菊洋のキャプテン
ー/ー
夕暮れの菊洋学園校舎。球場から戻って来た野球部員が、それぞれ帰途についていた。
このまま直行で家に帰ろうと思っていた逸樹だが、野球部部室を出た直後から、他の生徒に取り囲まれ中々帰られずにいた。
「逸樹凄えな‼︎ なんかニュースに出てたぞ!」
「お前らの世代って今までで一番最強なんじゃね?!」
「これなら決勝まで行けるだろ?逸樹!」
ミーハーな生徒達に取り囲まれることに、逸樹は苛立っていた。逸樹は苛立ってしょうがなかった。春季大会で負けた時に言われた最弱だの、一回戦負けだのという罵声を覚えていたからだ。
言った側はそんなことを忘れ今は賞賛の言葉を口にしている。逸樹のイライラは、時間が進むごとに増していった。
「あいつは俺の幼馴染だぜっ!」
「逸樹君ずっと見てたけど、結構カッコ良くない? よねー! カッコいいよね! あたしずっと逸樹君の同級生なんだ。いいでしょ!」
取り囲む野次どもの外では、逸樹が最も嫌っている昔からの同級生が、逸樹とずっと知り合いであることを自慢する声も聞こえてくる。
(そうだね。確かに、お前らとは小学校の時からの同級生さ。でもその時は、俺を役立たずだの、何だの言って虐めてたのに、いざこうやって活躍すれば、あの時のことを謝りもせずに、自分の地位の為に持ち上げる。本当いい加減な奴らばっかりだ)
苛立ちを表情に出していなかったが、こうなって十分がたち流石に表情が険しくなり始める。だが、周りの煩い観衆はそれに気づかず誰もどこうとしなかった。
その時だった。
「はいはーい! ウチのキャプテンは疲れてるから、ゆっくりさせてあげましょうねー」
そう言って手を引かれ、逸樹は人の群れから抜け出す事が出来た。
「助かったよ翔規」
「逸樹が困ってりゃ、助けないとな」
翔規は手で頭を掻く。小村翔規は、逸樹が信頼できる数少ない同級生の一人であり、幼馴染である。
「それより、今日のお前のホームラン凄かったぜ! なんたってあの天下の東福間から二本も打ったんだからな」
「いやいや。翔規がちゃんとあそこでビシッと抑えてくれたから、流れがウチに来たんだ。感謝してるよ」
「お、おう。あんがとよ」
本当は褒め返して欲しくないんだがな、と思いながら翔規は言葉を返す。
「さて、春季大会では初戦負けの俺らが三回戦か……」
「相手は明林だったよな。二年間も勝ってないチームが突然、二戦連続のコールドだからな。お前からしたら、憧れの薗部さんのチームだから当然だってか?」
「そ、そんなんじゃねえよ!」
どうやら図星だったようだ。だが、翔規は気づいていないフリをした。
「それはどうでもいいんだがよ逸樹。まさか、薗部さんのチームに負けたい。なんて思ってないよな?」
「当たり前だよ! 勝負するのに負けていい勝負なんてあるかよ」
「なら良かった」
翔規はホッと胸を撫で下ろした。逸樹は、勝負と情の区別はついているようだ。
「じゃ、三回戦も派手にたのんまっせ。逸樹。それじゃあな」
翔規は手を振りながら、T字路の左手へと消えていった。その後家に着いた逸樹は疲れを取るために、風呂に入っていた。
「三回戦か……」
浴槽に浸かりながら、一言呟く。
自分の理想でありそして、憧れである薗部の率いるチームと対戦すると思うとワクワクが止まらなかった。
「超えさせてもらいますよ。圭太さん」
逸樹は息を止め、湯船のなかに潜った。
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このまま直行で家に帰ろうと思っていた逸樹だが、野球部部室を出た直後から、他の生徒に取り囲まれ中々帰られずにいた。
「逸樹凄えな‼︎ なんかニュースに出てたぞ!」
「お前らの世代って今までで一番最強なんじゃね?!」
「これなら決勝まで行けるだろ?逸樹!」
ミーハーな生徒達に取り囲まれることに、逸樹は苛立っていた。逸樹は苛立ってしょうがなかった。春季大会で負けた時に言われた最弱だの、一回戦負けだのという罵声を覚えていたからだ。
言った側はそんなことを忘れ今は賞賛の言葉を口にしている。逸樹のイライラは、時間が進むごとに増していった。
「あいつは俺の幼馴染だぜっ!」
「逸樹君ずっと見てたけど、結構カッコ良くない? よねー! カッコいいよね! あたしずっと逸樹君の同級生なんだ。いいでしょ!」
取り囲む野次どもの外では、逸樹が最も嫌っている昔からの同級生が、逸樹とずっと知り合いであることを自慢する声も聞こえてくる。
(そうだね。確かに、お前らとは小学校の時からの同級生さ。でもその時は、俺を役立たずだの、何だの言って虐めてたのに、いざこうやって活躍すれば、あの時のことを謝りもせずに、自分の地位の為に持ち上げる。本当いい加減な奴らばっかりだ)
苛立ちを表情に出していなかったが、こうなって十分がたち流石に表情が険しくなり始める。だが、周りの煩い観衆はそれに気づかず誰もどこうとしなかった。
その時だった。
「はいはーい! ウチのキャプテンは疲れてるから、ゆっくりさせてあげましょうねー」
そう言って手を引かれ、逸樹は人の群れから抜け出す事が出来た。
「助かったよ|翔規《しょうき》」
「逸樹が困ってりゃ、助けないとな」
翔規は手で頭を掻く。|小村《こむら》翔規は、逸樹が信頼できる数少ない同級生の一人であり、幼馴染である。
「それより、今日のお前のホームラン凄かったぜ! なんたってあの天下の東福間から二本も打ったんだからな」
「いやいや。翔規がちゃんとあそこでビシッと抑えてくれたから、流れがウチに来たんだ。感謝してるよ」
「お、おう。あんがとよ」
本当は褒め返して欲しくないんだがな、と思いながら翔規は言葉を返す。
「さて、春季大会では初戦負けの俺らが三回戦か……」
「相手は明林だったよな。二年間も勝ってないチームが突然、二戦連続のコールドだからな。お前からしたら、憧れの薗部さんのチームだから当然だってか?」
「そ、そんなんじゃねえよ!」
どうやら図星だったようだ。だが、翔規は気づいていないフリをした。
「それはどうでもいいんだがよ逸樹。まさか、薗部さんのチームに負けたい。なんて思ってないよな?」
「当たり前だよ! 勝負するのに負けていい勝負なんてあるかよ」
「なら良かった」
翔規はホッと胸を撫で下ろした。逸樹は、勝負と情の区別はついているようだ。
「じゃ、三回戦も派手にたのんまっせ。逸樹。それじゃあな」
翔規は手を振りながら、T字路の左手へと消えていった。その後家に着いた逸樹は疲れを取るために、風呂に入っていた。
「三回戦か……」
浴槽に浸かりながら、一言呟く。
自分の理想でありそして、憧れである薗部の率いるチームと対戦すると思うとワクワクが止まらなかった。
「超えさせてもらいますよ。圭太さん」
逸樹は息を止め、湯船のなかに潜った。