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幸長の檄とサバイバル

ー/ー



抽選会から二人が帰ってきて、部員全員にトーナメント表が配られた。

「一回戦の対戦相手は早浦高校です。あなた達なら勝てる相手です。次の二回戦もそんなに強いチームではないので、まずは三回戦進出を目標に頑張っていきましょう」

 薗部はいつものように淡々と話す。部員達からは三回戦という薗部の言った目標に、どよめきがあがる。その中には躊躇いの言葉をあげる者も多くいた。

 無理もない。常に一回戦負けのチームが一回戦突破を飛び越え、いきなり三回戦進出という目標を立てるのは少し厳しく映ったのだ。

 雰囲気がどんよりとしてきた中、幸長がいきなり立ち上がった。

「君達そんな弱気でいいのかい? 今年は僕だけじゃなく伸哉クンもいるんだ。少しくらい自信を持ったっていいじゃないか」

 幸長は檄を飛ばした。

「まあ、そうだよなー」

「確かに伸哉がいるんだ。俺たちいけるかも!」

 幸長の言葉を聞いて雰囲気は明るくなった。だが、幸長の同級生の一人である二蔵は立ち上がった。

「つってもさー。勝利経験が少ない俺らじゃ、足元掬われて負けるかも知れないぞ。もう少し現実を見た方がいいんじゃないか?」

 二蔵の言葉は盛り上がっていた雰囲気をクールダウンさせた。二蔵の言ったこともあながち間違いではない。

 確かに、明林は勝利の経験があまりに乏しい。現に久良目商との試合に勝つまでは練習試合も含めて一度も引き分けすらなかった。

 そんな事は幸長にも分かってはいたが、ひるまずに切り返した。

「それは一理ある。でも目の前で対戦相手から、雑魚の明林とあたるなんてラッキーだ、なんて言われて頭に来ないかい? 僕は目の前で言われて本気で頭に来たけどね」

「うっ、それは…」

 流石になにかくるものがあったのか、二蔵は何も返せなかった。

「そんな奴らを見返す。そのためのこの目標じゃないのかい?」

 幸長の顔はいつも以上にやる気に満ち溢れていた。それを見て二蔵は溜息をついた。

「わかったよ幸長。俺が悪かった。でも、俺達が三回戦までいけるってのはもちろん、なにか策があるんですよね? 監督」

「ええ。確かに、二蔵君の言ったようにうちの経験不足は否めません。ですのでここからはみんなにサバイバルをして貰います」

 薗部はニコッと微笑む。それを見て部員全員がざわめきだした。薗部がこんなことを言った時には大抵とんでもないことがあるからだ。

「選考基準はこれから毎週組まれている練習試合や紅白戦での各個人の成績で判断します。成績が良ければ誰だって入れますし、ダメなら幸長君だろうと、伸哉君だろうと外します。私は少し用事がありますのでまた一度職員室に戻ります。戻ってくるまでにウォーミングアップを済ませておいてくださいね」

 薗部は小走りで校舎へと向かっていった。薗部の言った一言は部員達を大きく変えた。

 “やれば残る、やらねば外される”という恐怖と希望の入り混じった気持ちからか、練習はいつも以上に熱気に満ち溢れたギラギラしたものになった。

 レギュラーだった部員にも、補欠部員にも、薗部の言葉は大それほどきく響いたのだった。




 大会まで残り一週間と迫った日曜日。多くの部員がレギュラーの座を賭けて凌ぎを削る中、伸哉は三塁側ベンチ横で紅白戦を見ていた。

「伸哉君」

 薗部が声を掛けると伸哉の身体がビクンと跳ね上がる。試合に熱中していたせいか、薗部の存在に気づかなかったようだ。

 慌てて後ろを振り返ると、薗部が何かメモのようなものを持って立っていた。

「おやおや。ずいぶんと熱中してみていたようですね。さて、うちのチームの試合を初めて外から見てどう感じましたか?」

「そうですねえ、外から見ると思ってた以上に守備が安定してますね。打線の方は若干ムラがありますが、それでも軸になるバッターはしっかりしていて頼もしそうです」

 伸哉は思ったことを率直に述べた。それを聞いて薗部はうんうんと、首を縦に二回ほど頷いた。

「確かに、今の守備は僕がきた時以上に安定しています。打線も伸哉君や彰久君、幸長君だけに頼らなくても、ある程度点が取れそうな程に仕上がって来ました。みんなの成長もありますが、あの三人の成長が大きかったですね」

 薗部の顔はとても満足そうだった。

 組み合わせ抽選会の日の、薗部のあの言葉の影響もあってか、部員全員が今までとは全く別人と思えるほど上手くなった。だが、その中でも薗部も驚く程の成長を見せた部員が三人いた。

 一人目がショートを守る二年生の二蔵。二人目がサードを守る一年生の日田。そして三人目が外野手とキャッチャーを兼任する涼紀の三人だった。

 二蔵の言動の表面を見るとやる気のない揚げ足取りのようなものが多い。そのうえ、普段は自分のノルマ以上の事をやりこなすようなタイプではない。

 だが、久良目商戦で木場と新崎の球を一球も当てれなかったことが応えたのか、人が変わったように練習に打ち込み始めたのだった。

 その甲斐もあってか、長打は多いが粗の多かった打撃が改善されると共に、不安定な守備も安定感を持つようになった。

 二人目の日田は、いつもニコニコしている明るい性格の人物だ。入学当初から守備は入部時点でもトップクラスに入る程上手かった。

 そのおかげか、入部後直ぐにスタメンを貼っていたが、打撃では穴になることが多かった。

 それを感じてか、練習後は常にウエイトトレーニングや素振りをやり込み、その効果がこの一カ月の間に目に見える形で現れ、今や誰にも文句を言わせぬ、不動のレギュラーとしてその地位を確立している。

 そして、三人目に挙げた涼紀は持ち前の熱血さで、薗部が最も驚く程の成長を見せた選手だ。

 バッティングは当たれば飛ぶが、まだまだ安定性に欠け、日田や二蔵には到底太刀打ち出来るレベルではないが、外野守備だけならば、二人以上のものを見せている。




「おりゃあああああ!!」

 涼紀がボールに飛びつき、土埃が舞う。グラブを高々と上げる。ボールはしっかりと中に収まっていた。

「アウト! ゲームセット!」

 三年生の審判役の部員がコールした。試合はどうやら終ったようだった。両チームの悔しそうなオーラを感じるあたり、結果は引き分けだったようだ。

「さてと、僕はこれからスタメン決めをやってきますので、伸哉君はグラウンド整備とかの、後片付けを手伝っていて下さい」

 薗部は試合中に書き込んだメモ帳を見ながら、校舎へと戻っていった。


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抽選会から二人が帰ってきて、部員全員にトーナメント表が配られた。
「一回戦の対戦相手は早浦高校です。あなた達なら勝てる相手です。次の二回戦もそんなに強いチームではないので、まずは三回戦進出を目標に頑張っていきましょう」
 薗部はいつものように淡々と話す。部員達からは三回戦という薗部の言った目標に、どよめきがあがる。その中には躊躇いの言葉をあげる者も多くいた。
 無理もない。常に一回戦負けのチームが一回戦突破を飛び越え、いきなり三回戦進出という目標を立てるのは少し厳しく映ったのだ。
 雰囲気がどんよりとしてきた中、幸長がいきなり立ち上がった。
「君達そんな弱気でいいのかい? 今年は僕だけじゃなく伸哉クンもいるんだ。少しくらい自信を持ったっていいじゃないか」
 幸長は檄を飛ばした。
「まあ、そうだよなー」
「確かに伸哉がいるんだ。俺たちいけるかも!」
 幸長の言葉を聞いて雰囲気は明るくなった。だが、幸長の同級生の一人である二蔵は立ち上がった。
「つってもさー。勝利経験が少ない俺らじゃ、足元掬われて負けるかも知れないぞ。もう少し現実を見た方がいいんじゃないか?」
 二蔵の言葉は盛り上がっていた雰囲気をクールダウンさせた。二蔵の言ったこともあながち間違いではない。
 確かに、明林は勝利の経験があまりに乏しい。現に久良目商との試合に勝つまでは練習試合も含めて一度も引き分けすらなかった。
 そんな事は幸長にも分かってはいたが、ひるまずに切り返した。
「それは一理ある。でも目の前で対戦相手から、雑魚の明林とあたるなんてラッキーだ、なんて言われて頭に来ないかい? 僕は目の前で言われて本気で頭に来たけどね」
「うっ、それは…」
 流石になにかくるものがあったのか、二蔵は何も返せなかった。
「そんな奴らを見返す。そのためのこの目標じゃないのかい?」
 幸長の顔はいつも以上にやる気に満ち溢れていた。それを見て二蔵は溜息をついた。
「わかったよ幸長。俺が悪かった。でも、俺達が三回戦までいけるってのはもちろん、なにか策があるんですよね? 監督」
「ええ。確かに、二蔵君の言ったようにうちの経験不足は否めません。ですのでここからはみんなにサバイバルをして貰います」
 薗部はニコッと微笑む。それを見て部員全員がざわめきだした。薗部がこんなことを言った時には大抵とんでもないことがあるからだ。
「選考基準はこれから毎週組まれている練習試合や紅白戦での各個人の成績で判断します。成績が良ければ誰だって入れますし、ダメなら幸長君だろうと、伸哉君だろうと外します。私は少し用事がありますのでまた一度職員室に戻ります。戻ってくるまでにウォーミングアップを済ませておいてくださいね」
 薗部は小走りで校舎へと向かっていった。薗部の言った一言は部員達を大きく変えた。
 “やれば残る、やらねば外される”という恐怖と希望の入り混じった気持ちからか、練習はいつも以上に熱気に満ち溢れたギラギラしたものになった。
 レギュラーだった部員にも、補欠部員にも、薗部の言葉は大それほどきく響いたのだった。
 大会まで残り一週間と迫った日曜日。多くの部員がレギュラーの座を賭けて凌ぎを削る中、伸哉は三塁側ベンチ横で紅白戦を見ていた。
「伸哉君」
 薗部が声を掛けると伸哉の身体がビクンと跳ね上がる。試合に熱中していたせいか、薗部の存在に気づかなかったようだ。
 慌てて後ろを振り返ると、薗部が何かメモのようなものを持って立っていた。
「おやおや。ずいぶんと熱中してみていたようですね。さて、うちのチームの試合を初めて外から見てどう感じましたか?」
「そうですねえ、外から見ると思ってた以上に守備が安定してますね。打線の方は若干ムラがありますが、それでも軸になるバッターはしっかりしていて頼もしそうです」
 伸哉は思ったことを率直に述べた。それを聞いて薗部はうんうんと、首を縦に二回ほど頷いた。
「確かに、今の守備は僕がきた時以上に安定しています。打線も伸哉君や彰久君、幸長君だけに頼らなくても、ある程度点が取れそうな程に仕上がって来ました。みんなの成長もありますが、あの三人の成長が大きかったですね」
 薗部の顔はとても満足そうだった。
 組み合わせ抽選会の日の、薗部のあの言葉の影響もあってか、部員全員が今までとは全く別人と思えるほど上手くなった。だが、その中でも薗部も驚く程の成長を見せた部員が三人いた。
 一人目がショートを守る二年生の二蔵。二人目がサードを守る一年生の日田。そして三人目が外野手とキャッチャーを兼任する涼紀の三人だった。
 二蔵の言動の表面を見るとやる気のない揚げ足取りのようなものが多い。そのうえ、普段は自分のノルマ以上の事をやりこなすようなタイプではない。
 だが、久良目商戦で木場と新崎の球を一球も当てれなかったことが応えたのか、人が変わったように練習に打ち込み始めたのだった。
 その甲斐もあってか、長打は多いが粗の多かった打撃が改善されると共に、不安定な守備も安定感を持つようになった。
 二人目の日田は、いつもニコニコしている明るい性格の人物だ。入学当初から守備は入部時点でもトップクラスに入る程上手かった。
 そのおかげか、入部後直ぐにスタメンを貼っていたが、打撃では穴になることが多かった。
 それを感じてか、練習後は常にウエイトトレーニングや素振りをやり込み、その効果がこの一カ月の間に目に見える形で現れ、今や誰にも文句を言わせぬ、不動のレギュラーとしてその地位を確立している。
 そして、三人目に挙げた涼紀は持ち前の熱血さで、薗部が最も驚く程の成長を見せた選手だ。
 バッティングは当たれば飛ぶが、まだまだ安定性に欠け、日田や二蔵には到底太刀打ち出来るレベルではないが、外野守備だけならば、二人以上のものを見せている。
「おりゃあああああ!!」
 涼紀がボールに飛びつき、土埃が舞う。グラブを高々と上げる。ボールはしっかりと中に収まっていた。
「アウト! ゲームセット!」
 三年生の審判役の部員がコールした。試合はどうやら終ったようだった。両チームの悔しそうなオーラを感じるあたり、結果は引き分けだったようだ。
「さてと、僕はこれからスタメン決めをやってきますので、伸哉君はグラウンド整備とかの、後片付けを手伝っていて下さい」
 薗部は試合中に書き込んだメモ帳を見ながら、校舎へと戻っていった。