俺達と女の子達が情報共有して不眠症の女の子を救済する話(4/4)

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 夕食後、クリスの部屋に残しておいた触手に意識を移した俺達は、彼女が下着姿で早々にベッドに入るところを天井の梁から見ていた。風呂には入らないみたいだ。  メイドによるシャンデリアの蝋燭の点灯を、彼女は断っていたので、すでに部屋は暗く、ベッド横の長い蝋燭だけが付近をほんのりと照らす。  彼女が夕食で部屋にいない時に、俺達はベッド下にも触手を潜り込ませていた。  上から彼女をしばらく見ていると、俺達は非常に奇妙な出来事を目にし、ちょっとした恐怖さえ覚えた。 「なんか……ベッドに入ってから、ずっと目開けてない? 瞬きもめちゃくちゃ少ない……。目を開けたまま寝てるとかじゃないよね」 「俺達に気付いたってわけじゃないと思うが……色々な意味で少し怖いな。とりあえず、できるだけ動かないようにしよう」  クリスのベッドからは足方向の梁に俺達がいる。真上にいたら気付かれていたかもしれないと思うほど、彼女はずっと天井を見ている。  二十分ほど経過して、ようやく目を瞑ったかと思ったら、二秒も経たない内に、すぐにまた目を開けた。  五分経って、また目を二秒瞑る。それが四十分ほど続いた。  そして、目を瞑る時間が二秒から五秒になった。その途端、まるで悪夢から目覚めたかのように、上半身をガバっと起こし、息を荒げ、汗もかいていた。風呂に入らなかったのは、どうせ汗をかくから、入るなら朝、ということかもしれない。  しばらくすると、またベッドに横になり、目を瞑ることなく天井を見るところから始まる。それから、二時間経って三回目のループに入ったところで、その様子を黙って見ていたゆうが口を開いた。 「これ、不眠症ってレベルじゃないよね……? ねぇ、こんなこと毎日続けてたの……? いつから……? 死んじゃうよ! こんなの‼ ……辛すぎる……よぉ……」  ゆうは取り乱した様子で、彼女の身を案じて、誰とも言えない相手に疑問を投げかけ、叫びとも言える声を上げたが、最後は消え入りそうな声で泣いていた。  アースリーちゃんも不眠で悩んでいた時はあったが、それとは違う、別の地獄をクリスは味わっていた。苦しいだけではない。実際に、彼女の寿命も削られているはずだ。日常の睡眠時間が短いと寿命も短いと言われているからだ。 「かつてのアースリーちゃんと同じく、クリスも強迫観念で寝られないんだろうな。過去に衝撃的な何かを体験したはずだ。この様子だと、眠った時に何らかの失敗を犯し、それで眠れなくなった。ほんの少しでも眠ると、脳裏に焼き付いた光景がすぐさま蘇る、と言ったところか。  睡眠魔法はおそらく存在するだろうから、それを使っていないところを見ると、シンシアが今朝、クリスに言いかけた通り、理由は贖罪だろうな。ある意味、とんでもない精神力だ」  これほどまでの罪悪感を覚えるのであれば、かなり規模が大きい失敗のはずだ。だとしたら、思い当たる節はある。 「どうやったら、そんなに冷静に見てられるの⁉ 見てられないよ! こんな……大好きな人がこんな……」 「絶対に幸せにすると心に決めているからだ。アースリーちゃんやユキちゃんの時を思い出せ。あの時も、見ていられないほど辛かった。  だが、俺達は絶対に助けると心に誓い、機を伺った。その時との違いは、彼女達が初対面だったのに対し、今回はすでに大切な存在が辛い思いをしている、ということだが、やることは変わらない。  むしろ、戦闘経験もある優秀な魔法使い相手だから慎重にならなければいけない。アースリーちゃんやユキちゃんの時のようなタイムリミットがあるわけでもない、シンシアの時のような簡単に不意を突ける環境でもない。  クリスの観察眼から、蝋燭の灯りのほんの少しの揺らめきでも、俺達の存在がバレてしまう。こちらから動くわけにはいかない、待つしかないんだ。  ただ、あの時も思ったことがある。お前だって言っていたことだ。この辛い光景を見ているからこそ、彼女の全てを受け止められて、自分の想いや決意が強くなる、彼女がより愛おしくなる。全て終わった時には、これからどんなことがあっても一生幸せにするぞ、と思える。  そして、みんな言ってくれる。その辛いことがなければ、俺達に出会っていなかったから、あれで良かった、今はすごい幸せだと。本心から言ってくれてるんだ。嬉しいことだろ?   正直、俺だって女の子の悲しい姿は見たくない、涙が出るほど目を背けたくなる。でも、目を逸らしたら、全てを受け止めたことにはならない。逆に損をしてしまう。  そう考えるようにしたら、大分楽になるはずだ。もちろん、辛い思いをさせてすまないという気持ちも忘れない。ポジティブ変換で行こう」 「…………。お兄ちゃんって、時々、すごいよね……」 「はぁ? 稀に、だろ?」 「ぷっ、あはは、そうだった……ありがと、お兄ちゃん」  たとえ取り乱しても、しっかり相手の意見を聞けるゆうもすごいと俺は思った。  気持ちの受け止め方は本当に難しい。少し間違っただけでも怪我を負ってしまうから、こちらも全力で立ち向かわなければならない。その全力に至るまでもが難しいから、弱い俺は彼女達の悲劇の力をバネにしていると言っても過言ではない。今はごめん、クリス。絶対に君を救うから! 「蝋燭はそろそろ消えるはずだ。その後のクリスの行動を見る。蝋燭を追加せずに、部屋が暗闇になるようだったら、次に上半身を起こすまで待ち、起きたところを後ろから口を塞ぎ、いつもの流れで行く。それ以外の行動をするようなら、そのまま待機だ。  仮に、ずっと待機していても、朝にはならないと思う。流石に、完全に不眠というわけではなく、この状態に疲れて未明に眠りについて、二時間弱だけ寝る、みたいな感じだと思う。三時間睡眠のショートスリーパーは世の中にいるから、それ未満というわけだ。  しかし、その時まで待つと徹夜になってしまって、彼女の負担が大きい。万が一、一切睡眠していないようなら、すぐに気絶させる」 「おっけー。」  幸いにも、クリスは部屋に灯りをつけず、そのままベッドに留まっていた。どんなことを考えながら、横になっているんだろうな。少なくとも、無の境地でないことだけは確かだ。  それから一時間が経とうとしてた。クリスがベッドに入ってから、この四時間で、俺達が親しい者は皆、完全に眠りについている。 「そろそろだ」  俺は、その時が近いことをゆうに告げた。すると、その言葉が合図かのように、クリスは勢い良く上半身を起こした。 「いま!」  俺達は、ベッド下から体を伸ばし、ゆうが真っ先に口を塞ぎ、増やした触手で彼女の四肢をそれぞれ拘束して、大の字にした。彼女の体は完全にベッドから浮き上がっている。 「⁉」  クリスは、驚きつつも四肢を動かし、何とか抵抗しようとしていたが、急にそれを止めて大人しくなった。手足にも力が入っておらず、俺達が胴体を支えなければ、テーブルをひっくり返したような体勢になってしまう。  悪夢の中と思ったか、それとも、これを罰として全てを受け入れる格好なのかは分からない。思えば、これまでの女の子も大体こんな感じだった。襲われること自体が、自分に有利に働く状況だ。  しかし、抵抗されないのであれば、こちらとしては、やりやすい。下着を脱がしている時でも、全く抵抗することなく、彼女はボーっと虚空を見つめていて、それこそ無の境地だった。  俺達は、いつもの配置について、彼女の全身を優しくマッサージするかのように、体を這わせ、ゆっくりと舐め回した。 「…………」  クリスの反応はまだ薄い、と言うか、ない。いつもなら、ゆうのキスで早くも虜にしている時間だが、クリスの表情を見ると、その様子もない。彼女の罪悪感と、これまでの地獄のような苦痛から、刺激を感じないのかもしれない。これも角度を変えて責めないといけないか。 「ゆう、アプローチを変えた方が良い。クリスの身体を少しキツく絞めよう。軽くなら首を絞めてもかまわない」 「おっけー。そっち方向ね。どうりで私のテクが効いてないと思った。クリス、大丈夫だよ。大好きなあなたのために、ちゃんと感じさせてあげるからね」  俺達は、跡が残るのではないかというほど、クリスの身体を強く絞めて、仰向けで身体を持ち上げ、腕と脚を地面方向に引っ張るプロレス技の『ロメロ・スペシャル』のような関節技で体勢を固めた。 「ん……ぅ……」  やっとクリスの反応があった。しかも、苦しみの反応ではない。  闇の中で月夜がカーテンの隙間から差し込み、クリスの白い肌が照らされ、異様な体勢で全てが露わになっているその様は、芸術的にも見えた。  彼女の身体は、その印象とは裏腹に、各所の肉付きも良く、まさに『脱いだらすごい』の典型と言える。その豊かな両胸は、上に突き出すように変形させられ、張りと柔らかさを兼ね合わせた臀部も、俺達の体に吸着されて両側に引っ張られている。言わば、あらゆる方向に力を加えられ、脂肪も吸引されているような感覚だ。  ゆうがさらに責めて、クリスの顎を上げ、ベッド裏の壁を見せるようにした上で、首を軽く絞める。口も奥まで塞がれているので、流石に息苦しそうだ。そこで、両胸の先端を思い切り吸い上げた。 「んんっ……!」  クリスの全身が少し震えると、ゆうは彼女の首元を緩め、口の責めも緩めた。そして、吸い上げから、ねっとりとした舐め回しに移行すると、両腋にもターゲットを広げ、強制的にくすぐったさで体を反応させる。それから、各所のキツい責めを徐々に再開していく。 「はぁ……はぁ……」  クリスは、口を塞がれながらも、荒い呼吸になっていた。表情を見る限り、まだ息苦しさが勝っているようだ。  俺も下半身の責めを続けよう。両臀部を吸着から吸引に移行し、色々な方向に引っ張ったあとに、下方向に強く引っ張る。それと同時に、股に埋めた触手で、草木が一本も生えていない秘境に踏み入ると、頭上に輝く秘宝を、すぐに口に含んで引っ張り上げた。 「っ……!」  クリスが一段と大きく反応したことを確認すると、ゆうの動きに合わせて、舐め回しから吸引、吸引から舐め回しへの移行を繰り返した。  しばらくして、やっと表情が変わってきたクリスだったが、まだ口は自由にできない。彼女の罪の意識の高さなら、自分をめちゃくちゃにしてくれ、殺してくれと言って、気持ちもそっちの方にエスカレートしそうだからだ。  俺がそんなことを考えていると、クリスが突然泣き出した。 「ぅ……ぅ……ぅ……」  これは、おそらくユキちゃんの時と同じだ。自分を傷付けてほしいのに、そうしてくれないどころか、妙な優しさを感じる。苛立ち、戸惑い、癒し、そしてクリスの場合は、罪悪感が混じり合い、混乱して涙が出るのだろう。  ゆうがそれを舐め取るが、その行為が拍車をかけて、クリスの涙は全く止まる気配がない。そのまま泣かせてあげよう。もしかしたら、最近は思い切り泣けてなかったのかもしれないな……。  それから十分後、クリスが泣いていた間は、俺達は涙や鼻水を舐め取ることに終始していたが、ようやく落ち着いてきた彼女に目を移すと、放心状態になっているようだった。これまでの無気力な表情とは、明らかに違うものだ。 「ねえ、お兄ちゃん。口、外してもいい? 多分もう大丈夫だと思う。それに、これまでの魔法の詠唱を聞いて、詠唱かそうでないかは大体分かるからさ」 「分かった。このままだと、少し時間がかかりそうだ。コミュニケーションが必要かもな」  ゆうは、クリスの口を自由にすると、相手を安心させるような軽いキスを何度かしていた。  五分ほど放心状態が続いていたクリスだったが、ゆうのその意図に気付いて、身体が少し反応した。すると、これまで力が入っていなかったクリスの身体に、徐々に力が戻ってきて、後ろに下がっていた頭も起こし始めた。 「あの……もし、私の言っていることが分かるのであれば、体を下ろしてもらえませんか? 大丈夫です、何もしません。少し……お話ししたいことがあります」  クリスの言葉に、俺達は彼女の体を下ろし、増やしていた触手も消した。触手を一本だけにした上で、彼女の脚を経由、U字型になって、二人で彼女の表情を確認できるようにした。 「増やしたり減らしたりすることもできるんですか……すごいです……。あなたが何者かは分かりませんが、私を元気付けてくれていることは分かりました。ありがとうございます」  クリスが俺達の頭を優しく撫でた。 「ただ、私がそれに値するか、今のあなたには分からないはずです……私の話を聞いていただけますか? その上で、判断してください。もし、私にその価値がないと判断したのなら、私の首を絞めて殺してください。それが私の願いです。  ……あなたは、『エフリー国エクスミナ消失事件』を知っていますか? エフリー国では、『国境団消失およびエクスミナ消滅事件』と呼ばれています。私はそのエクスミナ町の出身です。  町は、当時人口流出が激しく、実質的には村と言っていいレベルでした。しかし、町人は明るく元気で、残った人達だけでもこの町を盛り上げていくぞ、という活気があり、私も大好きな町でした。  私はと言うと、今からは想像もできないほど活発な子で、早くから魔法の才能に恵まれていたこともあって、町の人達の日常生活の手助けをしたり、魔法の研究に目覚めたり、自主的に魔法の修行なんかも行っていました。あの杖も、私が魔法に目覚めてからすぐに両親からもらったものです。  そんなある日、城から騎士と魔法使いが派遣されてくることを知りました。私は自分の魔法の腕前をその人達に見てもらい、この町に有望な魔法使いがいると知ってもらうことで、少しでもこの町に人が戻ってくるのではないかと考え、連日修行に明け暮れました。  修行場は、町からかなり外れた森の中です。そこなら誰も来ないし、大きな音を出しても騒ぎになることはありません。町のみんなも、私がそこで修行していることを知っているので、近寄ってきません。  そして、私が張り切って夕暮れまで修行していた日に、それは起こりました。私は修行で疲れて、杖を抱いたまま森の中で眠ってしまったのです。おそらく、四時間以上は寝ていたと思います。  目覚めると夜でした。普通なら、私の居場所を知っている両親が迎えに来てもおかしくないのですが、なぜか来ませんでした。しかし、その理由はすぐに分かりました。  町が炎に包まれていたからです。私はすぐに町に戻りました。すると、町の中から怒号と悲鳴とうめき声が混じり合った地獄のような光景を目の当たりにしました。魔法使いが片っ端から建物を粉々にした上で火をつけ、多数の騎士が、町人を虐殺、強姦していたのです。その被害には、幼い子も含まれていました。  初めは盗賊かとも思いましたが、国家の紋章が入った武器と防具を所持していたので、間違いなく、エフリー国から派遣された騎士と魔法使いでした。  私が信じられない気持ちで、町中をヨロヨロと歩いていると、二人の騎士が目の前に立ちはだかりました。『まだ残ってたのか、お前が最後だぞ。そして、最後の祭りなんだから楽しくしないとな』と言われ、その二人から肩と腕を掴まれたところで、私の怒りと悲しみと不甲斐なさが混ざった感情が、身体の中から溢れ出してきて、そして、限界を突破しました。  頭に浮かんだ詠唱を無意識で声に出し、私の喉が壊れるほどの叫びと共に、私を中心に半径三キロの地上の全てが完全に消失しました。  私が町を消失させた張本人なんです。転移などではありません。境界線を見て分かりましたが、物質そのものが崩壊していました。  町には、まだ生きていた人がいたのに、隠れていた人がいたかもしれないのに、逃げている最中だった人がいたかもしれないのに、私が全員殺してしまったのです。  それから、私は満足に眠ることができなくなってしまいました。あの時の光景が目に焼き付いて離れないんです。そして、生きているはずだった人達が、私を責めるのです。どうして私達を殺したの、と。  それでも、国内を彷徨い、私が殺した町の人達の親族がいないか、なぜあのような虐殺が行われたか、様々な情報を集める中で、親族の方は結局見つかりませんでしたが、あの騎士と魔法使い達が、戦争の口実のために、国境近くの人口減少で滅びゆく町だったエクスミナ町で虐殺を行い、ジャスティ国に罪を被せようとしていたのだと分かりました。  私はエフリー国を憎みました。私のあの力で滅ぼしてやろうとも考えましたが、それではあの時と同じく、罪のない人まで犠牲になってしまうので、その考えは捨てて、それならせめて敵国だったジャスティ国に行って、ジャスティ国のために働こうと思い立ち、慈善活動を始めました。それが贖罪にもなるだろうと。  出身を隠して魔導士団に入る選択肢もありましたが、国対国の構図を目の当たりにすると、私の憎しみが増大して、魔力が暴走してしまう恐れもあったので、できるだけ戦争に結び付くことからは離れるようにしました。眠れない理由には、それも含まれます。  いつ暴走するか分からない、優しくしてくれた人達を巻き込みたくない、かと言って、一人でいられない。そういう状況では、全く眠れる気がしません。今日からは、本当に一睡もできないと思いますが、それで死んでしまうのであれば本望です。  そう思っているのに、旅をしている時は、次第に虚しくなり、死にたいと思うようになったのに、ずっと死ねませんでした。これが終わったら死のう、これが終わったら死のう。何度思っても、ずっと引き延ばしてきました。今回の辺境伯の依頼だってそう思っていました。  しかし、魔法研究者に会うことを決め、また先延ばしにしてしまいました。そのことにホッとしていた自分がいるのです。どう考えても死ぬべきなのに、死ぬ勇気も決断力もない。ダラダラと生きながらえている。  これが、私です。私の罪です。あなたの判断を聞かせてください」  天井をじっと見つめながら、俺達の判断を待つクリス。彼女の気持ちは分かる。だが、罪の意識に至る過程が、単純すぎて同意できない。  やはり、対話が必要だ。俺は、机にあった紙と羽ペンを取りに行き、ベッド横の台で、自分の考えを書き記した。 「もしかして、紙に書いているんですか? ちょっと待ってください。蝋燭をつけます」  俺の意見を示すには紙一枚では足りなかったので、複数枚に渡って急いで書いた。  クリスは予備の蝋燭を部屋の収納棚から取り出すと、魔法で火を付け、燭台にあった蝋燭と差し替えた。彼女は俺が書き終わるまで、黙ってベッドに腰掛けていた。 「ゆう、前に『いじめっ子や殺人鬼は死んでほしいし、悪い奴も助けてほしくない』と言っていたな。クリスはそこに含まれるか?」 「含まれるわけないよ! あんな出来事、避けられるわけないし……」 「じゃあ、悲しい過去があって避けようのない事実があれば、ある程度のことは許されるのか? それはどの程度だ? 社会的な話ではなく、気持ちとして、な。  例えば、俺達を轢き殺した運転手、周囲から評判が良い人だったが、過去に病気を患うも努力の甲斐あって完治したと思ったら、偶然にもあの日、再発して運転中に気絶してしまった、としたらどうだ? 直感で許す、許さない以外の理由を言えるだろうか」 「そ、それは……あたしは当然許せないけど、でも死んじゃってもう何も言えないから、残されたお父さん達がどう思うかによる、としか……」 「その通り、許す、許さないの理由は人によるんだ。では、俺達が天涯孤独で誰も悲しむ人がいなかったら?」 「そんな無茶な仮定、意味ないでしょ……って、この状況がそれ? クリスが消した人達は家族ごといなくなって、その親族も見つからなかった……。だったら、誰に許しを請えばいいの? 国家がとんでもないことやったんだから国でもないし、いないよね?」 「その通りだ。正確に言えば、国家は何があっても強権で国内の罪人を裁けるから、排除できないが、今は社会的な話をしていないので、それは置いておく。  例えば、ニュースの視聴者のように、この事件を誰かから聞いて知った人の許しかというと、そうではない。その人達に許してもらっても罪を償ったことにはならない。それは俺達が彼女を許しても同じだ。  じゃあ、許しを請う相手がいなかったら、完全に開き直っていいのかというと、そうではない。それが成り立ってしまうと、一族郎党皆殺しにした方が、罪の意識が軽くなってしまうことになるからだ。以上のことを考慮して、クリスにメッセージを書いた」  俺は書き終わった紙を全てクリスに見せた。 『俺が何を言おうと、現状で、君の背負った罪が消えるわけじゃないし、罪を償い切れるわけでもない。  ただ、一つ言えるのは、君が必要以上に苦しむことはない。君に苦しんでほしい、死んでほしいなどと思っている人は、誰一人としていないからだ。  じゃあ、一人でもいればいいのかというと、そうでもない。その場合の責任の重さが変わるからだ。  ここで言う『罪を償う』とは、被害者や遺族、罪人自身が、最終的にその罪人を理不尽な理由なく許すことだ。〇〇をすれば許すと言っていたのに、それを反故にするのは理不尽と言えるから、罪を償ったことにしていいし、逆に、いくら金を払おうが、善行をしようが、許すことに繋がらなければ、罪を償っていることにはならない。  しかし、現状では、罪を償おうとしても、それを認めてくれる人は消失して誰も残っておらず、すでに独りよがりでしかなくなっている。でも、君はそれをやめないだろう。この状況では、自分を許す方法は自分にしか分からない。  ならば、こう考えるのはどうだろうか。君が苦しんで、ましてや死んでしまうと、罪を償う効率が悪くなる、罪を償えなくなる、と。もちろん、死ねば楽になると考えるのは分からなくはない。  それなら、まず死なないで楽になることから始める。もっと言えば、罪を償うことが誰かの、何かのためになるのであれば、そのことに喜びを感じるべきじゃないか?  許された先に何があるのかも考えるべきだろう。何にもならないことをやるのは、罪を償っていないことになって矛盾するし、それは地獄と言っていい。被害者や遺族を、地獄の管理者、俺の母国語で言うところの獄卒とするのは失礼だろ?  それに、喜びを感じて罪を償ってはいけないとは、誰も言っていない。ここまで語ってきてなんだけど、正直に言うと、君の罪は罪ではないと俺は思う。なぜなら、直感的にもそう思うし、君も知っている通り、魔法使い人格者理論から、もし、君のやったことが悪いことなら、魔法を使えなくなっているからだ。  つまり、許す許さない以前に、天も君を肯定してくれているということだ。  最後に……君に苦しんでほしいと思っている人はどこにもいないが、君に元気になってほしいと心の底から思っている存在はここにいる。  そのことを踏まえて、俺に判断を委ねるのではなく、君がどうするか決めてほしい。それを決断できた時、君は生まれ変わる』 「罪を償う効率……死なないで楽になる……喜びを感じる……天が肯定……。そんなこと、考えたこともありませんでした……。私の今までの考えとあまりにかけ離れているので、理解に時間がかかるほどに…………。そんな……そんな考えが許されるんですか? いや、違う……許すのは……私……? あぁ……頭がおかしくなりそう……この感情……何なの……分からない……分からないよぉ……!」  クリスは頭を抱えて泣き出した。彼女にとっては、それほど衝撃的な考えだったのだ。ある意味、今までの生き方を否定しているからだ。  だが、その考えを受け入れたい自分がいた。運命から強制されたらどれだけ楽だろう。  しかし、こればかりは楽できない。  自分で決めなくてはいけない。  そうでなくては、自分を許せない。  それらの葛藤から来る涙なのではないかと思った。だが、どうやらまだ大事なことを理解できていないようだ。色々と理由を並べたが、これだけ知ってくれていればいいんだ。  俺達はクリスの涙を優しく舐め取った。 「っ……! そ……っか……私に元気になってほしい人……存在……ぅ……うぅ……ありがとう……ありがとう……」  クリスの表情が変化し、戸惑いの影は一切なくなっていた。蝋燭の灯りが反射して綺麗に輝く涙と、顔をほころばせる美しい少女がそこにいた。一先ず、安心だ。 「……でも、どうするんですか……? 睡眠魔法を使っても、目に焼き付いた光景や暴走がどうなるかは分かりません」  泣き止んだクリスが、具体的な方法を聞いてきた。俺は、紙に自分の考えを書いた。 『不安な気持ちのまま魔法を使っても効果は薄いだろう。それらのことを一旦忘れさせるためにも、俺が君を気絶させて、十分に睡眠してもらう。精神の安定は、肉体の安定からだ。今の君なら、俺を完全に受け入れることができて、感度も向上しているはずだ。  暴走については、君はこれまで全く眠っていなかったわけではないから、その気持ちさえあれば大丈夫だろう。気持ち良すぎて暴走するのは、どうか我慢してほしい。目覚めた時には、きっと朝だ』 「わ、分かりました……。それでは……一つお願いがあるのですが、キツく縛ってもらった時……その……気持ち良かったので、ああいう感じで……お願いします……。あれが良すぎて、罪悪感と合わさって泣いちゃったんです」  クリスは恥ずかしがってモジモジしながら、俺達に希望を伝えた。  もう、ほとんど吹っ切れているな。良いことだ。 「ゆう、今回は俺が我を忘れても止めなくていい。ただし、頭を突っ込みそうになったら、無理矢理にでも止めてくれ」 「おっけー。あんまり早く終わらせないでよ。かわいいクリスをもっと見たいんだから」  クリスの要望通り、俺達は触手を増やし、先程と同じ縛り方でベッド上に彼女を掲げ、激しく責め立てた。 「あっ……あんっ! あんっ! はぁん!」  今度は、声も快感も我慢することなく、クリスが断続的に反応する。 「もっと……もっとぉ! はぁ……はぁ……あっ……はぁん……!」  豹変した獣のように俺達を求めて、キツく縛られた身体をくねらせるクリスだが、あまり動かれると、彼女の関節を痛めてしまうので、俺達も力を入れて彼女を抑える。  こういうところでもギャップを魅せてくれるのか。 「クリス、かわいくて、すっごくエッチだね。じゃあ、キスもたっぷりしてもらおうかな」  ゆうがクリスの舌を求めると、クリスからも妖しげな動きで舌を伸ばしてきて、二人の舌の先が触れた瞬間、すぐに激しく絡み合った。 「ん……はぁ……んん……はぁ……」  クリスの頭の動きが激しいので、下半身にいる俺にも振動が伝わってくる。そんな彼女に当てられて、俺もリミッターを解除した。三本の触手を使い、彼女の股間の敏感な部分を全て網羅するように、舐め回し、むしゃぶりつき、吸い上げた。 「はぁ……はぁ……だめぇ……それ……だめぇ! おかしくなるぅぅ!」  おかしくなるのは俺の方だ。クリスの声はもう俺に届いていない。正確には、耳には届いているが、脳が処理できていない。気を失う前に決めておいた動きを忠実に繰り返し再現しているだけだ。  彼女の汗混じりの全ての体液が美味すぎて、いつもの味の論評さえ放棄したい。このままクリスが暴走して俺達が消失しても、一切の悔いがない、『巻き込まれた人達は、ごめんちゃい☆』と無責任に言いたくなるほどの味だった。大切なアースリーちゃん達が近くにいるにもかかわらず、一瞬でもそう思ってしまうのは、本当にとんでもない魔液だ。  このままでは、自身の脳が保たないと本能で感じて、俺の体はクリスを気絶させるためのラストスパートに入った。  彼女がいくら動こうと、悲鳴を上げようと、俺は激しく責め続けた。  そして、俺の意識がないので、ゆうはクリスの反応を見て、絶好のタイミングで身体を絞め上げ、各所を吸い上げた……はずだ。 「あっ! あっ! あっ! あっ! ああぁぁぁぁはぁぁぁぁ……ぁぁぁん! …………」  クリスの全身の力が抜け、動かなくなったのを確認してから、ゆうが俺に声をかけた。 「お兄ちゃん、終わったよ!」  俺はまだ気絶したクリスにむしゃぶりついていたようだ。意識を取り戻し、口を彼女から離す。 「ありがとう、ゆう……。はぁぁぁ……満足度が高すぎて、我に返った時のロスが半端ないな。すぐに、次の楽しいことを考えないと、鬱になりそうだ。ゆうは切り替え早いから大丈夫だろうけど」 「まあ、確かにあたしは、そういうロスはこれまで感じたことないかな。面白かった番組が終わって……ってヤツでしょ? 精々、自分が死んだ時ぐらい。  でも、基本的にお兄ちゃんが今も昔も言った通りのことをしてるだけ。『別れの悲しみがあれば、出会いの楽しみがある』ってね。『同じ人と何度も別れる時でも、また会えることを楽しみに待つ。それが長ければ長いほど会った時に嬉しい。腹が減ってる時には飯が特別に美味い理論だ』って言ってたでしょ」 「そんなことも言ってたかな。よく覚えてるじゃないか。それならお前に新しい理論を授けよう。トイレを我慢すればするほど、出した時に気持ちが良い理論だ」 「きも! うざ! 死ね!」  実に気持ちが良い三連発を、美味しく食らった俺だった。 「それはそうと、お兄ちゃん、お誕生日おめでとう」  ゆうが突然切り替えて、俺に誕生日祝いの言葉を送ってきた。 「おお、ありがとう。よく覚えてたな」 「そりゃあね。元々、あの日はお兄ちゃんの誕生日プレゼントを探しに行こうと思ってたし。もし、今日が何日目か分からなくなったとしても、あたし達の目的と行動を思い出せば、逆算できるし。この姿だと、プレゼントを渡せないのが残念だけどね」 「そうだな。サプライズもできないし、『プレゼントは、あ・た・し』もできないしな」 「うざ。」 「いや、お前、六年前の俺の誕生日にやってただろ。居間で渡したプレゼントの他に、本当は別に渡したいものがあるって言って、俺の部屋に裸で来て……」 「あのさぁ、そういうことを言ってるんじゃなくて、妹のことが大大大大大好きなお兄ちゃんが、プレゼントにかこつけて、あたしの体を求めてくるのがウザいの」 「人聞きの悪いことを言うな。別に俺の方から求めてなかっただろ」 「いや、お兄ちゃん、あの時、『もらえるものがあったらもらいたい』って言ってたし」 「それはそうだけど、『本当に欲しい?』って誕生日に言われたら、そう答えるしかないだろ」 「あ、言い訳だ。いくらでも答えようあるのに。お兄ちゃんなら思い付くはずなのに。本当はあたしの身体が欲しかったんでしょ。きも!」  酷い言われようだ。俺がゆうの罵倒に快感を覚える体質でなければ、色々と言い返していたことだろう。今日のところは、誕生日ということで、このぐらいにしておいてやる。  いや、もしかして、これがプレゼントだったのか? 「プレゼントありがとう、ゆう。次のお前の誕生日を楽しみにしていてくれ」 「え? あ、うん、分かった。三倍返しね」  いや、それはホワイトデー以外で聞いたことがないプレゼント方法だ。  俺は、ゆうへの整数倍プレゼントをどうするか、朝まで考えていた。



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俺達と女の子達が情報共有して不眠症の女の子を救済する話(4/4)

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 夕食後、クリスの部屋に残しておいた触手に意識を移した俺達は、彼女が下着姿で早々にベッドに入るところを天井の梁から見ていた。風呂には入らないみたいだ。  メイドによるシャンデリアの蝋燭の点灯を、彼女は断っていたので、すでに部屋は暗く、ベッド横の長い蝋燭だけが付近をほんのりと照らす。  彼女が夕食で部屋にいない時に、俺達はベッド下にも触手を潜り込ませていた。  上から彼女をしばらく見ていると、俺達は非常に奇妙な出来事を目にし、ちょっとした恐怖さえ覚えた。 「なんか……ベッドに入ってから、ずっと目開けてない? 瞬きもめちゃくちゃ少ない……。目を開けたまま寝てるとかじゃないよね」 「俺達に気付いたってわけじゃないと思うが……色々な意味で少し怖いな。とりあえず、できるだけ動かないようにしよう」  クリスのベッドからは足方向の梁に俺達がいる。真上にいたら気付かれていたかもしれないと思うほど、彼女はずっと天井を見ている。  二十分ほど経過して、ようやく目を瞑ったかと思ったら、二秒も経たない内に、すぐにまた目を開けた。  五分経って、また目を二秒瞑る。それが四十分ほど続いた。  そして、目を瞑る時間が二秒から五秒になった。その途端、まるで悪夢から目覚めたかのように、上半身をガバっと起こし、息を荒げ、汗もかいていた。風呂に入らなかったのは、どうせ汗をかくから、入るなら朝、ということかもしれない。  しばらくすると、またベッドに横になり、目を瞑ることなく天井を見るところから始まる。それから、二時間経って三回目のループに入ったところで、その様子を黙って見ていたゆうが口を開いた。 「これ、不眠症ってレベルじゃないよね……? ねぇ、こんなこと毎日続けてたの……? いつから……? 死んじゃうよ! こんなの‼ ……辛すぎる……よぉ……」  ゆうは取り乱した様子で、彼女の身を案じて、誰とも言えない相手に疑問を投げかけ、叫びとも言える声を上げたが、最後は消え入りそうな声で泣いていた。  アースリーちゃんも不眠で悩んでいた時はあったが、それとは違う、別の地獄をクリスは味わっていた。苦しいだけではない。実際に、彼女の寿命も削られているはずだ。日常の睡眠時間が短いと寿命も短いと言われているからだ。 「かつてのアースリーちゃんと同じく、クリスも強迫観念で寝られないんだろうな。過去に衝撃的な何かを体験したはずだ。この様子だと、眠った時に何らかの失敗を犯し、それで眠れなくなった。ほんの少しでも眠ると、脳裏に焼き付いた光景がすぐさま蘇る、と言ったところか。  睡眠魔法はおそらく存在するだろうから、それを使っていないところを見ると、シンシアが今朝、クリスに言いかけた通り、理由は贖罪だろうな。ある意味、とんでもない精神力だ」  これほどまでの罪悪感を覚えるのであれば、かなり規模が大きい失敗のはずだ。だとしたら、思い当たる節はある。 「どうやったら、そんなに冷静に見てられるの⁉ 見てられないよ! こんな……大好きな人がこんな……」 「絶対に幸せにすると心に決めているからだ。アースリーちゃんやユキちゃんの時を思い出せ。あの時も、見ていられないほど辛かった。  だが、俺達は絶対に助けると心に誓い、機を伺った。その時との違いは、彼女達が初対面だったのに対し、今回はすでに大切な存在が辛い思いをしている、ということだが、やることは変わらない。  むしろ、戦闘経験もある優秀な魔法使い相手だから慎重にならなければいけない。アースリーちゃんやユキちゃんの時のようなタイムリミットがあるわけでもない、シンシアの時のような簡単に不意を突ける環境でもない。  クリスの観察眼から、蝋燭の灯りのほんの少しの揺らめきでも、俺達の存在がバレてしまう。こちらから動くわけにはいかない、待つしかないんだ。  ただ、あの時も思ったことがある。お前だって言っていたことだ。この辛い光景を見ているからこそ、彼女の全てを受け止められて、自分の想いや決意が強くなる、彼女がより愛おしくなる。全て終わった時には、これからどんなことがあっても一生幸せにするぞ、と思える。  そして、みんな言ってくれる。その辛いことがなければ、俺達に出会っていなかったから、あれで良かった、今はすごい幸せだと。本心から言ってくれてるんだ。嬉しいことだろ?   正直、俺だって女の子の悲しい姿は見たくない、涙が出るほど目を背けたくなる。でも、目を逸らしたら、全てを受け止めたことにはならない。逆に損をしてしまう。  そう考えるようにしたら、大分楽になるはずだ。もちろん、辛い思いをさせてすまないという気持ちも忘れない。ポジティブ変換で行こう」 「…………。お兄ちゃんって、時々、すごいよね……」 「はぁ? 稀に、だろ?」 「ぷっ、あはは、そうだった……ありがと、お兄ちゃん」  たとえ取り乱しても、しっかり相手の意見を聞けるゆうもすごいと俺は思った。  気持ちの受け止め方は本当に難しい。少し間違っただけでも怪我を負ってしまうから、こちらも全力で立ち向かわなければならない。その全力に至るまでもが難しいから、弱い俺は彼女達の悲劇の力をバネにしていると言っても過言ではない。今はごめん、クリス。絶対に君を救うから! 「蝋燭はそろそろ消えるはずだ。その後のクリスの行動を見る。蝋燭を追加せずに、部屋が暗闇になるようだったら、次に上半身を起こすまで待ち、起きたところを後ろから口を塞ぎ、いつもの流れで行く。それ以外の行動をするようなら、そのまま待機だ。  仮に、ずっと待機していても、朝にはならないと思う。流石に、完全に不眠というわけではなく、この状態に疲れて未明に眠りについて、二時間弱だけ寝る、みたいな感じだと思う。三時間睡眠のショートスリーパーは世の中にいるから、それ未満というわけだ。  しかし、その時まで待つと徹夜になってしまって、彼女の負担が大きい。万が一、一切睡眠していないようなら、すぐに気絶させる」 「おっけー。」  幸いにも、クリスは部屋に灯りをつけず、そのままベッドに留まっていた。どんなことを考えながら、横になっているんだろうな。少なくとも、無の境地でないことだけは確かだ。  それから一時間が経とうとしてた。クリスがベッドに入ってから、この四時間で、俺達が親しい者は皆、完全に眠りについている。 「そろそろだ」  俺は、その時が近いことをゆうに告げた。すると、その言葉が合図かのように、クリスは勢い良く上半身を起こした。 「いま!」  俺達は、ベッド下から体を伸ばし、ゆうが真っ先に口を塞ぎ、増やした触手で彼女の四肢をそれぞれ拘束して、大の字にした。彼女の体は完全にベッドから浮き上がっている。 「⁉」  クリスは、驚きつつも四肢を動かし、何とか抵抗しようとしていたが、急にそれを止めて大人しくなった。手足にも力が入っておらず、俺達が胴体を支えなければ、テーブルをひっくり返したような体勢になってしまう。  悪夢の中と思ったか、それとも、これを罰として全てを受け入れる格好なのかは分からない。思えば、これまでの女の子も大体こんな感じだった。襲われること自体が、自分に有利に働く状況だ。  しかし、抵抗されないのであれば、こちらとしては、やりやすい。下着を脱がしている時でも、全く抵抗することなく、彼女はボーっと虚空を見つめていて、それこそ無の境地だった。  俺達は、いつもの配置について、彼女の全身を優しくマッサージするかのように、体を這わせ、ゆっくりと舐め回した。 「…………」  クリスの反応はまだ薄い、と言うか、ない。いつもなら、ゆうのキスで早くも虜にしている時間だが、クリスの表情を見ると、その様子もない。彼女の罪悪感と、これまでの地獄のような苦痛から、刺激を感じないのかもしれない。これも角度を変えて責めないといけないか。 「ゆう、アプローチを変えた方が良い。クリスの身体を少しキツく絞めよう。軽くなら首を絞めてもかまわない」 「おっけー。そっち方向ね。どうりで私のテクが効いてないと思った。クリス、大丈夫だよ。大好きなあなたのために、ちゃんと感じさせてあげるからね」  俺達は、跡が残るのではないかというほど、クリスの身体を強く絞めて、仰向けで身体を持ち上げ、腕と脚を地面方向に引っ張るプロレス技の『ロメロ・スペシャル』のような関節技で体勢を固めた。 「ん……ぅ……」  やっとクリスの反応があった。しかも、苦しみの反応ではない。  闇の中で月夜がカーテンの隙間から差し込み、クリスの白い肌が照らされ、異様な体勢で全てが露わになっているその様は、芸術的にも見えた。  彼女の身体は、その印象とは裏腹に、各所の肉付きも良く、まさに『脱いだらすごい』の典型と言える。その豊かな両胸は、上に突き出すように変形させられ、張りと柔らかさを兼ね合わせた臀部も、俺達の体に吸着されて両側に引っ張られている。言わば、あらゆる方向に力を加えられ、脂肪も吸引されているような感覚だ。  ゆうがさらに責めて、クリスの顎を上げ、ベッド裏の壁を見せるようにした上で、首を軽く絞める。口も奥まで塞がれているので、流石に息苦しそうだ。そこで、両胸の先端を思い切り吸い上げた。 「んんっ……!」  クリスの全身が少し震えると、ゆうは彼女の首元を緩め、口の責めも緩めた。そして、吸い上げから、ねっとりとした舐め回しに移行すると、両腋にもターゲットを広げ、強制的にくすぐったさで体を反応させる。それから、各所のキツい責めを徐々に再開していく。 「はぁ……はぁ……」  クリスは、口を塞がれながらも、荒い呼吸になっていた。表情を見る限り、まだ息苦しさが勝っているようだ。  俺も下半身の責めを続けよう。両臀部を吸着から吸引に移行し、色々な方向に引っ張ったあとに、下方向に強く引っ張る。それと同時に、股に埋めた触手で、草木が一本も生えていない秘境に踏み入ると、頭上に輝く秘宝を、すぐに口に含んで引っ張り上げた。 「っ……!」  クリスが一段と大きく反応したことを確認すると、ゆうの動きに合わせて、舐め回しから吸引、吸引から舐め回しへの移行を繰り返した。  しばらくして、やっと表情が変わってきたクリスだったが、まだ口は自由にできない。彼女の罪の意識の高さなら、自分をめちゃくちゃにしてくれ、殺してくれと言って、気持ちもそっちの方にエスカレートしそうだからだ。  俺がそんなことを考えていると、クリスが突然泣き出した。 「ぅ……ぅ……ぅ……」  これは、おそらくユキちゃんの時と同じだ。自分を傷付けてほしいのに、そうしてくれないどころか、妙な優しさを感じる。苛立ち、戸惑い、癒し、そしてクリスの場合は、罪悪感が混じり合い、混乱して涙が出るのだろう。  ゆうがそれを舐め取るが、その行為が拍車をかけて、クリスの涙は全く止まる気配がない。そのまま泣かせてあげよう。もしかしたら、最近は思い切り泣けてなかったのかもしれないな……。  それから十分後、クリスが泣いていた間は、俺達は涙や鼻水を舐め取ることに終始していたが、ようやく落ち着いてきた彼女に目を移すと、放心状態になっているようだった。これまでの無気力な表情とは、明らかに違うものだ。 「ねえ、お兄ちゃん。口、外してもいい? 多分もう大丈夫だと思う。それに、これまでの魔法の詠唱を聞いて、詠唱かそうでないかは大体分かるからさ」 「分かった。このままだと、少し時間がかかりそうだ。コミュニケーションが必要かもな」  ゆうは、クリスの口を自由にすると、相手を安心させるような軽いキスを何度かしていた。  五分ほど放心状態が続いていたクリスだったが、ゆうのその意図に気付いて、身体が少し反応した。すると、これまで力が入っていなかったクリスの身体に、徐々に力が戻ってきて、後ろに下がっていた頭も起こし始めた。 「あの……もし、私の言っていることが分かるのであれば、体を下ろしてもらえませんか? 大丈夫です、何もしません。少し……お話ししたいことがあります」  クリスの言葉に、俺達は彼女の体を下ろし、増やしていた触手も消した。触手を一本だけにした上で、彼女の脚を経由、U字型になって、二人で彼女の表情を確認できるようにした。 「増やしたり減らしたりすることもできるんですか……すごいです……。あなたが何者かは分かりませんが、私を元気付けてくれていることは分かりました。ありがとうございます」  クリスが俺達の頭を優しく撫でた。 「ただ、私がそれに値するか、今のあなたには分からないはずです……私の話を聞いていただけますか? その上で、判断してください。もし、私にその価値がないと判断したのなら、私の首を絞めて殺してください。それが私の願いです。  ……あなたは、『エフリー国エクスミナ消失事件』を知っていますか? エフリー国では、『国境団消失およびエクスミナ消滅事件』と呼ばれています。私はそのエクスミナ町の出身です。  町は、当時人口流出が激しく、実質的には村と言っていいレベルでした。しかし、町人は明るく元気で、残った人達だけでもこの町を盛り上げていくぞ、という活気があり、私も大好きな町でした。  私はと言うと、今からは想像もできないほど活発な子で、早くから魔法の才能に恵まれていたこともあって、町の人達の日常生活の手助けをしたり、魔法の研究に目覚めたり、自主的に魔法の修行なんかも行っていました。あの杖も、私が魔法に目覚めてからすぐに両親からもらったものです。  そんなある日、城から騎士と魔法使いが派遣されてくることを知りました。私は自分の魔法の腕前をその人達に見てもらい、この町に有望な魔法使いがいると知ってもらうことで、少しでもこの町に人が戻ってくるのではないかと考え、連日修行に明け暮れました。  修行場は、町からかなり外れた森の中です。そこなら誰も来ないし、大きな音を出しても騒ぎになることはありません。町のみんなも、私がそこで修行していることを知っているので、近寄ってきません。  そして、私が張り切って夕暮れまで修行していた日に、それは起こりました。私は修行で疲れて、杖を抱いたまま森の中で眠ってしまったのです。おそらく、四時間以上は寝ていたと思います。  目覚めると夜でした。普通なら、私の居場所を知っている両親が迎えに来てもおかしくないのですが、なぜか来ませんでした。しかし、その理由はすぐに分かりました。  町が炎に包まれていたからです。私はすぐに町に戻りました。すると、町の中から怒号と悲鳴とうめき声が混じり合った地獄のような光景を目の当たりにしました。魔法使いが片っ端から建物を粉々にした上で火をつけ、多数の騎士が、町人を虐殺、強姦していたのです。その被害には、幼い子も含まれていました。  初めは盗賊かとも思いましたが、国家の紋章が入った武器と防具を所持していたので、間違いなく、エフリー国から派遣された騎士と魔法使いでした。  私が信じられない気持ちで、町中をヨロヨロと歩いていると、二人の騎士が目の前に立ちはだかりました。『まだ残ってたのか、お前が最後だぞ。そして、最後の祭りなんだから楽しくしないとな』と言われ、その二人から肩と腕を掴まれたところで、私の怒りと悲しみと不甲斐なさが混ざった感情が、身体の中から溢れ出してきて、そして、限界を突破しました。  頭に浮かんだ詠唱を無意識で声に出し、私の喉が壊れるほどの叫びと共に、私を中心に半径三キロの地上の全てが完全に消失しました。  私が町を消失させた張本人なんです。転移などではありません。境界線を見て分かりましたが、物質そのものが崩壊していました。  町には、まだ生きていた人がいたのに、隠れていた人がいたかもしれないのに、逃げている最中だった人がいたかもしれないのに、私が全員殺してしまったのです。  それから、私は満足に眠ることができなくなってしまいました。あの時の光景が目に焼き付いて離れないんです。そして、生きているはずだった人達が、私を責めるのです。どうして私達を殺したの、と。  それでも、国内を彷徨い、私が殺した町の人達の親族がいないか、なぜあのような虐殺が行われたか、様々な情報を集める中で、親族の方は結局見つかりませんでしたが、あの騎士と魔法使い達が、戦争の口実のために、国境近くの人口減少で滅びゆく町だったエクスミナ町で虐殺を行い、ジャスティ国に罪を被せようとしていたのだと分かりました。  私はエフリー国を憎みました。私のあの力で滅ぼしてやろうとも考えましたが、それではあの時と同じく、罪のない人まで犠牲になってしまうので、その考えは捨てて、それならせめて敵国だったジャスティ国に行って、ジャスティ国のために働こうと思い立ち、慈善活動を始めました。それが贖罪にもなるだろうと。  出身を隠して魔導士団に入る選択肢もありましたが、国対国の構図を目の当たりにすると、私の憎しみが増大して、魔力が暴走してしまう恐れもあったので、できるだけ戦争に結び付くことからは離れるようにしました。眠れない理由には、それも含まれます。  いつ暴走するか分からない、優しくしてくれた人達を巻き込みたくない、かと言って、一人でいられない。そういう状況では、全く眠れる気がしません。今日からは、本当に一睡もできないと思いますが、それで死んでしまうのであれば本望です。  そう思っているのに、旅をしている時は、次第に虚しくなり、死にたいと思うようになったのに、ずっと死ねませんでした。これが終わったら死のう、これが終わったら死のう。何度思っても、ずっと引き延ばしてきました。今回の辺境伯の依頼だってそう思っていました。  しかし、魔法研究者に会うことを決め、また先延ばしにしてしまいました。そのことにホッとしていた自分がいるのです。どう考えても死ぬべきなのに、死ぬ勇気も決断力もない。ダラダラと生きながらえている。  これが、私です。私の罪です。あなたの判断を聞かせてください」  天井をじっと見つめながら、俺達の判断を待つクリス。彼女の気持ちは分かる。だが、罪の意識に至る過程が、単純すぎて同意できない。  やはり、対話が必要だ。俺は、机にあった紙と羽ペンを取りに行き、ベッド横の台で、自分の考えを書き記した。 「もしかして、紙に書いているんですか? ちょっと待ってください。蝋燭をつけます」  俺の意見を示すには紙一枚では足りなかったので、複数枚に渡って急いで書いた。  クリスは予備の蝋燭を部屋の収納棚から取り出すと、魔法で火を付け、燭台にあった蝋燭と差し替えた。彼女は俺が書き終わるまで、黙ってベッドに腰掛けていた。 「ゆう、前に『いじめっ子や殺人鬼は死んでほしいし、悪い奴も助けてほしくない』と言っていたな。クリスはそこに含まれるか?」 「含まれるわけないよ! あんな出来事、避けられるわけないし……」 「じゃあ、悲しい過去があって避けようのない事実があれば、ある程度のことは許されるのか? それはどの程度だ? 社会的な話ではなく、気持ちとして、な。  例えば、俺達を轢き殺した運転手、周囲から評判が良い人だったが、過去に病気を患うも努力の甲斐あって完治したと思ったら、偶然にもあの日、再発して運転中に気絶してしまった、としたらどうだ? 直感で許す、許さない以外の理由を言えるだろうか」 「そ、それは……あたしは当然許せないけど、でも死んじゃってもう何も言えないから、残されたお父さん達がどう思うかによる、としか……」 「その通り、許す、許さないの理由は人によるんだ。では、俺達が天涯孤独で誰も悲しむ人がいなかったら?」 「そんな無茶な仮定、意味ないでしょ……って、この状況がそれ? クリスが消した人達は家族ごといなくなって、その親族も見つからなかった……。だったら、誰に許しを請えばいいの? 国家がとんでもないことやったんだから国でもないし、いないよね?」 「その通りだ。正確に言えば、国家は何があっても強権で国内の罪人を裁けるから、排除できないが、今は社会的な話をしていないので、それは置いておく。  例えば、ニュースの視聴者のように、この事件を誰かから聞いて知った人の許しかというと、そうではない。その人達に許してもらっても罪を償ったことにはならない。それは俺達が彼女を許しても同じだ。  じゃあ、許しを請う相手がいなかったら、完全に開き直っていいのかというと、そうではない。それが成り立ってしまうと、一族郎党皆殺しにした方が、罪の意識が軽くなってしまうことになるからだ。以上のことを考慮して、クリスにメッセージを書いた」  俺は書き終わった紙を全てクリスに見せた。 『俺が何を言おうと、現状で、君の背負った罪が消えるわけじゃないし、罪を償い切れるわけでもない。  ただ、一つ言えるのは、君が必要以上に苦しむことはない。君に苦しんでほしい、死んでほしいなどと思っている人は、誰一人としていないからだ。  じゃあ、一人でもいればいいのかというと、そうでもない。その場合の責任の重さが変わるからだ。  ここで言う『罪を償う』とは、被害者や遺族、罪人自身が、最終的にその罪人を理不尽な理由なく許すことだ。〇〇をすれば許すと言っていたのに、それを反故にするのは理不尽と言えるから、罪を償ったことにしていいし、逆に、いくら金を払おうが、善行をしようが、許すことに繋がらなければ、罪を償っていることにはならない。  しかし、現状では、罪を償おうとしても、それを認めてくれる人は消失して誰も残っておらず、すでに独りよがりでしかなくなっている。でも、君はそれをやめないだろう。この状況では、自分を許す方法は自分にしか分からない。  ならば、こう考えるのはどうだろうか。君が苦しんで、ましてや死んでしまうと、罪を償う効率が悪くなる、罪を償えなくなる、と。もちろん、死ねば楽になると考えるのは分からなくはない。  それなら、まず死なないで楽になることから始める。もっと言えば、罪を償うことが誰かの、何かのためになるのであれば、そのことに喜びを感じるべきじゃないか?  許された先に何があるのかも考えるべきだろう。何にもならないことをやるのは、罪を償っていないことになって矛盾するし、それは地獄と言っていい。被害者や遺族を、地獄の管理者、俺の母国語で言うところの獄卒とするのは失礼だろ?  それに、喜びを感じて罪を償ってはいけないとは、誰も言っていない。ここまで語ってきてなんだけど、正直に言うと、君の罪は罪ではないと俺は思う。なぜなら、直感的にもそう思うし、君も知っている通り、魔法使い人格者理論から、もし、君のやったことが悪いことなら、魔法を使えなくなっているからだ。  つまり、許す許さない以前に、天も君を肯定してくれているということだ。  最後に……君に苦しんでほしいと思っている人はどこにもいないが、君に元気になってほしいと心の底から思っている存在はここにいる。  そのことを踏まえて、俺に判断を委ねるのではなく、君がどうするか決めてほしい。それを決断できた時、君は生まれ変わる』 「罪を償う効率……死なないで楽になる……喜びを感じる……天が肯定……。そんなこと、考えたこともありませんでした……。私の今までの考えとあまりにかけ離れているので、理解に時間がかかるほどに…………。そんな……そんな考えが許されるんですか? いや、違う……許すのは……私……? あぁ……頭がおかしくなりそう……この感情……何なの……分からない……分からないよぉ……!」  クリスは頭を抱えて泣き出した。彼女にとっては、それほど衝撃的な考えだったのだ。ある意味、今までの生き方を否定しているからだ。  だが、その考えを受け入れたい自分がいた。運命から強制されたらどれだけ楽だろう。  しかし、こればかりは楽できない。  自分で決めなくてはいけない。  そうでなくては、自分を許せない。  それらの葛藤から来る涙なのではないかと思った。だが、どうやらまだ大事なことを理解できていないようだ。色々と理由を並べたが、これだけ知ってくれていればいいんだ。  俺達はクリスの涙を優しく舐め取った。 「っ……! そ……っか……私に元気になってほしい人……存在……ぅ……うぅ……ありがとう……ありがとう……」  クリスの表情が変化し、戸惑いの影は一切なくなっていた。蝋燭の灯りが反射して綺麗に輝く涙と、顔をほころばせる美しい少女がそこにいた。一先ず、安心だ。 「……でも、どうするんですか……? 睡眠魔法を使っても、目に焼き付いた光景や暴走がどうなるかは分かりません」  泣き止んだクリスが、具体的な方法を聞いてきた。俺は、紙に自分の考えを書いた。 『不安な気持ちのまま魔法を使っても効果は薄いだろう。それらのことを一旦忘れさせるためにも、俺が君を気絶させて、十分に睡眠してもらう。精神の安定は、肉体の安定からだ。今の君なら、俺を完全に受け入れることができて、感度も向上しているはずだ。  暴走については、君はこれまで全く眠っていなかったわけではないから、その気持ちさえあれば大丈夫だろう。気持ち良すぎて暴走するのは、どうか我慢してほしい。目覚めた時には、きっと朝だ』 「わ、分かりました……。それでは……一つお願いがあるのですが、キツく縛ってもらった時……その……気持ち良かったので、ああいう感じで……お願いします……。あれが良すぎて、罪悪感と合わさって泣いちゃったんです」  クリスは恥ずかしがってモジモジしながら、俺達に希望を伝えた。  もう、ほとんど吹っ切れているな。良いことだ。 「ゆう、今回は俺が我を忘れても止めなくていい。ただし、頭を突っ込みそうになったら、無理矢理にでも止めてくれ」 「おっけー。あんまり早く終わらせないでよ。かわいいクリスをもっと見たいんだから」  クリスの要望通り、俺達は触手を増やし、先程と同じ縛り方でベッド上に彼女を掲げ、激しく責め立てた。 「あっ……あんっ! あんっ! はぁん!」  今度は、声も快感も我慢することなく、クリスが断続的に反応する。 「もっと……もっとぉ! はぁ……はぁ……あっ……はぁん……!」  豹変した獣のように俺達を求めて、キツく縛られた身体をくねらせるクリスだが、あまり動かれると、彼女の関節を痛めてしまうので、俺達も力を入れて彼女を抑える。  こういうところでもギャップを魅せてくれるのか。 「クリス、かわいくて、すっごくエッチだね。じゃあ、キスもたっぷりしてもらおうかな」  ゆうがクリスの舌を求めると、クリスからも妖しげな動きで舌を伸ばしてきて、二人の舌の先が触れた瞬間、すぐに激しく絡み合った。 「ん……はぁ……んん……はぁ……」  クリスの頭の動きが激しいので、下半身にいる俺にも振動が伝わってくる。そんな彼女に当てられて、俺もリミッターを解除した。三本の触手を使い、彼女の股間の敏感な部分を全て網羅するように、舐め回し、むしゃぶりつき、吸い上げた。 「はぁ……はぁ……だめぇ……それ……だめぇ! おかしくなるぅぅ!」  おかしくなるのは俺の方だ。クリスの声はもう俺に届いていない。正確には、耳には届いているが、脳が処理できていない。気を失う前に決めておいた動きを忠実に繰り返し再現しているだけだ。  彼女の汗混じりの全ての体液が美味すぎて、いつもの味の論評さえ放棄したい。このままクリスが暴走して俺達が消失しても、一切の悔いがない、『巻き込まれた人達は、ごめんちゃい☆』と無責任に言いたくなるほどの味だった。大切なアースリーちゃん達が近くにいるにもかかわらず、一瞬でもそう思ってしまうのは、本当にとんでもない魔液だ。  このままでは、自身の脳が保たないと本能で感じて、俺の体はクリスを気絶させるためのラストスパートに入った。  彼女がいくら動こうと、悲鳴を上げようと、俺は激しく責め続けた。  そして、俺の意識がないので、ゆうはクリスの反応を見て、絶好のタイミングで身体を絞め上げ、各所を吸い上げた……はずだ。 「あっ! あっ! あっ! あっ! ああぁぁぁぁはぁぁぁぁ……ぁぁぁん! …………」  クリスの全身の力が抜け、動かなくなったのを確認してから、ゆうが俺に声をかけた。 「お兄ちゃん、終わったよ!」  俺はまだ気絶したクリスにむしゃぶりついていたようだ。意識を取り戻し、口を彼女から離す。 「ありがとう、ゆう……。はぁぁぁ……満足度が高すぎて、我に返った時のロスが半端ないな。すぐに、次の楽しいことを考えないと、鬱になりそうだ。ゆうは切り替え早いから大丈夫だろうけど」 「まあ、確かにあたしは、そういうロスはこれまで感じたことないかな。面白かった番組が終わって……ってヤツでしょ? 精々、自分が死んだ時ぐらい。  でも、基本的にお兄ちゃんが今も昔も言った通りのことをしてるだけ。『別れの悲しみがあれば、出会いの楽しみがある』ってね。『同じ人と何度も別れる時でも、また会えることを楽しみに待つ。それが長ければ長いほど会った時に嬉しい。腹が減ってる時には飯が特別に美味い理論だ』って言ってたでしょ」 「そんなことも言ってたかな。よく覚えてるじゃないか。それならお前に新しい理論を授けよう。トイレを我慢すればするほど、出した時に気持ちが良い理論だ」 「きも! うざ! 死ね!」  実に気持ちが良い三連発を、美味しく食らった俺だった。 「それはそうと、お兄ちゃん、お誕生日おめでとう」  ゆうが突然切り替えて、俺に誕生日祝いの言葉を送ってきた。 「おお、ありがとう。よく覚えてたな」 「そりゃあね。元々、あの日はお兄ちゃんの誕生日プレゼントを探しに行こうと思ってたし。もし、今日が何日目か分からなくなったとしても、あたし達の目的と行動を思い出せば、逆算できるし。この姿だと、プレゼントを渡せないのが残念だけどね」 「そうだな。サプライズもできないし、『プレゼントは、あ・た・し』もできないしな」 「うざ。」 「いや、お前、六年前の俺の誕生日にやってただろ。居間で渡したプレゼントの他に、本当は別に渡したいものがあるって言って、俺の部屋に裸で来て……」 「あのさぁ、そういうことを言ってるんじゃなくて、妹のことが大大大大大好きなお兄ちゃんが、プレゼントにかこつけて、あたしの体を求めてくるのがウザいの」 「人聞きの悪いことを言うな。別に俺の方から求めてなかっただろ」 「いや、お兄ちゃん、あの時、『もらえるものがあったらもらいたい』って言ってたし」 「それはそうだけど、『本当に欲しい?』って誕生日に言われたら、そう答えるしかないだろ」 「あ、言い訳だ。いくらでも答えようあるのに。お兄ちゃんなら思い付くはずなのに。本当はあたしの身体が欲しかったんでしょ。きも!」  酷い言われようだ。俺がゆうの罵倒に快感を覚える体質でなければ、色々と言い返していたことだろう。今日のところは、誕生日ということで、このぐらいにしておいてやる。  いや、もしかして、これがプレゼントだったのか? 「プレゼントありがとう、ゆう。次のお前の誕生日を楽しみにしていてくれ」 「え? あ、うん、分かった。三倍返しね」  いや、それはホワイトデー以外で聞いたことがないプレゼント方法だ。  俺は、ゆうへの整数倍プレゼントをどうするか、朝まで考えていた。



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