俺達と女の子が家族と別れて最高の村を実感する話(1/2)

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 パーティーから一夜明け、俺達にとっては十六日目の朝。  かなり早めの朝食をリーディアちゃんと一緒に、特別に部屋で食べさせてもらったアースリーちゃんは、帰る準備を整え終わって玄関にいた。  そこには、辺境伯夫妻とリーディアちゃん、シンシアとクリスが見送りに来ていた。宿泊者の朝食までにはまだ時間があるので、『騎士団長シンシアがここにいる』と気付かれる可能性は比較的低い。だが、今だけは気付かれてもいいという気持ちで、彼女はここにいるようだ。  俺達は、クリスの外套から顔を覗かせると共に、アースリーちゃんの脚にも、縮小化して巻き付いていた。 「皆さん、わざわざ見送りに来ていただいて、ありがとうございます。リディルお父様には、何とお礼を言っていいか分かりません。何度目かになりますが、改めて、今回のパーティーにご招待いただき、誠にありがとうございました。リーファお母様、私が憧れるぐらいに、とても優しく、素敵で、いっぱい甘えさせてもらいました。ありがとうございました。シンシアさん、クリスさん、その内、きっとセフ村にも来てくれますよね。お二人がいて、とても頼もしかったです。それに、かわいいところもたくさん見ることができて、嬉しかったです。ありがとうございました」  アースリーちゃんが一人一人の目を見つめて、心からの素直な気持ちと感謝の言葉を述べていった。  最後に、リーディアちゃんの前に一歩踏み出し、彼女の両手を握ったアースリーちゃんは、ニッコリと笑った。それだけで、リーディアちゃんの瞳から涙が溢れていた。 「リーちゃん、私ね。ここにいた日々が、なんでこんなに楽しかったんだろう、あっという間だったんだろうって改めて考えたの。答えは一つしか思い浮かばなかった。  リーちゃんがずっと側にいてくれたからだったんだって。昨日言ってくれたよね、離れたくないって。お別れは嫌だって。  ……私もだよ……。私だって……私だって離れたくないよ……! ずっと側にいたいよ……! また会えると分かってるのに……絶対に会えるのに……涙が……止まらない……。この答えも……きっと…………。リーちゃん! 大大大大大好きだよ!」  アースリーちゃんがリーディアちゃんに抱き付くと、すぐに二人は強く抱き締め合った。その場の全員が涙を流し、最初は悲しみの表情をしていたが、最後には笑顔でアースリーちゃんとそれぞれ抱き合っていった。 「何度も言うが、アースリー、君は私達の家族だ。これからの私達主催のパーティーでは主催者側、家族が招待される他のパーティーでも、その全てに参加してもらうぞ!」  辺境伯が涙ながらに、アースリーちゃんとの絆を約束した。 「アースリー、パーティー以外でも、いつでも来ていいからね。どんな時だって、愛するあなたに会いたいから……」  夫人が涙ながらに、アースリーちゃんへの愛を約束した。 「私も会いに行く。騎士に二言はない。また相談に乗ってくれ。城にも招待したい」  シンシアが涙ながらに、アースリーちゃんへの信頼を約束した。 「私達は必ず交わる運命です。アースリーさんとの思い出を、これからも積み重ねていきましょう」  クリスが涙ながらに、アースリーちゃんへの未来を約束した。 「アーちゃん、私達の関係は永遠に続く。あなたは私達にとって大切な存在。私達もあなたにとって大切な存在であり続けたい……ううん、あり続けると約束する。また、会いましょう!」  リーディアちゃんが涙ながらに、アースリーちゃんにその全てを誓った。 「うん! またね! みんな、大好きだよ!」  アースリーちゃんが涙ながらに、玄関の扉へ歩みを進めた。  その光景を、扉の前で待機して見ていたリーディアちゃんのお付きのメイド二人が涙ながらに、扉を開けた。 「アースリー様、お気をつけて!」 「私達も皆様と同じ気持ちです! どうぞ、パーティーのお土産です! 僭越ながら、私達メイド一同からの分も入っています!」  二人のメイドがアースリーちゃんに声をかけ、お土産を手渡した。それは、他の参加者がもらっていたものよりも明らかに大きい袋だった。  アースリーちゃんと直接話したことはなくても、リーディアちゃんと仲良くなったことを知ったり、一目見たり、食堂での会話を聞いたりして、その魅力を感じたメイドもいるのだろう。中身はまだ分からないが、お土産には彼女達の想いが詰まっているようだった。 「ありがとうございます! 大変お世話になりました! お二人も、お元気で! 皆さんにもよろしくお伝えください!」  アースリーちゃんは、メイドの二人に笑顔で返し、全員に手を目一杯に振って、屋敷を後にした。門までの間、アースリーちゃんが何度も何度もこちらを振り返ながら手を振り続け、見送りをしているみんなも、笑顔で手を振り続けていた。  門の前には、村長と馬車、そして護衛のアドが到着しており、アースリーちゃんと村長は、父親と娘の約三日ぶりの再会を喜んだ。  そして、アースリーちゃんが門番にも感謝の挨拶をして、馬車に乗り込む瞬間に、俺達は馬車の下に入り込み、逆さに張り付いた。街を出るまではここに張り付き、出たら壁を蔦って天板に移動する。  それから、アドの掛け声で馬車が進み始めた。車輪で土は飛び散るものの、俺達は馬車底の中央にいるので当たらない。車輪の回転音や馬車の揺れで、多少はうるさいが、耳をすませば、どうにか馬車の中の声を聞くことができた。 「アースリー、パーティーはどうだった?」 「最高だった! 本当に来て良かった! ありがとう、お父さん。そして、ごめんね。あの時は心配かけて……。完全に杞憂だったよ」 「いいんだよ。そもそもあの時だけじゃなくて、この街に宿泊してる時も、一人でアースリーのことを心配してたんだからな。わっはっは!」  それからアースリーちゃんは、ここでの思い出を楽しそうに語っていた。リーディアちゃんのこと、ユニオニル家との絆、パーティーまでの講習や囲碁、ダンスのこと。  その楽しげな様子から、二人にとって村への帰路はとても短く感じたかもしれない。  馬車が見えなくなるまで見送っていた辺境伯達は放心状態で、その場から動こうとはしているものの、その足取りは重かった。 「はぁ……こんな気持ちは、初めて経験したよ。カレイドと別れた時とも違う。しっとりとしていて、でも爽やかで、寂しくもあり、次に会えるのが楽しみでもある。『感動の別れ』では言葉が足りない、言い表せないな」 「もう! お父様ったら、すぐ研究者モードになって分析しようとするんだから。こういう時には、言葉は必要ないのです」  辺境伯の心情分析に、リーディアちゃんはかわいく怒って指摘した。 「ははは、申し訳ない。つい癖で。そろそろ、朝食で人が集まってくる時間になる。シンシアは部屋に戻った方が良いだろう。クリスは少しだけ話がある。立ち話ですまないが、ちょっと残っていてくれ」 「それでは戻ります。リーディアはどうする? 自分の部屋に戻るか?」 「いいえ。変わらず、あなた達の部屋に入り浸ることにするわ。たとえ、アーちゃんが帰っても、あなた達といられる一日を無駄にしたくないから」 「嬉しいよ、リーディア。行こうか」  シンシアとリーディアちゃんは二人で部屋に戻った。同時に、夫人も自室に戻っていき、メイド達も扉を閉めて、各自の仕事に戻った。  玄関ホールには、辺境伯とクリスの二人だけになった。 「さて、すぐに終わる話だ。明日には君もここを出発するが、君がいなくなると、催眠魔法を確認できる魔法使いがいなくなるから、何とかしたいと思うのだが、何か良い案があれば、その時まででかまわないから教えてほしい。もちろん、その分の報酬は出す」 「分かりました。考えてはみますが、あまり期待はしないでください。報酬は……それも少し考えさせてください」 「お、受け取ってくれると私も嬉しい。とりあえず、よろしく頼む。私は白湯を取りに行くから、ここで失礼するよ」  ユキちゃんなら何とかなるだろうか。彼女が起きたら聞いてみよう。  クリスが報酬を断らなかったのは、報酬が自分のためではなく、俺達のためになると思って、そうしたのだろう。金はあるに越したことはないし、俺もクリスが自分自身のために使ってほしいとは思っているが、俺達にと考えている場合は、その分を辺境伯への頼み事に回せると良いだろうか。念のため、クリスと話してみよう。  俺達はクリスと一緒に部屋に戻った。 「クリス、昨日話せなかったことを伝えておく。例の件だ。結論から言うと、レドリー卿は、クリスがエフリー国出身だとしても気にしないと思う。そこのソファーに座って話そう」  リーディアちゃんも含めて、三人がソファーに座ると、辺境伯から聞いた話の詳細について、シンシアがクリスに語った。 「シンシアさん、ありがとうございました。それでは明日、打ち明けたいと思います。それと……私からシュウ様にお願いしたいことがあります。先程の催眠魔法の確認方法について、ユキさんに事情をご説明いただき、彼女のアドバイス、または助力をいただけないでしょうか。  罠のように発動する確認魔法は可能なのですが、どれだけ魔力を込めても一時的なものなので、それほど長く保たないからです」  俺が考えていたことをクリスが提案してきた。やはり、通常の魔法では対処できないということか。  俺達は承諾し、ユキちゃんにメッセージを書いた。幸いにも、シンシアの話の途中で、ユキちゃんは目覚めていた。 『おはよう。朝早くからごめん。明日以降、辺境伯の屋敷に催眠魔法を使える魔法使いがいなくなるんだけど、その場合に催眠魔法を確認する方法があるか教えてほしい。ユキちゃんの魔法じゃないとダメなら、合流前に辺境伯の屋敷に寄ってもらうことも含めて』 「おはよう、シュウちゃん。全然いいよ。えっと、そうだなぁ……近くに魔力が供給されている物とかある? 結界じゃないけど結界みたいな」 『門や屋敷の壁には、魔力遮断魔法がかけられているって聞いた』  ユキちゃんの質問に、俺はクリスが話していた魔法の存在を思い出し、回答した。 「それなら可能かな。そこから魔力をもらう確認変化トラップを扉の内側に仕掛ける。扉を通るか、前に立つと罠が発動して、その人がかけられている魔法によって髪の色が原色変化する。消費魔力量を抑えたいのであれば、催眠確認魔法一つに絞る。  この方法なら、私の魔力変換連結魔法を使えば、催眠確認魔法を使えない魔法使いでも、魔力遮断壁に魔力を伝える作業一つで解決する」  以前のように、ゆうがユキちゃんの説明を聞いて、同時にクリスにも伝えていた。気になったことがあったので、俺から追加で質問した。 『初歩的な質問かもしれないけど、魔力を遮断するのに魔力を伝えることができるの? しかも、そこから魔力を供給することもできるっていう点が不思議に思った』 「うん。ちゃんと区別すると、人間の外と中で魔力の性質が違うんだよね。発動後の魔法に込められた魔力と、その前の純粋な魔力の違いとでも言うのかな。シンプルに『発動後魔力』『発動前魔力』って呼ばれてる。  魔力遮断魔法は、『発動後魔力』を遮断する魔法。そして、一度発動すれば、『発動前魔力』を供給して維持できる。供給する魔力は誰のものでもいい。それこそ、結界みたいにね。  でも、催眠魔法系は、誰でもいいわけではなくて、供給時の複雑性から、催眠魔法を使える人だけに限られる。シュウちゃんの理解力だったら説明不要かもしれないけど、複雑性を分かりやすく言うと、何て言えばいいのかな……魔法使いとその連れがいて、連れをある家の中に入れさせたい場合を考えればいいかな。  連れが魔力、家が遮断壁や確認トラップといった供給される側だとすると、家のドアに鍵がいくつも付いていて、それを全部開ける鍵を作れる魔法使いじゃないと、連れを中に入れることができない、とかかな。鍵が付いていない、誰でも入れるドアが、誰でも供給できるっていう意味。開けられさえすれば誰でも入れる、誰でも供給できるっていう意味でもある。催眠魔法を使えるレベルであればってことね。  逆に中の人に、『外に出ておいで』『こっちの家に入ってね』『鍵は全部開いてるからね』って案内するのが私の魔力変換連結魔法。案内がないと家屋間を移動できない。移動元の家には裏口があって、そこは誰でも入れるから、いくらでも中に人を送り込める、みたいな」  ユキちゃんの説明と例は分かりやすく、俺も完全に理解できた。きっと、その家では、魔法発動というパーティーが常時開かれ、時間になったら帰るのだろう。  彼女の口ぶりから、魔力変換連結魔法を動かない足に試すユキちゃんが想像できた。一体、どれだけの魔法を試してきたのか、その苦しみは想像したくない。魔法を創造する楽しさがあったことを祈ろう。 『説明ありがとう。よかったら、俺達との合流前の宿泊先も兼ねて、ユキちゃんに辺境伯の屋敷を訪ねて、その方法を実現させてほしい。素敵な人達が出迎えてくれるから。  でも、俺達のことはリーディアちゃんしか知らないから、辺境伯にはクリスから事情を説明しておいてもらう。送迎の馬車と護衛は、アースリーちゃんの帰りの人達に頼んでみる』 「うん、分かった」  ユキちゃんは返事をして、居間の両親に朝の挨拶をしに行った。 「シュウ様、ありがとうございました。魔力変換連結魔法ですか……。想像はできますし、近いものは考えたこともあるのですが、その時は、詠唱を含めた実現方法が分かりませんでした。新しい魔法を創造する時、どうやって、詠唱構築と魔力構築、それに発動時魔力変換を行っているのか、合流後にゆっくり聞いてみたいです」  クリスにとっては、ユキちゃんの知識こそが研究対象だろうな。 「さて、リーディア、これからどうしようか」  シンシアがリーディアちゃんとの思い出作りについて聞いた。 「私、お願いがあるんだけど……。二人に甘えてみたい。これまではアーちゃんといることが多かったから、甘える時もアーちゃんばかりだったけど、二人はアーちゃんとは違った、何と言うか……お姉様感があるから……。実際、年上だし。  二人がいなくなったら、その機会がなくなるから……。もちろん、シュウちゃんも一緒に」  素直に自分のしたいことを告白したリーディアちゃんの頬は、少し赤くなっており、恥ずかしそうだった。 「分かった。いっぱい甘えるといい。私もリーディアをいっぱいかわいがろう」 「私にお姉様感があるとは意外でしたが、かわいい『妹』の頼みです。優しく抱き締めてあげますね」  シンシアとクリスは、微笑んでリーディアちゃんを受け入れた。 「俺達はどうしようか。正直、どうすればいいか分からない」  リーディアちゃんを甘えさせる方法が思い付かなかったので、ゆうに聞いてみた。 「甘えさせるのが目的なら、でしゃばらなくてもいいんじゃない?『百合の間に入る男』みたいな、邪魔で迷惑な感じになっちゃうし。くっついた三人の膝の上か、お腹の上に重くならないように乗って、逆にあたし達が甘える態度でリーディアちゃんの顔を見てたら、多分、抱き付いてくるよ。それが、リーディアちゃんにとっても、甘えることになるはず」 「ありがとう、なるほどね。それじゃあ、そうしようか」  シンシアとクリスが、まずは、ソファーに座っているリーディアちゃんの両隣に座った。向かって右側のシンシアの右手が、リーディアちゃんの右手を、反対側のクリスの左手が、リーディアちゃんの左手を上から重ね、お互いの指を絡めた。それと同時に、リーディアちゃんの体に自身の体を寄せ、もう片方の腕を彼女の背中に回し、自分達に持たれ掛かれるようにした。  そのあと、俺達が彼女達の膝の上に乗り、身体を折りたたみながら、部首の『なべぶた』のような形で、リーディアちゃんの顔の前に頭を出した。 「リーディア、愛してるよ」 「私もリーディアのこと愛してる。私達に甘えていいからね」  シンシアがリーディアちゃんに愛を伝えると、クリスがいつもとは違う口調で、『妹』に話しかけた。 「ありがとうございます。シンシアお姉様、クリスお姉様」  今、彼女達は完全に姉妹となっていた。 「シュウちゃん、ありがとう。温かい……」  リーディアちゃんは、彼女達の手が重なりながらも、俺達を優しく抱き締めてくれた。俺達や姉達に、完全に心を許して、安心している表情だ。 「リーディア、頭を撫でてもいいか?」 「はい、遠慮なくどうぞ」 「では、私も撫でさせてもらいます」  リーディアちゃんに頭を撫でる許可をとったシンシアと、それに便乗したクリスが、彼女の頭を撫でる。 「よしよし、リーディアはかわいいな」 「リーディア、私達のかわいいかわいい妹」  頭を撫でながら、妹の両頬にそれぞれキスをする二人の姉達。 「私、幸せです。素敵なお姉様方にこんなにかわいがられて。私もお二人を愛しています」  お返しに、姉達の頬にキスをするリーディアちゃん。それを見ていた俺達も、彼女に近づき、キスをしてもらった。 「愛してるよ、シュウちゃん」  しばらく、全員が一つのソファーで寄り添い、その後は、服を脱いでベッドに移動した。と言っても、いつものように俺達が彼女達を悦ばせるのではなく、全員がソファーの時と同様にしていた。  至福の時間が過ぎていき、彼女達がうとうとしてくると、ついには全員眠ってしまった。その寝顔は、かわいく、安らぎに満ちていた。  昼食の時間になり、メイドが呼びに来るまで寝ていた彼女達は、すぐに食堂に行く準備をした。  その際、メイドからエトラスフ伯爵も同席すると伝えられた。午前中の打ち合わせ時に、レドリー辺境伯から、実はシンシアが滞在していると聞かされたエトラスフ伯爵が、久しぶりに是非会いたいとのことで、今の時間まで残っていたそうだ。シンシアがカレイドだったことは伝えていないという。  また、ディルスとリノスは、アリサちゃんとサリサちゃんとで、護衛を付けて街に散策に行っているとのことだった。  食堂に着くと、早速、エトラスフ伯爵がシンシアに近づいてきた。俺達は、いつものようにクリスの外套に隠れている。 「おお! シンシア、会いたかったよ!」 「ご無沙汰しております。エトラスフ卿」 「城では大変だったようだな。私が城に行っている時なら、かばってやれたんだがなぁ」  俺達がちらっと顔を覗かせて様子を伺うと、エトラスフ伯爵は声だけなく、本当に悔しそうな表情をしていた。 「シンシア、念のため、エトラスフ伯爵にも陛下への手紙を書いてもらった。『疾風の英雄』からの口添えなら、誰も文句を言えないだろう。明日渡すから、一緒に持っていくといい」 「ありがとうございます! レドリー卿、エトラスフ卿。本当に素敵な方々に恵まれているのだと、改めて思いました。  エトラスフ卿、そのお心遣いへの礼儀として、申し上げておかなければいけないことがあります。実は、私がここにいること以外にも、昨日から秘密にしていたことがあります。  ただ、それを口にすると、彼女の存在がまだここにあることになってしまい、全てをお話しすることはできません。今の私の言葉からお察しください。これが、私の『礼』です」  シンシアが、右手を胸に当てて、エトラスフ伯爵にお辞儀をした。この場合は、『礼』だけでなく、『義』も含まれているだろう。 「……彼女? そこに……?『礼』……か……。ふむ、なるほど……分かった。そうか……そうだったか。納得したよ。ならば、私の方からも『礼』をさせてくれ。シンシア、色々とありがとう。このような言い方しかできないのが、何とも言えないな。『粋』というヤツかな。おっと、それも口にしては成り立たないものだったか。もっと勉強していかないとな」  昨日の二次会での講義で学んだ単語を、早速使用したエトラスフ伯爵。彼のことだから、わざと口にして、『彼女』の言葉の意味をちゃんと理解していると伝えたのだろう。まさに、『粋』だな。  その後、エトラスフ伯爵は、クリスにも挨拶をしていた。彼は、門番だったクリスのことも覚えていて、そのただならぬ姿から、彼女が結界を張ったのかと、打ち合わせの時に自分から辺境伯に確認したらしい。  昼食時も、料理の合間に様々な話をエトラスフ伯爵が振っていて、いつもより会話の多い昼時となった。エトラスフ伯爵の二つ名である『疾風の英雄』の経緯についても話題に挙がり、それをクリスに説明していた。  十七年前のエフリー国との戦争で、監視や使者としての役割だけではなく、現レドリー辺境伯と一緒に戦略を考え、それに基づいた交渉内容を上に提案し、最後は戦場を駆け巡り、被害を最小限に抑えて、ジャスティ国を勝利に導いた。  そのことから、誰が広めたのか分からないが、二つ名が付けられると共に、功績が認められて、父親から受け継がれるずっと前に伯爵となり、一つの家に伯爵が二人存在するという、当時は前代未聞の事態になったとのことで、想像以上にとんでもなく優秀な人だった。  本来はそれに見合った領地が与えられるが、戦争で燃え尽きて、半隠居生活を送りたいという理由で、それを断ったところ、その場で一緒に叙勲されていたレドリー辺境伯から、『レドリー領の一部をエトラスフ領に割譲し、その分を新しい領地側に延長する、というのはいかがでしょう。元々、割譲部分はエトラスフ領の方が、統治効率が良いと思っていましたし、新しい領地については、私の辺境伯としてのノウハウがそのまま活かせます。かつても、エトラスフ領からレドリー領へ、同様のことがありましたし、問題ないかと』という提案をジャスティ王が受け入れたとのことだった。  かつての割譲や恩がどれぐらいのものかは分からないが、辺境伯もやはりやり手だ。仮に、戦争指揮官としてメインで戦略を考えたにしても、各方面で多大な働きをしたエトラスフ伯爵よりも功績は下のはずだが、それだけで伯爵級の領地を確保し、自分の地位も揺るがないようにした。  二人は演出大好き人間だから、それこそ、王の前でのやり取りは演出で、最初から二人で話し合っていたのかもしれないな。すごい世界だ。  それにしても、何となく思っていた通り、エトラスフ伯爵が魔法使いの村と交渉していた使者だったか。その時、なぜ功績を急いでいたかは、色々な意味で直接聞けないが、誰も損をしない方便だったのかもしれないな。  アースリーちゃんは、パーティーでの二人の挨拶の時には、エトラスフ伯爵の名前を聞いたことがなさそうな反応だった。村長は知っているはずだから、あえて名前を教えていないのだろう。ここにアースリーちゃんがいたら、どんな反応をしていたんだろうな。  昼食後、エトラスフ伯爵に別れを告げて、各自が部屋に戻る際、辺境伯からシンシアに声がかけられた。 「打ち合わせでエトラスフ伯爵と話したことを伝えておこう。伯爵にも話す許可をもらっている。都合が良い時間に私の部屋に来てくれ」 「承知しました。一度、部屋に戻ってから、すぐに行きます」 「分かった。それでは、私はついでに白湯を持っていくか」  その場で別れて部屋に戻ると、俺達は触手を増やして、シンシアの体に巻き付いた。 「では、行きましょうか、シュウ様。私が戻るまで、リーディアはクリスに思う存分甘えてくれ」 「それでは、クリスお姉様、シュウちゃん、ベッドで……」  リーディアちゃんとクリスは、服を脱いで、すぐにベッドに向かった。 「せめて、私が部屋を出てから脱いでほしいが……」  シンシアはそう言うと、万が一にも二人の姿が外から見えないように、部屋の扉を少しだけ開けて、辺境伯の部屋に向かった。  部屋の前の廊下を歩いていると、辺境伯も戻っている最中で、シンシアと一緒に部屋に入った。最初に来た時と同様に、俺達は棚の上に上がって話を聞く。 「さて、まず最初に謝っておくことがある。君に許可をとらずに、エトラスフ伯爵に君がここにいると話したことだ。申し訳ない。城内では、私を毛嫌いする者もいるから、手紙を書いていて少し不安になってね。エトラスフ伯爵の名前をお借りできれば心強いと思ったんだ」 「いえ、むしろありがとうございます。素晴らしいお心遣いです」 「そう言ってもらえると嬉しいよ。それでは、打ち合わせの内容を話そう。  それは、ウィルズくんとエトラスフ伯爵のご子息フィンスくんのことだ。将来、彼らを大臣にする。そのための方法を検討していた。もちろん、単なるコネではなく、彼らの実力と将来性を見込んでのことだ。具体的な方法については、まだ不確定で、この場では言えないが、君には私達の考えを知っておいてほしかった。  フィンスくんは政治、財務、経済を勉強、主に経済を中心に勉強していて、常日頃から、『政治、財務、経済の全てを考えられる人物が必要だ。同時に、財務と経済は、権限も一体化させる。そうすれば、予算を本当に必要なところに回せるし、国家経済が活性化しやすくなる』と言っている。  私も本人から話しを聞いたことがあるが、確かにそうかもしれない、やってみる価値はあると思った。大臣のポストを貴族に用意するために、増やしすぎたということもある。もちろん、必要なポストもあるが。  エトラスフ伯爵は、本当は今回のパーティーにもご子息を連れてきたかったが、『自分の計画』が失敗したら、自分達親子がウィルズくんに馬鹿にされるかもしれないと思って、連れてこなかったとおっしゃっていた。特に、他人に任せる碁の部分はギャンブルだったからね。  ウィルズくんは、性格さえ良くなれば、優秀な人物だとエトラスフ伯爵が密かに推していたらしく、やはり今回のことは『ウィルズ更生計画』の一環だったと告白してくれたよ。人の好き嫌いで評価せず、本質を見極める素晴らしい方だと改めて思ったな。  ウィルズくんを更生させたのは、あくまで彼が他者と関わる上で、今後必要なことだった。エトラスフ伯爵や私が平気でも、他の人は彼を嫌いになって、どんなに良いことや実績を上げても、悪評価に繋がってしまうからね。  ウィルズくんは、実は多方面で活躍できる素質を持っている。ボードゲーム繋がりで、戦略や戦術に詳しいが、実は文化にも詳しい。また、ルールや制約の範囲でどう動けるかをいつも考えているらしく、法律にも詳しい。  それらの内、戦略や戦術に詳しいとしても、国防についてはクレブや殿下方が担っているし、戦術については、騎士で実戦経験があることが条件だし、君がいるから空きはない。だから、考慮しないこととする。  父のプレアード伯爵は、労務に詳しく、政治面では、中央と地方の橋渡しも積極的に行っていて、他の貴族からの信頼も厚い。それを息子にも教育しているはずだし、もし教わっていなくても、これから教わればいい。彼の記憶力は、目を見張るものがあるから、短期間で修了できるだろう。  以上のことから、財務、経済、あるいは、総務、法務、労務に関わる重要な職務がもしあれば、彼らを推薦したいと思っている。  労務大臣は存在しないから、総務から労務部分を切り離した上で、まずはプレアード伯爵を推薦する方法も考えられるが、その場合は橋渡し役がいなくなり、かなりの影響があるからできない。  かと言って、父と連携しながらという前提だとしても、まだ名誉が回復しきっていないウィルズくんを、実績もなくいきなり大臣に推薦できない。いずれにしても、彼については少し時間を置く必要がある。大臣より下の職務であれば、それほど問題はないから、いつでも推薦できるが、それはそれで別の問題もある。大臣との意見の対立で左遷させられるとかね。  いずれにしても、もし、城でそのようなタイミングが来たら、私に連絡してほしい。もちろん、君から直接進言してもかまわない。  このことは、クレブには言っていない。人事に関しては、彼から相談がない限り、私からは進言しないようにしていて、双方合意している。国を動かすのは人、人を決めるのが王だからという理由でね。  ただ、その選択肢は多くあった方が良い。知らないと決めようがないこともあるだろう。そのため、私から推薦したい人がいれば、エトラスフ伯爵からご推薦いただくことになるが、身内を推薦する場合は非難されることが多いから、一番良いのは、君から推薦してもらうこと、というわけだ。君はどちらとも知り合いだからね」 「なるほど、その件は承知しました。私は、政治には明るくないのですが、そうおっしゃるということは、大臣の中には、すぐにでも代えた方が良いと思うほどの者がいる、ということでしょうか。まあ、心当たりがないわけではないですが、レドリー卿のお考えをお聞かせ願えないでしょうか」 「ふふっ、その通りだ。少なくとも、財務大臣、総務大臣は今すぐ代えた方が良い。前者は、予算編成を盾に、城内での権力をほしいままにし、あまつさえ、自らの予算管理責任や会計経理責任を棚上げし、君を全くかばおうともしなかった。  後者は、忙しいこともあるが、自分の責務をプレアード伯爵に押し付けて、一向に自分がやろうとせず、改善しようともしない。ハッキリ言えば、前者は『無能で害ある者』、後者は『無能な働き者』だ。この二人のせいで、国益も国力も大きく損なわれている。  クレブも、他に大臣候補者がいれば、すぐに代えたいだろう。だが、できていない。大臣以下の組織が腐り切っているんだ。下部の者達の多くは優秀らしいが、上からの圧力と、投げっぱなしにされた全く減らない仕事量、国益に沿わない形骸化した評価システムによって、十分に力を発揮できていない。  大きく刷新しなければ変わらないが、リスクが高い。城内政治や組織論も含めて、そのような立ち回りや体系を構築できる者は、そうはいない。上手く行っている組織の上を代えるのとはわけが違う。たとえ代えても何も成せない、それどころか、その者が潰れてしまう可能性が高い。だから安易に代えられない。  私達が推す二人であれば、その知識と経歴、それに教育環境から、その慢性的な問題を解決できる、ということだな。もちろん、城内での実務経験はあった方が良いに越したことはないが、二人は少なくとも領内では実務をこなしている。覚醒前のウィルズくんでさえね。  文句や嫌味を常に言いながら仕事をしていたらしいが、周囲は『それが彼だ』と開き直っていて、結果もちゃんと残していたので、上手く回っていたらしい。面白いだろ? プレアード伯爵が、裏で周囲のメンタル面をフォローしていたこともあるだろうが、ウィルズくんの仕事の面では一切フォローしていなかったというから、彼がいかに優秀か分かる。失敗したら厳しく言おうと思っていても、失敗しなかったから言えなかった。そのことも、彼を調子付かせた要因だろうな」  二人の会話には口を挟む隙がない。レベルが高い会話だ。強いて言えば、伯爵の息子とウィルズの有利な点として、辺境伯とエトラスフ伯爵の両方と信頼関係を結んでいることだろう。何かあれば、彼らがサポートしてくれるはずだ。 「組織が腐り切る前に対処できなかったのでしょうか。それとも、気付いた頃には腐り切っていたのでしょうか」 「良い指摘だね。後者だ。本当に、いつの間にか腐っていた。関心がなかったわけではない。巧妙に隠されていたんだ。気付いた頃には、手に負えなくなっていた。いや、気付いたと言うより、彼らが隠す必要がなくなって、開き直ったと言うべきかもしれない。  だから、具体的にどうやって隠されていたのかも分からないし、いつからそうなっていたのかも分からない。なぜ開き直ったのかさえ分からない。ずっと隠していればいいのにと思うだろ? ある意味、ホラーだよ。  そこから、国家特殊情報戦略隊に組織捜査課が設置されて、城内でも極秘裏に捜査を進めたところ、三日前に話した通り、スパイの破壊工作の疑いが出てきたというわけだ。どのように捜査して、その疑義を導き出したのかは、私にも教えてくれなかった」  ホラーか……。これも催眠魔法関連か? 「経済大臣、法務大臣と、その組織も同様ですか?」 「スパイについては、可能性は低いと見ている。組織も腐っていないようだ。  ただ、大臣は今すぐにとは言わないが、代えた方が良い。もしかすると、スパイに近い行為はしているかもしれないしな。  二人は同じタイプだが少し違う。前者は、失敗を恐れて動かないタイプで、後者は言われたことしかしないタイプ。どちらも自分からは動かない。  経済は何もしなくてもそれなりに上手く行っているからいいが、経済活性化については、過去に失敗を経験してトラウマになり、たとえ何かしたとしても、小粒のことしかしない経済大臣。本来は、失敗覚悟の、数で勝負しなければいけないのにな。その内、調理大臣にお株を奪われた。  一方、刑の執行や法案が決まればそれを通すが、下に指示もしないし、自分では法案を考えない法務大臣。裁判官や立案者が優秀であればいいが、そうでなかった時のリスクが高すぎる。また、本来は重大事件において、裁判官が見過ごした状況証拠や物的証拠がないか確認した後、論理的思考で最終判断を下したり、各大臣と連携して、中央と地方の両方からのヒアリングや、法案成立のためのアドバイスを組織内外で推進したりする役割のはずだが、そんなことは一切しない。冤罪者や法の抜け道を指摘されたことは数知れず。  裁判官や立案者からすれば、歓迎される存在だろうが、それなら存在する意味がない。効率のために行政と一体化させているのに、立法と司法を独立させた方がまだ良い。実際、調理大臣の法案提出の時も何も手伝わず、そのまま通しただけだった。  現経済大臣も現法務大臣も、やましいことがないようなら、別の職務に回った方が、良い働きをするかもしれないと私は思っている。引退するなら、それでもかまわない。  それに比べて、調理大臣と、そのご息女は本当に素晴らしい。大臣ご自身は謙遜しているが、実際に行動したのはご本人だし、組織については、ご息女からの意見は少しだけで、そのほとんどを設計し、人を配置したのもご本人だったと、直接お会いした時に聞いた。組織設計と人事が素晴らしいから、組織運営も上手く行く、というお手本を見せてもらったよ。  ご息女からもそれを褒められて嬉しかったとおっしゃっていて、その時の私は、娘のことが大好きな面白い人だなぁと思ったものだ。まだそこまで仲良くはなっていないが、大臣の中では信頼できる人だ。  しかし、皮肉なことに、調理大臣のおかげで、そのおこぼれをあげてもいないのに、経済大臣と法務大臣が勝手にもらっていったから、彼らが延命したと言っても過言ではない。クレブもタイミングを逃したと思ってるんじゃないかな」  どこの国でも、色んな問題はあるんだなぁ。さっきもそうだったが、辺境伯の言葉は、国益を損なう者に対しては、容赦のない辛辣さだ。しかし、流石と言うべきは、人格否定やポジショントークではなく、プロセスや実績で評価していることだろう。  調理大臣については、前にクリスに話していたシンシアとは別視点の、組織設計と組織運営についての感想を聞くことができた。  三権分立の考えがすでに存在していることも分かった。全員有能で、組織が腐敗しなければ、三位一体でもかまわないという考えもある。  それは、封建制度も同様だ。統治者や上流貴族が驕らなければ、国民は平穏に人生を送れるし、正当に評価されて出世することもあるだろう。  イリスちゃんはどう考えているんだろうな。今後、俺達の居場所を作っていく時には、普通は避けては通れない問題だが、ユキちゃんがいれば、どうにでもなるという考えもある。  まあ、いつも言っている通り、やるべきことをやるか。  改めて整理すると、当面は、朱のクリスタル、スキルツリー、経験値牧場といった俺達触手の大目的と、そこから派生した、監視者の動向確認、ユキちゃんの魔法仕事、大聖堂作戦の行方確認、魔剣士のチートスキル確認、シンシアの帰還報告、シキちゃんの捜索といった目的に分けられる。派生目的に追加や変更はあったが、とりあえず数は変わっていない。明日、城に向かって、その日を含めて四日後に着く予定だ。上手く行けば、そこでいくつかの目的を達成できるだろう。 「それでは、こんなところかな。夕食時にまた会おう。ご令嬢方もご同席なさるから、君のことは極秘調査でここに来ていると伝えておこうか。もしかしたら、事情をすでにご存知かもしれないが」 「はい、お願います。ありがとうございました。失礼します」  二人は前回と同じ締めの言葉で話を終えると、シンシアは辺境伯の部屋を後にし、俺達は触手を消した。 「辺境伯ってどんだけすごいの……。政治や政策にも詳しくて、戦略家とか。流石、王が信頼しているだけのことはあるって感じだよね」  ゆうが辺境伯に感心していた。それは俺も何度も思っている。  貴族社会なら当たり前のことなのだろうか。特に、敵国と接する辺境伯は優秀でなければならないが、それにしても類まれなる資質だ。 「そうだな。王が公爵令嬢の三女と四女をユニオニル家に紹介したことも、信頼あればこそだ。  特に四女のサリサちゃん。普通、貴族の長男以外は冷遇されるから、次男以下とお近づきになりたい令嬢はいない。紹介を断るか、受け入れたあとに、適当な理由を付けて、なかったことにするだろう。  それでも彼女は、リノスを選んだ。結婚後、ユニオニル家の誰からも冷遇されずに、幸せな家庭を築けることを確信していないと、王も彼女もできない選択だ。当然、アリサちゃんが豹変して冷遇することもない。  貴族の令嬢姉妹で仲が良いのもすごいことだ。一心同体、一蓮托生のように思っている節さえある。それに関連して、以前、辺境伯がシンシアのフォワードソン家の教育を見習ったと言っていた。知識や特技を身に付けるだけではないはずだ。  仮に、ユニオニル家も公爵家も、考え方がそこから来ていて、公爵家だけでなく王家もそうだとすると、フォワードソン家の影響は凄まじいことになる。にもかかわらず、話を聞く限り、城内でフォワードソン家の大臣がいそうな気配はないし、教育係にいたとしても、他の存在感は騎士団長のシンシアだけだ。  仮定が間違っているならそれでいいが、間違っていない場合、他にどこに影響力を及ぼしているのか気になる。これは勘だが、もしかして、国外なんじゃないかと思った。だとすれば、超戦略的だ。それを考えたのがどういう人物なのかも気になる」 「シンシアに聞いてみれば? ……と思ったけど、身内のこと詳しく話してるところ、あまり見たことないよね。お父さんから剣をもらった時ぐらいか。  他の家族と仲が悪いことはないと思うけど、聞かれてないから話さないだけなのか、積極的に話せないことがあるのか。あたし達が聞けば絶対に答えてくれるだろうけど、タイミングは見計らった方が良いのかな」 「城に行って状況を確認してからでも遅くない。聞くなら、報告成功以降だろうな」  シンシアが部屋の前まで戻り、そっと扉を少し開けて中に入ると、ベッドで横になったクリスとリーディアちゃんを見つけた。クリスはリーディアちゃんの頭を撫でており、隣のリーディアちゃんはクリスに抱き付いて、胸に顔を埋めていた。  ちなみに、俺達はずっと見ていたが、リーディアちゃんはクリスの母乳をたらふく飲んで、満足した状態がこれである。 「あ、おかえりなさいませ、シンシアお姉様!」  リーディアちゃんが上半身を起こし、弾けた笑顔でシンシアを迎えた。 「ただいま、リーディア。良い子にしてたかな?」 「はい! クリスお姉様が、『リーディアは良い子だから、いっぱい甘えていいよ』っておっしゃってくれて」 「それじゃあ、私にもその『良い子』の様子を見せてもらおうかな」  シンシアは、リーディアちゃんを誘うような表情で彼女に近づいた。服を脱ぎ、リーディアちゃんの左頬にキスをする。 「もちろんです、シンシアお姉様。たーくさん、ご覧ください」  二人の体が重なると、クリスはその様子を観察するためか、上半身を起こして少しだけ離れた。 「シュウ様がどんな気持ちで私達をご覧になっているか、少しでも拝察したいので、私はお二人を見ていますね。新たな境地に至ることができるかもしれません」 「なるほど、そういう考えもあるのか……。あとで、私もやってみよう」 「お姉様方が甘え合っている姿も、確かに見てみたいですね……。クリスお姉様、感服いたしました!」  クリスの言葉に、シンシアもリーディアちゃんも同意した。 「いよいよ、高みに至るか……。来い! 興奮と尊死の頂きに!」 「きも。」  ゆうも絶対に境地に至っているはずなのに……。  夕食の時間まで、三人は交代でペアを組み、一人が観察に回るというローテーションを繰り返した。  俺達は、その間の経験値が無駄にならないよう、邪魔をしない程度に彼女達の身体から体液を摂取していた。どうやら、全員が観察する楽しみを理解できたようだ。  最後は彼女達も十分満足していたが、それでも興奮冷めやらぬ感じで、俺達におねだりしてきたので、最高の満足感を味わってもらうことにした。  夕食には少しだけ遅れた。



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俺達と女の子が家族と別れて最高の村を実感する話(1/2)

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 パーティーから一夜明け、俺達にとっては十六日目の朝。  かなり早めの朝食をリーディアちゃんと一緒に、特別に部屋で食べさせてもらったアースリーちゃんは、帰る準備を整え終わって玄関にいた。  そこには、辺境伯夫妻とリーディアちゃん、シンシアとクリスが見送りに来ていた。宿泊者の朝食までにはまだ時間があるので、『騎士団長シンシアがここにいる』と気付かれる可能性は比較的低い。だが、今だけは気付かれてもいいという気持ちで、彼女はここにいるようだ。  俺達は、クリスの外套から顔を覗かせると共に、アースリーちゃんの脚にも、縮小化して巻き付いていた。 「皆さん、わざわざ見送りに来ていただいて、ありがとうございます。リディルお父様には、何とお礼を言っていいか分かりません。何度目かになりますが、改めて、今回のパーティーにご招待いただき、誠にありがとうございました。リーファお母様、私が憧れるぐらいに、とても優しく、素敵で、いっぱい甘えさせてもらいました。ありがとうございました。シンシアさん、クリスさん、その内、きっとセフ村にも来てくれますよね。お二人がいて、とても頼もしかったです。それに、かわいいところもたくさん見ることができて、嬉しかったです。ありがとうございました」  アースリーちゃんが一人一人の目を見つめて、心からの素直な気持ちと感謝の言葉を述べていった。  最後に、リーディアちゃんの前に一歩踏み出し、彼女の両手を握ったアースリーちゃんは、ニッコリと笑った。それだけで、リーディアちゃんの瞳から涙が溢れていた。 「リーちゃん、私ね。ここにいた日々が、なんでこんなに楽しかったんだろう、あっという間だったんだろうって改めて考えたの。答えは一つしか思い浮かばなかった。  リーちゃんがずっと側にいてくれたからだったんだって。昨日言ってくれたよね、離れたくないって。お別れは嫌だって。  ……私もだよ……。私だって……私だって離れたくないよ……! ずっと側にいたいよ……! また会えると分かってるのに……絶対に会えるのに……涙が……止まらない……。この答えも……きっと…………。リーちゃん! 大大大大大好きだよ!」  アースリーちゃんがリーディアちゃんに抱き付くと、すぐに二人は強く抱き締め合った。その場の全員が涙を流し、最初は悲しみの表情をしていたが、最後には笑顔でアースリーちゃんとそれぞれ抱き合っていった。 「何度も言うが、アースリー、君は私達の家族だ。これからの私達主催のパーティーでは主催者側、家族が招待される他のパーティーでも、その全てに参加してもらうぞ!」  辺境伯が涙ながらに、アースリーちゃんとの絆を約束した。 「アースリー、パーティー以外でも、いつでも来ていいからね。どんな時だって、愛するあなたに会いたいから……」  夫人が涙ながらに、アースリーちゃんへの愛を約束した。 「私も会いに行く。騎士に二言はない。また相談に乗ってくれ。城にも招待したい」  シンシアが涙ながらに、アースリーちゃんへの信頼を約束した。 「私達は必ず交わる運命です。アースリーさんとの思い出を、これからも積み重ねていきましょう」  クリスが涙ながらに、アースリーちゃんへの未来を約束した。 「アーちゃん、私達の関係は永遠に続く。あなたは私達にとって大切な存在。私達もあなたにとって大切な存在であり続けたい……ううん、あり続けると約束する。また、会いましょう!」  リーディアちゃんが涙ながらに、アースリーちゃんにその全てを誓った。 「うん! またね! みんな、大好きだよ!」  アースリーちゃんが涙ながらに、玄関の扉へ歩みを進めた。  その光景を、扉の前で待機して見ていたリーディアちゃんのお付きのメイド二人が涙ながらに、扉を開けた。 「アースリー様、お気をつけて!」 「私達も皆様と同じ気持ちです! どうぞ、パーティーのお土産です! 僭越ながら、私達メイド一同からの分も入っています!」  二人のメイドがアースリーちゃんに声をかけ、お土産を手渡した。それは、他の参加者がもらっていたものよりも明らかに大きい袋だった。  アースリーちゃんと直接話したことはなくても、リーディアちゃんと仲良くなったことを知ったり、一目見たり、食堂での会話を聞いたりして、その魅力を感じたメイドもいるのだろう。中身はまだ分からないが、お土産には彼女達の想いが詰まっているようだった。 「ありがとうございます! 大変お世話になりました! お二人も、お元気で! 皆さんにもよろしくお伝えください!」  アースリーちゃんは、メイドの二人に笑顔で返し、全員に手を目一杯に振って、屋敷を後にした。門までの間、アースリーちゃんが何度も何度もこちらを振り返ながら手を振り続け、見送りをしているみんなも、笑顔で手を振り続けていた。  門の前には、村長と馬車、そして護衛のアドが到着しており、アースリーちゃんと村長は、父親と娘の約三日ぶりの再会を喜んだ。  そして、アースリーちゃんが門番にも感謝の挨拶をして、馬車に乗り込む瞬間に、俺達は馬車の下に入り込み、逆さに張り付いた。街を出るまではここに張り付き、出たら壁を蔦って天板に移動する。  それから、アドの掛け声で馬車が進み始めた。車輪で土は飛び散るものの、俺達は馬車底の中央にいるので当たらない。車輪の回転音や馬車の揺れで、多少はうるさいが、耳をすませば、どうにか馬車の中の声を聞くことができた。 「アースリー、パーティーはどうだった?」 「最高だった! 本当に来て良かった! ありがとう、お父さん。そして、ごめんね。あの時は心配かけて……。完全に杞憂だったよ」 「いいんだよ。そもそもあの時だけじゃなくて、この街に宿泊してる時も、一人でアースリーのことを心配してたんだからな。わっはっは!」  それからアースリーちゃんは、ここでの思い出を楽しそうに語っていた。リーディアちゃんのこと、ユニオニル家との絆、パーティーまでの講習や囲碁、ダンスのこと。  その楽しげな様子から、二人にとって村への帰路はとても短く感じたかもしれない。  馬車が見えなくなるまで見送っていた辺境伯達は放心状態で、その場から動こうとはしているものの、その足取りは重かった。 「はぁ……こんな気持ちは、初めて経験したよ。カレイドと別れた時とも違う。しっとりとしていて、でも爽やかで、寂しくもあり、次に会えるのが楽しみでもある。『感動の別れ』では言葉が足りない、言い表せないな」 「もう! お父様ったら、すぐ研究者モードになって分析しようとするんだから。こういう時には、言葉は必要ないのです」  辺境伯の心情分析に、リーディアちゃんはかわいく怒って指摘した。 「ははは、申し訳ない。つい癖で。そろそろ、朝食で人が集まってくる時間になる。シンシアは部屋に戻った方が良いだろう。クリスは少しだけ話がある。立ち話ですまないが、ちょっと残っていてくれ」 「それでは戻ります。リーディアはどうする? 自分の部屋に戻るか?」 「いいえ。変わらず、あなた達の部屋に入り浸ることにするわ。たとえ、アーちゃんが帰っても、あなた達といられる一日を無駄にしたくないから」 「嬉しいよ、リーディア。行こうか」  シンシアとリーディアちゃんは二人で部屋に戻った。同時に、夫人も自室に戻っていき、メイド達も扉を閉めて、各自の仕事に戻った。  玄関ホールには、辺境伯とクリスの二人だけになった。 「さて、すぐに終わる話だ。明日には君もここを出発するが、君がいなくなると、催眠魔法を確認できる魔法使いがいなくなるから、何とかしたいと思うのだが、何か良い案があれば、その時まででかまわないから教えてほしい。もちろん、その分の報酬は出す」 「分かりました。考えてはみますが、あまり期待はしないでください。報酬は……それも少し考えさせてください」 「お、受け取ってくれると私も嬉しい。とりあえず、よろしく頼む。私は白湯を取りに行くから、ここで失礼するよ」  ユキちゃんなら何とかなるだろうか。彼女が起きたら聞いてみよう。  クリスが報酬を断らなかったのは、報酬が自分のためではなく、俺達のためになると思って、そうしたのだろう。金はあるに越したことはないし、俺もクリスが自分自身のために使ってほしいとは思っているが、俺達にと考えている場合は、その分を辺境伯への頼み事に回せると良いだろうか。念のため、クリスと話してみよう。  俺達はクリスと一緒に部屋に戻った。 「クリス、昨日話せなかったことを伝えておく。例の件だ。結論から言うと、レドリー卿は、クリスがエフリー国出身だとしても気にしないと思う。そこのソファーに座って話そう」  リーディアちゃんも含めて、三人がソファーに座ると、辺境伯から聞いた話の詳細について、シンシアがクリスに語った。 「シンシアさん、ありがとうございました。それでは明日、打ち明けたいと思います。それと……私からシュウ様にお願いしたいことがあります。先程の催眠魔法の確認方法について、ユキさんに事情をご説明いただき、彼女のアドバイス、または助力をいただけないでしょうか。  罠のように発動する確認魔法は可能なのですが、どれだけ魔力を込めても一時的なものなので、それほど長く保たないからです」  俺が考えていたことをクリスが提案してきた。やはり、通常の魔法では対処できないということか。  俺達は承諾し、ユキちゃんにメッセージを書いた。幸いにも、シンシアの話の途中で、ユキちゃんは目覚めていた。 『おはよう。朝早くからごめん。明日以降、辺境伯の屋敷に催眠魔法を使える魔法使いがいなくなるんだけど、その場合に催眠魔法を確認する方法があるか教えてほしい。ユキちゃんの魔法じゃないとダメなら、合流前に辺境伯の屋敷に寄ってもらうことも含めて』 「おはよう、シュウちゃん。全然いいよ。えっと、そうだなぁ……近くに魔力が供給されている物とかある? 結界じゃないけど結界みたいな」 『門や屋敷の壁には、魔力遮断魔法がかけられているって聞いた』  ユキちゃんの質問に、俺はクリスが話していた魔法の存在を思い出し、回答した。 「それなら可能かな。そこから魔力をもらう確認変化トラップを扉の内側に仕掛ける。扉を通るか、前に立つと罠が発動して、その人がかけられている魔法によって髪の色が原色変化する。消費魔力量を抑えたいのであれば、催眠確認魔法一つに絞る。  この方法なら、私の魔力変換連結魔法を使えば、催眠確認魔法を使えない魔法使いでも、魔力遮断壁に魔力を伝える作業一つで解決する」  以前のように、ゆうがユキちゃんの説明を聞いて、同時にクリスにも伝えていた。気になったことがあったので、俺から追加で質問した。 『初歩的な質問かもしれないけど、魔力を遮断するのに魔力を伝えることができるの? しかも、そこから魔力を供給することもできるっていう点が不思議に思った』 「うん。ちゃんと区別すると、人間の外と中で魔力の性質が違うんだよね。発動後の魔法に込められた魔力と、その前の純粋な魔力の違いとでも言うのかな。シンプルに『発動後魔力』『発動前魔力』って呼ばれてる。  魔力遮断魔法は、『発動後魔力』を遮断する魔法。そして、一度発動すれば、『発動前魔力』を供給して維持できる。供給する魔力は誰のものでもいい。それこそ、結界みたいにね。  でも、催眠魔法系は、誰でもいいわけではなくて、供給時の複雑性から、催眠魔法を使える人だけに限られる。シュウちゃんの理解力だったら説明不要かもしれないけど、複雑性を分かりやすく言うと、何て言えばいいのかな……魔法使いとその連れがいて、連れをある家の中に入れさせたい場合を考えればいいかな。  連れが魔力、家が遮断壁や確認トラップといった供給される側だとすると、家のドアに鍵がいくつも付いていて、それを全部開ける鍵を作れる魔法使いじゃないと、連れを中に入れることができない、とかかな。鍵が付いていない、誰でも入れるドアが、誰でも供給できるっていう意味。開けられさえすれば誰でも入れる、誰でも供給できるっていう意味でもある。催眠魔法を使えるレベルであればってことね。  逆に中の人に、『外に出ておいで』『こっちの家に入ってね』『鍵は全部開いてるからね』って案内するのが私の魔力変換連結魔法。案内がないと家屋間を移動できない。移動元の家には裏口があって、そこは誰でも入れるから、いくらでも中に人を送り込める、みたいな」  ユキちゃんの説明と例は分かりやすく、俺も完全に理解できた。きっと、その家では、魔法発動というパーティーが常時開かれ、時間になったら帰るのだろう。  彼女の口ぶりから、魔力変換連結魔法を動かない足に試すユキちゃんが想像できた。一体、どれだけの魔法を試してきたのか、その苦しみは想像したくない。魔法を創造する楽しさがあったことを祈ろう。 『説明ありがとう。よかったら、俺達との合流前の宿泊先も兼ねて、ユキちゃんに辺境伯の屋敷を訪ねて、その方法を実現させてほしい。素敵な人達が出迎えてくれるから。  でも、俺達のことはリーディアちゃんしか知らないから、辺境伯にはクリスから事情を説明しておいてもらう。送迎の馬車と護衛は、アースリーちゃんの帰りの人達に頼んでみる』 「うん、分かった」  ユキちゃんは返事をして、居間の両親に朝の挨拶をしに行った。 「シュウ様、ありがとうございました。魔力変換連結魔法ですか……。想像はできますし、近いものは考えたこともあるのですが、その時は、詠唱を含めた実現方法が分かりませんでした。新しい魔法を創造する時、どうやって、詠唱構築と魔力構築、それに発動時魔力変換を行っているのか、合流後にゆっくり聞いてみたいです」  クリスにとっては、ユキちゃんの知識こそが研究対象だろうな。 「さて、リーディア、これからどうしようか」  シンシアがリーディアちゃんとの思い出作りについて聞いた。 「私、お願いがあるんだけど……。二人に甘えてみたい。これまではアーちゃんといることが多かったから、甘える時もアーちゃんばかりだったけど、二人はアーちゃんとは違った、何と言うか……お姉様感があるから……。実際、年上だし。  二人がいなくなったら、その機会がなくなるから……。もちろん、シュウちゃんも一緒に」  素直に自分のしたいことを告白したリーディアちゃんの頬は、少し赤くなっており、恥ずかしそうだった。 「分かった。いっぱい甘えるといい。私もリーディアをいっぱいかわいがろう」 「私にお姉様感があるとは意外でしたが、かわいい『妹』の頼みです。優しく抱き締めてあげますね」  シンシアとクリスは、微笑んでリーディアちゃんを受け入れた。 「俺達はどうしようか。正直、どうすればいいか分からない」  リーディアちゃんを甘えさせる方法が思い付かなかったので、ゆうに聞いてみた。 「甘えさせるのが目的なら、でしゃばらなくてもいいんじゃない?『百合の間に入る男』みたいな、邪魔で迷惑な感じになっちゃうし。くっついた三人の膝の上か、お腹の上に重くならないように乗って、逆にあたし達が甘える態度でリーディアちゃんの顔を見てたら、多分、抱き付いてくるよ。それが、リーディアちゃんにとっても、甘えることになるはず」 「ありがとう、なるほどね。それじゃあ、そうしようか」  シンシアとクリスが、まずは、ソファーに座っているリーディアちゃんの両隣に座った。向かって右側のシンシアの右手が、リーディアちゃんの右手を、反対側のクリスの左手が、リーディアちゃんの左手を上から重ね、お互いの指を絡めた。それと同時に、リーディアちゃんの体に自身の体を寄せ、もう片方の腕を彼女の背中に回し、自分達に持たれ掛かれるようにした。  そのあと、俺達が彼女達の膝の上に乗り、身体を折りたたみながら、部首の『なべぶた』のような形で、リーディアちゃんの顔の前に頭を出した。 「リーディア、愛してるよ」 「私もリーディアのこと愛してる。私達に甘えていいからね」  シンシアがリーディアちゃんに愛を伝えると、クリスがいつもとは違う口調で、『妹』に話しかけた。 「ありがとうございます。シンシアお姉様、クリスお姉様」  今、彼女達は完全に姉妹となっていた。 「シュウちゃん、ありがとう。温かい……」  リーディアちゃんは、彼女達の手が重なりながらも、俺達を優しく抱き締めてくれた。俺達や姉達に、完全に心を許して、安心している表情だ。 「リーディア、頭を撫でてもいいか?」 「はい、遠慮なくどうぞ」 「では、私も撫でさせてもらいます」  リーディアちゃんに頭を撫でる許可をとったシンシアと、それに便乗したクリスが、彼女の頭を撫でる。 「よしよし、リーディアはかわいいな」 「リーディア、私達のかわいいかわいい妹」  頭を撫でながら、妹の両頬にそれぞれキスをする二人の姉達。 「私、幸せです。素敵なお姉様方にこんなにかわいがられて。私もお二人を愛しています」  お返しに、姉達の頬にキスをするリーディアちゃん。それを見ていた俺達も、彼女に近づき、キスをしてもらった。 「愛してるよ、シュウちゃん」  しばらく、全員が一つのソファーで寄り添い、その後は、服を脱いでベッドに移動した。と言っても、いつものように俺達が彼女達を悦ばせるのではなく、全員がソファーの時と同様にしていた。  至福の時間が過ぎていき、彼女達がうとうとしてくると、ついには全員眠ってしまった。その寝顔は、かわいく、安らぎに満ちていた。  昼食の時間になり、メイドが呼びに来るまで寝ていた彼女達は、すぐに食堂に行く準備をした。  その際、メイドからエトラスフ伯爵も同席すると伝えられた。午前中の打ち合わせ時に、レドリー辺境伯から、実はシンシアが滞在していると聞かされたエトラスフ伯爵が、久しぶりに是非会いたいとのことで、今の時間まで残っていたそうだ。シンシアがカレイドだったことは伝えていないという。  また、ディルスとリノスは、アリサちゃんとサリサちゃんとで、護衛を付けて街に散策に行っているとのことだった。  食堂に着くと、早速、エトラスフ伯爵がシンシアに近づいてきた。俺達は、いつものようにクリスの外套に隠れている。 「おお! シンシア、会いたかったよ!」 「ご無沙汰しております。エトラスフ卿」 「城では大変だったようだな。私が城に行っている時なら、かばってやれたんだがなぁ」  俺達がちらっと顔を覗かせて様子を伺うと、エトラスフ伯爵は声だけなく、本当に悔しそうな表情をしていた。 「シンシア、念のため、エトラスフ伯爵にも陛下への手紙を書いてもらった。『疾風の英雄』からの口添えなら、誰も文句を言えないだろう。明日渡すから、一緒に持っていくといい」 「ありがとうございます! レドリー卿、エトラスフ卿。本当に素敵な方々に恵まれているのだと、改めて思いました。  エトラスフ卿、そのお心遣いへの礼儀として、申し上げておかなければいけないことがあります。実は、私がここにいること以外にも、昨日から秘密にしていたことがあります。  ただ、それを口にすると、彼女の存在がまだここにあることになってしまい、全てをお話しすることはできません。今の私の言葉からお察しください。これが、私の『礼』です」  シンシアが、右手を胸に当てて、エトラスフ伯爵にお辞儀をした。この場合は、『礼』だけでなく、『義』も含まれているだろう。 「……彼女? そこに……?『礼』……か……。ふむ、なるほど……分かった。そうか……そうだったか。納得したよ。ならば、私の方からも『礼』をさせてくれ。シンシア、色々とありがとう。このような言い方しかできないのが、何とも言えないな。『粋』というヤツかな。おっと、それも口にしては成り立たないものだったか。もっと勉強していかないとな」  昨日の二次会での講義で学んだ単語を、早速使用したエトラスフ伯爵。彼のことだから、わざと口にして、『彼女』の言葉の意味をちゃんと理解していると伝えたのだろう。まさに、『粋』だな。  その後、エトラスフ伯爵は、クリスにも挨拶をしていた。彼は、門番だったクリスのことも覚えていて、そのただならぬ姿から、彼女が結界を張ったのかと、打ち合わせの時に自分から辺境伯に確認したらしい。  昼食時も、料理の合間に様々な話をエトラスフ伯爵が振っていて、いつもより会話の多い昼時となった。エトラスフ伯爵の二つ名である『疾風の英雄』の経緯についても話題に挙がり、それをクリスに説明していた。  十七年前のエフリー国との戦争で、監視や使者としての役割だけではなく、現レドリー辺境伯と一緒に戦略を考え、それに基づいた交渉内容を上に提案し、最後は戦場を駆け巡り、被害を最小限に抑えて、ジャスティ国を勝利に導いた。  そのことから、誰が広めたのか分からないが、二つ名が付けられると共に、功績が認められて、父親から受け継がれるずっと前に伯爵となり、一つの家に伯爵が二人存在するという、当時は前代未聞の事態になったとのことで、想像以上にとんでもなく優秀な人だった。  本来はそれに見合った領地が与えられるが、戦争で燃え尽きて、半隠居生活を送りたいという理由で、それを断ったところ、その場で一緒に叙勲されていたレドリー辺境伯から、『レドリー領の一部をエトラスフ領に割譲し、その分を新しい領地側に延長する、というのはいかがでしょう。元々、割譲部分はエトラスフ領の方が、統治効率が良いと思っていましたし、新しい領地については、私の辺境伯としてのノウハウがそのまま活かせます。かつても、エトラスフ領からレドリー領へ、同様のことがありましたし、問題ないかと』という提案をジャスティ王が受け入れたとのことだった。  かつての割譲や恩がどれぐらいのものかは分からないが、辺境伯もやはりやり手だ。仮に、戦争指揮官としてメインで戦略を考えたにしても、各方面で多大な働きをしたエトラスフ伯爵よりも功績は下のはずだが、それだけで伯爵級の領地を確保し、自分の地位も揺るがないようにした。  二人は演出大好き人間だから、それこそ、王の前でのやり取りは演出で、最初から二人で話し合っていたのかもしれないな。すごい世界だ。  それにしても、何となく思っていた通り、エトラスフ伯爵が魔法使いの村と交渉していた使者だったか。その時、なぜ功績を急いでいたかは、色々な意味で直接聞けないが、誰も損をしない方便だったのかもしれないな。  アースリーちゃんは、パーティーでの二人の挨拶の時には、エトラスフ伯爵の名前を聞いたことがなさそうな反応だった。村長は知っているはずだから、あえて名前を教えていないのだろう。ここにアースリーちゃんがいたら、どんな反応をしていたんだろうな。  昼食後、エトラスフ伯爵に別れを告げて、各自が部屋に戻る際、辺境伯からシンシアに声がかけられた。 「打ち合わせでエトラスフ伯爵と話したことを伝えておこう。伯爵にも話す許可をもらっている。都合が良い時間に私の部屋に来てくれ」 「承知しました。一度、部屋に戻ってから、すぐに行きます」 「分かった。それでは、私はついでに白湯を持っていくか」  その場で別れて部屋に戻ると、俺達は触手を増やして、シンシアの体に巻き付いた。 「では、行きましょうか、シュウ様。私が戻るまで、リーディアはクリスに思う存分甘えてくれ」 「それでは、クリスお姉様、シュウちゃん、ベッドで……」  リーディアちゃんとクリスは、服を脱いで、すぐにベッドに向かった。 「せめて、私が部屋を出てから脱いでほしいが……」  シンシアはそう言うと、万が一にも二人の姿が外から見えないように、部屋の扉を少しだけ開けて、辺境伯の部屋に向かった。  部屋の前の廊下を歩いていると、辺境伯も戻っている最中で、シンシアと一緒に部屋に入った。最初に来た時と同様に、俺達は棚の上に上がって話を聞く。 「さて、まず最初に謝っておくことがある。君に許可をとらずに、エトラスフ伯爵に君がここにいると話したことだ。申し訳ない。城内では、私を毛嫌いする者もいるから、手紙を書いていて少し不安になってね。エトラスフ伯爵の名前をお借りできれば心強いと思ったんだ」 「いえ、むしろありがとうございます。素晴らしいお心遣いです」 「そう言ってもらえると嬉しいよ。それでは、打ち合わせの内容を話そう。  それは、ウィルズくんとエトラスフ伯爵のご子息フィンスくんのことだ。将来、彼らを大臣にする。そのための方法を検討していた。もちろん、単なるコネではなく、彼らの実力と将来性を見込んでのことだ。具体的な方法については、まだ不確定で、この場では言えないが、君には私達の考えを知っておいてほしかった。  フィンスくんは政治、財務、経済を勉強、主に経済を中心に勉強していて、常日頃から、『政治、財務、経済の全てを考えられる人物が必要だ。同時に、財務と経済は、権限も一体化させる。そうすれば、予算を本当に必要なところに回せるし、国家経済が活性化しやすくなる』と言っている。  私も本人から話しを聞いたことがあるが、確かにそうかもしれない、やってみる価値はあると思った。大臣のポストを貴族に用意するために、増やしすぎたということもある。もちろん、必要なポストもあるが。  エトラスフ伯爵は、本当は今回のパーティーにもご子息を連れてきたかったが、『自分の計画』が失敗したら、自分達親子がウィルズくんに馬鹿にされるかもしれないと思って、連れてこなかったとおっしゃっていた。特に、他人に任せる碁の部分はギャンブルだったからね。  ウィルズくんは、性格さえ良くなれば、優秀な人物だとエトラスフ伯爵が密かに推していたらしく、やはり今回のことは『ウィルズ更生計画』の一環だったと告白してくれたよ。人の好き嫌いで評価せず、本質を見極める素晴らしい方だと改めて思ったな。  ウィルズくんを更生させたのは、あくまで彼が他者と関わる上で、今後必要なことだった。エトラスフ伯爵や私が平気でも、他の人は彼を嫌いになって、どんなに良いことや実績を上げても、悪評価に繋がってしまうからね。  ウィルズくんは、実は多方面で活躍できる素質を持っている。ボードゲーム繋がりで、戦略や戦術に詳しいが、実は文化にも詳しい。また、ルールや制約の範囲でどう動けるかをいつも考えているらしく、法律にも詳しい。  それらの内、戦略や戦術に詳しいとしても、国防についてはクレブや殿下方が担っているし、戦術については、騎士で実戦経験があることが条件だし、君がいるから空きはない。だから、考慮しないこととする。  父のプレアード伯爵は、労務に詳しく、政治面では、中央と地方の橋渡しも積極的に行っていて、他の貴族からの信頼も厚い。それを息子にも教育しているはずだし、もし教わっていなくても、これから教わればいい。彼の記憶力は、目を見張るものがあるから、短期間で修了できるだろう。  以上のことから、財務、経済、あるいは、総務、法務、労務に関わる重要な職務がもしあれば、彼らを推薦したいと思っている。  労務大臣は存在しないから、総務から労務部分を切り離した上で、まずはプレアード伯爵を推薦する方法も考えられるが、その場合は橋渡し役がいなくなり、かなりの影響があるからできない。  かと言って、父と連携しながらという前提だとしても、まだ名誉が回復しきっていないウィルズくんを、実績もなくいきなり大臣に推薦できない。いずれにしても、彼については少し時間を置く必要がある。大臣より下の職務であれば、それほど問題はないから、いつでも推薦できるが、それはそれで別の問題もある。大臣との意見の対立で左遷させられるとかね。  いずれにしても、もし、城でそのようなタイミングが来たら、私に連絡してほしい。もちろん、君から直接進言してもかまわない。  このことは、クレブには言っていない。人事に関しては、彼から相談がない限り、私からは進言しないようにしていて、双方合意している。国を動かすのは人、人を決めるのが王だからという理由でね。  ただ、その選択肢は多くあった方が良い。知らないと決めようがないこともあるだろう。そのため、私から推薦したい人がいれば、エトラスフ伯爵からご推薦いただくことになるが、身内を推薦する場合は非難されることが多いから、一番良いのは、君から推薦してもらうこと、というわけだ。君はどちらとも知り合いだからね」 「なるほど、その件は承知しました。私は、政治には明るくないのですが、そうおっしゃるということは、大臣の中には、すぐにでも代えた方が良いと思うほどの者がいる、ということでしょうか。まあ、心当たりがないわけではないですが、レドリー卿のお考えをお聞かせ願えないでしょうか」 「ふふっ、その通りだ。少なくとも、財務大臣、総務大臣は今すぐ代えた方が良い。前者は、予算編成を盾に、城内での権力をほしいままにし、あまつさえ、自らの予算管理責任や会計経理責任を棚上げし、君を全くかばおうともしなかった。  後者は、忙しいこともあるが、自分の責務をプレアード伯爵に押し付けて、一向に自分がやろうとせず、改善しようともしない。ハッキリ言えば、前者は『無能で害ある者』、後者は『無能な働き者』だ。この二人のせいで、国益も国力も大きく損なわれている。  クレブも、他に大臣候補者がいれば、すぐに代えたいだろう。だが、できていない。大臣以下の組織が腐り切っているんだ。下部の者達の多くは優秀らしいが、上からの圧力と、投げっぱなしにされた全く減らない仕事量、国益に沿わない形骸化した評価システムによって、十分に力を発揮できていない。  大きく刷新しなければ変わらないが、リスクが高い。城内政治や組織論も含めて、そのような立ち回りや体系を構築できる者は、そうはいない。上手く行っている組織の上を代えるのとはわけが違う。たとえ代えても何も成せない、それどころか、その者が潰れてしまう可能性が高い。だから安易に代えられない。  私達が推す二人であれば、その知識と経歴、それに教育環境から、その慢性的な問題を解決できる、ということだな。もちろん、城内での実務経験はあった方が良いに越したことはないが、二人は少なくとも領内では実務をこなしている。覚醒前のウィルズくんでさえね。  文句や嫌味を常に言いながら仕事をしていたらしいが、周囲は『それが彼だ』と開き直っていて、結果もちゃんと残していたので、上手く回っていたらしい。面白いだろ? プレアード伯爵が、裏で周囲のメンタル面をフォローしていたこともあるだろうが、ウィルズくんの仕事の面では一切フォローしていなかったというから、彼がいかに優秀か分かる。失敗したら厳しく言おうと思っていても、失敗しなかったから言えなかった。そのことも、彼を調子付かせた要因だろうな」  二人の会話には口を挟む隙がない。レベルが高い会話だ。強いて言えば、伯爵の息子とウィルズの有利な点として、辺境伯とエトラスフ伯爵の両方と信頼関係を結んでいることだろう。何かあれば、彼らがサポートしてくれるはずだ。 「組織が腐り切る前に対処できなかったのでしょうか。それとも、気付いた頃には腐り切っていたのでしょうか」 「良い指摘だね。後者だ。本当に、いつの間にか腐っていた。関心がなかったわけではない。巧妙に隠されていたんだ。気付いた頃には、手に負えなくなっていた。いや、気付いたと言うより、彼らが隠す必要がなくなって、開き直ったと言うべきかもしれない。  だから、具体的にどうやって隠されていたのかも分からないし、いつからそうなっていたのかも分からない。なぜ開き直ったのかさえ分からない。ずっと隠していればいいのにと思うだろ? ある意味、ホラーだよ。  そこから、国家特殊情報戦略隊に組織捜査課が設置されて、城内でも極秘裏に捜査を進めたところ、三日前に話した通り、スパイの破壊工作の疑いが出てきたというわけだ。どのように捜査して、その疑義を導き出したのかは、私にも教えてくれなかった」  ホラーか……。これも催眠魔法関連か? 「経済大臣、法務大臣と、その組織も同様ですか?」 「スパイについては、可能性は低いと見ている。組織も腐っていないようだ。  ただ、大臣は今すぐにとは言わないが、代えた方が良い。もしかすると、スパイに近い行為はしているかもしれないしな。  二人は同じタイプだが少し違う。前者は、失敗を恐れて動かないタイプで、後者は言われたことしかしないタイプ。どちらも自分からは動かない。  経済は何もしなくてもそれなりに上手く行っているからいいが、経済活性化については、過去に失敗を経験してトラウマになり、たとえ何かしたとしても、小粒のことしかしない経済大臣。本来は、失敗覚悟の、数で勝負しなければいけないのにな。その内、調理大臣にお株を奪われた。  一方、刑の執行や法案が決まればそれを通すが、下に指示もしないし、自分では法案を考えない法務大臣。裁判官や立案者が優秀であればいいが、そうでなかった時のリスクが高すぎる。また、本来は重大事件において、裁判官が見過ごした状況証拠や物的証拠がないか確認した後、論理的思考で最終判断を下したり、各大臣と連携して、中央と地方の両方からのヒアリングや、法案成立のためのアドバイスを組織内外で推進したりする役割のはずだが、そんなことは一切しない。冤罪者や法の抜け道を指摘されたことは数知れず。  裁判官や立案者からすれば、歓迎される存在だろうが、それなら存在する意味がない。効率のために行政と一体化させているのに、立法と司法を独立させた方がまだ良い。実際、調理大臣の法案提出の時も何も手伝わず、そのまま通しただけだった。  現経済大臣も現法務大臣も、やましいことがないようなら、別の職務に回った方が、良い働きをするかもしれないと私は思っている。引退するなら、それでもかまわない。  それに比べて、調理大臣と、そのご息女は本当に素晴らしい。大臣ご自身は謙遜しているが、実際に行動したのはご本人だし、組織については、ご息女からの意見は少しだけで、そのほとんどを設計し、人を配置したのもご本人だったと、直接お会いした時に聞いた。組織設計と人事が素晴らしいから、組織運営も上手く行く、というお手本を見せてもらったよ。  ご息女からもそれを褒められて嬉しかったとおっしゃっていて、その時の私は、娘のことが大好きな面白い人だなぁと思ったものだ。まだそこまで仲良くはなっていないが、大臣の中では信頼できる人だ。  しかし、皮肉なことに、調理大臣のおかげで、そのおこぼれをあげてもいないのに、経済大臣と法務大臣が勝手にもらっていったから、彼らが延命したと言っても過言ではない。クレブもタイミングを逃したと思ってるんじゃないかな」  どこの国でも、色んな問題はあるんだなぁ。さっきもそうだったが、辺境伯の言葉は、国益を損なう者に対しては、容赦のない辛辣さだ。しかし、流石と言うべきは、人格否定やポジショントークではなく、プロセスや実績で評価していることだろう。  調理大臣については、前にクリスに話していたシンシアとは別視点の、組織設計と組織運営についての感想を聞くことができた。  三権分立の考えがすでに存在していることも分かった。全員有能で、組織が腐敗しなければ、三位一体でもかまわないという考えもある。  それは、封建制度も同様だ。統治者や上流貴族が驕らなければ、国民は平穏に人生を送れるし、正当に評価されて出世することもあるだろう。  イリスちゃんはどう考えているんだろうな。今後、俺達の居場所を作っていく時には、普通は避けては通れない問題だが、ユキちゃんがいれば、どうにでもなるという考えもある。  まあ、いつも言っている通り、やるべきことをやるか。  改めて整理すると、当面は、朱のクリスタル、スキルツリー、経験値牧場といった俺達触手の大目的と、そこから派生した、監視者の動向確認、ユキちゃんの魔法仕事、大聖堂作戦の行方確認、魔剣士のチートスキル確認、シンシアの帰還報告、シキちゃんの捜索といった目的に分けられる。派生目的に追加や変更はあったが、とりあえず数は変わっていない。明日、城に向かって、その日を含めて四日後に着く予定だ。上手く行けば、そこでいくつかの目的を達成できるだろう。 「それでは、こんなところかな。夕食時にまた会おう。ご令嬢方もご同席なさるから、君のことは極秘調査でここに来ていると伝えておこうか。もしかしたら、事情をすでにご存知かもしれないが」 「はい、お願います。ありがとうございました。失礼します」  二人は前回と同じ締めの言葉で話を終えると、シンシアは辺境伯の部屋を後にし、俺達は触手を消した。 「辺境伯ってどんだけすごいの……。政治や政策にも詳しくて、戦略家とか。流石、王が信頼しているだけのことはあるって感じだよね」  ゆうが辺境伯に感心していた。それは俺も何度も思っている。  貴族社会なら当たり前のことなのだろうか。特に、敵国と接する辺境伯は優秀でなければならないが、それにしても類まれなる資質だ。 「そうだな。王が公爵令嬢の三女と四女をユニオニル家に紹介したことも、信頼あればこそだ。  特に四女のサリサちゃん。普通、貴族の長男以外は冷遇されるから、次男以下とお近づきになりたい令嬢はいない。紹介を断るか、受け入れたあとに、適当な理由を付けて、なかったことにするだろう。  それでも彼女は、リノスを選んだ。結婚後、ユニオニル家の誰からも冷遇されずに、幸せな家庭を築けることを確信していないと、王も彼女もできない選択だ。当然、アリサちゃんが豹変して冷遇することもない。  貴族の令嬢姉妹で仲が良いのもすごいことだ。一心同体、一蓮托生のように思っている節さえある。それに関連して、以前、辺境伯がシンシアのフォワードソン家の教育を見習ったと言っていた。知識や特技を身に付けるだけではないはずだ。  仮に、ユニオニル家も公爵家も、考え方がそこから来ていて、公爵家だけでなく王家もそうだとすると、フォワードソン家の影響は凄まじいことになる。にもかかわらず、話を聞く限り、城内でフォワードソン家の大臣がいそうな気配はないし、教育係にいたとしても、他の存在感は騎士団長のシンシアだけだ。  仮定が間違っているならそれでいいが、間違っていない場合、他にどこに影響力を及ぼしているのか気になる。これは勘だが、もしかして、国外なんじゃないかと思った。だとすれば、超戦略的だ。それを考えたのがどういう人物なのかも気になる」 「シンシアに聞いてみれば? ……と思ったけど、身内のこと詳しく話してるところ、あまり見たことないよね。お父さんから剣をもらった時ぐらいか。  他の家族と仲が悪いことはないと思うけど、聞かれてないから話さないだけなのか、積極的に話せないことがあるのか。あたし達が聞けば絶対に答えてくれるだろうけど、タイミングは見計らった方が良いのかな」 「城に行って状況を確認してからでも遅くない。聞くなら、報告成功以降だろうな」  シンシアが部屋の前まで戻り、そっと扉を少し開けて中に入ると、ベッドで横になったクリスとリーディアちゃんを見つけた。クリスはリーディアちゃんの頭を撫でており、隣のリーディアちゃんはクリスに抱き付いて、胸に顔を埋めていた。  ちなみに、俺達はずっと見ていたが、リーディアちゃんはクリスの母乳をたらふく飲んで、満足した状態がこれである。 「あ、おかえりなさいませ、シンシアお姉様!」  リーディアちゃんが上半身を起こし、弾けた笑顔でシンシアを迎えた。 「ただいま、リーディア。良い子にしてたかな?」 「はい! クリスお姉様が、『リーディアは良い子だから、いっぱい甘えていいよ』っておっしゃってくれて」 「それじゃあ、私にもその『良い子』の様子を見せてもらおうかな」  シンシアは、リーディアちゃんを誘うような表情で彼女に近づいた。服を脱ぎ、リーディアちゃんの左頬にキスをする。 「もちろんです、シンシアお姉様。たーくさん、ご覧ください」  二人の体が重なると、クリスはその様子を観察するためか、上半身を起こして少しだけ離れた。 「シュウ様がどんな気持ちで私達をご覧になっているか、少しでも拝察したいので、私はお二人を見ていますね。新たな境地に至ることができるかもしれません」 「なるほど、そういう考えもあるのか……。あとで、私もやってみよう」 「お姉様方が甘え合っている姿も、確かに見てみたいですね……。クリスお姉様、感服いたしました!」  クリスの言葉に、シンシアもリーディアちゃんも同意した。 「いよいよ、高みに至るか……。来い! 興奮と尊死の頂きに!」 「きも。」  ゆうも絶対に境地に至っているはずなのに……。  夕食の時間まで、三人は交代でペアを組み、一人が観察に回るというローテーションを繰り返した。  俺達は、その間の経験値が無駄にならないよう、邪魔をしない程度に彼女達の身体から体液を摂取していた。どうやら、全員が観察する楽しみを理解できたようだ。  最後は彼女達も十分満足していたが、それでも興奮冷めやらぬ感じで、俺達におねだりしてきたので、最高の満足感を味わってもらうことにした。  夕食には少しだけ遅れた。



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