夏祭り前
ー/ー
時刻は午後四時を回った頃。咲香はお風呂のシャワーを捻る。浴衣を着る前に汗を流すためだ。ある程度体をシャワーで流し終えたところでボディソープを手に取り、スポンジに含ませる。何時もは左腕から洗うがこの日は右腕から洗うことにした。
「告白、上手くいくかな」
スポンジを見つめながら咲香はそう呟いた。
咲香が伸哉を好きになったきっかけは、試合で見せた真剣な眼差しだ。普段の虫も殺さぬ様な優しさと可愛らしい笑顔。これも咲香が好きなものだ。だが試合で、あの三回戦で見せた表情がより一層咲香を惹きつけた。
どんな状況でも野球を楽しみつつ、決して臆せぬ闘争心。それを前面に出した瞳だった。それに咲香は惚れてしまった。
惚れてしまってからは行動が早かった。元々五月頃に負った怪我でバスケを続けることが難しい状況だった。なので、これをいい機会にとスッパリと辞め、野球部のマネージャーに転身をした。そうする事で伸哉を身近でサポートできると考えたからだ。
そしてマネージャーになってから二週間が過ぎた。その間にもどんどん伸哉への想いは強くなっていった。
怪我をしていても腐る事なく、黙々とリハビリに取り組む姿。そして、何かことあるごとに自分に対して感謝をしてくれる優しさと気配り。咲香はこれ以上の男性はどこにもいないと思っていた。
また、咲香も伸哉が自分に惚れているのは分かっていた。他の女の子と接する時の態度が違うし、自分だけに内緒の話してくれる事も多い。お昼を食べる時も、咲香が誘うと明らかに嬉しそうな対応をしている。
あと、咲香のことだけを下の名前で呼んでいる。そう呼ぶように強制したところはあるが、それでも呼び続けてくれている。だから、私のことを好きなのだろう。咲香はそう思っていた。
とにかく心当たりが多いのだ。そう言うのがあるから、この祭りで告白をしようと決心したのだ。
「大丈夫、上手くいく。きっと上手くいくわ。伸哉くんも私に惚れてるはずだもん」
咲香はそう確信して、スポンジをギュッと握りつぶした。
集合場所になっていた神社の鳥居に伸哉は辿り着いた。スマホを見ると午後五時十二分。明らかに早くきてしまっている。これも楽しみにしていたからだろうか。伸哉はそう思った。
早く来すぎてしまった伸哉は何か暇つぶしができる方法を考え始めた。ソシャゲ、人間観察、先に回っておいて何があるのかを確認する……。少しだけ目を瞑って考えた結果、そこら辺をうろついておくことにした。
伸哉は適当に歩き出す。祭りの日とあって、人の出入りが激しい。一瞬でも気を抜くと人の流れに流されそうになってしまうほどだった。そんな中をなんとかかき分けて、歩いていく。しばらくしてからだった。
「あれっ? 伸哉! お前こんなところでどうしたんだよ!」
人混みを歩いている中、外れの方から見知った声を聞いた。伸哉がその声がした方へと歩いて行くと、なんとそこには大地がいるではないか。伸哉は目を疑った。
「よっ、伸哉。久しぶり」
爽やかに大地は声を掛け、左肩を叩く。伸哉はそのテンションに少し押され気味だった。
「ひ、久しぶり。大地くん甲子園前なのに練習とかはどうしたの?」
伸哉がそう言うと、大地は軽く答えてくれた。
「甲子園前の息抜きだって。監督が今日は早めに練習を切り上げたから、来たんだよ。伸哉の方こそ、こんなところに来るなんて珍しいな。友達か?」
「そんなところかな」
伸哉は恥ずかしそうに答えた。最も、その友達は男ではなく女であるが。
「そっか。そう言う友達が出来たんだな。よかったな」
大地がそう言うと、本当は大地くんがその筆頭だったんだよ、と心の中で呟いた。
「しっかし、甲子園に出るってのにだーれも俺に声を掛けてくれねえ。俺もまだまだってことなのかな」
大地は寂しそうに言った。大地の想定ではおそらく、今頃自分の周りに人だかりができてることだったのだろう。
高校野球で甲子園に出たとなると、そんな想像をするのも無理はないだろう。
「そんなことないよ。甲子園で投げたらきっと変わるよ。大地君の球、すごく速いんだもん。きっと甲子園のヒーローになれるはずだよ」
そんな増長し気味の大地を、伸哉は否定せずむしろ調子に乗せるような言葉を使う。
「そ、そうか? そう言ってくれると有難いぜ」
伸哉の言葉に大地は気をよくしているようだ。
「おっと。俺そろそろ待ち合わせ場所に行かないと。先輩を待たせちまう」
大地が慌て出す。伸哉はスマホを見ると五時四十八分。丁度いい時間帯になっていた。
「じゃあな、伸哉。祭り楽しめよ」
「うん。甲子園、頑張ってね。大地君」
「おうよ! 甲子園でひと暴れしてくるからよ」
そう言うと大地は坂道を下っていった。伸哉は再び人ごみの中へとダイブし、集合場所へと向かった。
その頃、涼紀は一人自室のベッドの上で項垂れていた。咲香が自分をそっちのけで伸哉を誘ったことが余程応えている様だった。
咲香に片想いをして十年以上。ここ最近は野球にかまけてばかりで少し疎かになっていたかもしれないが、これまで咲香には様々な事をしてきたつもりだ。小学生の頃であれば、どこかで遊ぼうと言われれば一も二もなく付いていった。中学時代であれば、自分のお小遣いが許す範囲で色んなプレゼントをしたし、バスケの練習相手にと言われれば、素人ながらもできる限り手伝ってあげた。
だが進展は一ミリもなく、挙句伸哉に取られそうなのが現状である。
「俺が勇気を持ってればなあ……。今頃二人で……」
悔しさから涼紀はベッドシーツをギュッと握り締めた。
それから涼紀はベッドの上でだらーんと腕を伸ばし寝転び、何もない天井をボーッと眺めていた。しばらくして、スマホがブーというバイブ音と共にと震え出す。誰か電話をかけてきたようだ。
重い手足を動かしスマホを取ると、電話の主は幸長だった。一体なんだろうと思い、電話に出ると、ハロー涼紀君と陽気な声が聞こえてきた。
「幸長先輩、一体何の用っすか?」
気怠そうに答える涼紀。それに対し、幸長は明るい声でこう答えた。
「フェスティバルをやってるじゃないか。それのお誘いだよ」
フェスティバル? ああ、伸哉と咲香の行ってる祭りのことか。涼紀は言葉の意味を理解した。
「お祭りっすか。あまり気乗りないんっすよね、今。それに男二人ってのが……」
「随分、酷いこと言うじゃないか」
「だって、先輩なら女の子の一人や二人……あっ、無理でしたね」
涼紀は数ヶ月前に襲ってきた優梨華の事を思い出して、身を震わせた。そうだ、あの妹さんがいる限り幸長先輩は女の子をはべらかすのなんて不可能だった。涼紀は改めて確信した。
「する気もないし、しないからね?」
幸長は釘を刺すように言った。
「けど、なんで俺を誘うんっすか? 彰久先輩でもいいと思うんっすけど」
不思議に思った涼紀が聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「君のシスターに、マイシスターが世話になっているみたいだからね。そのお礼ってところかな」
なるほど、そう言う事だったのか。涼紀は頷いた。だが、世話になっていると幸長は言ったが、涼紀にはピンとこない。
なんでも涼花と優梨華は犬猿の仲のようで、優梨華のことを仄めかした瞬間、涼花は吠える寸前の犬のような表情をするくらいだ。とても世話になっている関係とは涼紀には思えなかった。
「先輩、うちの妹先輩の妹とそんな仲良くないみたいっすよ。しょっちゅう喧嘩とかするっぽいですし」
涼紀がそういうと、ハッハッハッと幸長は笑い出した。
「喧嘩する程仲がいいというじゃないか。きっと二人はそういう関係なのさ」
涼紀はおそらくここから何を言っても聞き入れてもらえないと思った。
「わかりましたよ先輩。その代わり何か奢ってもらいますからね」
「はははっ。最初からそのつもりだから心配御無用さ」
テンションの高い声で幸長は答えた。それから二人はどこで落ち合うかを決め、涼紀は待ち合わせ場所へと向かった。
「ごめん、ちょっと遅くなっちゃったー」
少しだけ駆け足で咲香が伸哉の元に駆け寄ってきた。
「いいよ。こっちも今きたばっかりだから」
伸哉は咲香を気遣った。
「どう? 似合っとる?」
咲香がそう聞いてきた。水色をベースとしながら、白や薄い紫の花が散りばめられている浴衣。帯は薄紅の色が鮮やかに決まってる。咲香には十分と言って良いほど似合っていた。
「伸哉くん……? どうしたん?」
心配そうに咲香が声を掛ける。どうやら伸哉は見惚れてしまっていた様だ。
「あっ、うん。似合ってるよ!」
伸哉は少し照れながら答えた。それを見た咲香はにこりと笑みを浮かべた。
「よかったー。似合ってないって言われたらどげんしようって思ってたよ」
咲香は普段より少し上ずった声で言った。伸哉はそんな咲香を見て可愛いと心の中で呟いていた。
「そ、それじゃあどこから周る?」
「うーん、今日は伸哉くんの好きな場所からで良いよ」
咲香はそう言うと伸哉に手を差し伸ばしてきた。伸哉は何も言わずにその手を掴んだ。二人はそのまま祭りの喧騒の中へと消えていった。
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「告白、上手くいくかな」
スポンジを見つめながら咲香はそう呟いた。
咲香が伸哉を好きになったきっかけは、試合で見せた真剣な眼差しだ。普段の虫も殺さぬ様な優しさと可愛らしい笑顔。これも咲香が好きなものだ。だが試合で、あの三回戦で見せた表情がより一層咲香を惹きつけた。
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惚れてしまってからは行動が早かった。元々五月頃に負った怪我でバスケを続けることが難しい状況だった。なので、これをいい機会にとスッパリと辞め、野球部のマネージャーに転身をした。そうする事で伸哉を身近でサポートできると考えたからだ。
そしてマネージャーになってから二週間が過ぎた。その間にもどんどん伸哉への想いは強くなっていった。
怪我をしていても腐る事なく、黙々とリハビリに取り組む姿。そして、何かことあるごとに自分に対して感謝をしてくれる優しさと気配り。咲香はこれ以上の男性はどこにもいないと思っていた。
また、咲香も伸哉が自分に惚れているのは分かっていた。他の女の子と接する時の態度が違うし、自分だけに内緒の話してくれる事も多い。お昼を食べる時も、咲香が誘うと明らかに嬉しそうな対応をしている。
あと、咲香のことだけを下の名前で呼んでいる。そう呼ぶように強制したところはあるが、それでも呼び続けてくれている。だから、私のことを好きなのだろう。咲香はそう思っていた。
とにかく心当たりが多いのだ。そう言うのがあるから、この祭りで告白をしようと決心したのだ。
「大丈夫、上手くいく。きっと上手くいくわ。伸哉くんも私に惚れてるはずだもん」
咲香はそう確信して、スポンジをギュッと握りつぶした。
集合場所になっていた神社の鳥居に伸哉は辿り着いた。スマホを見ると午後五時十二分。明らかに早くきてしまっている。これも楽しみにしていたからだろうか。伸哉はそう思った。
早く来すぎてしまった伸哉は何か暇つぶしができる方法を考え始めた。ソシャゲ、人間観察、先に回っておいて何があるのかを確認する……。少しだけ目を瞑って考えた結果、そこら辺をうろついておくことにした。
伸哉は適当に歩き出す。祭りの日とあって、人の出入りが激しい。一瞬でも気を抜くと人の流れに流されそうになってしまうほどだった。そんな中をなんとかかき分けて、歩いていく。しばらくしてからだった。
「あれっ? 伸哉! お前こんなところでどうしたんだよ!」
人混みを歩いている中、外れの方から見知った声を聞いた。伸哉がその声がした方へと歩いて行くと、なんとそこには大地がいるではないか。伸哉は目を疑った。
「よっ、伸哉。久しぶり」
爽やかに大地は声を掛け、左肩を叩く。伸哉はそのテンションに少し押され気味だった。
「ひ、久しぶり。大地くん甲子園前なのに練習とかはどうしたの?」
伸哉がそう言うと、大地は軽く答えてくれた。
「甲子園前の息抜きだって。監督が今日は早めに練習を切り上げたから、来たんだよ。伸哉の方こそ、こんなところに来るなんて珍しいな。友達か?」
「そんなところかな」
伸哉は恥ずかしそうに答えた。最も、その友達は男ではなく女であるが。
「そっか。そう言う友達が出来たんだな。よかったな」
大地がそう言うと、本当は大地くんがその筆頭だったんだよ、と心の中で呟いた。
「しっかし、甲子園に出るってのにだーれも俺に声を掛けてくれねえ。俺もまだまだってことなのかな」
大地は寂しそうに言った。大地の想定ではおそらく、今頃自分の周りに人だかりができてることだったのだろう。
高校野球で甲子園に出たとなると、そんな想像をするのも無理はないだろう。
「そんなことないよ。甲子園で投げたらきっと変わるよ。大地君の球、すごく速いんだもん。きっと甲子園のヒーローになれるはずだよ」
そんな増長し気味の大地を、伸哉は否定せずむしろ調子に乗せるような言葉を使う。
「そ、そうか? そう言ってくれると有難いぜ」
伸哉の言葉に大地は気をよくしているようだ。
「おっと。俺そろそろ待ち合わせ場所に行かないと。先輩を待たせちまう」
大地が慌て出す。伸哉はスマホを見ると五時四十八分。丁度いい時間帯になっていた。
「じゃあな、伸哉。祭り楽しめよ」
「うん。甲子園、頑張ってね。大地君」
「おうよ! 甲子園でひと暴れしてくるからよ」
そう言うと大地は坂道を下っていった。伸哉は再び人ごみの中へとダイブし、集合場所へと向かった。
その頃、涼紀は一人自室のベッドの上で項垂れていた。咲香が自分をそっちのけで伸哉を誘ったことが余程応えている様だった。
咲香に片想いをして十年以上。ここ最近は野球にかまけてばかりで少し疎かになっていたかもしれないが、これまで咲香には様々な事をしてきたつもりだ。小学生の頃であれば、どこかで遊ぼうと言われれば一も二もなく付いていった。中学時代であれば、自分のお小遣いが許す範囲で色んなプレゼントをしたし、バスケの練習相手にと言われれば、素人ながらもできる限り手伝ってあげた。
だが進展は一ミリもなく、挙句伸哉に取られそうなのが現状である。
「俺が勇気を持ってればなあ……。今頃二人で……」
悔しさから涼紀はベッドシーツをギュッと握り締めた。
それから涼紀はベッドの上でだらーんと腕を伸ばし寝転び、何もない天井をボーッと眺めていた。しばらくして、スマホがブーというバイブ音と共にと震え出す。誰か電話をかけてきたようだ。
重い手足を動かしスマホを取ると、電話の主は幸長だった。一体なんだろうと思い、電話に出ると、ハロー涼紀君と陽気な声が聞こえてきた。
「幸長先輩、一体何の用っすか?」
気怠そうに答える涼紀。それに対し、幸長は明るい声でこう答えた。
「フェスティバルをやってるじゃないか。それのお誘いだよ」
フェスティバル? ああ、伸哉と咲香の行ってる祭りのことか。涼紀は言葉の意味を理解した。
「お祭りっすか。あまり気乗りないんっすよね、今。それに男二人ってのが……」
「随分、酷いこと言うじゃないか」
「だって、先輩なら女の子の一人や二人……あっ、無理でしたね」
涼紀は数ヶ月前に襲ってきた優梨華の事を思い出して、身を震わせた。そうだ、あの妹さんがいる限り幸長先輩は女の子をはべらかすのなんて不可能だった。涼紀は改めて確信した。
「する気もないし、しないからね?」
幸長は釘を刺すように言った。
「けど、なんで俺を誘うんっすか? 彰久先輩でもいいと思うんっすけど」
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「君のシスターに、マイシスターが世話になっているみたいだからね。そのお礼ってところかな」
なるほど、そう言う事だったのか。涼紀は頷いた。だが、世話になっていると幸長は言ったが、涼紀にはピンとこない。
なんでも涼花と優梨華は犬猿の仲のようで、優梨華のことを仄めかした瞬間、涼花は吠える寸前の犬のような表情をするくらいだ。とても世話になっている関係とは涼紀には思えなかった。
「先輩、うちの妹先輩の妹とそんな仲良くないみたいっすよ。しょっちゅう喧嘩とかするっぽいですし」
涼紀がそういうと、ハッハッハッと幸長は笑い出した。
「喧嘩する程仲がいいというじゃないか。きっと二人はそういう関係なのさ」
涼紀はおそらくここから何を言っても聞き入れてもらえないと思った。
「わかりましたよ先輩。その代わり何か奢ってもらいますからね」
「はははっ。最初からそのつもりだから心配御無用さ」
テンションの高い声で幸長は答えた。それから二人はどこで落ち合うかを決め、涼紀は待ち合わせ場所へと向かった。
「ごめん、ちょっと遅くなっちゃったー」
少しだけ駆け足で咲香が伸哉の元に駆け寄ってきた。
「いいよ。こっちも今きたばっかりだから」
伸哉は咲香を気遣った。
「どう? 似合っとる?」
咲香がそう聞いてきた。水色をベースとしながら、白や薄い紫の花が散りばめられている浴衣。帯は薄紅の色が鮮やかに決まってる。咲香には十分と言って良いほど似合っていた。
「伸哉くん……? どうしたん?」
心配そうに咲香が声を掛ける。どうやら伸哉は見惚れてしまっていた様だ。
「あっ、うん。似合ってるよ!」
伸哉は少し照れながら答えた。それを見た咲香はにこりと笑みを浮かべた。
「よかったー。似合ってないって言われたらどげんしようって思ってたよ」
咲香は普段より少し上ずった声で言った。伸哉はそんな咲香を見て可愛いと心の中で呟いていた。
「そ、それじゃあどこから周る?」
「うーん、今日は伸哉くんの好きな場所からで良いよ」
咲香はそう言うと伸哉に手を差し伸ばしてきた。伸哉は何も言わずにその手を掴んだ。二人はそのまま祭りの喧騒の中へと消えていった。