【拾ノ陸】

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「はい、私が持ってる分は全部見せたよ」  冬の空。ベルの……姉のオリジンのお屋敷。かんおけの横。  温度のない夕焼けの光が差し込む。  ベルベッチカは、ゆうの額から手を離した。 「まさか……お母さんが……満月のオリジン……?」  そうだね、と産みの母親は淡々と答えた。 「そんな……お母さんを助けるため、僕は……クラスメイト達を食べてきたのに」 「そこだ。問題は。……なぜ姉のオリジンは、村の崩壊をきみに行わせたのか」  ベルでもわからないことに、ゆうは途方に暮れた。ゆうは俯いた。 「僕は、お母さんを殺さないといけないの?」  涙を零しながら言ったゆうに、ベルは意外な言葉を告げた。 「好きにするといいよ」  ベルは、笑顔のまま、ふうっとため息をついた。 「私はもう、死んだ。細胞の欠片も残さないほどに」  ゆうは首を横に振った。そんな悲しいことを言ってほしくなかった。 「私の再生。それは夢と消えた。……だが、お母さんの救出。これは、姉のオリジンがお母さんだった、ということで、成功した……というか初めからその問題は存在しなかったと言える」  ベルは手を広げた。 「ここは、彼岸だ。あの世の入口だ。このまま、私とここで永久に存在することも可能だ」  愛するベルと永久にここで。……ゆうはつばを飲んだ。 「だがもし、マザーの隠していた最後の真実。それを知りたければ行くといい」 「でも、もうベルの体も僕の体も無いんでしょ? どうやって……」 「私を、今ここで食べるんだ」  ベルはにこにこしたまま、信じられないことを言う。 「おおかみにやったのと同じだよ。私を、残さず食べるんだ。そうすれば、私の全てが愛しいきみ。きみに宿る。力も、心も」  ゆうは恐る恐る、一番なってほしくないことを聞く。 「ベルとは、もう会えなくなるの?」 「完全に一体になるからね。愛しいきみが私を認識することは出来なくなるよ」  そんな……ゆうは下を向いた。いやだ。ベルに会えなくなるなんて。 「沙羅ちゃんが、姉のオリジンに囚われている。奪還に失敗した」  ハッとした。 『ゆうちゃん!』  自分を愛してくれる女の子の顔が浮かんだ。 「マザーの真実の他に、沙羅ちゃんを助けたければ……行くんだ、愛しいきみ」  ゆうは、ぎゅっと、こぶしを握りしめた。 「忘れない。ベルのこと。永遠に」 「そうさ。それでいい。私の愛しいゆうくん」  ベルは近づいて、ゆうの肩に腕を絡めた。 「私を食べて? 大好きな、大好きな、きみ」  そして、キスをした。何度も、何度も……舌を入れて。 (舌から、食べて。あの時みたいに)  ベルの心が直接伝わる。ゆうは新月の牙をだして、その舌を噛んだ。  ベルベッチカ・リリヰの舌の味は。  どんなものより優しくて。どんなものより、暖かかい……  ……お母さんの、味だった。



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「はい、私が持ってる分は全部見せたよ」  冬の空。ベルの……姉のオリジンのお屋敷。かんおけの横。  温度のない夕焼けの光が差し込む。  ベルベッチカは、ゆうの額から手を離した。 「まさか……お母さんが……満月のオリジン……?」  そうだね、と産みの母親は淡々と答えた。 「そんな……お母さんを助けるため、僕は……クラスメイト達を食べてきたのに」 「そこだ。問題は。……なぜ姉のオリジンは、村の崩壊をきみに行わせたのか」  ベルでもわからないことに、ゆうは途方に暮れた。ゆうは俯いた。 「僕は、お母さんを殺さないといけないの?」  涙を零しながら言ったゆうに、ベルは意外な言葉を告げた。 「好きにするといいよ」  ベルは、笑顔のまま、ふうっとため息をついた。 「私はもう、死んだ。細胞の欠片も残さないほどに」  ゆうは首を横に振った。そんな悲しいことを言ってほしくなかった。 「私の再生。それは夢と消えた。……だが、お母さんの救出。これは、姉のオリジンがお母さんだった、ということで、成功した……というか初めからその問題は存在しなかったと言える」  ベルは手を広げた。 「ここは、彼岸だ。あの世の入口だ。このまま、私とここで永久に存在することも可能だ」  愛するベルと永久にここで。……ゆうはつばを飲んだ。 「だがもし、マザーの隠していた最後の真実。それを知りたければ行くといい」 「でも、もうベルの体も僕の体も無いんでしょ? どうやって……」 「私を、今ここで食べるんだ」  ベルはにこにこしたまま、信じられないことを言う。 「おおかみにやったのと同じだよ。私を、残さず食べるんだ。そうすれば、私の全てが愛しいきみ。きみに宿る。力も、心も」  ゆうは恐る恐る、一番なってほしくないことを聞く。 「ベルとは、もう会えなくなるの?」 「完全に一体になるからね。愛しいきみが私を認識することは出来なくなるよ」  そんな……ゆうは下を向いた。いやだ。ベルに会えなくなるなんて。 「沙羅ちゃんが、姉のオリジンに囚われている。奪還に失敗した」  ハッとした。 『ゆうちゃん!』  自分を愛してくれる女の子の顔が浮かんだ。 「マザーの真実の他に、沙羅ちゃんを助けたければ……行くんだ、愛しいきみ」  ゆうは、ぎゅっと、こぶしを握りしめた。 「忘れない。ベルのこと。永遠に」 「そうさ。それでいい。私の愛しいゆうくん」  ベルは近づいて、ゆうの肩に腕を絡めた。 「私を食べて? 大好きな、大好きな、きみ」  そして、キスをした。何度も、何度も……舌を入れて。 (舌から、食べて。あの時みたいに)  ベルの心が直接伝わる。ゆうは新月の牙をだして、その舌を噛んだ。  ベルベッチカ・リリヰの舌の味は。  どんなものより優しくて。どんなものより、暖かかい……  ……お母さんの、味だった。



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