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一話 これ、入ってるよね。

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 梅雨の晴れ間、夏を感じさせる日差しのカフェテリアで、逸郎はファインと無言で向かい合っていた。  壁を背にしたファインはスマートフォンでYoutube動画を見つめている。Bluetoothイヤホンを付けているので音も聞こえない。  視聴し始めてから約十五分、ようやく一本見終えたらしい。 「ふぅん。こんなことになっちゃってるんだね、弥生さん」  ファインの見ていた動画はサークルOBの槍須先輩が運営するYoutubeチャンネル『ヤリスちゃんねる』だった。  画面の中、白っぽい部屋の壁にどん付きで置いてあるベッドに男女が腰を下ろしている。  男は槍須先輩。逸郎たちが入学する直前の三月に、六年かけてようやく卒業した『戯れ会』創始メンバーのOBだ。逸郎もファインもコンパの席で過去に二度ほど会ったことはある。卒業後は定職に就かず、ユーチューバーになると宣言して、単独で『ヤリスちゃんねる』を立ち上げた。二番煎じ、三番煎じの中途半端な動画ばかりを配信する壁際的チャンネルだと聞いている。  隣に座っているサングラスの女の子は、その回の動画でデビューするという新アシスタントのマーチちゃん。赤い文字で「Making Love With Me」とでっかく書いてあるLLサイズの白Tシャツをワンピースのように着ている。肩にかかるボブカットや顔の骨格、首の感じ、鎖骨のくぼみ、雰囲気や体格など、マーチちゃんは、合宿打ち上げコンパの夜以降行方不明となっている弥生に酷似している。  ベッドに腰かけた槍須が番組の冒頭からずっと語っているのは、懇切丁寧なマーチちゃんの紹介だった。まったくの未経験者だった彼女が、初めての夜に何回イッてどれだけ乱れたか。それ以降ふたりして毎日のように開発し続けることで得たという、感度の高過ぎるその躰の絶品さを言葉に尽くして。  躰のあちこちにある性感帯の話をしている合間、槍須はマーチちゃんにTシャツ着たままで下着を外すよう軽く指示する。横に座り、恥ずかしそうに黙っているだけだったマーチちゃんはその命令に抗うこともなく、ぶかぶかのTシャツの袖口から順番に腕を抜いて身をよじり、首元からブラジャーを取り出した。  脱ぎたてのブラを受け取りながら、こっちもね、と腰を指差す槍須の指示に小さく頷いたマーチちゃんは、太腿まで掛かっているシャツの裾から両手を差し入れ、静かに中の下着を脱いでいく。正面からのカメラに絶対領域が映り込まないことを意識させられているらしく、マーチちゃんは膝頭を傾け、座ったままショーツを抜き取った。  脱がれたばかりの下着を受け取った槍須は、それらをカメラの前に広げて特徴を語る。レースがどうとか材質がどうとか。槍須が指差すクロッチの内側は少し色が変わっている。  愛でるのに飽きたかのように下着を無造作に後ろに放った槍須は、おもむろに全裸Tシャツ姿のマーチちゃんを抱き寄せると、画面の中央で舌を絡ませるキスをし始めた。ずれたサングラスの隙間から一瞬見えた、つむる直前の瞳。  マーチちゃんは弥生だった。  舐めあうようなキスを続けたまま、槍須はTシャツの上から胸を揉みはじめる。時折、乳首を指でつまんでいるのがわかる。その度に喘ぐ弥生マーチちゃん。頬が紅く染まり、上気している。  動画はさらに続き、胸を弄んでいた左手が今度は内腿の間に差し込まれ、Tシャツの内側に侵入していく。躰の中心を直に触られ強い刺激を受けた弥生マーチちゃんは、キスから逃れ、吐息を漏らしてのけぞる。しどけなく膝が開き、Tシャツの裾がまくれた。男の手であそこは隠されていたが、なにも履いていないことは一目瞭然だった。反らせたTシャツの胸の二か所がつんと浮き出ていた。  ベッドに倒れこみ、されるがままに悶えている弥生マーチちゃんの声が響く。その上に被さったまま顔を上げて笑った槍須は、カメラ目線で動画の終わりを告げる。 「これからはじめちゃうから今日の配信はここでおしまい。続きが気になる方は、番組登録してその先のURLを見に来てね」  画面はチャンネル登録案内の静止画像に変わったが、音声だけはそのまましばらく、弥生マーチちゃんの喘ぎ声を流し続けていた。 「こんなんなっちゃったんだ」  ファインはもう一度呟いた。  マーチちゃん生脱ぎシリーズはもう十本くらい公開されており、どれも十万回以上再生されている。  今までで一番過激なものは、生脱ぎして全裸に彼シャツ姿となった弥生マーチちゃんが寝ころんでいる槍須の胸の上に後ろ向きで跨って座り、カメラには見えない向こう側で何かの動作(おそらくは槍須のイチモツを顕わにするなど)をしてから腰を上げ、長く垂れたシャツの向こう側にあるなにかの上にゆっくりと腰を落としていくという代物だった。 「これ、入ってるよね」  ファインの言葉に逸郎は、そうだろうね、と静かに答えた。  繋がっている部分こそ映ってはいないが、腰の動きに反応する弥生マーチちゃんの切ない喘ぎが演技などでないことは一目瞭然である。ひと月前までは手すら繋いだことのない真っ新まっさらな処女だったのに。  今はもう、カメラ回しっぱなしでセックス三昧の日々と聞く。顔の広いシンスケが仕入れた情報によると、槍須はそれら画像や動画を裏で販売もしているらしい。情報収集ききとりの際に先輩たちに誘われたシンスケは、槍須から直接貰ったという、弥生との顔出し中出しセックスの一部始終を映した修正前のハメ撮り動画を見せてもらったそうだ。マジ超エロかった、とはシンスケ自身による正直な感想。  あのユーフォとラノベが大好きで、控えめだけど愛嬌もある可愛かった娘は、いったいどこにいってしまったのだろうか。俺は告白の答えさえ貰えてないというのに。  逸郎はカフェテリアの煤けた天井を見上げ、深く息を吐いた。



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一話 これ、入ってるよね。

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 梅雨の晴れ間、夏を感じさせる日差しのカフェテリアで、逸郎はファインと無言で向かい合っていた。  壁を背にしたファインはスマートフォンでYoutube動画を見つめている。Bluetoothイヤホンを付けているので音も聞こえない。  視聴し始めてから約十五分、ようやく一本見終えたらしい。 「ふぅん。こんなことになっちゃってるんだね、弥生さん」  ファインの見ていた動画はサークルOBの槍須先輩が運営するYoutubeチャンネル『ヤリスちゃんねる』だった。  画面の中、白っぽい部屋の壁にどん付きで置いてあるベッドに男女が腰を下ろしている。  男は槍須先輩。逸郎たちが入学する直前の三月に、六年かけてようやく卒業した『戯れ会』創始メンバーのOBだ。逸郎もファインもコンパの席で過去に二度ほど会ったことはある。卒業後は定職に就かず、ユーチューバーになると宣言して、単独で『ヤリスちゃんねる』を立ち上げた。二番煎じ、三番煎じの中途半端な動画ばかりを配信する壁際的チャンネルだと聞いている。  隣に座っているサングラスの女の子は、その回の動画でデビューするという新アシスタントのマーチちゃん。赤い文字で「Making Love With Me」とでっかく書いてあるLLサイズの白Tシャツをワンピースのように着ている。肩にかかるボブカットや顔の骨格、首の感じ、鎖骨のくぼみ、雰囲気や体格など、マーチちゃんは、合宿打ち上げコンパの夜以降行方不明となっている弥生に酷似している。  ベッドに腰かけた槍須が番組の冒頭からずっと語っているのは、懇切丁寧なマーチちゃんの紹介だった。まったくの未経験者だった彼女が、初めての夜に何回イッてどれだけ乱れたか。それ以降ふたりして毎日のように開発し続けることで得たという、感度の高過ぎるその躰の絶品さを言葉に尽くして。  躰のあちこちにある性感帯の話をしている合間、槍須はマーチちゃんにTシャツ着たままで下着を外すよう軽く指示する。横に座り、恥ずかしそうに黙っているだけだったマーチちゃんはその命令に抗うこともなく、ぶかぶかのTシャツの袖口から順番に腕を抜いて身をよじり、首元からブラジャーを取り出した。  脱ぎたてのブラを受け取りながら、こっちもね、と腰を指差す槍須の指示に小さく頷いたマーチちゃんは、太腿まで掛かっているシャツの裾から両手を差し入れ、静かに中の下着を脱いでいく。正面からのカメラに絶対領域が映り込まないことを意識させられているらしく、マーチちゃんは膝頭を傾け、座ったままショーツを抜き取った。  脱がれたばかりの下着を受け取った槍須は、それらをカメラの前に広げて特徴を語る。レースがどうとか材質がどうとか。槍須が指差すクロッチの内側は少し色が変わっている。  愛でるのに飽きたかのように下着を無造作に後ろに放った槍須は、おもむろに全裸Tシャツ姿のマーチちゃんを抱き寄せると、画面の中央で舌を絡ませるキスをし始めた。ずれたサングラスの隙間から一瞬見えた、つむる直前の瞳。  マーチちゃんは弥生だった。  舐めあうようなキスを続けたまま、槍須はTシャツの上から胸を揉みはじめる。時折、乳首を指でつまんでいるのがわかる。その度に喘ぐ弥生マーチちゃん。頬が紅く染まり、上気している。  動画はさらに続き、胸を弄んでいた左手が今度は内腿の間に差し込まれ、Tシャツの内側に侵入していく。躰の中心を直に触られ強い刺激を受けた弥生マーチちゃんは、キスから逃れ、吐息を漏らしてのけぞる。しどけなく膝が開き、Tシャツの裾がまくれた。男の手であそこは隠されていたが、なにも履いていないことは一目瞭然だった。反らせたTシャツの胸の二か所がつんと浮き出ていた。  ベッドに倒れこみ、されるがままに悶えている弥生マーチちゃんの声が響く。その上に被さったまま顔を上げて笑った槍須は、カメラ目線で動画の終わりを告げる。 「これからはじめちゃうから今日の配信はここでおしまい。続きが気になる方は、番組登録してその先のURLを見に来てね」  画面はチャンネル登録案内の静止画像に変わったが、音声だけはそのまましばらく、弥生マーチちゃんの喘ぎ声を流し続けていた。 「こんなんなっちゃったんだ」  ファインはもう一度呟いた。  マーチちゃん生脱ぎシリーズはもう十本くらい公開されており、どれも十万回以上再生されている。  今までで一番過激なものは、生脱ぎして全裸に彼シャツ姿となった弥生マーチちゃんが寝ころんでいる槍須の胸の上に後ろ向きで跨って座り、カメラには見えない向こう側で何かの動作(おそらくは槍須のイチモツを顕わにするなど)をしてから腰を上げ、長く垂れたシャツの向こう側にあるなにかの上にゆっくりと腰を落としていくという代物だった。 「これ、入ってるよね」  ファインの言葉に逸郎は、そうだろうね、と静かに答えた。  繋がっている部分こそ映ってはいないが、腰の動きに反応する弥生マーチちゃんの切ない喘ぎが演技などでないことは一目瞭然である。ひと月前までは手すら繋いだことのない真っ新まっさらな処女だったのに。  今はもう、カメラ回しっぱなしでセックス三昧の日々と聞く。顔の広いシンスケが仕入れた情報によると、槍須はそれら画像や動画を裏で販売もしているらしい。情報収集ききとりの際に先輩たちに誘われたシンスケは、槍須から直接貰ったという、弥生との顔出し中出しセックスの一部始終を映した修正前のハメ撮り動画を見せてもらったそうだ。マジ超エロかった、とはシンスケ自身による正直な感想。  あのユーフォとラノベが大好きで、控えめだけど愛嬌もある可愛かった娘は、いったいどこにいってしまったのだろうか。俺は告白の答えさえ貰えてないというのに。  逸郎はカフェテリアの煤けた天井を見上げ、深く息を吐いた。



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