【拾壱ノ伍】
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それでね、あなたに終わらせてもらうことにしたの。この村に広がったおおかみたちも。妹のあゆみ先生も。そして、私も。 ……人間として、殺して欲しかった。 そんな事が出来るのは、新月の力を持って、おおかみの力ももって、そしてヒトとして育った、ゆうちゃん。あなたにしか出来ないと思った。 だから、誘拐を自演したの。ベルベッチカちゃんですらわからなかったみたいだけど、上町のあのお家で襲ってきたのは、私が単に後ろからゆうちゃんを軽く蹴っただけ。うふふ。我ながら上手くいったでしょ。ゆうちゃんは本当によくやってくれたわ。 クラスメイトに、商店の人、村役場の人。おおかみをみんな食べてくれた。 ベルベッチカちゃんとの融合も果たしてくれて。 そして今。こうして私を殺してくれた。 もう、じゅうぶん。もうじゅうぶんよ、ゆうちゃん。私はじゅうぶん、もう生きた。さあ。 …… 「さあ、あとは、この首を潰すだけ」 ゆうはハッとした。 「簡単よ。あなたの両手で、力を込めるだけでいい。そしたら、この長い長い呪いに帳尻を合わせられる。あなたも、沙羅ちゃんも、この村から自由になれるわ」 ゆうはお母さんの目をじっと見つめた。 「さ、お願い。ゆうちゃん。私、そうしないと死ねないの」 その時。ふと、ベルの言葉が頭に浮かんだ。 『これで、私はもう、大丈夫。きみの中で生きることにした』 『娘よ、私のこの世でいちばん大切な、エレオノーラ』 『私を、残さず食べるんだ。そうすれば、私の全てが愛しいきみ。きみに宿る。力も、心も』 「お母さん、僕、お母さんを食べるよ」 お母さんは、信じられない、という顔をしている。 「ベルが、身を以って教えてくれた。お母さんも、僕の細胞の隅々に行き渡らせて、生かすんだ」 「でも、そんなことをしたら、ヒトに戻れなくなるわ」 「いいんだ。僕にとっては、ベルもお母さんも、お母さんだから。お母さんから貰った愛は、全部僕が受け止めたい。……そして、僕がこの村の新しい始祖になる」 お母さんは息子の名を呼びながら、ほっぺたを涙でぬらした。 「まだ……私をお母さんと呼んでくれるのね」 当たり前じゃないかと、ゆうは笑った。 「お母さん、はお母さんだよ」 「ありがとう……ねえ、いつものちゅう、させて?」 お母さんはねだった。ゆうは涙を浮かべた笑顔で答える。 もちろんだよ、と。そう言うと、お母さんの唇を自分のおでこに当てた。 「愛してるわ。ゆうちゃん」 「僕もだよ。お母さん。……さようなら」 それから、数時間かけて、噛み締めて。喉に詰まらせないようよく噛んで。ゆうは……髪の毛一本、血のいってき残さずに。お母さんを食べ尽くした。 相原静の舌の味は。 どんなヒトより寂しがり屋で。どんなヒトより、甘えん坊な…… ……お母さんの、味だった。
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エピソード情報
文字数
公開日
最終更新日
1230文字
2024年06月30日 12時00分
2024年06月30日 08時36分
エピソード情報
【拾壱ノ伍】
文字数
1230文字
公開日
2024年06月30日 12時00分
最終更新日
2024年06月30日 08時36分