる魔法生物として紹介することにした。  イリスちゃんには帰宅時間を利用して、今日のことを簡単に報告し、その内、セフ村にウキちゃんが行くことも伝えた。



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俺達と女の子達が勲章受章して魔法生物を救済する話(2/3)

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「それじゃあ、始めようか」  午後二時。ユキちゃん達は孤児院の旧開かずの間である倉庫にいた。院長には危険だからと言って鍵だけ預かり、院長室で待ってもらっている。  魔法生物『ウキ』がいる魔法陣に向かって中心にヨルン、その両脇左にユキちゃん、右にクリス、ヨルンの右斜め後ろにシンシアが位置取り、何かあった場合はヨルンの後ろに隠れ、『反攻』で守ってもらうことにした。  俺達は適度に縮小化した上で、シンシアの首にタオルをかけるかのようにぶら下がっている。また、いつでも俺から指示ができるように、壁際には鉛筆と紙を置いてもらった。  ユキちゃんの始まりの声のあと、三人が両膝をついて同時に詠唱を始めた。まずは、クリスがシキちゃんの魔力停止魔法を全て解除し、その直後、ヨルンが再び空間魔力停止魔法を発動した。そして、ユキちゃんがヨルンの魔力停止魔法が正常に動作しているかを確認した。 「おっけー。次、行こう」  ユキちゃんとクリスが同時に詠唱し、クリスがウキの左足のみ魔力停止魔法を部分解除したあとに、ユキちゃんが名付けた『他対象魔力結合魔法』を発動した。  すると、ウキの左足と胴体の間に数えきれないほどの線が現れ、両者を結んだ。そして、胴体側は魔力が停止しているので、左足だけが胴体に徐々に近づいていった。その間も、ユキちゃんは魔力を供給し続けている。したがって、大量に魔力を消費するが、この精密作業を行えるのは、今のところユキちゃんしかいない。  もし、魔力が足りなくなったら、クリスから貰えばいい。そのための魔法も『他対象魔力結合魔法』を応用して創造したのは流石だ。 「ふぅ……」  魔法発動から五分後、ウキの左足が結合されたことを確認すると、ユキちゃんが一息ついた。 「どうですか? 消費魔力量は」 「うん、大丈夫だと思う。想定よりも消費してない。その半分にちょっと満たないぐらいかな。どちらかと言うと精神力が必要な作業かもね」  クリスの質問にユキちゃんが答えた。ということは、辛いことを乗り越えてきたクリスもヨルンも、これからできるようになるということだ。  対象が魔法生物の場合は、かなりの魔力を消費するのではないかとユキちゃんとクリスは予想していたのだが、それが五割と言うと、それほどでもないのかと思うかもしれない。しかし、左足を結合するだけで、ユキちゃんの全魔力量の一割五分を消費したと言い換えると、相当な量と思える。  これは、セフ村の結界を瞬時に張り直せる消費量であり、城全体への空間催眠魔法を五回使用できる消費量でもあり、平均的な魔法使いの全魔力量以上に相当する。 「じゃあ、ヨルンくん、お願い」  三人がまた同時に詠唱を始めた。そして、ヨルンは左足を再び魔力停止させ、クリスとユキちゃんは右足の結合に入った。なぜ一度解いた左足をまた停止させるのかは、完治した際にウキが容易に暴れないようにするためだ。この手順を四肢全てに対して行う。四肢が終われば胴体だ。  表面上の傷は見当たらなかったが、内部が破壊されている恐れがあるので、念のため、下腹部から順に確認していった。ユキちゃんの魔法は結合させるだけでなく、魔法生物の体内に浸潤して、破壊組織を再構成することも可能だ。改めて、すごい応用力だ。 「うん、体内は傷付いてないかな。でも、驚いたのは、ちゃんと生物の内臓を持ってた。魔法生物って一体何だろうね」  確かに。内臓も魔力で作り出す必要があるのだろうか。そもそも、『万象事典』には魔法生物はそのようなことができるとは書いていなかった。だとしたら、世界のルールから逸脱している存在の可能性もあるか。  当然、チートスキルのことが俺の頭をよぎった。瀕死になった理由も関係しているかもしれない。 「それじゃあ、最後行くよ」  いよいよ頭部だ。胴体は魔力を停止させていない。これまで、みんな冷静に作業をこなせているから治療も順調だ。  ウキの内臓が無事で、目と口から血を流しているとなると、間違いなく頭部が傷付いている。脳も再現されているとなると、時間との勝負になるだろう。ユキちゃんには、脊椎動物の脳の構造と各部位の機能を予め教えている。猫と人間とで脳の形が異なるので、そのどちらも教え、治療する際の優先順位も決めた。  大脳は主に記憶や思考を司り、小脳は知覚と運動の統合、脳幹は感覚神経路や運動神経路の中枢であることから、大脳、小脳、脳幹、髄膜、頭蓋骨の順に治療し、クモ膜下出血をしているようなら、その血を体内に徐々に吸収させる。人間ではそう簡単に行かない治療だが、魔法生物であれば脳出血の体内吸収も可能だと見ている。  俺はユキちゃんの様子を伺うと、彼女が四肢や胴体の時よりも真剣な表情をして魔力を供給していることが分かった。多く供給すれば早く治療できるというわけでもないが、魔力粒子の運動や魔導効率の安定性は増すらしい。  ユキちゃんは、これで魔力を全て消費してもいいという気持ちで向かい合っていることだろう。俺達は心のなかで応援することしかできないのが歯痒い。頑張れ、ユキちゃん。 「頭部に入ってから十分ぐらい経ったね。順調だよね、きっと」  これまで黙って見ていたゆうが、沈黙を破って声を発した。 「ああ、きっとそうだ。ユキちゃんの表情を見ていれば分かる。上手く行ってなかったら、彼女は悲しい顔をしているだろうからな。そのままウキを見ていれば、目と口の血も消えていくだろう。それに、魔力が結合できていること自体が……っ⁉」  俺がまだゆうに説明している途中で、突然チートスキルの警告表示がウキの頭上に現れた。 「え、ここで⁉ ってことは治ったってことだよね⁉」  ゆうは、その内容よりもウキが一命を取り留めたことに嬉しさを隠しきれずにいた。俺もそうだ。とりあえずは良かった。 「『チートスキル:変化』か。『へんげ』と読むのか『へんか』と読むのかは分からないが、全魔力量の範囲内で、あらゆる存在に変身することができる、か。すると、元の姿から猫に変身して、瀕死の状態になったか、あるいは瀕死の状態から猫に変身したか。この二つの違いは、それを知ることで、チートスキルをどの時点で使えるようになったかが分かり、それが分かると、その条件も推察できるようになる。まあ、それは直接聞くことにするか。人間に変身してもらえば、会話できるし」 「ねぇ、クリスタルは? 持ってるようには見えないけど。首輪も付いてないし」 「おそらく俺達と同じだろう。存在自体がクリスタルの力を持っている。ただし、転生者でないことは触神様が証明してくれている。  そして、このことから驚くべきことも推察できる。俺達は例外として、クリスタルが魔法生物である、または、魔法生物であった可能性だ。それについてもウキから聞けるかもしれないな。シキちゃんがウキの存在を通じて伝えたかったことの一つは、間違いなくこれだ。とりあえず、チートスキルのことは、ユキちゃん達にも伝えておこう」  俺は触手を増やし、壁際の鉛筆と紙を使ってそのことを書いて、シンシアに渡した。シンシアが読み終わると、クリス、ヨルンの順に回してもらって、ヨルンからはユキちゃんの邪魔にならないように、彼女の床についた右膝近くに紙を置いてもらった。 『ウキは一命を取り留めた。その証拠に、全魔力量の範囲内で、あらゆる存在に変身できるというチートスキルを持っていることが、その瞬間に分かった。人間に変身してもらえば確実に会話できるはずだから、それを踏まえて進めてほしい』  ユキちゃんはそれを横目で見て頷いた。それは、少しホッとした表情のようにも見えた。  そこから三分後。ユキちゃんが魔力の供給を止めた直後に、ウキがピクリと動き、目を覚ました。それとほぼ同時に、ヨルンが空間魔力停止魔法の詠唱を始めた。 「私はあなたの敵じゃない。私の言ってること分かる? もし分かって、あなたにも敵意がないなら、瞬きを三回して。口は動かさないで。動かしたらあなたの時間をもう一度止める」  触神様に初期の頃に確認した通り、この世界には無詠唱魔法を使える存在がいる。それが魔法生物だ。口を動かさないように言っても、無詠唱魔法の発動は止められないが、形だけでも交渉するようにしなければ、安全に話を進められない。  そして、ウキは瞬きを三回した。  実は、ユキちゃんには頭部を治療する際、確認してもらったことがある。それは、脳の発達度だ。猫の脳は人間の脳に比べて容積が小さい。したがって、そのままでは会話が成り立つか不安だったのだが、魔法を使えるということはそれを記憶していなければならないし、本能だけで使えるとも思えない。  それなら、容積が小さくても脳細胞数がそれを補っているのではないかと考えた。もしそうでなかったら、会話はすぐに諦めてもらうようにユキちゃんには伝えていたが、どうやら大丈夫そうだ。 「私達があなたを治療したんだよ。あなたには死んでほしくなかったから。あの状態になった経緯とあなたのことを聞かせて。そのまま会話できないようなら、人間に変身して話してほしい。できるよね? 今、手足を動かせるようにするから」  クリスが手足の魔力停止魔法を解除すると、ウキはその両手足を少し動かして、ユキちゃんの方に横向きになった。次の瞬間、その存在が霧散するように消え、三秒ほど経ってから目の前に突然少女が現れた。  魔力粒子になると存在が見えなくなるから、一瞬で消えて、一瞬で現れたように見えるのか。見た目だけなら、十二、三歳ぐらいの年齢だろうか。ユキちゃんに似ているような気がするが、おそらくシキちゃんに似せたのだろう。猫の姿の時と同様に、黒髪の少女は裸で横向きになっていて、体を起こす気配はなかった。 「殺して……」  その少女は小さく呟いた。やはり死を願うのか。 「その言葉が出てくるってことは、あなたは今、世の中と自分に絶望している。良いこと教えてあげよっか。  この場にいる人、過去にみんなそう思ってたんだよ。死にたいって。でも、何とかなった。何とかしてくれた存在がいた。ほら、あれ見て、あの触手。シュウちゃんって言うんだけど、シュウちゃんがみんなを救ってくれたんだよ。もちろん、あなたを救うために知恵を出してくれた。  同じ所にいるシンシアさんは、あなたに巡り合わせてくれた。クリスさんとヨルンくんと私であなたを治療した。これがきっかけ。あなたを『本当に救う』ためのきっかけだよ。まさか、絶望したいなんて思ってるわけないよね? だったら生まれた瞬間に自殺してるよね。その力を持った存在なんだから。それに、私達との交渉にも応じなかったよね」  ユキちゃんは、いつもより早い口調でウキを説得した。 「…………。クリス……ヨルン……まさか……。ううん、私を助けて何の得があるの? あなた達なら、魔法生物の力なんて必要ないでしょ……」 「笑い合える、抱きしめ合える、家族になれる、そして、一緒に幸せになりたいから。あなたを助けたら、こんなに得があるんだよ! あなたはどうなの⁉ ウキちゃん‼」  ユキちゃんは両手を広げて、ウキの考えを問い質した。 「ウキ……ちゃん……。嘘……本当に……現れるなんて……」  ウキは上半身をついに起こして、ユキちゃんを見つめた。  シキちゃんが予言を伝えていたか。『ウキちゃん』と呼ぶ人が目の前に現れると伝えるだけでは、シキちゃんがその人と事前に会っていれば予言として成り立たないから、『あなたが望む名前を呼ぶ人が目の前に現れる』と伝えたのだろう。 『勇運』の効果は置いておくとして、『ウキ』を望んだのは、一瞬でも助けてくれたシキちゃんの名前から連想したか。  いや、待てよ。『運』の『ウ』から取って合わせた可能性もあるか。シキちゃんが『ラック』の意味でそういう異国語があると教えていれば、発想もできる。 「もしかして、お姉ちゃんから何か言われてた? 私はユキ。シキお姉ちゃんとは双子だよ」 「ユキ……ちゃん……。ユキちゃん……。ユキちゃん!」  ウキはユキちゃんに勢い良く抱き付いた。 「ユキちゃん、好き! 大好き! クリスさんもヨルンくんも大好き! ありがとう! シュウちゃんとシンシアさんもありがとう!」  ウキは泣きながら笑い、ユキちゃんと抱き締め合っていた。猫っぽい動きで頬擦りもしている。早速、両者に『得』があったようだ。  魔力停止魔法の発動を準備していたヨルンは、その様子を見て構えていた両手を下ろした。  ウキのそれぞれに対する名前の呼び方は、ユキちゃん準拠のようだ。それなら俺も『ウキちゃん』と呼ぶか。  それにしても、随分あっさりとみんなを好きになったな。ユキちゃんが動くと、こんなに早く解決するのか。正確には、俺達とシンシアに対しては好きとは言っていないが……。『まさか』と言っていたことから、これにも何か理由があるのか。シキちゃんから名前を聞いていただけではなさそうだ。  俺がそんなことを考えていると、シンシアが倉庫の出口に歩みを進め、四人に声をかけた。 「一先ず安心ということで、ここは座れる所もないし、特別教室の方でウキの話を聞こうか。ウキは衣服を含めて変身できるか?」 「うん、できるよ! …………。はい、できた!」  ウキちゃんは再度霧散し、再度現れた。ユキちゃんと同じ白い外套を羽織った格好にしたようだ。ウキちゃんの長い黒髪とのコントラストが、ユキちゃんの印象とは異なり、新鮮に感じる。  一同は特別教室に移動し、教室内の一番後ろの席にユキちゃん、その膝の上にウキちゃんを座らせ、残りはそこを囲むように席に座った。俺達はシンシアの首から下りて、机に鉛筆と紙を置いてもらった上で縮小化を解いた。 「うわ、シュウちゃんってそんなに長かったんだ。伸び縮みできるの? すごーい!」 「いや、正確には縮むことだけだ。他にも色々なことが可能だが、シュウ様のすごさはそれに留まらない。いずれ分かるだろう。  まずは、ウキの話を聞こうか。できれば、どのようにして生まれたのかから聞きたい。そのあとにシュウ様や私達のことも話す」  ウキちゃんに対して補足するシンシア。進行をしてくれるようだ。 「シンシアさんはシュウ様って呼んでるんだ。人間がモンスターを尊敬してるってことだけですごいよ。あ、モンスターでもないのかな。魔法生物でもないみたいだし……。  まあ、それは置いておくとして、じゃあ、私のこと話すね。  私は空で生まれた。その時は何の形もとってなかったと思う。あとで知ったことだけど、魔法生物は使用後の魔法の残滓が自然に集まって稀に生まれるらしくて、私はその瞬間に大量の残滓が集まって生まれたんだって分かった。  私が生まれた時の記憶、それは地上を見下ろした時に、周囲に何もない、ポツンと一人だけその中心にいた少女の記憶。私が生まれてからも周囲に残滓が漂っていたから、きっとその子が魔法を使ったんだと思って、私は陰ながら付いて行った。  魔法生物は魔法の残滓や魔力を食べて生きる。その子が魔法を使ったのなら、次に使った時に、それを食べさせてくれるかもしれないって。  でも、それからは全然魔法を使ってくれなくて、覇気がない、悲しい顔もしていたから、見ていられなくなって、その子から離れることにした。丁度その時、彼女が宿に泊まろうとしていた時に、彼女の名前が聞こえた。その子の名前は『クリス』だった。  私が生まれた国は魔法大国で、残滓を食べるだけなら全く困らないけど、その国に住む人達の表情はあまり好きじゃなかったから、別の国に行こうと思った。  ふわふわ空を漂っていた時、良質な結界が、ある村に張られていたから、その村の近くにしばらくいてみようと思った。魔法を全く使わない村人だったけど、結界の魔力を食べることもできたし、村人にもなぜか魔法がかかっていたから、それを少しずつ食べてた。村人も笑顔が絶えなくて、すごく居心地が良かった。  でも、数年経ったある日、村のとある女の子に異変が起こった。突然足が動かなくなって、周囲の人達が心配するようになった。私も何かできないかって考えたけど、何もできなかった。自分の無力さと、村人やその子の悲しい顔を見ることから逃げたくなって、その村を離れた。その女の子の名前は『ユキ』だった。  それから一年ぐらい、色々な所を漂っては離れてを繰り返してると、ある時、攻撃魔法を練習してる子を見つけた。魔力を通して見ると、すごく不思議な体をしてる子だった。  それはともかく、攻撃魔法は残滓を生み出す効率が良いから、その子の側にいてみようかな、何かあればまた離れようと思ったけど、すぐにその時は訪れた。両親の襲撃を返り討ちにした結果、家が焼け落ちたのを目の当たりにしてしまった。やっぱり悲しい顔は見たくなかったから、その村も離れた。その子の名前は『ヨルン』だった。  これなら、どこにいても同じなんじゃないかって思って、この際、感情を殺して、効率良く残滓を集められる魔導士団がある城に行った。確かに効率良く集められたけど、それなら最初にいた魔法大国の城に行った方が良いと思ってそこも離れて、結局、元の国に戻ってきた。  漂っているからより良い場所を求めようとするんじゃないかと思って、もう漂うのは、やめにした。その時、城内でかわいがられていた猫がちょっと羨ましかったから、猫になりたいなと思ってたら、いつの間にか猫になってた。それが初めて変身した瞬間。せっかくだから、最初に見たクリスの黒髪に倣って、黒猫にした。  そのあとも色々試して、どんなものにでもなれることが分かった。いつからそれができるようになっていたのかは分からなかった。だから、人間に変身してその城の図書室で調べられないかなと思って、実際にそこにある本は大体読んだけど、そのことについては分からなかった。  でも、自分が何者かはそこで分かった。魔法生物について書かれた本が一冊だけあったから。その本を読み進めていく中で、一つだけ分からないことがあった。正確には、その補足として挟まっていたメモに書いてあったこと。  『今まで魔法生物を召喚した記録はない』についての補足として、『条件さえ揃えば魔法生物を召喚できる』という内容のメモだった。なぜそんなことが分かるのか、図書室によく出入りしていた魔導士団員に聞いてみた。  その団員は、すごく綺麗なのにずっと覇気がない目をしてた。でも、ある日を境に、希望に満ちた目をするようになった女の人。その人が言った言葉は強烈に印象に残った。『それを書いた人は、未来が見えているんじゃない? もし、あなたが魔法生物だったら、その条件を揃えてまで召喚した人の願いを、聞くだけ聞いてみたくはない? それともう一つ。その条件を揃えた召喚者が、魔法生物やその他の原状に復帰できずに、その時に願いを言えない場合もある。私が召喚者なら、その原状復帰を達成した人に願いを託したいと思う』って。  答えになってない答えだったけど、面白かったから話を続けた。私が『その願いを託された人の願いが、全く違うことだったら嫌じゃない?』って聞いたら、『ううん、絶対同じになる。信じられないのなら、自分を信じること。自分がその名前を呼ばれたら信じられると信じること。そうだ、良いこと教えてあげる。ラックやデスティニーをウンやウンメイと発音する国がある。そこに共通して使われている文字はキャリーと同じ意味でもある。私は現代の召喚を三つの段階があると認識している。対象の名前を呼び、体を構築し、最後に従える、あるいは交渉する。ただ、魔法生物には種族名も個体名もない。そして、実在する魔法生物は構築ではなく、転送、つまり召喚者の元に運ばれる。条件に合致した名もなき魔法生物の場合、その段階の順序が逆になる。キャリーがきっかけで全てが始まるということ。そこで希望の名前を呼ばれたら、グッドラックだと思わない? さらに、相手の願いが自分の願いでもあって、元の召喚者にも適用できる願いだとしたら、デスティニーでしょ?』って言われた。その言葉に私が、『その願いがお互いをキャリーすることだったら、ハッピーかもね』って返したら、『それはファニーだね』ってさらに上手い返しをされたのを覚えてる。  正直言って、私の質問に対する回答は難解だったけど、明らかにその補足メモを書いた人で、私が魔法生物だと認識していた人の回答だった。その人の名前は『シキ』。私が尊敬する人間だよ。  ユキちゃんが私の望む名前を呼んでくれて、自分の名前を教えてくれた時、全部繋がった。ありがとう、『私』を呼んでくれて」  驚いたな。ユキちゃん、クリス、ヨルンについて、シキちゃんから言われたわけではなく、それよりもずっと前に認識していたとは。だから、すぐに『好き』と言えたのか。  クリスに至っては、ウキちゃんの生みの親と言っても過言ではない。大規模な消滅魔法は、魔法生物の創生魔法でもあったということだ。さらに、魔法を使えないシンシアに対して関心はなかったものの、ジャスティ城まで接近し、一方で、エフリー城にいたシキちゃんにも会っている。  これは、クリスタルが互いに引かれ合う性質によるものだろう。宙を漂っていたからこそ、時間をかけても全員に接近できたのだ。他者の不幸を見ていられないことから、その純粋さゆえとも言える。 「私達の方こそ、ありがとう。出会ってくれて」  ユキちゃんがウキちゃんをギュッと抱き締めながらお礼を言った。 「うん、すごく嬉しいよ! それじゃあ、続きを話すね。  それから、シキちゃんは城外にいることの方が多くなったらしくて、全く会えなくなった。その寂しさから、城内の色々な人達と話してみたけど、彼女ほど興味を持てる人はいなかった。  結局、また猫に戻って城の屋根でしばらく寝てたら、王族の一人が私を見つけて、こっちに来いと言ってくれた。自分の飼い猫を大事にしてた人だから、私のことも大事にしてくれるかもっていう期待でその人に近づいた。でも、それが間違いだった。  彼は完全に狂っていた。体を洗うという名目で、私は小さな部屋に連れて行かれて、手足を固定された。『黒猫は醜い』とか、『他の猫は滅んでしまえばいい』とか言いながら、頭をハンマーで殴られたり、手足を切断されたりして……。その時はまだお腹を割かれてなかったのが不幸中の幸いだったかな。そこに意識を移したから。  でも、その意識も薄くなっていった。魔法生物はこんなにあっさり死ぬんだって思った。掴みどころがないから無敵なんじゃないかって思ってたけど、そうじゃなかった。変身すれば抜け出せるかもしれないけど、そのまま霧散して体を構築できなくて死んじゃいそうな気もした。  もういいや、生きててもつまらないし、悲しい顔も見なくて済む、私が見てきた地上の人達はみんなこんな思いだったのかな、それなら地上で生きた猫として最期を迎えたら、その思いも理解できるかなって思って、頭に意識を戻すと、もう目も開けられなくなって、何も感じなくなってた。  すぐに死ねると思った瞬間、一瞬だけ意識が途切れて、また戻って、何だろうと思った直後に、シキちゃんの『ごめんね』っていう声が聞こえた気がした。そこからは全く意識がなくて、気付いたら身体に力が戻ってて、温かい感じがして、目を開けたらみんながいた」  ウキちゃんを抱き締めていたユキちゃんの腕に、さらに力が入ったような気がした。 「もう大丈夫だからね、ウキちゃん」 「うん、本当にありがとう。ユキちゃん、みんな……」  ユキちゃんの目には涙が浮かんでいた。ウキちゃんの目には浮かんでいない。その感情はこれから育っていくのかもしれない。 「ありがとう、ウキ。意識が途切れた瞬間がシキによる召喚で、彼女には未来が見えていたから、ウキが瀕死になることを知りつつも放置していたことに対する謝罪の言葉を残したということか。  いくつか質問していいだろうか。申し訳ないが、また辛いことを思い出させてしまうかもしれない。  エフリー国の図書室の蔵書数がどれほどかは知らないが、ウキの読書スピードが異常に速いと思った。識字能力をどのように得たのか、どのように読んだのかを教えてほしい。図書室で会ったシキに監視が付いていなかったかどうかも。  また、エフリー国が魔法生物について知っていたとすると、過去に見つけたことがあり、さらに探そうとしていても不思議ではない。内部事情を知っていたら教えてほしい。  魔法生物については、シュウ様からある程度ご教示いただいたが、分からないこともある。人間は宙を漂う魔法生物を認識できず、魔法使いでも感知できない。魔法生物が魔法生物を認識することは可能か? もしかすると、今も私達の周りに漂っているのではないかと思ったからだ。  そして、重要なこと。ウキにはクリスタル所持者特有のチートスキルが備わっている。変身できるのもそのスキルのおかげで、ウキ自身がクリスタルであると言える。私達も別個のチートスキルを持っている。このクリスタルは魔法生物なのか?  もしかすると、ジャスティ城で朱のクリスタルを見たことがあるかもしれないし、私達のクリスタルも前に見たことがあるかもしれない。輝きを失い、石のようになることもある」  シンシアがウキに怒涛の質問をした。自分の剣を見せて、それが魔法生物かどうかも聞いていた。それは、全て俺から聞きたいことでもあった。 「えっと、まず読書の方法だけど、読みたい本に変身したらその内容が全部理解できた。  読む速さは、分速百ページぐらいかな。  エフリー国は過去に魔法生物を実験体にしてたことがあるみたい。  魔法生物を探す目的も兼ねて、領地を拡大しようとしたこともあるってシキちゃんが言ってた。各国を調査してるのも、その一環みたいだよ。  城内のシキちゃんは普通に一人だったかな。  私が他の魔法生物を認識できるかどうかだけど、多分できると思う。残滓の集まりが見えるし、みんなの魔力も見える。でも、他の魔法生物は今まで見たことない。もちろん、みんなの周りにもいない。  みんなのクリスタルは前に見たことあるよ。でも、綺麗な宝石だなぁって思うぐらいだったかな。少なくとも今は魔法生物じゃない。残滓や魔力が見えないから。  私が死んだらクリスタルの状態になるのかも分からない。一番不思議なのは、やっぱりシュウちゃんかな。今まで見たことない存在だよ。生物なのかも分からないなんて」  エフリー国の領地拡大の話は、魔法使い村のことだろうか。優秀な魔法使いが集まれば、それだけ魔法残滓が多くなり、魔法生物がそれを求めて集まってきたり、そこで生まれたりする可能性もある。 「ありがとう。質問したいことは増えたが、まずはシュウ様と私達について話そう。いや、もしかすると、私達に変身すれば理解できるのか? しかし……すまない。普通に話しをさせてくれ」 「うん、いいよ。私も無闇に実在の人間に変身しないようにしてるから。この姿は誰でもない存在だし」  ウキちゃんが実在の人物に変身しないのは、他人の負の面を見たくないからだろう。シンシアもそれを見せたくなかったのだ。  二十分経って、シンシアはみんなの説明をようやく終えた。人数が増えると、説明時間が長くなるのは仕方がない。それを飛ばして情報共有を疎かにすると、あとで思い掛けないことが起こってしまう。 「そんなことがあったんだ……。みんなすごいよ。私も力になりたい! 経験値牧場と魔力牧場を作りたい!」  いつの間にか魔力牧場まで追加されているが、まあいいだろう。ショクシュウ村が発展して魔法が使われなくなると、魔法生物の食事の効率が悪くなってしまう。現状では、クリス一人さえいれば賄える量だが、他の魔法生物が多く集まってきた時のために考えておいた方が良い。 「追加の質問だが、ウキは見たことがないものにも変身できるのだろうか。検証したことを教えてほしい。また、シュウ様がどのように見えているか、それだけでなく、それぞれの対象の見え方に違いがあれば教えてほしい」 「変身は完全に消失するもの以外は試したかな。例えば、炎とか自然現象は試してない。巨大な物、例えば城には変身できなかった。でも、一軒家ぐらいの大きさなら変身できた。シンシアさんが説明してくれた通り、魔力量が多ければ、城にもなれたってことだよね。  あとは、その辺の人の会話で全く知らない単語が出てきた時に、それに変身できるか試してみたことがあるけど、それはできなかった。でも、ある程度説明されれば見たことがなくても変身できた。それが本当に正しいかどうかは分からないけどね。とりあえず、何に変身しても周囲全部見えるよ。  細かいところで言えば、分離した物、例えばイヤリングのペアには変身できなくて、片方だけなら変身できた。  生物に変身した時は、感覚をオンオフできる。変身できない時は何も起こらない。変身を途中で止めることもできる。  最後に、今思えば、生物に変身した場合は、その生命が尽きた時に私も死ぬ。  物に変身した場合は、それが粉々に砕かれた時に死ぬんじゃないかな。機能を失った時ではないような気がするけど、それは分からない。  例えば、蝋燭に変身したとして、灯りが燃え尽きても蝋は残るよね。ぐちゃぐちゃにはなるけど一体化してるから私は死なない、みたいな。  なんでそう思ったかって言うと、歯車に変身して、回らなくなったり、外れたりしたら死ぬっていうのは流石に理不尽じゃないかなって。そういう意味では、変身しないで元の状態のままだったら死ぬことはないのかも。リスクがあるチートスキルだよね」  チートスキル『変化』とウキちゃんが陥った状況、タイミングから考えると、デメリットは『不変』『停滞』辺りだろうか。エフリー国に出戻る時や、『変化』の検証を終えてからは、ある所に留まったり、状況をそのまま受け入れたりしてしまう傾向があった。  だとすると、『変化』にリスクがあるのは、他のクリスタルのデメリットに比べて、影響が小さいからだろう。しかし、チートスキルであることに変わりはない。その能力を応用すれば、とんでもないことも可能だ。  俺が説明すれば、現代の物にも変身できるのではないだろうか。それこそ、『万象事典』に変身できれば、とも考えてしまう。流石にチートすぎるか。いや、逆に変身できなければ、スキル説明文に『偽りあり』となってしまうから、十分に期待できる。  全く知らないものに変身できないのは、単語を聞いただけでは、その存在を確認も想像もできないから。『そういうのがあるんだ』と思いさえすればいい。信じてさえいれば、幽霊にも変身できて、魔力量の問題で、たとえ信じていても、神にはなれない、とか。 「シュウちゃんは不思議なんだよね。触手なのに綺麗だなぁって思う。これって、クリスタルを見た時と同じ感想だよね。でも、シュウちゃんは輝いてるわけじゃない。上手く表せないけど、綺麗なのに、あやふやな感じにも見える。  そう言えば、ただの宝石を見ても綺麗って思ったことなかった。シンシアさんの知りたいことって、『そこ』だよね。クリスタルを見分けられるかどうか。だとしたら、見分けられると思う。輝きを失った場合は、見てみないと分からないかな。  明後日と言わず、私がちょっと行って朱のクリスタルを見てみようか? 元の状態に戻れば、壁もすり抜けられるし」 「ありがとう、よく分かった。そうだな、城に戻ってから夕食後に見てもらおうか。本物であることを今の内に確認したい。シュウ様からは他に何かありますか?」  やはり、みんなからは挙がることがなかった質問を俺は紙に書いて、シンシアからウキちゃんに見せてもらった。  あの時、記憶に刻んだユキちゃんは、俺の質問を待っていたのかもしれない。 『朱のクリスタルが千年前から存在していることを知っているか教えてほしい』  結界内にいる期間が、人間に比べて極端に短かったウキちゃんなら、記憶が操作されていない可能性が高い。 「え? ううん、知らない。そうなんだ」  思った通り、ウキちゃんは知らなかった。まあ、それが分かったところで、特に何もないのだが、推察を確度の高いものにしていくことは重要だ。  しかし、もしウキちゃんが俺達と結界内で長く過ごして、『知ってる。誰に聞いたかは分からない』に答えが変わったら、それが間違いないものになる。 『なぜそれを聞いたかは、イリスちゃんと会った時に説明してもらおう。それと、ウキちゃんに試してほしい変身がある。懐中電灯の英語説明書だ。今から少しずつ話していく』 「『説明書』⁉ また、お兄ちゃんがズルしようとしてる……」  ゆうがすぐに俺のやろうとしていることを察し、驚きと呆れの両方を示したが、俺は意に介さなかった。  この世界の魔法には、光魔法が存在しない。炎なしで光のみを発生させる仕組みについて、誰も分からないからだ。もちろん、銅線を熱すれば、ある程度の光を放つことは知っていて、熱魔法も存在するが、非効率なものとされている。  だから、お手軽に光を放つ懐中電灯への変身をウキちゃんに頼もうとした……というわけではない。あくまで説明書だ。俺が目指すのは、先程言った通り、その先にある。 『懐中電灯や英語が何かは知らなくていい。俺達がいた世界に確実に存在した懐中電灯の英語説明書に変身してほしい。できれば、基本から最新の懐中電灯の仕組みまで書かれたものがいい。ユキちゃんの手に収まるぐらいの大きさでかまわない。繰り返しになるが、懐中電灯や説明書の存在は疑わなくていい。絶対にあるから』 「え……う、うん。じゃあ、やってみるね」  ウキちゃんがそう言うと、すぐにその体が霧散した。この時点で成功だ。三秒後、懐中電灯の英語説明書に変身したウキちゃんが、ユキちゃんの手に収められた。  それは、十センチ四方ほど、二十ページほどの説明書で、単純な操作の懐中電灯にもかかわらず、取り扱い注意事項や仕組みが全て書かれているからこそのボリュームだった。 「わ……よ、読んでみていい? 仕組みだけ」  ユキちゃんが説明書を開くと、俺達や他の三人もそれを読むために、席を立ってユキちゃんの背後に回った。  それから数分。みんな読み終えたようだ。 「流石に書いてあることが難しいですね。私達にとっては、前提知識が多いです。『乾電池』はシュウ様とシンシアさんに『蓄電池』として教えてもらったものと同じだと思いますが、『電気回路』『豆電球』『発光ダイオード』は分かりません。しかし、私達にそれを読ませることが目的ではないことは分かりました」 「僕はシュウ様を、より一層尊敬しました。すごいことを考えるお方です」  クリスとヨルンも俺の作戦を理解したようだ。 『それじゃあ、ウキちゃん。今の状態から直接、懐中電灯に変身してみて』  説明書からどのように見えているか分からないが、シンシアから俺のメッセージをウキちゃんに見せてもらった。すると、ユキちゃんの手の上で、説明書が懐中電灯に変わった。 「ユキ、スイッチを押してみてくれ」  みんなはすでに仕組みを知っているので、スイッチを押せば懐中電灯が光ることを知っている。  シンシアの言葉のあと、ユキちゃんはスイッチを押した。 『おおー!』  遠くの壁まで伸びた光を見て、一同は声を上げて感動していた。たとえ、特別教室に蝋燭が灯っているとしても、薄暗いことには変わりない。  そこに、懐中電灯とは言え、眩しいほどの光が灯されれば、感動するのも無理はない。俺もここまで上手く行くとは思わなかった。やはり、存在すると分かりさえすれば、余計な説明はいらないのだ。  それは、人間に変身できたことからも分かった。人間の臓器がどのような働きをして、どのように動いているかを詳しく知っている者などいない。にもかかわらず、ウキちゃんは人間に変身でき、その臓器は正常に機能していた。ということは、その情報はどこかで補完されて具現化されているに違いないと俺は考えた。  また、大きい物から小さい物に変身する時、複雑度や密度がそれほど変わらないのであれば、その体積の差の分はどこに行くのかという疑問も生じる。もちろん、その『どこか』とは触神スペースであり、最新技術の情報をこちらに持ってこられるとすれば、俺達がいた世界とも繋がっているということだ。それは、個人フェイズで『万象事典』を具現化できたことからも分かる。このことだけでもすごい情報だ。  さらに、この手順は、ウキちゃんの読書能力も最大限に発揮できる。説明書になってしまえば、それがどういう物か、俺達から説明する必要がない。何しろ、機械の説明書程度であれば、一分以内に全てを理解できるのだ。ただ、このままではウキちゃんとのコミュニケーションが不便だ。もう少しだけ検証しよう。 『次は、音声スピーカーの説明書も同様にお願い。理解し終えたら、懐中電灯と小型の音声スピーカーを合体させて、何か喋って俺達に指示してみてほしい。  俺達が何も反応しないなら、ウキちゃんの声が音になっていない。その場合は、すぐに人間に戻っていいよ。魔力から音声信号を作り出す魔法か機械が別途必要だと思う』  俺のメッセージをウキちゃんが読んだあと、スピーカーの説明書に変身し、すぐにスピーカー付き懐中電灯に変身した。しかし、音声は聞こえてこなかった。まあ、そうなるか。  この感じだと、文字を表示させる画面を合体させても同様だろう。技術的に理屈が通っていないと、思い通りの機能にはならないということだ。普通の人が保有していても万能なスキルではないから、触神様に容認されていると考えていいだろう。そう、『普通の人』であれば……。  俺達やユキちゃん達が味方についているウキちゃんであれば、何の問題にもならない。 『ありがとう。とても参考になったよ』  俺は人間に戻ったウキちゃんにお礼のメッセージを書いた。 「なんか面白いね! シュウちゃんがいた世界にある他の物にも変身してみたくなったよ!」 「シュウちゃん、音声信号についての仕組みが分かれば、魔法を作れると思う。城に戻ったら、最適な説明書をウキちゃんに教えてあげてね」  ユキちゃんがそう言うなら絶対に作れるだろう。最終手段としては、服と同じ原理で、例えば懐中電灯を手にくっつけた人間に変身してもらえば、少なくともコミュニケーションは可能になる。 『二人ともありがとう。念のためにみんなに言っておくと、俺達はウキちゃんを便利道具として利用するつもりはない。ただ、ウキちゃんには、二つだけ協力してほしいことがある。  一つは、今の説明書のように、俺が指定する事典に変身して、イリスちゃんに知識を伝えてほしい。彼女が実物を見る必要があるなら、それにも変身して。  もう一つは、劇的に移動時間を短縮できる手段が欲しい。そうすれば、イリスちゃんにある程度の知識をすぐに伝えて戻ってこられるし、エフリー国にも国境の関所を経由せずに、すぐに密入国できる。  実は、具体的な目的地はもう決まっている。ウキちゃんがいなければ、そこで目的を達成するまでに最低一ヶ月はかかりそうなところを、早ければ三日で終わらせることができるようになる。  それに、道具とは関係なく、ウキちゃんの変身スキルや元の姿は他国での潜伏調査で大いに役立つ。例えば、装備ごと架空の兵になりすませば、機密情報を簡単に得ることができるし、足も付かない。元の姿であれば、城内の特定の人物も探しやすい。  エフリー城での情報収集と損害を与えることまで考慮しても、全てを一週間で終わらせることができる』 「うん、いいよ! 私、みんなの役に立ちたい!」 『ありがとう、嬉しいよ。少しでも嫌だと思ったり、改善した方が良いことがあったりすれば、遠慮なく言ってほしい。俺達の言うことを素直に聞く必要はない。人の意見を聞くことも大事だけど、自分で考えることも大事だからね。俺達が間違うこともあるかもしれないから。  それと、最後にもう一つ。シキちゃんが書いた魔法陣には他にもメッセージが隠されていた。二段階の暗号だったんだ。そもそも、図書室での話から、ウキちゃんの希望の名前と願いが召喚者のシキちゃんと代理のユキちゃんとで一致することを、シキちゃんが証明しなければならず、その手段は魔法陣に込めるしかない。  しかし、代理のユキちゃんがそれを読んで、すぐに分かってしまっては証明にならないから、一段階目の暗号を解いたあとでも、さらに暗号を入れ込んだ。と言っても、双子のシーユーを使った暗号より簡単だ。  今日午前、王が名付けた男爵位名の由来がヒントだった。この場合は単純で、書かれた魔法陣の文章の文節から最初の文字を拾っていけば、そのまま答えになる。文章は割愛するが、その答えは、ウキちゃんへのメッセージだった』  俺はそのメッセージを改めて別の紙に書いた。 『グッドラック アンド ビー ハッピー ディア ウキ』  日本語では、『あなたに幸運を そして 幸せにね 大好きなウキへ』。  話に出た言葉を使いながらも、メッセージ内の『幸運』はユキちゃん達の到来と治療、そして『勇運』をかけているようだ。  俺はみんなへの説明を続けた。 『ただ、そのメッセージだけを見ると、シキちゃんは幸せにならないのかと思ってしまうが、別のメッセージもあった。それは、俺達宛のシンプルな内容だった』  俺はそのメッセージも別の紙に書いた。 『ウェイティング フォー シュウチャン』  日本語では、『待ってるよ シュウちゃん』。  最後に俺からみんなへメッセージを書いた。 『みんなで会いに行こう!』  ウキちゃんを見ると、シキちゃんからの彼女宛のメッセージを見せてから目に溜まっていた涙が溢れ、頬を伝っていた。後ろのユキちゃんも涙ぐんでいるようだ。 「…………。これが涙なの……? こんな感情、初めてだよ……。シキちゃん……。シキちゃん! 絶対、会いに行くから!」  そんなに待たせる気はないよ、シキちゃん。まだ会ってもいないのに、君のことをみんな好きになってるから。そして、君にみんな会いたがってるから。  俺達がウキちゃんやユキちゃんの涙を舐め取って、落ち着いた頃、予め書いていたメッセージをみんなに見せた。だが、少し考えることが多くてまとめきれてはいなかった。 『それじゃあ、戻ろうか。ウキちゃんはヨルンに長時間触れられる? それなら、腕輪に変身しておけば、怪しまれず、安全に城に入れると思うけど、理論上は触れられないような気がする。  と言うか、やめた方がいいか。一度触ったら魔力停止で離せずに、魔力を削られ続けるような気がする。別の人に……いや待てよ、魔力停止ができていた時点でウキちゃんにヨルンの魔力粒子が触れていた。自分から出した魔力粒子は相手に触れることができるのであれば、ウキちゃんをヨルンの魔力粒子で覆えば何とかなるのかな。『反攻』の条件も絡んできそう。ユキちゃんとクリスはどう思う?』  クリスは頷いて、ユキちゃんに返答を任せた。 「うん、可能だと思う。正確には、少しだけ浮いた格好にはなるけどね。腕輪なら単純な形だし、動くわけでもないから、魔力粒子で覆うのは簡単。  でも、その前に、魔法生物に対する『反攻』の条件が別途設定されてるかもしれないから、検証してもいいんじゃないかな」 『ありがとう。じゃあ、こうしよう。ウキちゃんの唾液をヨルンの手の甲に垂らす。手を九十度回転させてそれを地面に垂らす。手の甲の唾液が消えずに少しでも残るようなら、次に人差し指で触れてみる。この手順で検証しよう。それだけでは経験値にならないけど、ウキちゃんの残った唾液は俺達が摂取する』 「分かりました。ウキちゃん、いいよ」 「うん。…………」  ヨルンが左手をウキちゃんの前に差し出すと、ウキちゃんは口の中で唾液を溜めてから、舌を伝って唾液を垂らした。ゆうがその唾液を摂取するために、ヨルンの左手の下方にスタンバった。 「ちょっとドキドキしますね」  ヨルンの気持ちは分かる。こんな状況はそうないからな。え、それは違う意味のドキドキだろって?  「あ、触れた感じがしました。手を傾けますね」  ヨルンは、肌に触れた唾液を垂らすために左手を傾けた。垂れた唾液をゆうが口を開けて飲み込んだ。 「え、おいしい……。魔法生物の体液でも経験値になるのかも」  ついでに検証したかったこともできて良かった。体液が単なる魔力ではないのか、俺達がそのように処理しているのかは分からないが、どうせなら経験値になってほしいからな。  ヨルンの左手はどうなってるかな。 「魔力粒子として消える気配はないですね。放っておけば、普通に蒸発する感じがします」  ゆうが次の検証のために、ヨルンの左手の甲の唾液を舐め取った。そして、ウキちゃんが人差し指でヨルンの左手を触った。彼女は、それで大丈夫と見て、手のひら全体でヨルンの左手を触った。 「触れる! 魔力も減らない!」  ウキちゃんが喜んでいた。良かった。これで夜の触れ合いも安心だ。 「それにしても、『反攻』は奥が深いですね。ヨルンくんとの基本的なコミュニケーションは否定していないということでしょうか。あくまで身を守るための『反攻』だと」 「うん、面白いよね。クリスタルは魔法生物じゃないってことだけど、性格を考えてみたらもっと面白そう。『反攻』の『白のクリスタル』は、すごく優しいけど怒ったら怖い、『勇運』の『紫のクリスタル』は、踏み出したら楽観的、それまでは悲観的、とか」  クリスの意見に、ユキちゃんが別視点で乗ってきた。 「ふふふっ、それは所持者本人の性格では? だからこそ、所持者というべきか。結局、私達が持つことも運命だったのかもしれないな。何より、それを今まで大事に持っていたことが運命か……。  おっと、そろそろ戻ろうか。夕食で行列に並ぶことになってしまう」 「はーい! ヨルンくん、左腕そのままにしておいて」  シンシアに対して、ウキちゃんが返事をして、ヨルンの左手首を軽く掴むと、シンプルな銀色、いや、灰色の腕輪に変身した。灰色だが輝きがあるように見える。  そう言えば、ウキちゃんのクリスタルは何色なんだろう。黒猫だったから『黒』だと思っていたのだが。 「ユキ、ウキのクリスタルは何色なんだ?『黒』か?」  お、シンシアが聞いてくれた。流石だ。 「うーん……。今の腕輪の色の……灰色じゃないかな。『灰のクリスタル』。何も意識しなければ、その色の物になると思う。  『黒』は……と言うか、違う色だけど、お姉ちゃんの腕輪は『玄のクリスタル』かな」 「そう言えば、ユキお姉ちゃんも腕輪だよね。しかも、クリスタルが外から見えない形状。やっぱり腕輪の方が良いのかな。僕自身は平気でも、ネックレスの耐久度が自然に下がって、落としそうで怖いんだよね」 「じゃあ、私が作ってあげようか? もし、白のクリスタルが不老不死になれるものなら、絶対に落とさないようにしないといけないし。これもイリスちゃんにその方が良いって言われて、自分で作ったものだよ」 「そうだよね。お願いしようかな」  そんな雑談をしながら、ユキちゃん達は倉庫の魔法陣を消し、特別教室の後片付けをして、預かった鍵を院長に返してから、城への帰路についた。  院長には、猫の魔法生物を無事助けることができて、お礼を示したあと、どこかに行ったとシンシアから話してもらった。ウキちゃんのことを詳しく話すと、チートスキルのことまで話さなければいけなくなるので、ある程度は隠しておくしかない。彼女に腕輪に変身してもらって、門兵や城内をやり過ごすのもそのためだ。  アドには、猫の姿を見せると約束しているので、存在をあとで確認してもらうことにしよう。夜を共にする姫やコリンゼには、やむを得ないので、変身できる魔法生物として紹介することにした。  イリスちゃんには帰宅時間を利用して、今日のことを簡単に報告し、その内、セフ村にウキちゃんが行くことも伝えた。



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