【漆ノ壱】
ー/ー
こうさか亭の看板娘、三つ編みの香坂結花は、相原くんが大好きだ。幼稚園から相原くんに接してるこどもはみな、暗黙の了解で相原くんを男の子として扱っている。体は女の子でも、心は男の子。そういう変わった子なのは、知っているし理解している。
けれど、結花は女の子でもいいと考えている。ううん、むしろ、女の子の方がいい。大人しい航はともかく、翔や蒼太はいかにもな男の子で、乱暴で声が大きくてガサツで、大っ嫌いだった。
結花は女の子だと知っているけれど、「相原くん」という呼び方にこだわった。自分が女の子が好きだと、分からせないためだ。
結花は、女の子しか好きになれない女の子だった。
……
村の中で恐らくいちばん裕福な家に住む結花は、一年生の頃にお父さんの仕事の組合への出席で、関西の神戸まで行った。そこで帰りに宝塚歌劇団を見せてもらった。その出会いが、人生を変えた。煌びやかな男役を見て彼らが女の人だと知って、とてつもない衝撃を受けた。
(女の子でも、かっこよくなれるんだ。相原くんみたいな、心が男の子の女の子がいていいんだ)
結花の中で、相原くんへの恋慕に、火がついた。
二年生の時、お母さんが病気で死んじゃったけど、寂しさは相原くんへの恋心で補えた。
三年生になってデジカメを買ってもらった。カメラオタクが持ってるみたいな凄いやつじゃない。わざと小さなカメラを買ってもらった。性能とか、よくわからないしどうでもいい。こっそり愛しの相原くんが写れば、後のことはどうだって良かった。
プリンターなんて要らない。印刷して壁にぺたぺたなんて、美玲じゃあるまいし。それに万が一相原くんが部屋に来るようなことがあれば、一巻の終わりだ。結花のデジカメは、撮った写真を直接タブレットに移せるのだ。お父さんのお下がりのタブレット。授業中に、体育の時間に、下校中に。プールの時間は……さすがに無理だったけれど。数千枚の相原くんの写真が保存してある。
それを見て、何度も画面にキスをした。ヨダレでべたべたになるまで舐めまわした。
ある時、下腹部が熱くなった。写真を見ながら指でいじったら、いい気持ちで頭がふわっとした。呼んでみた。「相原くん、相原くん」まるで相原くんがいじってくれてるみたいで。体に電撃が走って、気を失った。
相原くんの、長いブロンドヘアが、大好きだ。相原くんの、青い瞳が、大好きだ。相原くんの、低めの声が、大好きだ。相原くんの、不機嫌な顔が、大好きだ。相原くんが、大好きだ。
(大好き相原くん。大好き相原くん。大好き……)
からんからん、ドアのベルの音が鳴ってこうさか亭のドアが開いた。
「ごめんなさいお客さん、まだ準備中で……」
メイド服で出ていくと、愛しい愛しい相原くんが立っていた。
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こうさか亭の看板娘、三つ編みの香坂結花は、相原くんが大好きだ。幼稚園から相原くんに接してるこどもはみな、暗黙の了解で相原くんを男の子として扱っている。体は女の子でも、心は男の子。そういう変わった子なのは、知っているし理解している。
けれど、結花は女の子でもいいと考えている。ううん、むしろ、女の子の方がいい。大人しい航はともかく、翔や蒼太はいかにもな男の子で、乱暴で声が大きくてガサツで、大っ嫌いだった。
結花は女の子だと知っているけれど、「相原くん」という呼び方にこだわった。自分が女の子が好きだと、分からせないためだ。
結花は、|女《・》|の《・》|子《・》|し《・》|か《・》|好《・》|き《・》|に《・》|な《・》|れ《・》|な《・》|い《・》|女《・》|の《・》|子《・》だった。
……
村の中で恐らくいちばん裕福な家に住む結花は、一年生の頃にお父さんの仕事の組合への出席で、関西の神戸まで行った。そこで帰りに宝塚歌劇団を見せてもらった。その出会いが、人生を変えた。煌びやかな男役を見て彼らが女の人だと知って、とてつもない衝撃を受けた。
(女の子でも、かっこよくなれるんだ。相原くんみたいな、心が男の子の女の子がいていいんだ)
結花の中で、相原くんへの恋慕に、火がついた。
二年生の時、お母さんが病気で死んじゃったけど、寂しさは相原くんへの恋心で補えた。
三年生になってデジカメを買ってもらった。カメラオタクが持ってるみたいな凄いやつじゃない。わざと小さなカメラを買ってもらった。性能とか、よくわからないしどうでもいい。|こ《・》|っ《・》|そ《・》|り《・》|愛《・》|し《・》|の《・》|相《・》|原《・》|く《・》|ん《・》|が《・》|写《・》|れ《・》|ば《・》、後のことはどうだって良かった。
プリンターなんて要らない。印刷して壁にぺたぺたなんて、美玲じゃあるまいし。それに万が一相原くんが部屋に来るようなことがあれば、一巻の終わりだ。結花のデジカメは、撮った写真を直接タブレットに移せるのだ。お父さんのお下がりのタブレット。授業中に、体育の時間に、下校中に。プールの時間は……さすがに無理だったけれど。数千枚の相原くんの写真が保存してある。
それを見て、何度も画面にキスをした。ヨダレでべたべたになるまで舐めまわした。
ある時、下腹部が熱くなった。写真を見ながら指で|い《・》|じ《・》|っ《・》|た《・》ら、いい気持ちで頭がふわっとした。呼んでみた。「相原くん、相原くん」まるで相原くんが|い《・》|じ《・》|っ《・》|て《・》くれてるみたいで。体に電撃が走って、気を失った。
相原くんの、長いブロンドヘアが、大好きだ。相原くんの、青い瞳が、大好きだ。相原くんの、低めの声が、大好きだ。相原くんの、不機嫌な顔が、大好きだ。相原くんが、大好きだ。
(大好き相原くん。大好き相原くん。大好き……)
からんからん、ドアのベルの音が鳴ってこうさか亭のドアが開いた。
「ごめんなさいお客さん、まだ準備中で……」
メイド服で出ていくと、愛しい愛しい相原くんが立っていた。