表示設定
表示設定
目次 目次




幕間その1~Not Ready to Make Nice(イイ娘でなんていられない)~前編(上)

ー/ー



〜ルートγ(ガンマ)浅倉桃(あさくらもも)の回想〜

浅倉(あさくら)! 好きだ!! 付き合ってくれ!」

「いや、普通にムリだし……って言うか、あなた誰?」

 もう何度目だろう――――――?

 それは、中学校に入学してから、まだ、ひと月も経っていない放課後のこと。ワタシは、校舎裏で、ほとんど面識のない男子から告白を受ける、という罰ゲームに近い儀式に付き合わされていた。

「あ、オレは隣のクラスの山口(やまぐち)で……」

 告白のあとに自分の名前を名乗る、という相手に対するマナーも話しの順序もデタラメな内容に、ため息を漏らすことすらもったいないと感じたワタシは、相手の発言を最後まで待たずに、言葉を発する。

「そう……山口くん、だっけ? 良い機会だから言っとくけど、ワタシは誰とも付き合うつもりはないし……興味のないヒトから好意を向けられるのって……気持ち悪いんだよね」

 五回目くらいまでは、こうした場面に遭遇する回数を数えていたが、それ以降は、数をカウントすることも面倒になって、ワタシは考えることを放棄してしまっていた。
 客観的にみれば、相手にかなり酷いことを言ってしまったのかも知れないけど、ひと月弱のあいだ、立て続けに行われた『好意の押し付け』に、ワタシは、本当にイヤ気がさしていたのだ。

「そんな……せめて……」

「ナニ? 『友だちからでも』とか言いたいの? 空気も読まずに、自分の気持ちを押し付けてくるような人間と仲良くなりたい、と思う女子がいると思ってるの? あいにく、ワタシは、そこまで性格良くないから……」

 二度と自分にまとわりついて来ないように、キッパリと断る。
 隣のクラスに所属しているという男子は、半分、涙目になりながら、

「わ、わかった……放課後にムリに時間を取ってもらって、ゴメン……」

そう言って、山の手中学という学校名に相応しく、目前に迫る山と校舎に挟まれた通路を駆けながら去って行った。

「ハァ〜〜〜〜〜。面倒くさ……」

 授業が終わっても続いた気の重くなる儀式から開放されたワタシは、ようやく大きなため息をついて、校舎に戻ることにする。

 ほとんど面識もないまま、自分の名前を名乗らず、一方的に気持ちを押し付ける、という、いつものパターンだったんだけど……。
 最後に、ワタシの時間を浪費してしまったことを謝るだけの気づかいがあったことだけは評価できるかも知れない。

 なにしろ、これまで告白を断ってきた相手の半数は、ワタシの返答を聞いたとたん、こちらの立場を気づかう余裕すらなく、逃げるように去って行くような人たちだったからだ。

(いつまで、こんな茶番に付き合わないといけないのか――――――)

 重たい気分を引きずりながら、校舎に入り、本来の放課後の目的地に向かう。

 それでも、一日で、もっとも楽しみなこれからの時間のことを考えると、少しずつ足取りも軽くなっていく。
 目的とする校舎内の一室のドアの前に立ち、少し呼吸を整えたワタシは、

 コンコン――――――。

と、ドアを二度ノックしてから、静かに扉を開ける。

「失礼します。浅倉(あさくら)です。遅くなって申し訳ありません」

 そう言って、校内で一番のお気に入りの場所である放送室に入ると、三人の先輩が、ワタシを出迎えてくれた。

「おっ! 浅倉(あさくら)、ようやく来たか! 待ってたぞ」

 真っ先に声をかけてきたのは、玄野(くろの)センパイ。
 二週間前、ワタシが入部を決めた放送部の二年生だ。

浅倉(あさくら)さん、お疲れさま。もう、今日の準備は出来てるよ」

 次に話しかけてくれたのは、黄田(きだ)センパイ。
 玄野(くろの)センパイと仲の良い、同じく二年のセンパイだ。
 そして、ワタシの表情を確認しながら、最後に女子のセンパイが口を開く。

浅倉(あさくら)さん、なにかあったの?」

 遅れたことを注意することなく、理由だけをたずねてきたのは、荒金桜花(あらがねおうか)センパイ。この放送部の部長さんだ。

「いえ……大したことでは……遅れて、すみません」

 上級生とは言え、男子のいる前で、恋愛関係の話しをすることは避けたかったので、理由を告げずに謝罪だけをすると、桜花センパイは、表情を変えないまま、ワタシを気づかうような言葉をかけてくれた。

「そう……でも、なにか困ったことがあったら、すぐに相談してね」

 穏やかな放送室の雰囲気に、ついさっきまでイラだっていた自分の気持ちが和やかになっていくことに気づく。

「はい、ありがとうございます」

 こうして、自分を受け入れてくれるセンパイたちに感謝を込めて、お礼の言葉を述べると、桜花部長が、指示を出した。

「じゃあ、今日も本番に向けて、練習に入りましょうか?」

 放送部の活動が順調に進み始めたことで、ワタシの中学生活に対する期待は膨らんでいくばかりだった。

 ※

「えっ!? なにこれ……」

 それは、中学生活初めてのゴールデン・ウィークが終わった翌日、月曜日の一時間目のこと――――――。

 あいらんど中学では、この時間に道徳の授業が全学年一斉に行われるが、机から教科書を取り出して、開いた瞬間、思わず声が漏れてしまった。
 ワタシの発した声に気づいた近くの席の生徒が、こちらの方に目を向けたので、あわてて教科書を閉じる。

 幸運なことに、ワタシの席は、教卓から離れた後ろから二番目の位置だったので、この授業を受け持つ担任には、自然と漏れてしまった声は届かなかったようだ。
 教科書を閉じたまま、数秒の間うつむいていると、周りの生徒たちも気に留めるようすもなく、それぞれ、自分の教科書に目を落としている。

 そのことを確認したワタシは、あらためて、さっき目にしたページを開くと、そこには、太字の黒マジックで、

 死ね!
 ブス!
 調子にのんな!

と、書かれていた。

 本来は持ち帰られければいけない教科書類を机に置いたままだった自分にも責任があるとはいえ……。 

(中学生にもなって、こんなことをする人間がいるのか……)

 あきれると同時に、その幼稚な書き込みの内容と、書かれたページに記されていたのが、テレビなどでもお馴染みの頭にハコフグの帽子をかぶっている魚類学者が書いた『魚の涙』という文章だったため、そのギャップと書き込んだ人間の思慮の浅さに、ため息が漏れる。

 そして、

(ついに、来たか……)

と、先月末まで続いていた男子からの告白ラッシュの副反応が、あらわれたことをあらためて実感させられた。

 こんな下らないことをするのは、やはり、ワタシが告白を断った男子だろうか?

 教室内の学習机に置いたままの教科書に落書きがされているということは、自分の所属する一年三組に犯行を行った生徒がいる可能性が高い。

 このクラスで、ワタシに告白をしてきたのは、仁藤(にとう)北野(きたの)という男子だ。
 
 そのどちらかが、この馬鹿馬鹿しい行為に及んだのではないか――――――。
 
 そんなことをずっと考えていたため、担任の話す授業の内容が、ほとんど頭に入ってこないまま、気がつくと、一時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

 だけど、ワタシは、このあと、自分の想像と認識が甘かったことを知ることになるのだった――――――。


スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



〜ルート|γ《ガンマ》・|浅倉桃《あさくらもも》の回想〜
「|浅倉《あさくら》! 好きだ!! 付き合ってくれ!」
「いや、普通にムリだし……って言うか、あなた誰?」
 もう何度目だろう――――――?
 それは、中学校に入学してから、まだ、ひと月も経っていない放課後のこと。ワタシは、校舎裏で、ほとんど面識のない男子から告白を受ける、という罰ゲームに近い儀式に付き合わされていた。
「あ、オレは隣のクラスの|山口《やまぐち》で……」
 告白のあとに自分の名前を名乗る、という相手に対するマナーも話しの順序もデタラメな内容に、ため息を漏らすことすらもったいないと感じたワタシは、相手の発言を最後まで待たずに、言葉を発する。
「そう……山口くん、だっけ? 良い機会だから言っとくけど、ワタシは誰とも付き合うつもりはないし……興味のないヒトから好意を向けられるのって……気持ち悪いんだよね」
 五回目くらいまでは、こうした場面に遭遇する回数を数えていたが、それ以降は、数をカウントすることも面倒になって、ワタシは考えることを放棄してしまっていた。
 客観的にみれば、相手にかなり酷いことを言ってしまったのかも知れないけど、ひと月弱のあいだ、立て続けに行われた『好意の押し付け』に、ワタシは、本当にイヤ気がさしていたのだ。
「そんな……せめて……」
「ナニ? 『友だちからでも』とか言いたいの? 空気も読まずに、自分の気持ちを押し付けてくるような人間と仲良くなりたい、と思う女子がいると思ってるの? あいにく、ワタシは、そこまで性格良くないから……」
 二度と自分にまとわりついて来ないように、キッパリと断る。
 隣のクラスに所属しているという男子は、半分、涙目になりながら、
「わ、わかった……放課後にムリに時間を取ってもらって、ゴメン……」
そう言って、山の手中学という学校名に相応しく、目前に迫る山と校舎に挟まれた通路を駆けながら去って行った。
「ハァ〜〜〜〜〜。面倒くさ……」
 授業が終わっても続いた気の重くなる儀式から開放されたワタシは、ようやく大きなため息をついて、校舎に戻ることにする。
 ほとんど面識もないまま、自分の名前を名乗らず、一方的に気持ちを押し付ける、という、いつものパターンだったんだけど……。
 最後に、ワタシの時間を浪費してしまったことを謝るだけの気づかいがあったことだけは評価できるかも知れない。
 なにしろ、これまで告白を断ってきた相手の半数は、ワタシの返答を聞いたとたん、こちらの立場を気づかう余裕すらなく、逃げるように去って行くような人たちだったからだ。
(いつまで、こんな茶番に付き合わないといけないのか――――――)
 重たい気分を引きずりながら、校舎に入り、本来の放課後の目的地に向かう。
 それでも、一日で、もっとも楽しみなこれからの時間のことを考えると、少しずつ足取りも軽くなっていく。
 目的とする校舎内の一室のドアの前に立ち、少し呼吸を整えたワタシは、
 コンコン――――――。
と、ドアを二度ノックしてから、静かに扉を開ける。
「失礼します。|浅倉《あさくら》です。遅くなって申し訳ありません」
 そう言って、校内で一番のお気に入りの場所である放送室に入ると、三人の先輩が、ワタシを出迎えてくれた。
「おっ! |浅倉《あさくら》、ようやく来たか! 待ってたぞ」
 真っ先に声をかけてきたのは、|玄野《くろの》センパイ。
 二週間前、ワタシが入部を決めた放送部の二年生だ。
「|浅倉《あさくら》さん、お疲れさま。もう、今日の準備は出来てるよ」
 次に話しかけてくれたのは、|黄田《きだ》センパイ。
 |玄野《くろの》センパイと仲の良い、同じく二年のセンパイだ。
 そして、ワタシの表情を確認しながら、最後に女子のセンパイが口を開く。
「|浅倉《あさくら》さん、なにかあったの?」
 遅れたことを注意することなく、理由だけをたずねてきたのは、|荒金桜花《あらがねおうか》センパイ。この放送部の部長さんだ。
「いえ……大したことでは……遅れて、すみません」
 上級生とは言え、男子のいる前で、恋愛関係の話しをすることは避けたかったので、理由を告げずに謝罪だけをすると、桜花センパイは、表情を変えないまま、ワタシを気づかうような言葉をかけてくれた。
「そう……でも、なにか困ったことがあったら、すぐに相談してね」
 穏やかな放送室の雰囲気に、ついさっきまでイラだっていた自分の気持ちが和やかになっていくことに気づく。
「はい、ありがとうございます」
 こうして、自分を受け入れてくれるセンパイたちに感謝を込めて、お礼の言葉を述べると、桜花部長が、指示を出した。
「じゃあ、今日も本番に向けて、練習に入りましょうか?」
 放送部の活動が順調に進み始めたことで、ワタシの中学生活に対する期待は膨らんでいくばかりだった。
 ※
「えっ!? なにこれ……」
 それは、中学生活初めてのゴールデン・ウィークが終わった翌日、月曜日の一時間目のこと――――――。
 あいらんど中学では、この時間に道徳の授業が全学年一斉に行われるが、机から教科書を取り出して、開いた瞬間、思わず声が漏れてしまった。
 ワタシの発した声に気づいた近くの席の生徒が、こちらの方に目を向けたので、あわてて教科書を閉じる。
 幸運なことに、ワタシの席は、教卓から離れた後ろから二番目の位置だったので、この授業を受け持つ担任には、自然と漏れてしまった声は届かなかったようだ。
 教科書を閉じたまま、数秒の間うつむいていると、周りの生徒たちも気に留めるようすもなく、それぞれ、自分の教科書に目を落としている。
 そのことを確認したワタシは、あらためて、さっき目にしたページを開くと、そこには、太字の黒マジックで、
 死ね!
 ブス!
 調子にのんな!
と、書かれていた。
 本来は持ち帰られければいけない教科書類を机に置いたままだった自分にも責任があるとはいえ……。 
(中学生にもなって、こんなことをする人間がいるのか……)
 あきれると同時に、その幼稚な書き込みの内容と、書かれたページに記されていたのが、テレビなどでもお馴染みの頭にハコフグの帽子をかぶっている魚類学者が書いた『魚の涙』という文章だったため、そのギャップと書き込んだ人間の思慮の浅さに、ため息が漏れる。
 そして、
(ついに、来たか……)
と、先月末まで続いていた男子からの告白ラッシュの副反応が、あらわれたことをあらためて実感させられた。
 こんな下らないことをするのは、やはり、ワタシが告白を断った男子だろうか?
 教室内の学習机に置いたままの教科書に落書きがされているということは、自分の所属する一年三組に犯行を行った生徒がいる可能性が高い。
 このクラスで、ワタシに告白をしてきたのは、|仁藤《にとう》と|北野《きたの》という男子だ。
 そのどちらかが、この馬鹿馬鹿しい行為に及んだのではないか――――――。
 そんなことをずっと考えていたため、担任の話す授業の内容が、ほとんど頭に入ってこないまま、気がつくと、一時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
 だけど、ワタシは、このあと、自分の想像と認識が甘かったことを知ることになるのだった――――――。