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096 留学

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 記憶を見ているフォスターは最初のうちは夢と認識できている明晰夢の状態だったが、だんだん普通の夢と変わらなくなってきていた。完全に意識がビスタークの記憶と同化していった。  ニアタが旅に出てしまったのでビスタークは一人取り残された。一応ソレムがいたが、レアフィールやニアタほど心の距離は近くなかった。    気づくと暗い顔をしていたビスタークをソレムは心配し、レアフィールが手配していた眼神の町アークルス神衛兵かのえへい訓練へ参加させることにした。業務を手伝わなくていいのかとビスタークは気を回したが、町長も業務に慣れてきたし子どもが一人いなくて困るようでは大人失格だからとソレムに言われた。 「まあ、なんとかなるわい。気にせず行ってくるんじゃ。神衛兵の訓練も立派な業務の一つじゃからな」  ビスタークはこの半島で一番大きく、半島の名前にもなっている眼神の町アークルスへ行くことになった。  早すぎるが集団に揉まれる経験も必要だろうと十二歳で旅に出ることとなった。旅、と言っても二つ隣の町なので馬車で四日程の距離であるが。  それでもビスタークにとっては初めて外へ行くことになるので楽しみにしていた。普通なら隣町くらいなら家族と共に出かけたりするものなのだが、あの事件や神殿の仕事の多さなどで町から出る機会がなかったのである。  隣の友神の町フリアンスまでは町民の馬車に同乗させてもらい、そこからは定期的に行き来している乗り合い馬車で移動した。先方の大神官にはあらかじめ連絡しているので受け入れ準備は整っていた。  最初は知らない町と人に囲まれて不安と緊張で死んだような目をして過ごしていたが段々と慣れていった。そして気持ちがすごく軽くなっていった。  何故ならこの眼神の町アークルスには自分が凄惨な事件の当事者だということを知っている人間が誰もいないのだ。人口も地元に比べるとはるかに多く、他の大陸等からも大勢の旅人がおとずれるのでよそ者の自分が一人増えても誰も気にしない。楽しくなっていった。    頬の傷のような痣についてはたまに聞かれるが、ここの神衛兵は傷など勲章扱いでむしろ誇らしげにしていたので、問題にならないどころか美点として扱われた。隊長のトーリッドの額にも傷があった。薬中毒の者を取り押さえる時についた傷だと笑っていた。女にはウケが悪いから、気にしない女を嫁に探さないとならないのが大変だ、とも言って笑っていた。    ビスタークはこの自分の頬の痣が嫌いだったのでそこは違和感があった。この痣さえ無ければ両親も死なず、普通の幸せな家庭で暮らしていけたのではないかと思っていた。鏡も嫌いだった。見るたびにそう思ってしまうからだ。    成長途中のため鎧はまだ身体に合っていないので身に着けていなかった。大勢の大人に混ざっての訓練は大変だったが、皆厳しくも優しくかわいがってくれた。特に隊長のトーリッドは息子に歳が近いとのことでよく気にかけてくれていた。神衛兵たちには訓練だけでなく色々なことを経験させてもらった。美味しい食べ物から悪い遊びまで様々なことを。  一年間だけの約束で訓練に参加したが、ずっとここで暮らそうかと考えるくらいに楽しかった。  ――あの男と再会するまでは。  そろそろ一年経とうかという頃、町中でばったり会ってしまった。以前「よく笑えるな」と言ってレアフィールの怒りをかったあの男である。あの後、ソレムとレアフィールの言葉巧みな誘導により家族ごと他の町へと移住していったのであった。そんなことをしているから人口が減るんだとビスタークは思ったが、二人の気持ちは嬉しかった。  ここに住んでいるのかたまたま他の場所から買い出しに来ていたのかはわからないが、因縁をつけてきたところを見るとあまり幸せそうではなかった。一度神の怒りを買ってしまったので、呪われたも同然なのかもしれない。    他の神衛兵たちと一緒だったためあまり大ごとにしないようにと思ったのだが、逆に神衛兵達から煽られてしまった。訓練後外へ食事に行っていたため誰も神衛兵としての装備はしていない。男もちゃんと神衛兵の格好をした集団の中にビスタークがいれば因縁をつけなかったかもしれない。運が悪かった。    ビスタークに目をかけている神衛兵の隊長トーリッドが耳元でぼそっと囁いた。 「先に相手に手を出させろ」  男は喚く。 「お前のせいで、俺は何もかもうまくいかねえ! なんでお前は楽しそうにしてんだよ! こいつは人殺しなんだよ! こいつはもっと小さい時に人を殺してんだよ!」  男は相変わらずだった。  ――ああ、まただ。    ビスタークはこの男を見た時点でこう言われる予想はついていたので、以前のようなショックは受けなかった。ただ、心の奥底へとしまいこんでいた暗い感情がまた掘り起こされてしまった。いつもこうなのだ。毎日が楽しく思えてくると自分のしたことを突き付けられ、自分は幸せになってはいけないのだ、と思い知らされる。  そして神衛兵たちに知られてしまったので今までのように気安く接することはできなくなったな、と思った。ただ、言われっぱなしでいるのも癪だったので、つい思ったことが口から漏れた。   「なんか、かわいそうだな、おっさん」    ビスタークとしては一応本当にそう思ったから出た言葉だったのだが、男には大変屈辱だったようで煽りとしては効果覿面だった。  男は激昂して殴りかかってきた。それを左手で受け止める。ビスタークは成長途中なのでまだ身体は小さかったが力は既にこの男より強かった。    ちらっと神衛兵の一人を見た。手を出されたからいいよな、という確認だ。頷かれたので男の拳を受け止めた手に力を入れ、腕を捻ってやった。男は痛みで悲鳴を上げる。そこですかさず右腕でみぞおちを殴った。    一度殴ったら止まれなくなってしまった。今までの鬱憤を晴らすかのように連続で殴り続けるつもりだったが三、四発殴ったところで周りに止められた。 「子どもに手を上げるとは見過ごせないなー。ちょっとそこの詰所まで来てもらおうかな?」  神衛兵たちが怖い笑顔で神衛兵の証明であるこの町の紋章付証明ペンダントを見せ、男を連れていった。連れられていく間にもビスタークへの悪態をついていたが最終的に黙らされた。  そろそろ地元に帰る時期だったし、神衛兵たちと今後気まずい空気になってもあとほんの少しの時間を我慢すれば済むことだ。今まで楽しかったが仕方がない、やはり自分は幸せにはなれないのだなと考えているとトーリッドが告げる。 「安心しろ。俺は大神官と指揮官を通して聞いている」  既に根回し済みだったことに少しだけ安堵したが、自罰感情は止められなかった。    さっき神衛兵たちが止めてくれなかったら、男が死ぬまで殴り続けていたかもしれない。殴りながら自分は何も考えていなかった。無感情だった。やはり自分はどこかおかしいのかもしれない。そう思った。  暗い顔をしたままでいるビスタークを見かねてトーリッドが自宅へと連れ帰った。妻と息子は遠くの妻の実家へ出かけているという。 「最初に来たときの目に戻ってしまったな……」  トーリッドは用意した酒を飲みながらそう言った。ビスタークには氷の入った甘いソーダ水を出されていた。 「酒が入ると口が軽くなるから勧めたいところなんだが、流石にその年齢じゃなあ。気分だけな」  というとグラスを持たせて未来の幸せを願ってと乾杯させた。 「じゃあ心の内に溜め込んでるものを全部吐き出せ。聞いてやる」  トーリッドが真剣な目で真っ直ぐにビスタークを見て言った。    しかしこうしっかり聞くと言われても、なかなか最初の言葉を出すのは難しいものである。ビスタークは側にあった隊長の酒瓶を取り、自分のグラスに追加で少量注ぐと一気に飲み干した。トーリッドが止める間もなかった。実の父親が酒豪だったので自分も大丈夫だろうと思っていたが、駄目なら駄目でどうなっても構わなかった。自暴自棄になっていた。    少し酔いがまわってきたところで少しずつ、ぽつりぽつりと話し始めた。  生まれたときから頬の痣について陰口をたたかれ、それが原因で薬中毒の者に両親を殺され自分も殺されかけたこと。それを返り討ちにし人殺しとなったこと。事あるごとにその事実を掘り起こされること。一番庇ってくれていた人はもういなくなってしまったこと。自分は幸せになれない、生きている意味もないと思っていること。  トーリッドは黙って聞いていたが、ビスタークが話し終わると口を開いた。 「殺されるってところだったんだから、それは仕方がなかったことだろ。庇ってくれた人がいなくなったのは残念なことだが、またそういう人を見つければいい。なんなら俺が庇ってやるよ。だから幸せになれないなんて考えるな。まだお前は子どもだ。人生これからなんだからな」  そう言って、レアフィールがよくしてくれたように頭をガシガシと撫でられた。酔いがまわっていたこともあって少し泣きそうになったが耐えた。父親とはこういうものなんだろうなと思い、救われた気持ちになった。  次の日の訓練の時もトーリッドはつきっきりで相手をしてくれた。気持ちが晴れるようにと反撃を一切せず、一方的にビスタークの攻撃を受け続けた。周りの神衛兵たちも、特に何も言わずに放っておいてくれた。その気持ちがありがたかった。  飛翔神の町リフェイオスに帰る前の日は訓練が休みだった。神殿の家族に何か土産を買おうかと店が連なる通りを見てまわっていると、トーリッドが家族みんなで幸せそうに歩いているのを見てしまった。そうだ、トーリッドには本当の息子がいるのだ。そこに自分が入る余地など無い。やはり自分の居場所はここでは無いのだと思った。  一時的に頼れる所ができただけ良かったじゃないか、と自分自身を言いくるめ眼神の町アークルスから飛翔神の町リフェイオスへと帰っていった。



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 記憶を見ているフォスターは最初のうちは夢と認識できている明晰夢の状態だったが、だんだん普通の夢と変わらなくなってきていた。完全に意識がビスタークの記憶と同化していった。  ニアタが旅に出てしまったのでビスタークは一人取り残された。一応ソレムがいたが、レアフィールやニアタほど心の距離は近くなかった。    気づくと暗い顔をしていたビスタークをソレムは心配し、レアフィールが手配していた眼神の町アークルス神衛兵かのえへい訓練へ参加させることにした。業務を手伝わなくていいのかとビスタークは気を回したが、町長も業務に慣れてきたし子どもが一人いなくて困るようでは大人失格だからとソレムに言われた。 「まあ、なんとかなるわい。気にせず行ってくるんじゃ。神衛兵の訓練も立派な業務の一つじゃからな」  ビスタークはこの半島で一番大きく、半島の名前にもなっている眼神の町アークルスへ行くことになった。  早すぎるが集団に揉まれる経験も必要だろうと十二歳で旅に出ることとなった。旅、と言っても二つ隣の町なので馬車で四日程の距離であるが。  それでもビスタークにとっては初めて外へ行くことになるので楽しみにしていた。普通なら隣町くらいなら家族と共に出かけたりするものなのだが、あの事件や神殿の仕事の多さなどで町から出る機会がなかったのである。  隣の友神の町フリアンスまでは町民の馬車に同乗させてもらい、そこからは定期的に行き来している乗り合い馬車で移動した。先方の大神官にはあらかじめ連絡しているので受け入れ準備は整っていた。  最初は知らない町と人に囲まれて不安と緊張で死んだような目をして過ごしていたが段々と慣れていった。そして気持ちがすごく軽くなっていった。  何故ならこの眼神の町アークルスには自分が凄惨な事件の当事者だということを知っている人間が誰もいないのだ。人口も地元に比べるとはるかに多く、他の大陸等からも大勢の旅人がおとずれるのでよそ者の自分が一人増えても誰も気にしない。楽しくなっていった。    頬の傷のような痣についてはたまに聞かれるが、ここの神衛兵は傷など勲章扱いでむしろ誇らしげにしていたので、問題にならないどころか美点として扱われた。隊長のトーリッドの額にも傷があった。薬中毒の者を取り押さえる時についた傷だと笑っていた。女にはウケが悪いから、気にしない女を嫁に探さないとならないのが大変だ、とも言って笑っていた。    ビスタークはこの自分の頬の痣が嫌いだったのでそこは違和感があった。この痣さえ無ければ両親も死なず、普通の幸せな家庭で暮らしていけたのではないかと思っていた。鏡も嫌いだった。見るたびにそう思ってしまうからだ。    成長途中のため鎧はまだ身体に合っていないので身に着けていなかった。大勢の大人に混ざっての訓練は大変だったが、皆厳しくも優しくかわいがってくれた。特に隊長のトーリッドは息子に歳が近いとのことでよく気にかけてくれていた。神衛兵たちには訓練だけでなく色々なことを経験させてもらった。美味しい食べ物から悪い遊びまで様々なことを。  一年間だけの約束で訓練に参加したが、ずっとここで暮らそうかと考えるくらいに楽しかった。  ――あの男と再会するまでは。  そろそろ一年経とうかという頃、町中でばったり会ってしまった。以前「よく笑えるな」と言ってレアフィールの怒りをかったあの男である。あの後、ソレムとレアフィールの言葉巧みな誘導により家族ごと他の町へと移住していったのであった。そんなことをしているから人口が減るんだとビスタークは思ったが、二人の気持ちは嬉しかった。  ここに住んでいるのかたまたま他の場所から買い出しに来ていたのかはわからないが、因縁をつけてきたところを見るとあまり幸せそうではなかった。一度神の怒りを買ってしまったので、呪われたも同然なのかもしれない。    他の神衛兵たちと一緒だったためあまり大ごとにしないようにと思ったのだが、逆に神衛兵達から煽られてしまった。訓練後外へ食事に行っていたため誰も神衛兵としての装備はしていない。男もちゃんと神衛兵の格好をした集団の中にビスタークがいれば因縁をつけなかったかもしれない。運が悪かった。    ビスタークに目をかけている神衛兵の隊長トーリッドが耳元でぼそっと囁いた。 「先に相手に手を出させろ」  男は喚く。 「お前のせいで、俺は何もかもうまくいかねえ! なんでお前は楽しそうにしてんだよ! こいつは人殺しなんだよ! こいつはもっと小さい時に人を殺してんだよ!」  男は相変わらずだった。  ――ああ、まただ。    ビスタークはこの男を見た時点でこう言われる予想はついていたので、以前のようなショックは受けなかった。ただ、心の奥底へとしまいこんでいた暗い感情がまた掘り起こされてしまった。いつもこうなのだ。毎日が楽しく思えてくると自分のしたことを突き付けられ、自分は幸せになってはいけないのだ、と思い知らされる。  そして神衛兵たちに知られてしまったので今までのように気安く接することはできなくなったな、と思った。ただ、言われっぱなしでいるのも癪だったので、つい思ったことが口から漏れた。   「なんか、かわいそうだな、おっさん」    ビスタークとしては一応本当にそう思ったから出た言葉だったのだが、男には大変屈辱だったようで煽りとしては効果覿面だった。  男は激昂して殴りかかってきた。それを左手で受け止める。ビスタークは成長途中なのでまだ身体は小さかったが力は既にこの男より強かった。    ちらっと神衛兵の一人を見た。手を出されたからいいよな、という確認だ。頷かれたので男の拳を受け止めた手に力を入れ、腕を捻ってやった。男は痛みで悲鳴を上げる。そこですかさず右腕でみぞおちを殴った。    一度殴ったら止まれなくなってしまった。今までの鬱憤を晴らすかのように連続で殴り続けるつもりだったが三、四発殴ったところで周りに止められた。 「子どもに手を上げるとは見過ごせないなー。ちょっとそこの詰所まで来てもらおうかな?」  神衛兵たちが怖い笑顔で神衛兵の証明であるこの町の紋章付証明ペンダントを見せ、男を連れていった。連れられていく間にもビスタークへの悪態をついていたが最終的に黙らされた。  そろそろ地元に帰る時期だったし、神衛兵たちと今後気まずい空気になってもあとほんの少しの時間を我慢すれば済むことだ。今まで楽しかったが仕方がない、やはり自分は幸せにはなれないのだなと考えているとトーリッドが告げる。 「安心しろ。俺は大神官と指揮官を通して聞いている」  既に根回し済みだったことに少しだけ安堵したが、自罰感情は止められなかった。    さっき神衛兵たちが止めてくれなかったら、男が死ぬまで殴り続けていたかもしれない。殴りながら自分は何も考えていなかった。無感情だった。やはり自分はどこかおかしいのかもしれない。そう思った。  暗い顔をしたままでいるビスタークを見かねてトーリッドが自宅へと連れ帰った。妻と息子は遠くの妻の実家へ出かけているという。 「最初に来たときの目に戻ってしまったな……」  トーリッドは用意した酒を飲みながらそう言った。ビスタークには氷の入った甘いソーダ水を出されていた。 「酒が入ると口が軽くなるから勧めたいところなんだが、流石にその年齢じゃなあ。気分だけな」  というとグラスを持たせて未来の幸せを願ってと乾杯させた。 「じゃあ心の内に溜め込んでるものを全部吐き出せ。聞いてやる」  トーリッドが真剣な目で真っ直ぐにビスタークを見て言った。    しかしこうしっかり聞くと言われても、なかなか最初の言葉を出すのは難しいものである。ビスタークは側にあった隊長の酒瓶を取り、自分のグラスに追加で少量注ぐと一気に飲み干した。トーリッドが止める間もなかった。実の父親が酒豪だったので自分も大丈夫だろうと思っていたが、駄目なら駄目でどうなっても構わなかった。自暴自棄になっていた。    少し酔いがまわってきたところで少しずつ、ぽつりぽつりと話し始めた。  生まれたときから頬の痣について陰口をたたかれ、それが原因で薬中毒の者に両親を殺され自分も殺されかけたこと。それを返り討ちにし人殺しとなったこと。事あるごとにその事実を掘り起こされること。一番庇ってくれていた人はもういなくなってしまったこと。自分は幸せになれない、生きている意味もないと思っていること。  トーリッドは黙って聞いていたが、ビスタークが話し終わると口を開いた。 「殺されるってところだったんだから、それは仕方がなかったことだろ。庇ってくれた人がいなくなったのは残念なことだが、またそういう人を見つければいい。なんなら俺が庇ってやるよ。だから幸せになれないなんて考えるな。まだお前は子どもだ。人生これからなんだからな」  そう言って、レアフィールがよくしてくれたように頭をガシガシと撫でられた。酔いがまわっていたこともあって少し泣きそうになったが耐えた。父親とはこういうものなんだろうなと思い、救われた気持ちになった。  次の日の訓練の時もトーリッドはつきっきりで相手をしてくれた。気持ちが晴れるようにと反撃を一切せず、一方的にビスタークの攻撃を受け続けた。周りの神衛兵たちも、特に何も言わずに放っておいてくれた。その気持ちがありがたかった。  飛翔神の町リフェイオスに帰る前の日は訓練が休みだった。神殿の家族に何か土産を買おうかと店が連なる通りを見てまわっていると、トーリッドが家族みんなで幸せそうに歩いているのを見てしまった。そうだ、トーリッドには本当の息子がいるのだ。そこに自分が入る余地など無い。やはり自分の居場所はここでは無いのだと思った。  一時的に頼れる所ができただけ良かったじゃないか、と自分自身を言いくるめ眼神の町アークルスから飛翔神の町リフェイオスへと帰っていった。



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