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第4章〜What Mad Metaverse(発狂した多元宇宙)〜③

ー/ー



 屋上フロアの出入り口となっているドアを勢いよく開くと、そこには、オレの予想したとおりの光景がひろがっていた。

 フロアに確認できる人影は、三つ。

 放送・新聞部の後輩である浅倉桃(あさくらもも)
 吹奏楽部の顧問であり音楽専科の教師である桜木高大(さくらぎこうだい)――――――いや、それは、オレたちのセカイの人物のなまえであり、(もも)を監視するように見つめている彼は、ひと月ほど前に、この校舎屋上から逃亡したキルシュブリーテだろう。

 そして、もうひとり――――――。

 毎朝、鏡で見慣れた姿がそこにある。
 ただ、初めて目にするその相手は、黒髪のオレとは違い、金色に近い明るい髪の色が印象的だった。

 ドアが開く音に気づいたのか、三つの人影のうち、二つの顔がこちらを向いた。

「フン……()()()()()()()()いや……こっちのセカイでは、浅倉桃(あさくらもも)と言ったか……その端末で、貴様を呼び出してやろうと考えていたところだが……ちょうどイイ……手間が省けた」

 ヤツが、彼女のことを聞き慣れない横文字で呼ぶのを耳にして、

(やっぱり、(もも)と似た存在が向こうのセカイに居るのか……)

と感じつつ、意識をふたたび、対峙すべき相手に向けて、オレは答える。

「名前の割に、ハデな髪色の相手に、大切な後輩を任せておくわけにはいかないからな……悪いが、アンタたちの計画が終わる前に(もも)は返してもらうぞ!」

 語学に堪能な人間、もしくは、中二病をこじらせた経験のあるヤツには説明の必要は無いだろうが、シュヴァルツとは、日本語で「クロ」を意味するドイツ語圏の単語だ。

 ゲルブたちの会話で、なんとなく自分に近しい人間が関わっているのではないかと察していたが、自分の周辺で、「クロ」を意味する名前を持った人間は、オレの他にいなかった。

 並行世界を統合しようという中学生が考えそうな誇大妄想に近い計画を遂行しようという人物なら、その名に相応しく、全身を黒づくめで統一してほしかったが……。

 どうやら、シュヴァルツとオレ自身の思想・信条は、相容れないモノがあるらしい。

浅倉桃(あさくらもも)を返してもらう? ククク……そういう強気なセリフは、有利な状況にある者が語るモノだと思っていたが……どうやら、並行世界の住人には、我々の一般常識は通用しないらしい……これもまた、多様な価値観とやらの弊害だな」

 オレの姿をした金色(こんじき)の髪の男子学生風の人物がそう言うと、彼のかたわらに立つ教師風の相手は、一言一句に同意するといった感じで、どう見ても年下にしか見えない発言主の言葉を完全に肯定する。

「シュヴァルツの(おっしゃ)るとおりかと……我々のセカイ統合論の正しさが、また証明されましたね」

 年端のいかない男子生徒に対して、腰巾着なような態度を取る教職員というのは、オレの価値観を根本的に揺るがすモノだが、彼らのセカイでは、一般的なことなのだろうか?

 自分自身の経験則とは決して相容れないモノではあるが、年齢によらないのであれば、どんな要素が序列を決めているのか、彼らのセカイの価値観に、少しだけ興味を覚える。

 ただ、いまは彼らの独特な考え方や世界観に好奇心を抱いている場合ではない。
 どんな価値観を持っているのであれ、女子生徒を人質に取るようなヤツらの行動を見すごす理由はない。
 
河野(こうの)に続いて、(もも)まで……女子をタテにするような人間たちの理屈で進む計画を黙って見てはいられねぇな……もうすぐ、応援の捜査官たちが駆けつけてくる。この前のキルシュブリーテのように、(もも)を解放して、ここから逃げ出したらどうだ?」

 挑発的に発したオレの一言に、前回、ブルームとオレの前から逃亡を図ったキルシュブリーテの表情が(かす)かに歪むのが、離れた位置からでもわかった。

 一方、シュヴァルツは、相変わらず不遜な表情を崩さず、尊大な態度で言い放つ。
 
「口数の減らんヤツだな……ただ、我々とて、自分たちのメンバーが侮辱されたとあれば、相応の報いというもの受けてもらわねば、組織の沽券(こけん)に関わるからな……立場をわきまえない生意気な相手には、()()()()という行動も必要だろう」

 そう言うと、髪の色以外は、オレとそっくり同じ姿をしている相手は、懐から長さ十数センチはあろうかという銃火器のように見える物体を取り出したかと思うと、少ないモーションで、引き金を引いた。

「危ないっ!」

 すぐそばで起こった叫び声に反応するより早く、ゲルブが、オレを押し倒すようにして、身体ごと()し掛かってきた。
 彼のとっさの判断が功を奏したのか、倒れ込んだオレたちの数十センチ上の空間をを赤く伸びたレーザー光線のような粒子が切り裂く。

 その粒子の短い帯は、そのまま屋上フロアの出入り口付近の校舎を照射し、一瞬の沈黙のあと、鈍い音とともに、コンクリートの破片を周囲に四散させた。

「こんな場面で挑発的言動はマズいって……ほとんど丸腰なのに、良くあんな態度が取れるね」

 立場は違えど、どうやら、ゲルブもオレの言動が、現状に相応しいモノではないという考えにおいては、シュヴァルツと同じ意見のようだ。


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 屋上フロアの出入り口となっているドアを勢いよく開くと、そこには、オレの予想したとおりの光景がひろがっていた。
 フロアに確認できる人影は、三つ。
 放送・新聞部の後輩である|浅倉桃《あさくらもも》。
 吹奏楽部の顧問であり音楽専科の教師である|桜木高大《さくらぎこうだい》――――――いや、それは、オレたちのセカイの人物のなまえであり、|桃《もも》を監視するように見つめている彼は、ひと月ほど前に、この校舎屋上から逃亡したキルシュブリーテだろう。
 そして、もうひとり――――――。
 毎朝、鏡で見慣れた姿がそこにある。
 ただ、初めて目にするその相手は、黒髪のオレとは違い、金色に近い明るい髪の色が印象的だった。
 ドアが開く音に気づいたのか、三つの人影のうち、二つの顔がこちらを向いた。
「フン……|プ《・》|フ《・》|ィ《・》|ル《・》|ズ《・》|ィ《・》|ッ《・》|ヒ《・》いや……こっちのセカイでは、|浅倉桃《あさくらもも》と言ったか……その端末で、貴様を呼び出してやろうと考えていたところだが……ちょうどイイ……手間が省けた」
 ヤツが、彼女のことを聞き慣れない横文字で呼ぶのを耳にして、
(やっぱり、|桃《もも》と似た存在が向こうのセカイに居るのか……)
と感じつつ、意識をふたたび、対峙すべき相手に向けて、オレは答える。
「名前の割に、ハデな髪色の相手に、大切な後輩を任せておくわけにはいかないからな……悪いが、アンタたちの計画が終わる前に|桃《もも》は返してもらうぞ!」
 語学に堪能な人間、もしくは、中二病をこじらせた経験のあるヤツには説明の必要は無いだろうが、シュヴァルツとは、日本語で「クロ」を意味するドイツ語圏の単語だ。
 ゲルブたちの会話で、なんとなく自分に近しい人間が関わっているのではないかと察していたが、自分の周辺で、「クロ」を意味する名前を持った人間は、オレの他にいなかった。
 並行世界を統合しようという中学生が考えそうな誇大妄想に近い計画を遂行しようという人物なら、その名に相応しく、全身を黒づくめで統一してほしかったが……。
 どうやら、シュヴァルツとオレ自身の思想・信条は、相容れないモノがあるらしい。
「|浅倉桃《あさくらもも》を返してもらう? ククク……そういう強気なセリフは、有利な状況にある者が語るモノだと思っていたが……どうやら、並行世界の住人には、我々の一般常識は通用しないらしい……これもまた、多様な価値観とやらの弊害だな」
 オレの姿をした|金色《こんじき》の髪の男子学生風の人物がそう言うと、彼のかたわらに立つ教師風の相手は、一言一句に同意するといった感じで、どう見ても年下にしか見えない発言主の言葉を完全に肯定する。
「シュヴァルツの|仰《おっしゃ》るとおりかと……我々のセカイ統合論の正しさが、また証明されましたね」
 年端のいかない男子生徒に対して、腰巾着なような態度を取る教職員というのは、オレの価値観を根本的に揺るがすモノだが、彼らのセカイでは、一般的なことなのだろうか?
 自分自身の経験則とは決して相容れないモノではあるが、年齢によらないのであれば、どんな要素が序列を決めているのか、彼らのセカイの価値観に、少しだけ興味を覚える。
 ただ、いまは彼らの独特な考え方や世界観に好奇心を抱いている場合ではない。
 どんな価値観を持っているのであれ、女子生徒を人質に取るようなヤツらの行動を見すごす理由はない。
「|河野《こうの》に続いて、|桃《もも》まで……女子をタテにするような人間たちの理屈で進む計画を黙って見てはいられねぇな……もうすぐ、応援の捜査官たちが駆けつけてくる。この前のキルシュブリーテのように、|桃《もも》を解放して、ここから逃げ出したらどうだ?」
 挑発的に発したオレの一言に、前回、ブルームとオレの前から逃亡を図ったキルシュブリーテの表情が|微《かす》かに歪むのが、離れた位置からでもわかった。
 一方、シュヴァルツは、相変わらず不遜な表情を崩さず、尊大な態度で言い放つ。
「口数の減らんヤツだな……ただ、我々とて、自分たちのメンバーが侮辱されたとあれば、相応の報いというもの受けてもらわねば、組織の|沽券《こけん》に関わるからな……立場をわきまえない生意気な相手には、|わ《・》|か《・》|ら《・》|せ《・》という行動も必要だろう」
 そう言うと、髪の色以外は、オレとそっくり同じ姿をしている相手は、懐から長さ十数センチはあろうかという銃火器のように見える物体を取り出したかと思うと、少ないモーションで、引き金を引いた。
「危ないっ!」
 すぐそばで起こった叫び声に反応するより早く、ゲルブが、オレを押し倒すようにして、身体ごと|伸《の》し掛かってきた。
 彼のとっさの判断が功を奏したのか、倒れ込んだオレたちの数十センチ上の空間をを赤く伸びたレーザー光線のような粒子が切り裂く。
 その粒子の短い帯は、そのまま屋上フロアの出入り口付近の校舎を照射し、一瞬の沈黙のあと、鈍い音とともに、コンクリートの破片を周囲に四散させた。
「こんな場面で挑発的言動はマズいって……ほとんど丸腰なのに、良くあんな態度が取れるね」
 立場は違えど、どうやら、ゲルブもオレの言動が、現状に相応しいモノではないという考えにおいては、シュヴァルツと同じ意見のようだ。