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第3章〜逆転世界の電波少女〜③

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 ももとの会話のように、情報収集を試みてやぶ蛇を突くことを恐れたオレは、それ以降、より慎重な言動を取るようになった。 「『ラディカル』のメンバーは、トリップの能力を持っている貴方あなたに執着していると思うから、並行世界での行動については、十分に気をつけてね」  このブルームの認識が正しいのであれば、あの日のキルシュブリーテのように、『ラディカル』のヤツらが、オレの周りの人間に接触を図ってくる可能性は高いと思う。  そうしたこともあって、一度、その身を危険にさらしてしまった河野雅美こうのまさみの住むNo.173205080(『ルートB』)のセカイへの移動は、なるべく避けようと考えている。  自分のそばに居ることで、これ以上、河野こうのを危ない目に遭わせないようにするには、その方が良いだろう。  そうすると、必然的にオレの活動の場は、自宅でもももを通じて、周囲の変化を感じ取りやすい、No.223620679(『ルートC』)のセカイか、自分との関係性が濃い三葉みつばが存在するNo.141421356(『ルートA』)のセカイに絞られる。  ももとの会話で冷や汗を流した翌日の放課後、放送・新聞部の活動を終えたオレは、自宅に戻って、セカイ・システムにアクセスする。  ブルームやゲルブの話しを聞き、キルシュブリーテと遭遇して、身近な人間の危機に直面して以降、いくつもの惑星ほしを視覚的に確認できるこの光景に、オレは特別な想いを抱くようになった。  それぞれの惑星ほしの中でも多くのモノが、美しく青く輝いているということもあるが、そのひとつひとつには、自分が生まれてから十七年間を過ごしてきたセカイと同じくらいの数の人間が暮らし、日々の生活を送っている。    そのすべての人たちが、自分たちの人生を肯定し、幸福な生活をしているとは言い切れないかも知れないが……。  それでも、数え切れないほど多くの人たちの想いを考慮することなく、他人が勝手に、数多あまたあるセカイをたったひとつのものに統合することなど、許されることではないだろう。 (シュヴァルツとかいうリーダーや、『ラディカル』のメンバーは、いったい、なんの権利があって、セカイ統合なんて無茶な計画を立てるんだ……)  彼らに対して、憤りに近い感情を覚えながら、オレは、『ルートA』と名前を付けておいた惑星ほしを選択し、そのセカイに舞い降りる。  中学生以降は、イベント好きの陽キャラな性格が全面に出てきた三葉みつばは、学校行事には積極的に参加するものの、それ以外の期間は、自身の歌手活動や情報発信にチカラを注いでいて、通常の授業日などは、(進級に差し障りがない程度に)自主休学や在宅学習を選択することも多かった。  この日も、彼女が学校に登校していなかったことを確認したオレは、スマホのメッセージアプリを起動し、三葉みつばにメッセージを送る。  ==============  お疲れさま  今日の活動は、どんな感じ?  時間があったら、  返信してくれる嬉しい  ==============  送信ボタンをタップすると、すぐにメッセージに既読がつき、続いて彼女からの返信が届いた。  ==============  レコーディングが終わって  いま、帰ってきた!  ねぇ、ちょっと話せない?    ==============  三葉みつばからの返信メッセージを確認したオレが、即座に「OK!」のスタンプを返すと、すぐに  ♪ トゥルトゥ・トゥルトゥ・トゥルトゥ・トゥルルン   と、聞き慣れた着信音が鳴った。  1コールで応答ボタンをタップすると、ディスプレイに小学生の頃から見慣れた近所に住む幼なじみがあらわれ、着信音以上に聞き慣れたその声がスピーカーを通じて聞こえてきた。 「ちょいと、お兄さん! 彼女の帰り際を狙って、メッセージを送って来るなんて、どんだけわたしのこと好きなん?」  その弾んだトーンの声に心がなごみ、朗らかな彼女の表情を目にすると、こちらの声も穏やかなものになる。 「今日は学校で会えなかったから、どうしてるのかと思ってさ……」    そう返答すると、少し驚いた表情の彼女は、 「そうなんだ! 実は……わたしも、帰ってきたら雄司ゆうじの声が聞きたいと思ってたんだ……なんだか、テレパシーみたいで嬉しい……」 と言ったあと、はにかむように微笑んでクスクスと笑う。  その笑顔に、ドキリと鼓動が早くなるのを感じ、同時に、チクリと胸が痛むのを感じた。  オレは、数日前、屈託なく笑う彼女の表情を曇らせてしまったのだ  その事実から目を逸らすように、オレは、話題を変える。   「そうか……それなら良かった……ところで、最近、周りで変わったことはなかったか? 普段とは違った言動をする人が居るとか……」  慎重に行動をしようと考えながら、とっさのことで、前日のももに対する会話と、まったく同じ内容に触れてしまったことを後悔していると、彼女は、口元に指を添えながら、 「そうだなぁ……変わったことと言えば、最近、見たおかしな夢のことかな?」 と、またも、オレの心臓に刺さる言葉を返してきた。



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