055 予約
ー/ー
宿へ戻ると船のことをビスタークに相談した。
「船の予約の仕組みがよくわかんないんだけど、船内で何泊かするんだよな?」
『そうだな、三から四泊くらいだったはずだ』
「食事は?」
『中に店があるからそこで食べるか持ち込みだ』
「じゃあ明日は船の予約取ったら料理だな」
質問は続く。
「船の部屋をとる感じなのか?」
『ああ。良い部屋は高いし、安いと知らない奴らと共同部屋になる』
「それはまずいよな。二人部屋は高いかな?」
『そりゃ四人や六人部屋に比べればな』
リューナが口を挟んだ。
「お風呂はある?」
『あるけど共同風呂だから諦めろ』
「ええー! 四日も我慢するの嫌だ! またフォスターに身体拭いてもらわなきゃならなくなるよ?」
「それは困る!」
フォスターが嫌がってそう言ったがビスタークは現実的な話をする。
『でもこの前みたいに誰かついててやらないと、普通に配置とか教えられずに困るんじゃないのか』
「あー……そうだった。また普通そうな人を探すしかないかな……」
結論は出ず翌日を迎えた。
船は遅れているようだった。昼を過ぎたのに到着していない。
「いつまで待てばいいんだ……これならさっさと料理しとけば良かった」
「まあ買い物はしてあるんだからいいじゃない。でもお魚のお料理って大変そうだよね」
「ゴミも結構出そうだしな。まあ回収してくれるみたいだから船に持ち込まないで済むしいいけど」
折角なので海産物で料理をするつもりだった。どうやって料理するのかは店先で見たり聞いたりして覚えたつもりである。
『今日到着するかどうかもわからねえな。到着すれば騒がしくなるだろうから宿で待ってればいいんじゃねえか。リューナなら聞こえるだろ』
「そうだな。じゃあリューナ、宿に戻ろう。着いてもすぐ出発されるわけじゃないしな」
フォスターは船の中へ持ち込む食事を作っておくつもりである。宿へと戻り、とりあえず今日の夕飯のための料理を始めた。
この部屋は狭く二段ベッドと壁の隙間に小さいテーブルと椅子二つがある。玄関と部屋を繋ぐ廊下の脇に小さい台所や風呂がある造りとなっている。
台所に二人並ぶのは狭くて邪魔になるので、リューナは部屋の小さなテーブルで野菜の皮剥きを手伝った。手伝うことが無くなると風呂を先に済ませた。
リューナは特にすることが無くなり窓を開けて外の音を聞いていた。本人は嫌がったが狙われているからと念のためビスタークの帯を握らされていた。不審者対策である。
元々は神官と神衛兵の寮だったのでこの町の神殿には近い位置であるし二階の部屋であるが、前にある建物のせいで海は見えなかった。まあ目の見えないリューナには関係ないが。それでも普段聞けない波の音やいつもと違う種類の鳥の声を聴いているのは心地よかった。
そうやって時間を過ごしていると、神殿から鐘の音が聞こえてきた。
『この音は船がある程度の大きさに見えた合図だったはずだ』
ビスタークがリューナに教えた。空気さえ澄んでいればかなり遠くても見えるので一定の距離での合図らしい。リューナもフォスターに報告した。しかしそれでも到着までにまだ一刻くらいはかかるとのことだった。
そして夕方になった頃、今度は笛のような音が聞こえてきた。
「騒がしくなったから到着したみたいだよ!」
ちょうど料理が終わったフォスターにリューナが教える。料理の側へ時停石を置いておき、念のため鎧と帯を着けてリューナと港へ向かった。
到着したと言っても船は沖合に停まっている。そこから小舟で移動し荷物や乗客を運び出すのである。
「海岸にくっついて停まるんじゃないんだな」
『海の深さが足りねえんだ。近づいたら座礁しちまう』
予約担当の船員がこちらへ到着したら切符を売り始めるらしい。たくさんの人がそれを目当てに集まっていた。切符販売の列を作るよう港の職員が声をかけているのでそこに並ぼうと向かっていると思わぬ声をかけられた。
「リューナじゃない? あー、やっぱりそうだ!」
聞き覚えのある声がした。フォスターが振り向いて見ると、風呂で世話になった丸眼鏡を着けた兄妹がそこにいた。
「えっ? この声、ヨマリー?」
「追いついちゃった!」
女の子二人はきゃあきゃあ言いながら再会を喜んでいる。兄二人はその様子を微笑ましく眺めた。
「折角会えたんだからさ、船の部屋一緒にしない?」
ヨマリーがいきなりそう提案した。
「えっ?」
「ええっ!?」
リューナも驚いたがフォスターはもっと困惑した。
「ヨマリー、相手を困らせちゃダメだろ。俺もいるんだから。女の子が知らない男と同じ部屋は嫌だろう」
「そっかあ、残念」
リューナが慌てて否定する。
「ううん、私はヨマリーと一緒の部屋なら嬉しいけど、こっちもフォスターがいるし……」
「私はいいよー。二段ベッドにはカーテンついてるしね」
「カーテンがついてるんだ?」
「そうだよー。ベッドだけ自分の部屋みたいな感じだよ。狭いけど」
「それならいいんじゃないかと思うんだけど……」
リューナがフォスターとビスタークを気にして様子を伺う。
「みんながいいなら船代安くなるし俺もいいけど……」
『まあこいつら安全そうだからな。攫うならとっくにやってるだろうし』
皆の様子を伺っていたヨマリーの兄も同意する。
「俺も女の子がいいならいいよ、安くなるし。誓って何もしないから安心して」
「まー兄貴にはそんな度胸無いもんね。でも何か嫌なことがあったらすぐ言ってね。私が兄貴をぶん殴ってあげるから」
「そんなことしないって。俺はユヴィラ。よろしくね」
「フォスターです。俺もそんなことしないのでよろしく」
こうして四人部屋を予約することに決まった。船は明日出港となる。行き先は水の都のあるソーリュシーウァ大陸の泳神ミューイスの町だ。風向きが順調なら三日から四日で辿り着ける。
「じゃあさ、みんなで晩ごはん食べに行かない?」
「うん! ……あ、でも作っちゃってたっけ……」
リューナがフォスターのほうを伺う。
「船に持ち込めばいいだけだから大丈夫だよ。ただ、高い店はやめてくれよ」
「こっちもそんなに金持ちじゃないから高い店なんて行けないよ」
苦笑しながらユヴィラが言う。ヨマリー達も昨日の鉄板焼きの店は行きの際食べたと言うので、ヨマリーが独断で別の店を決め四人で入った。だいぶ強引な子だがこちらは目移りしてなかなか決められない気がしたのでここは素直に従った。四角いテーブル席に通され、それぞれの兄妹で並んで座って向かい合わせになった。
「うちの町も少し内陸にあるから海産物はあまり食べる機会無いんだよね。いっぱい食べよう!」
「うん!」
「……リューナは本当にいっぱい食べるから驚くと思うよ……」
「そうなの?」
「えへへ。食べるの好きなんだー」
リューナは恥ずかしそうに笑って誤魔化した。そしてメニューの紙を貰うと言文石で読み始めた。フォスターはそれを横から眺める。
「麺……って何だろう?」
リューナが呟いた言葉を聞いたヨマリーが口を挟む。
「あれ? 麺って食べたことない? 小麦粉を捏ねて伸ばして細長く切った物」
「小さく丸めたりちぎったりするのはうちのほうにもある。その仲間みたいなもんか。じゃあ俺はトマトソースのやつにしてみようかな」
「じゃあ私はイカ墨っていうのにする!」
ヨマリーはまだ悩んでいるが、ユヴィラは決まったようだ。
「俺、お酒飲んじゃおうかな……。フォスターは飲む?」
「いや、俺は飲めないので」
「そうなんだ。飲めそうなのに」
ここでは成人や酒が飲める年齢等は特に決まりがない。周りの人間に認められるかどうかで決まる。
「リューナちゃんはうちのと同い年って聞いたけど、フォスターは何歳なの?」
「十九歳です」
「「えーっ!!」」
ユヴィラとヨマリーは二人して驚愕していた。
「同い年くらいかと思ってた……」
「何か苦労してそうだもんね」
何か失礼なことを言われている気がしたがそこには目をつむり、ある程度察していたことをフォスターからも聞いた。
「そう言うユヴィラは何歳です?」
「俺は二十五歳だよ」
ヨマリーが子どもに見えるのでそっくりな兄のユヴィラも若く見えるのだろうと思っていたが、思っていたより歳であった。コーシェルと同い年だとはとても思えなかった。酒も飲むわけだ、と思った。
そして、自分もそのくらいに思われているのかとショックを受けた。ビスタークはゲラゲラと笑っていたが、元々顔は父親似のためビスタークもそうだったはずである。宿に戻ったら文句を言ってやる、と思ったところでビスタークはとんでもないことを言い出した。
『船でこいつに取り憑けば俺も酒が飲めるな!』
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『そうだな、三から四泊くらいだったはずだ』
「食事は?」
『中に店があるからそこで食べるか持ち込みだ』
「じゃあ明日は船の予約取ったら料理だな」
質問は続く。
「船の部屋をとる感じなのか?」
『ああ。良い部屋は高いし、安いと知らない奴らと共同部屋になる』
「それはまずいよな。二人部屋は高いかな?」
『そりゃ四人や六人部屋に比べればな』
リューナが口を挟んだ。
「お風呂はある?」
『あるけど共同風呂だから諦めろ』
「ええー! 四日も我慢するの嫌だ! またフォスターに身体拭いてもらわなきゃならなくなるよ?」
「それは困る!」
フォスターが嫌がってそう言ったがビスタークは現実的な話をする。
『でもこの前みたいに誰かついててやらないと、普通に配置とか教えられずに困るんじゃないのか』
「あー……そうだった。また普通そうな人を探すしかないかな……」
結論は出ず翌日を迎えた。
船は遅れているようだった。昼を過ぎたのに到着していない。
「いつまで待てばいいんだ……これならさっさと料理しとけば良かった」
「まあ買い物はしてあるんだからいいじゃない。でもお魚のお料理って大変そうだよね」
「ゴミも結構出そうだしな。まあ回収してくれるみたいだから船に持ち込まないで済むしいいけど」
折角なので海産物で料理をするつもりだった。どうやって料理するのかは店先で見たり聞いたりして覚えたつもりである。
『今日到着するかどうかもわからねえな。到着すれば騒がしくなるだろうから宿で待ってればいいんじゃねえか。リューナなら聞こえるだろ』
「そうだな。じゃあリューナ、宿に戻ろう。着いてもすぐ出発されるわけじゃないしな」
フォスターは船の中へ持ち込む食事を作っておくつもりである。宿へと戻り、とりあえず今日の夕飯のための料理を始めた。
この部屋は狭く二段ベッドと壁の隙間に小さいテーブルと椅子二つがある。玄関と部屋を繋ぐ廊下の脇に小さい台所や風呂がある造りとなっている。
台所に二人並ぶのは狭くて邪魔になるので、リューナは部屋の小さなテーブルで野菜の皮剥きを手伝った。手伝うことが無くなると風呂を先に済ませた。
リューナは特にすることが無くなり窓を開けて外の音を聞いていた。本人は嫌がったが狙われているからと念のためビスタークの帯を握らされていた。不審者対策である。
元々は神官と|神衛兵《かのえへい》の寮だったのでこの町の神殿には近い位置であるし二階の部屋であるが、前にある建物のせいで海は見えなかった。まあ目の見えないリューナには関係ないが。それでも普段聞けない波の音やいつもと違う種類の鳥の声を聴いているのは心地よかった。
そうやって時間を過ごしていると、神殿から鐘の音が聞こえてきた。
『この音は船がある程度の大きさに見えた合図だったはずだ』
ビスタークがリューナに教えた。空気さえ澄んでいればかなり遠くても見えるので一定の距離での合図らしい。リューナもフォスターに報告した。しかしそれでも到着までにまだ一刻くらいはかかるとのことだった。
そして夕方になった頃、今度は笛のような音が聞こえてきた。
「騒がしくなったから到着したみたいだよ!」
ちょうど料理が終わったフォスターにリューナが教える。料理の側へ|時停石《ティーマイト》を置いておき、念のため鎧と帯を着けてリューナと港へ向かった。
到着したと言っても船は沖合に停まっている。そこから小舟で移動し荷物や乗客を運び出すのである。
「海岸にくっついて停まるんじゃないんだな」
『海の深さが足りねえんだ。近づいたら座礁しちまう』
予約担当の船員がこちらへ到着したら切符を売り始めるらしい。たくさんの人がそれを目当てに集まっていた。切符販売の列を作るよう港の職員が声をかけているのでそこに並ぼうと向かっていると思わぬ声をかけられた。
「リューナじゃない? あー、やっぱりそうだ!」
聞き覚えのある声がした。フォスターが振り向いて見ると、風呂で世話になった丸眼鏡を着けた兄妹がそこにいた。
「えっ? この声、ヨマリー?」
「追いついちゃった!」
女の子二人はきゃあきゃあ言いながら再会を喜んでいる。兄二人はその様子を微笑ましく眺めた。
「折角会えたんだからさ、船の部屋一緒にしない?」
ヨマリーがいきなりそう提案した。
「えっ?」
「ええっ!?」
リューナも驚いたがフォスターはもっと困惑した。
「ヨマリー、相手を困らせちゃダメだろ。俺もいるんだから。女の子が知らない男と同じ部屋は嫌だろう」
「そっかあ、残念」
リューナが慌てて否定する。
「ううん、私はヨマリーと一緒の部屋なら嬉しいけど、こっちもフォスターがいるし……」
「私はいいよー。二段ベッドにはカーテンついてるしね」
「カーテンがついてるんだ?」
「そうだよー。ベッドだけ自分の部屋みたいな感じだよ。狭いけど」
「それならいいんじゃないかと思うんだけど……」
リューナがフォスターとビスタークを気にして様子を伺う。
「みんながいいなら船代安くなるし俺もいいけど……」
『まあこいつら安全そうだからな。攫うならとっくにやってるだろうし』
皆の様子を伺っていたヨマリーの兄も同意する。
「俺も女の子がいいならいいよ、安くなるし。誓って何もしないから安心して」
「まー兄貴にはそんな度胸無いもんね。でも何か嫌なことがあったらすぐ言ってね。私が兄貴をぶん殴ってあげるから」
「そんなことしないって。俺はユヴィラ。よろしくね」
「フォスターです。俺もそんなことしないのでよろしく」
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「じゃあさ、みんなで晩ごはん食べに行かない?」
「うん! ……あ、でも作っちゃってたっけ……」
リューナがフォスターのほうを伺う。
「船に持ち込めばいいだけだから大丈夫だよ。ただ、高い店はやめてくれよ」
「こっちもそんなに金持ちじゃないから高い店なんて行けないよ」
苦笑しながらユヴィラが言う。ヨマリー達も昨日の鉄板焼きの店は行きの際食べたと言うので、ヨマリーが独断で別の店を決め四人で入った。だいぶ強引な子だがこちらは目移りしてなかなか決められない気がしたのでここは素直に従った。四角いテーブル席に通され、それぞれの兄妹で並んで座って向かい合わせになった。
「うちの町も少し内陸にあるから海産物はあまり食べる機会無いんだよね。いっぱい食べよう!」
「うん!」
「……リューナは本当にいっぱい食べるから驚くと思うよ……」
「そうなの?」
「えへへ。食べるの好きなんだー」
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「麺……って何だろう?」
リューナが呟いた言葉を聞いたヨマリーが口を挟む。
「あれ? 麺って食べたことない? 小麦粉を捏ねて伸ばして細長く切った物」
「小さく丸めたりちぎったりするのはうちのほうにもある。その仲間みたいなもんか。じゃあ俺はトマトソースのやつにしてみようかな」
「じゃあ私はイカ墨っていうのにする!」
ヨマリーはまだ悩んでいるが、ユヴィラは決まったようだ。
「俺、お酒飲んじゃおうかな……。フォスターは飲む?」
「いや、俺は飲めないので」
「そうなんだ。飲めそうなのに」
ここでは成人や酒が飲める年齢等は特に決まりがない。周りの人間に認められるかどうかで決まる。
「リューナちゃんはうちのと同い年って聞いたけど、フォスターは何歳なの?」
「十九歳です」
「「えーっ!!」」
ユヴィラとヨマリーは二人して驚愕していた。
「同い年くらいかと思ってた……」
「何か苦労してそうだもんね」
何か失礼なことを言われている気がしたがそこには目をつむり、ある程度察していたことをフォスターからも聞いた。
「そう言うユヴィラは何歳です?」
「俺は二十五歳だよ」
ヨマリーが子どもに見えるのでそっくりな兄のユヴィラも若く見えるのだろうと思っていたが、思っていたより歳であった。コーシェルと同い年だとはとても思えなかった。酒も飲むわけだ、と思った。
そして、自分もそのくらいに思われているのかとショックを受けた。ビスタークはゲラゲラと笑っていたが、元々顔は父親似のためビスタークもそうだったはずである。宿に戻ったら文句を言ってやる、と思ったところでビスタークはとんでもないことを言い出した。
『船でこいつに取り憑けば俺も酒が飲めるな!』