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第3章〜逆転世界の電波少女〜⑦

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 クリーブラット――――――。  ブルームやゲルブが追っていた、キルシュブリーテに続いて、またも横文字っぽい響きの名前ということは……。   「アンタも、『ラディカル』やシュヴァルツとかいうヤツの仲間なのか?」  そのことを考えただけで、身体は強張り、緊張感が全身に走る。  そかし、身構えながら、彼女にたずねると、なぜか少しだけ寂しそうな表情を見せたクリーブラットと名乗る少女は、言葉とは裏腹に、感情を押し殺したかのように返答した。 「アナタの口から、シュヴァルツや『ラディカル』の名前が出るなんて、なんだか面白い……でも、残念ながら、わたしは、『ラディカル』のメンバーじゃないわ」 「ラ、ラディカルのメンバーじゃないなら、どうして……?」  オレが疑問の言葉を口にすると、三葉みつばの姿をした少女は、間髪を入れずに答えを返す。 「言っちゃ悪いけど、わたしにとって、シュヴァルツの考えているセカイの統合も、それを阻止しようとしている銀河連邦の捜査官の働きも、どうでも良いことなんだ。わたしが、気にしているのは、平行世界を好き勝手に移動しながら、周りに色んな影響を与え続けているアナタが、どんなヒトなのかってこと」 「なんだって? オレのこと……?」  いったい、どういうことだろう?  たしかに、ブルームたち捜査官と出会う前は、勝手気ままに平行世界を渡り歩きながら、を求めるように行動していたが……。  ただ、シュヴァルツや『ラディカル』のメンバーのように、他のセカイの人たちの想いを考慮せず、勝手に統合したりするような大それたことを計画したり、考えたりしているわけではない。    それでも――――――。  オレの無自覚な行動が招いた結果を、彼女は問題視しているということなのだろうか? 「なにか、思案しているような顔つきということは、思い当たる節はあるようね……」  鋭い視線をこちらに向けながら、クリーブラットは問いかけてくる。  バレないようにこっそりとしていたイタズラが見つかってしまったような居心地の悪さを感じながらも、オレは、素直に彼女の言葉に応えることにした。 「オレは、好き勝手にセカイを移動して、それぞれのセカイで自分に都合の良いを楽しもうとしていた……それが、結果として、三葉みつば河野こうのももを傷つけることになってしまった。そのことは、本当に申し訳ないと思っている」  ブルームやゲルブたちの話しを聞いてから、ずっと胸の中にある罪悪感を再認識しながら、自分が傷つけてしまった幼なじみと同じ姿をした少女に返答する。  捜査官を名乗るふたりは、『トリップ』の能力を扱い慣れておらず、その行動に悪意は無いと判断したのか、オレに対して気を使うような素振りをみせてくれていたのだが……。  三葉みつばとそっくりの容姿のクリーブラットは、オレの自己憐憫など相手にする価値もないといった感じで冷たく突き放すように言い放つ。 「そう……それで、罪悪感を抱えている感じを見せれば、同情してもらえると思ったの?」 「いや、同情を引こうとか、そんなつもりは……」 「だったら、なにか、自分の行為を償う方法を考えているの?」 「い、いや、それは……」  河野こうのに危害を加えようとしたキルシュブリーテの行動の一部始終を目撃していたオレは、彼ら『ラディカル』の目論見を阻止するのに協力することが、これまでの自分の軽率な行動を償う方法になるのではないかと、漠然と考えていたのだが……。  あらためて思えば、河野こうのの身を危険にさらし、三葉みつばももを傷つけることになった自身の行為をそれだけで償えるのかと問われると、自信を持って答えることはできない。  動揺するオレを見透かすように、クリーブラットは、確認するように淡々と問いかけてくる。 「まあ、答えられないよね。大切なヒトの気持ちを傷つけた代償が、軽い気持ちで償えるほど甘くはないってことくらい、覚悟はできているんでしょう?」  詰問するように問い詰める彼女の言葉に、オレはただ、うなだれ、うなずくことしかできない。  そんなオレに、幼なじみと同じ顔立ちの少女は、とどめを刺すように語りかけてきた。 「アナタと親しくしている白井三葉しろいみつばが、男性の裏切りにどれだけ傷つくか……彼女の両親のことを知っているアナタなら、理解できないハズはないよね?」  その一言は、狙いすましたナイフの一撃のように、オレの心にグサリと突き刺さった。  父親の不貞行為をマスメディアに面白おかしく書き立てられた三葉みつばは、心に傷を負った状態で、オレたちの住む街に引っ越してきた。    まだ、子どもだったので、大人の事情など詳しくわからなかったが……。  春休みのあの日、寂しそうに自宅前でスマホを触っていた彼女の姿は、病気で父親を亡くして、いつも寂しい想いをしていた自分自身の姿を見るようで、他人とは思えず、思わず声をかけて、カラオケに誘った。  その日から、密かに三葉みつばのことは、自分が一番よく理解していると自負していたのだが――――――。  オレは、そんな彼女を裏切ってしまったのだ……。



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 クリーブラット――――――。  ブルームやゲルブが追っていた、キルシュブリーテに続いて、またも横文字っぽい響きの名前ということは……。   「アンタも、『ラディカル』やシュヴァルツとかいうヤツの仲間なのか?」  そのことを考えただけで、身体は強張り、緊張感が全身に走る。  そかし、身構えながら、彼女にたずねると、なぜか少しだけ寂しそうな表情を見せたクリーブラットと名乗る少女は、言葉とは裏腹に、感情を押し殺したかのように返答した。 「アナタの口から、シュヴァルツや『ラディカル』の名前が出るなんて、なんだか面白い……でも、残念ながら、わたしは、『ラディカル』のメンバーじゃないわ」 「ラ、ラディカルのメンバーじゃないなら、どうして……?」  オレが疑問の言葉を口にすると、三葉みつばの姿をした少女は、間髪を入れずに答えを返す。 「言っちゃ悪いけど、わたしにとって、シュヴァルツの考えているセカイの統合も、それを阻止しようとしている銀河連邦の捜査官の働きも、どうでも良いことなんだ。わたしが、気にしているのは、平行世界を好き勝手に移動しながら、周りに色んな影響を与え続けているアナタが、どんなヒトなのかってこと」 「なんだって? オレのこと……?」  いったい、どういうことだろう?  たしかに、ブルームたち捜査官と出会う前は、勝手気ままに平行世界を渡り歩きながら、を求めるように行動していたが……。  ただ、シュヴァルツや『ラディカル』のメンバーのように、他のセカイの人たちの想いを考慮せず、勝手に統合したりするような大それたことを計画したり、考えたりしているわけではない。    それでも――――――。  オレの無自覚な行動が招いた結果を、彼女は問題視しているということなのだろうか? 「なにか、思案しているような顔つきということは、思い当たる節はあるようね……」  鋭い視線をこちらに向けながら、クリーブラットは問いかけてくる。  バレないようにこっそりとしていたイタズラが見つかってしまったような居心地の悪さを感じながらも、オレは、素直に彼女の言葉に応えることにした。 「オレは、好き勝手にセカイを移動して、それぞれのセカイで自分に都合の良いを楽しもうとしていた……それが、結果として、三葉みつば河野こうのももを傷つけることになってしまった。そのことは、本当に申し訳ないと思っている」  ブルームやゲルブたちの話しを聞いてから、ずっと胸の中にある罪悪感を再認識しながら、自分が傷つけてしまった幼なじみと同じ姿をした少女に返答する。  捜査官を名乗るふたりは、『トリップ』の能力を扱い慣れておらず、その行動に悪意は無いと判断したのか、オレに対して気を使うような素振りをみせてくれていたのだが……。  三葉みつばとそっくりの容姿のクリーブラットは、オレの自己憐憫など相手にする価値もないといった感じで冷たく突き放すように言い放つ。 「そう……それで、罪悪感を抱えている感じを見せれば、同情してもらえると思ったの?」 「いや、同情を引こうとか、そんなつもりは……」 「だったら、なにか、自分の行為を償う方法を考えているの?」 「い、いや、それは……」  河野こうのに危害を加えようとしたキルシュブリーテの行動の一部始終を目撃していたオレは、彼ら『ラディカル』の目論見を阻止するのに協力することが、これまでの自分の軽率な行動を償う方法になるのではないかと、漠然と考えていたのだが……。  あらためて思えば、河野こうのの身を危険にさらし、三葉みつばももを傷つけることになった自身の行為をそれだけで償えるのかと問われると、自信を持って答えることはできない。  動揺するオレを見透かすように、クリーブラットは、確認するように淡々と問いかけてくる。 「まあ、答えられないよね。大切なヒトの気持ちを傷つけた代償が、軽い気持ちで償えるほど甘くはないってことくらい、覚悟はできているんでしょう?」  詰問するように問い詰める彼女の言葉に、オレはただ、うなだれ、うなずくことしかできない。  そんなオレに、幼なじみと同じ顔立ちの少女は、とどめを刺すように語りかけてきた。 「アナタと親しくしている白井三葉しろいみつばが、男性の裏切りにどれだけ傷つくか……彼女の両親のことを知っているアナタなら、理解できないハズはないよね?」  その一言は、狙いすましたナイフの一撃のように、オレの心にグサリと突き刺さった。  父親の不貞行為をマスメディアに面白おかしく書き立てられた三葉みつばは、心に傷を負った状態で、オレたちの住む街に引っ越してきた。    まだ、子どもだったので、大人の事情など詳しくわからなかったが……。  春休みのあの日、寂しそうに自宅前でスマホを触っていた彼女の姿は、病気で父親を亡くして、いつも寂しい想いをしていた自分自身の姿を見るようで、他人とは思えず、思わず声をかけて、カラオケに誘った。  その日から、密かに三葉みつばのことは、自分が一番よく理解していると自負していたのだが――――――。  オレは、そんな彼女を裏切ってしまったのだ……。



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