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第1章〜ヒロインたちが並行世界で待っているようですよ〜⑤

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 その日から、色々なセカイを巡るオレの旅が始まった。  後頭部を二度なでれば、目の前には、宇宙空間から俯瞰するような感覚で、オレたちが住む美しい惑星ほしがあらわれる。 『セカイ・システム』と勝手に名付けたスクリーンの巨大な惑星をバツ印で消すと、いくつもの天球が表示されたサムネイル画面があらわれる。  動画サイトで好みの映像を選択するように訪問する惑星ほしを選んで、平行世界を観光するのは、夏休み中のオレの最大の楽しみになった。  チェックマークを付けたままにしている、(オレ自身の認識では)本来のセカイである惑星から少し離れた位置に、自分たちの住むセカイより、美しく見える惑星ほしがあったので、観光がてらに降り立ってみた。    そのセカイは、自分たちの惑星ほしでも数年前に世界的な感染爆発パンデミックを発生させ、猛威をふるった感染症が一向に収まらず、人類の半数以上が亡くなるという恐ろしい社会だった。 (アジア大陸が美しく見えたのは、人口の急激な減少と人間の社会活動が極端に減ったので、大気汚染が発生しなかったためらしい)  また、チェックマークから右側や左側に大きく離れると、いくつかの惑星ほしでは、80年前の世界大戦で、自分たちの国が勝利を収めていたり、徹底抗戦を続けたというセカイがあった。    先の大戦で勝利を収めた自分たちの国は、ドイツとともに、アメリカ大陸を東西分割して支配しているという。そのセカイでの歴史や政治経済の教科書によれば、日本語も世界中で、なかば公用語として利用されているとのことだ。  いっぽう、自分たちの国が徹底抗戦をセカイでは、逆に日本列島が、連合国に分割統治され、北海道や東北地方は、ソビエトという世界史の教科書でしか目にしたことのない国が支配する地域となっていた。  さらに、アメリカとソビエトによる対立の激化で核戦争が起こり、人類の大半が死滅しているという恐ろしいセカイもあり、その惑星ほしからは、すぐに立ち去ることを決断した。    どのセカイにおいても、自宅が、元のセカイと同じ場所にあるとは限らないため、自分のセカイとかけ離れた社会や政治体制になっている惑星ほしでは、行動に慎重さが求められたが、それらのセカイで、歴史の教科書の近代や現代の内容を確認するのは、それなりに楽しいものだ。  ただ、それでも、生まれてから十七年もの間、住み慣れたセカイがある身としては、自分たちの住む惑星ほしと大きく価値観の異なる社会や政治体制のセカイに長く居座ることは難しい。    やはり、自分が住みやすいと感じるセカイは、民主主義を継続している自分たちの国なのだろう。  そして、数えきれないほど多くの惑星ほしが表示されるサムネイル画面において、チェックマークを付けた惑星ほしに近い位置にある惑星は、自分の知るセカイと非常に近しい社会を構成していることがわかった。 (ニキシー管に数値が表示され、自分のセカイとの乖離具合を計測できる機器があれば便利なのだが、残念ながら、このセカイは、オレの好きなゲームやアニメのようにはいかないらしい)    また、時間軸については、どの惑星ほし(=セカイ)でも、同じ時を過ごしている。  つまり、自分のセカイの8月1日は、同じ年の同じ日、同じ時刻なのだ。  そのことが理解できてからは、オレが、『デフォルトのセカイ』と名付けた自分たちの惑星ほしのご近所を回っている。 (感染症が、まん延しているセカイが、自分たちの惑星ほしと比較的近い位置にあったことは、恐ろしく感じたが……)  チェックマーク付きの『デフォルトのセカイ』近辺では、小学生以来の付き合いである、白井三葉しろいみつば黄田冬馬きだとうま、中学生のときに部活を通じて知り合った、荒金桜花あらがねおうか先輩と後輩の浅倉桃あさくらもも、それに、高校に進学してから同じクラスになった河野雅美こうのまさみ山竹碧やまたけあおいなど、オレの良く知るメンバーが、自分と同じく、である、あいらんど高校に通っている。  夏休み中に行った綿密な調査で、そうしたことが判明してから、多元世界のようすを少しづつ、覗き見するように訪問するのは楽しかった。  結局のところ、生まれ故郷でもあり、幼稚園・保育園から小・中・高校、そして、大学まで設立され、島内で高等教育を授かることのできる、住み慣れた環境の人工島で、顔なじみのメンバーと過ごすことが、自分の性格には合っているようだ。  そして、夏休みが明け、本格的に学業生活が再スタートする頃から、『セカイ・システム』のサムネイル画面で、お気に入りの惑星ほしのいくつかにブックマークと名前を付けたオレは、少しづつ平行世界への介入をはじめてみた。  最初は、夏休み初期に《ももが同居人》と名付けたセカイで、後輩女子と同居する生活を楽しむことから試してみる。  学校の部活動では、 「お兄ちゃ……じゃなくて、なんですか、センパイ? あんまり、ワタシにまとわりつかないでくれますか? 鬱陶しい……」 と、取り付くシマもない態度を取ることの多い彼女ではあるが、休日など、少し帰宅が遅くなったときは、 「も〜! お兄ちゃん、帰ってくるの遅いよ〜! つかささんと一緒にご飯つくって待ってたんだから〜。はやく一緒に食べよ?」 と、笑顔で出迎えてくれる。  中学生のときに知り合って以来、彼女とは、四〜五年ほどの付き合いになるが、浅倉桃あさくらももという後輩女子に、こんなに人懐っこく、家庭的な面があるとは知らなかった。  平行世界で、周囲の人間の意外な側面を見ることが出来るという発見は新鮮であり、オレの中に密かな願望が芽生えるまで、さほど時間は掛からなかった。



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 その日から、色々なセカイを巡るオレの旅が始まった。  後頭部を二度なでれば、目の前には、宇宙空間から俯瞰するような感覚で、オレたちが住む美しい惑星ほしがあらわれる。 『セカイ・システム』と勝手に名付けたスクリーンの巨大な惑星をバツ印で消すと、いくつもの天球が表示されたサムネイル画面があらわれる。  動画サイトで好みの映像を選択するように訪問する惑星ほしを選んで、平行世界を観光するのは、夏休み中のオレの最大の楽しみになった。  チェックマークを付けたままにしている、(オレ自身の認識では)本来のセカイである惑星から少し離れた位置に、自分たちの住むセカイより、美しく見える惑星ほしがあったので、観光がてらに降り立ってみた。    そのセカイは、自分たちの惑星ほしでも数年前に世界的な感染爆発パンデミックを発生させ、猛威をふるった感染症が一向に収まらず、人類の半数以上が亡くなるという恐ろしい社会だった。 (アジア大陸が美しく見えたのは、人口の急激な減少と人間の社会活動が極端に減ったので、大気汚染が発生しなかったためらしい)  また、チェックマークから右側や左側に大きく離れると、いくつかの惑星ほしでは、80年前の世界大戦で、自分たちの国が勝利を収めていたり、徹底抗戦を続けたというセカイがあった。    先の大戦で勝利を収めた自分たちの国は、ドイツとともに、アメリカ大陸を東西分割して支配しているという。そのセカイでの歴史や政治経済の教科書によれば、日本語も世界中で、なかば公用語として利用されているとのことだ。  いっぽう、自分たちの国が徹底抗戦をセカイでは、逆に日本列島が、連合国に分割統治され、北海道や東北地方は、ソビエトという世界史の教科書でしか目にしたことのない国が支配する地域となっていた。  さらに、アメリカとソビエトによる対立の激化で核戦争が起こり、人類の大半が死滅しているという恐ろしいセカイもあり、その惑星ほしからは、すぐに立ち去ることを決断した。    どのセカイにおいても、自宅が、元のセカイと同じ場所にあるとは限らないため、自分のセカイとかけ離れた社会や政治体制になっている惑星ほしでは、行動に慎重さが求められたが、それらのセカイで、歴史の教科書の近代や現代の内容を確認するのは、それなりに楽しいものだ。  ただ、それでも、生まれてから十七年もの間、住み慣れたセカイがある身としては、自分たちの住む惑星ほしと大きく価値観の異なる社会や政治体制のセカイに長く居座ることは難しい。    やはり、自分が住みやすいと感じるセカイは、民主主義を継続している自分たちの国なのだろう。  そして、数えきれないほど多くの惑星ほしが表示されるサムネイル画面において、チェックマークを付けた惑星ほしに近い位置にある惑星は、自分の知るセカイと非常に近しい社会を構成していることがわかった。 (ニキシー管に数値が表示され、自分のセカイとの乖離具合を計測できる機器があれば便利なのだが、残念ながら、このセカイは、オレの好きなゲームやアニメのようにはいかないらしい)    また、時間軸については、どの惑星ほし(=セカイ)でも、同じ時を過ごしている。  つまり、自分のセカイの8月1日は、同じ年の同じ日、同じ時刻なのだ。  そのことが理解できてからは、オレが、『デフォルトのセカイ』と名付けた自分たちの惑星ほしのご近所を回っている。 (感染症が、まん延しているセカイが、自分たちの惑星ほしと比較的近い位置にあったことは、恐ろしく感じたが……)  チェックマーク付きの『デフォルトのセカイ』近辺では、小学生以来の付き合いである、白井三葉しろいみつば黄田冬馬きだとうま、中学生のときに部活を通じて知り合った、荒金桜花あらがねおうか先輩と後輩の浅倉桃あさくらもも、それに、高校に進学してから同じクラスになった河野雅美こうのまさみ山竹碧やまたけあおいなど、オレの良く知るメンバーが、自分と同じく、である、あいらんど高校に通っている。  夏休み中に行った綿密な調査で、そうしたことが判明してから、多元世界のようすを少しづつ、覗き見するように訪問するのは楽しかった。  結局のところ、生まれ故郷でもあり、幼稚園・保育園から小・中・高校、そして、大学まで設立され、島内で高等教育を授かることのできる、住み慣れた環境の人工島で、顔なじみのメンバーと過ごすことが、自分の性格には合っているようだ。  そして、夏休みが明け、本格的に学業生活が再スタートする頃から、『セカイ・システム』のサムネイル画面で、お気に入りの惑星ほしのいくつかにブックマークと名前を付けたオレは、少しづつ平行世界への介入をはじめてみた。  最初は、夏休み初期に《ももが同居人》と名付けたセカイで、後輩女子と同居する生活を楽しむことから試してみる。  学校の部活動では、 「お兄ちゃ……じゃなくて、なんですか、センパイ? あんまり、ワタシにまとわりつかないでくれますか? 鬱陶しい……」 と、取り付くシマもない態度を取ることの多い彼女ではあるが、休日など、少し帰宅が遅くなったときは、 「も〜! お兄ちゃん、帰ってくるの遅いよ〜! つかささんと一緒にご飯つくって待ってたんだから〜。はやく一緒に食べよ?」 と、笑顔で出迎えてくれる。  中学生のときに知り合って以来、彼女とは、四〜五年ほどの付き合いになるが、浅倉桃あさくらももという後輩女子に、こんなに人懐っこく、家庭的な面があるとは知らなかった。  平行世界で、周囲の人間の意外な側面を見ることが出来るという発見は新鮮であり、オレの中に密かな願望が芽生えるまで、さほど時間は掛からなかった。



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