【玖ノ伍】
ー/ー
年中さんに上がった。年少さんからおなじせんせいだったひとみせんせいが、その日から、「ゆうちゃん」から「ゆうくん」と呼ぶようになった。幼稚園のバッヂも、ピンクから青になった。みんな、当然みたいにゆうくんって呼ぶ。
でも。沙羅はずっと「ゆうちゃん」だ。おんなのこでも、おとこのこでも、どっちだって良かったから。男子にも張り合う沙羅を、みんな「ガサツ女」「おとこおんな」って呼ぶけど、ゆうちゃんはそんなこと一度も言わない。一緒に遊んで、転ぶと手を貸してくれた。一緒に遊んで、仲間はずれの子がいると助けてあげていた。翔や蒼太がたんけんに行く時も、いつも沙羅に声をかけてくれた。
ちっちゃい心臓に付いた火は、いつの間にか恋心に変わっていた。
小学校に上がった。ゆうちゃんは、青いキャップの帽子を被るようになった。髪の毛の話題になるとムキになって怒るから、誰も触れなくなった。でも青い瞳は、いつも沙羅を見てくれていた。
だから沙羅は、どんなにライバルがいても安心なのだ。
……
結花がゆうちゃんを女の子として見ているの、実は知ってる。手にカメラを隠して、撮りまくってる。こっそり撮ってるつもりだろうけど、沙羅から見たらバレバレだ。この前放課後に忘れ物取りに行ったら、デジカメみながら自分のスカートに手を突っ込んでた。……なにしてんだか。
……
美玲もゆうちゃんが好きだ。昔からマンガが大好きだった。沙羅は知っている。マンガの主人公はいっつもゆうちゃんで、ヒロインは美玲なのだ。金髪の主人公──たとえば、ヤイバとか──を見せては。
『ゆーくんに似てるよねえ! じゃあ、ボクはこの子かなあ』
なんて妄想を、ずーっと聞かされてきたのだから。
……
みかは、実は沙羅の最大のライバルだ。忘れ物クイーンとして有名で、普段はおどけてばかりだけど、だからこそゆうちゃんが放っておかない。たんけんするときは、沙羅といっつもみかはいっしょだけど、二人同時に転ぶと、かならずみかの方を先に助ける。
すごく悔しいけど、本人も無自覚にやっていて責められないのがよけいに悔しい。
……
みんな。みんな。みんな死んでしまった。おおかみになって。ベルベッチカちゃんを助けるため。お母さんを助けるため。ゆうちゃんが、みんなを殺して、食べた。そしてその結果。
ゆうちゃんはベルベッチカちゃんに「上書き」されて、居なくなってしまった。
沙羅は、ひとりぼっちになってしまった。ひとりぼっちになった沙羅は、神社の階段のいちばん下にひとり、座っていた。
「お昼ご飯が出来たそうだよ」
ベルベッチカちゃんは、そう言うと社務所に戻った。沙羅はぼーっとしていて、うんと答えたけどまだ座っていた。だから、そのモノが来た時、社務所という結界の外に居た。
「寂しい?」
うん。
何度も何度も聞いたことのある声だったから、なんの違和感もなく答えた。前を向いた沙羅に、そのヒトはもう一度聞いた。
「寂しい?」
そのヒトの輪郭は、黒く歪んで見えなかった。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
年中さんに上がった。年少さんからおなじせんせいだったひとみせんせいが、その日から、「ゆうちゃん」から「ゆうくん」と呼ぶようになった。幼稚園のバッヂも、ピンクから青になった。みんな、当然みたいにゆうくんって呼ぶ。
でも。沙羅はずっと「ゆうちゃん」だ。おんなのこでも、おとこのこでも、どっちだって良かったから。男子にも張り合う沙羅を、みんな「ガサツ女」「おとこおんな」って呼ぶけど、ゆうちゃんはそんなこと一度も言わない。一緒に遊んで、転ぶと手を貸してくれた。一緒に遊んで、仲間はずれの子がいると助けてあげていた。翔や蒼太がたんけんに行く時も、いつも沙羅に声をかけてくれた。
ちっちゃい心臓に付いた火は、いつの間にか恋心に変わっていた。
小学校に上がった。ゆうちゃんは、青いキャップの帽子を被るようになった。髪の毛の話題になるとムキになって怒るから、誰も触れなくなった。でも青い瞳は、いつも沙羅を見てくれていた。
だから沙羅は、どんなにライバルがいても安心なのだ。
……
結花がゆうちゃんを女の子として見ているの、実は知ってる。手にカメラを隠して、撮りまくってる。こっそり撮ってるつもりだろうけど、沙羅から見たらバレバレだ。この前放課後に忘れ物取りに行ったら、デジカメみながら自分のスカートに手を突っ込んでた。……なにしてんだか。
……
美玲もゆうちゃんが好きだ。昔からマンガが大好きだった。沙羅は知っている。マンガの主人公はいっつもゆうちゃんで、ヒロインは美玲なのだ。金髪の主人公──たとえば、ヤイバとか──を見せては。
『ゆーくんに似てるよねえ! じゃあ、ボクはこの子かなあ』
なんて妄想を、ずーっと聞かされてきたのだから。
……
みかは、実は沙羅の最大のライバルだ。忘れ物クイーンとして有名で、普段はおどけてばかりだけど、だからこそゆうちゃんが放っておかない。たんけんするときは、沙羅といっつもみかはいっしょだけど、二人同時に転ぶと、かならずみかの方を先に助ける。
すごく悔しいけど、本人も無自覚にやっていて責められないのがよけいに悔しい。
……
みんな。みんな。みんな死んでしまった。おおかみになって。ベルベッチカちゃんを助けるため。お母さんを助けるため。ゆうちゃんが、みんなを殺して、食べた。そしてその結果。
ゆうちゃんはベルベッチカちゃんに「上書き」されて、居なくなってしまった。
沙羅は、ひとりぼっちになってしまった。ひとりぼっちになった沙羅は、神社の階段のいちばん下にひとり、座っていた。
「お昼ご飯が出来たそうだよ」
ベルベッチカちゃんは、そう言うと社務所に戻った。沙羅はぼーっとしていて、うんと答えたけどまだ座っていた。だから、そのモノが来た時、|社《・》|務《・》|所《・》|と《・》|い《・》|う《・》|結《・》|界《・》|の《・》|外《・》に居た。
「寂しい?」
うん。
何度も何度も聞いたことのある声だったから、なんの違和感もなく答えた。前を向いた沙羅に、そのヒトはもう一度聞いた。
「寂しい?」
そのヒトの輪郭は、黒く歪んで見えなかった。