【拾ノ壱】

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 新月の始祖、ベルベッチカ・リリヰは敗れた。

「大丈夫かい? 沙羅ちゃん」

 五年生の教室。沙羅ちゃんは、生気のない目をしたまま、ベルベッチカの後ろに立っている。その前で、ベルベッチカ・リリヰは身体を起こす。自身の下半身を見る。

 ()()()()()()()()()()()()、下半身とは五十センチほど離れていた。

 二頭の──蒼太と航の──おおかみは倒した。
 あゆみ先生も首を落とし滅した。
 勝った、はずだった。何年も十数年続いた因縁に、ケリをつけたはずだった。
 しかし。目の前に、オリジンが()()()()()()
 くっ。まさかこんなことが。ベルベッチカは頭の中で悪態をついた。突然の乱入に対応できないまま、一閃をもろに受けてしまったのだ。切り札の拳銃は、二メートル程後方に落ちている。とても届かないし、銀の弾丸は使ってしまった。

「……ベルベッチカ……」

 それでも、負けない。負ける訳にはいかない。ばきんっ、と新月の爪を解放した。

(脚が無くったって! この爪さえあればっ)

 しかし、つぎの瞬間。オリジンは爪を縦に振るった。それは凄まじい衝撃波となり、ベルベッチカは守るべき少女の目の前で跡形もなくばらばらにされた。

 ……

「きみ、愛しいきみ」

 冬の夕方。芯まで冷える、薄明かりの空の下。ゆうはあのお屋敷のあの部屋の、かんおけの横に座っている。いつの間に、いつから座っていたのかはわからない。けれどたしかに今、ここにいる。
 そして、自分を呼ぶ声に初めて気がついた。

「ベル……?」

 ゆうは立ち上がった。

「良かった。きみの細胞は、私の中でまだ残ってくれていたんだね」

 ゆうは愛しい母なる少女の名前を呼び、探した。
 ここにいる、との声に振り返ると、愛しい愛しいベルベッチカが立っている。笑って……いるように見える。

「ねえ、僕はどうなったの?」
「しばらく身体を借りていてね。戦っていたんだ。けれど……オリジンに、負けた」

 ベルは寂しげに言った。ゆうは下を向いた。

「そっか……僕たち、死ぬの?」

 ベルベッチカは歩み寄り、ゆうの顔を覗いて首を横に振った。 

「ここにずっといることも出来るし、戦いを挑むことも出来る」

 ゆうもベルを見た。

「でもベル、君で勝てない相手に、僕なんかじゃ勝てないよ」
「ふふふ。大丈夫。勝算はまだあるよ」

 そういうと、ベルはゆうのおでこに触った。

「奴に接触してね。記憶を覗けたんだ。オリジンの真の姿と、奥に何か秘めていることがわかった」
「オリジンの真の姿?」

 ゆうはベルを見た……やさしく、微笑んだままだ。

「今から、それを君にたくす。そして、決めるんだ。このままここに留まるか。この村を縛り続けた呪いと愛を滅するか」

 そう言うとベルの手が暖かくなった。と同時に、知らない景色が洪水のように流れ込んできた。
 ぷつり、とゆうの意識は切れた。


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 新月の始祖、ベルベッチカ・リリヰは敗れた。
「大丈夫かい? 沙羅ちゃん」
 五年生の教室。沙羅ちゃんは、生気のない目をしたまま、ベルベッチカの後ろに立っている。その前で、ベルベッチカ・リリヰは身体を起こす。自身の下半身を見る。
 |胴《・》|体《・》|は《・》|横《・》|一《・》|文《・》|字《・》|に《・》|切《・》|断《・》|さ《・》|れ《・》、下半身とは五十センチほど離れていた。
 二頭の──蒼太と航の──おおかみは倒した。
 あゆみ先生も首を落とし滅した。
 勝った、はずだった。何年も十数年続いた因縁に、ケリをつけたはずだった。
 しかし。目の前に、オリジンが|も《・》|う《・》|一《・》|人《・》|い《・》|る《・》。
 くっ。まさかこんなことが。ベルベッチカは頭の中で悪態をついた。突然の乱入に対応できないまま、一閃をもろに受けてしまったのだ。切り札の拳銃は、二メートル程後方に落ちている。とても届かないし、銀の弾丸は使ってしまった。
「……ベルベッチカ……」
 それでも、負けない。負ける訳にはいかない。ばきんっ、と新月の爪を解放した。
(脚が無くったって! この爪さえあればっ)
 しかし、つぎの瞬間。オリジンは爪を縦に振るった。それは凄まじい衝撃波となり、ベルベッチカは守るべき少女の目の前で跡形もなくばらばらにされた。
 ……
「きみ、愛しいきみ」
 冬の夕方。芯まで冷える、薄明かりの空の下。ゆうはあのお屋敷のあの部屋の、かんおけの横に座っている。いつの間に、いつから座っていたのかはわからない。けれどたしかに今、ここにいる。
 そして、自分を呼ぶ声に初めて気がついた。
「ベル……?」
 ゆうは立ち上がった。
「良かった。きみの細胞は、私の中でまだ残ってくれていたんだね」
 ゆうは愛しい母なる少女の名前を呼び、探した。
 ここにいる、との声に振り返ると、愛しい愛しいベルベッチカが立っている。笑って……いるように見える。
「ねえ、僕はどうなったの?」
「しばらく身体を借りていてね。戦っていたんだ。けれど……オリジンに、負けた」
 ベルは寂しげに言った。ゆうは下を向いた。
「そっか……僕たち、死ぬの?」
 ベルベッチカは歩み寄り、ゆうの顔を覗いて首を横に振った。 
「ここにずっといることも出来るし、戦いを挑むことも出来る」
 ゆうもベルを見た。
「でもベル、君で勝てない相手に、僕なんかじゃ勝てないよ」
「ふふふ。大丈夫。勝算はまだあるよ」
 そういうと、ベルはゆうのおでこに触った。
「奴に接触してね。記憶を覗けたんだ。オリジンの真の姿と、奥に何か秘めていることがわかった」
「オリジンの真の姿?」
 ゆうはベルを見た……やさしく、微笑んだままだ。
「今から、それを君にたくす。そして、決めるんだ。このままここに留まるか。この村を縛り続けた呪いと愛を滅するか」
 そう言うとベルの手が暖かくなった。と同時に、知らない景色が洪水のように流れ込んできた。
 ぷつり、とゆうの意識は切れた。