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六話 これは間違えてはいけないことですが。

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 動画のスタジオとしても使っているという少し広めのリビングは、ソファベッドが置いてある片側が綺麗に片付いていて、反対側は機材や配線、小道具に衣類などが雑然としている、そんないびつな部屋です。睡眠以外の生活は、ほぼすべてここで行ってる、槍須さんはそう教えてくれました。  私たちはソファベッドに並んで腰かけて、サンドイッチを食べました。本当は不安だったので一刻も早くそのアフターピルという錠剤をいただきたかったのですが、胃に何か入れておいてからの方がいいという槍須さんの意見に従うことにしたのです。さっさと食べ終えてしまった槍須さんは、ソファの対面の壁に掛けられた大画面TVに何かを接続しています。 「さ、見てみようぜ」  もぐもぐと口を動かしてる私を一瞥すると、彼はケーブルの繋がったスマートフォンの何かを起動しました。すると、大きな画面に私が映し出されたのです。 「約束しただろ。処女でなくなる直前の弥生だよ」  白いブラウスをはだけ、下着だけの姿を晒してベッドに寝ころぶ私。私が、私の躰にすべてを任せたあとの私でした。ブラ取って、という声に従い、気持ち背筋を反らせて両手を背中に回します。ブラの中の胸がふるっと緩みました。片腕ずつ肩ひもを抜き、それでも腕で隠しながらブラを抜きます。画面の横から出てきた手がそれを取り上げました。パンツも。容赦ない声がします。片腕で裸の胸を押さえながら画面の私はのろのろとショーツを下ろしはじめます。私は震える声で懇願するのです。 「うまくできない。手伝って」  しょうがねぇなあ、という声とともに出てきた片手が、私の手と反対のサイドに指を掛け、ゆっくりとショーツをずらしていきました。  完全に裸になった画面の私は、命令に抗うことなく隠していた両手を外します。 「弥生ちゃんの処女ヌードです。すべすべのもちもち」  声に合わせて片手が私の躰を撫でまわしています。手が内腿に入り促すのに逆らわず、画面の私は少しだけ脚を開きました。画面はそこに寄っていきます。 「これが誰にも見せたことの無い弥生ちゃんの処女マンコでーす。これからこいつをいただきまーす。そうだよね。弥生ちゃん」  大写しになった私の陰裂の輪郭を指でなぞりながら、槍須さんの声は私に復唱を求めました。恥毛の丘のピントがぼけ、ふたつの胸の間で焦点の合った私の口が、あの呪文をもう一度唱えます。 「私の処女を、あなたのそれで、破ってください」 「よく言えました。きっちりもらってやるから安心してまかせな」  伸びていった手が、私の頭を撫でていました。 「うまく撮れてるよな。こんな記念動画、なかなかないぜ」  私は声も出せず、サンドイッチを取り落としたのも気づかずに、ただ目を奪われていました。  次の動画の私は顔を両手で覆っていました。はじめての侵入を許すまさにそのときの様子です。顔を隠す手を外すよう命じた後、汗と唾液が光る上半身をなめるように画面は降りていき、いままさに結合せんとする秘所を映し出します。 「ほら、入った。弥生が処女を捨てた瞬間だぜ。一生に一度の超お宝映像。永久保存版だ。あ、あとであんだけ生でやったんだから、こんときも生にしときゃよかったな。なんせ初物だし」  槍須さんは夜に話していたことと真逆の、男社会基準そのものの表現をしていました。ですが、私の耳にはそんな瑣末な言葉遊びなど届かず、ただ私の躰に起こったことを茫然と見つめるだけでした。あのときの私はこんな表情をしていたんだ。こんな声を上げていたんだ。あ、ここ、憶えてる。痛みじゃないものを見つけた瞬間。  動画に魅入られている私の前に、槍須さんが調剤薬局の白い袋を差し出していました。 「これ、アフターピル。前にやった女に買わせた奴。ちゃんと冷蔵保存してたから効き目はあるはずだよ」  私はその紙袋を手に取りました。中にはオレンジ色で未使用の錠剤シートが何枚か収められていました。早く飲まなきゃ。そう思って取り出そうとした私の手を押さえ、彼はこう言うのです。 「こいつの効果って、中出しした時間から七十二時間まで有効なんだってさ。てことはまだぜんぜん余裕あるじゃん。弥生、まだ下着履き替えてないだろ。どうせ一回脱ぐんだからさ、もっぺんやろうぜ」  彼の手は私のスカートの中に入っていました。下着越しでも触られたらバレてしまう。でも私はその手を押さえませんでした。 「なぁんだ。弥生も準備万端じゃん」  抵抗もせずにショーツだけを脱がされた私はそのままソファベッドに押し倒され、ベルトを外し下着ごとパンツを下しただけの大急ぎの槍須さん脚を割ってきました。滑らかにするための準備も何もなくいきなり入ってきたはずなのに、画面の追体験で整っていた私にはなんの抵抗もなかった。私の喉から吐き出される切なげな声と腰同士がぶつかる音が、動画から漏れる音なのか今ここでのものなのかもうわからなくなっていました。私の躰にバトンタッチする暇もなかったけれど、それはもういい、と私は思っていました。また新しい快楽が体験できる、と。  自分の部屋に戻った私は、帰る間際に槍須さんから言われたことを考え続けていました。彼の運営するヤリスちゃんねるに一緒に出るからうちに来い、という命令のような提案。昨日までの私とは違って、彼の番組に出るというのがどんなことを意味するのかは概ね理解しています。でも私にはすでに、カメラの前でされる経験スキルがあります。そして当事者の快感と外からの目で反芻する快感の両方を知ってしまったのです。彼について行けばさらに、見ず知らずの誰かに見られるという新しい快感をも知ることができるかもしれない。  これは間違えてはいけないことですが、私は槍須さんを好きになったわけではありません。また、彼に弱みを握られ脅されているわけでもない。私はただ、私の躰が貪欲に求める声に今は従おうと決めるだけなのです。  スマートフォンにはたくさんの着信履歴と十通を超えるメッセージが溜まっていましたが、私はそれらを開きもせずにすべてゴミ箱に入れて消去しました。  イツロー先輩からも何通か届いていましたが、それらも一緒に。だって見たら気持ちが戻ってしまうから。  翌日の日曜日。朝から洗濯機を回し、溜まっていた食器を洗って正しい場所に納め、掃除を済ませ、ゴミをまとめて決められた場所に持っていき、取り込んだ洗濯物を畳んで仕舞う。  私は丸一日かけてそれらのことを綺麗さっぱり済ませました。それから、いくつかの衣類と貴重品、それに何冊かの教科書をキャリーバッグに詰め込みます。  そうして日が沈むころ、私は、私の躰ではなく私自身の意思で、私の部屋を後にしたのです。



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前のエピソード 五話 ノイマン型コンピュータとおんなじだよ。

六話 これは間違えてはいけないことですが。

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 動画のスタジオとしても使っているという少し広めのリビングは、ソファベッドが置いてある片側が綺麗に片付いていて、反対側は機材や配線、小道具に衣類などが雑然としている、そんないびつな部屋です。睡眠以外の生活は、ほぼすべてここで行ってる、槍須さんはそう教えてくれました。  私たちはソファベッドに並んで腰かけて、サンドイッチを食べました。本当は不安だったので一刻も早くそのアフターピルという錠剤をいただきたかったのですが、胃に何か入れておいてからの方がいいという槍須さんの意見に従うことにしたのです。さっさと食べ終えてしまった槍須さんは、ソファの対面の壁に掛けられた大画面TVに何かを接続しています。 「さ、見てみようぜ」  もぐもぐと口を動かしてる私を一瞥すると、彼はケーブルの繋がったスマートフォンの何かを起動しました。すると、大きな画面に私が映し出されたのです。 「約束しただろ。処女でなくなる直前の弥生だよ」  白いブラウスをはだけ、下着だけの姿を晒してベッドに寝ころぶ私。私が、私の躰にすべてを任せたあとの私でした。ブラ取って、という声に従い、気持ち背筋を反らせて両手を背中に回します。ブラの中の胸がふるっと緩みました。片腕ずつ肩ひもを抜き、それでも腕で隠しながらブラを抜きます。画面の横から出てきた手がそれを取り上げました。パンツも。容赦ない声がします。片腕で裸の胸を押さえながら画面の私はのろのろとショーツを下ろしはじめます。私は震える声で懇願するのです。 「うまくできない。手伝って」  しょうがねぇなあ、という声とともに出てきた片手が、私の手と反対のサイドに指を掛け、ゆっくりとショーツをずらしていきました。  完全に裸になった画面の私は、命令に抗うことなく隠していた両手を外します。 「弥生ちゃんの処女ヌードです。すべすべのもちもち」  声に合わせて片手が私の躰を撫でまわしています。手が内腿に入り促すのに逆らわず、画面の私は少しだけ脚を開きました。画面はそこに寄っていきます。 「これが誰にも見せたことの無い弥生ちゃんの処女マンコでーす。これからこいつをいただきまーす。そうだよね。弥生ちゃん」  大写しになった私の陰裂の輪郭を指でなぞりながら、槍須さんの声は私に復唱を求めました。恥毛の丘のピントがぼけ、ふたつの胸の間で焦点の合った私の口が、あの呪文をもう一度唱えます。 「私の処女を、あなたのそれで、破ってください」 「よく言えました。きっちりもらってやるから安心してまかせな」  伸びていった手が、私の頭を撫でていました。 「うまく撮れてるよな。こんな記念動画、なかなかないぜ」  私は声も出せず、サンドイッチを取り落としたのも気づかずに、ただ目を奪われていました。  次の動画の私は顔を両手で覆っていました。はじめての侵入を許すまさにそのときの様子です。顔を隠す手を外すよう命じた後、汗と唾液が光る上半身をなめるように画面は降りていき、いままさに結合せんとする秘所を映し出します。 「ほら、入った。弥生が処女を捨てた瞬間だぜ。一生に一度の超お宝映像。永久保存版だ。あ、あとであんだけ生でやったんだから、こんときも生にしときゃよかったな。なんせ初物だし」  槍須さんは夜に話していたことと真逆の、男社会基準そのものの表現をしていました。ですが、私の耳にはそんな瑣末な言葉遊びなど届かず、ただ私の躰に起こったことを茫然と見つめるだけでした。あのときの私はこんな表情をしていたんだ。こんな声を上げていたんだ。あ、ここ、憶えてる。痛みじゃないものを見つけた瞬間。  動画に魅入られている私の前に、槍須さんが調剤薬局の白い袋を差し出していました。 「これ、アフターピル。前にやった女に買わせた奴。ちゃんと冷蔵保存してたから効き目はあるはずだよ」  私はその紙袋を手に取りました。中にはオレンジ色で未使用の錠剤シートが何枚か収められていました。早く飲まなきゃ。そう思って取り出そうとした私の手を押さえ、彼はこう言うのです。 「こいつの効果って、中出しした時間から七十二時間まで有効なんだってさ。てことはまだぜんぜん余裕あるじゃん。弥生、まだ下着履き替えてないだろ。どうせ一回脱ぐんだからさ、もっぺんやろうぜ」  彼の手は私のスカートの中に入っていました。下着越しでも触られたらバレてしまう。でも私はその手を押さえませんでした。 「なぁんだ。弥生も準備万端じゃん」  抵抗もせずにショーツだけを脱がされた私はそのままソファベッドに押し倒され、ベルトを外し下着ごとパンツを下しただけの大急ぎの槍須さん脚を割ってきました。滑らかにするための準備も何もなくいきなり入ってきたはずなのに、画面の追体験で整っていた私にはなんの抵抗もなかった。私の喉から吐き出される切なげな声と腰同士がぶつかる音が、動画から漏れる音なのか今ここでのものなのかもうわからなくなっていました。私の躰にバトンタッチする暇もなかったけれど、それはもういい、と私は思っていました。また新しい快楽が体験できる、と。  自分の部屋に戻った私は、帰る間際に槍須さんから言われたことを考え続けていました。彼の運営するヤリスちゃんねるに一緒に出るからうちに来い、という命令のような提案。昨日までの私とは違って、彼の番組に出るというのがどんなことを意味するのかは概ね理解しています。でも私にはすでに、カメラの前でされる経験スキルがあります。そして当事者の快感と外からの目で反芻する快感の両方を知ってしまったのです。彼について行けばさらに、見ず知らずの誰かに見られるという新しい快感をも知ることができるかもしれない。  これは間違えてはいけないことですが、私は槍須さんを好きになったわけではありません。また、彼に弱みを握られ脅されているわけでもない。私はただ、私の躰が貪欲に求める声に今は従おうと決めるだけなのです。  スマートフォンにはたくさんの着信履歴と十通を超えるメッセージが溜まっていましたが、私はそれらを開きもせずにすべてゴミ箱に入れて消去しました。  イツロー先輩からも何通か届いていましたが、それらも一緒に。だって見たら気持ちが戻ってしまうから。  翌日の日曜日。朝から洗濯機を回し、溜まっていた食器を洗って正しい場所に納め、掃除を済ませ、ゴミをまとめて決められた場所に持っていき、取り込んだ洗濯物を畳んで仕舞う。  私は丸一日かけてそれらのことを綺麗さっぱり済ませました。それから、いくつかの衣類と貴重品、それに何冊かの教科書をキャリーバッグに詰め込みます。  そうして日が沈むころ、私は、私の躰ではなく私自身の意思で、私の部屋を後にしたのです。



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