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薗部の過去

ー/ー



「信じられないですね……、監督がそんなパーソンだったなんて」

 杖をついている男、菊洋高校監督の平雅一(たいらまさいち)の話を聞いて幸長は驚いた。

 平の話したことは主に学生時代のことだったが、今からではとても想像がつかないことだった。

「そうさ。今じゃこげんまるかなっとるが昔は誰にも敬語ば使わんし、授業中どころか野球部のミーティングでも居眠りする。髪は伸ばしっぱなしとやりたい放題じゃったよ」

 昔のことがあまりにも面白かったのか平は高笑いしながら話している。その一方で話されている側の薗部は苦笑いをしていた。

「それにしたって変わったなあ。髪型は昔に比べれば大人しゅうなっちょるけど、この子達みる限り自由主義だというのは変わらんみたいやな」

「ええ。プレーと髪型は関係しませんよ。髪切って上手くなるんだったらいくらでも切りますけど」

 薗部は恩師の前でも堂々と自分の持論を主張した。薗部と平の思い出話が盛り上がり始めた一方で幸長と逸樹はまた別の場所で立ち話を始めだした。

「いやー。全く知らなかったから面白かったよ。監督の昔話」

 幸長は薗部の意外な経歴に目を輝かせていた。

「面白かったようでなによりです。それはそうと、大島ってあの大島でしょ? 僕の方こそびっくりしたよ。あれだけすごい選手が無名校にいるんだから」

 逸樹の方も、幸長と話せることがとても嬉しいようだ。

「そういえば逸樹さんは監督の知り合いだったのかい?」

 幸長が尋ねると逸樹は首を軽く縦に振った。

「そうなんだよ。僕の家の近くに住んでいて小学生のころからの知り合いなんだ。まあこうやって会うのは七年ぶりかな」

「七年ぶり?」

 幸長は七年という言葉に引っかかった。

「七年? 監督は向こうのカレッジでプレーしに行ったのかい?」

 幸長の答えに今度は大きく首を横に振った。

「ううん。メジャーに挑戦するためだよ。圭太さんは高校卒業して直ぐにアメリカに行ったんだ」

 幸長はその言葉で思い出した。

「思い出した! そう言えば薗部って当時の高校野球界では物凄く有名なバッターがいたけど、同一人物だったのか! 確か当時プロ志望届出さなかったからかなり話題になってたけど」

「そうそう。かなーり話題になってたんだよ」

 幸長が知っていてることに、逸樹は少し安心したようだった。

「動画サイトで拝見したけど、とにかく綺麗なバッティングフォームをしていてさらに軸が全くぶれない。守備も走塁も一級品だった。悔しいけど、今の僕と同格かな」

 幸長が珍しく他人のベタ褒めしいた。普段はプロ野球のプレイにすらいちゃもんをつけたり、憤慨する幸長が他人を手放しで褒めるのはそのくらい珍しいことなのだ。

「けど、あれでも上がれなかったってことは、相当厳しい世界なんだなって思ったよ。メジャーは」

「うん。そうだね……」

 幸長と逸樹の間を重苦しい沈黙が包む。

「そう言えば、三回戦まで行けばウチと当たるよね?」

 耐えきれなかった幸長は口を開いた。

「まあ少し気が早すぎるかもしれないけどね」

 幸長は笑って誤魔化すように言った。すると、逸樹はハハハと笑い出した。

「おいおい圭太さんが監督をしているんだぜ。三回戦まで来ない筈がない。絶対三回戦に来てくれよな。一度でいいから圭太さんと、どんな形でもいいから試合で真剣勝負してみたかったんだ。だから、よろしく頼むぜ」

 逸樹は爽やかに強く彰久を見つめながら、頑張れよという激励を込めるように、すっと手を差し出した。

「ああ。その時はこちらが勝たせて貰いますよ」

「こちらこそ。全力で叩き潰させてもらうよ」

 両雄はそれぞれ誓い合うように力強く握手を交わした。

「それじゃあ今日はこの辺で。初戦頑張れよ。あと僕のことは逸樹って呼んでいいから。じゃあ、三回戦で」

 逸樹は颯爽と走り出していった。


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次のエピソードへ進む 幸長の檄とサバイバル


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「信じられないですね……、監督がそんなパーソンだったなんて」
 杖をついている男、菊洋高校監督の|平雅一《たいらまさいち》の話を聞いて幸長は驚いた。
 平の話したことは主に学生時代のことだったが、今からではとても想像がつかないことだった。
「そうさ。今じゃこげんまるかなっとるが昔は誰にも敬語ば使わんし、授業中どころか野球部のミーティングでも居眠りする。髪は伸ばしっぱなしとやりたい放題じゃったよ」
 昔のことがあまりにも面白かったのか平は高笑いしながら話している。その一方で話されている側の薗部は苦笑いをしていた。
「それにしたって変わったなあ。髪型は昔に比べれば大人しゅうなっちょるけど、この子達みる限り自由主義だというのは変わらんみたいやな」
「ええ。プレーと髪型は関係しませんよ。髪切って上手くなるんだったらいくらでも切りますけど」
 薗部は恩師の前でも堂々と自分の持論を主張した。薗部と平の思い出話が盛り上がり始めた一方で幸長と逸樹はまた別の場所で立ち話を始めだした。
「いやー。全く知らなかったから面白かったよ。監督の昔話」
 幸長は薗部の意外な経歴に目を輝かせていた。
「面白かったようでなによりです。それはそうと、大島ってあの大島でしょ? 僕の方こそびっくりしたよ。あれだけすごい選手が無名校にいるんだから」
 逸樹の方も、幸長と話せることがとても嬉しいようだ。
「そういえば逸樹さんは監督の知り合いだったのかい?」
 幸長が尋ねると逸樹は首を軽く縦に振った。
「そうなんだよ。僕の家の近くに住んでいて小学生のころからの知り合いなんだ。まあこうやって会うのは七年ぶりかな」
「七年ぶり?」
 幸長は七年という言葉に引っかかった。
「七年? 監督は向こうのカレッジでプレーしに行ったのかい?」
 幸長の答えに今度は大きく首を横に振った。
「ううん。メジャーに挑戦するためだよ。圭太さんは高校卒業して直ぐにアメリカに行ったんだ」
 幸長はその言葉で思い出した。
「思い出した! そう言えば薗部って当時の高校野球界では物凄く有名なバッターがいたけど、同一人物だったのか! 確か当時プロ志望届出さなかったからかなり話題になってたけど」
「そうそう。かなーり話題になってたんだよ」
 幸長が知っていてることに、逸樹は少し安心したようだった。
「動画サイトで拝見したけど、とにかく綺麗なバッティングフォームをしていてさらに軸が全くぶれない。守備も走塁も一級品だった。悔しいけど、今の僕と同格かな」
 幸長が珍しく他人のベタ褒めしいた。普段はプロ野球のプレイにすらいちゃもんをつけたり、憤慨する幸長が他人を手放しで褒めるのはそのくらい珍しいことなのだ。
「けど、あれでも上がれなかったってことは、相当厳しい世界なんだなって思ったよ。メジャーは」
「うん。そうだね……」
 幸長と逸樹の間を重苦しい沈黙が包む。
「そう言えば、三回戦まで行けばウチと当たるよね?」
 耐えきれなかった幸長は口を開いた。
「まあ少し気が早すぎるかもしれないけどね」
 幸長は笑って誤魔化すように言った。すると、逸樹はハハハと笑い出した。
「おいおい圭太さんが監督をしているんだぜ。三回戦まで来ない筈がない。絶対三回戦に来てくれよな。一度でいいから圭太さんと、どんな形でもいいから試合で真剣勝負してみたかったんだ。だから、よろしく頼むぜ」
 逸樹は爽やかに強く彰久を見つめながら、頑張れよという激励を込めるように、すっと手を差し出した。
「ああ。その時はこちらが勝たせて貰いますよ」
「こちらこそ。全力で叩き潰させてもらうよ」
 両雄はそれぞれ誓い合うように力強く握手を交わした。
「それじゃあ今日はこの辺で。初戦頑張れよ。あと僕のことは逸樹って呼んでいいから。じゃあ、三回戦で」
 逸樹は颯爽と走り出していった。