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四話 備え付けだったものを早々に使い切り、そのあとは。

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 明け方近くまでベッドの上で、私は何度も槍須さんのそれに貫かれました。備え付けだったものを早々に使い切り、そのあとはずっと何も装着しないままで。  イキそうになるたびに彼は私の耳元で命じるのです。弥生、中にくださいって言いな、と。でもそのときの私にそれに従う以外の返事ができたというのでしょうか。そうでなくとも、重ねるごとに高まってくる限界を知らない頭の痺れに翻弄され続けている中で。  私はその度に喘ぎながら応えました。 「私の中に、出して」  数えきれない交歓がひと段落した頃には、私の躰は、どちらのものともわからないくらい混ざり合った体液でべとべとになっていました。  ぐったりした私を無理やり抱え起こし、槍須さんは浴室に連れて行ってくれました。湯を張る間に、丁寧に髪を洗われ、そのあと首から下も隅々まで。すっかり敏感になってしまったところは、とくに念入りに。  湯舟には一緒に浸かりました。槍須さんが足を延ばして底に座り、私がその上に座って。後ろから私を抱きかかえる形の彼は、当たり前のように私の胸やあそこを愛撫し、耳たぶを甘噛みしてきます。数時間に及ぶ集中訓練ですっかり反応が良くなった私の躰は、それらの行為によってすぐに準備できてしまいます。  なんて軽いんでしょう。ここに来る前までの私が纏っていた重い外套は、いったいどこに消えたんでしょうか。私の躰は、腰をずらしておねだりすらしているのです。  お尻の下でむくむくと大きくなった彼自身は、そんな私の躰が出す小さなサインも見逃すことなく、ちゃんと応えてくれます。  湯船に浸かったままの私の腰を両手で無重力のように持ち上げて狙いを定めると、そのままそっと手を離す。重力と浮力に任せてゆっくりと沈む私の躰。さらさらのお湯のせいで最初こそ抵抗がありますが、一旦門さえ開けば、内側に満たされている準備万端の潤滑油が染み出てきて、凱旋してきた軍隊を歓喜で迎え入れるのです。 「弥生の中、ぬるぬるしてて超きもちいい!やっぱ生サイコー!」  耳元で私を絶賛してくる槍須さんの歓声を聴きながらも私の躰は、激しく動いたりせずに入ってきた彼のボリューム感を、大きく息を吐き出しながらじっくり味わう余裕さえありました。  腰を動かす代わりに、巧みに動きあちこちに悪戯をする両手の指。その指先がスイッチに触れる度に、吐息をこぼし、身をくねらせて反応する私の躰。緩く回すように動く杭が私の躰の中心に隙間なく収まり、そこから言葉にできない熱い何かが昇り詰めてきて、私の意識を真っ白にしました。そうやって私と私の躰は槍須哲也という雄に、まったくのゼロからひと晩かけて肉の悦びを教え込まれたのです。  結局私たちは、チェックアウトの寸前まで躰を弄り合っていました。  部屋を出てエレベーターで下る頃には、私も躰に帰ってきていました。槍須さんに抱かれている間中、躰に全権を移譲していた私ですが、何も見たり感じたりしていなかったわけではありません。「呪い」の呪縛に囚われ頑なに閉じ籠ろうとする私と、蓋をしてしまい込んでいた好奇心を今こそ表に出そうと躍起になる私の躰との相剋。私という存在で二律背反するふたつによる争いは、どうあっても逃れられない状況にまで持ち込んだところで、私の躰の勝ちでした。呪いに縛られた私は、私の躰が受けとめる肉の裂ける最初の痛みと、馴染むことによってさざなみから大波に変わっていく悦楽を、ただ黙って共有するだけ。  私の躰のセックスに対する探求欲求は私の想像を遥かに上回っていました。私は、私の中にこんな偏執性があったなんてまったく気づいていなかった。私に課された呪いの重みが、こんなにも爆裂的に膨れ上がる貪欲なけものを育て上げていたなんて。  はじめての繋がりはおずおずとされるがままに。でも2回目からは、どうしたら自分が気持ちよくなれるのか、自分のスイッチはどこにあるのかを探すことへの意識をしはじめ、体勢を調整して相手の動きとシンクロするよう自分から動くことさえしていた。躰ははっきりと悦んでいました。そして、彼の唇や指やそれと私の躰とが共同で発見していく数々の快感スイッチの点火は、頑なに目を瞑ろうとする私をも魅了したのです。  何度目かの彼の噴出を身の裡に受け止めたとき私は悟ったのです。背を反らせ悦楽に打ち震えている汗みどろのこの躰も、紛うこと無く私なのだ、と。そして、私はこの恥ずかしい私の躰を愛してもいいのだ、とも。  ホテルを出るときも、槍須さんは私の躰を大層褒めてくれました。言葉でのコミュニケーションは未だに私の担当ですから、はっきりしない物言いがそう簡単に変わることはありませんし、騙し討ちのように連れてこられたことについての抗議の気持ちも残っています。けれど、呪いの存在を私に教え、それを完膚無きまでに取り除いてくれたことへの感謝もまた事実。表現力の乏しい私はか細い声でこう答えるだけでした。 「恐縮です」



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四話 備え付けだったものを早々に使い切り、そのあとは。

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 明け方近くまでベッドの上で、私は何度も槍須さんのそれに貫かれました。備え付けだったものを早々に使い切り、そのあとはずっと何も装着しないままで。  イキそうになるたびに彼は私の耳元で命じるのです。弥生、中にくださいって言いな、と。でもそのときの私にそれに従う以外の返事ができたというのでしょうか。そうでなくとも、重ねるごとに高まってくる限界を知らない頭の痺れに翻弄され続けている中で。  私はその度に喘ぎながら応えました。 「私の中に、出して」  数えきれない交歓がひと段落した頃には、私の躰は、どちらのものともわからないくらい混ざり合った体液でべとべとになっていました。  ぐったりした私を無理やり抱え起こし、槍須さんは浴室に連れて行ってくれました。湯を張る間に、丁寧に髪を洗われ、そのあと首から下も隅々まで。すっかり敏感になってしまったところは、とくに念入りに。  湯舟には一緒に浸かりました。槍須さんが足を延ばして底に座り、私がその上に座って。後ろから私を抱きかかえる形の彼は、当たり前のように私の胸やあそこを愛撫し、耳たぶを甘噛みしてきます。数時間に及ぶ集中訓練ですっかり反応が良くなった私の躰は、それらの行為によってすぐに準備できてしまいます。  なんて軽いんでしょう。ここに来る前までの私が纏っていた重い外套は、いったいどこに消えたんでしょうか。私の躰は、腰をずらしておねだりすらしているのです。  お尻の下でむくむくと大きくなった彼自身は、そんな私の躰が出す小さなサインも見逃すことなく、ちゃんと応えてくれます。  湯船に浸かったままの私の腰を両手で無重力のように持ち上げて狙いを定めると、そのままそっと手を離す。重力と浮力に任せてゆっくりと沈む私の躰。さらさらのお湯のせいで最初こそ抵抗がありますが、一旦門さえ開けば、内側に満たされている準備万端の潤滑油が染み出てきて、凱旋してきた軍隊を歓喜で迎え入れるのです。 「弥生の中、ぬるぬるしてて超きもちいい!やっぱ生サイコー!」  耳元で私を絶賛してくる槍須さんの歓声を聴きながらも私の躰は、激しく動いたりせずに入ってきた彼のボリューム感を、大きく息を吐き出しながらじっくり味わう余裕さえありました。  腰を動かす代わりに、巧みに動きあちこちに悪戯をする両手の指。その指先がスイッチに触れる度に、吐息をこぼし、身をくねらせて反応する私の躰。緩く回すように動く杭が私の躰の中心に隙間なく収まり、そこから言葉にできない熱い何かが昇り詰めてきて、私の意識を真っ白にしました。そうやって私と私の躰は槍須哲也という雄に、まったくのゼロからひと晩かけて肉の悦びを教え込まれたのです。  結局私たちは、チェックアウトの寸前まで躰を弄り合っていました。  部屋を出てエレベーターで下る頃には、私も躰に帰ってきていました。槍須さんに抱かれている間中、躰に全権を移譲していた私ですが、何も見たり感じたりしていなかったわけではありません。「呪い」の呪縛に囚われ頑なに閉じ籠ろうとする私と、蓋をしてしまい込んでいた好奇心を今こそ表に出そうと躍起になる私の躰との相剋。私という存在で二律背反するふたつによる争いは、どうあっても逃れられない状況にまで持ち込んだところで、私の躰の勝ちでした。呪いに縛られた私は、私の躰が受けとめる肉の裂ける最初の痛みと、馴染むことによってさざなみから大波に変わっていく悦楽を、ただ黙って共有するだけ。  私の躰のセックスに対する探求欲求は私の想像を遥かに上回っていました。私は、私の中にこんな偏執性があったなんてまったく気づいていなかった。私に課された呪いの重みが、こんなにも爆裂的に膨れ上がる貪欲なけものを育て上げていたなんて。  はじめての繋がりはおずおずとされるがままに。でも2回目からは、どうしたら自分が気持ちよくなれるのか、自分のスイッチはどこにあるのかを探すことへの意識をしはじめ、体勢を調整して相手の動きとシンクロするよう自分から動くことさえしていた。躰ははっきりと悦んでいました。そして、彼の唇や指やそれと私の躰とが共同で発見していく数々の快感スイッチの点火は、頑なに目を瞑ろうとする私をも魅了したのです。  何度目かの彼の噴出を身の裡に受け止めたとき私は悟ったのです。背を反らせ悦楽に打ち震えている汗みどろのこの躰も、紛うこと無く私なのだ、と。そして、私はこの恥ずかしい私の躰を愛してもいいのだ、とも。  ホテルを出るときも、槍須さんは私の躰を大層褒めてくれました。言葉でのコミュニケーションは未だに私の担当ですから、はっきりしない物言いがそう簡単に変わることはありませんし、騙し討ちのように連れてこられたことについての抗議の気持ちも残っています。けれど、呪いの存在を私に教え、それを完膚無きまでに取り除いてくれたことへの感謝もまた事実。表現力の乏しい私はか細い声でこう答えるだけでした。 「恐縮です」



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