俺達と女の子達が調査報告して国家の英雄になる話(3/3)

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「いやー、こんなに長くなるとは思わなかったよ。大人版『魔王と姫ごっこ』」  ゆうが疲れたような声で話しだした。 「そうだな。『なんちゃって』で早々に終わるかと思ってたが、できるだけリアルを追求すると、流れを切りたくないから、やっぱり長くなるか。  シンシアがカレイドになりきるのが早かったのは、昔からこういう遊びをやっていたからなんだな。『リアルおままごと』の系譜だろう。言わば、『リアルファンタジーごっこ』か。  それにしても、ゆう。心が折れるの早すぎだろ。空気読めよ」 「いや、あたし達が演技する必要なんて全くないから! 何が『体が勝手に……』よ! もういつもの流れすぎて、慣れちゃっただけでしょうが!  まあ、でも、姫がかわいすぎて、『何も考えられなくなる』のは分かるけど」 「まあ、それもいつものことなんだけどな。かわいい子が多すぎるんだよ。本当はアリサちゃん達にも接触したいけど、相手がいる場合は避けてるからな。  マンネリ防止で俺達を参加させてもらえるとかなら、可能性はあるが。レドリー辺境伯夫人とかどうなんだろうな。リーディアちゃんがさらに輪を広げてくれればいいけど」 「あ! ねえ、あたし達、レベルアップしてない? そのリーディアちゃんのおかげだ。あれから追加で、三人メイドを引き込んでくれたから。それと、今の姫とシンシアの絡みで」 「おお、本当だ。レドリー邸は、経験値牧場支部みたいなものになるのか。同じようなことをこの城でもできたらいいとは思うけど、姫の場合は他の女の子と接点がないから厳しいかもしれないな。  接点があるとするなら、貴族や他国の来賓だが、そこまで信頼できる人はいないだろうし。ただ、何かあった時は助けてくれたらいいなとは思う。お互いにな」  俺達は、セフ村を出発する前の打ち合わせで、イリスちゃんから使命を与えられていた。あの場では目での合図に留まっていたが、それはシンシアのいる前で口にできなかったからだ。  あの時、イリスちゃんは、『身分は問わない』と言った。その意味は、できるだけ身分が上の人に接触すること。それはつまり、リーディアちゃんのような貴族の娘や、それ以上の姫、または王妃の籠絡だ。経験値の輪を広げやすいし、交渉や権力が必要になった時に、助けてくれる。  もちろん、打算的な考えだけで近づいたわけではない。かわいいから、好きになったから、幸せにしてあげたいから、がほとんどの理由だ。結果的にそうなっただけなのだ。  イリスちゃんがシンシアの前で話さなかったのは、シンシアの王族に対する忠誠心から、もしかしたら嫌な顔をするかもしれないと思ったのだろう。しかし、その心配はなかった。忠誠心が失われたわけではない。本当に姫を想うからこそ、俺達を接触させたのだ。  シンシアは俺達とも姫とも、一緒に幸せになりたいと考えているということだ。 「姫が『おてんば姫』だったら、城での調整とかしないで、シンシアに付いてくるかもよ? 創作ではありがちじゃん」 「シンシア達の側が世界で一番安全だから、その点では問題なさそうだが、外交と国内視察はどうなんだろうな。王妃と第二王子だけが担当しているわけではないから、穴が空くはずだ。  特に視察は、王族がその場に行くことで、現地民の警備訓練の実践やイベント主催の経験ができ、さらに観光資源の創出にも繋がる。『王族も絶賛!』『王族御用達!』ってヤツだな。王族にも、ちゃんと仕事があるんだよ。それを放り出すのかどうか。  それと、もう一つ。姫が冒険に出ていると知られると、姫を狙う者が出てくる。最初に言った通り、姫自身は安全だが、それを知らずに、あるいは知っててもなお、彼女を狙う者達が周辺の町を行き来するようになり、時には衝突して治安が悪くなる。もちろん、そういう奴らを一網打尽にできるメリットはある。  では、姫が冒険に出ることで、それらの国益を超えられる何かがあるかと言うと、ない。あったとしても全てが運だろう。つまり、個人的な欲求を満たす『ワガママ』でしかない。  そういう意味では、『姫騎士』も同じだ。捕らえられた時のリスクがでかすぎる。それなら、たとえ『姫騎士』が一騎当千の強者でも、それに値する騎士や一般国民を用意した方が良いし、前線に立つよりも、隠密行動をして敵国の指導者達を全滅させた方が良い。  国が窮地なら、亡命して王族再興の機を伺った方が良い。亡命しないなら、『最後まで戦う』と言わずに、責任を取って自害するべきだろう。陵辱展開を望む性的嗜好なら、さっさと投降すべきだ」 「お兄ちゃん、よくそれで同人誌読めたね。同人誌に限らないけど、その辺の作品なら、ツッコミどころ多すぎて、つまらないでしょ」 「一周目はツッコミなしで読む。二周目はありで読む。そのツッコミ部分が、実はしっかり練られているものだったら評価する。そうでなくても、それを無視できるほど面白ければ、当然評価する。  しかし、一周目で手が止まるほど、頭に引っ掛かるほどのツッコミどころがあり、それが全く説明されない場合や、納得行かない説明がされた場合は駄作だ。小さいツッコミどころは伏線としてあとで説明してもいいが、大きいものはすぐに説明すべきだ。物事、事象には必ず理由があるんだよ。  架空の世界だとしても、読んでる人はその世界に入り込んでるんだから、現実と同じだ。大抵は合理的な理由があって、そうでなければ、感情的な理由だが、それが共感できないとキャラに説得力や魅力がないということになり、こいつはもう見たくない、死んでほしいとなる。前に話題に挙がった、殺人者は死んでほしいとか、三流の戦いとかだな。  一方、『俺達の現実』を物語とするなら、例えば、世界最高戦力のシンシアが冤罪をかけられピンチになった話を聞いた時、イリスちゃんから何の説明もなかったら、『国王バカすぎだろ』と思って、そこで引っ掛かる。  しかし、バカかどうか、真実はさておき、理由がありそうだと言うだけでも、読者の頭には引っ掛からずに『保留』される。別に忘れていてもいいんだ。あとの展開で思い出せれば。やっぱりバカだった、でもな。  まあ、その場合は肩透かしになるが、それを言うなら、これも前に言った通り、俺の推察だって肩透かしになることもあるし、茶番を見抜けないことだってある。それが現実だ。俺はそういった『保留』の連続思考と共に生きている。イリスちゃんも多分そうだ」 「かっこいいこと言ってるけどさぁ。物語で大事なのは勢いでしょ。それとカタルシス。お兄ちゃんの今の説明、文字にしたら何文字消費した? 説明が多すぎると、それだけで読者は離れていくんだよ」 「お前の口からそんな台詞が出るとはな。俺が居間で、それこそ勢いとカタルシスがある、巷で熱いと評判のバトルアニメを見てた時、なんて言ってたかな?  『このバトル長すぎない?』  『このバトルで何を魅せたいの?』  『必殺技叫ぶ必要ある?』  『いや、このバトルそもそも必要なかったよね? 感動シーンを見せたいなら、最初から話し合えば解決するでしょ』  『これ、自作自演の内輪暴力感動ポルノだよね』  とか、酷いツッコミをしまくってただろ」 「その時のお兄ちゃんの回答は何だったけなぁ。  『かっこいいからいいんだよ』  『男のロマンだよ』  『もちろん、男のロマンだよ』  『終わり良ければ全て良しだよ』  『誰しもポルノは見たいんだよ』  とか言って、めちゃくちゃテキトーだったよね? お兄ちゃんこそ、『男のロマン』で手のひらドリル装備したら?  物語って言うからには、シナリオの円滑な進行が求められてるわけ。そんなアニメ、それこそツッコミどころ満載で引っ掛かるでしょ。必要な展開と、それに必要な最低限の説明はするけど、それ以外は省いて、あとは展開に合わせて少しずつ説明していかないと、お兄ちゃんじゃないんだから怒涛の説明なんて頭に入らないでしょ」 「俺はお前みたいに、視聴と理解と考察と会話を並行してできないんだよ。だから、一定量の情報が出るまで口を挟まないし、挟めない。ましてや、触手生活のように、危機と隣り合わせというわけでもない。張り詰めた状況でないなら、テキトーな返しになるのも当然だろう。  それに、ああいう返しをした手前、『やっぱりクソアニメだったわ』とは言えないだろ。  あと、俺はあまり読まないが、殺人事件の探偵推理作品を想像してみるとどうだ? 説明が多いし、展開はあまり進まない。進みすぎると何十人も死ぬことになるからな。解決へのヒントが散りばめられている日常描写と説明が必然的に多くなる。カタルシスはあるが、結末は大体決まっている。当然、視聴者や読者は、常に考えながら作品に向き合うことになる。  『推理作品』は、テーマは別にして、推理が主な作品だ。だとすれば、推理ではなく推察が主な作品は『推察作品』、説明が主な作品は『説明作品』と呼んでもいいかもしれない。推察を楽しむ、説明を楽しむということだ」 「言ってることは分かるけどさぁ。マイナーなんだよなぁ……。もう、『自己満足研究家シュークン』だよね」 「俺は『女子幸福研究家シュークン』だよ」 「うざ。怪しい勧誘とかしてそう」  とりあえず、お互いを少し褒め合って、共感できる話題を挙げたところで、俺達の議論は結論が出ないまま『保留』にした。このやり取り、久しぶりだな。  ゆうが、なぜそこまで作品のシナリオ構成や人気作品の要件に詳しいかは今度聞くとしよう。俺は満足したが、『この議論長すぎない?』『この議論で何を魅せたいの?』と思った人もいるかもしれない。それは君自身で考えてみてくれ! メタ伏線の回収もあるぞ!  「ふぅ……。シュウ様、私達の『遊び』にお付き合いいただき、ありがとうございます。もしかすると、驚かせてしまったかもしれませんね。申し訳ありません」  休憩して少し落ち着いたシンシアが上半身を起こして俺達に話しかけてきた。俺達は『そんなことない』という意味で、シンシアの両頬を舐めた。  実際、声色が変わった時は、碧のクリスタルの影響を疑ったが、すぐに『男の娘ゲーム』での姫の会話にあった『魔王と姫ごっこ』のことを思い出し、さらにシンシアが『魔王』を肯定した時点で、触神様に魔王は存在しないと確認したことと合わせて、二人の『遊び』だと確信した。  魔王が存在しないことは、二人には言わない方が良さそうだな。今後の『遊び』のリアリティに影響するからだ。 「シン……シア……? 今、シンシアの声が……。で、でも、眷属様がいらっしゃって……。やはり、夢ではない……。ま、魔王様、大変失礼いたしました。寝ぼけて混乱してしまいました」  目覚めかけの姫が、シンシアのいつもの声を聞いて、思わず上半身を起こしたが、俺達が身体の上に乗っている姿を見て、『現実』を認識したようだ。 「姫、私は『シンシア』です。『魔王と姫ごっこ』は終わりました。こちらの触手は、シュウ様です。この方のおかげで、私の命は救われました。私が死にたくなったのは本当なのです。  しかし、シュウ様が私に生きる希望をお与えくださった。  セフ村のイリスという少女が私の真の目的を導き出してくれた。  アースリーが私と一緒にレドリー卿からの信頼を得てくれた。  リーディア含めたユニオニル家、エトラスフ卿、アリサ様、サリサ様が私にお力をくださった。  クリスとヨルンが私の報告を手助けしてくれた。  ユキが私と我が国の危機を救ってくれた。  振り返ってみれば、私の調査の旅は、色々な人々に助けられてばかりでした。  そして今、この部屋で姫とお会いして……、昔の遊びをして……、やっと……やっと戻ってこられたような気がして……!」  シンシアの目から涙が溢れた。それだけではない。これまで俺達にさえ見せたことがない、子どもが泣きじゃくるような表情をしていた。その涙と一緒に、これまでの思いが溢れ出してきているのだろう。  やっと、全ての感情を吐露できる場所が『ここ』だったのだ。 「シンシア……嬉しい。私も同じ……同じです……!」  姫がシンシアを優しく抱き締めた。彼女もシンシアと同じく、涙が溢れ、言葉に詰まっていた。 「姫と……、こうして……、心と……、想いを通わせることができて……、心の底から……、喜びが溢れてきます……」 「私は、あなたと離れてやっと分かったんです……。自分の秘めた想いに……。憧れもあるかもしれませんが、私は愛だと思っています。あなたを見送ったあと、追いかけるべきだった、それこそが国益だったと、何度後悔したか分かりません。  でも、あなたは戻ってきてくれた。それも、誰もが驚く成長を遂げて……。仮に、あなたが『魔王』を演じなくても、私はあなたとこうしていました。拒否しても王族権限を使っていましたよ。それぐらいあなたへの想いが溢れていたのです。  シンシア、あなたを愛しています」  姫はシンシアの左頬に右手を当てて、愛の告白をした。 「姫、私もです。私もあなたを愛しています……。でも、王族権限を使われたら、城下町の中心まで姫を連れ出して、『ここでも同じことができますか? 権限も尊厳も捨てられる覚悟がありますか?』と真の愛を確かめますね」 「望むところです。私の『ふしだらな夢』が二つ同時に叶うのですから。シンシアもそうでしょう?」 「ぷっ! あははは!」 「うふふふ」  二人は真面目な告白のあととは思えないほど、流れた涙はそのままに、大笑いした。  笑いが収まると、二人はおでこをくっつけ合い、手を繋ぎ、そして、どちらからともなく、お互いの愛を確かめるようにキスをした。 「全裸で幸せなキスをする二人、どうしたってシリアスにはならないけど、絵にはなるなぁ。姫の寝ぼけた姿もかわいかったし、何しても絵になるなんてズルいよ」 「ゆうの寝ぼけは、酷いなんてもんじゃないからな」 「はぁ? 寝ぼけたことなんて、あたし、一度もないけど」 「いや、だってお前あの時、寝ぼけて俺に……。もしかして、記憶が改ざ……」 「お兄ちゃんが寝ぼけてたんじゃないの?」  夢精して完全に目が覚めない男はこの世にいないんだよ! 「まあ、どうでもいいや。そんなことより、ユキちゃん達はどうするの? ヨルンの一人耐久レースが続いてるんだけど」  何が『そんなこと』なのかは分からないが、向こうでは、合流したクリスが、ヨルンとユキちゃんにも搾乳魔法をかけて、今ではヨルンがユキちゃんのおっぱいを飲みながら、ユキちゃんの手とクリスの口で、延々とヨルンの搾精と搾乳が繰り返されている。『ヨルンフェロモン』に気を付けつつ、そのおこぼれを俺達ももらって、すでに十分量の体液は摂取できていた。  『おねショタ』から『ママショタ』に移行しているユキちゃんとクリスに囲まれたヨルンは、姫と同じく豚のような声を出し、半分白目を向いたその表情からも、永遠に続くと錯覚するほどの快楽園を満喫しているに違いない。『反攻』があるから、気絶させられることもないんだろうな。 「向こうに意識を移したいが、こっちもまだ続きそうなんだよなぁ。俺には、同時に複雑な操作はできないから、ゆう、頼む。現状なら、クリスを準備万端にさえしておけば大丈夫だろう。単純なことなら俺に指示してくれてかまわない」 「おっけー。」  そして、ゆうが『あの時』のことを思い出す前に、シンシア達がキスを止めて、体を離した。 「今回の旅で、私が役に立った場面もありますが、それでは返せないほどの恩が、先程挙げた人達、特にシュウ様にあります。私は姫のことを愛していますが、シュウ様のことも愛しています。私の全てを捧げると誓ったほどに。まずは、シュウ様のご紹介とこれからのことをお話しします」  シンシアは、俺達と経験値牧場のことを、正直に姫に話した。 「なるほど……。驚きました。そこまで考えていたとは…………。では、私も正直にお話しします。シュウ様のそのお話ですが、私にとっても都合が良いです。  私のシンシアへの愛は本物です。身分の違いどころか、同性愛ですから、たとえ我が国が世界一の優良先進国家だとしても、現代においては、私達の結婚は絶対に許されないでしょう。  仮に、シンシアと一緒にいようとしても、国益のために、必ず貴族男性、あるいは他国の王族男性との結婚を勧められます。今はまだ断り続けることができていますが、近い将来、それも難しくなってくることは目に見えています。  そこで、まずはユキさんの村の立ち上げと軌道に乗るまでを、私が全力でサポートするということにすれば、それ自体が私の現在の役割で為せる以上の国益に繋がることになり、婚約や結婚をしている暇などないという理由で、先延ばしにできるのではないでしょうか。  普通は、王族として一つの領地に執着するのは禁止されていますが、国家の危機を救っていただいた英雄達の村とあれば、問題にはなりませんし、させません。  その後も、現地と王族とのパイプ役が必要とか、外交やそのサポートが必要などと理由を付けていれば、ずっとシンシアと一緒に、そこにいられるのではないでしょうか。もしよろしければ、シュウ様やイリスさんにその辺りの具体策をお考えいただけないでしょうか。もちろん、私もシュウ様の経験値家畜としてご使用ください。また、その他にも私にできることがあれば、何なりとお申し付けください。  あなたがいなければ、我が国は滅んでいたのかもしれないのです。私にもお返ししきれないご恩だとは存じますが、ジャスティ王家の代表として、あなたに尽くします。  それに、何だか不思議な気持ちです。先程の『魔王と姫ごっこ』ではありませんが、あなたに全てを捧げることが、喜びに感じるのです。シンシアだけでなく、他の皆さんだけでなく、私にも希望をお与えくださったからだと思います。シュウ様が慕われている理由が、身を以て理解できました。心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございます」  俺達は、その感謝に応えるように、姫の両頬を舐めた。恩返しが苦にならず、迷いなく俺達に尽くすと言ってくれたのは、ひとえに姫の人柄だろう。  シンシアの影響か、教育か、あるいは最初から似た者同士だったのかは分からないが、今回は俺達が姫を直接救ったわけではない。俺達がシンシアを救い、国家を救う貢献をしたことに半分の希望を見出し、もう半分は、姫が経験値牧場の話を聞いて、自ら希望を見出したと言ってもいい。  俺達がこの場にいなくても、姫は救われていただろう。それでも、俺達に尽くすと言ってのけた。なんて真っ直ぐで、責任感が強くて、そして良い子なんだ。『都合が良い』と言ったのは、それこそが建前で、この話の流れであれば、受けた恩と恩返しだけ話題にさえすれば、先延ばしのことを言う必要など全くなく、逆にそれだけ話していれば、恩と恩返しは話さなくていい。いずれにしても、結論は変わらなかったはずだ。  しかし、実はこの『都合が良い』は先延ばしと恩返しの両者にかかっていたのだ。そして、姫はそのどちらも打ち明けた。打算を打算にしなかったのだ。では、なぜわざわざそのようなことをしたのか。『都合が良い』が建前だとすれば、その本音は何か。  それは、もう姫がほとんど言っていた。『正直にお話しします』『喜びに感じる』から、それが垣間見える。姫は『全てを捧げる』ことに『喜びを感じて』いただけではない。『全てを曝け出す』ことに『悦びを感じて』しまったのだ。ただし、その考えだけは表に出さない。  なぜなら、それを指摘され、暴かれることも快感になるからだ。  俺は今になって、大人版『魔王と姫ごっこ』の奥深さに気付いた。自分も相手も演技と本心が混じり合う中で、いかに心を通わせ、お互いに精神的高みを目指すことができるか、悟りを開くことができるかがこの遊びには込められていると感じた。  そのポテンシャルにシンシアは気付いていた。昔を懐かしむだけでなく、俺達を自然に接触させるだけでなく、お互いの体を重ねるだけではなかったということだ。シンシア、すごいな。  そして、姫はこの短時間で『上級者』に進化した。『変態淫乱露出願望発情雌豚家畜王女』と呼んであげたら、それだけで絶頂することだろう。実に面白い姫と騎士のカップルだ。俺は、彼女達をますます幸せにしてあげたいと思った。 「そうだ、シンシア! 忘れない内に反省会をしなくてはいけません。シュウ様、申し訳ありません。まだお話しがあるかもしれませんが、まずはそちらをさせてください」 「ふふっ、そうですね。それも懐かしい……。いつもの通り、姫から私へどうぞ」  『魔王と姫ごっこ』の反省会までやるのか。どれだけ遊びに本気だったのか。 「途中で声色が変わったのが恐怖を煽るようで良かったですね。しかし、『チャンス』と『自由』が分かりにくかったかもしれません。身体的なことを連想してしまうので、政治的な意味だけに留めておく表現にするべきです。  『聖女コトリスの悲劇』や朱のクリスタルと結び付けたのは上手でしたが、聖女に同情する人達は不快に思うかもしれませんね。これは私も反省です。私が口にしなければいいだけのことでした。  あとは……どのような経緯で魔王が剣に封じ込められたか疑問に思ってしまうので、単に絶望させやすそうで目を付けたぐらいでも良かったかもしれません。  また、色々説明したことに対して、趣向を変えた理由が『同じだと飽きるから』というのは、シンプルすぎたような気がしました。  シュウ様がお出でになってからは、本当にシンシアが魔王様だと思っていたので、演出としては最高だったと思います。ただ、意のままに操っている時と触手が自発的に動く時の境界が分からなかったので、何らかの方法で認識させた方が良かったですね。  それ以降は……すごく良かったです。何度でも思い返したくなるほど……。すみません、今回はシンシアの台詞が多かったので、私からの指摘が多くなってしまいましたが、全体的には今までで一番の出来だったと思います。私が成長したから気付いたこともあるのかもしれませんね」  思っていた以上にしっかりとした反省点を、姫はいくつも挙げた。本気で遊ぶだけではない。本気で理想の遊びに近づけていく思いが伝わってくる。  これは、軟禁での休憩中に、新しいルールや役職が次々に挙げられた『男の娘ゲーム』の際にも見られた光景だ。 「流石、姫のおっしゃる通りです。物語の台詞は、やはり難しいですね。一度経験するか、自分が思っていることならスラスラと出てくるのですが。予め考えていても、その時の状況で変わりますし。  ご指摘の検討余地ですが、『同じだと飽きるから』ではなく、そもそも趣向は変えずに、『あの女と同じ目に合わせるため』にした方が良かったと思いました。そうすれば、『境遇』も一緒になるので、『至高の夢』と合わせて身も心も境遇も一つになり、姫の幸福感がより得られます。  触手の操作と自発の境界については、例えば『お前の淫らな雌汁と匂いに誘われて、早くも触手達が我慢できないと我に懇願してきたぞ。お前をとても気に入ったようだ。それにしても、我が眷属にも困ったものだな。あの女の時と同じではないか。まあ、素晴らしい働きをしてくれたから良しとするか』のようにすれば、境界も分かりやすくなりますし、姫を罵りつつ、同一境遇の強化ができ、魔王の寛大さも覗かせることができるので、偽りのない魔王の甘い言葉と、姫を下僕にするための布石となるでしょうか。  姫に対しては……そうですね、『シンシアはどうしたのですか⁉』は、すでにそれが別の存在と知っていないと出てこない言葉です。最初から『シンシア』だった可能性もあるので、『いつものシンシアは……』にすれば、どのパターンでも問題ありませんでした。  『魔王』と断定するのも早かったように思います。『以前に噂されていた……』みたいな話を挟めば良かったかもしれません。  『なぜシンシアに酷いことを』のくだりは、冗長だったような気がしました。『酷い……なんでそんな……』と言って涙を流せば、勝手に魔王が喋ってくれる流れです。  あとは、これは私の反省点ですが、姫の快楽堕ちが早かったことを明確に言うべきでした。堕ちたことしか言及しなかったので。  最後に、姫の豚声と卑屈な台詞は、大げさではありましたが最高でした……が、声が大きすぎます! 窓の外の直下に警備兵がいたら、聞こえているレベルでしたよ!」 「ごめんなさい……。雌豚の気分になっていたからつい……。でも、大丈夫です。この時間の警備体制は把握していますし、外の近くに警備兵はいません。ですから、『魔王と騎士ごっこ』の時は、シンシアが大きな豚声を出しても問題ありません。実は、シンシアが城を出てから、警備体制が大きく変わったのです」 「え、えぇ……。しかし、警備体制の変更については初耳でした。元々、警備隊から騎士団には知らされませんが、王族に知らせているのも初耳です」 「もちろん、良い方向に変更されました。最適化されたということですね。騎士団の担当者にも知らせることになりました。王族にそれが知らされたのも、何か会った時に助けを呼びやすかったり、騎士団と連携することで避難ルートを確保して、迅速に逃げたりするためのものです」  王族の部屋の直下に警備兵がいないということは、いたら逆に警備兵を装った危険人物かもしれないから、警戒しやすいということだろうか。 「それをスパイのビトーが承諾したのですか? スパイにとっては都合が悪いと思うのですが」 「それがお父様の勅命なら、当然承諾する他ありません。しかし、お父様がお考えになったわけではありません。パルミス公爵でもありません。匿名の進言があったのです。  警備隊長のドア下に手紙が挟まれており、このように隊長からお父様に進言せよ、手柄は隊長のものでかまわない、と。それでも、警備隊長は自分だけの手柄にせず、正直にそのことをお父様に伝えました。  ただし、その手紙には、騎士団上層部は信用できないので、この手紙のことと、警備体制の詳細は伝えるなと書いてあったとのことです。流石に騎士団上層部にシンシアのことは含まれていないと思いますが……。差出人は今も不明です。お父様もその調査はしなくていいとおっしゃり、手紙にあった通りのことは実行せよと命令した次第です」  差出人だけでなく、警備隊長も正直な上に優秀だな。それもそうだ。警備兵の一人でも悪意を持っていれば、即座に王族に危険が及ぶのだから。  手柄を自分のものにしなかった理由は、正直以外にもう一つ、それをネタに強請られる可能性があるためだろう。 「なるほど……。姫のお気遣いは大変嬉しいですが、その差出人が言う騎士団上層部には、おそらく私も含まれています。正確には、信用できるか分からない、城にいないのだから信用しなくても問題がないといったところだと思います。  ただし、仮に私が信頼できる人物だった場合、緊急事態に備えて、今の内に警備体制を変更しておかないと大変なことになると考え、進言を決意した。私が城内の兵に色々と頼んだ時も、期待以上にスムーズに行動してくれたのは、その効果だったということですか……。  思った通り、素晴らしい人材だ。少なくともその進言については、かつての私以上と言えるでしょう」  シンシアは嬉しそうだった。それは、後任の『騎士団長候補』を見つけたぐらいの喜びだろう。俺とシンシアの思考回路が同じだったとすると、その差出人の候補者は三人いたのだが、騎士団上層部の信用の話が出た時に一人に絞ることができた。  三人の内、二人は大聖堂前の警備兵で、絞られた一人は、アドに愚痴をこぼした女騎士だ。騎士団長の資質としては、その手際の良さに加え、組織全体を見る能力を持っているのであれば、残るは実力を隠した剣技と本人の意志を確認すればいい。信頼はあとから付いてくるし、場合によっては、その手紙のことを実績にすればいい。 「あなたがそのような言い方をするということは、どうやら差出人に心当たりがあるようですね。お父様と同じく、私もこれ以上は聞きません。あなたにお任せします」 「ありがとうございます。良い報告をお待ちください。それでは……交代して続けますか?」 「はい!」  姫の元気な声のあと、二人は律儀に服を着直してから、大人版『魔王と騎士ごっこ』を始めた。  気丈で強気な女騎士が魔王の罠にかかり、陵辱されて快楽堕ちするというベタな展開だが、後に姫に変身した魔王が、気絶した女騎士の所に来て、惨めな姿の女騎士を慰めるも、魔王が途中で正体を現し、彼女を複雑な気持ちにさせるという少しだけ凝った内容だった。  と言っても、最後は結局、女騎士が魔王の下僕になったので、両演者が幸せになる結末が二人とも好きなのだろう。  俺としては、演技ではあるが、本物の女騎士の『くっ……! 殺せ……!』と『んほぉ~!』を聞けたので大満足だ。シンシアが俺達以外に捕らえられる状況は、残念ながらと言っては何だが、俺達が付いている以上、後にも先にも絶対にないからな。  それからは状況が落ち着いたので、ようやくユキちゃん達に意識を集中できるかと思いきや、そっちも落ち着いていた。まあいいか。明日以降は、姫の寝室で全員とお泊まり会を続けていくことになったので、その時にヨルンのお姉ちゃんハーレムを存分に見ることができるだろう。  そうそう、姫の名前は『リリア』と言い、シンシア以外は『リリア王女』と呼んでいるらしい。シンシアも公的な場ではそのように呼ぶらしいが、玉座の間では王子と一括りにして『殿下方』と呼んでいたな。  なぜこのような話をしたかと言うと、シンシアが部屋を出る前のユキちゃんとヨルンのやり取りを姫に話したところ、姫もヨルンから『リリアお姉ちゃん』と呼んでほしくなったらしい。弟がいれば『リリアお姉様』と呼ばれるだろうが、それでは普通すぎるということで、自分がお忍びで城下町に出た時に、そこで仲良くなった子どもがあまりに魅力的で、我慢できずに粗相を犯してしまった、というシチュエーションを想像したいと言っていた。ごっこ遊びの延長と言えなくはないが、まさに『変態王女』の呼び名に相応しい妄想力だ。  ちなみに、その子どもは後に姫の専属騎士となり、姫が他の男と結婚しても、爛れた不倫関係を続け、それがバレると駆け落ち、逃げ延びた先で吹雪により遭難し、偶然見つけた小屋の中で、愛と体を激しく求め合うも二人とも凍死する、という不徳の極みのようなエピローグが待っているらしい。  『変態不徳妄想王女ですね』とシンシアが冗談で罵ったが、『絶対にできないからこそ妄想するのです!』と姫は熱弁していた。『ロリコン紳士』の論理か。  どうせなら、ヨルンから姫に対して、半分罵倒の呼び名を言ってもらうのも良いかもしれない。いや、火に油を注ぐことになるか。それこそ、激しく体を求めそうだ……。  みんなが寝静まった頃、俺達は顕現フェイズで触神様に会っていた。 「ねえ、お兄ちゃん。とりあえず城に着いて、もうすぐそこに朱のクリスタルがあることだし、輝きを取り戻す条件をあれから満たせたか確認しておいた方が良いんじゃない?」 「……いや、むしろ確認しない方が良いような気がする。王や姫の言葉じゃないが、その方がこれからの俺達にとってプラスになる気がするんだ。まあ、気がするって言っても、ほとんど確信に近いが……。前回聞いたのは全く問題ない。むしろ聞くべきだった。  でも、今は違う。これからもそうだ。今後一切、その条件については触れないことにする。ただ、場合によってはそれが分かってしまうと思う。でも、忘れた方が良いことだ。詳しく言い過ぎたな。とりあえずそういうことだ。  ゆうもあるだろ? それを聞いたら、そのあとのことも分かってしまうみたいな、確定させてはいけないようなことが。もちろん、俺もある。『粋』とは違う何かが」 「それはあるけど……。あたしの場合は忘れたくないって言うか、そもそもあたしの意志だし……。ねえ、お兄ちゃんがそういう言い方するってことは、あたしの『それ』が何なのか、気付いてるってこと? ……っていうのも聞いちゃいけないんだよね……」 「言い方が悪かったな、すまん。少なくとも条件のことは忘れた方が良いというだけで、ゆうの『それ』については、忘れる必要はない。あと、俺が気付かなくても、どうせお前に『気付かされる』んだろ? それまでは、何も考えずにいるさ」 「いや、もうそれほとんど『分かってる』じゃん。まあ、いいや。ありがと、お兄ちゃん」  ふわふわとした俺達の会話の内容だったが、物事を確定させないように話すと、こうなってしまうのは仕方ない。 「触神様、申し訳ありません。お待たせしました。お願いしたいことが二つあります。  一つは複数性器の人型個体を責めるためのスキル『多頭』を、初期共通スキルとして追加したいということ。  もう一つはサブタイプ『遊触手』を追加の上、スキル『周辺地図表示』と『世界地図表示』、それに必要なスキル『環境情報表示』の追加です。  前者は、できれば世界で最も性器数が多い人型個体の二倍の数プラス一まで頭を増やしたいと考えています。なぜなら、個体と接触した際に、明らかに非効率な体液の摂取は、触手のアイデンティティに関わるからです。とは言え、レベル一でいきなり頭を増やせても違和感があるので、レベルが上がる毎に一つ頭を増やせるぐらいが丁度良いと考えます。  また、このスキルは、その最大頭数から、世界でまだ会ったことがない人型個体を探すという欲求にも繋がり、触手の活動範囲を広げることにもなります。ただし、その個体が突然変異で、何らかの理由により死亡、または種そのものが絶滅した場合は、それに応じて最大頭数が減ることにします。  なぜ人型個体に限定するのかについては、体液摂取を目的とした場合、それ以外の動物やモンスター、虫などは、接触により増加する体液量や分泌量の効率が悪く、回転率も悪いため、頭を増やしても意味がないからです。ならば、そのまま捕食した方が良いということです。  後者の『遊触手』については、外敵からの逃亡の効率化や、その触手個体毎の生息スタイルの違いによって必要であると考えました。地図表示には、さらに『短超感覚』スキルを必要とすることにします。  超感覚がないと情報を読み取ることなどできないし、情報表示ができないと、地図表示もできないという理由から、スキルツリーの順番としては、『短超感覚』『環境情報表示』『周辺地図表示』『世界地図表示』となります。『短超感覚』が最短レベル四で取得できることから、『世界地図表示』取得までに必要なレベルは九ですが、実際は、それまでに取得すべきスキルがあるため、それが低いとは思いません。  以上のことから、これらの追加によって、触手が特別有利になるわけでもなく、逆に、追加しなければ触手の存在が脅かされると判明したため、このようにスキルツリーを修正したいと考えています。よろしいでしょうか」  俺は、表示フェイズで作成した新しいスキルツリーとスキル説明を触神様に提示した。  触神様は、十秒ほどくねくねしたあと、スキルツリーを肯定した。 「ありがとうございます! それでは、失礼します」 「あ、お兄ちゃん、ちょっと待って! あの、触神様、この前のお兄ちゃんの誕生日で思ったことで、触手の状態だとサプライズでお互いに何かを渡したりできないんですが、何とかなりませんか? 別々の触手になりたいわけではないんです。  一定期間秘密にできて、それを全て打ち明けるという前提で、何かを用意できたり具現化できたりして、レベルアップの時だけでなく、その時も顕現フェイズに入れる、みたいな……」  優しいゆうらしい提案だ。自分が一人になりたいからではなく、人のために一人になりたいという気持ちは珍しい。 「ゆう、そんなこと考えてたのか……。まあ、それは良いことだと思うし、面白そうだ。  その場合は、新しくフェイズを作る必要があるだろう。『個人フェイズ』とでも言うべきか。時間の経過速度は、顕現フェイズと同じが望ましいかな。そこに入ったことはお互い分からない。話しかけて反応がなかったら分かってしまうから、入る時間帯を決めておいた方が良いだろうな。  そこで具現化したものや、自分の状態は、顕現フェイズに持ち越せる。材料を具現化して、そこで時間をかけて作った物を、顕現フェイズで相手に渡すこともできる。もちろん、それが現実世界に影響するわけではない。『それに何の意味があるんだ?』と思う人もいるかもしれないが、プレゼントなんてそんなものだ。  あとで何をしていたか打ち明けなかった場合は、ペナルティとして今後一切利用できなくなる。タイミングは、俺とゆうの誕生日と……、俺達が触手になった『触手記念日』も入れたいが、俺の誕生日とそんなに間が空いてないから微妙なんだよな。  お互いの利用回数、例えば期末毎、年に四回程度が定められていて、自由に使える方が良いか? 誕生日やそれまでが忙しすぎて、日程をずらしたいということもあるかもしれないし。でも、流石に計八回は多いか。うーん、今すぐには決められないな……」 「触神様、お兄ちゃんが言った方法で実現していただけないでしょうか。回数は、あとで決めるとして……、でも、お試し期間というか、検証期間は欲しいです。まずは、一、二週間ぐらい。こういうサプライズで失敗したくないので」  触神様はすぐに肯定してくれた。 「ありがとうございます! 大好きです、触神様!」  ゆうの告白で照れているのか、しばらくくねくねしている触神様を見たあと、俺達は予定通り『短透明化』を取得し、現実世界に戻った。 「ありがとう、お兄ちゃん。ツリー修正のプレゼン力も良かったけど、個人フェイズのことをあの場で具体化してくれたおかげで、検証期間も含めて、すんなり触神様が認めてくれたと思う。それも『イエス』と言わせる作戦だったんでしょ?」 「ふふふっ、どうかな。でも、ゆうの提案は本当に素晴らしいと思ったんだ。俺達を慕ってくれる人達がどんどん増えて、やることも考えることも増えてきて、それはそれですごく楽しくて、良いことなんだけど、俺達二人だけの時間も大切にしたいと思ったんだよな。  何て言うか、会話だけじゃない日常って言うのかな。城に来る前までは、それを考える余裕もなかったけど、今はシンシアの報告会も終わって落ち着いてきたから余裕ができた。それでも、ゆうのおかげだよ。俺の方こそ、ありがとう」 「も……もう! 急に真面目にならないでよ……。こっちが恥ずかしくなるんだから……」 「そんなに急じゃないだろ。俺はいつだって、『真面目真面目』だよ」 「……何で二回言うの? それを言うなら、『じめじめ』でしょ。もちろん、『ま抜け』ってことね」 「俺はゆうを恥ずかしがらせることができて、『しめしめ』だよ」 「うざ! もうしねしねぇぇぇ!」  そろそろ、俺の『ウザレパートリー』も尽きてきたな。これからは控えよう……。実際、マジでウザいしな……。  次からは『キモレパートリー』をメイン、『二つ名レパートリー』をサブとするか。



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「いやー、こんなに長くなるとは思わなかったよ。大人版『魔王と姫ごっこ』」  ゆうが疲れたような声で話しだした。 「そうだな。『なんちゃって』で早々に終わるかと思ってたが、できるだけリアルを追求すると、流れを切りたくないから、やっぱり長くなるか。  シンシアがカレイドになりきるのが早かったのは、昔からこういう遊びをやっていたからなんだな。『リアルおままごと』の系譜だろう。言わば、『リアルファンタジーごっこ』か。  それにしても、ゆう。心が折れるの早すぎだろ。空気読めよ」 「いや、あたし達が演技する必要なんて全くないから! 何が『体が勝手に……』よ! もういつもの流れすぎて、慣れちゃっただけでしょうが!  まあ、でも、姫がかわいすぎて、『何も考えられなくなる』のは分かるけど」 「まあ、それもいつものことなんだけどな。かわいい子が多すぎるんだよ。本当はアリサちゃん達にも接触したいけど、相手がいる場合は避けてるからな。  マンネリ防止で俺達を参加させてもらえるとかなら、可能性はあるが。レドリー辺境伯夫人とかどうなんだろうな。リーディアちゃんがさらに輪を広げてくれればいいけど」 「あ! ねえ、あたし達、レベルアップしてない? そのリーディアちゃんのおかげだ。あれから追加で、三人メイドを引き込んでくれたから。それと、今の姫とシンシアの絡みで」 「おお、本当だ。レドリー邸は、経験値牧場支部みたいなものになるのか。同じようなことをこの城でもできたらいいとは思うけど、姫の場合は他の女の子と接点がないから厳しいかもしれないな。  接点があるとするなら、貴族や他国の来賓だが、そこまで信頼できる人はいないだろうし。ただ、何かあった時は助けてくれたらいいなとは思う。お互いにな」  俺達は、セフ村を出発する前の打ち合わせで、イリスちゃんから使命を与えられていた。あの場では目での合図に留まっていたが、それはシンシアのいる前で口にできなかったからだ。  あの時、イリスちゃんは、『身分は問わない』と言った。その意味は、できるだけ身分が上の人に接触すること。それはつまり、リーディアちゃんのような貴族の娘や、それ以上の姫、または王妃の籠絡だ。経験値の輪を広げやすいし、交渉や権力が必要になった時に、助けてくれる。  もちろん、打算的な考えだけで近づいたわけではない。かわいいから、好きになったから、幸せにしてあげたいから、がほとんどの理由だ。結果的にそうなっただけなのだ。  イリスちゃんがシンシアの前で話さなかったのは、シンシアの王族に対する忠誠心から、もしかしたら嫌な顔をするかもしれないと思ったのだろう。しかし、その心配はなかった。忠誠心が失われたわけではない。本当に姫を想うからこそ、俺達を接触させたのだ。  シンシアは俺達とも姫とも、一緒に幸せになりたいと考えているということだ。 「姫が『おてんば姫』だったら、城での調整とかしないで、シンシアに付いてくるかもよ? 創作ではありがちじゃん」 「シンシア達の側が世界で一番安全だから、その点では問題なさそうだが、外交と国内視察はどうなんだろうな。王妃と第二王子だけが担当しているわけではないから、穴が空くはずだ。  特に視察は、王族がその場に行くことで、現地民の警備訓練の実践やイベント主催の経験ができ、さらに観光資源の創出にも繋がる。『王族も絶賛!』『王族御用達!』ってヤツだな。王族にも、ちゃんと仕事があるんだよ。それを放り出すのかどうか。  それと、もう一つ。姫が冒険に出ていると知られると、姫を狙う者が出てくる。最初に言った通り、姫自身は安全だが、それを知らずに、あるいは知っててもなお、彼女を狙う者達が周辺の町を行き来するようになり、時には衝突して治安が悪くなる。もちろん、そういう奴らを一網打尽にできるメリットはある。  では、姫が冒険に出ることで、それらの国益を超えられる何かがあるかと言うと、ない。あったとしても全てが運だろう。つまり、個人的な欲求を満たす『ワガママ』でしかない。  そういう意味では、『姫騎士』も同じだ。捕らえられた時のリスクがでかすぎる。それなら、たとえ『姫騎士』が一騎当千の強者でも、それに値する騎士や一般国民を用意した方が良いし、前線に立つよりも、隠密行動をして敵国の指導者達を全滅させた方が良い。  国が窮地なら、亡命して王族再興の機を伺った方が良い。亡命しないなら、『最後まで戦う』と言わずに、責任を取って自害するべきだろう。陵辱展開を望む性的嗜好なら、さっさと投降すべきだ」 「お兄ちゃん、よくそれで同人誌読めたね。同人誌に限らないけど、その辺の作品なら、ツッコミどころ多すぎて、つまらないでしょ」 「一周目はツッコミなしで読む。二周目はありで読む。そのツッコミ部分が、実はしっかり練られているものだったら評価する。そうでなくても、それを無視できるほど面白ければ、当然評価する。  しかし、一周目で手が止まるほど、頭に引っ掛かるほどのツッコミどころがあり、それが全く説明されない場合や、納得行かない説明がされた場合は駄作だ。小さいツッコミどころは伏線としてあとで説明してもいいが、大きいものはすぐに説明すべきだ。物事、事象には必ず理由があるんだよ。  架空の世界だとしても、読んでる人はその世界に入り込んでるんだから、現実と同じだ。大抵は合理的な理由があって、そうでなければ、感情的な理由だが、それが共感できないとキャラに説得力や魅力がないということになり、こいつはもう見たくない、死んでほしいとなる。前に話題に挙がった、殺人者は死んでほしいとか、三流の戦いとかだな。  一方、『俺達の現実』を物語とするなら、例えば、世界最高戦力のシンシアが冤罪をかけられピンチになった話を聞いた時、イリスちゃんから何の説明もなかったら、『国王バカすぎだろ』と思って、そこで引っ掛かる。  しかし、バカかどうか、真実はさておき、理由がありそうだと言うだけでも、読者の頭には引っ掛からずに『保留』される。別に忘れていてもいいんだ。あとの展開で思い出せれば。やっぱりバカだった、でもな。  まあ、その場合は肩透かしになるが、それを言うなら、これも前に言った通り、俺の推察だって肩透かしになることもあるし、茶番を見抜けないことだってある。それが現実だ。俺はそういった『保留』の連続思考と共に生きている。イリスちゃんも多分そうだ」 「かっこいいこと言ってるけどさぁ。物語で大事なのは勢いでしょ。それとカタルシス。お兄ちゃんの今の説明、文字にしたら何文字消費した? 説明が多すぎると、それだけで読者は離れていくんだよ」 「お前の口からそんな台詞が出るとはな。俺が居間で、それこそ勢いとカタルシスがある、巷で熱いと評判のバトルアニメを見てた時、なんて言ってたかな?  『このバトル長すぎない?』  『このバトルで何を魅せたいの?』  『必殺技叫ぶ必要ある?』  『いや、このバトルそもそも必要なかったよね? 感動シーンを見せたいなら、最初から話し合えば解決するでしょ』  『これ、自作自演の内輪暴力感動ポルノだよね』  とか、酷いツッコミをしまくってただろ」 「その時のお兄ちゃんの回答は何だったけなぁ。  『かっこいいからいいんだよ』  『男のロマンだよ』  『もちろん、男のロマンだよ』  『終わり良ければ全て良しだよ』  『誰しもポルノは見たいんだよ』  とか言って、めちゃくちゃテキトーだったよね? お兄ちゃんこそ、『男のロマン』で手のひらドリル装備したら?  物語って言うからには、シナリオの円滑な進行が求められてるわけ。そんなアニメ、それこそツッコミどころ満載で引っ掛かるでしょ。必要な展開と、それに必要な最低限の説明はするけど、それ以外は省いて、あとは展開に合わせて少しずつ説明していかないと、お兄ちゃんじゃないんだから怒涛の説明なんて頭に入らないでしょ」 「俺はお前みたいに、視聴と理解と考察と会話を並行してできないんだよ。だから、一定量の情報が出るまで口を挟まないし、挟めない。ましてや、触手生活のように、危機と隣り合わせというわけでもない。張り詰めた状況でないなら、テキトーな返しになるのも当然だろう。  それに、ああいう返しをした手前、『やっぱりクソアニメだったわ』とは言えないだろ。  あと、俺はあまり読まないが、殺人事件の探偵推理作品を想像してみるとどうだ? 説明が多いし、展開はあまり進まない。進みすぎると何十人も死ぬことになるからな。解決へのヒントが散りばめられている日常描写と説明が必然的に多くなる。カタルシスはあるが、結末は大体決まっている。当然、視聴者や読者は、常に考えながら作品に向き合うことになる。  『推理作品』は、テーマは別にして、推理が主な作品だ。だとすれば、推理ではなく推察が主な作品は『推察作品』、説明が主な作品は『説明作品』と呼んでもいいかもしれない。推察を楽しむ、説明を楽しむということだ」 「言ってることは分かるけどさぁ。マイナーなんだよなぁ……。もう、『自己満足研究家シュークン』だよね」 「俺は『女子幸福研究家シュークン』だよ」 「うざ。怪しい勧誘とかしてそう」  とりあえず、お互いを少し褒め合って、共感できる話題を挙げたところで、俺達の議論は結論が出ないまま『保留』にした。このやり取り、久しぶりだな。  ゆうが、なぜそこまで作品のシナリオ構成や人気作品の要件に詳しいかは今度聞くとしよう。俺は満足したが、『この議論長すぎない?』『この議論で何を魅せたいの?』と思った人もいるかもしれない。それは君自身で考えてみてくれ! メタ伏線の回収もあるぞ!  「ふぅ……。シュウ様、私達の『遊び』にお付き合いいただき、ありがとうございます。もしかすると、驚かせてしまったかもしれませんね。申し訳ありません」  休憩して少し落ち着いたシンシアが上半身を起こして俺達に話しかけてきた。俺達は『そんなことない』という意味で、シンシアの両頬を舐めた。  実際、声色が変わった時は、碧のクリスタルの影響を疑ったが、すぐに『男の娘ゲーム』での姫の会話にあった『魔王と姫ごっこ』のことを思い出し、さらにシンシアが『魔王』を肯定した時点で、触神様に魔王は存在しないと確認したことと合わせて、二人の『遊び』だと確信した。  魔王が存在しないことは、二人には言わない方が良さそうだな。今後の『遊び』のリアリティに影響するからだ。 「シン……シア……? 今、シンシアの声が……。で、でも、眷属様がいらっしゃって……。やはり、夢ではない……。ま、魔王様、大変失礼いたしました。寝ぼけて混乱してしまいました」  目覚めかけの姫が、シンシアのいつもの声を聞いて、思わず上半身を起こしたが、俺達が身体の上に乗っている姿を見て、『現実』を認識したようだ。 「姫、私は『シンシア』です。『魔王と姫ごっこ』は終わりました。こちらの触手は、シュウ様です。この方のおかげで、私の命は救われました。私が死にたくなったのは本当なのです。  しかし、シュウ様が私に生きる希望をお与えくださった。  セフ村のイリスという少女が私の真の目的を導き出してくれた。  アースリーが私と一緒にレドリー卿からの信頼を得てくれた。  リーディア含めたユニオニル家、エトラスフ卿、アリサ様、サリサ様が私にお力をくださった。  クリスとヨルンが私の報告を手助けしてくれた。  ユキが私と我が国の危機を救ってくれた。  振り返ってみれば、私の調査の旅は、色々な人々に助けられてばかりでした。  そして今、この部屋で姫とお会いして……、昔の遊びをして……、やっと……やっと戻ってこられたような気がして……!」  シンシアの目から涙が溢れた。それだけではない。これまで俺達にさえ見せたことがない、子どもが泣きじゃくるような表情をしていた。その涙と一緒に、これまでの思いが溢れ出してきているのだろう。  やっと、全ての感情を吐露できる場所が『ここ』だったのだ。 「シンシア……嬉しい。私も同じ……同じです……!」  姫がシンシアを優しく抱き締めた。彼女もシンシアと同じく、涙が溢れ、言葉に詰まっていた。 「姫と……、こうして……、心と……、想いを通わせることができて……、心の底から……、喜びが溢れてきます……」 「私は、あなたと離れてやっと分かったんです……。自分の秘めた想いに……。憧れもあるかもしれませんが、私は愛だと思っています。あなたを見送ったあと、追いかけるべきだった、それこそが国益だったと、何度後悔したか分かりません。  でも、あなたは戻ってきてくれた。それも、誰もが驚く成長を遂げて……。仮に、あなたが『魔王』を演じなくても、私はあなたとこうしていました。拒否しても王族権限を使っていましたよ。それぐらいあなたへの想いが溢れていたのです。  シンシア、あなたを愛しています」  姫はシンシアの左頬に右手を当てて、愛の告白をした。 「姫、私もです。私もあなたを愛しています……。でも、王族権限を使われたら、城下町の中心まで姫を連れ出して、『ここでも同じことができますか? 権限も尊厳も捨てられる覚悟がありますか?』と真の愛を確かめますね」 「望むところです。私の『ふしだらな夢』が二つ同時に叶うのですから。シンシアもそうでしょう?」 「ぷっ! あははは!」 「うふふふ」  二人は真面目な告白のあととは思えないほど、流れた涙はそのままに、大笑いした。  笑いが収まると、二人はおでこをくっつけ合い、手を繋ぎ、そして、どちらからともなく、お互いの愛を確かめるようにキスをした。 「全裸で幸せなキスをする二人、どうしたってシリアスにはならないけど、絵にはなるなぁ。姫の寝ぼけた姿もかわいかったし、何しても絵になるなんてズルいよ」 「ゆうの寝ぼけは、酷いなんてもんじゃないからな」 「はぁ? 寝ぼけたことなんて、あたし、一度もないけど」 「いや、だってお前あの時、寝ぼけて俺に……。もしかして、記憶が改ざ……」 「お兄ちゃんが寝ぼけてたんじゃないの?」  夢精して完全に目が覚めない男はこの世にいないんだよ! 「まあ、どうでもいいや。そんなことより、ユキちゃん達はどうするの? ヨルンの一人耐久レースが続いてるんだけど」  何が『そんなこと』なのかは分からないが、向こうでは、合流したクリスが、ヨルンとユキちゃんにも搾乳魔法をかけて、今ではヨルンがユキちゃんのおっぱいを飲みながら、ユキちゃんの手とクリスの口で、延々とヨルンの搾精と搾乳が繰り返されている。『ヨルンフェロモン』に気を付けつつ、そのおこぼれを俺達ももらって、すでに十分量の体液は摂取できていた。  『おねショタ』から『ママショタ』に移行しているユキちゃんとクリスに囲まれたヨルンは、姫と同じく豚のような声を出し、半分白目を向いたその表情からも、永遠に続くと錯覚するほどの快楽園を満喫しているに違いない。『反攻』があるから、気絶させられることもないんだろうな。 「向こうに意識を移したいが、こっちもまだ続きそうなんだよなぁ。俺には、同時に複雑な操作はできないから、ゆう、頼む。現状なら、クリスを準備万端にさえしておけば大丈夫だろう。単純なことなら俺に指示してくれてかまわない」 「おっけー。」  そして、ゆうが『あの時』のことを思い出す前に、シンシア達がキスを止めて、体を離した。 「今回の旅で、私が役に立った場面もありますが、それでは返せないほどの恩が、先程挙げた人達、特にシュウ様にあります。私は姫のことを愛していますが、シュウ様のことも愛しています。私の全てを捧げると誓ったほどに。まずは、シュウ様のご紹介とこれからのことをお話しします」  シンシアは、俺達と経験値牧場のことを、正直に姫に話した。 「なるほど……。驚きました。そこまで考えていたとは…………。では、私も正直にお話しします。シュウ様のそのお話ですが、私にとっても都合が良いです。  私のシンシアへの愛は本物です。身分の違いどころか、同性愛ですから、たとえ我が国が世界一の優良先進国家だとしても、現代においては、私達の結婚は絶対に許されないでしょう。  仮に、シンシアと一緒にいようとしても、国益のために、必ず貴族男性、あるいは他国の王族男性との結婚を勧められます。今はまだ断り続けることができていますが、近い将来、それも難しくなってくることは目に見えています。  そこで、まずはユキさんの村の立ち上げと軌道に乗るまでを、私が全力でサポートするということにすれば、それ自体が私の現在の役割で為せる以上の国益に繋がることになり、婚約や結婚をしている暇などないという理由で、先延ばしにできるのではないでしょうか。  普通は、王族として一つの領地に執着するのは禁止されていますが、国家の危機を救っていただいた英雄達の村とあれば、問題にはなりませんし、させません。  その後も、現地と王族とのパイプ役が必要とか、外交やそのサポートが必要などと理由を付けていれば、ずっとシンシアと一緒に、そこにいられるのではないでしょうか。もしよろしければ、シュウ様やイリスさんにその辺りの具体策をお考えいただけないでしょうか。もちろん、私もシュウ様の経験値家畜としてご使用ください。また、その他にも私にできることがあれば、何なりとお申し付けください。  あなたがいなければ、我が国は滅んでいたのかもしれないのです。私にもお返ししきれないご恩だとは存じますが、ジャスティ王家の代表として、あなたに尽くします。  それに、何だか不思議な気持ちです。先程の『魔王と姫ごっこ』ではありませんが、あなたに全てを捧げることが、喜びに感じるのです。シンシアだけでなく、他の皆さんだけでなく、私にも希望をお与えくださったからだと思います。シュウ様が慕われている理由が、身を以て理解できました。心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございます」  俺達は、その感謝に応えるように、姫の両頬を舐めた。恩返しが苦にならず、迷いなく俺達に尽くすと言ってくれたのは、ひとえに姫の人柄だろう。  シンシアの影響か、教育か、あるいは最初から似た者同士だったのかは分からないが、今回は俺達が姫を直接救ったわけではない。俺達がシンシアを救い、国家を救う貢献をしたことに半分の希望を見出し、もう半分は、姫が経験値牧場の話を聞いて、自ら希望を見出したと言ってもいい。  俺達がこの場にいなくても、姫は救われていただろう。それでも、俺達に尽くすと言ってのけた。なんて真っ直ぐで、責任感が強くて、そして良い子なんだ。『都合が良い』と言ったのは、それこそが建前で、この話の流れであれば、受けた恩と恩返しだけ話題にさえすれば、先延ばしのことを言う必要など全くなく、逆にそれだけ話していれば、恩と恩返しは話さなくていい。いずれにしても、結論は変わらなかったはずだ。  しかし、実はこの『都合が良い』は先延ばしと恩返しの両者にかかっていたのだ。そして、姫はそのどちらも打ち明けた。打算を打算にしなかったのだ。では、なぜわざわざそのようなことをしたのか。『都合が良い』が建前だとすれば、その本音は何か。  それは、もう姫がほとんど言っていた。『正直にお話しします』『喜びに感じる』から、それが垣間見える。姫は『全てを捧げる』ことに『喜びを感じて』いただけではない。『全てを曝け出す』ことに『悦びを感じて』しまったのだ。ただし、その考えだけは表に出さない。  なぜなら、それを指摘され、暴かれることも快感になるからだ。  俺は今になって、大人版『魔王と姫ごっこ』の奥深さに気付いた。自分も相手も演技と本心が混じり合う中で、いかに心を通わせ、お互いに精神的高みを目指すことができるか、悟りを開くことができるかがこの遊びには込められていると感じた。  そのポテンシャルにシンシアは気付いていた。昔を懐かしむだけでなく、俺達を自然に接触させるだけでなく、お互いの体を重ねるだけではなかったということだ。シンシア、すごいな。  そして、姫はこの短時間で『上級者』に進化した。『変態淫乱露出願望発情雌豚家畜王女』と呼んであげたら、それだけで絶頂することだろう。実に面白い姫と騎士のカップルだ。俺は、彼女達をますます幸せにしてあげたいと思った。 「そうだ、シンシア! 忘れない内に反省会をしなくてはいけません。シュウ様、申し訳ありません。まだお話しがあるかもしれませんが、まずはそちらをさせてください」 「ふふっ、そうですね。それも懐かしい……。いつもの通り、姫から私へどうぞ」  『魔王と姫ごっこ』の反省会までやるのか。どれだけ遊びに本気だったのか。 「途中で声色が変わったのが恐怖を煽るようで良かったですね。しかし、『チャンス』と『自由』が分かりにくかったかもしれません。身体的なことを連想してしまうので、政治的な意味だけに留めておく表現にするべきです。  『聖女コトリスの悲劇』や朱のクリスタルと結び付けたのは上手でしたが、聖女に同情する人達は不快に思うかもしれませんね。これは私も反省です。私が口にしなければいいだけのことでした。  あとは……どのような経緯で魔王が剣に封じ込められたか疑問に思ってしまうので、単に絶望させやすそうで目を付けたぐらいでも良かったかもしれません。  また、色々説明したことに対して、趣向を変えた理由が『同じだと飽きるから』というのは、シンプルすぎたような気がしました。  シュウ様がお出でになってからは、本当にシンシアが魔王様だと思っていたので、演出としては最高だったと思います。ただ、意のままに操っている時と触手が自発的に動く時の境界が分からなかったので、何らかの方法で認識させた方が良かったですね。  それ以降は……すごく良かったです。何度でも思い返したくなるほど……。すみません、今回はシンシアの台詞が多かったので、私からの指摘が多くなってしまいましたが、全体的には今までで一番の出来だったと思います。私が成長したから気付いたこともあるのかもしれませんね」  思っていた以上にしっかりとした反省点を、姫はいくつも挙げた。本気で遊ぶだけではない。本気で理想の遊びに近づけていく思いが伝わってくる。  これは、軟禁での休憩中に、新しいルールや役職が次々に挙げられた『男の娘ゲーム』の際にも見られた光景だ。 「流石、姫のおっしゃる通りです。物語の台詞は、やはり難しいですね。一度経験するか、自分が思っていることならスラスラと出てくるのですが。予め考えていても、その時の状況で変わりますし。  ご指摘の検討余地ですが、『同じだと飽きるから』ではなく、そもそも趣向は変えずに、『あの女と同じ目に合わせるため』にした方が良かったと思いました。そうすれば、『境遇』も一緒になるので、『至高の夢』と合わせて身も心も境遇も一つになり、姫の幸福感がより得られます。  触手の操作と自発の境界については、例えば『お前の淫らな雌汁と匂いに誘われて、早くも触手達が我慢できないと我に懇願してきたぞ。お前をとても気に入ったようだ。それにしても、我が眷属にも困ったものだな。あの女の時と同じではないか。まあ、素晴らしい働きをしてくれたから良しとするか』のようにすれば、境界も分かりやすくなりますし、姫を罵りつつ、同一境遇の強化ができ、魔王の寛大さも覗かせることができるので、偽りのない魔王の甘い言葉と、姫を下僕にするための布石となるでしょうか。  姫に対しては……そうですね、『シンシアはどうしたのですか⁉』は、すでにそれが別の存在と知っていないと出てこない言葉です。最初から『シンシア』だった可能性もあるので、『いつものシンシアは……』にすれば、どのパターンでも問題ありませんでした。  『魔王』と断定するのも早かったように思います。『以前に噂されていた……』みたいな話を挟めば良かったかもしれません。  『なぜシンシアに酷いことを』のくだりは、冗長だったような気がしました。『酷い……なんでそんな……』と言って涙を流せば、勝手に魔王が喋ってくれる流れです。  あとは、これは私の反省点ですが、姫の快楽堕ちが早かったことを明確に言うべきでした。堕ちたことしか言及しなかったので。  最後に、姫の豚声と卑屈な台詞は、大げさではありましたが最高でした……が、声が大きすぎます! 窓の外の直下に警備兵がいたら、聞こえているレベルでしたよ!」 「ごめんなさい……。雌豚の気分になっていたからつい……。でも、大丈夫です。この時間の警備体制は把握していますし、外の近くに警備兵はいません。ですから、『魔王と騎士ごっこ』の時は、シンシアが大きな豚声を出しても問題ありません。実は、シンシアが城を出てから、警備体制が大きく変わったのです」 「え、えぇ……。しかし、警備体制の変更については初耳でした。元々、警備隊から騎士団には知らされませんが、王族に知らせているのも初耳です」 「もちろん、良い方向に変更されました。最適化されたということですね。騎士団の担当者にも知らせることになりました。王族にそれが知らされたのも、何か会った時に助けを呼びやすかったり、騎士団と連携することで避難ルートを確保して、迅速に逃げたりするためのものです」  王族の部屋の直下に警備兵がいないということは、いたら逆に警備兵を装った危険人物かもしれないから、警戒しやすいということだろうか。 「それをスパイのビトーが承諾したのですか? スパイにとっては都合が悪いと思うのですが」 「それがお父様の勅命なら、当然承諾する他ありません。しかし、お父様がお考えになったわけではありません。パルミス公爵でもありません。匿名の進言があったのです。  警備隊長のドア下に手紙が挟まれており、このように隊長からお父様に進言せよ、手柄は隊長のものでかまわない、と。それでも、警備隊長は自分だけの手柄にせず、正直にそのことをお父様に伝えました。  ただし、その手紙には、騎士団上層部は信用できないので、この手紙のことと、警備体制の詳細は伝えるなと書いてあったとのことです。流石に騎士団上層部にシンシアのことは含まれていないと思いますが……。差出人は今も不明です。お父様もその調査はしなくていいとおっしゃり、手紙にあった通りのことは実行せよと命令した次第です」  差出人だけでなく、警備隊長も正直な上に優秀だな。それもそうだ。警備兵の一人でも悪意を持っていれば、即座に王族に危険が及ぶのだから。  手柄を自分のものにしなかった理由は、正直以外にもう一つ、それをネタに強請られる可能性があるためだろう。 「なるほど……。姫のお気遣いは大変嬉しいですが、その差出人が言う騎士団上層部には、おそらく私も含まれています。正確には、信用できるか分からない、城にいないのだから信用しなくても問題がないといったところだと思います。  ただし、仮に私が信頼できる人物だった場合、緊急事態に備えて、今の内に警備体制を変更しておかないと大変なことになると考え、進言を決意した。私が城内の兵に色々と頼んだ時も、期待以上にスムーズに行動してくれたのは、その効果だったということですか……。  思った通り、素晴らしい人材だ。少なくともその進言については、かつての私以上と言えるでしょう」  シンシアは嬉しそうだった。それは、後任の『騎士団長候補』を見つけたぐらいの喜びだろう。俺とシンシアの思考回路が同じだったとすると、その差出人の候補者は三人いたのだが、騎士団上層部の信用の話が出た時に一人に絞ることができた。  三人の内、二人は大聖堂前の警備兵で、絞られた一人は、アドに愚痴をこぼした女騎士だ。騎士団長の資質としては、その手際の良さに加え、組織全体を見る能力を持っているのであれば、残るは実力を隠した剣技と本人の意志を確認すればいい。信頼はあとから付いてくるし、場合によっては、その手紙のことを実績にすればいい。 「あなたがそのような言い方をするということは、どうやら差出人に心当たりがあるようですね。お父様と同じく、私もこれ以上は聞きません。あなたにお任せします」 「ありがとうございます。良い報告をお待ちください。それでは……交代して続けますか?」 「はい!」  姫の元気な声のあと、二人は律儀に服を着直してから、大人版『魔王と騎士ごっこ』を始めた。  気丈で強気な女騎士が魔王の罠にかかり、陵辱されて快楽堕ちするというベタな展開だが、後に姫に変身した魔王が、気絶した女騎士の所に来て、惨めな姿の女騎士を慰めるも、魔王が途中で正体を現し、彼女を複雑な気持ちにさせるという少しだけ凝った内容だった。  と言っても、最後は結局、女騎士が魔王の下僕になったので、両演者が幸せになる結末が二人とも好きなのだろう。  俺としては、演技ではあるが、本物の女騎士の『くっ……! 殺せ……!』と『んほぉ~!』を聞けたので大満足だ。シンシアが俺達以外に捕らえられる状況は、残念ながらと言っては何だが、俺達が付いている以上、後にも先にも絶対にないからな。  それからは状況が落ち着いたので、ようやくユキちゃん達に意識を集中できるかと思いきや、そっちも落ち着いていた。まあいいか。明日以降は、姫の寝室で全員とお泊まり会を続けていくことになったので、その時にヨルンのお姉ちゃんハーレムを存分に見ることができるだろう。  そうそう、姫の名前は『リリア』と言い、シンシア以外は『リリア王女』と呼んでいるらしい。シンシアも公的な場ではそのように呼ぶらしいが、玉座の間では王子と一括りにして『殿下方』と呼んでいたな。  なぜこのような話をしたかと言うと、シンシアが部屋を出る前のユキちゃんとヨルンのやり取りを姫に話したところ、姫もヨルンから『リリアお姉ちゃん』と呼んでほしくなったらしい。弟がいれば『リリアお姉様』と呼ばれるだろうが、それでは普通すぎるということで、自分がお忍びで城下町に出た時に、そこで仲良くなった子どもがあまりに魅力的で、我慢できずに粗相を犯してしまった、というシチュエーションを想像したいと言っていた。ごっこ遊びの延長と言えなくはないが、まさに『変態王女』の呼び名に相応しい妄想力だ。  ちなみに、その子どもは後に姫の専属騎士となり、姫が他の男と結婚しても、爛れた不倫関係を続け、それがバレると駆け落ち、逃げ延びた先で吹雪により遭難し、偶然見つけた小屋の中で、愛と体を激しく求め合うも二人とも凍死する、という不徳の極みのようなエピローグが待っているらしい。  『変態不徳妄想王女ですね』とシンシアが冗談で罵ったが、『絶対にできないからこそ妄想するのです!』と姫は熱弁していた。『ロリコン紳士』の論理か。  どうせなら、ヨルンから姫に対して、半分罵倒の呼び名を言ってもらうのも良いかもしれない。いや、火に油を注ぐことになるか。それこそ、激しく体を求めそうだ……。  みんなが寝静まった頃、俺達は顕現フェイズで触神様に会っていた。 「ねえ、お兄ちゃん。とりあえず城に着いて、もうすぐそこに朱のクリスタルがあることだし、輝きを取り戻す条件をあれから満たせたか確認しておいた方が良いんじゃない?」 「……いや、むしろ確認しない方が良いような気がする。王や姫の言葉じゃないが、その方がこれからの俺達にとってプラスになる気がするんだ。まあ、気がするって言っても、ほとんど確信に近いが……。前回聞いたのは全く問題ない。むしろ聞くべきだった。  でも、今は違う。これからもそうだ。今後一切、その条件については触れないことにする。ただ、場合によってはそれが分かってしまうと思う。でも、忘れた方が良いことだ。詳しく言い過ぎたな。とりあえずそういうことだ。  ゆうもあるだろ? それを聞いたら、そのあとのことも分かってしまうみたいな、確定させてはいけないようなことが。もちろん、俺もある。『粋』とは違う何かが」 「それはあるけど……。あたしの場合は忘れたくないって言うか、そもそもあたしの意志だし……。ねえ、お兄ちゃんがそういう言い方するってことは、あたしの『それ』が何なのか、気付いてるってこと? ……っていうのも聞いちゃいけないんだよね……」 「言い方が悪かったな、すまん。少なくとも条件のことは忘れた方が良いというだけで、ゆうの『それ』については、忘れる必要はない。あと、俺が気付かなくても、どうせお前に『気付かされる』んだろ? それまでは、何も考えずにいるさ」 「いや、もうそれほとんど『分かってる』じゃん。まあ、いいや。ありがと、お兄ちゃん」  ふわふわとした俺達の会話の内容だったが、物事を確定させないように話すと、こうなってしまうのは仕方ない。 「触神様、申し訳ありません。お待たせしました。お願いしたいことが二つあります。  一つは複数性器の人型個体を責めるためのスキル『多頭』を、初期共通スキルとして追加したいということ。  もう一つはサブタイプ『遊触手』を追加の上、スキル『周辺地図表示』と『世界地図表示』、それに必要なスキル『環境情報表示』の追加です。  前者は、できれば世界で最も性器数が多い人型個体の二倍の数プラス一まで頭を増やしたいと考えています。なぜなら、個体と接触した際に、明らかに非効率な体液の摂取は、触手のアイデンティティに関わるからです。とは言え、レベル一でいきなり頭を増やせても違和感があるので、レベルが上がる毎に一つ頭を増やせるぐらいが丁度良いと考えます。  また、このスキルは、その最大頭数から、世界でまだ会ったことがない人型個体を探すという欲求にも繋がり、触手の活動範囲を広げることにもなります。ただし、その個体が突然変異で、何らかの理由により死亡、または種そのものが絶滅した場合は、それに応じて最大頭数が減ることにします。  なぜ人型個体に限定するのかについては、体液摂取を目的とした場合、それ以外の動物やモンスター、虫などは、接触により増加する体液量や分泌量の効率が悪く、回転率も悪いため、頭を増やしても意味がないからです。ならば、そのまま捕食した方が良いということです。  後者の『遊触手』については、外敵からの逃亡の効率化や、その触手個体毎の生息スタイルの違いによって必要であると考えました。地図表示には、さらに『短超感覚』スキルを必要とすることにします。  超感覚がないと情報を読み取ることなどできないし、情報表示ができないと、地図表示もできないという理由から、スキルツリーの順番としては、『短超感覚』『環境情報表示』『周辺地図表示』『世界地図表示』となります。『短超感覚』が最短レベル四で取得できることから、『世界地図表示』取得までに必要なレベルは九ですが、実際は、それまでに取得すべきスキルがあるため、それが低いとは思いません。  以上のことから、これらの追加によって、触手が特別有利になるわけでもなく、逆に、追加しなければ触手の存在が脅かされると判明したため、このようにスキルツリーを修正したいと考えています。よろしいでしょうか」  俺は、表示フェイズで作成した新しいスキルツリーとスキル説明を触神様に提示した。  触神様は、十秒ほどくねくねしたあと、スキルツリーを肯定した。 「ありがとうございます! それでは、失礼します」 「あ、お兄ちゃん、ちょっと待って! あの、触神様、この前のお兄ちゃんの誕生日で思ったことで、触手の状態だとサプライズでお互いに何かを渡したりできないんですが、何とかなりませんか? 別々の触手になりたいわけではないんです。  一定期間秘密にできて、それを全て打ち明けるという前提で、何かを用意できたり具現化できたりして、レベルアップの時だけでなく、その時も顕現フェイズに入れる、みたいな……」  優しいゆうらしい提案だ。自分が一人になりたいからではなく、人のために一人になりたいという気持ちは珍しい。 「ゆう、そんなこと考えてたのか……。まあ、それは良いことだと思うし、面白そうだ。  その場合は、新しくフェイズを作る必要があるだろう。『個人フェイズ』とでも言うべきか。時間の経過速度は、顕現フェイズと同じが望ましいかな。そこに入ったことはお互い分からない。話しかけて反応がなかったら分かってしまうから、入る時間帯を決めておいた方が良いだろうな。  そこで具現化したものや、自分の状態は、顕現フェイズに持ち越せる。材料を具現化して、そこで時間をかけて作った物を、顕現フェイズで相手に渡すこともできる。もちろん、それが現実世界に影響するわけではない。『それに何の意味があるんだ?』と思う人もいるかもしれないが、プレゼントなんてそんなものだ。  あとで何をしていたか打ち明けなかった場合は、ペナルティとして今後一切利用できなくなる。タイミングは、俺とゆうの誕生日と……、俺達が触手になった『触手記念日』も入れたいが、俺の誕生日とそんなに間が空いてないから微妙なんだよな。  お互いの利用回数、例えば期末毎、年に四回程度が定められていて、自由に使える方が良いか? 誕生日やそれまでが忙しすぎて、日程をずらしたいということもあるかもしれないし。でも、流石に計八回は多いか。うーん、今すぐには決められないな……」 「触神様、お兄ちゃんが言った方法で実現していただけないでしょうか。回数は、あとで決めるとして……、でも、お試し期間というか、検証期間は欲しいです。まずは、一、二週間ぐらい。こういうサプライズで失敗したくないので」  触神様はすぐに肯定してくれた。 「ありがとうございます! 大好きです、触神様!」  ゆうの告白で照れているのか、しばらくくねくねしている触神様を見たあと、俺達は予定通り『短透明化』を取得し、現実世界に戻った。 「ありがとう、お兄ちゃん。ツリー修正のプレゼン力も良かったけど、個人フェイズのことをあの場で具体化してくれたおかげで、検証期間も含めて、すんなり触神様が認めてくれたと思う。それも『イエス』と言わせる作戦だったんでしょ?」 「ふふふっ、どうかな。でも、ゆうの提案は本当に素晴らしいと思ったんだ。俺達を慕ってくれる人達がどんどん増えて、やることも考えることも増えてきて、それはそれですごく楽しくて、良いことなんだけど、俺達二人だけの時間も大切にしたいと思ったんだよな。  何て言うか、会話だけじゃない日常って言うのかな。城に来る前までは、それを考える余裕もなかったけど、今はシンシアの報告会も終わって落ち着いてきたから余裕ができた。それでも、ゆうのおかげだよ。俺の方こそ、ありがとう」 「も……もう! 急に真面目にならないでよ……。こっちが恥ずかしくなるんだから……」 「そんなに急じゃないだろ。俺はいつだって、『真面目真面目』だよ」 「……何で二回言うの? それを言うなら、『じめじめ』でしょ。もちろん、『ま抜け』ってことね」 「俺はゆうを恥ずかしがらせることができて、『しめしめ』だよ」 「うざ! もうしねしねぇぇぇ!」  そろそろ、俺の『ウザレパートリー』も尽きてきたな。これからは控えよう……。実際、マジでウザいしな……。  次からは『キモレパートリー』をメイン、『二つ名レパートリー』をサブとするか。



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