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決戦前

ー/ー



試合前日の土曜日の午後の練習。試合前日のということもあり、選手達はいつも以上に、練習に熱が入っていた。

 そんな中、伸哉と薗部の間には不穏な空気が漂っていた。

「裕二先輩。あの二人、今日一度も目を合わせていないよ」

「珍しいな。おまけに両方柄にもなくカッカしてるし」

「それどころか、伸哉君は今日はずっと投球練習場に、アッキーと、マッスーとこもっているからね」

 二蔵と日田、それに普段は他人のことをあまり気にかけない幸長までもが、この状況を心配していた。



 その頃投球練習場では益川が見守る中、伸哉と彰久は投球練習とピッチングの組み立てを考えていた。

「しっかし伸哉。お前はやっぱり凄えよ! つーか、なんでこんなに一級品な球ばっかなのに、使わなかったんだ?」

 ある程度投げ終えたところで、益川は感嘆の声を上げた。あまり多くの球種を扱えない益川からすると、多くの球種を、それもすべてトップレベルで投げれる伸哉のことが相当羨ましいようだ。

「使ってもよかったのですが、復帰してあまり経って無いので、基本の二球種に絞って鍛えようと思ってたからです」

「全く、そんなセリフ言ってみてーぜ!」

 益川は伸哉の背中を強く叩いた。一方で彰久は、

「えっと、この時はこれを使う時はこのコースで、さらびこの状況だったら使えなくてー……うーん」

 これまでとは大きくパターンを変えた配給に頭を悩ませていた。それを見て、益川は大きく溜息をついた。

「お前は去年から、リードに関しては全く変わってねえな。ったく。俺が去年どれほど苦労したことか……」

「益川先輩。今年は僕が泣かされてます」

「ちょっと酷くないっすか⁈ さっきから!」

 暴言を吐きまくる二人に、流石に彰久は怒りを露わにする。

「これでもこちとらかなり考えてるんです!! いくら考えが至らないからと言っても流石に酷いんじゃ無いっすか?」

「じゃあ、どういうリードをすんのか少し聞かせてくれないか?」

「いいですよ! 聞かせてあげますよ」

 彰久はドヤ顔で自分のリード論を語った。しかしその五分後に益川からチョップを脳天に喰らい、益川から罵声を浴びさせられながら、配給の組み立てを考え直す事となった。




 練習終了後。部室には益川と伸哉の二人が残っていた。

「ありがとうございます。先輩の配球、かなり参考になりました」

「いやいや。俺のなんてまだまだだよ」

 謙虚に否定しているが、照れ臭そうな顔を見る限り、嬉しいようだ。

「俺は負けてもなお、肩ぶっ壊すまで投げて得た経験と、ショボい球を上手く誤魔化すために、身につけたようなもんだ。そんな大それたもんではない」

「いや。理論を確立するのは難しいんですよ? 僕だって、配球は、割とアバウトな考えの方が多かったりしますし。でも、先輩はちゃんと理にかなっているけど、実践感覚とかもおろそかにしていないから、凄いと思いました」

 伸哉は真顔で、真剣な表情で言った。

「まったく。いい奴だなお前は」

 益川は照れ臭そうに言葉を吐き捨てた。




 少し日の傾き始めた夕方六時。

 何時ものように玄関のドアを開ける。玄関先で出迎えてくれたのは父親の隆也だった。

「おかえり伸哉」

「ただいま、お父さん」

 何気ない親子の会話を終えると、隆也は話を切り出した。

「明日の試合、仕事で観に行けないけど結果、楽しみにしてるからな」

「うん。期待してていいからね」

 伸哉が自信満々に話すと、隆也はそうかと返した。

「そういえば、明日対戦する菊洋の町田くんは凄い打者なんだろ? なんか秘策はあるのか?」

「えっとねー」

 伸哉はそう言うと作戦を話した。話を聞き終えた隆也はパソコンを取り出し、動画を見始めた。動画はサイトに挙げられていた町田の打撃動画だった。

 その動画を静かにじっと隆也は見つめる。そして見終えると、隆也は言った。

「それで多分抑えられる。町田くんは決め打ちタイプみたいだからハマるだろう。もちろん、伸哉の投げる球質次第だが」

「やっぱりそうだよね。じゃあ受けてもらっていい?」

 そう言うと伸哉は、バッグの中からグラブとボールを取り出した。隆也はわかったといい、グラブを受け取った。

 二人は庭のマウンドへと向かい、その後一時間近くボールを投げたり、ボールの投げ方について話したりし合った。




 深い眠りから目を覚まし、伸哉が時計を見ると、ライトの点いたディスプレイは、夜の一時三十分を表示していた。

「そうか。もう日曜日になったんだね」

 伸哉は窓の外で夜を照らす月を見ていた。

 勝たないといけない。相手が誰であろうと負けられない。僕が、エースだからだ。このチームのエースだからだ。

 伸哉は自分自身に言い聞かせて、自分を奮い立たせた。

「負けない。監督のお墨付きの相手だろうが誰だろうが、絶対に、勝つ」

 そうつぶやくと、伸哉は再び眠りへと入っていった。


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次のエピソードへ進む 幸長の妹、再び


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試合前日の土曜日の午後の練習。試合前日のということもあり、選手達はいつも以上に、練習に熱が入っていた。
 そんな中、伸哉と薗部の間には不穏な空気が漂っていた。
「裕二先輩。あの二人、今日一度も目を合わせていないよ」
「珍しいな。おまけに両方柄にもなくカッカしてるし」
「それどころか、伸哉君は今日はずっと投球練習場に、アッキーと、マッスーとこもっているからね」
 二蔵と日田、それに普段は他人のことをあまり気にかけない幸長までもが、この状況を心配していた。
 その頃投球練習場では益川が見守る中、伸哉と彰久は投球練習とピッチングの組み立てを考えていた。
「しっかし伸哉。お前はやっぱり凄えよ! つーか、なんでこんなに一級品な球ばっかなのに、使わなかったんだ?」
 ある程度投げ終えたところで、益川は感嘆の声を上げた。あまり多くの球種を扱えない益川からすると、多くの球種を、それもすべてトップレベルで投げれる伸哉のことが相当羨ましいようだ。
「使ってもよかったのですが、復帰してあまり経って無いので、基本の二球種に絞って鍛えようと思ってたからです」
「全く、そんなセリフ言ってみてーぜ!」
 益川は伸哉の背中を強く叩いた。一方で彰久は、
「えっと、この時はこれを使う時はこのコースで、さらびこの状況だったら使えなくてー……うーん」
 これまでとは大きくパターンを変えた配給に頭を悩ませていた。それを見て、益川は大きく溜息をついた。
「お前は去年から、リードに関しては全く変わってねえな。ったく。俺が去年どれほど苦労したことか……」
「益川先輩。今年は僕が泣かされてます」
「ちょっと酷くないっすか⁈ さっきから!」
 暴言を吐きまくる二人に、流石に彰久は怒りを露わにする。
「これでもこちとらかなり考えてるんです!! いくら考えが至らないからと言っても流石に酷いんじゃ無いっすか?」
「じゃあ、どういうリードをすんのか少し聞かせてくれないか?」
「いいですよ! 聞かせてあげますよ」
 彰久はドヤ顔で自分のリード論を語った。しかしその五分後に益川からチョップを脳天に喰らい、益川から罵声を浴びさせられながら、配給の組み立てを考え直す事となった。
 練習終了後。部室には益川と伸哉の二人が残っていた。
「ありがとうございます。先輩の配球、かなり参考になりました」
「いやいや。俺のなんてまだまだだよ」
 謙虚に否定しているが、照れ臭そうな顔を見る限り、嬉しいようだ。
「俺は負けてもなお、肩ぶっ壊すまで投げて得た経験と、ショボい球を上手く誤魔化すために、身につけたようなもんだ。そんな大それたもんではない」
「いや。理論を確立するのは難しいんですよ? 僕だって、配球は、割とアバウトな考えの方が多かったりしますし。でも、先輩はちゃんと理にかなっているけど、実践感覚とかもおろそかにしていないから、凄いと思いました」
 伸哉は真顔で、真剣な表情で言った。
「まったく。いい奴だなお前は」
 益川は照れ臭そうに言葉を吐き捨てた。
 少し日の傾き始めた夕方六時。
 何時ものように玄関のドアを開ける。玄関先で出迎えてくれたのは父親の隆也だった。
「おかえり伸哉」
「ただいま、お父さん」
 何気ない親子の会話を終えると、隆也は話を切り出した。
「明日の試合、仕事で観に行けないけど結果、楽しみにしてるからな」
「うん。期待してていいからね」
 伸哉が自信満々に話すと、隆也はそうかと返した。
「そういえば、明日対戦する菊洋の町田くんは凄い打者なんだろ? なんか秘策はあるのか?」
「えっとねー」
 伸哉はそう言うと作戦を話した。話を聞き終えた隆也はパソコンを取り出し、動画を見始めた。動画はサイトに挙げられていた町田の打撃動画だった。
 その動画を静かにじっと隆也は見つめる。そして見終えると、隆也は言った。
「それで多分抑えられる。町田くんは決め打ちタイプみたいだからハマるだろう。もちろん、伸哉の投げる球質次第だが」
「やっぱりそうだよね。じゃあ受けてもらっていい?」
 そう言うと伸哉は、バッグの中からグラブとボールを取り出した。隆也はわかったといい、グラブを受け取った。
 二人は庭のマウンドへと向かい、その後一時間近くボールを投げたり、ボールの投げ方について話したりし合った。
 深い眠りから目を覚まし、伸哉が時計を見ると、ライトの点いたディスプレイは、夜の一時三十分を表示していた。
「そうか。もう日曜日になったんだね」
 伸哉は窓の外で夜を照らす月を見ていた。
 勝たないといけない。相手が誰であろうと負けられない。僕が、エースだからだ。このチームのエースだからだ。
 伸哉は自分自身に言い聞かせて、自分を奮い立たせた。
「負けない。監督のお墨付きの相手だろうが誰だろうが、絶対に、勝つ」
 そうつぶやくと、伸哉は再び眠りへと入っていった。