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第1章〜ヒロインたちが並行世界で待っているようですよ〜⑬

ー/ー



 ルートC・浅倉桃(あさくらもも)の場合

 学生生活で、一度あるかないかというドラマティックな場面を吹奏楽部の顧問教師に邪魔され、

(おいおい、先生……生徒のために、空気を読んでくれよ)

という不満をなんとか隠し通したオレに対して、河野雅美(こうのまさみ)は、

「あの……返事をもらうのは、いますぐでなくてイイから……」

と、言い残して、通学カバンを手にすると、そそくさと教室を去ってしまった。
 廊下に飛び出した彼女を追ったが、すでに河野(こうの)は、桜木先生とともに、音楽室の方に歩き出していたため、声をかけるのは、なんとなく(はばか)られるような気がした。

 ただ、廊下を歩いていくふたりの姿を見送る時に、桜木先生の方が、チラリとオレの方を振り向いたのが、気にはなったのだが……。

 それでも、自分が気になっていた女子から、想いを告げられた、という事実は、保健体育の授業で習った自己肯定感や承認欲求といったオレの心理的欲求を満たしてくれるのに十分だった。

 自分は、中学生になった頃からこれまで、自身の存在というモノに、まったく自信を持てなかったのだが、別々のセカイ線ながら、幼なじみの三葉(みつば)との交際をスタートさせ、クラス委員の河野(こうの)から友達以上の関係になっている現状をみるに、
 
(もしかして、オレって、結構モテるのか……?)

という勘違いをしてしまうのも、仕方ないことではないだろうか?

 そんな風に、盆と正月どころか、クリスマスとハロウィンが一緒に来たかのような幸運に恵まれ、調子に乗った(という自覚は、自分にもあった)オレは、他にも魅力的な()()()はないかと探索を続ける。

 後頭部をなでて、もうすっかり操作に慣れた『セカイ・システム』を呼び出すと、目の前には、いつものように、無数の惑星(ほし)があらわれた。

 せっかくだから、自分と親しく話している女子生徒との仲を深めてみようと考えたオレは、最初に、この『セカイ・システム』にアクセスした頃のことを思い出す。

(そう言えば、(もも)が同居人になっている惑星(ほし)があったな……)

 上級生に対しても物怖じせず発言し、ときに生意気な印象を受ける浅倉桃(あさくらもも)なのだが、そんな下級生が、自分のことを「お兄ちゃん……」と、呼ぶセカイも悪くはない。

 思わず、ほおが緩むのを感じながら、オレは、名前を付けていた(もも)と同居しているセカイになっている惑星(ほし)を見つけ出して、『ルートC・浅倉桃(あさくらもも)』と変更することにした。

 とは言え、このルートでは、下級生との仲をさらに深めようとは考えていない。
 
 中学生の頃から、親しく話す仲でもあるし、なんなら、三葉(みつば)河野(こうの)以上に、互いを良く知る存在とも言えるが、それだけに、スキあらば、オレのことをイジり、非モテぶりをからかってくる彼女が、自分のことを異性として意識するようなことなど、あり得ないと感じているからだ。

 とは言え、生まれてから、一人っ子で育ってきた自分に年齢の近い妹のような存在が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、かなり惹かれるモノがある。

 そんなわけで、妹的存在の後輩と、ひとつ屋根の下で暮らすセカイを堪能するために、オレは、『ルートC』と名付けた惑星(ほし)に降り立つ。

 年齢の近い妹的存在が同居する暮らしとはどんなものか、期待に胸を震わせながら、しばらく、その生活を体験してみたのだが……。

 こことは別のセカイの三葉(みつば)と異なり、朝方に相手を起こすのは、オレの役目だった。

「起きろ、(もも)! 朝だぞ……」

 そう言ってから、彼女のベッドに近づき、掛け布団の毛布を剥ぎ取ると、

(さむ)っ! なにすんの!?」

と、(もも)は絶叫したあと、手元にあった枕を思い切りオレに投げつけてきた。
 
 呆然とするこちらの手から毛布をひったくて、ふたたびベッドで丸くなる同居人に対して、ため息をつきながら、オレは、顔面にクリーンヒットした枕を床から拾い上げて声をかける。

「そろそろ降りてこないと、ほんとに間に合わなくなるぞ」

 そう言い残して、ベッドに枕を置き、(もも)を待つことなく、リビングに戻ることにする。

 朝食を食べると、遅刻ギリギリのタイミングになるので、コーヒーとトーストを準備してダイニングテーブルに置く。

 ちなみに、朝は和食派のオレは、とっくに味噌汁、白ご飯、納豆の朝食を済ませている。
 また、前日のうちに用意しておいたおかずを詰め合わせたお弁当も、二人分の準備が整っている。

 母親が仕事で、朝は早く、帰りが遅くなることが多いため、小学生の頃から料理することには慣れているので、これくらいのことは、苦にならないのだが……。

 そうしているうちに、(もも)が自室として使っている二階の部屋から降りてきた。

 低血圧のためか、それとも、冬の寒さのためか、寝起きから不機嫌オーラ全開の同居人は、こちらを一瞥(いちべつ)することもないまま、ダイニングチェアに腰掛け、チビチビとトーストにかじりついている。

 せめて、可愛らしいパジャマ姿の萌え袖で、コーヒーカップに口を付けているなら、少しは目の保養になろうというものだが――――――。
 残念なことに、目の前の下級生かつ同居人は、可愛げのないシャツ姿で、ズルズルとコーヒーを(すす)っている。

(なんか、思ってたのと違う……)
 
 いまだ、半覚醒状態の(もも)の姿をヤレヤレと眺めながら、オレは、今朝、何度目かになるため息をついて、登校の準備を整えることにした。


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 ルートC・|浅倉桃《あさくらもも》の場合
 学生生活で、一度あるかないかというドラマティックな場面を吹奏楽部の顧問教師に邪魔され、
(おいおい、先生……生徒のために、空気を読んでくれよ)
という不満をなんとか隠し通したオレに対して、|河野雅美《こうのまさみ》は、
「あの……返事をもらうのは、いますぐでなくてイイから……」
と、言い残して、通学カバンを手にすると、そそくさと教室を去ってしまった。
 廊下に飛び出した彼女を追ったが、すでに|河野《こうの》は、桜木先生とともに、音楽室の方に歩き出していたため、声をかけるのは、なんとなく|憚《はばか》られるような気がした。
 ただ、廊下を歩いていくふたりの姿を見送る時に、桜木先生の方が、チラリとオレの方を振り向いたのが、気にはなったのだが……。
 それでも、自分が気になっていた女子から、想いを告げられた、という事実は、保健体育の授業で習った自己肯定感や承認欲求といったオレの心理的欲求を満たしてくれるのに十分だった。
 自分は、中学生になった頃からこれまで、自身の存在というモノに、まったく自信を持てなかったのだが、別々のセカイ線ながら、幼なじみの|三葉《みつば》との交際をスタートさせ、クラス委員の|河野《こうの》から友達以上の関係になっている現状をみるに、
(もしかして、オレって、結構モテるのか……?)
という勘違いをしてしまうのも、仕方ないことではないだろうか?
 そんな風に、盆と正月どころか、クリスマスとハロウィンが一緒に来たかのような幸運に恵まれ、調子に乗った(という自覚は、自分にもあった)オレは、他にも魅力的な|セ《・》|カ《・》|イ《・》はないかと探索を続ける。
 後頭部をなでて、もうすっかり操作に慣れた『セカイ・システム』を呼び出すと、目の前には、いつものように、無数の|惑星《ほし》があらわれた。
 せっかくだから、自分と親しく話している女子生徒との仲を深めてみようと考えたオレは、最初に、この『セカイ・システム』にアクセスした頃のことを思い出す。
(そう言えば、|桃《もも》が同居人になっている|惑星《ほし》があったな……)
 上級生に対しても物怖じせず発言し、ときに生意気な印象を受ける|浅倉桃《あさくらもも》なのだが、そんな下級生が、自分のことを「お兄ちゃん……」と、呼ぶセカイも悪くはない。
 思わず、ほおが緩むのを感じながら、オレは、名前を付けていた|桃《もも》と同居しているセカイになっている|惑星《ほし》を見つけ出して、『ルートC・|浅倉桃《あさくらもも》』と変更することにした。
 とは言え、このルートでは、下級生との仲をさらに深めようとは考えていない。
 中学生の頃から、親しく話す仲でもあるし、なんなら、|三葉《みつば》や|河野《こうの》以上に、互いを良く知る存在とも言えるが、それだけに、スキあらば、オレのことをイジり、非モテぶりをからかってくる彼女が、自分のことを異性として意識するようなことなど、あり得ないと感じているからだ。
 とは言え、生まれてから、一人っ子で育ってきた自分に年齢の近い妹のような存在が、|自《・》|宅《・》|に《・》|同《・》|居《・》|し《・》|て《・》|い《・》|る《・》|と《・》|い《・》|う《・》|シ《・》|チ《・》|ュ《・》|エ《・》|ー《・》|シ《・》|ョ《・》|ン《・》は、かなり惹かれるモノがある。
 そんなわけで、妹的存在の後輩と、ひとつ屋根の下で暮らすセカイを堪能するために、オレは、『ルートC』と名付けた|惑星《ほし》に降り立つ。
 年齢の近い妹的存在が同居する暮らしとはどんなものか、期待に胸を震わせながら、しばらく、その生活を体験してみたのだが……。
 こことは別のセカイの|三葉《みつば》と異なり、朝方に相手を起こすのは、オレの役目だった。
「起きろ、|桃《もも》! 朝だぞ……」
 そう言ってから、彼女のベッドに近づき、掛け布団の毛布を剥ぎ取ると、
「|寒《さむ》っ! なにすんの!?」
と、|桃《もも》は絶叫したあと、手元にあった枕を思い切りオレに投げつけてきた。
 呆然とするこちらの手から毛布をひったくて、ふたたびベッドで丸くなる同居人に対して、ため息をつきながら、オレは、顔面にクリーンヒットした枕を床から拾い上げて声をかける。
「そろそろ降りてこないと、ほんとに間に合わなくなるぞ」
 そう言い残して、ベッドに枕を置き、|桃《もも》を待つことなく、リビングに戻ることにする。
 朝食を食べると、遅刻ギリギリのタイミングになるので、コーヒーとトーストを準備してダイニングテーブルに置く。
 ちなみに、朝は和食派のオレは、とっくに味噌汁、白ご飯、納豆の朝食を済ませている。
 また、前日のうちに用意しておいたおかずを詰め合わせたお弁当も、二人分の準備が整っている。
 母親が仕事で、朝は早く、帰りが遅くなることが多いため、小学生の頃から料理することには慣れているので、これくらいのことは、苦にならないのだが……。
 そうしているうちに、|桃《もも》が自室として使っている二階の部屋から降りてきた。
 低血圧のためか、それとも、冬の寒さのためか、寝起きから不機嫌オーラ全開の同居人は、こちらを|一瞥《いちべつ》することもないまま、ダイニングチェアに腰掛け、チビチビとトーストにかじりついている。
 せめて、可愛らしいパジャマ姿の萌え袖で、コーヒーカップに口を付けているなら、少しは目の保養になろうというものだが――――――。
 残念なことに、目の前の下級生かつ同居人は、可愛げのないシャツ姿で、ズルズルとコーヒーを|啜《すす》っている。
(なんか、思ってたのと違う……)
 いまだ、半覚醒状態の|桃《もも》の姿をヤレヤレと眺めながら、オレは、今朝、何度目かになるため息をついて、登校の準備を整えることにした。