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083 案内

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 フォスター達が石屋を探し店内で色々な話をしている間、神殿ではリューナが内部を案内されていた。大神官であるリジェンダは付き添わなかったが、その娘のティリューダが案内役として、その婚約者のダスタムが警備としてついていた。リューナにとって神衛兵かのえへいは少し怖いのだが、大神官の娘の婚約者なら大丈夫、と自分に言い聞かせた。  まず案内されたのは神殿の裏側にある世界の果ての滝だった。大神官の部屋の真上に展望台のようなベランダのような場所があるのでそこへ案内された。ガラスの入っていない窓からほんの少しだけ細かい水しぶきが入ってくる。相当な高さから落ちてくるため、滝というより一部分に降り続けるやまない雨のようなものである。霧雨のようなそこまで強くない耳に心地よい音が聞こえる。リューナは目が見えないので説明されただけだが、滝壺は無く地面が侵食され穴が開いているのだという。そしてその穴は地下深くにある湖へ繋がっているのだそうだ。その穴を覗き込むようにすると虹が見えるのだが見えないリューナに説明しても理解することが出来なかった。  その地底湖を利用して運河を作り他の町と貿易を行っているらしい。荷運びに人手が必要なため神衛兵見習いは宿舎の宿泊費代わりにその仕事をすることが多いのだそうだ。フォスターもその仕事をするのかな、などと考えながら下の階へと移動する。 「この下は神衛兵達の訓練場です」  外の広場が訓練場になっているらしい。今いる場所は四階で下のほうから勇ましい掛け声が聞こえてきている。相当な人数がいるようだ。警備で一緒に行動しているダスタムはここにいていいのか疑問に思ったが、全員参加していたら仕事が成り立たないと言われ、それもそうかと納得した。  その訓練場を挟んだ右斜め前方にある、今いる通路を右に曲がった棟が女子棟、逆側の左が男子棟だ。女子棟からは訓練場が見下ろせるので、そこで若い女の子たちが格好良い神衛兵はいないかときゃあきゃあ言いながら見物しているのだという。 「じゃあお前も俺に対してそうだったってこと?」 「違うよ」  ダスタムは期待して聞いたようだったがあっさりとティリューダに否定されてしまった。 「なんだ、違うのか」 「だって兜被ってると誰が誰だかわからないもの。都の神衛兵みんな同じ鎧だし」 「確かにそうだな。じゃあ地方からの見習いのほうが有利なのか?」 「有利ってどういうことかしら」 「あ、いや……」  ティリューダからの圧を感じてこの話は終わりとなった。  反対側の男子棟の下には講堂がある。ここで神官見習いが神の加護を授かる実習や理力を意識して止める実習などをするようだ。中の様子は窓側から少し見えるだけだが、男子棟では可愛い神官見習いの女の子がいるか気にしてよく見ているらしい。 「へーえ、そんなことしてるんだ。ふーん」  嫉妬なのかティリューダがダスタムへ突っ掛かるような物言いをした。 「お、俺はしてないぞ? お前がいるからな!」 「まあ、別にいいけど」  リューナは少しニヤニヤしていた。ヨマリーが恋バナを求める気持ちが今なら少しわかる。心の栄養になるのだと理解した。 「あの……お二人はどういう馴れ初めなんですか?」 「えっ?」 「ええーっ?」  照れているようだ。 「いや、その……学校が同じで……」 「そこは組が同じで、でしょ」  リューナは疑問に思った。 「? 同じ町なら、学校はみんな同じですよね? あと『組』って何ですか?」 「え?」 「そこからですか……」  リューナは二人から説明されて愕然とした。都は地元とあまりにも違っていたからだ。  そもそも学校が神殿内に無かった。都の神殿は神官や神衛兵の見習いが実習や勉強をし寝泊まりする場所でもあるので、子ども達を受け入れられる環境ではないのである。都自体結構な面積があるため四つの地区にわけて、そのそれぞれに学校があるらしい。また人数も多いため学年別でも相当な人数になるので優秀さで組分けをしているそうだ。  地元の飛翔神の町リフェイオスでは同い年の子どもがいれば良いほうで、ばらばらの年齢の子どもを全員同じ部屋に集めて勉強をするのである。そんなにたくさんの子どもがいるところを想像出来なかった。  でも羨ましくはなかった。もし自分がそんな大勢の中にいても皆と仲良く出来る自信などないからだ。もしいじめられても同じ部屋にフォスターがいないなら助けてもらえないだろう。 「それで同じ組で、親の仕事の話で気が合ってね」 「うちは親が大神官で、ダスタムはお父さんが神衛の神殿警備隊長でして。親や周りからの期待が重くてそれで意気投合したんです」 「そうなんですね。どちらから告白したんですか?」  男の神衛兵が怖かったはずなのだが、恋バナの力で乗り越えた。興味津々で聞いている。 「俺からだよ。なんかこいつ必死でほっとけなくてさ」 「ただの友達だと思ってたからびっくりしましたね、あの時は。特に断る理由もなかったので受け入れたら、そのまま親も盛り上がってしまっていつの間にか婚約者ということに……」 「ふふっ。それはおめでとうございます」  ティリューダの口ぶりは何でもないような感じだったが、声は明らかに照れが入っていた。表情も照れていたのだがリューナは見えないのでわからなかった。 「期待ってことは、ティリューダさんは次の大神官候補なんですか?」 「いえっ、違います! 兄が二人いますのでそちらに任せています。二人とも他の都へ大神官の試験を受けに行ってますし」 「いいよな、上がいると。うちは俺が一番上だからなー。母親も神衛だったから対人模擬戦で勝てないと両方から厳しい指導が……」 「……大変なんですね」  良いところの子は自分たちにはわからない苦労があるのだなと思った。  一つ下の階は教室が集まる階だった。神官見習いが講義を受ける教室だ。その下の二階は食堂だった。とても広くたくさんの席が用意されており良い匂いが漂っている。 「この下の一階は更衣室や事務室、受付があります。業者や一般人の出入りもありますので、安全のため案内はここまでにしておきますね」  ティリューダが食堂の目の前で立ち止まりそう言った。 「じゃ、ここで昼飯か?」 「まだ水の刻前だから少し時間が早いけど……。これから神衛と見習いが一斉に来るし、それが終わると次は講義が終わった神官見習い達が押し寄せるし、食べるなら今ですね。どうします?」 「食べます!」  リューナは即答した。朝食は借りている客室で食べたが、匂いを嗅いだら一気に空腹感が押し寄せてきた。席に座りティリューダが説明する。 「ここは街中にあるような店と違って注文を取りに来たりはしません。カウンターに料理が並べてあるので好きなものを取っていくんです。料金はその場で払うか宿舎代金や労働の賃金と一緒に後で精算するか選べます」 「お金はフォスターが管理してるので……後から精算でいいでしょうか?」  おそるおそる聞くとティリューダは笑って断った。 「あ、いえ。今日は母が全員分出してくれるそうなのでお気になさらず」 「え、俺の分も?」 「そうよ」 「やった! お礼言っといてくれな」  ダスタムは思いがけず一食分の代金が浮いたことに喜んでいた。 「どうしましょうか。一緒にカウンターへ行って料理の説明して取ります? それとも適当に何か取ってきます?」 「説明するの大変だと思うのでおまかせでお願いします」  おそらく地元の料理が多いと思われるので説明を受けても味の想像が出来ないだろうと思い任せることにした。リューナを一人にするわけにはいかないので護衛のダスタムが残り、ティリューダが料理を数回に分けて取りに行った。  持ってきた料理をテーブルへ並べながらティリューダが説明していく。胡瓜とトマトと揚げた薄いパンを混ぜたサラダ、皮のついた揚げた肉団子、野菜がたっぷり入った卵焼き、米・肉・豆・ナッツを薄いパイ生地で包んだもの、手でぎゅっと握った跡がついている挽き肉を焼いた辛い料理などだ。リューナには特に好き嫌いが無いためどれも美味しく食べられた。幸せそうに料理を頬張る姿を見て二人は呟いた。 「美味しそうに食べますね……」 「まだ昼前だからそっちが食べ終わった後にしようかと思ってたけどやっぱ今食べる」 「私もそうします」  食欲が刺激されたことと大神官の奢りということもあって二人が通常より多く食べていたことをリューナは知らない。



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 フォスター達が石屋を探し店内で色々な話をしている間、神殿ではリューナが内部を案内されていた。大神官であるリジェンダは付き添わなかったが、その娘のティリューダが案内役として、その婚約者のダスタムが警備としてついていた。リューナにとって神衛兵かのえへいは少し怖いのだが、大神官の娘の婚約者なら大丈夫、と自分に言い聞かせた。  まず案内されたのは神殿の裏側にある世界の果ての滝だった。大神官の部屋の真上に展望台のようなベランダのような場所があるのでそこへ案内された。ガラスの入っていない窓からほんの少しだけ細かい水しぶきが入ってくる。相当な高さから落ちてくるため、滝というより一部分に降り続けるやまない雨のようなものである。霧雨のようなそこまで強くない耳に心地よい音が聞こえる。リューナは目が見えないので説明されただけだが、滝壺は無く地面が侵食され穴が開いているのだという。そしてその穴は地下深くにある湖へ繋がっているのだそうだ。その穴を覗き込むようにすると虹が見えるのだが見えないリューナに説明しても理解することが出来なかった。  その地底湖を利用して運河を作り他の町と貿易を行っているらしい。荷運びに人手が必要なため神衛兵見習いは宿舎の宿泊費代わりにその仕事をすることが多いのだそうだ。フォスターもその仕事をするのかな、などと考えながら下の階へと移動する。 「この下は神衛兵達の訓練場です」  外の広場が訓練場になっているらしい。今いる場所は四階で下のほうから勇ましい掛け声が聞こえてきている。相当な人数がいるようだ。警備で一緒に行動しているダスタムはここにいていいのか疑問に思ったが、全員参加していたら仕事が成り立たないと言われ、それもそうかと納得した。  その訓練場を挟んだ右斜め前方にある、今いる通路を右に曲がった棟が女子棟、逆側の左が男子棟だ。女子棟からは訓練場が見下ろせるので、そこで若い女の子たちが格好良い神衛兵はいないかときゃあきゃあ言いながら見物しているのだという。 「じゃあお前も俺に対してそうだったってこと?」 「違うよ」  ダスタムは期待して聞いたようだったがあっさりとティリューダに否定されてしまった。 「なんだ、違うのか」 「だって兜被ってると誰が誰だかわからないもの。都の神衛兵みんな同じ鎧だし」 「確かにそうだな。じゃあ地方からの見習いのほうが有利なのか?」 「有利ってどういうことかしら」 「あ、いや……」  ティリューダからの圧を感じてこの話は終わりとなった。  反対側の男子棟の下には講堂がある。ここで神官見習いが神の加護を授かる実習や理力を意識して止める実習などをするようだ。中の様子は窓側から少し見えるだけだが、男子棟では可愛い神官見習いの女の子がいるか気にしてよく見ているらしい。 「へーえ、そんなことしてるんだ。ふーん」  嫉妬なのかティリューダがダスタムへ突っ掛かるような物言いをした。 「お、俺はしてないぞ? お前がいるからな!」 「まあ、別にいいけど」  リューナは少しニヤニヤしていた。ヨマリーが恋バナを求める気持ちが今なら少しわかる。心の栄養になるのだと理解した。 「あの……お二人はどういう馴れ初めなんですか?」 「えっ?」 「ええーっ?」  照れているようだ。 「いや、その……学校が同じで……」 「そこは組が同じで、でしょ」  リューナは疑問に思った。 「? 同じ町なら、学校はみんな同じですよね? あと『組』って何ですか?」 「え?」 「そこからですか……」  リューナは二人から説明されて愕然とした。都は地元とあまりにも違っていたからだ。  そもそも学校が神殿内に無かった。都の神殿は神官や神衛兵の見習いが実習や勉強をし寝泊まりする場所でもあるので、子ども達を受け入れられる環境ではないのである。都自体結構な面積があるため四つの地区にわけて、そのそれぞれに学校があるらしい。また人数も多いため学年別でも相当な人数になるので優秀さで組分けをしているそうだ。  地元の飛翔神の町リフェイオスでは同い年の子どもがいれば良いほうで、ばらばらの年齢の子どもを全員同じ部屋に集めて勉強をするのである。そんなにたくさんの子どもがいるところを想像出来なかった。  でも羨ましくはなかった。もし自分がそんな大勢の中にいても皆と仲良く出来る自信などないからだ。もしいじめられても同じ部屋にフォスターがいないなら助けてもらえないだろう。 「それで同じ組で、親の仕事の話で気が合ってね」 「うちは親が大神官で、ダスタムはお父さんが神衛の神殿警備隊長でして。親や周りからの期待が重くてそれで意気投合したんです」 「そうなんですね。どちらから告白したんですか?」  男の神衛兵が怖かったはずなのだが、恋バナの力で乗り越えた。興味津々で聞いている。 「俺からだよ。なんかこいつ必死でほっとけなくてさ」 「ただの友達だと思ってたからびっくりしましたね、あの時は。特に断る理由もなかったので受け入れたら、そのまま親も盛り上がってしまっていつの間にか婚約者ということに……」 「ふふっ。それはおめでとうございます」  ティリューダの口ぶりは何でもないような感じだったが、声は明らかに照れが入っていた。表情も照れていたのだがリューナは見えないのでわからなかった。 「期待ってことは、ティリューダさんは次の大神官候補なんですか?」 「いえっ、違います! 兄が二人いますのでそちらに任せています。二人とも他の都へ大神官の試験を受けに行ってますし」 「いいよな、上がいると。うちは俺が一番上だからなー。母親も神衛だったから対人模擬戦で勝てないと両方から厳しい指導が……」 「……大変なんですね」  良いところの子は自分たちにはわからない苦労があるのだなと思った。  一つ下の階は教室が集まる階だった。神官見習いが講義を受ける教室だ。その下の二階は食堂だった。とても広くたくさんの席が用意されており良い匂いが漂っている。 「この下の一階は更衣室や事務室、受付があります。業者や一般人の出入りもありますので、安全のため案内はここまでにしておきますね」  ティリューダが食堂の目の前で立ち止まりそう言った。 「じゃ、ここで昼飯か?」 「まだ水の刻前だから少し時間が早いけど……。これから神衛と見習いが一斉に来るし、それが終わると次は講義が終わった神官見習い達が押し寄せるし、食べるなら今ですね。どうします?」 「食べます!」  リューナは即答した。朝食は借りている客室で食べたが、匂いを嗅いだら一気に空腹感が押し寄せてきた。席に座りティリューダが説明する。 「ここは街中にあるような店と違って注文を取りに来たりはしません。カウンターに料理が並べてあるので好きなものを取っていくんです。料金はその場で払うか宿舎代金や労働の賃金と一緒に後で精算するか選べます」 「お金はフォスターが管理してるので……後から精算でいいでしょうか?」  おそるおそる聞くとティリューダは笑って断った。 「あ、いえ。今日は母が全員分出してくれるそうなのでお気になさらず」 「え、俺の分も?」 「そうよ」 「やった! お礼言っといてくれな」  ダスタムは思いがけず一食分の代金が浮いたことに喜んでいた。 「どうしましょうか。一緒にカウンターへ行って料理の説明して取ります? それとも適当に何か取ってきます?」 「説明するの大変だと思うのでおまかせでお願いします」  おそらく地元の料理が多いと思われるので説明を受けても味の想像が出来ないだろうと思い任せることにした。リューナを一人にするわけにはいかないので護衛のダスタムが残り、ティリューダが料理を数回に分けて取りに行った。  持ってきた料理をテーブルへ並べながらティリューダが説明していく。胡瓜とトマトと揚げた薄いパンを混ぜたサラダ、皮のついた揚げた肉団子、野菜がたっぷり入った卵焼き、米・肉・豆・ナッツを薄いパイ生地で包んだもの、手でぎゅっと握った跡がついている挽き肉を焼いた辛い料理などだ。リューナには特に好き嫌いが無いためどれも美味しく食べられた。幸せそうに料理を頬張る姿を見て二人は呟いた。 「美味しそうに食べますね……」 「まだ昼前だからそっちが食べ終わった後にしようかと思ってたけどやっぱ今食べる」 「私もそうします」  食欲が刺激されたことと大神官の奢りということもあって二人が通常より多く食べていたことをリューナは知らない。



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