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本人登場

ー/ー



「これがひろクンから聞いた話の全てよ。聞いてくれてありがとうね」

 梨沙の話がおわり一息ついていると、

「迷惑な話だよねー。友達にはあんまり話さないでって言ったのに」

「うわっ! 伸哉!!」

 彰久が声のする方を向くと何時のまにか伸哉が彰久の隣に座っていた。あまりにも周りに馴染んでいたため誰も気づいていなかったのだ。

「あらー、伸哉いたの?」

「居たの? じゃなくて人に話さないでって言ったよね? なんで話しちゃうの?!」

「いいじゃないの。だってあの時のしんちゃん可愛かったし」

「あーもー! その呼び方で呼ぶないでよぉ」

 伸哉は梨沙に面白いようにからかわれていた。三人はいつもは見ないダジダジの伸哉見たのだった。

「お、そういや伸哉。結局その後その片村さんにフォームを教えてもらったのか?」

 涼紀はふと思った疑問を伸哉にぶつけた。

「えっとね。二日後に片村さんからプロ野球選手のフォームの本とか色々贈られて来て、それを見て勉強したのかな。それでそのときついでに覚えたのがツーシーム」

「ついで、というと?」

「お父さんと片村さんが確か変化球を投げさせるかさせないかで揉めて、それで変化球を投げさせてみたかった片村さんが考え抜いた末に教えてくれたんだ。その本と一緒に挟んであった投げ方書いてあったメモを参考にして練習して覚えたんだ」

 その言葉に彰久がはぁっ?! と叫び出した。

「覚えたって、次の日曜日にはもうメチャクチャキレッキレのツーシーム投げてたじゃないか」

 覚えた、という一言に彰久は驚いたのだ。

 次の日曜日の試合はちょうど一週間後のことでこの試合で伸哉はツーシームを有効的に使いこなして見事完封勝利を成し遂げていた。ツーシームを投げること自体はそれほど難しい球ではないが、変化させるとなるとかなり難しくなってくる。

 だが、その時のツーシームは芯を外すどころか空振りすら奪えそうなくらいに変化していた。

「いや、気づいたらけっこうかかるようになってたんだ」

 涼紀と彰久は呆気にとられていた。いくらプロのスカウトが見出した才能とはいえ、そこまでのものになると別次元のようにしか感じられないレベルである。

「やっぱりあるものなんだね。そういう感覚って」

「わかりますか幸長先輩」

 もっとも天才型である幸長にはなにか共感できるものがあったようだった。

「僕もすぐに色々覚えられたし、その時の感覚が独特すぎて、教えてもディフィカルトすぎて誰にも伝わらないことがたまにあるんだよね」

「あー、わかりますよそれ。僕にもよくあります。でもやっぱりフォームを作るのには苦労しましたよ。実をいうと今の完成したフォームになったのは小六の頃で、彰久先輩とバッテリー組んでた頃はまだまだ未完成だったんですよね」

「まあ僕もバッティングフォームは若干苦労したんだよね」

 ここでも幸長に共感できるものがあったようだった。

「ちなみにシンキングファストはどうやって覚えたんだい?」

 幸長が伸哉に尋ねた。

「中二の十一月くらいですね。中一の頃動画サイトでメジャーの試合を観てた時にその年の最多勝投手の王智旻(ワンチミン)が投げてたんですよね。球自体はそんなに早くなかったんですけど、シンカーみたいに鋭く沈んで次々と三振を奪っていったのが目に焼き付いて、調べたらそれがシンキングファストだったんです。それからは投げ方を調べて、一年くらい試行錯誤を重ねてやっと投げられました。変化球の中でも一番難しかったですね」

「伸哉でもやっぱりそのくらいかかるのか」

 彰久は試行錯誤する伸哉の様子を想像した。シンキングファストはストレートと似たような投げ方だが、リリースの瞬間がストレートとは全くの別物になる。

 投げる投手はメジャーにも少なくはないが大半はツーシームのようにあまり変化せず、芯を外して打ち取るための球種としてしか扱われていない。

 それからも分かるように、大きく変化するシンキングを投げると相当なもの訓練が必要になるのは簡単に想像できる話ではあった。

「なんだかんだで、やっぱり伸哉も人間なんだな」

「ん?」

 彰久はそっと呟いた。その後三人は伸哉の家で伸哉の中学時代の試合の映像や写真を見て過ごした。


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「これがひろクンから聞いた話の全てよ。聞いてくれてありがとうね」
 梨沙の話がおわり一息ついていると、
「迷惑な話だよねー。友達にはあんまり話さないでって言ったのに」
「うわっ! 伸哉!!」
 彰久が声のする方を向くと何時のまにか伸哉が彰久の隣に座っていた。あまりにも周りに馴染んでいたため誰も気づいていなかったのだ。
「あらー、伸哉いたの?」
「居たの? じゃなくて人に話さないでって言ったよね? なんで話しちゃうの?!」
「いいじゃないの。だってあの時のしんちゃん可愛かったし」
「あーもー! その呼び方で呼ぶないでよぉ」
 伸哉は梨沙に面白いようにからかわれていた。三人はいつもは見ないダジダジの伸哉見たのだった。
「お、そういや伸哉。結局その後その片村さんにフォームを教えてもらったのか?」
 涼紀はふと思った疑問を伸哉にぶつけた。
「えっとね。二日後に片村さんからプロ野球選手のフォームの本とか色々贈られて来て、それを見て勉強したのかな。それでそのときついでに覚えたのがツーシーム」
「ついで、というと?」
「お父さんと片村さんが確か変化球を投げさせるかさせないかで揉めて、それで変化球を投げさせてみたかった片村さんが考え抜いた末に教えてくれたんだ。その本と一緒に挟んであった投げ方書いてあったメモを参考にして練習して覚えたんだ」
 その言葉に彰久がはぁっ?! と叫び出した。
「覚えたって、次の日曜日にはもうメチャクチャキレッキレのツーシーム投げてたじゃないか」
 覚えた、という一言に彰久は驚いたのだ。
 次の日曜日の試合はちょうど一週間後のことでこの試合で伸哉はツーシームを有効的に使いこなして見事完封勝利を成し遂げていた。ツーシームを投げること自体はそれほど難しい球ではないが、変化させるとなるとかなり難しくなってくる。
 だが、その時のツーシームは芯を外すどころか空振りすら奪えそうなくらいに変化していた。
「いや、気づいたらけっこうかかるようになってたんだ」
 涼紀と彰久は呆気にとられていた。いくらプロのスカウトが見出した才能とはいえ、そこまでのものになると別次元のようにしか感じられないレベルである。
「やっぱりあるものなんだね。そういう感覚って」
「わかりますか幸長先輩」
 もっとも天才型である幸長にはなにか共感できるものがあったようだった。
「僕もすぐに色々覚えられたし、その時の感覚が独特すぎて、教えてもディフィカルトすぎて誰にも伝わらないことがたまにあるんだよね」
「あー、わかりますよそれ。僕にもよくあります。でもやっぱりフォームを作るのには苦労しましたよ。実をいうと今の完成したフォームになったのは小六の頃で、彰久先輩とバッテリー組んでた頃はまだまだ未完成だったんですよね」
「まあ僕もバッティングフォームは若干苦労したんだよね」
 ここでも幸長に共感できるものがあったようだった。
「ちなみにシンキングファストはどうやって覚えたんだい?」
 幸長が伸哉に尋ねた。
「中二の十一月くらいですね。中一の頃動画サイトでメジャーの試合を観てた時にその年の最多勝投手の|王智旻《ワンチミン》が投げてたんですよね。球自体はそんなに早くなかったんですけど、シンカーみたいに鋭く沈んで次々と三振を奪っていったのが目に焼き付いて、調べたらそれがシンキングファストだったんです。それからは投げ方を調べて、一年くらい試行錯誤を重ねてやっと投げられました。変化球の中でも一番難しかったですね」
「伸哉でもやっぱりそのくらいかかるのか」
 彰久は試行錯誤する伸哉の様子を想像した。シンキングファストはストレートと似たような投げ方だが、リリースの瞬間がストレートとは全くの別物になる。
 投げる投手はメジャーにも少なくはないが大半はツーシームのようにあまり変化せず、芯を外して打ち取るための球種としてしか扱われていない。
 それからも分かるように、大きく変化するシンキングを投げると相当なもの訓練が必要になるのは簡単に想像できる話ではあった。
「なんだかんだで、やっぱり伸哉も人間なんだな」
「ん?」
 彰久はそっと呟いた。その後三人は伸哉の家で伸哉の中学時代の試合の映像や写真を見て過ごした。