俺達と女の子達が改善支援して騎士選抜試験を見学する話(2/2)

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 戦闘スタイルは、ヒットアンドアウェイで、やはり実力は前半三人と一線を画している。この『弟』の戦い方を見ていると、コリンゼの攻撃を誘っているように見える。さっきの『弟』とは逆に、防御とカウンターが得意ということだろうか。 「おおー、攻めに回ったコリンゼの剣撃を難なく受け切っている感じだね。それなら、『弟くん達』で組めば、筆記試験三問目の敵みたいな戦い方になるわけか。もしかして、そこから発想して筆記試験の問題と実技試験での一つの答え合わせにしたのかな?」 「あり得るな。小さい頃から三人はチャンバラごっこをしていて、一対二で戦っていたのかもしれない。コリンゼは騎士団に入ってから強くなったとシンシアは言っていたが、実は最初から強くて、さらに伸びた。  では、なぜそんなに強かったのかと言うと、やはり小さい頃から一番親しいアドと日常的に手合わせをしていた可能性があるな。今のコリンゼとアドのどちらが強いのかは分からないが」  俺達が話していると、ここぞとばかりの『弟』のカウンターを防いだコリンゼがよろめいた。そこにすかさず追撃をする『弟』。しかし、それはコリンゼのダブルフェイクで、『弟』の隙が大きくなったところを、盾側の左脇腹部分の鎧に攻撃を入れて、逆に彼をよろめかせた。 「油断するな! スタイルが崩れたぞ!」 「はい!」  このコリンゼのアドバイスも面白く、相手やその状況によって、スタイルに囚われるなと言ったり、今のようにスタイルを崩すなと言ったりする。おそらく、激しい隙の移り変わりをしっかり見抜いて、自分の隙は決して作らずに、相手の隙を突けということなのだろう。  受験者達もそれが分かっているので、『さっきと言ってることが違うじゃないか』とはならない。実際、受験者達がアドバイスを受けた時、戸惑っていた様子は一切なかった。 「そろそろ終わりそう」  ゆうが予期した直後、実技試験最後の受験者の手合わせが終了した。コリンゼが評価を終えると、受験者達を呼び、一緒に見学者スペースに近づいてきた。  すると、シンシアがコリンゼに近寄り、耳打ちした。 「陛下から締めのご挨拶をいただくことになった。私の分はコリンゼが好きなように話してくれ」 「承知しました」  コリンゼ達が見学者スペースの王の前まで着くと、コリンゼとシンシアは俺達から見て右横に逸れ、受験者達は王の前に跪いた。そして、コリンゼが姿勢を正した。 「それでは、臨時騎士選抜試験、合格発表を行う! 騎士団長の代理で、私から挨拶を言う。  今、君達がどのような気持ちで私の言葉を聞いているか分からないが、その精神状態によっては、聞いているつもりでも実は聞いていない、理解していないことがあるだろう。私もそのような時があった。だからこそ、これからの言葉を一言一言噛み締めて理解してほしい。  今回の試験で、自信を失った者もいるだろう。騎士なんて目指すんじゃなかったと思った者もいるかもしれない。陛下には畏れ多くも、それは仕方のないことだと私は思う。なぜなら、私達は人間なのだから。  ただ、私は一人の力だけでここに立っているわけではない。色々な方々の支えがあってここにいる。君達もそうだ。自分の力だけでここにいるのではない。君達が前回の選抜試験を受験できなかったことは私達も遺憾だが、紛れもなく私達の責任だ。大変申し訳なかった。  しかし、今回受験できたことは、手前味噌ではあるが、幸運だったと思う。陛下の前で自分の実力を示せたのだ。このような機会は私でさえ今までない。そう考えることこそが大事なのだ。  今の私が君達ならこう考える。『今まで独学でここまでやって来たんだから、こんなにすごい人達と訓練を共にしたら、俺ももっと強くなるんじゃないか?』とな。私はこの実技試験が始まる前、君達に、『陛下の御前だからこそ、緊張する必要はない』と言った。理由は話した通りだが、君達は立派に私と戦った。  分からないか? たった十分やそこらで自分がとてつもなく成長したことに。私の目からは明らかだった。言われなければ気付かないこともあるだろう。言っても気付ききれないことがあるかもしれない。ならば、これからは我々騎士団が気付かせてあげよう。君達は一人ではないのだから!  ……ふふっ、やはり優秀な者しかいないな。どうやら全員気付いたようだ。  おめでとう、全員合格だ! 叙任式まではまだ正式な騎士ではないが、これだけは言わせてほしい。  ようこそ! ジャスティ国騎士団へ!」  コリンゼの感動的な合格発表のすぐあとに、合格者達を除く、王含めて全員が拍手をして、彼らを称えた。 『はっ! ありがたき幸せ!』  合格者達は声を揃えて、感謝の言葉を言った。中には、涙が溢れ、顔を上げられない合格者もいた。一番と三番だ。二番は涙を我慢しているのか震えている。コリンゼの『弟達』も安堵の表情をしていた。 「それでは、陛下。締めのお言葉をよろしくお願いします」  拍手が止み、間もなく余韻が薄れた頃、コリンゼが王に締めの挨拶を頼んだ。 「皆、ご苦労だった。実に素晴らしい選抜試験だったと思う。私も時間を忘れ、受験者達、試験官達、総責任者のコリンゼの勇ましい姿を見て、我が国の未来への期待に胸を踊らせていた。  今回のコンセプトの共有やシステムの早期導入を目指し、早速、次回の定例会で承認決議を行う。それまでに責任者は、シンシアが挙げた以外の疑問点があれば、パルミス公爵に提出せよ。  さて、コリンゼ、シンシア、締めの前に私の我儘を聞いてはくれないだろうか。二人で手合わせをしてみてほしい。誰もが気になっていたことでもあるだろう。  私はこれまで何度もシンシアの模擬戦を見てきたが、他国の騎士団長でさえも、コリンゼほどの手練れはいなかった。しかし、ようやく分かった。これまでの戦いでさえ、シンシアは相当な手加減をしていたのだ。もちろん、相手の国を立てるために、手加減していると本人から聞いたことはある。そうでないと、相手の正確な戦力分析ができないという理由もある。だが、私の想像以上の手加減だったということだ。  コリンゼの台詞ではないが、『一騎当千』『幻影』という言葉を真に理解できていなかったのだ。ならば、至高の戦いを見てみたいと思うのは自然のことだろう。その結果がどうであれ、お互いの評価が下がることは決してないと約束する」  王は興奮気味に語り、コリンゼとシンシア、二人の手合わせを要望した。 「陛下のご希望とあらば。コリンゼ、木製武器ではあるが、私を殺す気でかかってこい。ただし、勝負を長引かせる気はない」 「はっ!」 「パルミス公爵、私達が位置に着き、私が頷いたら、『それでは始め』と大きな声でおっしゃっていただけますか」 「分かった」  シンシアがパルミス公爵に戦闘開始の合図を頼むと、固唾を飲んでみんなが見守る中、二人は実技試験をしていた位置まで行き、お互いに助走をつけられるよう、少し距離を取った。  そして、シンシアがパルミス公爵の方を向いて頷いた。 「それでは始め!」  掛け声と共に、一瞬で距離を詰める二人。とんでもない速さだ。木刀が三度重なった音が聞こえ、気付くと、二人の位置が入れ替わっていて、シンシアがコリンゼの喉元に木刀を突き付けていた。  時間にして、三秒未満。本当にあっという間だった。勝負はあったが、それを見ていた全員が、何が起こったか全く分からずに唖然としていた。  すると、クリスが少し前に出て、見学者達の方を向いた。 「あの……今の見えた方いますか? 私には全く見えませんでした。合格者の方々もどうですか?」  俺達は顔を出さなかったが、全員が口をポカーンとさせて首を横に振ったのが分かった。 「シンシアさん、コリンゼさん、こちらは全く追いきれなかったので、ここでゆっくり動きを再現していただけませんか?」  勝負を終えて戻ってきたシンシア達に、クリスが再現を要求した。全員そう思っているだろう。俺も要求したい。 「えーっと、コリンゼの左薙ぎを低姿勢でこう、木刀を上にして受けて、そのまま袈裟切りをしたら、上半身を逸らされて、位置が入れ替わる時に、コリンゼが右回転した勢いで同じく左薙ぎしてきたのを、上に弾いたら、円を描くようにして袈裟切りをしてきたので、少し引きながら右側に弾いて、その流れで切っ先を喉に突き付けた、かな」  二人の再現を見ても、そのようなことをしていたとは分からず、結局、誰もピンと来ていなかった。  すると、コリンゼが口を開いた。 「えー、衝撃的な事実をお話ししますと、団長はこれでも手加減をしています。本気の団長であれば、剣が合わさることはまずありません。私は初撃で切り捨てられています。  ですから、陛下、至高の戦いをご覧いただけずに申し訳ありませんが、それを実現できる団長の相手はこの世におりません。ヨルンさんも団長に匹敵する資質をお持ちと聞いていますが、それはそれでまた別の戦いになってしまいます。  しかし、私も精進して参りますし、私達の手合わせをご覧いただいて、ますますご安心いただけたかと存じます。どうか、今後の騎士団にご期待ください」 「うむ、コリンゼの言う通りだ。二人ともご苦労。打ち上げは予算を考えず、盛大にやるとよい。私も参加したいが、王が行くと萎縮するだろう。王家は王家で、此度の我が国の転換点を祝して、盛り上がるとしよう。これにて、臨時騎士選抜試験を終了とする!」 「はっ!」  王以外の全員が返事をすると、城内に戻る王の後ろを、パルミス公爵を除く幹部達がぞろぞろと付いて行った。 「コリンゼ、あとは頼む。打ち上げには私も参加するが、他の三人も参加するかもしれない」 「承知しました。お待ちしています。合格者達は各組織に戻り、同僚に報告した上で、打ち上げに参加できる者は、十九時前に食堂奥に来るように!」  コリンゼは、合格者達へ指示したあとに、後片付けの分担を他の団員達に指示し、その場を離れていった。  すると、彼女と入れ替わるように、パルミス公爵がシンシアに近づいてきた。 「ご苦労。打ち上げの請求書は私に回してくれ。それと……、四番と五番が例の仲良くなれる二人だな? そして、コリンゼに任せるということでいいな?」  パルミス公爵は声を小さくして、騎士団長の後任がコリンゼだということをシンシアに確認した。 「はい。この選抜試験が成功に終わるのを見届けた上で、彼女に伝える予定です。打ち上げが終わり、報告書を書き上げるまでが試験の総責任者ということで」 「素晴らしい! それでは、シンシアの任命式で同時に発表するとしよう。これなら、残りの二人も期待できるな。明後日が楽しみだ」  パルミス公爵はとても嬉しそうに城内に戻っていった。残りの二人とは、ウィルズ達のことだ。 「私達も部屋に戻ろうか。予定より早く終わったな。これも、コリンゼが受験者達の実力をスムーズに引き出せたからだろう」 「私は世界にあまり詳しくないのですが、ヨルンくんを除くと、コリンゼさんがシンシアさんに次いで、世界二位の実力ということですか?」  クリスがシンシアに質問した。 「可能性は高いが、ハッキリとはしていないな。他にも一騎当千と呼ばれている騎士が何名かいるのだが、少なくともその内の二人はコリンゼには遠く及ばなかった。残りは戦ったことがないから分からない。  その国の威信のためにそう言っているだけかもしれない。仮にその実力があっても、部下の能力を引き出すのはまた別の話だしな。そういう意味では、私以上にコリンゼが世界最高の騎士と言っても過言ではない。彼女が言った通り、これからもっともっと我が団は良くなるはずだ」  シンシアの語りからは、嬉しさだけでなく、他の感情も溢れ出していたような気がした。 「それなら、シンシアさんがそのように導いたということですね」 「……。ありがとう、クリス。『そう考えることこそが大事なのだ』か。本当にそうだな……。  シュウ様、ありがとうございます。あなたのお考えがクリスを救うだけでなく、こうして伝搬し、皆を救っていくのだと実感しております。私も精進して参ります。もう少しだけ時間をいただきたく存じます」  クリスの気遣いが、シンシアの中で何か腑に落ちたようだ。俺の考え方が、クリス、コリンゼ、シンシアに巡っていったのはその通りだが、受け取る側がそれを理解し、受け入れないと成り立たないからな。  やはり、俺達とみんなの相性は完璧だと言える。シンシアは、いつか俺達に全てを話してくれるだろう。焦ることはない。俺も今度こそ焦らないようにしよう。大切な人の暗い顔は見たくないから。 「いかがですか? 実験の方は」  二人が部屋に戻ると、気になっていたのか、クリスがユキちゃんに研究と実験の進捗を聞いた。 「あ、早かったね。うん、少なくとも、それぞれの魔法は、早ければ明日中には構築までできると思うけど、明日はみんなと城下町に行って色々やるから、やっぱり明後日になるかな。  あとね、今回の実験とは別に、ヨルンくんの『反攻』の原理について、分かったことがあるんだよね」 「え? すごいじゃないですか。ということは、やはり魔力粒子の応用ですか」 「うん、でも流石にその力がどこから来ているのかは分からないけどね。  『反攻』は、体や服の周囲に他の魔法使いからは干渉できない魔力粒子を纏うスキルっていうことが分かった。その魔力粒子は、魔法の発動には使われない。その一つ一つが単体で動作する条件付きの粒子。  例えば、水中で呼吸できる『謎の空気』もこれが正体だね。シュウちゃんは、その場合は周囲の魔力粒子が水と自分の間の空間を分裂しながら作り出し、同時に満たした上で、そこから常時、水と接している部分で酸素を取り出し、内側のヨルンくんに運んでるんじゃないかって。シュウちゃんが取得できるスキルに『単純命令』とか『複雑命令』っていうのがあるんだけど、あれを魔力粒子に適用した感じかな。  なんでそれが分かったかって言うと、クリスさんが透過空間認識魔法を使った時の魔力停止空間の境界で、粒子が停止していた現象があったでしょ? あれと同じ現象がヨルンくんの『反攻』で起きてたんだよね。正確には、『反攻』の方はそのあとすぐに魔力粒子を消滅させちゃうんだけど、ヨルンくんが自分の魔力粒子を自分に当てて、それが消える前に私の魔力感知魔法の魔力粒子を同じ場所に当てると、ヨルンくんの魔力粒子がそこで停止してることが分かった。  これを試したのは、魔力停止空間内で同時に猫ちゃんを回復できないか、つまり複数の役割を魔力粒子に持たせられないかって考えて、もしかして、それが『反攻』の原理なんじゃないかって思い付いて、挙動を確認したっていうのが理由。  ただ、現時点では、それを作るのは時間がかかりそうだから、後回しにしてる。それができない場合、お姉ちゃんがかけた魔力停止魔法を解除すると同時に、魔力修復をする場所以外に魔力停止魔法をかけ直して、さらにそこに魔力修復魔法をすぐにかける必要があって、それを切断部分全てで行ってから、全体の魔力修復を行わないといけない。そうじゃないと、猫ちゃんの魔力がどんどん消滅していって原型を保てなくなっちゃうから。  だから、それぞれの魔法は作れても、じゃあどうしようって正直思ってる」  ユキちゃんが、困ったような表情をしていた。俺が彼女に助言する前に、シンシアが動いてくれた。 「今日、コリンゼが受験者達に向けて素晴らしいことを言っていた。『一人の力だけでここに立っているわけではない』とな。私は、シキがなぜユキに託したのか分かった気がするんだ。  ユキがイリスの頭脳に全てを任せずに、自分の力で考えたのはとても大事なことだ。実際、シュウ様のお力添えもあり、その領域にユキは辿り着いていると思う。もちろん、そのことも一人の力だけではないが、そのイリスと同じ天才のシキがユキに託したということは、最難関魔法であると同時に、一人の力だけでは成し遂げられないからではないだろうか。  話を聞く限り、解除魔法、停止魔法、修復魔法を使える魔法使いが三人いれば、実現できると思った。ここに三人いるじゃないか。ユキ、クリス、ヨルン。この三人がそれらの魔法を習得すれば、あの猫を救えるのではないか? シキはきっとこの瞬間を待っていたんだ。  私が魔法を使えなくて役に立てないのが悔しいが……」 「シンシアさん……、ありがとう。シンシアさんもだよ。みんなの力で私がここにいて、みんながここにいるんだね。本当にその通りだ。  よーし、遠慮はしないよ! みんなで頑張ろう!」 『おー!』  みんなの掛け声が部屋に響いた。騎士団に勝るとも劣らない、良いチームだ。  その後も研究は進められたが、打ち上げの時間が迫ってきたので、今日はそこで切り上げて、全員で食堂に向かった。  食堂には、遅い夕食を食べに来ていた城内の人達も大勢いたが、その奥には、『臨時騎士選抜試験打ち上げパーティーご一同様』のスペースが設けられ、計五十人以上の団員達と合格者達が集まっていた。  シンシアの話と俺の『万象事典』での確認によると、城内と城下町の騎士は約三百人いるので、その約六分の一が選抜試験に関わっていたことになる。地方配属騎士は約二百人なので、全騎士では約十分の一だ。精鋭なら、全騎士数はもっと少ないイメージもあったが、やはり『団』と呼ぶからには、最低でも数百人以上の規模になるよな。  近代では、それは『連隊』規模で、最低でも『旅団』と呼ぶのは二千人以上となるが、そんなに騎士がいても運用に困るだろうし、この際、単位名称はあまり気にすることはないか。  でも、同人誌でいつも気になってたんだよな。『騎士団』って一体何人いるんだよって。小隊規模でも『騎士団』を名乗ってるのもあった。『いや、それ騎士隊じゃね?』とツッコみたくはなるが、それは流石に許せる。『吹奏楽団』のように、軍隊でなければ全く気にならないんだがなぁ。  とりあえず、それは置いておくとして……。騎士団長シンシアの挨拶で打ち上げが始まり、団員達の話を聞いていると、試験準備係は立候補制だったらしい。しかし、全員が立候補したため、くじ引きで人数を絞ったとのことだった。『打ち上げに参加したいだけだろ』と冗談を言われた騎士もいたみたいだ。  実際、五十人も使って何を準備するのかと思うのが普通だが、今回は新しい試験の考え方を主催側で実感して慣れてもらい、受験者が多くなった時のために滞りなく準備できるようにする目的がほとんどで、残りの目的は、短期間でその準備や調整が必要で、最も働ける総責任者が不在の時間もあったため、その保険ということだったらしい。  まあ、印刷機がない分、筆記試験の問題や当日の流れを人数分書き写す作業もあるから、全く働かなかった人はいないだろう。総責任者代理の既婚男性先輩騎士も問題なく役割を果たしていたそうだ。  今回のことで、改めてコリンゼの手腕が団員から評価されたことだろう。まさに、本日の主役として、打ち上げの間は常に団員達の話の中心になっていた。合格者達もその輪に加わり、色々な話を聞いていた。彼らが主役となるのは、現組織の合格祝賀会か、次の騎士団歓迎会だろう。  打ち上げは食堂が閉まる午後九時まで盛大に続き、解散となった。その後、同じく王家の盛大な晩餐を終えた姫の部屋に行き、盛り上がったところで、その日を終えた。  今後の予定を整理しておくと、明日は、イリスちゃんと魔法生物救出方法の相談、リオちゃんに紹介してもらった店で昼食、アドとギルドで茶番の打ち合わせ、茶番に使用する衣装の購入。明後日は、ウィルズ達とパルミス公爵との面会。三日後は、午前中にユキちゃんの叙爵式とシンシアの新役職任命式。四日後は、茶番本番。五日後は、朱のクリスタルへの接触。それ以降は、シキちゃんの捜索へ出発、となるが、魔法生物の救出をいつ行うかは、ユキちゃんの魔法創造次第だ。予定通り明後日なら、三日後の午後に孤児院に向かうのが良いか。いずれにしても、まだまだイベントは残っているようだ。



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俺達と女の子達が改善支援して騎士選抜試験を見学する話(2/2)

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 戦闘スタイルは、ヒットアンドアウェイで、やはり実力は前半三人と一線を画している。この『弟』の戦い方を見ていると、コリンゼの攻撃を誘っているように見える。さっきの『弟』とは逆に、防御とカウンターが得意ということだろうか。 「おおー、攻めに回ったコリンゼの剣撃を難なく受け切っている感じだね。それなら、『弟くん達』で組めば、筆記試験三問目の敵みたいな戦い方になるわけか。もしかして、そこから発想して筆記試験の問題と実技試験での一つの答え合わせにしたのかな?」 「あり得るな。小さい頃から三人はチャンバラごっこをしていて、一対二で戦っていたのかもしれない。コリンゼは騎士団に入ってから強くなったとシンシアは言っていたが、実は最初から強くて、さらに伸びた。  では、なぜそんなに強かったのかと言うと、やはり小さい頃から一番親しいアドと日常的に手合わせをしていた可能性があるな。今のコリンゼとアドのどちらが強いのかは分からないが」  俺達が話していると、ここぞとばかりの『弟』のカウンターを防いだコリンゼがよろめいた。そこにすかさず追撃をする『弟』。しかし、それはコリンゼのダブルフェイクで、『弟』の隙が大きくなったところを、盾側の左脇腹部分の鎧に攻撃を入れて、逆に彼をよろめかせた。 「油断するな! スタイルが崩れたぞ!」 「はい!」  このコリンゼのアドバイスも面白く、相手やその状況によって、スタイルに囚われるなと言ったり、今のようにスタイルを崩すなと言ったりする。おそらく、激しい隙の移り変わりをしっかり見抜いて、自分の隙は決して作らずに、相手の隙を突けということなのだろう。  受験者達もそれが分かっているので、『さっきと言ってることが違うじゃないか』とはならない。実際、受験者達がアドバイスを受けた時、戸惑っていた様子は一切なかった。 「そろそろ終わりそう」  ゆうが予期した直後、実技試験最後の受験者の手合わせが終了した。コリンゼが評価を終えると、受験者達を呼び、一緒に見学者スペースに近づいてきた。  すると、シンシアがコリンゼに近寄り、耳打ちした。 「陛下から締めのご挨拶をいただくことになった。私の分はコリンゼが好きなように話してくれ」 「承知しました」  コリンゼ達が見学者スペースの王の前まで着くと、コリンゼとシンシアは俺達から見て右横に逸れ、受験者達は王の前に跪いた。そして、コリンゼが姿勢を正した。 「それでは、臨時騎士選抜試験、合格発表を行う! 騎士団長の代理で、私から挨拶を言う。  今、君達がどのような気持ちで私の言葉を聞いているか分からないが、その精神状態によっては、聞いているつもりでも実は聞いていない、理解していないことがあるだろう。私もそのような時があった。だからこそ、これからの言葉を一言一言噛み締めて理解してほしい。  今回の試験で、自信を失った者もいるだろう。騎士なんて目指すんじゃなかったと思った者もいるかもしれない。陛下には畏れ多くも、それは仕方のないことだと私は思う。なぜなら、私達は人間なのだから。  ただ、私は一人の力だけでここに立っているわけではない。色々な方々の支えがあってここにいる。君達もそうだ。自分の力だけでここにいるのではない。君達が前回の選抜試験を受験できなかったことは私達も遺憾だが、紛れもなく私達の責任だ。大変申し訳なかった。  しかし、今回受験できたことは、手前味噌ではあるが、幸運だったと思う。陛下の前で自分の実力を示せたのだ。このような機会は私でさえ今までない。そう考えることこそが大事なのだ。  今の私が君達ならこう考える。『今まで独学でここまでやって来たんだから、こんなにすごい人達と訓練を共にしたら、俺ももっと強くなるんじゃないか?』とな。私はこの実技試験が始まる前、君達に、『陛下の御前だからこそ、緊張する必要はない』と言った。理由は話した通りだが、君達は立派に私と戦った。  分からないか? たった十分やそこらで自分がとてつもなく成長したことに。私の目からは明らかだった。言われなければ気付かないこともあるだろう。言っても気付ききれないことがあるかもしれない。ならば、これからは我々騎士団が気付かせてあげよう。君達は一人ではないのだから!  ……ふふっ、やはり優秀な者しかいないな。どうやら全員気付いたようだ。  おめでとう、全員合格だ! 叙任式まではまだ正式な騎士ではないが、これだけは言わせてほしい。  ようこそ! ジャスティ国騎士団へ!」  コリンゼの感動的な合格発表のすぐあとに、合格者達を除く、王含めて全員が拍手をして、彼らを称えた。 『はっ! ありがたき幸せ!』  合格者達は声を揃えて、感謝の言葉を言った。中には、涙が溢れ、顔を上げられない合格者もいた。一番と三番だ。二番は涙を我慢しているのか震えている。コリンゼの『弟達』も安堵の表情をしていた。 「それでは、陛下。締めのお言葉をよろしくお願いします」  拍手が止み、間もなく余韻が薄れた頃、コリンゼが王に締めの挨拶を頼んだ。 「皆、ご苦労だった。実に素晴らしい選抜試験だったと思う。私も時間を忘れ、受験者達、試験官達、総責任者のコリンゼの勇ましい姿を見て、我が国の未来への期待に胸を踊らせていた。  今回のコンセプトの共有やシステムの早期導入を目指し、早速、次回の定例会で承認決議を行う。それまでに責任者は、シンシアが挙げた以外の疑問点があれば、パルミス公爵に提出せよ。  さて、コリンゼ、シンシア、締めの前に私の我儘を聞いてはくれないだろうか。二人で手合わせをしてみてほしい。誰もが気になっていたことでもあるだろう。  私はこれまで何度もシンシアの模擬戦を見てきたが、他国の騎士団長でさえも、コリンゼほどの手練れはいなかった。しかし、ようやく分かった。これまでの戦いでさえ、シンシアは相当な手加減をしていたのだ。もちろん、相手の国を立てるために、手加減していると本人から聞いたことはある。そうでないと、相手の正確な戦力分析ができないという理由もある。だが、私の想像以上の手加減だったということだ。  コリンゼの台詞ではないが、『一騎当千』『幻影』という言葉を真に理解できていなかったのだ。ならば、至高の戦いを見てみたいと思うのは自然のことだろう。その結果がどうであれ、お互いの評価が下がることは決してないと約束する」  王は興奮気味に語り、コリンゼとシンシア、二人の手合わせを要望した。 「陛下のご希望とあらば。コリンゼ、木製武器ではあるが、私を殺す気でかかってこい。ただし、勝負を長引かせる気はない」 「はっ!」 「パルミス公爵、私達が位置に着き、私が頷いたら、『それでは始め』と大きな声でおっしゃっていただけますか」 「分かった」  シンシアがパルミス公爵に戦闘開始の合図を頼むと、固唾を飲んでみんなが見守る中、二人は実技試験をしていた位置まで行き、お互いに助走をつけられるよう、少し距離を取った。  そして、シンシアがパルミス公爵の方を向いて頷いた。 「それでは始め!」  掛け声と共に、一瞬で距離を詰める二人。とんでもない速さだ。木刀が三度重なった音が聞こえ、気付くと、二人の位置が入れ替わっていて、シンシアがコリンゼの喉元に木刀を突き付けていた。  時間にして、三秒未満。本当にあっという間だった。勝負はあったが、それを見ていた全員が、何が起こったか全く分からずに唖然としていた。  すると、クリスが少し前に出て、見学者達の方を向いた。 「あの……今の見えた方いますか? 私には全く見えませんでした。合格者の方々もどうですか?」  俺達は顔を出さなかったが、全員が口をポカーンとさせて首を横に振ったのが分かった。 「シンシアさん、コリンゼさん、こちらは全く追いきれなかったので、ここでゆっくり動きを再現していただけませんか?」  勝負を終えて戻ってきたシンシア達に、クリスが再現を要求した。全員そう思っているだろう。俺も要求したい。 「えーっと、コリンゼの左薙ぎを低姿勢でこう、木刀を上にして受けて、そのまま袈裟切りをしたら、上半身を逸らされて、位置が入れ替わる時に、コリンゼが右回転した勢いで同じく左薙ぎしてきたのを、上に弾いたら、円を描くようにして袈裟切りをしてきたので、少し引きながら右側に弾いて、その流れで切っ先を喉に突き付けた、かな」  二人の再現を見ても、そのようなことをしていたとは分からず、結局、誰もピンと来ていなかった。  すると、コリンゼが口を開いた。 「えー、衝撃的な事実をお話ししますと、団長はこれでも手加減をしています。本気の団長であれば、剣が合わさることはまずありません。私は初撃で切り捨てられています。  ですから、陛下、至高の戦いをご覧いただけずに申し訳ありませんが、それを実現できる団長の相手はこの世におりません。ヨルンさんも団長に匹敵する資質をお持ちと聞いていますが、それはそれでまた別の戦いになってしまいます。  しかし、私も精進して参りますし、私達の手合わせをご覧いただいて、ますますご安心いただけたかと存じます。どうか、今後の騎士団にご期待ください」 「うむ、コリンゼの言う通りだ。二人ともご苦労。打ち上げは予算を考えず、盛大にやるとよい。私も参加したいが、王が行くと萎縮するだろう。王家は王家で、此度の我が国の転換点を祝して、盛り上がるとしよう。これにて、臨時騎士選抜試験を終了とする!」 「はっ!」  王以外の全員が返事をすると、城内に戻る王の後ろを、パルミス公爵を除く幹部達がぞろぞろと付いて行った。 「コリンゼ、あとは頼む。打ち上げには私も参加するが、他の三人も参加するかもしれない」 「承知しました。お待ちしています。合格者達は各組織に戻り、同僚に報告した上で、打ち上げに参加できる者は、十九時前に食堂奥に来るように!」  コリンゼは、合格者達へ指示したあとに、後片付けの分担を他の団員達に指示し、その場を離れていった。  すると、彼女と入れ替わるように、パルミス公爵がシンシアに近づいてきた。 「ご苦労。打ち上げの請求書は私に回してくれ。それと……、四番と五番が例の仲良くなれる二人だな? そして、コリンゼに任せるということでいいな?」  パルミス公爵は声を小さくして、騎士団長の後任がコリンゼだということをシンシアに確認した。 「はい。この選抜試験が成功に終わるのを見届けた上で、彼女に伝える予定です。打ち上げが終わり、報告書を書き上げるまでが試験の総責任者ということで」 「素晴らしい! それでは、シンシアの任命式で同時に発表するとしよう。これなら、残りの二人も期待できるな。明後日が楽しみだ」  パルミス公爵はとても嬉しそうに城内に戻っていった。残りの二人とは、ウィルズ達のことだ。 「私達も部屋に戻ろうか。予定より早く終わったな。これも、コリンゼが受験者達の実力をスムーズに引き出せたからだろう」 「私は世界にあまり詳しくないのですが、ヨルンくんを除くと、コリンゼさんがシンシアさんに次いで、世界二位の実力ということですか?」  クリスがシンシアに質問した。 「可能性は高いが、ハッキリとはしていないな。他にも一騎当千と呼ばれている騎士が何名かいるのだが、少なくともその内の二人はコリンゼには遠く及ばなかった。残りは戦ったことがないから分からない。  その国の威信のためにそう言っているだけかもしれない。仮にその実力があっても、部下の能力を引き出すのはまた別の話だしな。そういう意味では、私以上にコリンゼが世界最高の騎士と言っても過言ではない。彼女が言った通り、これからもっともっと我が団は良くなるはずだ」  シンシアの語りからは、嬉しさだけでなく、他の感情も溢れ出していたような気がした。 「それなら、シンシアさんがそのように導いたということですね」 「……。ありがとう、クリス。『そう考えることこそが大事なのだ』か。本当にそうだな……。  シュウ様、ありがとうございます。あなたのお考えがクリスを救うだけでなく、こうして伝搬し、皆を救っていくのだと実感しております。私も精進して参ります。もう少しだけ時間をいただきたく存じます」  クリスの気遣いが、シンシアの中で何か腑に落ちたようだ。俺の考え方が、クリス、コリンゼ、シンシアに巡っていったのはその通りだが、受け取る側がそれを理解し、受け入れないと成り立たないからな。  やはり、俺達とみんなの相性は完璧だと言える。シンシアは、いつか俺達に全てを話してくれるだろう。焦ることはない。俺も今度こそ焦らないようにしよう。大切な人の暗い顔は見たくないから。 「いかがですか? 実験の方は」  二人が部屋に戻ると、気になっていたのか、クリスがユキちゃんに研究と実験の進捗を聞いた。 「あ、早かったね。うん、少なくとも、それぞれの魔法は、早ければ明日中には構築までできると思うけど、明日はみんなと城下町に行って色々やるから、やっぱり明後日になるかな。  あとね、今回の実験とは別に、ヨルンくんの『反攻』の原理について、分かったことがあるんだよね」 「え? すごいじゃないですか。ということは、やはり魔力粒子の応用ですか」 「うん、でも流石にその力がどこから来ているのかは分からないけどね。  『反攻』は、体や服の周囲に他の魔法使いからは干渉できない魔力粒子を纏うスキルっていうことが分かった。その魔力粒子は、魔法の発動には使われない。その一つ一つが単体で動作する条件付きの粒子。  例えば、水中で呼吸できる『謎の空気』もこれが正体だね。シュウちゃんは、その場合は周囲の魔力粒子が水と自分の間の空間を分裂しながら作り出し、同時に満たした上で、そこから常時、水と接している部分で酸素を取り出し、内側のヨルンくんに運んでるんじゃないかって。シュウちゃんが取得できるスキルに『単純命令』とか『複雑命令』っていうのがあるんだけど、あれを魔力粒子に適用した感じかな。  なんでそれが分かったかって言うと、クリスさんが透過空間認識魔法を使った時の魔力停止空間の境界で、粒子が停止していた現象があったでしょ? あれと同じ現象がヨルンくんの『反攻』で起きてたんだよね。正確には、『反攻』の方はそのあとすぐに魔力粒子を消滅させちゃうんだけど、ヨルンくんが自分の魔力粒子を自分に当てて、それが消える前に私の魔力感知魔法の魔力粒子を同じ場所に当てると、ヨルンくんの魔力粒子がそこで停止してることが分かった。  これを試したのは、魔力停止空間内で同時に猫ちゃんを回復できないか、つまり複数の役割を魔力粒子に持たせられないかって考えて、もしかして、それが『反攻』の原理なんじゃないかって思い付いて、挙動を確認したっていうのが理由。  ただ、現時点では、それを作るのは時間がかかりそうだから、後回しにしてる。それができない場合、お姉ちゃんがかけた魔力停止魔法を解除すると同時に、魔力修復をする場所以外に魔力停止魔法をかけ直して、さらにそこに魔力修復魔法をすぐにかける必要があって、それを切断部分全てで行ってから、全体の魔力修復を行わないといけない。そうじゃないと、猫ちゃんの魔力がどんどん消滅していって原型を保てなくなっちゃうから。  だから、それぞれの魔法は作れても、じゃあどうしようって正直思ってる」  ユキちゃんが、困ったような表情をしていた。俺が彼女に助言する前に、シンシアが動いてくれた。 「今日、コリンゼが受験者達に向けて素晴らしいことを言っていた。『一人の力だけでここに立っているわけではない』とな。私は、シキがなぜユキに託したのか分かった気がするんだ。  ユキがイリスの頭脳に全てを任せずに、自分の力で考えたのはとても大事なことだ。実際、シュウ様のお力添えもあり、その領域にユキは辿り着いていると思う。もちろん、そのことも一人の力だけではないが、そのイリスと同じ天才のシキがユキに託したということは、最難関魔法であると同時に、一人の力だけでは成し遂げられないからではないだろうか。  話を聞く限り、解除魔法、停止魔法、修復魔法を使える魔法使いが三人いれば、実現できると思った。ここに三人いるじゃないか。ユキ、クリス、ヨルン。この三人がそれらの魔法を習得すれば、あの猫を救えるのではないか? シキはきっとこの瞬間を待っていたんだ。  私が魔法を使えなくて役に立てないのが悔しいが……」 「シンシアさん……、ありがとう。シンシアさんもだよ。みんなの力で私がここにいて、みんながここにいるんだね。本当にその通りだ。  よーし、遠慮はしないよ! みんなで頑張ろう!」 『おー!』  みんなの掛け声が部屋に響いた。騎士団に勝るとも劣らない、良いチームだ。  その後も研究は進められたが、打ち上げの時間が迫ってきたので、今日はそこで切り上げて、全員で食堂に向かった。  食堂には、遅い夕食を食べに来ていた城内の人達も大勢いたが、その奥には、『臨時騎士選抜試験打ち上げパーティーご一同様』のスペースが設けられ、計五十人以上の団員達と合格者達が集まっていた。  シンシアの話と俺の『万象事典』での確認によると、城内と城下町の騎士は約三百人いるので、その約六分の一が選抜試験に関わっていたことになる。地方配属騎士は約二百人なので、全騎士では約十分の一だ。精鋭なら、全騎士数はもっと少ないイメージもあったが、やはり『団』と呼ぶからには、最低でも数百人以上の規模になるよな。  近代では、それは『連隊』規模で、最低でも『旅団』と呼ぶのは二千人以上となるが、そんなに騎士がいても運用に困るだろうし、この際、単位名称はあまり気にすることはないか。  でも、同人誌でいつも気になってたんだよな。『騎士団』って一体何人いるんだよって。小隊規模でも『騎士団』を名乗ってるのもあった。『いや、それ騎士隊じゃね?』とツッコみたくはなるが、それは流石に許せる。『吹奏楽団』のように、軍隊でなければ全く気にならないんだがなぁ。  とりあえず、それは置いておくとして……。騎士団長シンシアの挨拶で打ち上げが始まり、団員達の話を聞いていると、試験準備係は立候補制だったらしい。しかし、全員が立候補したため、くじ引きで人数を絞ったとのことだった。『打ち上げに参加したいだけだろ』と冗談を言われた騎士もいたみたいだ。  実際、五十人も使って何を準備するのかと思うのが普通だが、今回は新しい試験の考え方を主催側で実感して慣れてもらい、受験者が多くなった時のために滞りなく準備できるようにする目的がほとんどで、残りの目的は、短期間でその準備や調整が必要で、最も働ける総責任者が不在の時間もあったため、その保険ということだったらしい。  まあ、印刷機がない分、筆記試験の問題や当日の流れを人数分書き写す作業もあるから、全く働かなかった人はいないだろう。総責任者代理の既婚男性先輩騎士も問題なく役割を果たしていたそうだ。  今回のことで、改めてコリンゼの手腕が団員から評価されたことだろう。まさに、本日の主役として、打ち上げの間は常に団員達の話の中心になっていた。合格者達もその輪に加わり、色々な話を聞いていた。彼らが主役となるのは、現組織の合格祝賀会か、次の騎士団歓迎会だろう。  打ち上げは食堂が閉まる午後九時まで盛大に続き、解散となった。その後、同じく王家の盛大な晩餐を終えた姫の部屋に行き、盛り上がったところで、その日を終えた。  今後の予定を整理しておくと、明日は、イリスちゃんと魔法生物救出方法の相談、リオちゃんに紹介してもらった店で昼食、アドとギルドで茶番の打ち合わせ、茶番に使用する衣装の購入。明後日は、ウィルズ達とパルミス公爵との面会。三日後は、午前中にユキちゃんの叙爵式とシンシアの新役職任命式。四日後は、茶番本番。五日後は、朱のクリスタルへの接触。それ以降は、シキちゃんの捜索へ出発、となるが、魔法生物の救出をいつ行うかは、ユキちゃんの魔法創造次第だ。予定通り明後日なら、三日後の午後に孤児院に向かうのが良いか。いずれにしても、まだまだイベントは残っているようだ。



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