【漆ノ弐】

43/72





「相原くん! いらっしゃい! ……おとーさん、お客さんだよー!」  髪を下ろしている。腰まであるブロンドヘアが、開けたドアの風にゆれてる。青い瞳が、こっちを見てる。なんどもタブレット越しにキスした、愛しい愛しいすがた。 「やあ、結花」 「きょ、今日は髪、下ろしてるんだね?」 「……うん。今日はこっちで来てみた」 「似合うよ、相原くん。わたし、そっちの方が好きだな……」 「結花も、おさげ、いつも可愛いね」  結花は戸惑うけれど、愛する愛する彼女は、とても穏やかに笑う。 「メイド服姿も、とっても良く似合うよ」 (わたし、今たぶん真っ赤だ……)  結花は両手でほっぺたを押さえた。見られるわけにはいかない。自分が女の子しか好きになれないなんて、バレたらたいへんだ。でも…… 「そ、そんなに……似合う……かな?」 「結花は背が高いから。とってもよく、似合う」  そう言うと、入り口からずいっと入ってきて、カウンターに自身の身体で結花を押し当てた。いわゆる壁ドンされている状態だ。 「は、はわわ……ど、どしたの? きょ、今日はなんだか……積極的……っていうか……」 「結花」 「お、おとーさん、どーしたんだろ、まだかなー? せ、せっかく、相原くん来てくれたのに……」  彼女の顔がどんどん近づいてくる。 「ねえ、今日は。結花のお部屋案内してよ」 「わ、わたしのおへや? い、いいけど……うん、いいよ」  写真、貼ってなくて良かった。結花は心底ホッとした。  …… 「いらっしゃい、相原くん」  さっきは不意打ちで先手を打たれたけど、今度はこっちのばんだ。失敗はできない。なぜなら今日は、大好きな、大好きな相原くんと……のだから。 「可愛いお部屋だね」 「えへへ。可愛いものが好きなの」  机の上に、ベッドの周りに。何度も行った舞浜の夢の国のキャラクターのぬいぐるみで飾った結花の部屋は、女の子らしさ満点のお部屋だ。いちばんの仲良しのみかにすら見せていない、秘密のお部屋。褒められて、嬉しい。 「結花の方が可愛いけどね」 「え?」  ん──!  キスをされた。そしてメイド服のまま、ぬいぐるみたちの結花のベットに押し倒した。唇を離す。 「結花……好きだ」 「相原くん……わたしも……」  そこから先は、夢見心地だ。  オトナの映画でしか見たことの無い、体験だった。  ……  おとーさん。天国のおかーさん。  わたし、今、オトナの階段登ってるの。  今からオトナになるの。  けっこんするの。  この人と。  それで、それで、こどもうむの。  ああ、わたし、しあわせだ。  しあわせなの。  おとーさん、天国のおかーさん。  わたし、天国にいるみたい。  わたし、しあわせなの。  ねえ、わたし、しあわせ。  ねえ……  ……  相原ゆうは、新月の牙で、香坂結花のぜんぶの血といっしょに、いのちを残らず吸い取った。 『完璧だ。おおかみにせず、新月の魔力で封殺するなんて』  ベルは感心している。なんだかとても嬉しそうだ。 「いのちを吸い殺したんだ。友達の」 『そうだったね……ごめんよ……』 「ううん、大丈夫。ベルを取り戻すためだから」  そう言って、ゆうは真っ白になった結花の首筋に、かみついた。



write-comment-iconコメントを書く
write-comment-iconレビューを書く



comment-icon新着コメント



コメントはありません。投稿してみようっ!


前のエピソード 【漆ノ壱】

【漆ノ弐】

43/72

「相原くん! いらっしゃい! ……おとーさん、お客さんだよー!」  髪を下ろしている。腰まであるブロンドヘアが、開けたドアの風にゆれてる。青い瞳が、こっちを見てる。なんどもタブレット越しにキスした、愛しい愛しいすがた。 「やあ、結花」 「きょ、今日は髪、下ろしてるんだね?」 「……うん。今日はこっちで来てみた」 「似合うよ、相原くん。わたし、そっちの方が好きだな……」 「結花も、おさげ、いつも可愛いね」  結花は戸惑うけれど、愛する愛する彼女は、とても穏やかに笑う。 「メイド服姿も、とっても良く似合うよ」 (わたし、今たぶん真っ赤だ……)  結花は両手でほっぺたを押さえた。見られるわけにはいかない。自分が女の子しか好きになれないなんて、バレたらたいへんだ。でも…… 「そ、そんなに……似合う……かな?」 「結花は背が高いから。とってもよく、似合う」  そう言うと、入り口からずいっと入ってきて、カウンターに自身の身体で結花を押し当てた。いわゆる壁ドンされている状態だ。 「は、はわわ……ど、どしたの? きょ、今日はなんだか……積極的……っていうか……」 「結花」 「お、おとーさん、どーしたんだろ、まだかなー? せ、せっかく、相原くん来てくれたのに……」  彼女の顔がどんどん近づいてくる。 「ねえ、今日は。結花のお部屋案内してよ」 「わ、わたしのおへや? い、いいけど……うん、いいよ」  写真、貼ってなくて良かった。結花は心底ホッとした。  …… 「いらっしゃい、相原くん」  さっきは不意打ちで先手を打たれたけど、今度はこっちのばんだ。失敗はできない。なぜなら今日は、大好きな、大好きな相原くんと……のだから。 「可愛いお部屋だね」 「えへへ。可愛いものが好きなの」  机の上に、ベッドの周りに。何度も行った舞浜の夢の国のキャラクターのぬいぐるみで飾った結花の部屋は、女の子らしさ満点のお部屋だ。いちばんの仲良しのみかにすら見せていない、秘密のお部屋。褒められて、嬉しい。 「結花の方が可愛いけどね」 「え?」  ん──!  キスをされた。そしてメイド服のまま、ぬいぐるみたちの結花のベットに押し倒した。唇を離す。 「結花……好きだ」 「相原くん……わたしも……」  そこから先は、夢見心地だ。  オトナの映画でしか見たことの無い、体験だった。  ……  おとーさん。天国のおかーさん。  わたし、今、オトナの階段登ってるの。  今からオトナになるの。  けっこんするの。  この人と。  それで、それで、こどもうむの。  ああ、わたし、しあわせだ。  しあわせなの。  おとーさん、天国のおかーさん。  わたし、天国にいるみたい。  わたし、しあわせなの。  ねえ、わたし、しあわせ。  ねえ……  ……  相原ゆうは、新月の牙で、香坂結花のぜんぶの血といっしょに、いのちを残らず吸い取った。 『完璧だ。おおかみにせず、新月の魔力で封殺するなんて』  ベルは感心している。なんだかとても嬉しそうだ。 「いのちを吸い殺したんだ。友達の」 『そうだったね……ごめんよ……』 「ううん、大丈夫。ベルを取り戻すためだから」  そう言って、ゆうは真っ白になった結花の首筋に、かみついた。



write-comment-iconコメントを書く
write-comment-iconレビューを書く



comment-icon新着コメント



コメントはありません。投稿してみようっ!