【捌ノ伍】

52/72





 あゆみ先生だ。  駆け寄ろうとして、みかの足がとまった。  そういえばあの日。私と相原ちゃんの前にやって来たのは、あゆみ先生……ではなかったか。  ぐるるるる、みかは全身の毛を逆立てた。目の前に居る「あゆみ先生」は、ニセモノだ。みかの中のナニカが、そう伝えた。……思い出したのだ。あの日、あったことを。 (見てて、相原ちゃん。私が、あゆみ先生の正体を明かしてあげる!)  …… 「えっ、始祖とおおかみが?」 『ああ、間違いない。オリジンと配下のおおかみだ。……が、様子がおかしい』  境内に、オリジンとおおかみがいる。社務所はおじいちゃんが結界を張り直してくれている。だからオリジンをこの距離──三十メートルほど──で見ても、ひとまずは安心だ。それに、オリジンはおおかみ達のオリジナルだ。それ自体不思議なことではない。  が、ベルが様子がおかしいと言う。  ゆうは、気配を消して社務所の窓からそーっと覗き込んだ。  あゆみ先生だ。小さい身長に、おっきな胸。みんなのアイドルだ。遠くからでも識別できる。  そして相対するようにゆう達に背中を向ける形で、一頭の──比較的小柄な──おおかみがあゆみ先生を向いている。……威嚇をしているように、見える。 『あのおおかみは……!』 「みかだ」  ゆうも新月の目を持っている。ベルより早く判別した。ゆうはかけだそうとする。 『待て、愛しいきみ。まだ結界の中にいるんだ……どうして敵対しているのか、確認してからでも遅くないはずだ』 『勇敢なのと向う見ずとは、違うよ』  おじいちゃんの言葉が、よみがえった。  …… 「あらあ、みかさん。そんなに怒って。先生なにか、したかしらあ?」 「先生、私思い出しました」 「ふふふ、『なんだっけ』は、なしよ?」 「きちんと覚えてます。ひと月前。先生は相原ちゃんをはじき飛ばして、私にかみついて、おおかみにしたんです! 祭の時、私は肉を食べなかったから」 「あらあら、よく覚えてるわねえ。みかさんらしくないわ」 「それからずっと、私に思い出さないようにした!」 「……それで……みかさんはどうしたいのかしら」 「相原ちゃんに言います。それで、先生をやっつけてもらいます」 「あらあ、残念だけどゆうくんじゃあ私に勝てないわ。……それに、そういうの」  とん、と先生はみかとの十メートルを、いっしゅんでつめた。 「なんていうか知ってる?」 「あ」 「身の程を弁えない……っていうの」



write-comment-iconコメントを書く
write-comment-iconレビューを書く



comment-icon新着コメント



コメントはありません。投稿してみようっ!


前のエピソード 【捌ノ肆】

【捌ノ伍】

52/72

 あゆみ先生だ。  駆け寄ろうとして、みかの足がとまった。  そういえばあの日。私と相原ちゃんの前にやって来たのは、あゆみ先生……ではなかったか。  ぐるるるる、みかは全身の毛を逆立てた。目の前に居る「あゆみ先生」は、ニセモノだ。みかの中のナニカが、そう伝えた。……思い出したのだ。あの日、あったことを。 (見てて、相原ちゃん。私が、あゆみ先生の正体を明かしてあげる!)  …… 「えっ、始祖とおおかみが?」 『ああ、間違いない。オリジンと配下のおおかみだ。……が、様子がおかしい』  境内に、オリジンとおおかみがいる。社務所はおじいちゃんが結界を張り直してくれている。だからオリジンをこの距離──三十メートルほど──で見ても、ひとまずは安心だ。それに、オリジンはおおかみ達のオリジナルだ。それ自体不思議なことではない。  が、ベルが様子がおかしいと言う。  ゆうは、気配を消して社務所の窓からそーっと覗き込んだ。  あゆみ先生だ。小さい身長に、おっきな胸。みんなのアイドルだ。遠くからでも識別できる。  そして相対するようにゆう達に背中を向ける形で、一頭の──比較的小柄な──おおかみがあゆみ先生を向いている。……威嚇をしているように、見える。 『あのおおかみは……!』 「みかだ」  ゆうも新月の目を持っている。ベルより早く判別した。ゆうはかけだそうとする。 『待て、愛しいきみ。まだ結界の中にいるんだ……どうして敵対しているのか、確認してからでも遅くないはずだ』 『勇敢なのと向う見ずとは、違うよ』  おじいちゃんの言葉が、よみがえった。  …… 「あらあ、みかさん。そんなに怒って。先生なにか、したかしらあ?」 「先生、私思い出しました」 「ふふふ、『なんだっけ』は、なしよ?」 「きちんと覚えてます。ひと月前。先生は相原ちゃんをはじき飛ばして、私にかみついて、おおかみにしたんです! 祭の時、私は肉を食べなかったから」 「あらあら、よく覚えてるわねえ。みかさんらしくないわ」 「それからずっと、私に思い出さないようにした!」 「……それで……みかさんはどうしたいのかしら」 「相原ちゃんに言います。それで、先生をやっつけてもらいます」 「あらあ、残念だけどゆうくんじゃあ私に勝てないわ。……それに、そういうの」  とん、と先生はみかとの十メートルを、いっしゅんでつめた。 「なんていうか知ってる?」 「あ」 「身の程を弁えない……っていうの」



write-comment-iconコメントを書く
write-comment-iconレビューを書く



comment-icon新着コメント



コメントはありません。投稿してみようっ!