【捌ノ壱】

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 沙羅の泣きそうな声だ。 「おじいちゃん、助かるのっ」 「わからん。始祖と交戦したようだ」 「角田屋のところで倒れているのを保護したんです」  沙羅のおじいちゃんとお父さんが話している声がする。ゆうはもう満身創痍で動けない。 『愛しいきみ。身体を借りるよ。話した内容は後で教えてあげる』  大好きなベルの声が聞こえたあと……ぷつり、意識が途絶えた。 「ベルベッチカだよ。身体を借りている」  ゆうの目がぱちりと開いて、三人に名乗った。  綺麗に整えられた和室。心地よいお香の香り。どうやら、沙羅のおじいちゃんの部屋のようだ。 「ベルベッチカちゃん! ゆうちゃんは助かるのっ?」 「私が表に出られる位には弱っている。刺さった枝の二本は内臓を傷つけていないが、一本が肺を貫通している。ヒトなら、助からない」  そんな、と沙羅が悲鳴を上げて口を押える。 「待て。ヒトなら、と言ったぞ」  おじいちゃんが制する。 「そうだ。ゆうくんには新月の始祖の力がある。再生能力もただの新月とは違う。今から『再生』させるので、一、二分待って欲しい」  そう言うと、ふっ、と息を吸い込んで、顔をしかめる。苦しそうな顔をした後、しゅうしゅうと、傷口から白い煙があがり始めた。 「んっ……」  ばきん、と刺さった枝が折れた。そしてみるみる傷口が塞がっていく。  沙羅が見入る。九十秒程で傷は塞がった。 「ふう、なんとか治めたよ」  よかったあ……幼なじみの少女は吐息を漏らした。 「お父さん、ゆうくんにあとで栄養のあるモノをたくさん食べさせてあげておくれ。傷は治ったけれど、体力が最低限にまで落ちている」 「あ、ああ、わかった。……それより、体の中に残った枝はどうした?」 「問題ないよ。『消化』している」  ベルベッチカは、にこりと笑った。 「さて……ゆうくんと見たオリジンについて、話そうか」  ……  私が見たのは、蒼太くんだったおおかみを誘い出して、新月の虜にして、拳銃でトドメをさそうとしたその時だった。  オリジンの声がした。が、銀の弾丸を持っておらず戦力差も歴然。よって私はゆうくんに逃げるように説得したが、ゆうくんはオリジンの実体を見極めると言って聞かなかった。そして、現れたオリジンは……あゆみ先生だった。 「ええっ? 先生が始祖?」  そうだ。ゆうは新月の目で見ていた。ヒトの目よりはるかにまやかしに強いが、新月の目すらあざむかれていなければ、あゆみ先生その人だった。 「満月の始祖が新月の目をあざむいてあゆみ先生の姿を取っていた可能性はあるか?」  おじいさん。そうだ、その可能性はある。むしろ私は、当初よりそうではないかと思っている。大陸から私を追いかけ続けてきたオリジンは、最後まで新月の目でも実体が見定められなかったからね。ここでゆうくんだけが見破れた、と考えるのは都合が良すぎる気がする。  ……ところでお父さん。私は気を失う直前に、あなたがつぶやいたことについて知りたいな。 「ああ、あれは……気のせいだ。気にしなくていい」  そうか。……あなたがそれについて話したくなったら、みなに話しておくれ。 「俺の考えが、読めるのか?」  ふふ。私も一応、新月のモノの始祖だからね。  残念ながら、拳銃はゆうくんが死線をさまよっている間に紛失してしまった。 「それについては……こちらでなんとかしてみよう」  おじいさん。大丈夫かい? あまり、無理はしないでおくれ。  ……おっと、ゆうくんが目が覚める。意識をゆうくんに返さなくては。  なお、記憶は私が直接伝える。あなた方が説明する必要はない。……それでは、失礼。



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【捌ノ壱】

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 沙羅の泣きそうな声だ。 「おじいちゃん、助かるのっ」 「わからん。始祖と交戦したようだ」 「角田屋のところで倒れているのを保護したんです」  沙羅のおじいちゃんとお父さんが話している声がする。ゆうはもう満身創痍で動けない。 『愛しいきみ。身体を借りるよ。話した内容は後で教えてあげる』  大好きなベルの声が聞こえたあと……ぷつり、意識が途絶えた。 「ベルベッチカだよ。身体を借りている」  ゆうの目がぱちりと開いて、三人に名乗った。  綺麗に整えられた和室。心地よいお香の香り。どうやら、沙羅のおじいちゃんの部屋のようだ。 「ベルベッチカちゃん! ゆうちゃんは助かるのっ?」 「私が表に出られる位には弱っている。刺さった枝の二本は内臓を傷つけていないが、一本が肺を貫通している。ヒトなら、助からない」  そんな、と沙羅が悲鳴を上げて口を押える。 「待て。ヒトなら、と言ったぞ」  おじいちゃんが制する。 「そうだ。ゆうくんには新月の始祖の力がある。再生能力もただの新月とは違う。今から『再生』させるので、一、二分待って欲しい」  そう言うと、ふっ、と息を吸い込んで、顔をしかめる。苦しそうな顔をした後、しゅうしゅうと、傷口から白い煙があがり始めた。 「んっ……」  ばきん、と刺さった枝が折れた。そしてみるみる傷口が塞がっていく。  沙羅が見入る。九十秒程で傷は塞がった。 「ふう、なんとか治めたよ」  よかったあ……幼なじみの少女は吐息を漏らした。 「お父さん、ゆうくんにあとで栄養のあるモノをたくさん食べさせてあげておくれ。傷は治ったけれど、体力が最低限にまで落ちている」 「あ、ああ、わかった。……それより、体の中に残った枝はどうした?」 「問題ないよ。『消化』している」  ベルベッチカは、にこりと笑った。 「さて……ゆうくんと見たオリジンについて、話そうか」  ……  私が見たのは、蒼太くんだったおおかみを誘い出して、新月の虜にして、拳銃でトドメをさそうとしたその時だった。  オリジンの声がした。が、銀の弾丸を持っておらず戦力差も歴然。よって私はゆうくんに逃げるように説得したが、ゆうくんはオリジンの実体を見極めると言って聞かなかった。そして、現れたオリジンは……あゆみ先生だった。 「ええっ? 先生が始祖?」  そうだ。ゆうは新月の目で見ていた。ヒトの目よりはるかにまやかしに強いが、新月の目すらあざむかれていなければ、あゆみ先生その人だった。 「満月の始祖が新月の目をあざむいてあゆみ先生の姿を取っていた可能性はあるか?」  おじいさん。そうだ、その可能性はある。むしろ私は、当初よりそうではないかと思っている。大陸から私を追いかけ続けてきたオリジンは、最後まで新月の目でも実体が見定められなかったからね。ここでゆうくんだけが見破れた、と考えるのは都合が良すぎる気がする。  ……ところでお父さん。私は気を失う直前に、あなたがつぶやいたことについて知りたいな。 「ああ、あれは……気のせいだ。気にしなくていい」  そうか。……あなたがそれについて話したくなったら、みなに話しておくれ。 「俺の考えが、読めるのか?」  ふふ。私も一応、新月のモノの始祖だからね。  残念ながら、拳銃はゆうくんが死線をさまよっている間に紛失してしまった。 「それについては……こちらでなんとかしてみよう」  おじいさん。大丈夫かい? あまり、無理はしないでおくれ。  ……おっと、ゆうくんが目が覚める。意識をゆうくんに返さなくては。  なお、記憶は私が直接伝える。あなた方が説明する必要はない。……それでは、失礼。



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