【拾壱ノ参】

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 両者の戦闘力は、一見拮抗しているように見える。

 攻撃回数、肉体へのダメージを与える回数。総合的にはお母さんの方が地力に勝っている。
 しかしゆうには瞬間再生があり、どんな致命傷も回復してしまう。
 そして、無尽蔵に見えるお母さんのスタミナにも限度がある。徐々に、本当にごく僅かづつ、攻撃の精度が落ちている。それでも、補ってあまりあるお母さんの手数の多さ。
 攻撃力のお母さん。
 再生力のゆう。
 格闘家のプロが見ても、互角であると断ずるだろう。
 ……しかし。

「うれしいわ、ゆうちゃん。本当に何度でも立ち上がってくれるのね」
「嘘つき。ここまでボコボコにしておいて、手加減してるでしょ」

 ゆうは口元の血をぬぐいながら、お母さん見て憎まれ口を叩く。
 心外ね、とお母さんはにっこり笑う。

「さっきから、ずーっとお母さんは本気よ。これ以上ないくらい」

 つつ……とお母さんの頭から血が流れ落ちた。

「親ってのはね」

 流れ落ちたはずの血が、雫になって空中に静止する。ゆうの新月の目でも捉えきれない袈裟斬りが胴体を斜めに切り裂く。ベルベッチカの胴体も、これで分断した。ゆうは内蔵を撒き散らしながら後ろに倒れた。

「子供が挑んできたらね」

 そこに「下から」追撃を与える。ぼきゃっと、今度こそ脊椎をへし折って、上半身を完全に引きちぎって廊下まで蹴り出した。

「体当たりで受け止めるものなのよ」

 廊下でごおっと風が吹いた。次の瞬間、()()()()()()()が満月の目より速く飛び込んできて、左腕に一閃を見舞う。お母さんはきゃっと悲鳴を上げると、左腕が肩より先からちぎれて、ぼーっと立つ沙羅の横に落ちた。

「じゃあ、受けてみて。僕の思いを」

 その後も攻防は続いた。
 ゆうは切り裂かれ、引きちぎられ、砕かれ、吹き飛ばされた。しかしその度に、何事も無かったようにゆうは立ち上がる。
 立ち上がる度に、精度が落ちていくお母さんの攻撃。
 そして、七十六度目の斬撃で、ようやく。ようやく両者の戦闘力は、完全に拮抗した。
 しかし決定的に異なる点が、あった。

 お母さんは、残った右腕でお腹をさする。少し、大きくなった、お母さんのお腹。
 とても、とても幸せそうに。

「そんなに幸せそうなのに、なにが怖いの?」
「はっ、はっ……ふ、ふふふ。も少ししたら、はぁ、はぁ、教えてあげる」

 お母さんは息を切らし始めた。けれどもゆうを見るあの笑顔は、いつものお母さんのものだ。

「もう少ししたら、ね」

 お母さんから、飛びかかった。
 それを、新月の目が初めて捕捉した。

 決定的に異なる点とは。
 お母さんが片腕がないことではない。妊娠していることでもない。
 ゆうがベルベッチカを宿していることではない。瞬間再生できることでもない。
 それは。

 この戦いが始まって、初めてである。お母さんの攻撃の予兆を読み取ったのは。
 だから、ゆうは知覚できた。十数年かけてもベルベッチカが成し得なかった、満月のオリジンの攻撃の知覚化を、今この瞬間、ゆうは成し遂げた。

 それは。新月のモノだからではなく。満月のモノだからではなく。
 無期限の寿命を持つ、「成長の止まった種族」ではなく。
 それは。
「ゆうが()()()()()十一年生きてきたから」である。

「うわぁぁあああ──!」

 ざんっ。お母さんの攻撃をかわしたゆうの爪が、お母さんの頭を、すとんと落とした。


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 両者の戦闘力は、一見拮抗しているように見える。
 攻撃回数、肉体へのダメージを与える回数。総合的にはお母さんの方が地力に勝っている。
 しかしゆうには瞬間再生があり、どんな致命傷も回復してしまう。
 そして、無尽蔵に見えるお母さんのスタミナにも限度がある。徐々に、本当にごく僅かづつ、攻撃の精度が落ちている。それでも、補ってあまりあるお母さんの手数の多さ。
 攻撃力のお母さん。
 再生力のゆう。
 格闘家のプロが見ても、互角であると断ずるだろう。
 ……しかし。
「うれしいわ、ゆうちゃん。本当に何度でも立ち上がってくれるのね」
「嘘つき。ここまでボコボコにしておいて、手加減してるでしょ」
 ゆうは口元の血をぬぐいながら、お母さん見て憎まれ口を叩く。
 心外ね、とお母さんはにっこり笑う。
「さっきから、ずーっとお母さんは本気よ。これ以上ないくらい」
 つつ……とお母さんの頭から血が流れ落ちた。
「親ってのはね」
 流れ落ちたはずの血が、雫になって空中に静止する。ゆうの新月の目でも捉えきれない袈裟斬りが胴体を斜めに切り裂く。ベルベッチカの胴体も、これで分断した。ゆうは内蔵を撒き散らしながら後ろに倒れた。
「子供が挑んできたらね」
 そこに「下から」追撃を与える。ぼきゃっと、今度こそ脊椎をへし折って、上半身を完全に引きちぎって廊下まで蹴り出した。
「体当たりで受け止めるものなのよ」
 廊下でごおっと風が吹いた。次の瞬間、|五《・》|体《・》|満《・》|足《・》|の《・》|ゆ《・》|う《・》が満月の目より速く飛び込んできて、左腕に一閃を見舞う。お母さんはきゃっと悲鳴を上げると、左腕が肩より先からちぎれて、ぼーっと立つ沙羅の横に落ちた。
「じゃあ、受けてみて。僕の思いを」
 その後も攻防は続いた。
 ゆうは切り裂かれ、引きちぎられ、砕かれ、吹き飛ばされた。しかしその度に、何事も無かったようにゆうは立ち上がる。
 立ち上がる度に、精度が落ちていくお母さんの攻撃。
 そして、七十六度目の斬撃で、ようやく。ようやく両者の戦闘力は、完全に拮抗した。
 しかし決定的に異なる点が、あった。
 お母さんは、残った右腕でお腹をさする。少し、大きくなった、お母さんのお腹。
 とても、とても幸せそうに。
「そんなに幸せそうなのに、なにが怖いの?」
「はっ、はっ……ふ、ふふふ。も少ししたら、はぁ、はぁ、教えてあげる」
 お母さんは息を切らし始めた。けれどもゆうを見るあの笑顔は、いつものお母さんのものだ。
「もう少ししたら、ね」
 お母さんから、飛びかかった。
 それを、新月の目が初めて捕捉した。
 決定的に異なる点とは。
 お母さんが片腕がないことではない。妊娠していることでもない。
 ゆうがベルベッチカを宿していることではない。瞬間再生できることでもない。
 それは。
 この戦いが始まって、初めてである。お母さんの攻撃の予兆を読み取ったのは。
 だから、ゆうは知覚できた。十数年かけてもベルベッチカが成し得なかった、満月のオリジンの攻撃の知覚化を、今この瞬間、ゆうは成し遂げた。
 それは。新月のモノだからではなく。満月のモノだからではなく。
 無期限の寿命を持つ、「成長の止まった種族」ではなく。
 それは。
「ゆうが|ヒ《・》|ト《・》|と《・》|し《・》|て《・》十一年生きてきたから」である。
「うわぁぁあああ──!」
 ざんっ。お母さんの攻撃をかわしたゆうの爪が、お母さんの頭を、すとんと落とした。