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「まさか監督の言った通りの展開になるなんて」  彰久は薗部の作戦が、恐ろしいほど上手くいっていることに恐怖を覚えていた。 「でしょ? 木場君が緊張しているのか、フォームを崩してくれたのも嬉しい誤算でしたが。あとは、あなたが打てば二点は入りますよ。もちろん、私の想像を超えられれば、三点入るかもしれせんね」  薗部は微笑みながら言ったが、その笑顔の奥にまたなにか恐ろしいことでも考えてそうな感じすらした。  やはり只者ではない。彰久は薗部をそう評していた。  試合前のミーティング終了後。伸哉、幸長、彰久の三人だけが薗部からベンチ裏に呼び出された。 「幸長君と伸哉君、それから彰久君。君らを呼んだのは他でもない。君たち三人なら、私の考える作戦を遂行できる力があると見ているからです。だから、初回だけ、私の指示に従ってくれませんか」  薗部が頼み込んでいるはずであるが、なぜか自信たっぷりそうな笑顔をしていた。  伸哉と彰久は従うとは思ってはいた。彰久は、プライドの高い幸長が乗ってくれるかどうかを心配していた。だが意外なことに、 「僕は天才ですから構いませんよ。二人もいいよね?」  幸長は髪を掻き上げドヤ顔をしながら、賛同の意を示していたのだ。思わず彰久はえっ、と口を開けたまま少し固まった。 「お、俺もそうします」  流石の彰久も驚きを隠せなかったようだ。 「ぼ、僕も、いいですよ」  三人が賛成したところで薗部は話を進めた。 「ありがとうございます。では内容を話しましょう。まず、相手は間違いなく幸長君に、執拗なインコース攻めをしてくるでしょう。なので、それは見逃しておいてください。それで相手が追い込んだところで、おそらく外角にカーブを決め球にしてくるでしょうから、それを打ってください」 「監督。ジーニアスでパーフェクトな僕ならその指示、ヒットなんかではなく、ホームランでもいいんですけど?」 「えっと、その後に影響するので、ヒット狙いでいいです」  幸長の戯言ざれごとを無視して薗部は話を次に進めた。 「次に伸哉君はバントの構えをして打席に入ってください。おそらく、高めへのストレートを続けて投げてくるでしょうから、わざと二球空振りしてください。そうすれば、三球目に高めにストレートがくるので、バスターで打ってください。おそらく内野が思いっきりダッシュして前に来ているでしょうから、打球は簡単に抜けるでしょう」 「ヒットを打てと……。いいですけど、ここまでは無得点ですよね?」 「そうですよ。三番の二蔵君で点を取るのは少し厳しそうなので、彰久君に全てがかかっています。それで、彰久君の打席は最初の三球全てストレートで来るでしょう。なので、ストレートを全部ファールにして、四球目に来る変化球、おそらくチェンジアップでしょうが、それを長打にしてください。オッケーですか?」  ニコニコしながら薗部は言ってのけたが、彰久はいくらなんでもそれはないだろう、と言わんばかりに慌てていた 「ま、待って下さい! そんな相手がこっちの思惑通りに動くわけないでしょうよ」 「大丈夫です。絶対この通りにやってきますから」  真顔で薗部は答えた。 「いやいや! そんな上手く行くわけないじゃないですか!! 外れたらどうするんですか?」  彰久は必死になって反論した。だが、薗部は呑気そうに笑いながらそれに答えた。 「そうですね。その時は、ラーメンを全員に奢りましょう。それに、古賀君は間違いなくこの通りにしかリードして来ませんよ」 「ハハハっ! おもしろいじゃないかアッキー! やってみようじゃないか」 「そうですよ。相手が相手ですから、こういう作戦もありですよ」 「あーもーわあったよ!! やってやんよっ!!」 彰久は渋々その作戦に納得した。 「彰久君」  バッターボックスに向かうおうとするところで呼び止められた。 「ここまで来たらわかりますよね? この作戦の意図が」  ニコニコしながら薗部は言ったが、イマイチ理解できなかったらしく彰久の頭には、大量のはてなマークが浮かんでいた。 「本当は分かって欲しかったのですが仕方がない。あとで詳しく話しますが、簡単に言うと立ち上がりを、相手のキャッチャーのリードの癖を利用して早いうちに叩いて後々打ちやすくしようっていう作戦です」  遠くからだと何もない純粋な笑顔に見えるが、近くから見た彰久には深い思慮から出された、不気味な笑いに見えた。 「そこまで考えてるとは、あんた一体何者だ?」 「別にこれくらいは考えれば誰だって出来ます。僕はチャンスを掴めなかった、ただの負け犬ですよ」  彰久の一言にそう答えた。 「じゃあ俺は、監督が負け犬じゃないって証明すればいいんですね」  彰久は薗部に背を向け、 バッターボックスに向かった。 (しかし、ここまで上手くいってるのって、あいつらの能力あってのもんだし、監督も信頼してるからだろうな)  彰久は塁上にいる二人を見て、左のバッターボックスに入った。 「三園の大島、そして、浜川の添木とよくもまあ、あんあビックネームが二人も揃ったもんだ」  外していたマスクをつけながら、古賀は嫌みたらしそうに話しかけた。 「ただの偶然ですよ。まあ古賀さんが本当に言いたいのは、凄いのはこの二人だけでお前を含めたその他は誰も打てないと、いうことでしょうけど」 「だったらお前は打てるとでも?」  顔はマスクで見えないが、彰久をバカにしていることを簡単に感じ取れた。 「さあどうでしょうね。ただし、あの二人の化物をまとめてるのは俺だというのは、少しは考えておいた方がいいのでは?」  彰久は一言だけ忠告しておいた。



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「まさか監督の言った通りの展開になるなんて」  彰久は薗部の作戦が、恐ろしいほど上手くいっていることに恐怖を覚えていた。 「でしょ? 木場君が緊張しているのか、フォームを崩してくれたのも嬉しい誤算でしたが。あとは、あなたが打てば二点は入りますよ。もちろん、私の想像を超えられれば、三点入るかもしれせんね」  薗部は微笑みながら言ったが、その笑顔の奥にまたなにか恐ろしいことでも考えてそうな感じすらした。  やはり只者ではない。彰久は薗部をそう評していた。  試合前のミーティング終了後。伸哉、幸長、彰久の三人だけが薗部からベンチ裏に呼び出された。 「幸長君と伸哉君、それから彰久君。君らを呼んだのは他でもない。君たち三人なら、私の考える作戦を遂行できる力があると見ているからです。だから、初回だけ、私の指示に従ってくれませんか」  薗部が頼み込んでいるはずであるが、なぜか自信たっぷりそうな笑顔をしていた。  伸哉と彰久は従うとは思ってはいた。彰久は、プライドの高い幸長が乗ってくれるかどうかを心配していた。だが意外なことに、 「僕は天才ですから構いませんよ。二人もいいよね?」  幸長は髪を掻き上げドヤ顔をしながら、賛同の意を示していたのだ。思わず彰久はえっ、と口を開けたまま少し固まった。 「お、俺もそうします」  流石の彰久も驚きを隠せなかったようだ。 「ぼ、僕も、いいですよ」  三人が賛成したところで薗部は話を進めた。 「ありがとうございます。では内容を話しましょう。まず、相手は間違いなく幸長君に、執拗なインコース攻めをしてくるでしょう。なので、それは見逃しておいてください。それで相手が追い込んだところで、おそらく外角にカーブを決め球にしてくるでしょうから、それを打ってください」 「監督。ジーニアスでパーフェクトな僕ならその指示、ヒットなんかではなく、ホームランでもいいんですけど?」 「えっと、その後に影響するので、ヒット狙いでいいです」  幸長の戯言ざれごとを無視して薗部は話を次に進めた。 「次に伸哉君はバントの構えをして打席に入ってください。おそらく、高めへのストレートを続けて投げてくるでしょうから、わざと二球空振りしてください。そうすれば、三球目に高めにストレートがくるので、バスターで打ってください。おそらく内野が思いっきりダッシュして前に来ているでしょうから、打球は簡単に抜けるでしょう」 「ヒットを打てと……。いいですけど、ここまでは無得点ですよね?」 「そうですよ。三番の二蔵君で点を取るのは少し厳しそうなので、彰久君に全てがかかっています。それで、彰久君の打席は最初の三球全てストレートで来るでしょう。なので、ストレートを全部ファールにして、四球目に来る変化球、おそらくチェンジアップでしょうが、それを長打にしてください。オッケーですか?」  ニコニコしながら薗部は言ってのけたが、彰久はいくらなんでもそれはないだろう、と言わんばかりに慌てていた 「ま、待って下さい! そんな相手がこっちの思惑通りに動くわけないでしょうよ」 「大丈夫です。絶対この通りにやってきますから」  真顔で薗部は答えた。 「いやいや! そんな上手く行くわけないじゃないですか!! 外れたらどうするんですか?」  彰久は必死になって反論した。だが、薗部は呑気そうに笑いながらそれに答えた。 「そうですね。その時は、ラーメンを全員に奢りましょう。それに、古賀君は間違いなくこの通りにしかリードして来ませんよ」 「ハハハっ! おもしろいじゃないかアッキー! やってみようじゃないか」 「そうですよ。相手が相手ですから、こういう作戦もありですよ」 「あーもーわあったよ!! やってやんよっ!!」 彰久は渋々その作戦に納得した。 「彰久君」  バッターボックスに向かうおうとするところで呼び止められた。 「ここまで来たらわかりますよね? この作戦の意図が」  ニコニコしながら薗部は言ったが、イマイチ理解できなかったらしく彰久の頭には、大量のはてなマークが浮かんでいた。 「本当は分かって欲しかったのですが仕方がない。あとで詳しく話しますが、簡単に言うと立ち上がりを、相手のキャッチャーのリードの癖を利用して早いうちに叩いて後々打ちやすくしようっていう作戦です」  遠くからだと何もない純粋な笑顔に見えるが、近くから見た彰久には深い思慮から出された、不気味な笑いに見えた。 「そこまで考えてるとは、あんた一体何者だ?」 「別にこれくらいは考えれば誰だって出来ます。僕はチャンスを掴めなかった、ただの負け犬ですよ」  彰久の一言にそう答えた。 「じゃあ俺は、監督が負け犬じゃないって証明すればいいんですね」  彰久は薗部に背を向け、 バッターボックスに向かった。 (しかし、ここまで上手くいってるのって、あいつらの能力あってのもんだし、監督も信頼してるからだろうな)  彰久は塁上にいる二人を見て、左のバッターボックスに入った。 「三園の大島、そして、浜川の添木とよくもまあ、あんあビックネームが二人も揃ったもんだ」  外していたマスクをつけながら、古賀は嫌みたらしそうに話しかけた。 「ただの偶然ですよ。まあ古賀さんが本当に言いたいのは、凄いのはこの二人だけでお前を含めたその他は誰も打てないと、いうことでしょうけど」 「だったらお前は打てるとでも?」  顔はマスクで見えないが、彰久をバカにしていることを簡単に感じ取れた。 「さあどうでしょうね。ただし、あの二人の化物をまとめてるのは俺だというのは、少しは考えておいた方がいいのでは?」  彰久は一言だけ忠告しておいた。



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